2022年04月28日

EVFセミナー報告:日本の品質管理と取組んだ課題(統計的方法の適用(TC69)等)

演題:日本の品質管理と取組んだ課題(統計的方法の適用(TC69)等)
講師:尾島 善一先生
 東京理科大名誉教授  
Web視聴開始日:2022年4月28日(木) 

講師略歴 
1976年3月 東京大学工学部 卒業
1983年3月 東京大学工学博士
1984年4月 東京大学工学部 助手 (1987年3月まで)
1987年4月 東京理科大学 専任講師 (理工学部経営工学科) 助教授、教授
2017年3月 定年退職、名誉教授 現在に至る

要約:

日本の品質管理の父と言われる石川馨東京大学名誉教授の東大における最後の学部卒業生で、東大で工学博士になられた尾島善一東京理科大名誉教授より、日本の品質管理に関する話題から先生が品質管理に関連して取り組まれた課題である「統計的方法の適用(TC69)」等に関して、講演を頂いた。 
日本の品質管理に関しては、先生の個人的な経験に基づいて感じられている品質管理関連の一般用語に関して感想を交えて、主として問題点を取り上げ、解説して下さった。統計的方法の適用に関しては、先生がISOとの関係で担当を始められた経緯からTC69という専門委員会での活動の状況などに関してご説明を頂いた。両者とも内容が豊富で話題が多岐に渡り、聴講者にとって難解な箇所もあったが、通常はなかなか知ることが難しい日本の品質管理の現状と問題点を知る機会となり、有用な講演であった。

講演概要:

品質管理は、若い方でご存じのない方もいるかと思いますが、昔流行ったQC、IE、OR等の一つと考えて下さい。これらは1970年頃から大学でも始まり、経営工学科とか管理工学科とかの学科ができた一分野となります。
先ず、IE(Industrial Engineering)について説明しますと、自動車のT型フォード製造で利用されたような工程を分割して専門業務でなくし、あまり技能のない工員でも組み立てられるような単純作業に分割し、スピードを上げて簡単に作れるようにしたというものです。作業研究、時間研究というような項目に分けて検討し、非常に効率を上げてコストダウンに貢献したものです。IEに関しては生産性本部や日本能率協会が活動していて、ムリ、ムダ、ムラを無くそうとしていました。
次にOR(Operations Research)とは軍事研究的な、戦略研究と言って、問題を数学モデルで表現して最適化するということが中心で、いまとなっては、これが世界をダメにしているのではと考えています。最適化するという発想に無理があり、目的評価関数を最大(又は最小)にするという考えですが、実際にはかなりな問題と思っている。
そして品質管理はQC(Quality Control)として日本に入って来まして、QCは第2次大戦中は軍事機密であった経緯がありますが、中身は抜取検査と管理図に整理されます。抜取検査ではDodge, Romingの二人が有名で、彼らの抜取検査表が今でも残っています。管理図のShewhartはもっとすごく有名でウィキペディアで引いてもすぐに出てくると言う感じです。これらの人達はBell研究所(ATT(American Telephone &Telegraph; 電信電話会社)の研究所)の所属で、ATTの製造担当子会社のWestern Electronic社で作る製品品質を如何に上げるかということで考えられたものです。Shewhartは管理図を作り、製品は電話機とかで、抜取検査は調達先をどこかと定めなくても、納品先のロットの品質を保証するというアイデアです。戦後、占領軍がこの考えを導入したという経緯があり、通信網の確保のため電話の必要性が高かったので、凄い勢いで日本で訓練され広まった。電電公社やNTTが抜き取り検査の技術を持っていて、Western Electronic社の子会社であるNECが電話を製造していたという歴史がある。
これらの抜取検査、管理図ともに統計学を利用しているので、SQC(Statical Quality Control) と呼ばれており、データ収集、データ解析なども品質管理に含まれている。
品質管理では抜取検査が重要で、ロットの良・不良を判定するもので、不良(不適合)率を与えて評価している。日本の昔なりの細かな管理手法に対してそれを打破していく転換点になったと思う。
管理図(control chart)は、特性値を縦軸に、時間(時刻)を横軸にして打点し、それを結んだ折れ線グラフだけのものですが、ここで革命的に凄いのは管理限界線を入れて、中心線の上下3シグマにしたということです。これによって特性値は平均μ、分散(σの2乗)の正規分布に従うとする時、この中心線の上下3シグマに入る確率は99.7%ということで「ほとんどすべて」がカバーされるということです。この時、特性値が厳密に正規分布かどうかは全然問題にしておらず、良く使われるのが正規分布で、正規分布については色々な確率計算がされているというのがポイントです。又、3シグマという限界線が特性値のばらつきだけに依存していて、それ以外を考えていないというのが結構重要なところです。
日本的な品質管理を紹介しますと、PDCAがあります。これは日本で改変されたものです。元はIEで広く使われたplan-do-seeですが、それをとある日本の品質管理関係者が「see(見てる)だけでだめだ、それよりチェック、アクションしないといけない、更にぐるぐる回すPDCAサークルにした方が良い」と言ったことに発しています。国際化の中では、ActionがActに、サークルがcycleに変わりました。
国内ではQCサークルという活動が非常に受けてヒットしたという経緯があります。又、(優れた品質管理の実行者に授与する)デミング賞も品質管理普及に効果がありました。これは日科技連の役員の方の思い付きでした。(これはアメリカに逆輸入されてマルコム・ボルドリッジ賞となりましたが、日本が先んじたものです。) 後は、品質月間という活動も効果がありました。これは日本では毎年10月に工場全体で品質向上に努めることを行い成果を収めていて、今でも続いています。
そして国際的に残っているのは石川ダイアグラムで、これは特性要因図として確かに残っています。(これも日本から逆輸入) 又、QC七つ道具という整理(特性要因図、管理図、ヒストグラム等を7つ挙げて)をされた方もいましたが、これはこじつけのように思われて個人的には好きではありませんでした。
コマツ製作所で新製品開発が上手く行ったのはⒶ(マルエー)という名前でやったのが良くて、他の会社でもⒶと名前を付けてやると上手く行く。ところがⒷ(マルビー)と付けるとダメで大抵失敗する。その理由は(開発に)言われていること・期待されている以上に頑張って色々違うことを盛り込んで製品開発をしていると言う事情があって、Ⓑになると余計なエネルギーをかけて開発に取り組めるかとなって、大抵こけると言うことがありました。
次に取り組んだ課題についてお話しますと、
国際標準化機構(ISO;International Organization for Standardization)があって、これに日本国内で対応していたのが日本規格協会の国際委員会で、その初代委員長が石川馨先生で、2代目の奥野忠一先生の後、1990年頃に尾島が引き継いだ。TC69はISOの69番目の専門委員会(Technical committee)で、「統計的方法の適用」をテーマとして、ISOの世界では統計の主担当委員会となっています。これを引き継いだのは、その昔石川先生から久米均先生(尾島先生の指導教官)に「尾島にその分科委員会の議事録担当の委員をさせよ」と話があったことから始まって今に至っている。
TC69には全体委員会の他に6つのSC(Sub Committee分科委員会)があって、それぞれを色々な国が幹事国を担当し、色々な経緯があった。SC6「測定方法と結果」は西ドイツ→ドイツが担当で当初順調であったが、トラブルがあって辞退することになり、日本が幹事国を、尾島がChairmanを引き受けた。
この頃ISOの中ではTC176「品質」が設立され、久米先生のグループは全員そちらの支援に入って、尾島だけがTC69に残ったという経緯もあります。
そして、日本は上手く行かなかったが、世界では認証・認定がビジネスとして広がって、イギリスやアメリカ、ドイツ等はビルを建てたり、増築をしていた時期があります。
又、1995年にJIS規格の国際整合化が行われ、JIS Z 8101「品質管理用語」をISO3534「統計―用語および記号」に合わせて統計用語にした経緯もあります。これは色々と反感を買った面がありました。
最近のTC69では色々な動きが出て、SCからワーキンググループ(WG)への変更が行われたり、解散したりやCombiner(主査)の変更もあったり、任期の勝手な変更で、活動の低下が起こっている。 一方、中国が意欲を見せていて、シックスシグマのWGをSCにするのに中国が手を挙げてSC7になったということもあります。日本は田口メソッドと赤尾先生の品質機能展開を繋いで、SC8を作りました。
この他に、関心時として、「ロシアの侵攻」、「COVID19」,「地球温暖化」、「AI信仰の蔓延」、「数値化の信仰」、「ORにおける最適化」、「最適解に頑健性はあるか」等についてもご講演頂きました。気になさっておられることは、「最近の日本の品質はどんどん悪くなっていると思う。」ということでした。

質疑応答

(1)質問: 尾島先生、講義内容がてんこ盛りで、色々なところまで及んでご講演頂きありがとうございます。2点ばかり教えて下さい。一つは「日科技連という団体がご説明の中で出てきましたが、この日科技連が、日本の中で品質管理を扱っている学会・団体というに当たるのか、どういうように活動されているのかを教えて頂きたい」と、もう一つが「コマツ製作所の話の中で、ⒶとⒷがあって、Ⓐが上手く行って、Ⓑが上手く行かなかったというお話でしたが、それが皆さんが品質管理を使えた所に当たるのではないかと思いましたので、ⒶとⒷの違いを教えて頂きたい」ということです。
回答: 日科技連というのは日本科学技術連盟と言って、会員というのが特になくて(私も入っていません)セミナーをやったり、デミング賞委員会を運営したりイベントをしたりする団体で、セミナー団体(品質管理ベーシックコース、部課長セミナーとか)でもあります。日産自動車に行ったのは、日科技連経由ではなく、久米先生に行けと言われて行きました。
コマツ製作所の件は、新製品開発を品質管理を使ってやろうということで、Ⓐと呼ばれていた新製品を開発するということでした。それは不良も少なくて順調に伸びて成功したものです。それはトップクオリティのものという意味ではなく、単なる特定の名称(車で言うなら特定の車名とか車番号)です。(成功しそうな車ということではなく)「(これから)さあ頑張ってやるぞ」、「一つ目だからⒶと呼ぶ」と言うニュアンスと理解下さい。そして、その同じ手を使って次の車をやろうとする時、Ⓑと呼んで取り組むと、大抵こけるということでした(ので、このように表現していると言うことです)。

(2)質問: 今日は非常に面白い話を楽しく聞かせて頂き、ありがとうございました。私は技術者の端くれで、メーカーにいたものですから、品質管理に関してはお客様から色々言われ、図面の管理からその他で苦労したという記憶があり、今日の講演では懐かしい言葉が沢山ありました。ここから質問なのですが、お話の後半で、地球温暖化の話がありましたが、この地球温暖化は品質管理の最たる問題ではないだろうかと思っています。色々な品質管理手法があって地球温暖化の問題に関してどのデータがどう悪さしているかは大体見えている訳ですから、それをこうすれば処理できる・抑えることができるとか、又そういう風に捉えれば、品質管理そのものをもっと地球温暖化問題の解決に応用できるのじゃないかと感じますが、そういう観点で論じられたことはないように今日の先生の話を聞いて初めてそうじゃないかと思ったのですが、その辺りは如何でしょうか?
回答: 難しいですね。そもそも世の中で出回っている技術は結構その場凌ぎ的なものが多いじゃないですか?排出されるCO2を海の中に閉じ込めちゃおうとか、何か発想が貧弱なように感じます。仕様を減らさないとだめじゃないかと思います。そういう意味で、人間の文明が終わりを迎える時期が少し早くなるのか、遅くなるのかの違いなのかと、ちょっと思ったりしています。

(3)質問:品質管理の対象となるのは、ベクトル量か、スカラー量かというお話があったのですが、色々なところの生産工程においても、品質管理は感覚的には扱えず、何か定量化された尺度・数字がないと品質管理は成り立たないと思いますが、これはあらゆる分野においてそういう意味で定量化された尺度をもって管理されているのかどうか?気持ちだけで品質管理をやれやれと言っている会社も多いような気もするのですが?
回答: 尺度が良い値か悪い値か(大きい、小さい)という時はそれってスカラー化されていますから、必ずどこか足りないです。本来ベクトル量なのに、何でもスカラー化する時にどんな情報が落ちているかを考えないといけないということです。

(4)質問:それは、こういう風に考えると欠点(ベクトル量がスカラー化される時に主張されてしまう要素)が別の観点で定量化できるとかあるのでしょうか?
回答: 定量化というのはスカラー化するということを含んでいることが多いので、それはないと思う。ただ、世の中色んなものはみんなベクトル量なのに、すぐスカラー化する・スカラー化してどうこう言うことが多いから、そこを気を付けて問題を探すというだけでも随分良いと思う。

(5)質問:これは、品質管理の基本的な教育の中に、ベクトル量を縮小してスカラー量化するけれどこういう問題があると言うのは、周知徹底するような方法は確立していますか?
回答: 力不足で、ちゃんとやっていないので、私のアイデア留まりです。

(6)質問:私は自動車屋のOBです。先生が、セミナーの最初の部分や、「コスト最小化が本当に良いのだろうか?」というところで、「最近の日本の品質が信用できない」と仰ったのですが、具体的にはどんな点でしょうか?
回答:やはり、良く壊れるようになりました。 昔は製品のコストダウンがそこまで行かなかったのか、いいものを作るという所が「コストを安く」という所より重視されていたので、故障が少なかったし、それ(その製品)がアメリカに売れた時はそうだったのですが、今はアメリカ並み(の故障度合い)になってしまっています。それから、海外からの調達が増えたこともあって、それもスペックを与えてそのスペックで調達するのですが、そもそもそのスペックが本当に必要十分か?十分吟味されているのか?というような技術的な問題があって、悪くなる一方だなあと思っています。

(7)質問:仕様提示をして物を作るものの、その意味が分かってしてるかと言うと、分かっていないケースも結構あると聞いています。
回答:ある化学材料会社が海外から材料調達した時に、スペックに合ったものをサプライヤーが出して、それを使ったらトラブルが出たケースがあります。 この時にひどいと思ったのは買う側がこれを何に使うかを言わないということでした。

(8)質問:品質は積み上げの結果と思うので、ちゃんと後輩に伝承されているかはとても不安です。
回答:私も不安です。標準書等に書けない部分をどうやって伝えるかが大事で、量り易いものだけを量って、量れない大事なものを見落としているのと同じです。(「書けない部分に実は大事なものが入っているのですね?」という追加質問に対して)ええ、そう思います。
データの使い方で、もの凄い発明と思うのは、お医者さんの検査で使うCTです。見えなかったものが、さも輪切りにして見たかのように見えるようにするということは、もの凄いアイデアで、そういう所に転化するような技術は大事だと思う。そういう意識は大事だと思う。

(9)質問:田口メソッド、QFDの話が出まして懐かしく思いました。が、ついぞ最近聞かないように思います。 これらは産業界では結構広く使われているのでしょうか?
回答:会社に拠ります。リコーとかは、田口メソッドに社員を派遣して勉強させたりして普及しました。けど、社員単位の技術でそれを上手く使えるようになるかというのは難しいと思います。それも技術が消えないようにするためにそういう規格(国際)を作るというので、SC8を立ち上げたという経緯があります。QFDは、ドイツとかアメリカに赤尾先生の弟子がいて、そういう人たちが結構頑張っています。田口メソッドは田口伸(しん)さんという田口さんの息子さんが委員をやっていて努めてやっています。これらも上手く伝承されていく技術になり切らないのかもしれません。

(10)質問:日本人の名前の付いたメソッドですから使って行きたいと思いますが。
回答:日本人なら誰でも良いと言う訳ではないですが。

文責:浜田英外

講演資料:日本の品質管理と取り組んだ課題
posted by EVF セミナー at 15:00| セミナー紹介

2022年03月24日

EVFセミナー報告:「コロナ禍の英国事情」〜Brexitの動向、政治、経済、社会、スポーツの現状〜

演題:「コロナ禍の英国事情」〜Brexitの動向、政治、経済、社会、スポーツの現状〜 
講師:伊藤庸夫様

Web視聴開始日:2022年3月24日
講師略歴:
・サッカーの名門浦和高校卒業、当時関西サッカーの三強であった京都大学に進学、法学部にて国際法を習得。
・1966年 三菱重工業入社。社長室企画部、社長室開発部、化学プラント部、社長室海外部を歴任。同社サッカー部(日本リーグ)に所属。1980年 同社ロンドン事務所。日本サッカー協会(JFA)国際委員。1985年 東芝 International UK。1989年 TMITO Ltd.UK M.Dとして、ロンドンにてプラントコンサルタント・スポーツマネジメント事業を開始。・サッカー界においては、JFA国際委員(欧州代表)、Jリーグ発足準備委員会員、Jリーグサンフレッチェ広島海外担当強化部長・W杯用スタジアム設計建設コンペ審査員(1994年)、京都大学蹴球部 Technical Adviserdviser(2004年)、JFLチーム SAGAWA SHIGA FCのGM・JFL評議員議長(2007年)、JFAマッチコミッショナー(2010年)を歴任。新聞・雑誌記者として、各国サッカーリーグ・W杯・EURO杯や、ラグビーW杯、ウインブルドンテニス等を取材。テレビ東京・日テレ・NHK等に解説者として出演。
・英国のBath Univ、Essex Univ、London City Univ非常勤講師。筑波大学大学院 英国のスポーツと文化 非常勤講師(2003年)、びわこ成蹊スポーツ大学 スポーツマネジメント教授、淑徳大学 非常勤講師(2004年)
・東京生まれ(本籍滋賀県)で、ロンドンには1980年から延べ40年在住。訪問国は86か国にのぼる。

講演概要:
「コロナ禍の英国事情」Brexitの動向、政治、経済、社会、スポーツの現状」について伊藤庸夫様にご講演を頂きました。まず「英国の概要」に始まり、英国の一般的な国情に触れ、議会制度、国民性、教育制度、そして移民政策の外郭的な説明がありました。日本の制度とは表面的に似てはいますが本質的には全く異なることを強調しておられました。
そして演題のBrexitについてはすでに過去形となっていると指摘しておられましたが5年半にわたる議会での批准経過説明とその趣旨の解析を行い、今後の課題として以下の点につき解説いただきました。
1.北アイルランドとアイルランドの国境問題、輸出入手続き等がまだ不透明であること
2.移民難民制限を主としていた点も逆に労働者不足を招く結果であること
3.EU以外の諸外国との貿易協定の経過等

