2025年01月29日

EVFセミナー報告:アンモニアが脱炭素に果たす役割と課題

演題:アンモニアが脱炭素に果たす役割と課題
講師:村木 茂  様
 一般社団法人クリーン燃料アンモニア協会 会長

聴講者数:48名

講師紹介
1972年: 東京大学工学部卒業
1972年: 東京ガス株式会社入社
1989年: ニューヨーク事務所所長、米国駐在
2000年: 原料部長
2002年: 執行役員 
2004年: 常務執行役員R&D本部長
2007年: 常務執行役員エネルギーソリューション本部長
2010年: 代表取締役副社長執行役員
2014年: 取締役副会長
2015年: 常勤顧問
2022年: 一般社団法人クリーン燃料アンモニア協会(旧グリーンアンモニアコンソーシアム)会長

講演概要

 化石燃料由来のブルー水素、再生可能エネルギー由来のグリーン水素を海外から日本へ輸送するエネルギーキャリアとしてのアンモニアが、貯蔵を含めて他の水素輸送よりも経済的。液化水素、有機ハイドライド(メチルシクロヘキサン)での海上輸送の取り組みもあるが、陸揚げ後に気化、脱水素のプロセスが必要なのに対して、アンモニアは海上輸送後、燃焼のプロセスに直接利用できる。2024年10月23日施行の水素社会推進法により、GX経済移行債により約7兆円が水素等への支援、その内数として、国内製造及び輸入のクリーン水素に対して、既存燃料との価格差に対して「値差支援」を総額3兆円を15年間支援(2千億円/年)営業費用の支援は異例、但し、適用条件が厳格。ハブ・アンド・スポークで国内各地への供給網を効率的に配置する拠点整備支援に1兆円の投資支援

アンモニアの役割;
 アンモニアは肥料で製造・貯蔵・輸送の技術が存在。水素を運ぶ・貯蔵するにはアンモニアが最適。燃焼してもゼロエミッション。発電、船舶推進、工業炉での利用が先行。

利用技術:
 石炭火力発電でのアンモニア混焼(20%)はJERAで実証済み、50ー60%の混焼になる見込み。アンモニア専焼とすると排ガス量が増大し、煙道の改造が必要になる。アンモニア燃料コンバインドサイクル(ACC)のガスタービン(GT)火力発電(効率60%)が本命だが、大型は未完成。小型GTは変動出力に対応可能、大型GTはベースロード向け。

海外アンモニアの輸入元:
 天然ガス由来のブルーは、米国、カナダ、中東、オーストラリアから。再生エネ由来のグリーンは、インド、チリ、オーストラリア、中東から。

アンモニア製造法:
 ハーバー・ボッシュ法+水蒸気改質。75%のCO2回収率を更に高めるとコスト上昇。今後の技術としてのATR(自己熱改質)では空気から窒素を分離する(ATU)が消費する電力の脱炭素が課題。

アンモニア受け入れの国内受け入れ施設:
 6箇所のハブ:苫小牧、相馬、常陸那珂および鹿島、碧南、泉北(大阪)、山口周南および愛媛波方。受入規模:300万トン/2030年、3000万トン/2050年

ロードマップ:
 インフレにより製造コストが上昇しているため値差支援が増大。第7次エネルギー基本計画に対して2050年に3000万トンとしていた計画を10年前倒しして2040年に達成するとの計画を提出。

(注)当日の質疑に関しましては、EVFホームページに掲載しておりますので、ご参照ください。
https://www.evfjp.org/

主な質疑応答

Q1:アンモニアの経済性は?
A1:ブルーアンモニアで天然ガスの約2倍強、グリーンアンモニアで3倍位、1万円を超えるカーボンプライシング(炭素税)が必要
Q2:輸入の天然ガスに1万円以上のカーボンプライシングを課税し、アンモニアと同等の価格になる?
A2:そうです。
Q3:海外からの水素のままで輸送するケースはない?
A3:液化水素は高コストで無理、水素は2,000kmの範囲までパイプラインで輸送、それ以上の距離では採算が合わない。液化水素、高圧水素での輸入極めて難しい。
Q4:経産省が設定した20円/Nm3は、発熱量ベースで天然ガスの2倍程度?
A4:天然ガスの1.2−1.3倍程度。この20円の水素でコンバインドガスサイクルで発電すると12円/kWhで発電できる。
Q5:航空機のエンジンでのアンモニア利用の可能性?
A5:できるが、アンモニアが漏れる場合を想定する必要があり、航空機のエンジンなどでの利用はアンモニアの毒性の観点から、一般人が利用する場所での使用はやめた方が良い。熱量あたりの体積が大きく航続距離も短縮。
Q6:鉄鋼産業でのアンモニア利用が他の産業よりも遅い理由?
A6:国内で水素(アンモニア)還元製鉄はコストで難しい、20円でなく8.5円/Nm3でないと採算が合わない。鉄鉱石の産地で脱炭素燃料が安い海外で、粗鋼を製造、国内で電炉で製品に仕上げるのが経済的。石油化学も日本での経済合理性があるか分からない。
Q7:アンモニアから水素を取りだし水素で混焼させるのは?
A7:水素源として可能性は大きいが、10%のエネルギーロス。
Q8:原子力で製造する水素を利用?
A8:原子力で水素を製造する技術は実用化までの時間が必要。
Q9:エネルギーを自給自足するために、国内生産のグリーン水素と大気中の窒素でアンモニアを製造できないか?
A9:国内の再エネコストが高価。浮体式洋上風力を推進しているが、EEZでの浮体式は需要地から離れている。海底の直流送電も良いが、LNG,LPGの既存技術を利用し、浮体式アンモニア製造設備でアンモニアを製造し運ぶ方法は検討の余地があり。
Q10:アンモニアがどれ位使われるかの見通し?
A10:300万トン/2030年で発電量の0.8%、2050年に水素及びアンモニアで10%、2040年に発電で4−5%、産業で1−2%
Q11:MITがADDIS Energy社が鉱山からアンモニアを採掘(製造?)するニュースがあった。
A11:存じませんでした。地中に水素は存在するが、アンモニアは?
Q12:製造プロセスでエネルギーロスがあるがエネルギー収支は?。
A12:アンモニア製造で25%のエネルギーロス。LNGで10%の液化ロス、アンモニアの液体輸送に比べると、シクロヘキサン輸送だと脱水素を含め50-60%のロスなのでアンモニアが勝る。これまでのアンモニアは長期契約はなく、オープンマーケットで取引されてきたのが、長期契約で大規模な供給設備形成をすると、市場価格が低下する可能性はある。
文責:松本泰郎

講演資料:アンモニアが脱炭素で果たす役割と課題
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2024年12月21日

EVFセミナー報告:感染爆発(パンデミック)は必ず起こる、コロナの教訓は生かされているのか !

演題 : 感染爆発(パンデミック)は必ず起こる、コロナの教訓は生かされているのか !
講師: 尾身 茂様
 結核予防会理事長
聴講者数: 52名
・1978年 自治医科大卒業
・1990年 B型肝炎の分子生物学的研究により医学博士を取得
・1999年 その後厚生技官となり、WHO西太平洋地域事務局長としてマニラに赴任
・2009年 自治医科大地域医療学センター教授
・2012年 年金・健康保険福祉施設整理機構理事長
・2013年 世界保健総会会長
・2020年 新型コロナウイルス感染症対策本部新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長
・2022年 結核予防会理事長

講演概要

1.はじめに
コロナは2020年1月に始まった。2月にクローズ船が横浜に停泊し船内で毎日感染者が出て日本中が大騒ぎだった。その頃の韓国ソウルのコロナ対策本部のヘッドクォーターはIT化していた。全く同じ時期の日本の対策本部は、専門家がいても、コンピューターもなくIT化もしていないので、膨大な量を手仕事でしなければならなかった。
2009年にメキシコで発生した新型インフルエンザHINIの総括があった際、PCR検査、医療体制も少なく保健所の機能も弱ってきているということで、国に対して提言書を出したが、政府がその中身をほとんど実行しないまま(仏作って魂入れず)、2020年のコロナへ突入し、近隣諸国に比べ圧倒的に準備不足で始まった。

