講師:村木 茂 様 一般社団法人クリーン燃料アンモニア協会 会長
聴講者数:48名
講師紹介
1972年: 東京大学工学部卒業
1972年: 東京ガス株式会社入社
1989年: ニューヨーク事務所所長、米国駐在
2000年: 原料部長
2002年: 執行役員
2004年: 常務執行役員R&D本部長
2007年: 常務執行役員エネルギーソリューション本部長
2010年: 代表取締役副社長執行役員
2014年: 取締役副会長
2015年: 常勤顧問
2022年: 一般社団法人クリーン燃料アンモニア協会(旧グリーンアンモニアコンソーシアム)会長
講演概要
化石燃料由来のブルー水素、再生可能エネルギー由来のグリーン水素を海外から日本へ輸送するエネルギーキャリアとしてのアンモニアが、貯蔵を含めて他の水素輸送よりも経済的。液化水素、有機ハイドライド(メチルシクロヘキサン)での海上輸送の取り組みもあるが、陸揚げ後に気化、脱水素のプロセスが必要なのに対して、アンモニアは海上輸送後、燃焼のプロセスに直接利用できる。2024年10月23日施行の水素社会推進法により、GX経済移行債により約7兆円が水素等への支援、その内数として、国内製造及び輸入のクリーン水素に対して、既存燃料との価格差に対して「値差支援」を総額3兆円を15年間支援(2千億円/年)営業費用の支援は異例、但し、適用条件が厳格。ハブ・アンド・スポークで国内各地への供給網を効率的に配置する拠点整備支援に1兆円の投資支援
アンモニアの役割;
アンモニアは肥料で製造・貯蔵・輸送の技術が存在。水素を運ぶ・貯蔵するにはアンモニアが最適。燃焼してもゼロエミッション。発電、船舶推進、工業炉での利用が先行。
利用技術:
石炭火力発電でのアンモニア混焼(20%)はJERAで実証済み、50ー60%の混焼になる見込み。アンモニア専焼とすると排ガス量が増大し、煙道の改造が必要になる。アンモニア燃料コンバインドサイクル(ACC)のガスタービン(GT)火力発電(効率60%)が本命だが、大型は未完成。小型GTは変動出力に対応可能、大型GTはベースロード向け。
海外アンモニアの輸入元:
天然ガス由来のブルーは、米国、カナダ、中東、オーストラリアから。再生エネ由来のグリーンは、インド、チリ、オーストラリア、中東から。
アンモニア製造法:
ハーバー・ボッシュ法+水蒸気改質。75%のCO2回収率を更に高めるとコスト上昇。今後の技術としてのATR(自己熱改質)では空気から窒素を分離する(ATU)が消費する電力の脱炭素が課題。
アンモニア受け入れの国内受け入れ施設:
6箇所のハブ:苫小牧、相馬、常陸那珂および鹿島、碧南、泉北(大阪)、山口周南および愛媛波方。受入規模:300万トン/2030年、3000万トン/2050年
ロードマップ:
インフレにより製造コストが上昇しているため値差支援が増大。第7次エネルギー基本計画に対して2050年に3000万トンとしていた計画を10年前倒しして2040年に達成するとの計画を提出。
(注)当日の質疑に関しましては、EVFホームページに掲載しておりますので、ご参照ください。
https://www.evfjp.org/
主な質疑応答
Q1:アンモニアの経済性は?
A1:ブルーアンモニアで天然ガスの約2倍強、グリーンアンモニアで3倍位、1万円を超えるカーボンプライシング(炭素税)が必要
Q2:輸入の天然ガスに1万円以上のカーボンプライシングを課税し、アンモニアと同等の価格になる?
A2:そうです。
Q3:海外からの水素のままで輸送するケースはない?
A3:液化水素は高コストで無理、水素は2,000kmの範囲までパイプラインで輸送、それ以上の距離では採算が合わない。液化水素、高圧水素での輸入極めて難しい。
Q4:経産省が設定した20円/Nm3は、発熱量ベースで天然ガスの2倍程度?
A4:天然ガスの1.2−1.3倍程度。この20円の水素でコンバインドガスサイクルで発電すると12円/kWhで発電できる。
Q5:航空機のエンジンでのアンモニア利用の可能性?
A5:できるが、アンモニアが漏れる場合を想定する必要があり、航空機のエンジンなどでの利用はアンモニアの毒性の観点から、一般人が利用する場所での使用はやめた方が良い。熱量あたりの体積が大きく航続距離も短縮。
Q6:鉄鋼産業でのアンモニア利用が他の産業よりも遅い理由?
A6:国内で水素(アンモニア)還元製鉄はコストで難しい、20円でなく8.5円/Nm3でないと採算が合わない。鉄鉱石の産地で脱炭素燃料が安い海外で、粗鋼を製造、国内で電炉で製品に仕上げるのが経済的。石油化学も日本での経済合理性があるか分からない。
Q7:アンモニアから水素を取りだし水素で混焼させるのは?
A7:水素源として可能性は大きいが、10%のエネルギーロス。
Q8:原子力で製造する水素を利用?
A8:原子力で水素を製造する技術は実用化までの時間が必要。
Q9:エネルギーを自給自足するために、国内生産のグリーン水素と大気中の窒素でアンモニアを製造できないか?
A9:国内の再エネコストが高価。浮体式洋上風力を推進しているが、EEZでの浮体式は需要地から離れている。海底の直流送電も良いが、LNG,LPGの既存技術を利用し、浮体式アンモニア製造設備でアンモニアを製造し運ぶ方法は検討の余地があり。
Q10:アンモニアがどれ位使われるかの見通し?
A10:300万トン/2030年で発電量の0.8%、2050年に水素及びアンモニアで10%、2040年に発電で4−5%、産業で1−2%
Q11:MITがADDIS Energy社が鉱山からアンモニアを採掘(製造?)するニュースがあった。
A11:存じませんでした。地中に水素は存在するが、アンモニアは?
Q12:製造プロセスでエネルギーロスがあるがエネルギー収支は?。
A12:アンモニア製造で25%のエネルギーロス。LNGで10%の液化ロス、アンモニアの液体輸送に比べると、シクロヘキサン輸送だと脱水素を含め50-60%のロスなのでアンモニアが勝る。これまでのアンモニアは長期契約はなく、オープンマーケットで取引されてきたのが、長期契約で大規模な供給設備形成をすると、市場価格が低下する可能性はある。
文責:松本泰郎
講演資料:アンモニアが脱炭素で果たす役割と課題