その後2020年3月から世界パンデミックになったコロナ対策について英国政府の対応、そして英国医療制度についての解説をして頂きました。特に保健省NHSと政府の働きによって、治療、ワクチン接種促進、一般国民への隔離対策(Lockdown)、罰金制度、そして休業補償制度が適時的確に行われ今年2月には全面解除した点を強調されました。
感染者数、死者数とも日本より多いが、制度設定には官民一体となった趣旨徹底がなされ、取り敢えずは収束化させたことを強調しておられました。
そして現在の問題点となっているのがウクライナ紛争ですが、この点については経済面で石油ガス価格の高騰が起こりインフレ傾向にあり国民生活を圧迫しつつある点を強調されました。
講師はスポーツ特にフットボールの専門家として活躍されており、この点にも見識を展開して頂くようにと思っておりましたが時間も少なく触れられなかったのは残念でした。
英国は往年のゆりかごから墓場の政策モットーはまだ残っており、教育、医療、老齢層の交通は無料の政策を続けており、それが因でBrexitにも拘らず難民、違法移民が移入している現実があることにも触れておられました。
小栗武治

講演資料:コロナ禍の英国事情
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介

2022年03月15日

EVFセミナー報告:COP26を踏まえた日本のエネルギー政策の課題

演題:COP26を踏まえた日本のエネルギー政策の課題
講師:高村ゆかり様

東京大学未来ビジョン研究センター教授、環境省中央環境審議会会長
Web視聴開始日:2022年2月24日
聴講者数:60名

講師紹介
・1989年3月 - 京都大学法学部卒業
・1992年3月 - 一橋大学大学院法学研究科修士課程修了
・1993年 - 1995年 パリ第2大学第三(大学院)課程及び国際高等問題研究所留学
・2000年 - 2001年 ロンドン大学客員研究員
・2006年4月 - 龍谷大学法学部教授
・2011年4月 - 名古屋大学大学院環境学研究科教授
・2018年10月 - 東京大学国際高等研究所サステイナビリティ学連携研究機構教授
・2019年4月 - 東京大学未来ビジョン研究センター教授
・2020年10月 - 第25期日本学術会議副会長
・2021年2月 - 環境省中央環境審議会会長

講演概要:
20世紀後半から世界規模での顕著な気候変動が生じている。IPCC第6次評価報告書(2021年8月)で、人間活動が大気、海洋、陸域の温暖化を引き起こしていることに疑いはない(unequivocal)と報告され、この数十年で(in the coming decades)温室効果ガスの大幅な排出削減がなければ、今世紀中に1.5℃、2℃を超える気温上昇となることが指摘された。
1994年以降、国連を中心とした世界における温暖化交渉が展開されてきた。COP26(グラスゴー会議2021年11月)で、2021年8月のIPCC第6次評価報告書を受け、世界の平均気温上昇を産業革命以前から1.5℃程度に抑えるにとする目標が表舞台にあがった。この会議で「石炭火力の削減」、「化石燃料補助金の廃止」という文言が初めてCOPの合意文書に入った。
これを受け世界各国がそれぞれカーボンニュートラル達成に向けて、技術、経済等の多方面から複合的政策を打ち出してきている。
講演では幅広いデータに基づきカーボンニュートラルへの世界の取り組みと展望について、お話をいただき、さらに わが国としてはこの世界的な大きな潮流を産業構造の大改革の好機ととらえ、官民挙げて新たな産業社会の構築に向けて取り組むべきと示唆された。


講演内容:

1.世界規模での顕著な気候変動
気候変動に伴い世界的に自然災害が増加。日本だけを見ても、2018,19年の台風・豪雨被害の経済損失額は5兆円を超える。世界的に保険金の支払額が急激に増加した。世界の気象関連経済損失額推移を見ても、2021年は3290億米ドル(約36兆円:史上3番目の経済損失額)に達している。

2.IPCC報告
IPCCの第5次評価報告書(2014年)で、「人間の影響が20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な(dominant)要因であった可能性が極めて高い(95%以上)、 気候変動を抑制するには、温室効果ガス排出量の抜本的かつ持続的な削減が必要である」と明言された。そして、IPCC第6次評価報告書(2021年8月)では、人間活動が大気、海洋、陸域の温暖化を引き起こしていることに疑いはない(unequivocal)と報告され、この数十年で(in the coming decades)温室効果ガスの大幅な排出削減がなければ、今世紀中に1.5℃、2℃を超える気温上昇となることが指摘された。

3.世界における温暖化交渉の展開
1992年 地球サミット(リオサミット):国連気候変動枠組条約採択(1994年発効)を嚆矢とし、現在に至るまで地球温暖化抑制の世界的な交渉の場としてCOPが毎年開催されてきた。
IPCCの第5次報告を受けた形で、2020年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組みとして、COP21(2015年)でパリ協定が採択され、「世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求すること」が掲げられた。2022年1月31日時点でパリ協定は 192カ国+EUが批准し、これは世界の排出量の約98.6%を占める。
引き続いてCOP26(グラスゴー会議2021年11月)で、2021年8月のIPCC第6次評価報告書を受け、「世界目標:1.5℃」が表舞台にあがった。この会議で「石炭火力の削減」、「化石燃料補助金の廃止」という文言が初めてCOPの合意文書に入った。
COP26では、また、世界各国が、自国の事情を反映させたそれぞれ以下のような目標達成時期を発表した。
• バイデン新政権誕生により米国もこれに加わる。G7先進主要国すべてが目標を共有
• 中国も遅くとも2060年までにカーボンニュートラルを実現(2020年9月)
• ブラジル、韓国、ベトナムなどが2050年までに、ロシア、サウジアラビアなどが2060年までに、インドは2070年までに排出実質ゼロ
の2050年カーボンニュートラル)
• 日本は、2050年に、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す(目標表明2020年10月26日)
• 現在までに、140カ国以上+EUがカーボンニュートラル(温室効果ガス/CO2排出実質ゼロ)を表明。

このように、世界各国において「カーボンニュートラル」、「ネットゼロ」を目指すことが表明された。が、この課題の目標達成には相当の困難を超えなければならない。今すぐやるべきことを明確にして行動に移さないと、1,5℃は単なるスローガンに終わってしまう。
これからの気温上昇の程度で、異常気象の発生頻度や強度が表−1に示すように変わる。

Table1.gif

現在までに各国がパリ協定の下で提出している目標だけでは1.5℃に気温上昇を抑制できない。IPCCの第6次報告書によれば、将来の影響リスクを低減させるには、2030年には世界のCO2排出量が減少し始めることが求められている。
IPCCはこれからの世界の炭酸ガス排出量の5つのシナリオに基づいた「炭酸ガス排出量と気温上昇の関係」について報告している(図−1参照)。これによると、すべての誓約+目標が達成されないと世界の気温上昇を1.5℃(以下)に押さえることが難しくなる。

fig1.jpg


4.再生可能エネルギーの現状
2018年の世界の最終エネルギー消費(熱、交通・輸送、電力)に占める再生可能エネルギーの比率を表−2に示す。

Table2.gif

熱と輸送燃料への再エネへの転換はまだ比率が低く、今後の課題である。輸送燃料の中では、特に航空機燃料への再エネの転換が今後の課題となる。

5.世界が目指すカーボンニュートラル達成方法
5−1.技術: 再生可能エネルギーの確立と導入普及
・ エネルギーの脱炭素化/COP26で初めて「石炭火力の削減」「化石燃料補助金の廃止」という文言がCOPの合意文書に入った。

5−2.経済: 欧米では、日本に比して、金融界のカーボンニュートラルに向けての動きが素早い。以下に最近の動向を例示する
・ Net-Zero Asset Owner Alliance(2019年9月立ち上げ)– 国連主導のアライアンス。2050年までにGHG排出量ネット・ゼロのポートフォリオへの移行をめざす– 66の機関投資家が参加、運用資産総額10兆米ドル
・ Net Zero Asset Managers Initiative(2020年12月立ち上げ)– 2050年GHG排出量ネット・ゼロに向けた投資を支援– 220の資産運用会社が参加、資産総額57.4兆ドル、世界の管理資産の60%近くを占める
・ Net-Zero Banking Alliance(2021年4月立ち上げ)– 98の銀行が参加、資産総額66兆米ドル、世界の銀行資産の43%を占める– 2050年までにポートフォリオをネット・ゼロにし、科学的根拠に基づいた2030年目標を設定
・エネルギー転換投資は、2021年、初めて7550億米ドル(83兆円)を超えた。2015年の2倍超。2004年の20倍超。再エネ投資は、2014年以降、年投資額は約3000億米ドル(33兆円)で推移している。交通・輸送の電化への投資がここ数年急激に増えて降り、2021年度には約2800億米ドルに達している。

5−3.政策;世界的に、政府のリーダーシップ、政策と実施の『総合化』が強く求められている。
・ EU:2019年12月に持続可能な社会への変革(transformation)の戦略、成長の戦略として「European Green Deal」を発表。炭素国境調整メカニズム(CBAM)の議論
・ 英国;2021年、G7議長国、COP26議長国。気候変動法(2019年6月改正)で、2050年排出実質ゼロを規定。2030年の排出削減目標(NDC)として1990年比53%削減から68%削減へと引き上げ。2035年目標を1990年比78%に。一部の上場企業に対して、TCFDにそったComply or Explainでの情報開示を2020年までに義務づけ。
・ 米国;2021年1月20日、パリ協定を再締結(30日後の2021年2月に効力発生)。2030年目標として、2005年比50-52%。 バイデン新政権の気候変動対策:遅くとも2050年までに排出実質ゼロ。2035年電力脱炭素化、グリーンエネルギー等へのインフラ投資に4年間で2兆ドル投資する計画
・中国;遅くとも2060年までにカーボンニュートラル。GDP単位当たりのCO2排出量を2030年までに05年比65%超削減。一次エネルギー消費に占める非化石燃料の割合も約25%に増やす。再生可能エネルギーの設備容量は世界一。水素・燃料電池産業も戦略的に育成。石炭火力を2020年までに1100GW未満にする(2016年13次五カ年計画)。14次五カ年計画は2021年発表予定。2030年ピークアウト計画作成中。
・日本;2050年カーボンニュートラル宣言(2020年10月。グリーン成長戦略(2020年12月)、グリーン成長戦略改定+実行計画(2021年6月)。2030年温暖化目標(2013年度比46%削減、50%削減の高みをめざす)の表明82021年4月)。 改正地球温暖化対策推進法成立(2021年5月)。 地域脱炭素ロードマップ(2021年6月)。 国土交通グリーンチャレンジ(2021年7月)。 第6次エネルギー基本計画(2021年10月)。地球温暖化対策計画(2021年10月。 脱炭素社会に向けた住宅・建築物における 省エネ対策等のあり方・進め方案(2021年8月。カーボンプライシング小委員会(環境省)、世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会(経産省)

6.日本が2030年・2035年にめざす目標と課題
• 2030年に電源構成の36-38%を再生可能エネルギーに。発電量で見ると、3,360~3,530億kWhを目指す。
• 2030 年までに1,000 万kW、2040 年までに浮体式も含 む3,000 万kW〜4,500 万kW の洋上風力の案件を形成
• 2030年に、新築される住宅・建築物についてはZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)。
• ZEB基準の水準の省エネ性能が確保されているととも に、新築戸建住宅の6割において太陽光発電設備が 導入 • 2030年に少なくとも100の脱炭素先行地域
• 2035 年までに、乗用車新車販売で電動車*100%を実現 (*電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハ イブリッド自動車)
•エネルギー起源のCO2排出量(単位:百万d-CO2)で見ると、2013年度で1,235を2030年度で677(2013年度比で▲45%)
• 2030年までの再エネの最大限導入と、2030年を超えてさらなる導入を実現するための仕込みを実現するための課題
– Feed-in Premium(FIP)など買取制度の適切な運用
– コスト低減(グリーン水素などのコスト低減にも資する)
– 再エネ最大限導入を可能にする土地利用、社会的受容性等の諸条件整備促進

7.世界的に見た電源ミックスの変化
世界的に過去約50年のトレンドを変える非化石電源(再エネ)への転換が起きている。再エネは2050年に69%に拡大。化石燃料は24%まで低減している。
2014年は化石燃料の発電所が一番安い国が多かったが、2020年前半には世界人口の少なくとも2/3を占める国にとっては,太陽光と風力が最も安い。これらの国は、世界のGDPの71%、エネルギー生産の85%を占める。日本では、まだまだ石炭火力の比率が高い。

8.発電コストの低減推移
日本の太陽光の発電コストは2010年から2019年の10年で63%低減(国際再生可能エネルギー機関、2020年)している。日本と世界の発電コスト低減の推移を図−2に示すが、日本のコストも低減するが、残念ながら高めで推移する。この原因は、固定価格買い取り制度(FIT)、機材費、人件費等々が世界標準から見て高値であることによる。

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9.電力分野変革のイノベーション
再生可能エネルギーの発展に伴い、Decarbonization, Decentralization and Digitalization がセクターを超えたダイナミックな技術革新(イノベーション)の進行がもたらされる可能性が出てくる。
再生可能エネルギーの余剰電力を使って水素を作り、これを化学産業の熱源、あるいは交通・運輸部門の燃料とすることで、電力と他の産業分野と連携することが出来(セクターカップリング)、社会全体の脱炭素化、社会インフラの改革も可能となる。

10.日本企業のカーボンニュートラルへの取り組み
10−1.パリ協定の長期目標と整合的な目標(SBT)を掲げる日本企業
SBT(Science Based Targets:パリ協定(世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準(Well Below 2℃)に抑え、また1.5℃に抑えることを目指すもの)が求める水準と整合した、5年〜15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標)の認定を受けた企業数、大企業のみならず中小企業も含めて155社、
10−2.RE100への参加企業
RE100(「Renewable Energy 100%」の略称で、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的イニシアチブ)に加盟する企業数が64社を超えるなど、多くの民間企業がカーボンニュートラルへの積極的にかかわる意志を示している。
10−3.日本企業の2050年カーボンニュートラル目標・戦略
• 花王グループ、住友化学、東京ガスグループ、JER、大阪ガス、ENEOS、出光興産、JR東日本、JALグループやANAホールディングス等々の多くの企業が、再生可能エネルギーや水素を取り入れ、それぞれの企業(関連企業も含め)の原料調達、製品製造、各種オペレーション等から発生するCO2排出量削減(2030年)、排出実質ゼロ(2050年)を目指すことを宣言している。

11.Scope3排出量のネットゼロ(Scope3自社排出CO2以外の,原材料、調達、廃棄等々の段階から出るCO2排出量)への取り組み例
11−1.MicrosoftのClimate Moonshot (2020年1月)
• Carbon negative by 2030 (2030年 までに炭素排出マイナス)
• Remove our historical carbon emission by 2050 (2050年までに、 1975年の創業以来排出したすべ ての炭素を環境中から取り除く)
• $1 billion climate innovation fund (10億米ドルの気候イノベーション 基金)
• Scope 3 の排出量(サプライチェー ン、バリューチェーンからの排出 量)削減に焦点 – 2030年までにScope 3の排出量を半 分以下に削減 – サプライヤーにscope 1、2(自社事 業からの排出量)だけでなくscope 3 の排出量を提示を求め、それを基 に取引先を決定 61
11−2.Appleの2030年目標 (2020年7月)
• 2030年までに、そのすべての事業、製品のサ プライチェーン、製品のライフサイクルからの 排出量を正味ゼロにする目標と計画を発表
• すでに自社使用の電気はすべて再エネ100% を達成。2021年10月時点で、日本企業を含む 175のサプライヤーがApple製品製造を100% 再エネで行うことを約束
• 2020年目標:サプライヤーで、新規で4GWの クリーンエネルギーを増やす。すでに9GWの新規導入/導入誓約
• 日本企業(20社以上)による2030年再エネ100%の誓約:
11−3.日本においても、日立製作所、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグルー プ(SMBCグループ)、等多くの企業がScope3排出量のネットゼロを宣言している。

12.日本の課題
12−1.エネルギーの脱炭素化のために
• 日本の温室効果ガス排出量の約85%がエネルギー起源のCO2
• エネルギー需要家から脱炭素意向が強くなっている。また、今の技術の最大限活用して最大限の脱炭素を行うことが金融から求められている。
•「再エネの最大限導入」+非電力分野の「電化」、そのための施策の加速
•「電化」が困難な非電力分野の対策
• 炭素の価値、コストをうまくプライシングしていかないと、石炭は残ってしまうかも知れない・・
• 将来のエネルギービジョン、移行の戦略、検証と見直し、省庁をこえて総力で積み上げる
• 脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会
• いかにエネルギー転換を促すか。他の電源との相対的競争性。社会的コストの統合と電源間の公正な競争• 地域主導の、地域共生型の再エネ導入、土地規制と社会的受容性
• これらを実施、現実のものにする政府内の横断的連携
• 原子力の位置づけ

12−2.電力分野での脱炭素化加速のための課題
• 系統の整備と運用(いかに自然変動電源を効率的に系統に統合するか)
• 直流送電といった新たな選択肢
• 伸ばしたい電源には意欲的で明確な国の目標を、明確な目標が投資とイノベーションをもたらす
• 洋上風力目標(2040年4500万kW)のインパクト
• コストの低減もちろん、系統、市場をはじめ既存の制度、ルールをあらためて見直し、再エネ主力電源化を可能にする電力システムの構築と、予見可能な魅力的な市場環境整備
• エネルギー貯蔵(揚水、蓄電池、蓄エネ技術、等々)
• 電力供給量を確保しつつ火力を如何に減らすか。火力政策、特に石炭火力の削減・廃止にむけた対策
• 石炭の抵抗力を減らすには、政策と実施の総合化が必要


質疑応答

Q1:液体バオ燃料として現在はパーム油だけがFITの中で認められているが、それ以外の液体バイオマスが認可される可能性は?
A1:現在の問題点は、食料との競合性等からの持続可能性に懸念が持たれており、パーム油以外のバイオマスについては、専門委員会で検討中であり、22年度中には結論が出るのでは。液体バイオ燃料は、買い取り制度の枠の外で航空燃料として注目されてきている。