2.我が国の対策の特徴
・感染症の世界規模での大流行の対応戦略
大別するとA.封じ込め、中国のとった対応に見られる徹底的に封じ込めて感染者をゼロにするケース。B.感染抑制、日本のとった対応に見られる感染者数を抑制し、死亡者数を一定数以下にとどめるケース。C.被害抑制、スウェ−デンのとった対応に見られる感染者数が増えることは許容し、重症者への対応に注力するケース。現在、多くの国では、少しずつC.被害抑制に近づいている。
・パンデミックの初期、我が国の専門家が世界に先駆けて直面した謎
感染が確定した人の接触者を徹底的に調べても、その人たちからほとんど感染者が見つからない。それなのになぜ感染者が急激に広がっているのか
・専門家が考えた仮設、この感染症は、クラスターを形成することで感染拡大。特に感染初期ではクラスターを制御できれば、感染拡大を一定程度制御できるという戦略。
・我が国のクラスター対策(さかのぼり接触者調査)の特徴
・共通の感染源を特定し、その場の濃厚接触者に網羅的な接触者調査を実施。感染者が確認できれば、入院措置等により感染拡大を防止
・3蜜などのクラスターが発生しやすい場の特徴を指摘することが出来、これにより、初期の段階から、市民に対して注意喚起。
・パンデミックの対応戦略
感染者数急増→接触者調査だけでは感染抑制不十分→緊急宣言や、まん延防止等重点措置などを組み合せて、感染者数を一定レベル以下に抑制。

3.我々の対策の評価
3年間のコロナ禍が我が国のGDPに与えたマイナスの影響は、累計では欧米のそれとはほぼ同水準であったが、欧米の先進諸国などと比べると人口100万人当たりの累積死亡者数が最も低水準であった。日本が死亡者数少なかった理由は
・市民の衛生意識が高く、行動変容の要請に多くの一般市民が協力してくれた。
・国民皆保険制度による医療のアクセスが良く、流行初期から感染者を早く探知できた。
・効果的なクラスター対策(日本独自のさかのぼり接触者調査)を実施した。
・保険医療機関関係者の献身的な努力
・政府と自治体の協議・連携が頻繁に行われた。
・緊急事態宣言のように感染者を減らす強い施策と感染者が落ち着いてきたところで、経済活動を再開し、次なる大波に備える施策で対応した。

4.我が国が直面した課題と一部の人々からの疑問
・政府と専門家の関係は適切・明確だったか
専門家のリスク評価とそれに基づく対策案の政府への提言(100以上)を政府が採用したが、採用しない場合もあり、採用しない場合の説明が不十分であった。専門家の意見を聞かないで決定したこともあったが、だれが意思決定しているかわかりにくかった。
・前のめりになった背景は、感染症対策について政府が主導しないのであれば専門家が主導する以外に手立てはなかった。
・我が国の医療制度の在り方が背景で医療のひっ迫が起きた。
・歓楽街や飲食を介しての感染が拡大の原因で家族内感染や院内感染の感染拡大は結果。
・国の強いリーダ−シップで、ワクチンの接種がスピーディーに拡大したが、PCR検査では国の強いリーダ−シップが見られず検査のニーズに追いつかなかった。
・緊急事態宣言が出ていない時でも高齢者の人は結構協力してくれた。緊急事態宣言を出すと若い人でも協力する傾向にあった。
・政府の有識者会議は22年6月に検証報告を取りまとめたが、これだけの複雑な危機の検証としては不十分である。

Q&A
Q1:我が国のコロナ禍の初期の対応は
A1:2012年の新型インフルエンザ(A/H1N1)対策総括会議報告書では、リスクコミュニケーションの在り方や保健所の機能強化、国と専門家の役割の明確化等、現在問題となっている様々な課題に対する提言がなされている。しかし残念なことに、ほとんどの教訓が活されずに今般のコロナ禍を迎えてしまった。準備不足で、ガイドラインがなく対応を現場の判断に任されていた。政府は20年2月のクルーズ船の対応に追われ、国内感染の対応が遅れた。死者数が増えたが、病床確保など保健、医療体制の構築に時間がかかり、感染者をみる病院も限られ、ワクチンもなく医療の逼迫を招いた。
Q2:コロナ禍とリスク評価についてお聞きしたい。
A2:リスク評価についての必要な情報へのアクセスが難しかった。西浦教授の何も対策を施さなければ、42万人の死亡が予想されるので、少しでもこの数を減らすためにみんなで対策した方が良いていうリスク評価があった。この件に基づき、緊急事態宣言時の記者会見で安倍首相は、専門家の試算では、私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低、極力8割削減できれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少にさせると述べている。リスクコミュニケーションの観点から、毎日の感染者数など断片的情報だけでなく、市民に全体像を理解納得してもらえる説明をする。2つ目は、状況が変化した場合にはその都度可及的速やかに全体像が分かりやすく説明する。
Q3:なぜ日本のワクチン開発、生産が遅れたか
A3:パンデミックが起きた場合、ワクチンの生産を100日間で生産する世界の約束がある。多くの国では、パンデミックを外交、教育、経済にも影響を及ぶ安全保障の一環としてとらえている。国内の製薬会社では、主な投資先は糖尿病薬やがん治療に向け多額の金が使われている。いつ起こるかわからないようなパンデミック用のワクチン開発などは、国主導で政府が一体となって、必要な体制を構築し、長期継続的にとり組む必要がある。
Q4:コロナ禍における専門家会議の組織と医師会、都道府県自治体との関係は
A4:医師会とは立場の違いがあったが、ほとんど同じ認識であった。
都道府県自治体が繰り返したハンマー&ダンス(対策強化と緩和の繰り返し)と保健所を含めた医療従事者の献身的な努力により諸外国の中で死亡者数が最低水準であった。とくに、現場の多くの情報は保健所から得ていた。
Q5:世界中でパンデミックが発生したので、それらの国の膨大なビックデーターをAIで解析などして、まとめられませんか。
A5:可能だと考えるが、しかし日本のIT化は道半ばである。AIで解析となると、医療について知見がない業者に丸投げの形になることが考えられる。いろいろな専門化の疫学情報を共有化することが課題で、それをまとめ上げる強いリーターシップが現れることが必要。
Q6: 今回のようなパンデミックが起きた場合の後継者は、いますか。
A6:今回のように個人ではなく、全国の感染症に強い組織、研究所とのネットワークなどで、システム的に対応するのではないか
Q7: 20代の女性の妊婦さんが心配していたが、今後も発生するのか
A7:新型コロナウイルスも野生動物との接点が原因となった可能性が大いにあり、人間と野生動物の距離が近い環境では、人畜共通感染症が生まれやすい。
講師紹介
・1978年 自治医科大卒業
・1990年 B型肝炎の分子生物学的研究により医学博士を取得
・1999年 その後厚生技官となり、WHO西太平洋地域事務局長としてマニラに赴任
・2009年 自治医科大地域医療学センター教授
・2012年 年金・健康保険福祉施設整理機構理事長
・2013年 世界保健総会会長
・2020年 新型コロナウイルス感染症対策本部新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長
・2022年 結核予防会理事長
文責:立花賢一

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2024年12月15日

EVFセミナー報告:2050年カーボンニュートラルに向けた日本風力発電協会の取り組み

演題 :2050年カーボンニュートラルに向けた日本風力発電協会の取り組み
講師:秋吉 優 様
(あきよし まさる)
株式会社ユーラスエナジーホールディングス代表取締役 一般社団法人日本風力発電協会代表理事
聴講者数:47名

講師略歴:
1983年3月 同志社大学 法学部法律学科卒業
1983年4月 株式会社トーメン入社
1999年4月 株式会社トーメンパワージャパン札幌支店長
2005年7月 株式会社 ユーラスジャパン事業開発第一部長
2011年4月 株式会社 ユーラスエナジーホールディングス アジア大洋州事業部長
2023年4月 同社 代表取締役副社長執行役員(現在)
2022年6月 一般社団法人日本風力発電協会 副代表理事
2024年2月 同代表理事(現在)