Q2:日本の太陽光発電コストは低減傾向にあるが、世界と比べると倍近くコスト高であるが、初期のFITによる買い取り価格が高かった影響が未だに続いているのでは?
A2:FITでは太陽光は42円から始まったが、当時これが適切であったかどうかはわからなかったと思う。それ以外に、日本の太陽光発電に関しては、設置工事費、土地造成費、送電線へのアクセス等々がコストを押し上げている。工事費も含めて改善が必要。

Q3:日本で地熱が伸びないのは、温泉法や自然公園法等の法的規制が足をひっぱているためで、法規制緩和と、地産地消の考えが必要ではないか。
A3:同感である。各官庁の調整が重要。洋上風力では、政府が立地地域を設定・準備し、民間事業者は決められた地域内での建設行為からスタートできる。このモデルを地熱でも適用してはどうかと考える。講演の中でも述べたが、地熱に関しては、2030年に向けて地熱発電量として1.5GW(0.5GWの積み増し)が計画されている。

Q4:先月、EVFセミナーで「営農ソーラーシェアリング」の話の中で太陽光発電設備設置に対して農地法がネックになっていると聞いたが、如何なものか?
A4:最近「営農方ソーラーシェアリグ」の例も増えているが、そういうことが起こる可能性もある。今後、農業委員会の農地使用認可の時期とFIT認定時期との整合性(マッチング)も重要になる。日本の農地利用の仕組みを見直すことも必要。

Q5:日本の発電コストは高いとのお話があったが、日本の賃金は上がっていないのに、工事費等が何故高くなる?
A5:日本の土木建築工事の下請け制度もコストアップ要因の一つ。ドイツ等では工程管理手法によりコスト削減の改善が進んでいる。

文責:橋本 升
 
講演資料:COP26をふまえた日本のエネルギー政策の課題
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2022年01月24日

EVFセミナー報告:福島県二本松市におけるソーラーシェアリングと小型EVバギー導入レビュー

演題「福島県二本松市におけるソーラーシェアリングと小型EVバギー導入レビュー」
講師:近藤 恵様

合同会社 AgroKraft 代表社員
Web視聴開始日:2022年1月24日
聴講者数:48名

講師紹介

・株式会社 Sunshine(農業法人)、二本松営農ソーラー 株式会社(4MW営農型発電事業)、二本松ご当地をみんなで考える 株式会社(仮称「二本松電力」の準備会社)、各社の代表取締役。
・1979年 東京都生まれ。筑波大学、千葉県成田市、福島県二本松市、それぞれの地で有機農業の先達に師事。
・2006年より二本松市で専業有機農業経営。3.11原発事故に被災し農業を一時廃業。
・市民電力の立ち上げを支援しつつ、2021年よりソーラーシェアリングで営農法人として兼業農業復帰。


講演概要

震災時に食料には困らなかったが、エネルギーが全くなく、トラクターを1cmも動かせなかった。
その経験から水、食料だけでなくエネルギーを含めた自給自立が必要と考えた。エネルギーを作り出す方法として、ごみ発電、バイオマス発電など考えたが事業化が難しい。ソーラーパネルに対しても最初は抵抗があったが、農作業ができる高さと空間があれば農業とソーラー発電の両立ができると考えた。農作物に対する日照は6〜7割で十分であり、それ以上の日照は返ってよくないこともある。したがって農作業ができる空間の上にパネルを遮蔽率3割ぐらいの間隔でパネルを置いた営農型発電という形とした。2018年から始め面積も広げて2021年には畑でシャインマスカットや荏胡麻を栽培するようになった。これにより安定収入がある程度得られる。しかし耕作放棄地といえども農地にソーラーパネルを置くことに対する規制などが多くあり、これを役所に対して説明して認めてもらうために、ずいぶん時間を費した。ドイツでは垂直式のソーラーパネルが普及し始めており、これは午前と午後に発電ピークを迎えるために、社会の電力需要とマッチしており、またアニマルフェンスにもなり、普及が見込めるので検討しているが、日本には台風があるので、固定強度を大幅に上げる必要がある。 

Q & A

Q1:電力の買い取り価格がどんどん下がってきているが? 一方導入コストも下がってきているから、元は取れるという事か?
A1:2018年当時は27円/Kwhであったものが、現在19円まで落ちてきているが、スタート当初の価格が維持される仕組みのため、既存業者は大きな問題がないが、新規の参入は不利・困難になる。また大企業は巨大な設備を投入できるので、有利なシステムのように思う。

Q2:農地法の壁が高いと思うが? 耕作放棄地などを活用するのになぜ政府が認めようとしなかったのか、政府の考え方はいかに?
A2:一時、河野太郎の規制改革タスクフォースで論議された。中には農業といいつつも発電オンリーの所もある。 福島県は全国2番目に耕作放棄地が多くあるが、地方の農業委員会は認めたがらないが、利害調整をしなければならない。政治はやると決めた場合には必ずやると思う。営農型発電の建設ガイドラインができたが、「やってますよ」というなんとなくアリバイ作りのようなもので、本当にやる気ならば、韓国のように数値目標を作らなければだめだと思う。 

Q3:認可期間は自動更新となるのか、それとも再更新が必要か?
A3:3年と10年があるが、自動更新は認めてもらえない。壁の一つに金融機関があるが、この自動更新とはならないことが怖いため、お金を貸してもらえない。
 
Q4:農地法が障害となるというが、営農型発電は耕地面積を減らさないのに何故か? 
A4:農地法の本来の目的は、農業生産を守るためにあったものが、だんだん形骸化してきている。「農地法を守って農民守らず」と揶揄されるが、面積の広さに応じて管轄が、市、県、国と管轄が分かれており、末節な論議になってしまっている。悪用するような団体もないとは言わないが、全体からするとわずかなものと思う。どんな法律も抜け道を探す人はいる。

Q5:遮蔽率を下げて、空間を開けてパネルを置いているが、この発想はどこから?
A5:日本では2003年に千葉県で長島彬先生が始めたのが始まりだが、ドイツでは1981年に土地の有効活用として、このような立体的なものを始めた。

Q6:両面を使うということが良いアイデアだと思うが、垂直型のパネルの台風対策はどのようなものか?  
A6:現在、支柱を深く、太くするなど対策を進めており、最終段階にきている。最初のケースだから、失敗すると後続への影響が大きく大変なことになる。 

Q7:送電線の空き容量がないという事だったが、電力は地域の電力小売業者に売るので、送電線容量は問題ないのでは? 
A7:送電線の空き容量と電力の売却先は別の問題である。太陽光発電の予約量が一時期大量に出てきたので、ストップしてしまった。最大の発電を想定した安全率を取り過ぎのシステムを作ったのだが、その後それほど大量に太陽光発電しなかったので、送電線の容量は今ガラガラであり、問題はないはずである。 
売電先の問題は、一旦東北電力ネットワークに売り、そこから卸で個別配給会社を通して家庭に配給されるが、そこに制限がかかることはないが、売電価格があまりにも安くなってしまったので、直接売りたいという人が出てきた。 この場合には売電量の制限がかかるし、実際にそういうケースが出始めている。

文責:八谷道紀

講演資料:福島県二本松市におけるソーラーシェアリングと小型EVバギー導入レビュー
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2021年12月23日

EVFセミナー報告:COP26が示した国際潮流を読む

演題:「COP26が示した国際潮流を読む」 〜脱炭素の『実施』が求められる時代へ〜
講師:山岸 尚之様

WWFジャパン(公益財団法人 世界保護基金ジャパン) 気候エネルギー・海洋水産室長
Web視聴開始日:2021年12月23日
聴講者数:42名

講師紹介

・1997年に立命館大学国際関係学部に入学。同年にCOP3(国連気候変動枠組条約第3回締約国会議)が京都で開催されたことがきっかけで、気候変動問題をめぐる国際政治に関心をもつようになる。
・2001年に同大学を卒業後、9月より米ボストン大学大学院にて、国際関係論・環境政策の修士プログラムに入学。2003年に同修士号を取得。
・卒業後、WWFジャパンの気候変動担当オフィサーとして、政策提言・キャンペーン活動に携わる他、国連気候変動会議に毎年参加し、国際的な提言活動を担当。
・2020年より気候エネルギー・海洋水産室長(現職)。

講演概要

今回のCOP26で低炭素社会からエネルギーの大転換・脱炭素社会の「実施」が求められる時代になってきた。
2021年10月31日から英北部グラスゴーで開催されたCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)は、会期を1日延長し11月13日に、成果文書「グラスゴー気候合意」を採択して閉幕した。
焦点の一つだった石炭火力発電の利用については、当初の文書案の「段階的廃止」から中印など新興国の反発により、「段階的な削減」へ表現を弱めた。しかし、産業革命前からの気温上昇について1.5℃以内に抑える努力を追求する決意が、特に強調される形で明記された。
この話題になった「COP26」の現場の雰囲気や生の声、COP26での成果、合意を目指したパリ協定についての解説、世界的に強まってきた「脱炭素」路線について、今後の日本の課題、COP26以降のビジネス潮流などについて講演をいただいた。
最後に、脱炭素は何のために実施するかについて示唆に富むお話があった。

1. 話題になった「COP26」とは

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1.1 26回目の「締約国会議」 
1)開催期間と場所
・開催期間 2021年10月31日から11月13日
・開催場所 イギリス(スコットランド)・グラスゴー
2)約190カ国が参加
・コロナ禍での強行開催であったが、約4万人の参加者でパリ協定が選択されたcop21での約3万人強を超える過去最多の参加者であった。
・参加者は毎朝、ラテラルフローテスト(高速、低コストの新型コロナ検査)でテストを行い、ウエブサイト上で結果を報告してから会議場へ入場した。
・会期始まりの2日間、約120カ国の首脳が参加したワールドリーターズ・サミットが開催された。日本からは衆議員選挙直後であったが岸田首相、アメリカからはバイデン大統領が参加した。
・オンライとのハイブリッドで進行され、会場に直接いたとしても、実際の交渉が行われている会議室へのアクセスは限定的であった。
また、オンラインのプラットフォームを通じて傍聴する機会も多かった。このため、透明性がないとのかなりの混乱があった。「最も排他的なCOPダ!」という批判も一部にあった。
3)パリ協定の下で、温暖化(気候変動)対策の国際協力を話し合う
・最終日近辺は真夜中まで交渉は続けられていた。
COPが延期するのはいつものことであるが、会期を延長して決着した。
4)COP26の主な成果
(1)世界の平均気温上昇を1.5℃に抑える
・パリ協定での気温上昇に関する世界全体の目標である2℃未満から、1.5℃を目標として公式文書に明記された。
一年後までに、2030年度目標を再度見直すということに関しては、各国に対して必要に応じてという文言が入った。
・温暖化の最大要因として石炭火力削減方針が初めてCOP決定に明記された。
石炭火力の減少、化石燃料補助金廃止への言及などに加え、パリ協定の詳細なルールブック(実施指針)がすべて合意されてパリ協定が完成した。
(2)市場メカニズムに関するルールの完成
・他国での削減をクレジットとして購入し、自国での削減として使える仕組み。
・日本が実施しているJCM(2国間クレジット制度)のような「2国間型」と「国連主導型」の2種類がある。実際の運用化にはまだ少し時間はかかる。
・各国の排出量や取り組み状況を報告する仕組みの完成。
(3)透明性の枠組み
・全締約国に共通の項目・表で排出量の報告を行うこと、また比較可能な表形式で自国が決定する貢献(NDC)達成に向けた取り組みを行うことが決定された。
(4)NDC実施の共通の時間
・全締約国に対して、2025年に2035年目標、2030年に2040年目標を通報することを奨励する決定が採択された。
(5)損失と被害に関する「対話」の合意
・気候変動に伴う被害が、適応対策で対応できる範囲を超えて発生した場合の救済を行うための仕組みについて、話し合いを継続していくことが合意された。
(6)適応では
・気候変動の影響に適応する世界全体の議題を設定して、目標の議論を深める今後2年間の作業計画を開始することが決まった。
(7)気候資金の議論では
・1.5℃を目指すとなると途上国も排出量を減らしていかなくてはならない。そのためには先進国からの十分な支援が必要となる。
先進国やその他の国は、2020年に向けて、気候資金「1000億ドル」達成のため、さらなる努力を続けることになった。
また、2025年以降の資金数値目標に対する議論を開始し、本件に関する協議体を立ち上げ2022年から2024年にかけて議論することになった。

2. パリ協定について

2.1 パリ協定とは ?
・京都議定書の跡を継ぐ,2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組み
・気候変動(地球温暖化)に対して、従来の先進国・途上国という枠を超えて、どのように国際協力して対応するかを決めた国際条約

2.2 パリ協定の中身
(1)全体としての目的は
地球の平均気温の上昇(温暖化)を、産業革命前と比較して、2℃より充分低く、できれば1.5℃に抑えること。
(2)長期目標として
今世紀後半に、世界全体の温室効果ガス排出量を、生態系が吸収できる範囲に収めるという目標が掲げられた。これは、人間活動による温室効果ガスの排出量を実質ゼロにしていく目標である。
(3)年ごとの見直し
各国はすでに国連に提出している2025年/2030年に向けての排出削減量を含め、2020年以降、5年ごとの目標を見直し、提出していくことになったこと。
(4)より高い目標の設定 
5年ごとの目標の提出の際には、原則として、各国は、それまでの目標よりも高い目標を掲げること。
(6)資金支援
支援を必要とする国への資金支援については、先進国が原則的に先導しつつも、途上国も
他の途上国に対して自主的に行っていくこと。
(7)損失と被害への救済
気候変動の影響に、適応しきれずに実際、損失と被害が発生してしまった国々への救済を行うための国際的仕組みを整えていくこと。
(8)検証の仕組み
各国の削減目標に向けた取り組み、また、他国への支援について、定期的に計測・報告し、かつ国際的な検証をしていくための仕組みがつくられたこと。
これは、実質的に各国の排出削減の取り組みの遵守を促す仕掛けになる。

2.3 パリ協定後の流れ
・2016年 パリ協定の発効
・2017年 ルールブック策定に向けた交渉
・2018年 パリ協定の「実施指針(ルールブック)」策定
・2020年 パリ協定の実施へ
・世界全体と国別の2つのレベルで強化が検討されることになる。
・ほとんどの国は2030年目標を持っている。(一部2025年目標)

3. 世界的に強まってきた「脱炭素」路線

・2018年10月 IPCC1.5℃特別報告書
5℃目標の達成のためには、2050年ゼロを目指すことが必要であるとの知見
・2019年12月 欧州グリーンディール発表
EUの既存2030年目標(90年比40%削減)を引き上げるなどを含むパッケージ提案
・2019年12月 欧州連合理事会が2050年カーボン・ニュートラルに合意
・EUの政策決定機関である欧州連合理事会が、カーボン・ニュートラルについて合意
・2020年9月 中国が2060年までにカーボン・ニュートラルを発表
国連総会の一般討論におけるビデオ演説で、習近平首席が「我々はCO2排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までにカーボン・ニュートラルを目指す」と宣言
・2020年10月 日本・菅首相が2050年までにカーボン・ニュートラルを宣言
所信表明演説において「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボン・ニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言」
・2021年1月 アメリカが2050年ネットゼロ方針
大統領令の中で、ネットゼロ排出量を、経済全体で遅くとも2050年までに達成する方向に、アメリカを向かわせることを打ちだした。
・2021年2月 アメリカがパリ協定に復帰した。2016年の離脱方針から転換

4.日本の課題

4.1 2030年目標の改定
(1)日本は従来の目標26%削減を2030年46%削減(さらに50%の高みを目指す)
・。2050年ゼロを実現するためには、今後9年の行動が最も重要となる。
(2)菅前首相の所信表明演説では
・積極的に温暖化対策を行うことが、経済成長の制約ではなく、産業構造や経済社会の変革をたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要である。鍵となるのは、次世代太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした、革新的なイノベーションである。
・省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立する。長年続けてきた石炭火力発電に政策を抜本的に転換する。
(3)日本は、目標は良くなってきたが、実施に課題
・排出量削減の「目標」については、「ほぼ十分」な水準まで評価があがってきているが、「政策」については、石炭火力の継続的活用など以前として「不十分」なまま。

4.2 2030年に向けた日本のエネルギー基本計画
(1)エネルギー需要
2013→2030 経済成長1.4%/年 人口0.6%減 旅客輸送量2%減を前提として
・2013年 363百万kl 内訳 電力91百万kl 熱燃料等272百万kl
・2030年 280百万kl 内訳 電力78百万kl 熱燃料等202百万kl
・省エネの野心的な深堀りで62百万kl程度削減すると計画している。
(2)一次エネルギー供給
2015年策定の2030年数値と今年度改定の2030年主な数値を比較
・2015年策定の2030年数値 480百万kのうち 再エネ・原子力の自給119百万kl
・今年度改定の2030年数値 430百万klのうち 再エネ・原子力の自給129百万kl
・なお水素・アンモニアは全体の1%弱の4百万kl程度である。
・石炭は122百万klから82百万klと約30%程度削減した数値を計上している。
(3)各電源を電力システムに受け入れる場合
・天候・時間帯による太陽光・風力の発電量変動等を吸収する際は、原則、LNG→石炭→揚水→太陽光・風力の順に出力調整することになる。
・石炭火力について、2030年の新設は高効率を想定しているため、他の効率の悪い石炭を停止する断面が増え、高効率の追加分は高い設備利用率で動かすことになる。・
・一方、調整力が高くない石炭の追加で、瞬発力が高いが費用も高いLNG火力を大きく伸び縮みさせて調整局面が増える。

5. COP26以降のビジネス潮流 

5.1 企業の動き
(1)企業の気候変動対策の大きな2つの流れとしてバリューチェーン全体での削減と長期ではゼロを目指す。
(2)主要10カ国における企業目標のタイムフレーム別の数は日本企業の数も多いが、新興国・途上国企業も多くなってきいている。
(3)代表的な企業の事例
・2010年にソニーは2050年までに環境負荷ゼロを目指すビジョンを発表している。
・2019年にマイクロソフトは2030までにはカーボンネガティブを目指すことを宣言した。
・石油大手BPが、2050年までにネットゼロ企業になるという戦略を発表した。
(4)ネットゼロを目指す企業
・10年以上前から存在するが、過去2〜3年で劇的に増えている。
・世界の企業の中で、ネットゼロを掲げる企業が2019年から2020年に2倍になっている。
(5) 企業に求められる「1.5℃と整合した」について、SBTi(パリ協定に沿った目標策定のグローバルスタンダード)の承認を世界全体では694社、日本では67社が受けている。
・日本では現在までに承認を受けた目標を持つ140社のうち、37社は中小企業による取得である。
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5.2 COP26で様々な宣言があった。
・インドは2070年、タイは2065年、ベトナムは2050年までにネットゼロ目標を発表した。
・様々な有志連合により2030年までに森林破壊をゼロにする宣言を発表した。
・石炭+αに関する宣言では、46カ国参加の国内石炭火力廃止や海外石炭支援停止、脱石炭連盟への参加国48カ国、また、ガス、石油からの脱却を訴える連盟が発足した。
・GFANZ(気候変動に焦点を合わせた金融企業連合体)に日本企業も多数参加
・IFRS財団が、国際サステナビリティ基準審議会を設立した。サステナビリティ開示基準の国際標準が設定されていく。

5.3 日本国内の動き
・大手企業ではサプライチェーンとも協業し、環境負荷の低減をさせる。
・派手さはないが、きわめて重要な住宅・建築分野では国交省・経産省・環境省による住宅・建築物の省エネに関するロードマップマップでは、2025年までに省エネ基準適合義務化、
2030年に新築される住宅・建築物についてZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能が確保され、新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が導入されていること。
・これらを提供できる住宅供給事業者・建築事業者が生き残る。
・脱炭素の波は金融に、そして、地域にも来ている。サステナビリティ・リンク・ローンの広がりがある。
・環境省・経産省も、排出量を算定することに対して、手厚い情報提供および企業事例の提供を行っている。
・日本のCOPの流れは社会の津々浦浦まできている。

6.まとめに代えて 何のためにやるのか

6.1 気候変動によるリスクに曝される子供たち
・UNICFFは、子供たちの気候変動に関するリスク、子供たちの脆弱性について、独自の指標(CCRI)を作成した。
・世界の22億人の子供の約半数にあたる約10億人の子供たちが、「極めてリスクが高い」と分類された33カ国のいずれかで暮らしていると指摘している。

6.2 ユースたちの声
・今回COPでも前回の会議から引きつづき大きな流れとして多くの若者が集まり、デモ行進が行われた。
・交渉中でも、このような若者たちの声に言及し、本会合で1.5℃が目標とされなければ、子供や孫たちの世代に対して取り返しがつかなくなるという発言が多く聞かれた。この問題を機に、多くの若者が声を上げていた。
・これから最も被害を受ける将来を支える若い人の声を国際社会がどう受け止めるか、それにどう応えるかが、今の国際社会の流れである。

<質疑応答>

Q:COP26への我が国からの参加者は従来と比べてどうだったでしょうか
A:政府代表者はいつも通りでしたが、企業系は若干少なかった。経団連の代表は送らないとしていましたし、企業の方は帰国しても2週間の隔離で動けない支障もありました。行く直前の現地での対策やホテル代が1泊5万円で1週間通して予約しななければ取れない状況などでハードルが高かった。

Q:日本は、目標は良くなってきたが、実施に課題があると世界から見られているが、政策は方策なので、問題ないと考えますが、世界は本当に目標を達成できるとみているのでしょうか。
A:目標を立ててはいるが、石炭火力の対応とか、電気自動車も進行していない、建物の断熱強化も速やかに実施するのか、世界は懐疑的に見ている。
Q:宣言したことで世界から見られていくということでしょうか。
A:その通りです。

Q:日本では、効率の悪い石炭火力は廃止し、高効率の石炭火力は稼働していくとしている。また、高効率石炭火力は途上国に設置していくとしている。原子力に頼れない中、電力の安定供給のためエネルギー政策を展開している。各国は具体的にどう進めているかメディアからの情報が入ってこないので教示してほしい。
A:メルケル首相の政策で、産炭国であるドイツでは、石炭は主要エネルギー源であり、今後、段階的に廃止し、2038年(今後、2035年への前倒しを検討予定)までには、全廃する方針である。石炭火力発電の完全廃止に向けた、段階的な廃止計画・代償措置など包括的な枠組みの脱炭素法の制定で発電事業者への廃止費用を補償、産炭地域への財政支援等が行われている。欧州ではこれまで20年以上かけ建築物の断熱強化を推進している。また、EVやPHEVに強制導入が行われているが、日本では強制導入はないため、EVの導入に大きな遅れがある。

Q:気候変動問題=脱炭素問題ですか。当初COPは生物多様性の損失問題から始まったように思いますが、脱炭素問題よりも地球の環境問題の根本原因は温暖化ではなく世界人口の異常の増加が地球のバランスの取れたシステムに急激な変化をもたらし森林伐採などの広範囲な環境破壊をさせているのではないでしょうか。
A:確かに人口増加は環境負荷を増大させますが、それだけが原因ではありません。
森林破壊は中南米や東南アジア、アフリカで発生しています。その原因は日本も消費に加担していますが、中国での大量消費があります。COPには今回のCOP26国連気候変動枠組条約締約国会議とCOP15の国連生物多様性条約締約国会議があり、この会議はコロナ禍の影響で2部構成になり、1部は今年10月にオンラインで、2部は2022年4月に中国の昆明で開催する予定です。

Q:12月14日のニュースでEVシフトに後ろ向き気だったトヨタの社長が、2030年にはEVを350万台生産すると発表表しましたがこの真意は何でしょうか。
A:トヨタがEVに力を入れるとのことですが、販売数量約1000万台のうちの350万台ですから、世界のトヨタがどうするのか期待がかかっています。世界の自動車業界はEVに向かっています。COP26でのゼロエミッションにはトヨタ、ドイツ、アメリカの主要自動車会社が入っていなかった。

Q:日本では石炭火力でアンモニアを石炭と混焼し、2040年にはアンモニア専焼火力にし、2050年にはネットゼロ火力にする方向で動いていますがどう思われますか。
A:水素、アンモニア否定しませんが、鉄の製造に水素還元製鉄などは必要だと思います。しかし、2040年まで石炭を燃やし続けるのかというと賛同できません。

Q:気候変動によるリスクに曝される子供たちというお話がありましたが、若者たちに石炭火力をどうすればよいか決着をつけさせれば良いと思いますが、WWFジャパンは若者たちとかかわる活動をしていますか。
A:我々の組織はどちらかといえば若者にあまりアピールできていない団体です。でも、いろいろなイベントで若者たちと話し合っています。COP26では日本主催のジャパン・パブリオンでイギリスの若者とCOP26の内容について何が大切かについて話し合いました。また、最近、高校生にエネルギー問題についてのワークショップを開催しました。

Q:ポール・ホーケン氏による「Drawdown The Most Conprehensive Plan Ever Proposed to Reverse Global Warming」
(日本名:地球温暖化を逆転させるために提案された最も包括的な計画)が、ニューヨークタイムズ社から出され、今年その日本語訳が書店に並ぶようになりました。WWFではこの本並びにホーケン氏の活動をどのように評価していますか。
A:解決策のリストを整備し、可視化するという活動自体は意義があと思いますが、それを世界的にどう実行していくかが課題なので、WWFとして特別にこの活動を支持しているわけではありません。

Q:ホーケン氏は「一般の人が何ができるか、そしてそれがどのような影響を与えるかについての検討結果を書いた本である」と言っています。事実、80種類の二酸化炭素の削減効果を取り上げ各々について削減量(トン)を算出しています。例えば廃棄食料を減らすことにより2050年までに705億トンの二酸化炭素を減らすことが出来ると試算しています。これをWWFではどのように評価していますか。
A:個別の施策の正確さを検討することをしていないので、その点は判断できませんが、一般論として、食品ロスを減らすことによる削減は大事だと考えています。

Q:WWF では民間レベルでのカーボン・ニュートラル活動をどのようにとらえていますか。私は「ゴミの分別回収」がいつの間にか当たり前になったように、民間レベルでの、全国民の意識改革が必要だと思っています。山岸さんのお考えとそのために私たちが取るべき行動についてご教授願います。
A:それぞれの人々が取り組むべきことは確かにあります。その点では、下記文献が参考になります。
https://www.iges.or.jp/en/pub/15-lifestyles/ja
ただ、私としては、それだけではなく、先の衆院選や、今年の参院選で、有権者としての投票行動にしっかり気候変動対策意識を反映させること、商品や企業の選択において気候変動対策を考慮することなどを通じて、自分の外側、社会を変えるような行動こそが大事だと感じています。

文責:立花健一

講演資料:COP26が示した国際潮流を読む
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2021年11月25日

EVFセミナー報告:日本の風力発電の現状と将来展望

演題:「日本の風力発電の現状と将来展望」
講師:加藤仁様

一般社団法人日本風力発電協会 代表理事、日本風力開発(株) 副会長 
Web視聴開始日:2021年11月25日
聴講者数:59名

講師紹介
・1977年3月 広島大学 政経学部 経済学科卒
・1977年4月 三菱重工業(株) 長崎造船所船舶営業部 
・2008年4月 同社 本社 エネルギー・環境事業統括戦略室長
・2013年4月 同社 執行役員 原動機事業本部長兼風車事業部長
・2017年4月 MHI保険サービス(株)
・2017年7月 日本風力開発(株) 副会長
・2018年5月 一般社団法人日本風力発電協会 代表理事

講演概要
地球温暖化の影響で、世界各地で異常気象が頻発しており、電力エネルギー源の脱炭素化に向けた取り組みが待ったなしの状況下、有力な再生可能エネルギー電源の柱となる洋上風力発電について、先行する欧米・アジア各国の取組状況を紹介しつつ、我が国における現状と将来展望についてご解説いただいた。洋上風力発電を導入拡大していくことは、温室効果ガス大幅削減による気候変動対策に資するのみならず、エネルギー自給率の向上によるエネルギー安全保障の確立、大型の発電設備の開発・建設に伴う新たな産業の創出により、グリーン・リカバリーを実現していく意義がある。我が国での洋上風力発電の導入は緒についたばかりであるが、欧州における導入に向けた過去20年間の取組みの知見と我が国産業界の技術ポテンシャルを活かし、向こう10年で欧州に追いつくことが可能との展望が示された。EVFセミナーで風力発電をテーマとした講演は初めてで、聴講者も大いに触発され意義深い講演となった。

T.  講演内容

1.世界の洋上風力導入の動き
(1)脱石炭に向けた世界の取り組み
・地球温暖化の影響で、世界各地で異常気象が頻発しており、電力エネルギー源の脱炭素化に向けた取り組みが待ったなしの状況。
・2017年11月に、温暖化の原因となるCO2の一番大きな発生源となる石炭発電からの移行を促進する国際的な連盟「Powering Past__Coal Alliance(PPCA)」が発足。同連盟宣言文では「OECDやEUでは2030年までに、他の国々では2050年までに石炭火力から脱する」とし、そのために、<政府>は現存する従来型石炭火力を廃止、停止、<企業>は石炭火力の電力を使わない、<共通>の取組みとして、クリーンな電力を政策や投資で支援し、CCS無しの従来型石炭火力に対する投資を抑制する、としている。
・欧州では脱石炭火力に向けた動きが進んでおり、原子力発電の比率が高く石炭火力の比率が低いフランスでは2021年中に、英国では2025年までに、産炭国であるドイツも2038年までに石炭火力を廃止する計画を発表しており、ドイツではCOP26で更に前倒しする動きになっている。
・ドイツの状況を具体的にみると、2020年1月、メルケル政権において、2038年までに脱石炭火力を実現する計画について、石炭を産出する4つの州政府と合意。構造転換を後押しする投資などで計400億ユーロ(約4.8兆円)を拠出。RWEなどのエネルギー会社にも計43億5000万ユーロを補償する方針。
・EUでは、域内の温暖化ガスの排出を2050年に実質ゼロにする目標実現に向けて、今後10年で少なくとも1兆ユーロ(約122兆円)規模の投資計画を公表。スウェーデンやフィンランドが電力に占める再エネ比率がすでに4割を超える一方、ポーランドやルーマニア、チェコなど旧東欧諸国は石炭火力の依存度が高く、そうした国々の構造転換を後押しし、域内全体で目標達成していく方針。

(2)欧米・台湾における洋上風力発電の動向
・欧州の電源構成をみると、風力発電は2016年に設備容量ベースで150GWを突破、石炭火力発電を抜いて第2位のポジションとなった。2020年には、EU27ヵ国で再生エネルギーの発電量の割合は38%、石炭火力などの化石燃料の割合37%を抜き、再エネが電力の重要な柱となっている。
・EUにおける2020年の風力発電量は396TWhで前年比9%増。電力構成の割合は14%で再エネ電力の中で最も高い割合となっている。
・欧州で風力発電の普及を図る協会 Wind Europe においては、2019年11月コペンハーゲン開催の Offshore Wind Europe 2019 で、「2050年に洋上風力450GWを目指す」と発表。現状、洋上風力の発電容量は約20GWであり、相当ハイペースの投資が必要。
・一例として、北海の浅瀬に人工島を建設し、洋上風力の建設・メンテナンス・送電系統の拠点(ハブ)にしていこうとのプロジェクトも既に発表され、具体化が進められている。
・英国では、2019年3月に洋上風力発電関連産業にかかる官民一体の協議体「洋上風力セクターデイール」を発足(既存の連絡組織から移行)。政府と洋上風力関連産業界が、2030年までに洋上風力30GWを目指すことに合意。政府は電力買取契約締結で支援する一方、産業界においては、洋上風力発電英国調達比率を60%に引き上げ、直接雇用を現在の7,200人から27,000人に、洋上風力発電関連の輸出を5倍に増やすといった、産業育成政策が進められている。
・米国においては、これまでテキサスやカリフォルニアを中心に陸上風力発電の導入が進められており、既に風力関連部品工場の数は500以上、25,000人超が風力関連産業に従事している。洋上風力発電においても、その導入拡大は雇用創出・投資誘致・港湾や沿岸地域の活性化・国内製造業の繁栄に寄与するものと認められることから、洋上風力発電導入量を2025年に9〜14GW(国内生産率21%)、2030年に20〜30GW(国内生産率45%)とするシナリオを策定。その経済効果は、関連雇用数で 1.9〜4.5万人(2025年)、4.5〜8.3万人(2030年)、年間経済算出量で 6〜16兆円(2025年)、14〜28兆円(2030年)と評価されている。
・アジアに目を向けると台湾の導入が進んでおり、2020年6月時点で128MW(1サイト)が稼働中で、約750MW(2サイト)が建設中。導入目標を2025年に5.6GW、2035年に15.6GWとしている。政府は、現地産業育成のため、風車・基礎・海底ケーブル・使用船舶等に対して、厳しい現地調達要求(LCR)を設定。欧州メーカーは、現地企業との協業や投資・雇用を加速させている。

2.洋上風力を取り巻く国内の状況
(1)第6次エネルギー基本計画におけるエネルギーミックス
・2030年度における再生可能エネルギーの導入目標は、政府目標である2030年度の温室効果ガス46%削減に向けては、もう一段の政策強化等に取り組むこととし、その政策強化等の効果が実現した場合の野心的なものとして、合計3,360〜3,530億kWh程度(電源構成では36%〜38%)としている。
・風力発電(陸上+洋上)の発電量の2030年目標は、陸上17.9GW、洋上5.7GW、日本全体の発電電力量に占める割合で約5%と見込まれている。この目標実現に向け、2030年まで100万kWh/年のペースで、洋上風力発電の入札を実施していくこととしている。

(2)2030年のエネルギーミックスにおける原子力の課題
・原子力の電源構成割合は、第5次基本計画と同じく20〜22%程度(設備容量に換算すると3,356万〜3,779万kWh)であるが、昨今の状況から実際に再稼働となるのは計画を下回る懸念がある。原子力が計画を下回った場合、石炭火力でカバーするという訳にはいかないため、必要な電力が不足するという事態も生じかねない。
・政府においては、再稼働は最低限実現させるとの方針が改めて確認され、これから再稼働を確実に進めるアクションがとられてていくものと考えられる。
・2030年はクリアーしたとしても、原子力発電設備の寿命を考えると将来的に主要電源としてカウントできなくなり、大きな課題となっている。

(3)水素ロードマップとグリーンアンモニア
・水素については、太陽光や風力の余剰電力でグリーン水素を製造し、エネルギー源として貯蔵する方策が、欧州で進められている。
・アンモニアは水素と窒素の合成物なので、グリーンアンモニアを製造する為にはグリーン水素が必要だが、グリーンアンモニア製造時にロスが生じ、更にグリーンアンモニアをエネルギー源として電力を起こす過程でもロスが生じる。したがって、カーボンフリー電力源としては、グリーン水素を直接燃焼させコンバインドサイクル(複合火力発電所)を回していく方が効率的。
・このような背景から、COP26において、アンモニアは石炭火力の延命を図る手段ではないかとの議論を惹起し混乱が生じている。日本風力発電協会(以下「協会」)としては、グリーンでなくともブルーアンモニアであれば、カーボンフリーでなくても火力発電のCO2削減に寄与し、経済効率性の観点からも過渡期においては有用性が認められるため、アンモニアを電力源として使用する場合のグランドデザインを明確にし、議論を整理して欲しいと政府に提言している。

3.洋上風力導入の意義と課題
(1)洋上風力拡大の意義
・風力や太陽光といった再エネは、CO2削減による温暖化防止に資するのみならず、国内調達がほとんどできず海外調達に頼らざるを得ない化石燃料と異なり、再エネは国内で自給できるため、エネルギーの安全保障に資する。
・また、洋上風力発電は輸入が難しい大型の設備となるため、国内に関連の新たな産業を創出し、グリーンリカバリーの実現につながっていく。

(2)洋上風力の産業競争力強化に向けた基本戦略
・洋上風力の導入拡大を図り産業競争力を強化していくための官民協議体が組成され、「洋上風力産業ビジョン(第1次)」が発表された。
・同ビジョンでは、官民各々が目標を明示・設定。政府は、入札により、2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000万〜4,500kWの案件を形成するとの導入目標を明示。産業界は、国内調達比率を2040年までに60%にし、着床式発電コストを2030〜2035年までに8〜9円/kWhにするとの目標を設定しコミットした。
・同ビジョンの発表により、これまでアジアでは台湾や韓国に目を向けていた欧州の発電事業者などが、日本は、両国より大きなマーケットが期待できるもとして着目し、パートナーシップが具体化しつつあるのがここ一年の動き。