補足のご説明:中村 成人様(なかむら しげひと)一般社団法人日本発電協会専務理事

概要報告:

日本企業における風力発電事業の嚆矢は、ユーラスエナジー社による1987年米国事業である。冒頭 同社出身の講師から世界や日本の再生エネルギーに関する価値・意義や同社の立ち位置について紹介があり、続いて技術的側面とは少し角度を変えた制度設計的な面についての説明があった。EVFは洋上風力発電推しであり、第七次エネルギー基本計画に対しご意見箱に投稿もしており、特に実装時制度面について大変良い勉強になり活発な質疑応答もなされた。日本風力発電協会(JWPA)の取り組みは風力発電の主力電源化であるが、その前提として日本のエネルギー自給率が13%(2021年度)、OECD38ヶ国中37位と危機的状況にあり、化石燃料輸入による多額の国富流出があることを確認した。その状況において現在政府は再エネ主力電源化を含めた政策立案の山場に来ており、これを踏まえJWPAは技術要件に加え、市場開拓,認証・標準化,工程表(グランドデザイン)、地元協調、教育など事業全般について産官学民の横串を通し全体最適化に取り組んでいる。 また目標とする一次エネルギー供給量については各種審議会などで共有化された想定電力需要を踏まえて、全電力需要の1/3(設備容量換算で140GW/2050年)を風力発電が担うことを提言。また政府の脱炭素社会実現に向けた重要戦略は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(2021.6.18)」、「地球温暖化対策計画(2021.10.22)」、「GX・グリーントランスフォーメーション実現に向けた基本方針(2022.12.22)」、「第七次エネルギー基本計画(現在議論・検討中)」の4つである。講演最後の質問「風力発電における問題ワースト1を教えて欲しい」に対しては,1点に絞るのは難しいが1.風車認証期間短縮の加速化(太陽光発電は認証不要)  2,系統拡充による連系容量の確保(現在工程表に基づき進行中ではあるが),の2点と考える、との回答があった。 
以下に質疑応答を紹介する。
Q1,地元メリットがいる.地元供給電気代無料はどうか?ストロー現象(利益が東京に吸い取られる)問題を必ず地元住民が意識すると思うので。
A1, その通りでやるべきである。適価で提供することで進めている。そういう時代である。
Q2, EEZは遠い沖合から送電するため設備の準備に時間がかかる。グランドデザイン(工程表)が必要ではないか?
A2,イエスである。また付け加えると洋上ウインドファームはそこに1ヶ所の変電所を設け一本の束にして高圧直流(HVDC)線などで陸上系統に接続する場合が多いが、その送電線を政府資金で進めるセントラル方式を要望している。
Q3,人材については自動車整備士のような国家資格がいるのではないか?
A3, 資格については経産省安全電力課が担当となるが、JWPAも教育機関や自治体とも連携して現在模索中。JWPAでは、発電・建設事業者などを対象として座学・実技からなる洋上風力メンテナンス用の資格試験のたたき台を準備中で、2024年度中に試行版初回を実施予定である。地元学校とも連携をしていく。また、日本財団の助成金も頂いている。
Q4,落雷に関して、メンテナンス要員の安全対策は?
A4,日本海側での冬季の落雷が厄介であり、回転中のブレードに落雷し損傷すると破片が飛び散り大変危険。 600クーロンまでならOKであるもののこれを越える場合の統一方針はまだ決まっていない。しかし回避策はあり例えば、落雷接近データを見て風車を止めるなど。
Q5,EVFでは化石燃料から再エネへの電力変換のロードマップを描こうとしている。その背景での質問だが大規模風力の場合10万kW/515億円(≈政府目標5億円/MW)と言われているが、何基分か?
A5, 一基1万から1万5千kWなので8基分程度と考える。
Q6,投資回収期間は?
A6,入札から運用開始まで6年程度である。
Q7, 江戸幕府の終焉を勉強している。幕府軍が先に近代化しそうに見えたので、薩長が焦り、急いで戦いに持ち込んで江戸幕府を潰したというのが真相に近いのだが、その薩長のような気迫、passion(熱情)、やる気などが、今の霞が関・政府にあるのでしょうか?
A7,極めて真剣である。課題はあるものの業界やJWPAの意見も聞きながら最重要課題として熱心に取り組んでいる。
Q8,日本の人口は6千万人程度まで減少するという説もあるが、そうなった時のエネルギーの需給関係はどう見通せるのでしょうか?
A8,人口減少はあるが電気自動車やデータセンターなどで電力需要は増えるという意見もありはっきりとは読めていないと思う。
Q9,イギリスのクラスターは八つあり総合的な取り組みをしている。太陽光発電、系統連系、余剰電力による水の電気分解と水素貯蔵、そしてガスパイプライン。日本はこのようなことを構想しているのか? 
A9, グリーン水素には積極的に取り組んでいる。 単価が高くなるので値差(ねさ,価格差)支援制度に少なくない予算が付き、まもなく入札が始まる。JWPAもグリーン水素は価値が高く今後増えていき燃料転換が起きると考えている。
Q9,風車は交流か直流か? 昔(1980~90年代)カリフォルニアのパームスプリングスで大規模風車群を見て疑問に思ったが電力調整はできるのか?
A9,発電機はすべて交流。最近は磁石を用いた高効率発電機もあり電気回路(直交変換)もいくつかのタイプがあるが、風車群単位で周波数や力率を厳密に調整して電力調整を行っている。ご指摘の風車群は30年近い昔のもので発電量が小さく、不調があっても大きな社会問題にはなっていなかったと思う。
Q10,電力需要の1/3を風力発電で担う目標だが前提の全需が大変重要である。どこでどのように誰が決めているのか? 
A10, 詳しくは即答できないが各種審議会で予測値が報告されている。それらに基づき風力発電協会の目標を定めた。またJWPA独自の試算からも妥当性を確認した。Wind Vision2023に根拠を含め詳述してあるので是非ご確認いただきたい。
Q11, EVFは風力推しであり第七次エネルギー基本計画のエネ庁ご意見箱にも投稿した。質問は化石燃料代年間30兆円を再エネ作りに回せないのか?
A11,難しい問題で政府は原発と再エネの二本立て実現が必要として整理していると考えている。
Q12. 風力発電における問題ワースト1を教えて欲しい。
A12,1点に絞るのは難しいが1.風車認証期間短縮の加速化(太陽光発電は認証不要)  2,系統拡充による連系容量の確保(現在工程表に基づき進行中ではあるが)の2点と考える。補足すると現在日本には風車メーカーがない。認証に関して海外勢は嫌がっており。一方で洋上風力入札で先行した東芝はGEの主部品のサプライヤに留まっている状況であり、撤退した三菱重工・日立製作所日本製鋼所などが認証の迅速化と共に復帰してもらえればJWPAとしてもこれほど嬉しいことはない。

文責:寺本正彦
講演資料:2050年カーボンニュートラル実現に向けた日本風力発電協会の取り組み
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2024年10月18日

EVFセミナー200回記念 特別講演 報告:小泉悠が語る隣国ロシア・北朝鮮・中国と我が国の付き合い方

演  題:小泉悠が語る隣国ロシア・北朝鮮・中国と我が国の付き合い方
講  師:小泉 悠様
東京大学先端技術研究センター准教授 
日  時:2024年10月18日(金)14:00〜16:00
場  所:新宿区NPO協働推進センター501会議室
聴講者数:104名