(3)洋上風力の主力電源化に向けた道筋
・協会では、今後10年で産業の基盤を形成、2030年以降早期に国際競争力を持つ国内産業を育成し、3つの目標(導入量,コスト,国内調達比率)の実現を目指すとの道筋を示している。
・欧州では、20年前から洋上風力導入の取組みに着手しており、現在既に、導入量は累積約23kWh、コストは安いところで5円/kWhと産業化の基盤が形成されている。
・我が国は、欧州がこれまで苦労して取り組んできた経験・知見を活かし、向こう10年で現在の欧州のレベルにキャッチアップ可能としている。

(4)日本の洋上風力のポテンシャル
・我が国は英国と同様、島国で海に囲まれており、排他的経済水域の広さは世界8位。洋上風力設置の対象となる水域は充分ある。
・協会で、水深と広さ、その水域での風力など一定の条件を置き導入可能量を調査したところ、着床式で約128GW、浮体式では約424GWのポテンシャル。
・着床式の場合、フェリー航路や漁業操業水域との調整があり、現実的にはポテンシャルの3分の1の40GW程度になるものとみているが、浮体式は1つのプロジェクトで原子力発電1基分相当(1GW)の発電容量となる規模が期待でき、主力電源としてのポテンシャルは充分にある。

(5)導入促進区域等の指定状況
・政府は「再エネ利用法」に基づき、着床式の導入促進区域を指定し、参入事業者の入札を実施しているが、秋田県(由利本荘市沖・三種町および男鹿市)と千葉県(銚子市沖)については、本年5月に入札が締め切られ、現在、事業者選定の評価が進められている状況。
・来年には、秋田県(能代市沖)の入札を実施することが発表されており、その他の指定区域についても順次入札が進められていくものとみられることから、協会としては、2030年までに1000万kWの導入目標の実現は、案件としては充分あると考えている。

(6)送電網の整備
・洋上風力は、水力発電の大型ダムや原子力発電と同規模の大型設備となるため、北海道・東北沖や九州沖などの豊富な風資源のある需要地から遠隔地に設置されることになる。
・現在の送電網は、9電力が各々の管轄区域で完結することを前提に整備されているが、風力発電は遠隔地に偏在することとなるため、管轄区域を超えた広域の送電網整備が必要。このため将来的には既存の電力会社の区域を越えて、広域で送電網の整備・運営・管理を行う統括送電会社が必要となる。
・広域送電を可能とすることにより、自然条件で左右される再エネの発電量を平均化し、電力安定供給に資する効果も期待できる。
・具体的には、北海道からは海底ケーブルを新設し直流で送電、九州・中四国では既設の連結送電線を増強し整備していくマスタープランの検討が進められている。
・マスタープランは、今年5月に中間整理が取りまとめられ、来年度中には最終プランが策定される予定。同プランにおいて、送電網整備にかかるコストと得られる便益を試算しているが、便益がコストを上回り有用と試算されている。
・我が国と同様の島国である英国においては、海底ケーブルによる遠距離直流送電の整備が進んでいる。陸上送電の場合、送電線鉄塔建設にかかる地権者との調整にかなりの時間がかかるが、海底ケーブルの場合、漁業者との調整はあるとしても、陸上と比較し短期間で長距離の送電線敷設が可能。また交流に比べ直流はロスが少ないとのメリットがある。我が国で直流送電は馴染みがないが、欧州のノウハウを輸入すれば技術的には可能であり、マスタープランでは、北海道からは海底ケーブル直流送電で計画している。

(7)拠点港の整備
・風力発電が設置できる場所は、洋上風況を考慮すると、北海道・東北、関東・東海、北九州に偏在している。
・洋上風力発電の導入を長期・安定的に着実に進め、また工事を効率的に実施しコストを低減するため、中期的にはいわゆるプレアッセンブル機能を併せ持つ大規模な拠点港の計画的な整備が必要不可欠。
・協会は、拠点港の整備にあたっては、規模・場所等の効率的なあり方を検討し、促進区域の指定及び中長期導入目標に整合した整備が必要である旨、国土交通省と協議している。

4.洋上風力とその関連産業
(1)洋上風力発電の基礎と風車のサイズ
・洋上風力発電の基礎は、海底に直に基礎を設置する着床式と、風車本体を洋上に浮かべ係留索で固定する浮体式がある。
・陸上風車は、騒音や輸送などの問題があり建設可能なサイズは自ずと限界があるが、洋上風力は、騒音問題の懸念がなく、予め陸上で組立て船で運搬できることから、非常に大きなサイズとなっている。
・現在商用化しているもので最大機のV174は、風車面積23,779u、定格出力9.5MW、翼長85m、ローター径174m、高さ約197m、タワーを除く重量〜500tで、ローター径が200mを超えるさらに大型サイズ機の商談も進められている。

(2)海洋の産業利用と洋上風力発電建設
・洋上風力発電建設箇所の調査にあたって、音波探査、SPT(ドリリング)、CPT等を実施し、地底の状況を調査する洋上地質調査船、風況、波浪等の気象・海象のデータを計測する洋上気象観測塔、洋上風力発電設備の点検保守作業や海中調査業務として使われる水中ドローンなどのインフラ整備が必要。
・実際の建設に際しては、プラットフォームを海面上に上昇させてクレーン、杭打ち等の作業を行う自己昇降式台船、海底ケーブルを敷設する船、洋上風力発電所の建設、保守、運用に作業員等を輸送する船などの工事専用船舶が必要で、欧州では、沖合設備に対応するための洋上風力建設・保守用の船員の宿泊施設となる船も運用されている。

(3)日本の風力発電関連産業の現状
・国内では陸上風力を展開した際に対応してきたメーカーがあり、発電機・増速機・軸受等の製造拠点は存在。洋上風力向けには相応の投資が必要となるため、これらのメーカーの再参入が期待される。
・つまり、潜在的な技術力とものづくりの基盤がある等、産業形成のポテンシャルを有していると言えることから、これらのメーカーに再参入を促し産業化を図っていくことが必要である旨、経済産業省に提言している。

(4)新産業「洋上風力発電産業」の創出・形成
・風車の部品点数は1基当り1〜2万点あり、自動車産業に匹敵するすそ野の広さがある。また、着床式の基礎は、直径約8m、長さ役60m。地震災害等への備えを考慮すると、場所によっては重量1500トン〜2000トンの大規模設備になる。こうした大型の鋼材を輸入するよりは内製化することが望ましく、既存産業である製鉄、造船、鉄構などのを再活性化が期待される。
・足下では、JFEホールディングス、東芝(GEと提携)、住友電工、東レ、五洋建設、日立造船が製造・増産に乗り出しており、産業界も興味をもって少しずつ進みだしたのかなと考えている。


(5)洋上風力人材育成プログラム
・洋上風力は新しい取り組みで、設計・製造・運用に関わる人材育成が大きな課題となっている。
・英国では、洋上風力サプライチェーン全域において必要となるスキルの棚卸を実施している。我が国でも、洋上風力発電に必要なスキルの棚卸しを行い、スキル取得のための方策を産官学で連携して検討することとしており、文部科学省も加わり、工業専門学校などの教育プログラムを検討している。

5.JWPAのミッション・ビジョン・バリュー(2021年5月策定「行動指針」)
<ミッション> 『風力発電の普及・拡大を通じて、人々に安心で安定した暮らしを届け、持続可能な社会の実現を目指す。』

< ビジョン > 『脱炭素社会の実現に向け各界の知識、経験、総意を結集して、風力発電の最大限の導入、運用をリードする。風力発電を経済的に自立した主力電源にするとともに、国際的にも競争力のある風力発電産業を構築することを目指す。』

< バリュー > 『個社や個別の業界の短期的な利益に偏ることなく、長期的且つ国家的な視野に立って、風力エネルギーの利活用に必要 な施策、政策を、責任を持って実行していく。』


U. 主な質疑応答

Q:浮体式は欧州で中心的な技術となっているのか? 我が国では台風の影響が懸念されるが?
A:欧州では、遠浅の北海が中心で、商用化しているのは着床式。浮体式は実証実験の段階であるが、モノパイル(基礎)といった重量のある設備が不要でコスト面の優位性があることから、2025年に商用化を目指して技術開発が急速に進んでいる。台風の影響については、風と風車の連成測定を行い、風向きに応じてブレードの角度を変えることで凌げるとの実験結果が出ている。係留ポイントが流されてしまわないかという点については、これから実証実験をしていくこととなる。我が国は造船大国で技術ポテンシャルがあり、先行する欧州のデザインや実証実験の結果を応用することで、浮体式の技術開発は短期間で進んでいき、欧州をキャッチアップ可能と考えている。

Q:東日本大震災級の大型津波が発生した場合、浮体式に影響はないか?
A:技術的な詳細は承知していないが、津波は、沖合では大きなうねりで遠浅の海岸に近づき波の破壊力が増す。浮体式は沖合に設置するもので、例えばカナダ・ニューファンドランド沖といった大きなうねりが生ずる荒海において、石油掘削リグが影響なく稼働していることから、浮体式に対する津波の影響については懸念はないと聞いている。逆に、浅瀬に設置する着床式の方が波の影響を直接受けることとなるが、鹿島灘の海岸辺りの浅瀬に風車が数基設置されているが、東日本大震災による津波の影響は受けなかったので、着床式も津波の影響は懸念ないと聞いている。

Q:領海とEEZ双方の利用を想定しておられるが、基本は領海での利用と考えておられるのか? EEZまで拡げるとなると、テロ対策といったセキュリティ面が懸念されるが?
A:風力発電の利用にかかる法整備がなされているが、同法では領海利用を前提としている。EEZを利用する場合、関係諸国への通知など国際的な調整が必要となり、まだ利用できる環境は整っていない。しかしながら領海内では必要な電力確保に限界があり、EEZの利用は必要と考えている。浮体式については、2025年から実証実験を開始し2030年から本格稼働させるロードマップを策定しているが、そのタイムスケジュールに間に合うように環境整備をしてほしいと、内閣府に要望している。テロ対策については、検討未着手。

Q:グリーンリカバリーの観点で、関連産業の裾野の拡がりは、太陽光発電と比較しどの程度の規模感か?
A:太陽光発電への投資額は、パネル本体がほとんどを占め、関連産業は簡単な基礎工事と設置台の組立ぐらいしかない。洋上風力発電は一箇所で、30万〜50万KWの規模であり、2000億〜3000億円といわれている。その内、3分の1が風車への投資額。したがって建設工事だけみても、太陽光と規模感が違う。ナセル(増速機、発電機など)の部品点数は1〜2万点あり内製化に時間はかかると思うが、かつての自動車産業がそであったのように、最初は輸入品中心であっても、相応のマーケットが形成されれば国内部品メーカーが参入し内製化が本格化していくものと思われ、裾野の拡がりという側面でも、太陽光と比べ規模感が違う。

Q:洋上風力発電のような大規模プラントの場合、環境アセスメントが必要であり、観光地であれば景観の問題もあると思うが、着工するまでに時間がかかるのではないか?
A:設置個所は政府が予め候補地を指定し環境アセスメントを実施している。また、入札に当たっては、地域協議会を立ち上げ、事前に漁業調整や地域連携などの課題を協議し、協議が整った所から入札を実施するとの手順になっている。


Q:太陽光は、設置後20年で約2割が廃棄となるが、無秩序に参入を許したため、廃棄時にオーナーが代わっているケースが多々あり、公害対策の面で懸念がある。洋上風力は大規模な設備でオーナーが簡単に代わるということはないだろうし、有力な産業と期待されるものと考えるがどうか?
A:太陽光は、簡単に設置できるため普及し再エネ電力の拡大に貢献したが、そのため投機的に投資される側面もありオーナーも頻繫に代わるケースが多く、産業面から考えるとインフラとしての電力事業とはカテゴリーが違う。洋上風力は大規模な設備投資となるため、参入してくるのは発電事業者。加えて、参入の条件として、事業売却には国の承認が必要で、廃棄費用として建設費の7割相当を織り込んだ期間20年の事業計画を提出し適格性の審査を受けることとなっており、インフラとしての電力事業と位置づけられるものと考えている。

Q:洋上風力は大量の鋼材を使用するため、塩害に伴うメンテナンス費用が相当かかると思うが、費用対効果で経済面のバランスはとれるのか?
A:結論を申すと懸念はない。欧州で既に20年間の運用実績があり、塩害により想定を超えたコストが発生した事実はない。最近は塗装技術も進んでおり、海中のモノパイルには特殊な塗装を施すので、全面的に再塗装するようなケースは想定されず、欧州での実証結果を踏まえメンテナンスコストを見積もれば、その範囲を超える特殊なケースが発生する懸念はないと考えている。

Q:参入事業者は既存の発電事業者か? ベンチャーが新規参入に手を挙げるケースもあるのか?
A:国内で、陸上風力発電を手掛けていた事業者が興味を持ち参入に動いている。また、大手電力会社も、新規の火力発電所を建設できないため、それに代わるものとして参入を検討している。ただし、洋上風力は1箇所あたり数千億円の投資となり、国内でのノウハウも乏しいことから、海外で洋上風力を手掛けている海外発電事業者とパートナーシップ協定を締結し参入するケースが大層を占める。

文責:伊藤博通

講演資料:日本の風力発電の現状と将来展望
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介

2021年09月22日

EVFセミナー報告:「インフォデミックでフェイクな時代をどう生きるか」

演 題 : 「インフォデミックでフェイクな時代をどう生きるか」
〜ウイルスのパンデミックならぬ偽情報の感染・爆発〜

講師:小谷 賢 様

日本大学危機管理学部教授
Web視聴開始日:2021年9月22日(水)
聴講者数:57名

講師紹介
1996年 立命館大学国際関係学部卒業
1998年 京都大学大学院人間 ・ 環境学研究科修士課程修了、同博士後期課程進学
2000年 ロンドン大学キングス・カレッジ大学院修士課程修了。(指導教員はブライアン・ボンド、マイケル・ドックリル)
2004年 京都大学大学院人間 ・ 環境学研究科博士後期課程修了、博士(人間・環境学)学位論文『イギリス外交政策の源泉 : 1940-41年におけるイギリスの対日政策とインテリジェンス』
2004年 防衛庁防衛研究所戦史部教官
2008年 - 2009年 英国王立防衛安全保障研究所 (RUSI)(兼任)
2011年 防衛省戦史研究センター主任研究官、兼、防衛大学校講師
2016年 日本大学危機管理学部教授 (現職)
専門はインテリジェンス研究で、著書は『日英インテリジェンス戦史』他。 NHK「英雄たちの選択」レギュラーゲスト。


講演内容
1.ネット上における誤情報・偽情報の実態
・ネットの普及によって我々の生活は便利になってきた。ネットから日々の必要な情報を得ている。他方ネット上には多くの間違った情報やフェイクニュースがあふれている。どのように役立つ情報を見つけてくるかが大きな課題になっている。
・フェイクニュースの問題として多くの人がだまされ、情報で社会に混乱を招くケースがでてきている。最近では「マスクが品薄になる」「トイレットペーパーが無くなる」といった例がある。
・米国のスタンフォード大学の調査結果では、若者の特徴として「出典を確認して評価するという基本動作がなされていない、多くの人は元記事を読まずにニュースを拡散、拡散がインフォデミックを招く」と説明している。

2.情報とは
・そもそも情報とは三種類がある。
 シグナル:雑音・うわさ・デマ
  インフォメーション:データ・生の情報
  インテリジェンス:加工・分析された情報、諜報
・また誤情報と偽情報を正確に定義すると次のようになる。
  Mis-information 悪意のない誤った情報
  Dis-information 悪意のある情報。正誤が含まれる。政治的意図あり。
  Mal-information 悪意のある暴露情報。プロパガンダ。
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・「フェイクニュース」は曖昧な言葉で、できれば避けた方がよい。

3.国際間におけるフェイクニュースの実態
・国際政治学の専門家でさえ、よくフェイクニュースにだまされることがあり、情報操作が国際間でも大きな問題となっている。まさにインフォデミック(情報の感染爆発)の時代と言われるようになってきた。
・言葉だけで無く写真によるデマ情報もあり見極めが本当に難しい。
例1.オバマ大統領就任時にはワシントン広場に大勢の人が集まったがトランプの時には人はまばらであったとする写真は別の日に撮影したモノであった。
例2.福島に咲いた奇形の花の写真が世界中に拡散されたが、実はよくある自然現象で嘘の写真だった。
例3.ロシアの高官と北朝鮮のキムジョウンの握手の写真では表情が柔らかいキムジョウンの写真がロシアでは報道された(「ディープフェイク」)。友好性を国民に強調したいというロシア政府の意図があった。
例4.2016年6月のブレグジット選挙でEUの離脱が決定したが、選挙前の「英国はEUに毎週480億円者拠出金を支払っている」という間違った報道による影響が大きい。離脱が有利というように国民が印象づけられた。
・これらのフェイクニュースは「EUvsDisinfo」という真実を暴く組織により明らかになっている。
・情報が多すぎるために真実の情報を得ることが困難な時代。ともすると正確な情報よりも共感できる情報を求めることになってしまう。
・国際政治におけるインテリジェンスとは、外交・安全保障政策の判断のために収集、分析、評価された情報。
・情報にはPush型とPull型。本来は自分が必要になったときに取りに行くのが本来の姿。若い人ほどプッシュ型の影響が大。

4.ロシア・中国の情報操作の実態
・ロシアは偽情報を意図的に流すことにより相手国の国民をロシアに有利なように情報操作している。日本もそのターゲットになっている。中国による情報操作では田中上奏文(日本が中国を攻めれば日本が有利になるという元田中総理の文書)が一つの例。中国ではいまでも日本に不利になるようにこの文書が流布されている。
・ロシアは日本の一部マスコミと親密な関係。ロシアに有利な記事を書かせ日本国民を情報操作するということをやってきた。ロシアインターネットリサーチエージェンシーがフェイクニュースの源泉。この組織では一ヶ月に100のフェイクニュースを作って流すというノルマがあるという。
・このように偽情報と正しい情報を混在して流布させることにより武力を用いずに国際間の対立を煽ることにより相手国を弱体化できる。
例1.ウクライナ問題への介入に躊躇するEUに対して、ヌーランド米国国務次官補が「くそったれEU」と発言したことを盗聴していたロシアがYouTubeを使って拡散。欧米の関係が険悪になった。EUと米国の足並みが乱れた隙にロシアがクリミアに侵入。クリミア半島編入という結果になった。
例2.ヒラリー・クリントンはお金を貯め込んでいるといった悪い情報をロシアが流したためトランプとの選挙戦でかなり不利になったと言われている。
例3.2017年のフランス大統領選やドイツの連邦議会選挙等の欧米の選挙にもロシアが介入。ロシアに続き中国も2020年豪州の選挙、台湾総統選にも介入の疑惑がある。
例4.ファイザーのワクチンによってロシアで多数の死者という情報をロシアが流布。

5.フェイクニュースに対する国ごとの姿勢の違い
・ロシアや中国は自国に不利なニュースについては削除し、フェイクニュースを流した人を罰することも可能。フェイクニュースの拡散を取り締まることが出来る。
・一方欧米や日本は表現の自由が守られているためにフェイクニュースを取り締まることが出来ない。フェイクニュースを流した人を処罰する法律も無い。日本や欧米はフェイクニュースに非常に弱い状況にある。
・取り締まりにくい背景としては、フェイクニュースが正しい情報と間違った情報の両方を含んだSNS上のグレーゾーンにあり、そのグレーゾーンが広く漠然としていることによる。
・サイバー空間におけるディスインフォーメーションの位置は犯罪以上軍事以前のグレーゾーン。グレーゾーンが広くまた取り締まる規制が無い。そういった弱点をロシアや中国は突いてきている。
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6.我々はどうすべきなのか
・偽情報、意見、主観的情報、ファクトの区別を付ける。そのためには、「EUvsDisinfo」、「FactCheck.org」(米)、「ファクトチェック・イニシアティブ」(日)を活用してファクトチェックの必要。そして発信源の特定とネットリテラシーを高めることが重要。
・日本政府としてはたとえ取り締まりが出来なくともファクトチェックをしっかりと行うべき。
・結局個人の努力で自分を守らざるを得ない。その時の注意点としては、
情報にはきちんと最後まで目を通す
多面的に見る
事実と意見を区別しながら文章を読む
といったことが重要。
・またネットリテラシーを高めるためには、事実と意見を区別し多面的に思考する習慣を持つことが大切。


Q&A
Q1:マルインフォーメーションは具体的には女性週刊誌のゴシップのようなものか?
A1:マルインフォーメーションは全くのうそ。完全な創作。これとは異なり、偽情報は真実が含まれているので判断が困難なため要注意。

Q2:ファクトチェックの際にチェックするサイトそのものが間違っているという心配は無いか?
A2:ファクトチェックも間違えている可能性。いくつものサイトをチェックする必要。

Q3:インテリジェンスというとスパイ活動のような印象。日本政府のインテリジェンスはどうなっているのか?
A3:アメリカの情報機関ですら大量破壊兵器があったという誤った情報をトップに上げてイラク戦争が起こると言うことがあった。日本政府の方針としてはそういうダークな世界に近寄らない、秘密工作は行わないと言う方針を採用している。しかしそういった姿勢では今回のパンデミックのように何かあった場合適切な対策を取れず後手後手になるということがある。リスクを承知で情報収集をしていくべきと考える。

Q4:一時期トイレットペーパーが無くなった時があったが、台湾のオードリータンが「お尻は一つしか無い」「ユーモアが噂を超えるか駆逐する」と言ったという記事があった。本当にユーモアで噂を駆逐できるのか?
A4:トイレットペーパー不足という情報がスマホで大量に流れたりするとどうしても人はだまされてしまう。ユーモアでは噂を駆逐できないだろう。

Q5:スティーブジョブスが子どもにはスマホを持たせていないと聞いたが、小谷氏もスマホをお持ちで無いのか?
A5:私自身スマホを持っているがほとんど見ていない。情報を遮断している。自分の子どもにもスマホを持たせていない。情報の取捨選択が出来ない段階でスマホを持つべきでは無いと考えている。

Q6:ファクトチェックのためにAIのサポートを借りることが出来ないか?
A6:流れる情報量の方がAIの能力をうわまわっているのではないか。ロシアや中国は人海戦術で情報をチェックしているのが現状。

Q7:日本で全国紙の新聞が5、6紙ある。ファクトチェックという意味では2、3紙を購読せざるを得ないのか?
A7:2紙を購読すると言っても同じような傾向の朝日と毎日を購読するということでは意味が無い、朝日を取るなら産経というようにバランス良く情報収集の必要がある。

Q8:情報は多面的に判断すべきだが、どうすれば多面的に判断することが出来るのか?
A8:少なくとも反対のことを言っている情報を探すこと。何も反対意見が見つからなかったら本当という可能性が大。適切な情報収集に間違いはつきもの。自分で良い情報収集方法を見つけ出していくことが重要。

Q9:ネットの時代になって正しくない情報が多くなってきた。解決策は無いのか?
A9:時間がたてば誤情報は淘汰されていくはず。さほど心配はしなくても良いのではないか。

Q10:コロナについては多くの誤情報が流布している。全国民に影響を与えているという点では非常にまれな誤情報発生源といえるのではないか?
A10:老若男女すべての人が関心を持つという非常にまれなケースがコロナ。しかもやっかいなのは正しいことが分からないので偽情報が流布してしまうと言うケースといえよう。

Q11:データや真実の活用が重要との観点から言えば、送り手/受け手のエンド同士の直接対話を推し進めることもフェイク情報排除の良い方策ではないでしょうか?(例えばコロナ専門家/尾身氏による直接対話重視の若者たちとリモート対話)
PS,英雄たちの選択は、たいへん楽しく興味深く見ています。Choices shape the course of historyの副題も気にいっています。文字通り温故知新、日本再興の新な道筋を示しているように感じています。
A11.恐らく最大の問題は一般の国民はデータに基づいて判断する教育を受けたことがないという点。スマホの爆発的な普及がその傾向を加速している。他方「情報の発信者と受け手が直接やり取りを行うことで、デマの入る余地を少なくする」というのはその通りで、危機管理の分野ではリスク・コミュニケーションとして知られている。ただリスク・コミュニケーションは手間暇がかかり、参加できるのはごく少数の問題意識を持った人々に限定される。残りの大部分の人々をどのように啓発できるかどうかは、やはり教育の領域になってくるのではないか。あとはAI技術の進歩を待ち。デマやフェイクニュースを駆逐していくことが大切。
ps. 『英雄たちの選択』をいつもご視聴いただきましてありがとうございます。次の私の出演回は12月8日の予定で、太平洋戦争の開戦を扱っていきます。そこでもやはり情報が客観的に検討されない、ということが議題の一つになります。
文責:桑原 敏行
posted by EVF セミナー at 18:00| セミナー紹介

2021年08月26日

EVFセミナー報告:「自動車とエネルギー」〜燃費、各国制度、エネルギーを巡る状況など〜

演題:「自動車とエネルギー」
  〜燃費、各国制度、エネルギーを巡る状況など〜
講師: 江澤正名様
  経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー課長

Web視聴開始日:2021年8月26日(木)
聴講者数:61名

講師紹介

・1995年東京大学工学部卒、通産省入省。石油部 精製課 係長、2003年自動車課 課長補佐(環境・技術担当),2007年ワシントン大学公共政策大学院修了。
・2012年資源エネルギー庁 電力需給流通政策室長、2016年同庁 石炭課長、2018年同庁 新エネルギー課長、2019年同庁 省エネルギー課長、現在に至る。

講演概要

・世界は気候変動問題への取り組み姿勢を強め、主要各国は電気自動車(EV)の普及を急ぎ、急速に化石燃料を使用する自動車の販売を排除する気運にある。日本政府も2050年カーボン・ニュートラルの実現を掲げ、2030年代半ばに電動車100%を目指す方向を打ち出した。長年自動車行政に携わってきた講師には省エネルギー課長の立場にとどまらず、エネルギーから見ると自動車はどう見えてくるのか、この先わが国の電力構成の変化と、自動車業界は環境対応、省エネ対応をどうするのか、目指すべき方向についてご講演頂いた。
・2050年のカーボンニュートラル実現のポイントは、比重を増大させざるを得ない太陽光発電を使いこなせる見通しを持つことであり、そのためには電力需給の調整弁にも使える自動車のEV化が不可欠である。自動車産業の競争力強化と、2050年カーボンニュートラルを組み合わせ、これら二つを同時に進める戦略的思考の重要性が強調された。講演は大変分かりやすく、質疑応答も具体的で活発に行われ充実のセミナーとなった。

講演内容

T.自動車燃費の推移と燃費規制の変遷
・わが国の乗用車燃費基準は1999年に導入され、以来3回基準値の引上げがなされたが、いずれも前倒しで達成、国内メーカーの国際協力を高める結果となった。2030年度燃費基準は2016年実績値に比して32%の燃費向上の大よその平均数値例でいえば25、4km/Lと策定された。

U.主要各国の自動車の燃費規制等
・自動車の販売台数の多いEU、米国、中国の燃費規制等を日本と比較してみると、いずれもCO2排出規制はわが国より厳しい。EUと米国(カリフォルニア州等)は、排出規制を超過すると多額の罰金をかけ、一方EVを販売すると罰金が大幅に減額されるシステム。カリフォルニア州等ではEV専門メーカーのテスラがこの利益を享受し、トヨタなどが罰金を支払っている構図となる。中国は燃費規制に未達の新型車は型式認定が認められない。(詳細は資料7頁〜9頁参照)
・わが国よりも厳しい燃費基準や市場環境が世界標準となり、相対的に緩い日本の規制でガラパゴス化し、結果として日本の自動車メーカーの競争力が低下することが懸念される。

V.エネルギー供給の変化
・第5次エネルギー基本計画(2018年7月3日閣議決定)においても再生可能エネルギーの主力電源化を目指すことが明確化された。今後はさらに太陽光、風力発電の規模拡大が必要とされているが、気候、昼夜の出力変動をいかに調整できるかが大きなポイントとなる。
・近年、エネルギー需給構造に革新的な変化を及ぼす流れが生まれている。それは太陽光コストの急激な低下、デジタル技術の発展と電力システムの構造転換の可能性、小売り自由化など電力システム改革の展開、再エネを求める需要家とそれに応える動き等である。2年前から順次、FIT買取期間を終え安価な電源として活用できる太陽光電力が大量に出現しつつある。
・電気は発電量と使用量が常時拮抗している必要があり、近年、再エネ出力制御(発電抑制=接続拒否)が頻発している。発電抑制時の昼間の時間帯には電力価格が最安値(卸電力市場で0,01円/kWh)になるものの、その安い電力の活用がなされていないのが実情。

W.EVDP(ダイナミックプライシング)実証事業・VPP(バーチャルパワープラント)実証事業

1) EVDP(ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト)の実証
小売電気事業者が卸売電力価格に連動した時間別料金を設定(=ダイナミックプライシング)し、EVユーザーの充電ピークシフトを誘導する実証を実施中。⇒太陽光発電が盛んとなる日中に電力需要をシフトするために、各家庭のガレージにあるEVに充電してもらう。

2) VPP(バーチャルパワープラント)の概要
VPPとは、太陽光発電等の再生可能エネルギー発電設備や蓄電池等のエネルギー機器、系統上に散在するエネルギーリソースを遠隔に制御し、電力消費量や発電量を増減させ、それらを束ねることで発電所のような電力創出・調整機能を仮想的に構成したものをいう。この需給バランスサービスの仲介を行う司令塔役をアグリゲーターと称する。

3) EVDP及びVPPの意義:再生可能エネルギーの導入拡大
近年の再生可能エネルギーの急速な導入拡大に伴い、自然変動電源(太陽光・風力)の出力変動が系統安定に影響を及ぼしており、これを吸収するための調整力の確保が喫緊の課題。そこで、EVDP及びVPPは再生可能エネルギーの供給過剰を吸収することで再エネの導入拡大に貢献することが大いに期待される。

4) エネルギーシステムとEVの融和
将来EVの普及が拡大して従来通り充電時間を自由とすると時間帯別に充電ピークが発生し、電力系統に悪影響を及ぼす可能性があるが、エネルギーシステムと連携することによりその課題は回避しうる。またEVは非常時の供給源としての価値、蓄エネ価値、また電力系統の需給調整機能の価値等、多様な価値を創出することにもつながる。

X.蓄電池としてのEV
・近年普及し始めている家庭用蓄電池は容量が7kWhと小さいが、EVに搭載されているバッテリーは大容量(40kWh)で且つ、バッテリー価格としては価格が割安である。EVの日中在宅率は70%との調査があり、昼間に太陽光発電を蓄電する大容量の”走る蓄電池”として有効に活用することが期待される。
・家庭用蓄電システムの自律的導入拡大を実現するため、目標価格を設定しそれを下回った蓄電システムに対しての支援制度がある。年々目標価格を低下させているのに対して、市場価格が追随して下落してきている。
・再エネを活用するためには、蓄電機能とモビリティ機能を有する電気自動車の最大限の活用が必要。すなわち、太陽光発電の余剰電力をEVの充電に活用し、蓄電したEVから家庭に給電できるシステムの構築が望まれる。
・2019年9月に千葉県で発生した強力台風被害による長期間の停電では、自動車メーカーが被災地にEVを派遣、給電することにより大きな貢献をした。非常時に電動車から給電できることが広く認識されていないというそもそもの課題も存在。

Y.まとめ
・EVの普及は燃費の向上と大容量電池として大きな付加価値を生む。そのためにはEVが電力システムに貢献出来るようにすることが必要。一方、わが国自動車メーカーは各国の厳しい規制、EV普及促進策に積極果敢に挑戦して競争力を維持して欲しい。「自動車産業の競争力強化」と「2050年度カーボンニュートラル」を同時に進める戦略が必要である。
・将来のクルマ
クルマ好きな講師が最後に私見として将来の車として次の車を挙げた。BEV:バッテリーで動く電気自動車、PHEV:プラグインハイブリッド車、HEV(シリーズ):エンジンは専ら発電機として機能し、駆動はすべてモーターが行うハイブリッド車。

(主な質疑応答)

Q1:“ゆがんだ市場も市場だ”とのこと、EUや中国のEV促進策はガソリンエンジン車の牙城である日本を引きずりおろそうとの作戦が隠れていないだろうか。
回答) そういう懸念も考えられるが各国の規制にイヤイヤ合わせてゆくとある時、後れをとってドラスチックに負ける。先んじて行く方が戦略としては正しいと考える。

Q2: EV化が必要なのはわかった。私は最近900世帯のマンション群から地方都市の90世帯のマンションに移住した。前のマンションにはEVは1台も見当たらず、今のマンションには充電設備が1台分しかない。駐車場に充電設備がないとEVは普及しない。
回答)私は住宅の省エネルギーにも関与している。マンションにはEVの充電設備のほか、省エネルギー向け給湯器の普及も大事であり、いいご指摘だ。

Q3:前の質問と重複するかもしないが、EVは価格が高いこともあって必ずしも日本では盛り上がっていない。日本市場をガラパゴス化しないためこれから欧米並みに規制を強め、強制的にEV化を進めようというお考えでしょうか。
回答) 日本も2035年に電動車100パーセンと言っているので、何らかの形でEV化する方向にはある。それをどのように実現してゆくべきかが思案のしどころである。確かにEV 普及のカギは価格で、搭載するバッテリーの価格の動向次第だとの見方があるが、バッテリーの製造は今や自動車メーカの自社開発ではない。ハイブッドに強い日本メーカーの技術をもってすればEUなどにはに負けない。米国のEV専門メーカのテスラの車を見て”これなら負けない”と言ううちにEV化を進めた方がいい。出遅れると追いつけなくなるという懸念もある。

Q4: ヨーロッパではハイブリッド車が少ない。日本のハイブリッド車を排除しているのではなかろうか。
回答) 走行モードの違いだろう。ハイブリッドはストップ&ゴー、頻繁に加減速のある日本の街中のような走行がハイブリッド車の強み。またヨーロッパ車のエンジンンの燃費も向上しているという事情もある。

Q5:バイオマス発電は FIT制度への適合はパーム油しかない。他の植物の油も認めていただく方向にあるが、パーム油以外のバイオマス発電にも力を入れて欲しい。
回答)バイオマス発電は電力供給の調整力があるので大事と思っている。非化石燃料の中で、EVを活用すれば太陽光発電が特に使いやすいということだ。

ところで中国がなぜEVにシフトするかと言えば、国内に石炭資源が豊富なため、石油など海外資源に依存せずに国内資源だけで発電でき、それでEVを動かそうとしているのではないか。ほかにノルウエーなどは水力が豊富なため水力で発電し、EVを動かそうとしている。各国の自動車政策はCO2ゼロという視点だけではないことに留意すべきだ。

Q6:EVが増えるとエンジンが不要になる。エンジン回りにいる業界の多くの雇用が失われることが心配だ。
回答)既存産業の雇用を維持するために競争力強化から目をそらすということは負けのシナリオになってしまう。そうするとある日突然、雇用が無くなる時が来る。そういうことがないように少しづつ準備していくのが大事ではないか。

Q7:日本には7,000万台の乗用車があると言われているが、これらがEVに置き換われば、時間帯によって生じる余剰電力を吸収できるか。
回答)太陽光で日中発生する余剰電力を吸収する力として、電動車の瞬時にためる蓄電能力に大いに期待しているところだ。

Q8:マンション居住者のEV充電のために、居住地区近隣のガソリンスタンドを2030年に間に合う期間に十分な量の充電ステーションに切り替えるという考えは如何でしょうか。
回答)ガソリンスタンドにおける充電設備の設置も一つの考え方ではあるが、急速充電であっても充電にかかる時間は数十分程度と長く、多数のEVがステーションに集中してしまう等、課題も多い。マンションにおける充電設備の設置なども含め、どのような充電設備の整備が必要になるかは重要な論点だ。
文責:佐藤孝靖