講師紹介:
2007年 3月 早稲田大学大学院政治学研究科 修士課程修了
2008年 2月 公益財団法人未来工学研究所 特別研究員
2009年 1月 外務省情報統括官組織 専門分析員
2009年12月 世界経済国際関係研究所 客員研究員
2011年 4月 国立国会図書館 非常勤調査員
2019年 3月 東京大学先端科学技術研究センター 特任助教
2022年 1月 東京大学先端科学技術研究センター 講師
2023年12月 東京大学先端科学技術研究センター 准教授
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【講演概要】
■なぜ「地政学」なのか:大陸系地政学と海洋系地政学
・地政学は、19世紀にスウェーデンとかドイツで生まれてきた考え方。問題は、侵略の正当化イデオロギーになっていったこと。ヘーゲルの国家有機体説と結びつき、「国家とは生き物であり、生き物には栄養が必要。ある国にとって必要な栄養は地理的に見てどこからどこまでの範囲なのか。」という議論に移った。
・大陸で生まれた地政学(大陸系地政学)は、突き詰めると小国を滅ぼして大国が飲み込む勝者総取りの世界観に繋がる宿命を持っている。一方でアメリカ人やイギリス人が考えた海洋系地政学は、大陸内に強力な統一権力ができることを阻止しなければいけないというのが、根本にある関心事。

■ロシアについて:大陸系地政学の継承者。地理の問題とアイデンティティ(ルースキー・ミール)の問題が癒着
・生存権を確保するために緩衝地帯を作る発想。
・ソ連崩壊後にロシアの言説空間に復活させた人物が、アレクサンドル・ドゥーギン(ネオ・ユーラシア主義)。「地政学の基礎」を出版。
・ドゥーギンの言う三つの枢軸とは、何れもアメリカの影響力を排除し、ロシアにとって都合の良い「モスクワベルリン枢軸」・「モスクワテヘラン枢軸」・「モスクワ東京枢軸」。
・ロシア式地政学には、旧ソ連空間への執着と特殊な「主権」観がある。そこでのルースキー・ミールは、ロシア国家の中心であるルーシ民族のという意味。ルーシ文明を共有してる人は、文化的・人種的・宗教的等の共通した世界が広がっていて、国境の外でもそういうのはロシアということ。
・プーチンの戦争とかロシア右翼の言動は、このルースキー・ミールを根拠としている。

■中国について:大陸系地政学的。国力の伸展に伴い、損得・論理で考え得る行動
・中国とロシアは、見通し(プロスペクト)の違いにより振る舞いに差。
・ロシアは、国力自体が当面伸びず破滅的な戦争を始めて見通しは暗い。
・中国は、総合国力のピークはもう少し先。それまでの間に、台湾併合や東南アジアの国々をなびかせること、南シナ海において中国にとり有利な秩序を作る等の見通しをたてやすい。
・台湾は、不利な戦争を行うより、経済的な存在感・文化的近さ・同じ言語空間等を背景に段階的に取り込むと思われる。その方がはるかに低コスト。
・ロバート・カプラン(元CIAの情報分析官)が20年前に出した「地理の復讐」の中で、地理的に21世紀になってもヒンドゥークシュ山脈を越えるのは大変という記述がある。
・言語空間にもヒンドゥークシュ山脈があったが、それが大規模言語モデルの普及によって下がりつつある。結果、情報空間が現実の物理空間の中の地理的な境界線に影響を及ぼすのではないか。

■朝鮮半島について:ランドブリッジ。均衡が続くか怪しい
・朝鮮半島は、地政学でいうランドブリッジ(大国の利害の交差点)の位置づけ。
・ロシア・中国にとり北朝鮮の存在は望ましい。ただし、ずっとこの均衡が続くかどうかは最近非常に怪しい。
・心配しているのは、アメリカがそういう均衡を維持する意思をだんだん失いつつあるのではないかということ。
・今回のロシアのウクライナ侵略で明らかになったことは、核を持った国が本気で先に暴れだした場合に、他の国はなかなか手だしができないこと。
・その国が滅ばなくとも何十万人も死ぬという話になると、まともな民主主義国の指導者は絶対に決断できない。これが核戦略の用語で言う「耐えがたい損害」(国家が崩壊)と「受け入れがたい損害」(政治的に受入れ難い損害)の違い。
・核を持っているだけで、相当程度相手の行動を抑止することができるという状態。
・その走りが中国の核戦略で、最小限抑止戦略。

■日本の地政学について:海という戦略資産を使った抑止と格子状のネットワーク構築のジオストラテジー
・今できる地政学は否定的抑止で、懲罰的抑止ではない。日本の戦略目標は、台湾海峡と朝鮮半島の現状維持+中露の軍事的連携阻止。そのために海という戦略資産を最大限に活かすこと。ユーラシア大陸側からの侵略を遮断することに全力を挙げるべき。
・大事なことは、囲い込まずにゆるく繋がること。「格子状」のネットワーク(≠アジア版NATO)で、ユーラシア東西での連携を図り、「敵」との経済的繋がりも排除しない(ただし経済安全保障は手厚く)。
・地政学の論理の一つ上のレイヤーに、柔軟な枠組みを同時に持つことがこれから求められる。地政学と戦略と合わせたジオストラテジーとして、幅広さを持つ政策をとるべき。


【質疑応答】
Q1:アメリカのF16がウクライナに供与されたことが、一つのゲームチェンジャーになるか。

A1:特定の兵器が、ゲームチェンジャーになることはない。ゲームチェンジャーとは戦争の流れを変える力。それはある能力、制空権を取る能力、何かを著しく妨害する能力、何かを大量に生産する能力等のこと。その能力の構成要素として、特定の兵器や特定の技術、人の考えがあったりする。F16があまり目立っていないのは、他に何かが足りないから。この戦争が始まって以来、ロシアもウクライナもどちらも実は制空権を取っていない。ロシア軍もウクライナ軍もソ連軍の末裔なので、地上配備型防空システムが分厚い。これまでウクライナはロシアに制空権を取られずに済んできたが、F16の数を増やすこと及び電子妨害でレーダーやミサイルが機能しないようにするぐらいの能力が必要。F16に期待されることはロシアの防空システムや重要インフラを壊して回ることだが、西側のミサイルをロシアに対して使用する許可がされていないのと、F16のパイロットは空中戦の訓練はしてきたが、地上攻撃には複雑で長い訓練が必要なことがある。各国から2年間で百機近く引き渡されるので、制空権を取るかもしれないが、取ったとしても地上作戦と連動することが必要で、地上作戦を好転させる別の能力が必要になってくる。

Q2:ドイツと日本の原子力発電をやめられるかどうかの違いは何か。ドイツは完全に原子力発電をやめたが、日本の場合、なかなかやめられないのは、核のポテンシャルを手放したくないということがあるのか。

A2:原子力発電をやめるかやめないかは、安全保障の話しというよりエネルギー業界の中の論理で決まっていると思う。安全保障業界の立場からは、核武装のポテンシャルと結びつけて考える。ドイツの場合は2重の核抑止力がある。アメリカの核抑止と核同盟としてのNATOで、ドイツにしてみれば、事実上核兵器を使って戦う軍隊であるとの認識を持っていると思う。例えばNATOの核作戦共有メカニズムは、第三次世界大戦になれば、各国が分担して核爆弾でどことどこを焼き払う等の計画をアップデートし、毎年戦術核を使って戦う演習を行っている。日米韓では10年前ぐらい前に局長級で拡大抑止協議を行い、最近それが国防大臣級になった。2019年9月東京での三国国防会議で、初めて核拡大防止の話しをした。核シェアリングの本質は核爆弾がどこに置いてあるかではなく、有事に核爆弾を使う計画を平時からどこまで共有しているか。日本周辺で自衛隊と米軍・韓国軍が一緒に核爆弾を使って作戦をするという計画を作り訓練まですることになり、はじめて事実上の核シェアリングといえるが、これは難しい。安全保障の立場からの発想では、プルトニウムの保有量からすると日本は比較的短期間で核爆弾を作れる能力があり、その能力があった方がオプションは広がるとの考え方がある。

Q3:ロシアはウクライナについては同じ人達という感覚があると思うが、中国から日本はそうは見えないと思う。香港や台湾は同じに見えると思うが、両者の人口規模は異なる。香港の数倍規模の人口を持つ台湾は、自由主義文化で数十年生きてきた国民がいる。こういう人達を力で押さえ込むのは、相当ハードルが高いと思われる。それが一つの抑止力になっているのではないか。

A3:その発想は面白い。ただいきなりすべてを中国本土並みにするわけではないと思う。香港の場合も一国二制度から始まって途中で国家安全法ができてというように、段階的にやっている。台湾について実際に行ってみると、中国に対する意見の分断も相当あるように思う。ジェネレーションによってもかなり違う。いきなりすべてを中国本土並みにするのは難しいが、中国はもっと上手くやると思う。武力侵攻により短期間で併合する蓋然性は低い。時間をかけて経済的に統合し、人の往来を増やし、情報空間も融合させて実質的に台湾への影響力を手に入れていくというのが、私の根本の発想にある。

Q4:ロシアのウクライナ侵攻は、旧ソ連時代あるいは帝政ロシア時代にそこは我々のものであったということを、再確認するために起こっているように思えるがどうか。

A4:一つの国だった、あそこは我々のものだったというのはあると思う。今回の戦争について、ロシアの右翼は“内戦”と呼び、プーチンもこの戦争を決して戦争と言わず“特別軍事作戦”としかいわない。今回の戦争は今始まったのではなく、10年前のクリミア併合、ドンバス侵攻から始まっている。プーチン周辺や右翼の人々が使い始めた“ノヴォロシア”という言葉がある。エカテリーナが、征服した一部コサック、一部オスマンの土地であったものを分捕って新ロシアの意味の“ノヴォロシア”と名付けた。プーチンはサンクトペテルブルグ鉱山大学で博士号をとっている。博士論文のテーマは、天然資源を国家管理において、これを武器としてロシアの地政学的地位を高めるというもの。この大学が実はエカテリーナが200年前に創ったもの。プーチンはピョートル大帝を尊敬しているが、エカテリーナの影も感じる。18世紀に一番輝いていたロシアを、再確認しているところがあるのかもしれない。

Q5:多くの国がエネルギーの地産地消をすれば、国家間の争いも少し下がるのではないか。

A5:ここ十年ぐらいの地政学の復活をみていると、やはり囲い込みを始めている。十数年前の中国によるレアメタルの対日禁輸や、ウクライナ戦争が始まった翌日にはトルコが交戦国の軍艦はボスポラス海峡を通さない、といったことが起こっている。こういうことを目にすると、地政学の戦略で海峡を抑えるとか資源地帯を抑えるとかという地政学者の発想が分かってくる。地政学的な力の論理よりマーケットの論理が全面にくる世界がくれば、エネルギーが偏在していても問題ない世界を作れる感覚はあるが、この先多分そうはならないと思う。エネルギーの地産地消の技術的フィージビリティースタディーがどの程度あるのか、またエネルギーだけ地産地消ができても、鉄鉱石はどうかとか農業肥料のリンがどうか等のエネルギー以外のバイタルなものがいろいろある。エネルギーの地産地消で緩和できるものと、そうでないものがあると思う。

Q6(ネット経由):小泉先生が語られた「拒否的抑止」に、ドローンなどによる無人兵器は含まれますか?日本には無人兵器に必要なセンサー技術、制御技術がありますが、無人兵器のコストダウンには、武器輸出が必要と思いますが、「拒否的抑止」に武器輸出は含まれますか。

A6:ドローンは道具なので拒否的抑止にも懲罰的抑止にも使えます。同じ兵器でもそうです。例えば高級なセンサーを積んだ大型ドローン(グローバルホークみたいなやつ)を使って中国のどこを叩くか調べるとします。その時「ここを叩けば経済が大混乱するだろう」と考えるのは懲罰的抑止に基づくターゲティング、「日本に侵攻する場合はここが拠点になりそうだ」と考えるのは拒否的抑止に近い考え方です。
武器輸出については、抑止に含まれるものとそうでないものもあります。商業活動として行われる武器輸出、外交の手段としての武器輸出などは違いますが、「この国の軍事力を強化してやって中国の軍拡に対抗しよう」という考え方なら拒否的抑止に入ると思います。

Q7(ネット経由):ウクライナ侵攻から1か月ほど経ったころ、高市早苗さんがTV番組で(多分、ウクライナを念頭に)「自分で自分を守ろうとしてこなかった国を助ける国はない」と冷厳に言い放ったことがありました。その自分で自分を守ろうとしない国≠ニ助ける国はない≠フ2点で我が国をどう評価されますか。

A7:「自分で自分を守る国」になろうとしている、ということだと思います。2022年の安保三文書はその点をかなり真面目に考えて作られていますので、是非ご一読ください。ちなみにウクライナは2014年以降、「自分で自分を守る」ことを真剣にやろうとしたと思います。ただ、そのことをロシアに認識させられなかった。したがって、抑止力の中には、こちらが知っておいて欲しいことを抑止対象に認識させる戦略的コミュニケーションが含まれます。これについても最近、日本語でいくつか本が出ています。
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Q8(ネット経由):欧米からの今程度の継続支援でウクライナが何とか長期的に戦い続けることができたとして、ロシア側はいつまで戦い続けることができるか、あるいはいつ継戦をあきらめざるを得ないか。ロシア厭戦のボトルネックは何であろうか?食料、天然ガス等基本資源が自前なのでこの程度の戦いは半永久的にできるのだろうか。

A8:まず財政がボトルネックになると思います。ロシアの国防費はすでに平時の4倍にもなっており、何年も続けられるものではありません。
第二に、軍需生産にも限界があります。ロシアは昨年、1500両の戦車を配備したと言っていますが、年間の生産能力はどんなに大きく見積もっても500両以上ではありません。現実的には350-400両くらいでしょう。これは戦車自体の生産能力もさることながら、砲身の生産能力の限界でもあります。ロシアといえども戦車・榴弾砲の砲身を量産できる工場は2か所しかありません。
したがって、残る1000-1100両は予備保管されていた旧式戦車を工場でオーバーホールして現役復帰させているわけです。これだけの数のオーバーホールを短期間でできる能力は大したものですが、予備の戦車や装甲車は無限ではありません。ロシア全土に約20か所ある予備兵器保管場の兵器が尽きたらそれまでです。
財政と予備兵器が保つのは、おそらくあと1-2年と見られています。このくらいがロシアの戦争継続の限界だと思っています。

文責:井上 善雄
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2024年09月27日

EVFセミナー報告:脱炭素へのエネルギー転換

演題:脱炭素へのエネルギー転換―エネルギー基本計画の論点にもふれてー 
講師:大野 輝之様
 公益財団法人 自然エネルギー財団 常務理事
聴講者数:49名

講師略歴:
• 1979年 東京大学経済学部卒。東京都庁入庁。 
• 1998年 より環境行政に関わる。
「ディーゼル車NO作戦」の企画等国に先駆ける東京都の環境政策牽引
• 2010年 東京都環境局長。
• 2013年 より現職。
• 2014年 カルフォルニア州からハーゲンシュミット・グリーンエア賞を受賞。
著書:「自治体のエネルギー戦略」「都市開発を考える」「現代アメリカ都市計画」など。

概要報告:

COP28で2030年までに世界の自然エネルギー設備容量を3倍にすること、G7で2035年までに電源部門の全てまたは大部分を脱炭素化することが決定した。日本は、化石燃料の多くを海外からの輸入に依存し、自動車・半導体等輸出で稼いだ29兆円は化石燃料の輸入26兆円で使われている。脱炭素化に向けては、エネルギー安全保障、安定供給、低コストを実現できるエネルギーミックスが必要であり、5月15日から経産省主幹の基本政策分科会で次期エネルギー基本計画の議論が始まっている。脱炭素への日本の道筋を明らかにするために、自然エネルギー財団は次の問題提起をしている。

1)日本の2050年CO2排出削減目標達成はオントラックではなく、欧州に対しても遅れている。
政府はオントラックで進んでいると認識しているが、日本は東日本震災直後の化石燃料発電9割であった2013年を起点にしたトレンドを見ており、欧州と同じく1990年を起点にみると欧州よりも目標との乖離が大きい。

2)AIの普及による電力需要が増えると言われているが、もともと電化により電力需要は約1.5倍となることを予測しており、AIで言われている電化需要もこの範囲内にある。