講演資料:自動車とエネルギー〜燃費、各国制度、エネルギーを巡る状況など〜
posted by EVF セミナー at 18:00| セミナー紹介

2021年07月21日

EVFセミナー報告:「進む各国のガソリン自動車の販売規制 〜我が国自動車産業の課題と対応〜」

演題:「進む各国のガソリン自動車の販売規制 〜我が国自動車産業の課題と対応〜」
講師:NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)理事・主席研究員 水戸部 啓一様

Web視聴開始日:2021年7月21日(水)
聴講者数:53名
報告担当: 正会員 橋本 升

講師紹介
・(株)本田技研研究所にて商品開発プロジェクト、技術研究、商品企画室マネージャーを経て、本田技研工業(株)環境安全企画室長、経営企画部長
・2010年に退職後、神奈川工科大学非常勤講師、専修大学兼任講師、専修大学社会科学研究所客員研究員を経て、現在、(NPO)国際環境経済研究所理事・主席研究員、早稲田大学自動車部品産業研究所招聘研究員などに就任。

講演の概要

・昨年、気候変動問題への取り組み気運の国際的な高まりから、英国やカナダ、米国などから相次いで2030年代に化石燃料を使用する自動車の販売を禁止する方針が打ち出された。 また日本政府も昨年10月に2050年カーボン・ニュートラルの実現を掲げ、2030年代半ばに電動車xEV(注)100%を目指すとしている。
・一方で、ガソリンエンジンなど内燃機関車からバッテリー電気自動車などへの転換はエネルギーの低炭素化や資源、そして消費者の意識改革など普及のための様々な課題を持っている。また急激な変化は自動車産業のみならず日本経済への影響も極めて大きい。 
・これらの課題を踏まえて日本の自動車産業の行方についてご講演をいただいた。

(注):本報告中にある電動車に関わる用語をまとめておく。
ICE(Internal Combustion Engine):内燃機関。ガソリンやディーゼルエンジン等。
BEV(Battery Electric Vehicle):バッテリー電気自動車。一般的に言う電気自動車/EV。
HEV(Hybrid Electric Vehicle):ハイブリッド車。
PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle):プラグイン・ハイブリッド車。
FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle):燃料電池自動車。
PEV(Plug-in Electric Vehicle):プラグイン車。BEVやPHEVなど外部から充電可能な車
xEV(Electrified Vehicle):電動車。電動化された車(HEV,PHEV,BEV,FCEV)の総称。
ZEV(Zero Emission Vehicle)、ZEV規制:米国カリフォルニア州。
ZEV(BEV,FCEV等)を主要メーカーに一定割合の販売義務付け。
NEV(New Energy Vehicle/新能源車)、NEV規制:中国。
NEV(BEV,PHEV,FCEV)を生産(輸入)事業者に一定割合の生産(輸入)義務付け。

T.主要各国のICE車規制等の動向

T-1)電動車両を巡る動きとEVシフト

気候変動問題が顕在化した1992年に気候変動枠組み条約が採択され各国の重要な課題となった。2008年の洞爺湖サミットに報告されたIEAの2050年2℃の技術シナリオでは、自動車は2050年までに90%以上が電動化される必要があるとされ、自動車企業や各国の政策担当者に大きな方向を示した。
電動車両を巡っては、米国カリフォルニア州が大気汚染問題から1990年にZEV法を制定してBEVやFCEVの実用化を促し、2012年には2018年以降のZEV拡大の枠組みが定まった。同年、中国は自動車産業政策の柱としてNEV規制案を発表し、電動化に重点を置いた。それらの情勢に加え、2015年にドイツVolkswagenのディーゼル排気ガス不正認証問題が発覚し、それを契機に欧州メーカー各社は気候変動対策として電動化戦略を打ち出し、電動シフトは大きなテーマとなった。

T-2)主要各国のICE車規制等の動向

2015年に主要排出国を含む世界のすべての国が参加するパリ協定が成立した。パリ協定では自国の目標を提出し管理するプレッジ&レビュー方式がとられ、長期目標として世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃以下に保つとともに、1.5℃に抑える努力をするとなった。2018年にIPCCは「1.5℃特別報告書」で、1.5℃以下に抑えるモデルではCO2排出量が2050年頃には正味ゼロに達するとの結果を示した。それ以降、EUや主要国で「カーボン・ニュートラル」宣言が相次いでいる。それらの影響から、ガソリンやディーゼルなどの化石燃料を使用するICE車から、CO2や大気汚染物質を排出しないZEVへの転換が各国政府の重要な政策課題となった。世界におけるICE車規制や強化の動きを以下に概観する。尚、各国のICE車販売規制方針は発表のみで、法的な枠組みは今後検討される。
(フランス)2017年:2040年から化石燃料車販売禁止方針を公表。
(英国)2017年:2040年からガソリン・ディーゼル車の販売禁止方針を公表。2020年:2030年(PHEVは2035年)に時期を前倒しとすると発表。
(米国)2020年:米カリフォルニア州知事は2035年に全てのLDV(light-Duty Vehicle:乗用車相当)をZEVとすることを要求するよう州政府に指示。
(カナダ)2020年:ケベック州は2035年にガソリン車新車販売禁止する計画を発表。
(中国)2020年:中国NEV規制改正。2021年以降のNEV比率アップと低燃費車を新設。2035年に環境対応車(NEVと低燃費車)で100%とする目標を発表。
(日本)2020年:経産省は、2030年代半ばに電動車(xEV)100%を目標とすると発表。

U.プラグイン車PEV(BEV+PHEV)の現状

U-1)世界の新車販売とPEVの状況

世界の新車販売台数は2017年に9千6百万台を超えたが、その後中国市場の低迷と、2020年にはコロナパンデミックの影響で8千万台を下回った。PEVの販売は全体市場が落ち込む中で成長を続け、PEV販売比率は4%を超えてきた。2020年のPEVの販売台数は312万台で、BEVが7割、PHEVは3割となっている。欧州が137万台、中国が127万台とこの2地域で世界全体の85%ほどを占めるが、それまでPEVのけん引役の中国が減速し、パンデミックの経済対策による補助金を増額した欧州が急速な成長を遂げている。

U-2)PEVの新車攻勢と中国市場低価格EVの躍進

 世界におけるPEVのモデル別の販売状況は2018年から2020年では大きく変化し、半数以上が2018年以降発売の新型車となった。特に中国や欧州で小型のBEVが伸びている。中国市場では基本モデルで約45万円の低価格な超小型EVが2021年上期のトップとなった。大都市のナンバープレート発給規制の優遇を受けられることが一要因。一方で欧州、特にドイツでは経済対策で補助金を上積みした結果で小型クラスのBEV購入が増えたと言われており、低価格のニーズは高い。

V.ICE車販売禁止政策の課題

V-1)気候変動対策としての実効性

ICE車を禁止し、BEVに転換すればCO2の排出をゼロにすることができるということでは無い。GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)の排出を製造から使用、廃棄までのライフサイクル全ての段階で削減されなければ実効性のある対策には繋がらない。
総合的なエネルギーの評価としてWell to Wheel(油井から車のホイールまでの意味)で見た場合、2015年のデータでは、中国、インド等の石炭火力発電の多い国で使われるBEVはHEVよりCO2排出が多い結果となる、一方で水力発電がほとんどを占めるノルウェーや原子力発電が主力のフランスでは5g-CO2/km以下とほぼゼロとなる。
車のライフサイクルの全てで発生するGHGの評価(LCA)では、リチウムイオン電池の製造に、大きなエネルギーを要することから、大容量の電池を搭載したBEVは、発電のCO2排出が多い場合にHEVやPHEVと比べてGHGの排出は多くなることがある。
Well to WheelでもLCAで見ても発電の低炭素化はBEVの気候変動対策の実効性を高める上で必須であり、電動車政策の中に含まれるべきである。

V-2)BEV普及の技術課題

BEVは走行時にCO2の排出ガスがゼロ、自宅でも充電可能、充電コストが安いなど優れた特徴がある反面、充電にかかる時間が長く、一回の充電で走れる距離が短く、また価格が高いと言う問題がある。その為に普及がなかなか進まず、各国政府は補助金などの優遇処置や充電スタンドの増設を進めている。BEVには高性能なリチウムイオン電池が用いられているが、材料にリチウムやコバルト、ニッケルなどの高価なレアメタルを用いることなどからコストが高く、性能や安全性などを満たした車はICE車の同級車に比べて100万円以上価格が高くなっている。

1)リチウムイオン電池のコスト

BEVの車載用リチウム電池の性能向上とコスト低減は大きな課題であり、各国が戦略的に研究を進めている。ガソリン車同等の性能と車両価格を狙う革新的電池の研究と並行して、現状のリチウムイオン電池の改良や先進的電池の開発が進められている。コストの目標は2020年代初めにおよそ100USD/kWhを目指している。また従来の2倍以上の性能と安全性を持つ全固体電池の研究が進んでおり、トヨタは2020年代の早い時期に実用化する計画である。

2)リチウムイオン電池と資源問題

BEVの普及拡大に必要なリチウムイオン電池の確保も大きな課題である。リチウムイオン電池に使われるリチウムやコバルト、ニッケルなどは資源量が限られており、また生産増加にも多額の投資が必要となる。現在、300万台レベルのBEVが仮に2030年に新車販売の30%の2650万台くらいになるとすると、電池は1640GWh/年が必要と推計され、リチウム、コバルトの需要は現在の生産量の数倍となる。これらの生産拡大には資源の埋蔵量や偏在化など様々な課題があり、既に囲い込みも始まっている。
因みに、リチウム、コバルトの埋蔵量、生産量は下表の通り。(表1)
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一方、リチウムイオン電池製造時のGHG排出でもニッケル、マンガン、コバルトなどが主な要因となっており、材料の見直しによるこれらの使用削減やリサイクルも重要である。
EU委員会は「バッテリー規制改正案」を2020年に発表している。主な内容を下記に示す。
・ライフサイクル全体でのカーボン・フットプリント上限値導入(2027年〜)
・コバルト等再利用材の使用量の開示(2027年〜)
・再利用材使用割合の最低値導入(2030年〜)

3)BEV普及のための充電インフラ整備

充電インフラの整備は未だ充分ではなく、特に急速充電が可能なスタンドの数は日本でもガソリンスタンドに比べ3分の1程度。またマンション等では普通充電スタンドの設置も進んでいない。今後、日本政府はガソリンスタンド並みの利便性を確保することを目標にインフラ整備を進める計画である。また欧州でも充電インフラの不足や一部の国に偏っているなど、汎欧的な改善が必要となっており、各国政府も対策を進めるとしている。
(注):現在の各国の充電スタンド数(普通/急速)を下表に示す(2017年)。(表2)
table2.jpg

V-3)消費者の選択

電動車が普及するか否かは、最終的には消費者の選択による。特にBEVについては従来の車と比べて、価格が高い、1回の充電で走れる距離が短い、充電時間がかかるなど利便性が低い、また電池の交換費用が高く中古車価格が安いといった消費者の懸念が強く、販売は低迷している。一方でHEVは市場の3割を超えるなど普及が進んでいるが、その大きな要因は減税などの優遇策と燃費基準、メーカー努力によるHEV車のモデル数増加があげられる。消費者は選択肢が増えることでHEVを選ぶ機会が多くなった。BEVの場合は補助金や充電スタンドの増設などで抵抗感は少しずつ改善されてきたが、まだモデル数は少ない。今後、メーカー各社は中国、欧州を中心に多くのモデルを投入するとアナウンスしている。
消費者の(従来車に比べて) BEV購入のブレーキになっている要因と、それぞれの改善状況を下表にまとめた。(表3)
table3.jpg

V-4)販売規制のありかた

ICE車の販売規制を表明した国や地域において、まだその法的な枠組みは決まっていない。
法制化の検討は今後進むが、それに伴う以下のリスクを充分に考慮し、経済や産業競争力等を加味した制度設計を行う必要がある。
@過剰な規制によるメーカーの経済的リスクが大きい。
A消費意欲低下による販売減は経済に大きな影響

1)販売規制の方法

販売規制は自由な経済活動に制約を与えるものであり、制度設計には注意が必要である。これまでの販売規制に類似する規制では、主としてメーカーを対象とした規制が多い。しかし消費者が購入しなければ規制は実効性に欠けることから、消費者には優遇などの誘導策が合わせて用いられている。以下にその例を示す。
@ 販売規制:対象=メーカー・・消費者の選択に委ねられ確実に売れる保証はない。
・米カリフォルニア州ZEV規制
・米国、欧州などの燃費規制
A 生産または輸入規制:対象=メーカー・・売れなかった生産車はメーカー在庫となる。
・中国NEV規制
B 間接規制:対象=個人
・中国その他の都市部乗り入れ規制、ナンバー発行規制など
・欧州、日本など税の重課、軽課
・燃料税、揮発油税などの重課
・CO2課税
C 優遇政策による誘導
規制の方法は@〜Bの組み合わせの可能性があるが、2030年代半ばまでの限られた時間を考えれば強力な優遇措置の継続と政策の柔軟な運用が必須である。

2)主要メーカーの電動化計画

主要各社はICE車規制の潮流の中で電動化への対応を発表しているが、それぞれの戦略に応じた内容となっている。コアとなる電池についてはGMやVolkswagen Groupなど欧米各社は電池の生産に重点投資を行う計画で、日本メーカーは各地域の電池メーカーとのパートナーシップを進めているが、懸念もある。その為に、日本も資源確保やリサイクルなどを進める「電池サプライチェーン協議会」を2020年に設立した。
(GM)2035年までに、すべての新車をZEVにする。今後5年間で、電動車と自動運転車に270億ドルを投資。バッテリー新工場(米国テネシー州)に23億ドルを投資
(Ford)欧州で販売する乗用車を2025年までにPEV、2030年にBEV100%電動化への投資額を2025年までに、300億ドル以上に増やす。EV向けバッテリーの開発・生産を目指す。
(VWG)2030年までに、グループ全体で約70車種の新型BEVと約60車種の新型HEV・PHEVを、市場に投入する予定。
電動化などの次世代技術への投資を約730億ユーロに増額。
・電池工場を6カ所建設、合計240GWh
・欧州全体に350kW急速充電ステーション網を25年に20年比5倍に拡大
(トヨタ)グローバルで2030年電動車800万台、内BEV+FCEV200万台
    電池はパナソニックと合弁、中国でCATLとパートナーシップ、BYDと業務提携。
(ホンダ) 先進国全体でのEV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年に80%、2040年には、グローバルで100%。
電池は中国でCATLと包括的アライアンス提携、米国でGMと共同開発。
(日産)2030年代早期に世界主要市場で販売するすべての新型車を電動車。
    Envision AESCと共同で英国、日本に電池工場新設

3)カーボンフリー燃料・水素とe-Fuelの動向

CO2を排出しない燃料として、再生可能エネルギーから作った水素や、回収したCO2と水素から作る合成燃料(e-Fuel)の研究が進んでいる。水素はFCEVに用いられるが、各国政府は太陽光などの変動電源のエネルギー貯留・輸送手段としての検討を進めている。一方で、ICE車に利用可能なe-Fuelはドイツを中心に研究が進んでいるが、日本もCCUS(Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage)/カーボンリサイクル燃料として研究が着手された。

W.ICE車禁止と日本の自動車産業への影響

W-1) 日本の自動車市場の現状と日本政府の目標

1)全体需要は2020年を除き横ばい傾向(概略500万台/年)の中で、PEVの販売は2017年約5万4千台をピーク(日産Leafのモデルチェンジ時期と重なる)に2020年で3万台弱と減少傾向。ランキングは、日産Leaf、トヨタPrius PHV、三菱Outlander PHEVの順。

2)日本政府の目標:政府は2050年温室効果ガス8割削減、乗用車は100%電動車の目標を掲げていたが、カーボン・ニュートラル宣言を受け、2021年6月の「グリーン成長戦略」で、2035年までに乗用車新車販売で電動車100%を目指すとした。2019年実績では、151万台(35.2%)。

3)電動車普及促進策
電動車の普及促進策としては、購入のインセンティブとして補助金や減税、また利便性を高める充電や水素充填スタンドの整備費用の補助もが行われてきている。補助金は国や地方自治体などが行っており、年度で変わるが、2021年度のCEV(Clean Energy Vehicle)補助金はBEVで一充電走行距離に応じて最大42万円、PHEVでは最大20万円となっている。

W-2) 日本の自動車メーカーへの影響への影響

 日本の自動車産業は全製造業の製品出荷額の18.8%で設備投資額や研究開発費も2割を超える基幹産業である。また世界生産のおよそ2割が日系ブランドで占めるグローバルビジネスを展開しており、世界各地域の販売規制の行方は大きな影響がある。以下でその影響について検証する。

1)BEV生産に伴う自動車工場への影響
  現生産工場でBEVとエンジン車の混流生産は可能である。エンジンやトランスミッションの鋳造や加工などを行ってきたパワープラント工場は設備や工程が変わるが、完成車工場は大きく変わらない。

2)BEVと企業収益の変化
BEV化に伴い、現在内製されているエンジンやトランスミッションの製造コストに比し、リチウム電池のコストが大きい。電池が外部からの購入品となると製造原価に占める購入部品費の割合が増加し、これらによって自動車製造会社の付加価値減少と原価管理の主導権が弱体化することが懸念される。

3)日本のZEV(BEV,FCEV)生産と輸出に伴う影響
 日本の自動車メーカーや部品メーカーに影響を与えるICE車の生産は、国内のZEVと輸出のICE車の規制を宣言した地域や国のZEV台数を推計すると、2035年頃にはBEVやFCEVのZEVが36%で、ICE搭載車(HEV、PHEV含む)は64%となる。従ってICE車からZEVへの切り替えは断層的でなく暫時進むことになる。尚、EUへの輸出はLCAや国境炭素調整などのGHG排出規制動向に注意が必要。

W-3)部品産業への影響

BEV化に伴い、エンジン関連や駆動系部品などを中心に自動車部品産業の製品出荷額の影響は約3割と見込まれる。特に事業影響が大きいのは、それらの関連メーカーやTeir2以下の専業メーカーで、切り替えが進む今後十数年のうちに事業の構造転換を進める必要がある。また海外生産向けの部品輸出はZEV規制国向けに影響がある一方で、拡大が見込まれる進展国へのICEの部品輸出は当面堅調に推移する見込みである。