3)原子力発電は日本では2050年代の電力需要の4〜6%しか供給できない。COP28で2050年までに現在の原発設備容量の3倍にする目標を立てたが、IEAのシナリオをもとに試算すると設備容量が3倍になっても2050年総発電量の10%程度に過ぎない。更に日本での課題は、放射線廃棄物の最終処分場を稼働する詳細計画がないこと、原発新設コストの上昇(過去の政府見積もりの3倍以上になっている)、原発新設には約20年のリードタイムが必要であることから間に合わない等将来が見えていない。

4)火力発電所の脱炭素の実現性に疑問がある。政府はCCSとアンモニア混焼を推進しているが、いずれも実現性のめどがたっていない。CCSはCO2回収率が低いこと(IEAは回収率9割以上を基準にしているが世界でも6割程度しかできていない)、回収したCO2の地下貯留先が決まっていない。アンモニアは燃やしてもCO2は出ないが作るときにCO2が出る。50%混焼してもCO2削減率は30%。しかも、蓄電を考慮した太陽光発電、風力発電よりもコスト高になる。

5)太陽光発電、風力発電は、世界でも導入が加速しており日本でもポテンシャルがある。太陽光発電はもともと日本がトップメーカーで20年以上の歴史があるが、近年は日本では減速している。環境破壊で問題視されているメガソーラーではなく、建物と農地を中心にしても現在導入量の30倍(2380GW)のポテンシャルがある。風力発電は、領海+EEZで1128GWのポテンシャルがあり、EEZ法案の国会での制定と洋上風力発電導入の目標値設定をし、風力発電の導入加速が望まれる。電源離脱など系統トラブル時のブラックアウトの懸念は、蓄電池+デジタル技術で問題を解決している国々がすでにある。

6)化石燃料・CCS+原子力に脱炭素の30〜40%を依存する戦略から再エネと省エネを中心とする脱炭素戦略に移行することが必要。自然エネルギー財団の試算では、蓄電池の大量導入と北海道‐東北‐東京の送電網の強化により、自然エネルギー80%で24時間365日安定供給が可能であるこがを確認している。


Q1 自動車業界のOBとして貢献できることはないか。中古EV、HEVのモーター、バッテリーを風力発電に使えないかと考えた時に、どのようなルート、どういう人と相談したらよいか。
A1 運輸部門を持っていないので十分な回答ができないかもしれないですが、EVのバッテリーを蓄電池に活用することは追加投資なしにできるので有力。EVを電力供給の安定化に使うことは有効で、実際にいろいろなメーカーが実証実験をしていると思います。電力系統の安定化の役割に大いに検討されてよいと思いますし、自動車業界と協力させていただきたい。モーターについては、財団に詳しい別の担当がいます。

Q2 アンモニア等の議論があるが、まずは供給電力から入らなければならいのではないか。再エネを出発点において、それからアンモニア等を考えるべきではないか。再生可能エネルギーでコストが高くなるといわれているが、実際のところどうなのか。
A2 政府は水素に力を注いでいるが、どこから水素を持ってくるのかはっきりしない。水素が役にたつのは、水素を作る過程からCO2を出さないグリーン水素であること。政府が進めているブルー水素は、作るときに大量のCO2が出るがCCSで回収することだが、CCSの回収がうまくいっていない。ブルー水素は本当のクリーンにならない。
・ブルー水素は化石燃料から作るので、化石燃料よりも必ず高くなる。再エネで作るグリーンは化石燃料よりも安くなる。ブルー水素を使い続けることは脱炭素戦略でも問題あるし、経済的に考えても問題ある。
・太陽光・風力発電の余剰電力をグリーン水素生成に充てればよいが、2050年でも自然エネルギーで電力の50%の計画では国産のグリーン水素は十分に作れない。海外からの水素供給は割高、海外依存も改善されない。
・コストについては、国別に発電方法のコストマップが作成されているが、日本も含めて太陽光発電が一番安くなっている。太陽光発電、風力発電は発電単体では安くなっているが安定化のために必要な統合コストを入れると高いという議論はあるが、財団での計算、IEAのスタディでも自然エネルギーが一番低コストである結果が出ている。

Q3 ポテンシャルのある風力、太陽光がなぜ日本で進まないのか。地方の問題か中央の問題か。
A3 色々な問題はあるが、一番の問題は、日本政府の政策が自然エネルギーを政策になっていなかった。電力会社も同様にそのような政策をとらなかったことが究極の問題と思われる。
・そもそも太陽光発電は日本の技術。2005、6年は太陽光発電は日本の企業が世界のトップ5にあった。NEDOは「なぜ日本は太陽光発電で世界一になったのか」本を出した。サンシャイン計画でNEDOが中心になって進めていたが、2005年辺りで、経産省がもう進んだからよいと補助金をやめてしまった。せっかくスタートして順調だったのに梯子が外された。
・そのころからドイツは(日本で言う)FIT制度を始めて、それを見ていた中国も力を入れ始め、ドイツに大量に輸出してコスト低減に成功。低コストになったので中国国内にも展開してダントツのシェアになった。
・日本の電力会社は垂直統合型だったためその名残がある。部分的に規制緩和されて発電、送電会社は法制分離されているが持ち株会社は一緒なので、違うビジネスから参入の太陽光、風力電力のシェアが増えれば電力会社の利益が減るため、送電は火力・原子力が優先になる。経産省が急速な普及に対応する経験を持っていなかったため、規制・制度に穴があり、メガソーラーで環境破壊、地域の反発を買ったり、変動電源の安定化技術も遅れた。

Q4 IEAの予測では2030年から再エネが急拡大されるようなカーブになっている。今既にコストが低いなら今から拡大が始まってもよいと思うがそのようなトレンドになっていないのははぜか。
A4 資料の6ページにIEAのシナリオがありますが、2022年段階で世界の電力供給の30%が再エネ。2030年に59%で2030年までにも倍に増えるトレンドと見ている。2030年から急に拡大というわけではない。

Q5 太陽光、風力の中国が覇権を握るよう進むのか。世界をリードしていけるのか。
A5 中国の独占は問題であるが、日本も含めてそれを許した国々の問題もある。2年くらい前から、アメリカでは太陽光、風力発電、蓄電池のアメリカ国内生産を加速させるための税金控除制度ができた。欧州でも国内蓄電池の生産能力増に力を入れている。両国ともうまくいっているとはまだ言える状況ではないが、方向としては、中国独占を許すのではなく、アメリカ、欧州、東南アジア、日本との同志国で相当程度の供給能力を作っていくことがエネルギー安全保障政策として重要だと思っている。
太陽光発電も風力発電も設備コストの中でモジュールの部分は3割程度で、残りの7割は国内での建設工事費、販売利益、メインテナンス等の費用になるので、化石燃料のようにすべてが海外依存ではない。
文責:白橋 良宏

講演資料:脱炭素へのエネルギー変換


 
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2024年08月23日

EVFセミナー報告:内燃機関の可能性

演 題 :「内燃機関の可能性 〜ポストCN(カーボンニュートラル)時代の自動車の新しい軸〜」
講 師 : 轟木 光 様
  KPMGアソシエイトパートナー(Automotive Sector)  
聴講者数:50名

講師紹介
•日系自動車会社、日系総合コンサルティングファーム、監査法人系コンサルティングファームを経て現職
•自動車関連産業を中心に、商品戦略、技術戦略、新市場参入戦略などの戦略に関するプロジェクトに従事
•自動車産業の経営層及び経営企画に寄り添いながら、戦略構築及び業務改革推進に強みを持つ
•公益社団法人自動車技術会 エネルギー部門委員会にて幹事委員を務め、 Automotive Intelligence チームリーダーとして、自動車におけるエネルギー課題に対して外部セミナー寄稿を行い、メディア等から当分野における専門家としての意見を求められている

概要報告:

EV(電気自動車)が自動車業界において世紀の大転換をもたらすという見方が社会通念と化しているなか、米国、欧州、中国のすべての市場においてEVの販売シェアが減少し、各市場での主力パワートレインは、HEV(=ハイブリッド)を含むICE(=一般的なエンジン=内燃機関)であり、日本の自動車産業が内燃機関からBEVへ大きく舵を切った可能性があるものの世界市場を見渡すとBEV市場の拡大にはまだ時間がかかるということが厳然たるデータ(=事実)である。三極の政治は、自動車産業に対し、グリーン・低炭素化を求めているが、カーボンニュートラルという目的に対しては、手段はBEVだけには限定されず、内燃機関でも可能である。CO2削減に対し、LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)の視点の重要性が高まるなかで、カーボンニュートラル燃料を使用した内燃機関のほうが、BEVよりもCO2削減効果が高い可能性がある。バイオ燃料、e-Fuel、バイオガス、水素などのカーボンニュートラル燃料により、内燃機関もカーボンニュートラル対応のソリューションとなると認識されうることから、自動車産業において、内燃機関向けの新規投資が増加する可能性、さらには、自動車産業におけるポストカーボンニュートラル時代の新しい競争(バッテリー搭載量の違いによる航続距離など)が始まる可能性がある。自動車産業は、カーボンニュートラルが当たり前化する時代の次にある自動車エネルギー源の多様化の時代において、考えられるすべてのエネルギー源に対応するソリューションを用意しなければならない。

Q&A:
Q1:カーボンニュートラルが進展するに伴い、地方のガソリンスタンドどうなってしまうのか。
A1:減少という点ではそうかもしれない。しかし、減少、効率化に着目するだけではなく、エコシステムを活かすためのカネの流入、すなわち、よい意味での「無駄遣い」が必要ではないだろうか。
Q2:カーボンニュートラル燃料としては、液体バイオが本命になるのではないか。
A2:なにが主流になるかは、地域によっても異なる。
Q3:日本の場合、水素はどこから手に入れるのか。
A3:輸入することになる。グリーン水素、ブルー水素とも安いところから買うことになろう。輸出元としては、どこでもたとえば、オーストラリア、中東など。

文責:高橋 直樹

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2024年07月26日

EVFセミナー報告:「インドってどんな国?」〜駐在経験から感じた生活と仕事〜

演題:「インドってどんな国?」 〜駐在経験から感じた生活と仕事〜
講師:大場 昇様
 元日産自動車株式会社 グローバル技術渉外部主管

聴講者数:50名

講師略歴:

1980年    同志社大学工学部機械工学科卒業、日産自動車株式会社入社
1989〜1994年 米国ワシントン事務所駐在
1997〜2002年 米国ワシントン事務所所長、米国自動車輸入協会・技術委員会委員長
2004〜2008年 ルノー社へ出向 パリ駐在
2013〜2016年 インド・チェンナイ駐在 
2016〜2022年 日産グローバル技術渉外部・日本自動車工業会、環境政策部会会長、燃費部会副部会長

講演概要

インドとは
【カースト制度は今でも存在するか?】
法的にカーストは排除されたが、現実的に存在
名前でカーストがわかる。カーストを超えての結婚は難しい
【インド人は存在しない?】
南インドのチェンナイは、北インドとは顔立ちも言葉も服装も全く異なる
・言語:
公用語はヒンディー語40%、残り60%は大括りでも30種の言語
準公用語はインド訛り英語
・宗教:
人口の80%がヒンドゥー教、イスラム教14%、他キリスト、シーク教、仏教等
・地域により、言語、宗教、習慣が異なり、「インド人」で一括りにできない
【インドはなぜ成長するのか?】
・人口と構成比
2023年のインド人口は14億2900万人、中国14億2600万人を上回る
人口構成はピラミッド型、2060年 まで人口増加
・民主主義
中国共産党による一党独裁や習近平一人へのような権力集中はなく、中央、各州の行政府と議会が機能
・エリート官僚制度
インド行政職は、毎年数十万人の応募者から 100 人程度を選抜。世界で例を見ないエリート
・インドには天才が多い説
天才は多く存在するが、総人口が多い為
現存するカースト制度のため、職業を選べない、親の職業を世襲、貧しい家庭の子供はその環境からの離脱が困難
IT産業はカーストに縛られず、優秀な人材が多い
【インドでの仕事】
・NOと言わない、言えないインド人
・とにかく喋るインド人
国際会議で日本人を喋らせるか、インド人を黙らせるかどちらが難しいか?
・「議事録を作れ」の指示は無意味
議事録は、文字を時系列に書き並べるだけ
日本本社の関心事を列挙し報告書の枠を作成、それを埋めれば報告書が自動的に作れるように
・時代の流れ?パワハラに注意
・インド人特有のプロモーション感覚
1年〜2年間、同じ仕事をすると、自分は既にエキスパートと主張
1年〜2年で配置転換を希望、昇格を要求するエンジニア多数 > 昇格のステップを細かく多段階に
【インドでの生活】
リサイクル容器は要注意、1回限りの使用の瓶、缶は安全
予防接種6種を赴任前に2回、その後、継続接種で免疫効果は半年、1年と伸びてくる。
80%の家庭にトイレがなく屋外へ、洪水で疫病
ガンジス川の沐浴は自殺行為
・食材
ヒンズー教は牛肉禁止、イスラム教は豚肉禁止、一般に入手可能は鶏肉
・水
水道水は「毒水」
雑菌、不純物多く、水道水で洗髪すると毛穴が詰まり脱毛も。洗髪後にペットボトル水でのすすぎが必要
梅干が腹痛、下痢予防に一番の効果
・酒
チェンナイでは、飲食店でアルコール提供なし
韓国料理屋や中華屋では、色付きの水差しにビールを入れ提供
ローカルのブランディーとジンは、エチルアルコール入り?
持込のアルコール類は空港で没収、日本出張から帰路にウイスキーや焼酎はペットボトルに入れ持込、お茶、水と申告

主な質疑応答

Q:国際会議でインド人の英語を聞き取る秘訣は?
A:無いです。Rの発音が独特、ひたすら慣れるしかない。仏人の英語も難しい
Q:テレビで列車の窓から乗車する光景を見るが、それは普通のことですか?
A:普通です。バスでも同様です
Q:インドでの仕事を頼まれたことがあったが、インドには行かずにすみました。(説明いただい内容は)ホテルでも同様ですか?
A:ホテルでも同じです。デリー近辺の方が水質は良くない。火が通っているものは大丈夫。キャラフに入った水は口にしないこと。ペットボトルなら大丈夫。飲食の前に梅干しが有効。5星ホテルを推奨します。
Q:フリーザはチェストフリーザですね、
A:はい
Q:パキスタン美人は北部のインド美人と同じでしょうか?
A:同じです、その地域は中国、ヒマラヤ、イスラム地域の混血が多い
Q:女性の人口が少ないとのことですが、結納金は高いですか?
A:結納は牛を何頭のケースが多いと聞く。インドでは現金紙幣より金(Gold)が大切にされている。インドではマフィアが現金を使えなくする為に突然紙幣が変わる。金なら価値がある
Q:(日産が)インドにデータセンターを投資するのは?
A:仏人が決めたことで、今後上手く行くかわからない。大変なことと思う。
Q:日産は(現地人を)どう使っている?
A:裏話もある。データセンターに反対もあったが、ITは優秀な学生を集め易い。出身大学によって給与が3倍違う。エンジニアとしては優秀な人が多い。苦労は風習、文化が違うこと。グローバルスタンダードをやろうとすると現地のマネージャーを上手く使うのがポイント
Q:カーストの低位の人々はどのようにしたら大学に入れるか?
A:難しい試験に合格するにはお金がかかり、カーストが低い人は難しい
以上
文責:松本泰郎
講演資料:インドってどんな国
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2024年06月28日