W-4) 車載用リチウムイオン電池産業の課題

BEVなど電動車両のコア技術である車載用リチウムイオン電池は日本メーカーがトップシェアを占めていたが、現在では中国及び韓国企業にリードを許している。その要因は、BEV市場の拡大が見通せない中、大型投資を控えてきた日本企業に対し、中国政府の電動化政策に沿って積極的な投資を行った中国企業や韓国企業がコストで優位になったことにある。同時に電池素材も日本企業からコストが圧倒的に安い中国企業へシフトしている。しかし、EUのLCAや国境炭素調整にみられるように今後のブロック化の進展を考えると、コストの大きな電池の日本生産は重要である。既にリチウムやコバルトなどのレアメタルも中国のシェアが高まる中、日本も電池サプライチェーン協議会を設立したが、早急に実効のある取り組みが必要である。


X.まとめ

パリ協定の努力目標1.5℃への議論が進む中、EUや米国、日本など主要国では2050年カーボン・ニュートラルが重要な政策となってきた。英国の2030年ICE車販売規制発表にみられるようにEUの政策はトップダウン・アプローチが取られることが多い。しかし、気候変動対策としては、フランスやノルウェーのような発電時のCO2排出が極めて少ない国を除くと、現時点ではライフサイクルの排出でBEVが優れているとは言い難い。トップダウン・アプローチではそのギャップを埋めることが必要であり、気候変動対策としての今後の当局の手腕が問われている。また実施状況に応じて、実効性や課題に柔軟に政策を運用することが必要である。
一方で、日本の自動車産業は国内における基幹産業であり、またこれまでグローバルビジネスでの高い競争力を有してきた。中国のNEV規制や欧米のICE車規制への対応は個々の日本企業の大きな課題だが、日本の自動車産業としての競争力をどう維持し高めるかは日本の政策者が考慮すべきことである。気候変動対策には様々な手段とパスがあり、実効性と実現性のその最適化を図るとともに、日本の自動車産業が優位であった産業基盤を時代の転換に合わせて強化する必要がある。世界のブロック化が進む中で、リチウムイオン電池や制御半導体などコアとなる技術の開発と生産を国内で進めるためには、大型生産投資などのリスクを取る経営環境も必要になる。これまで日本は太陽光パネルや半導体、リチウムイオン電池など世界のトップシェアを持つ多くのリーディング技術で、資金の逐次投入などから徐々にシェアを落としてきた。日本にはリスクがとれる社会的な変革が求められる。

Q&A

Q1:電動車化や自動運転などが進むと,開発資源不足の問題がでてこないか?
A1:開発資源はクリチカルで大きなテーマ。システムを変える必要がある。これからは自動運転などでソフトウェアがさらに重要になる。ソフトウェア開発の仕組みを変えることと、ハード開発に外の資源をどのように活用するか等大きな課題で、開発資源の組みなおしが行われている。

Q2: e-fuelが開発されたとして各国政府の政策への影響対応は?
A2: e-fuelは電動化の難しい航空機や船舶などの利用に注目している。まだコストが非常に高く実用化までには時間がかかる。自動車については政策的に様子見の状況と思われる。

Q3: 経産省が、EV100%計画を2030年半ばに前に前倒してにもってきたが、どういう流れがあったのか?
A3: 2050年電動車100%というのも、経産省と自動車業界の検討会の中でしては温暖化対策目標から導かれた緩い目標だったが、カーボンニュートラル100%の政府方針を受けて経産省が自動車業界へ前倒しを要請したものと思われる。電動車両はHEVHybridを含む。EV電動車両100%目標の中で、軽自動車のHEV化は難しい課題。

Q4: 軽自動車のBEV化は成立するか?
A4: 日産とホンダは考えているとの話。中国で超小型低価格BEVが出てきてナンバー規制などもあり売れている。ドイツは長距離を大型車に任せ、の小型のBEVは毎日の通勤用に補助金も増えたのでという選択だと言われている。日本でも我が家に2台あればの1台は小型BEVも成立する可能性がある。但し価格が安くないと難しい。

Q5: 中国の動きと日本の対応は?
A5: 中国の自動車産業発展計画の目標の一つは電動化。輸出競争力とコア技術として電池を固めていく。資源も押さえる。リチウムやコバルトなどの精製も中国がトップ。VWは中国がマーケット。ドイツと中国は密接。日本も中国市場のシェアが大きい。日本はこの両方で成り立っているが、米中関係次第ではどちらかにシフトすることになる。

以上
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2021年06月24日

EVFセミナー報告:コロナ禍を克服した中国の現状と緊張高まる欧米関係

演 題:「コロナ禍を克服した中国の現状と緊張高まる欧米関係〜日本はどう対処すべきか〜 」 
講 師: 結城事務所主宰 結城 隆 様

Web視聴開始日:2021年6月24日(木)
視聴者数:55名
報告担当:EVF理事 奥野 政博
講師紹介:
・一橋大学経済学部卒業。金融、製造業、流通業で40年間にわたって調査・企画・新規事業立ち上げを経験。ロンドン、パリ、ニューヨーク、北京に都合16年間在住。
・グローバルな視点と虫の目で中国ビジネスを見て、著作、講演活動を幅広く行っている。趣味は料理。
・荒井商事株式会社非常勤顧問、柿沼技研株式会社取締役、柿沼五金(清遠)零部件有限公司薫事、北京如水滙科技有限公司副総理。

1.講演概要
マクロの数字を見る限り、中国はコロナ禍を完全に克服したといえる。それを象徴するのが5月1日から始まった労働節連休中の消費爆発で、耐久消費財の売れ行きも好調だ。その一方、新疆ウイグル、香港、台湾を巡ってアメリカやEUとの緊張感も高まっている。経済政策においてバイデン政権は、トランプ政権同様に対中強硬策を継続するように見え、「競争(経済・産業)、協調(環境)、敵対(人権・民主主義)」のキーワードがバイデン政権の対中政策の基本のようだが、コロナ禍克服で自信を深める中国が欧米の圧力に屈する気配はない。半導体にみられるグローバルサプライチェーンからの「中国外し」にも中国は自前主義で対抗しようとしている。政治問題については「ノーコメント」を貫いている日本企業が錯綜する地政学上の新たな緊張の中、どう対応すればよいのか5部(中国の新型コロナ制圧状況、コロナ禍の爪痕、中国の経済状況(消費爆発)、米中関係の三次元方程式(競争、敵対、協調の3つのキーワード)、グローバル・ジャパン戦略)の項目について沢山の最新データを示しながら1時間20分にわたってご講演を頂きました。

2.講演内容
(1)中国の新型コロナ制圧状況
・中国の今の感染状況は、感染者数が一日あたり全国で一桁台にまで落ち着いて来ていたが、広州市(人口:1,500万人)では5月以降1日あたり6〜7名の感染者が確認され、全市民対象にPCR検査が実施された。陽性者が発見されると即隔離され、地元衛生局や政府関係者の信賞必罰が徹底される厳しい政府の対応が採られている。
・大都市では一日あたり最低50万人のPCR検査実施体制が構築され、検査スタッフも地元+省内+省外の3層体制で支援されている。雲南省では3月に数10名の新規感染者が発見されたが、武漢から検査車両と検査スタッフが即送り込まれ、数10万人規模のPCR検査が行われた。
・6月7日時点での累積感染者数は114,707人で累積死者数は5,132人と国家健康衛生委員会から発表され、本土の感染者数は1桁台で推移している。
・中国のワクチン接種状況は、今年の1月以降一般の人たちにワクチン接種を開始し、6月7日時点で7.6億回、1日あたりの接種回数は2千万回にスピードアップされて日本のレベルを遙かに上回っている。ワクチンもフル生産されて海外各地へ約7億回分くらい輸出し、COVAXに基づく途上国へ約2千万回の無償供与が行われている。主な輸出先は中南米、アジア・太平洋で、アジア諸国(インドネシア、ラオス、カンボジア)には2億回分以上のワクチンが輸出されている。

(2)コロナ禍の爪痕
・コロナによる経済回復度合いが地域・国によってまちまちで、ワクチン接種が進む先進国、特に中国がトップでアメリカ、ヨーロッパがこれに続き、低所得発展途上国の回復が遅れる傾向にある。
・巨額なコロナ対策費用が各国で給付金支給などで財政赤字が急拡大している。EUでは、財政赤字がGDPの約9割まで高まり約7千億ユーロ弱の復興財政支援枠が設定され、そのうち約半分が贈与で、そのほか多国籍金融支援枠として1.8兆ユーロが設定され、その配分を巡る加盟国間の駆け引きが激しくなっている。
・EU以上にアメリカの財政赤字が高まり、トランプ政権とバイデン政権の2年間でコロナ対策予算が13兆ドルに達し、財政赤字は両年とも2019年の30倍に急増している。一方、雇用回復は頭打ちで一人あたり1400ドルの個人給付金もあり、中々労働市場に戻って来ない状況と、過剰流動性により株価が高騰し、中国からの輸入増により経常収支赤字が拡大している。
・日本の財政赤字も急速に拡大し、2020年にはGDPの約70%に達し、GDP比は敗戦の年を上回っている。
・ポストコロナの世界での注目点として、政府の巨額財政赤字拡大、環境対策、デジタル経済によるインフラ投資、グローバルサプライチェーンの見直しなどに相当なコストを要し、政府の役割の重要性が増すと共に、自由・民主主義vs権威主義の価値観の対立が深まり、中国の存在感が世界的に高まって来ている。

(3)中国の経済状況(消費爆発)
・中国政府のコロナ対策は、欧米・日本と比べると現金給付や大規模金融緩和を行わず、財政面での負担を極力抑えたと言える。雇用面では職場復帰を迅速に行い、これに関わる社会福祉企業負担を抑え、中小・零細企業向け融資を拡大し、行革も含め中国経済が抱える問題を抜本的に解決する政策を採り、「危中有機」「逆風飛揚」の視点から悲観的に捉えず、この機にポジテブな対応で財政規律を相当程度維持した。
・中国の中小・零細・個人企業は約1億社、税収の50%、GDPの60%、雇用の80%を占めて圧倒的な存在であったが、これまで政府の支援を受けていなかった。コロナ禍で資金繰り支援のために金利2.5%の優遇ローンとか国有銀行に新規貸出融資枠を設けるなど日本の企業支援策と比べて圧倒的なスピード感や規模感が覗える。
・4月の貿易統計では50%前後の伸びになっており、中国の経済回復で需要が急速に回復しているとうもろこし、大豆、銅や錫など一次産品の国際価格が高騰している。
・中国の大学新卒者数が毎年数10万人増え、その能力と企業が求める即戦力となる能力との乖離拡大という雇用面の課題のほか、昨年10月以降資金繰り逼迫が背景となった国有企業(AAA格付けが約8割)の債務不履行が相次いでいるほか、不動産開発会社の過重債務減らしで昨年7月以降、住宅購入規制強化、不動産向け融資の総量規制と財務規律強化の3本柱で推進している不良債権問題と昨年の出生率が過去最低の1.3(日本は1.4)となり2015年のふたりっ子政策の効果もなく今年から三人子も認めざるを得ないほか、結婚したら又貧乏な生活に戻り自由もなくなると考える若者が増え結婚件数もこの7年間で約半分に減少し、住宅価格の高止まり、教育費用の増加、両親の高齢化や託児所の圧倒的な不足などが社会問題となっている。

(4)米中関係の三次元方程式(競争、敵対、協調の3つのキーワード)
・先ず「競争」は、産業と経済、情報通信、AI、新エネ車など先端産業分野における覇権争いで、アメリカは300件を超える対中制裁法案を実行し、中国はつい先週、外国反制裁法を可決し対抗している。次いで「敵対」は、政治面で自由と民主主義vs権威主義、南シナ海問題を差して、アメリカは対中包囲陣の構築を目論み、中国は一帯一路構想対象国との関係を強化し、これまでの「戦狼外交」から今年から「愛される中国」外交にソフト転換しつつある。「協調」は、地球温暖化問題、地球環境汚染問題とパンデミック再発に如何に備えて行くのか二大経済大国が協調して行かなければならないと認識されている。
・「競争」での対中制裁法案が目白押しの状態となっていて、トップハイテク企業を輸出管理規制の対象にするとか中国製アプリのダウンロード禁止、中国企業のアメリカでの上場審査の厳格化やこの5月にはアメリカ株式上場中国企業の取引停止を命令するなど多岐にわたる対中制裁措置が採られている。中国は、アメリカによる半導体サプライチェーンのデカップリングで「中国製造2025」の目標自給率35%達成が難しくなっている。
・アメリカ政府の対中制裁措置に対して、司法当局によるバイデン政権への対応が目立って来ている。
・米中の金融関係は想像以上に緊密になっており、中国の資産運用業務の海外開放により、アメリカの巨額な財政赤字がファイナンスされる事態もあり得そう。
・中国とアセアン諸国の経済協力は緊密の度合いを増して来て、昨年11月にRCEPが成立し、今年の11月から発効して太平洋・アセアン地域での経済関係がより高まるだろう。
・協調についての環境問題では、中国とアメリカがCO2排出量とポリマー消費量ランキングで圧倒的な2大汚染排出国となっていて、どちらか一方が解決するという問題ではない。

(5)グローバル・ジャパン戦略
・今年の3月、ジョンソン政権が軍事力の規模縮減と質と効率の向上、大英帝国以来培ったソフトパワーを活かしグローバルなプレゼンスの拡充、国際金融センターのシティーを通じて中露への影響力を行使するというグローバルブリテン構想を発表した。
・これに対して日本は中国に次いで世界第3位のGDP規模で、アセアン諸国とは直接投資残高で中米に次ぐ緊密な経済関係、台湾とは歴史的な関係、中国進出企業が1.4万社もありデカップリングは日本の産業界にとってマイナスが大きいので、アメリカの対中政策で日本の立場が重要となっているので「自由で開かれたインド・太平洋構想」を乗り越えた「グローバル・ジャパン戦略」が必要となるだろうとのこと。
・日本企業の対応として、危機管理能力の向上とそのためのグローバルな情報収集体制の整備が必要で、中国市場に踏み止まらねばならない切実な現実を踏まえた株主や顧客への確実な情報発信の在り方を深化させる事が必要とのこと。そのためには、今中国で起こっている状況が何なのか、その背景が何なのかといった情報収集を高め、自信をつけてきた中国国民への対応を誤らない事が重要であるとアドバイスされ、1時間20分にわたるご講演を終えました。

3.質疑応答
Q:経済問題で中国の内需拡大の伸びと輸出外需の伸びのバランスはどうなっているのか?
A:アメリカがいろいろな形で対中政策を採っているが、中国がレアアースをストップする動きが出た時に、テキサスの閉山した大規模レアアース鉱山を再生産させようと綱引きをしている。電力供給削減による生産の頭打ちで銅や鉄鉱の国際価格が高騰して、中国は鉱物資源の輸出シェアを持っていて今後、カーボンニュートラル政策が進んで行くにつれて電力多消費の銅、アルミニューム、錫などの需給が厳しくなると思われる。トウモロコシと大豆の価格も高騰しているが、中国での需要が増えてきているのが背景にある。
Q:GDPの60%、雇用の80%を占める小規模・零細・個人企業の救済に日本やアメリカのように家賃支払いのための現金をばらまかずにここまで凌いできた事情は?
A:約1億社あるこれらの会社は新陳代謝が高いセグメントで、流動性が高いので現金をばらまいても意味がないと考えた。2つめは、これらの会社は資金力が無いので担保主義を採っている銀行や保証会社から借り易くする行政指導を行い、貸し倒れは銀行に責任を取らせている。3つめのポイントは、昨年のコロナ禍で倒産・廃業した企業は3百万社で、これに対する雇用創出が大きな課題になり、開業資金が少なく、少人数の雇用ができる「屋台経済」を薦め、夜間消費による「夜の経済」を進めてきたのでわざわざ現金をばらまく必要は無かった。
Q:中国の高齢化進展の速さが話題になっているが、高所得者は自分で起業できるが、増加した中産階級は自分で外資導入を直接選べないので国に窓口を置いて運用手段を先に提供して直接投資してもらうと考えてよいか?
A:中国の資産運用は非常に無茶苦茶な状態がずいぶん続き、高利でお金を集めて宅配したりお金を持ち逃げしたりしていたのを2018年から中国政府が淘汰して来た。専門的な知識や能力を持った資産運用業者があまりいなかったので貯蓄率が36%もあり投資銀行にとって黄金郷で、信頼できる専門業者が少ないので開放するしかないと判断したのではないか。
Q:中国のカーボンニュートラルをどう進めようとしているのか?石炭のあれだけの消費を何に切り替えようとしているのか?
A:カーボンニュートラルは既に始まっていて風力発電と水力発電、特に風力は海上風力発電が有望で、中国政府としては再生可能エネルギーと原子力発電の2本立てでカーボンニュートラルを進めて行くと思われる。ただし石炭業界、鉄鋼業界の様な多量なCO2を排出する問題をどうするのか頭の痛い政治問題となっているが、カーボンニュートラルは2060年までに達成すると言っているので逆算して40年間で目標達成する工程表は出来ていると思われる。
Q:一般的に格付け機関の格付けは信用されているのか?
A:格付け機関は数百社あり、結構なお金を取るが情実が入り込むところもあり、贈賄の性で捕まった格付け機関もある。AA以上の格付け取得が80%以上あるということは異常で、いずれ緩和されてくると思われる。
Q:輝ける星であったアリババの現状は?
A:デカすぎてもコントロール出来なくなるという事を政府が恐れたのが最大の背景と思われる。
Q:日本の10倍もある中国で、いとも効果的で迅速にコロナを退治できたのか?方針の徹底の仕方など日本で見倣うものがあるのか?
A:一番の大きな違いは、個人情報を政府に開示することに中国市民は全く抵抗感がないと言うこと。2つめは中国政府の組織力で、いろいろな部門から必要な人材を招集でき、必要な物資を自前の予算で実行できる。3つめは感染防止対策をキチンとやらない、感染状況をキチンと把握しない幹部がいたら即解雇し、改善出来たら復職させている。
文責:奥野 政博

講演資料:コロナ禍を克服した中国の現状と緊張高まる欧米関係
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