EVFセミナー報告:「環境省が果たしてきた役割とカーボンニュートラルに向けた課題」〜公害、循環型社会、生物多様性、そして真に持続可能な社会の構築へ〜

演題:「環境省が果たしてきた役割とカーボンニュートラルに向けた課題」 〜公害、循環型社会、生物多様性、そして真に持続可能な社会の構築へ〜
講師:一方井(いっかたい)誠治 様
武蔵野大学名誉教授、京都大学特任教授
聴講者数:50名

sem20240628.jpg講師紹介:
1951年東京生まれ、都立富士高校、東京大学経済学部を経て1975年環境庁入庁。環境保健部企画課、外務省ワシントン在米日本国大使館、富山県学術国際課長、環境庁環境計画課長、地球環境部企画課長、環境省大臣官房政策評価広報課長、財務省神戸税関長、京都大学経済研究所教授、武蔵野大学環境学部教授等を経て、2022年4月から武蔵野大学名誉教授、京都大学特任教授。

講演概要:
はじめに、講師が環境庁(省)に入庁(省)した経緯、職務を通じて遭遇したエピソード、排出権取引や環境税などの環境政策としての経済的措置にかかる政策研究に携わってきた経緯を紹介。持続可能性の定義、ドイツの気候政策についての解説を交え、日本の気候変動政策とGX推進法の問題点に言及された。

【ドイツの気候変動政策】
・ドイツと日本は、第二次世界大戦敗戦国として、戦後相似形の経済発展を遂げてきたが、エネルギー政策に関しては、2000年代に入りかなり異なる歩みを辿ることとなった。
・ドイツでは、2000年に政府・電力会社間で脱原発を合意、再生エネルギーFIT、エコロジー税制改革を開始。2010年に、2050年までの長期エネルギー政策となる「エネルギーコンセプト」を策定。2020年に、2038年までの石炭火力廃止を決定。2023年4月に、全ての原子力発電が停止された。
・このような急速なエネルギー政策の転換がなされた背景のひとつとして、生産性等の経済目標も織り込んだ「国家持続性戦略」(2002年策定)の前提に、自然資本は人間の福祉の究極的な源泉であり自然資本の制約を超えて成長することは不可能であるといった「ハーマンデイリーの3原則」(詳細は講演資料参照)が明記されていることにある。1990年代に大学教授も加わり、環境法典を作る試みが行われ、その法典案にハーマンデイリー3原則を一般原則として明記、それが引き継がれたもの。
・ドイツでは、GHG・エネルギー消費量の継続的な削減トレンドに合わせ、GDPは増加トレンドにあり、環境経済学におけるデカップリングが実現している(1990‐2021講演資料グラフ参照)。
【気候変動政策をめぐる日本の現状と課題】
・日本では「環境基本計画」(1994年 第1次計画閣議決定)が、国連で「国家持続発展計画」と位置付けられている。本計画は環境省所管であるが、地球温暖化対策の中心となるエネルギー政策は経済産業省専管で、経産省が反対すれば計画にエネルギー政策をビルトインできない構造となっている。
・2012年に「地球温暖化対策のための税」として石油石炭税への上乗せ税が導入されたが、CO2排出1トン当たり289円と少額で、エネルギー価格に与える影響は微々たるもの。
・エネルギー転換部門の排出量も配分された産業部門のCO2排出量は、ほぼ横這いで推移しているが(1990-2021講演資料グラフ参照)、その原因は、産業界自身の自主的な削減努力(経団連「環境自主行動計画」1997年策定)に負っており、炭素税・キャップ付排出量取引制度などが本格的に導入されておらず、市場メカニズムによる経済的な削減インセンティブが働いていなかったことにある。
・京大経済研究所における実証研究(1999-2006年度)で、日本企業はまだ費用をかけずに温室効果ガスを削減する余地があることが判った。企業の自主的努力のみでは、今後大幅な削減は期待できない。
・昨年制定されたGX法において「GX経済移行債」の償還財源として、カーボンプライシング(賦課金)を整備することが織り込まれたが、本格的な排出量取引制度の導入は2033年から、化石燃料輸入者等からの「炭素にかかる賦課金」は2038年から導入とされており、企業等の経済合理的な削減努力が促進されるという、カーボンプライシング本来の市場主導型の政策となっていない。
・カーボンプライシングは、2050年カーボンニュートラル実現の最後の切り札で、経済にも環境にも良い効果をもたらすものと考えているが、GX法の「先行投資支援」という枠組みは、経済産業省の補助金行政という古いタイプの政府主導型の政策という側面が強い。

主な質疑応答
Q1:日本においては、2000年代に入っても火力発電所がリプレースされているが、阻止できなかった理由は?EUでは炭素税による国境措置が導入されたが、日本で同様の検討が進まなかった理由は?
A1:火力発電は、環境省で環境アセスメントを厳格に行えば止められるのではとの議論があったが、様々な圧力でうまくいかなかった。カーボンプライシングについては、かなり以前より環境省と経産省で各々検討会を設け議論を継続してきたが、政府首脳に本格的に導入する意識が乏しかった。EUの動きをみて、あわててGX法を立法したが、日本もきちんとしたプライシングが出来ているとEUが評価してくれるか怪しい。

Q2:排出量取引制度が進まないのは、ベースラインの設定や評価方が定まらないことが理由としてあげられていたが、今どうなっているのか?
A2:ベースライン、評価方についてEUでも様々な議論を経て排出量取引が導入されたが、決め方の不公平感の問題は解消できず多くの訴訟が起こった。その後電力会社から順次、域内の排出総量を予め決め、オークションでの入札方式に切り替わっている。これにより排出総量は守られ、排出削減努力をした企業がコスト安となるといった合理的な市場メカニズムが働くようになった。

Q3:蓄電池とセットでの太陽光発電の住宅への普及、核融合発電の開発が進めば、電力の国内での自賄いが可能となるのでは?
A3:住宅への太陽光発電は、まだ普及の余地があり進めていくべきと考える。一方で、核融合の開発・実用化については慎重を期すべきと考える。クリーンエネルギーだからとの理由でお墨付きを与えると使用に歯止めが効かなくなり、軍事利用等に悪用される危険がある。私見ではあるが、フローの太陽エネルギーなど、エネルギー使用に自ら制約を課した方が、人類の文明は幸せで安定的なものになるのではないかと考えている。

Q4:化石燃料の輸入に約30兆円のコスト負担をしており円安リスクも続く。自然エネルギーで国内自給が可能となれば、全国の各地域の家計に戻ってくる。エネルギー政策、選挙対策としてアピールしない背景には何があるのか?
A4:ドイツでも石炭・天然ガスを輸入しており、化石燃料を自然エネルギーにシフトすることの経済的メリットについて、政府が大々的にキャンペーンをはり国民にアピールしている。日本の政府が、なぜドイツと同様の政策アピールを行わないのか、ドイツと異なる原子力発電政策もその背景にあると思うが、理由はよくわからない。

Q5:政府は、カーボンプライシングの良さを生かそうとせず、実施も今から相当先に設定したり、これを税収の手段とみるような動きがあるとのお話だが、もう一方の当事者である経済界、経団連辺りの動きも鈍いように思えるが、如何なものか?
A5:ご案内のように当時の経団連は1997 年の京都議定書採択の年に、環境庁などの炭素税導入の動きに対抗し「環境自主行動計画」を公表し業界内での自主対策を進めてきた。もとよりACLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)など、本格的なカーボンプライシングの導入を積極的に提言する経済団体もあったが、その後の経済界での広がりは必ずしも顕著なものではなかった。その意味では、経済界、経団連周辺の動きは未だかつての認識・対応から大きくは変わっていないというのが私の印象。
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文責:伊藤博通


講演資料:環境省が果たしてきた役割とカーボンニュートラルに向けた課題
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2024年05月24日

EVFセミナー報告:不動産不況、地方政府巨額債務問題そして地政学的リスクの高まりに立ち向かう中国

演 題 :「不動産不況、地方政府巨額債務問題そして地政学的リスクの高まりに立ち向かう中国」
講 師 : 結城 隆 様
 多摩大学経営情報学部客員教授
聴講者数:50名

講師略歴:

1955年:福島県生。一橋大学経済学部卒。
1979年:日本長期信用銀行入行、調査部、ロンドン支店、マーチャントバンキンググループ、パリ支店、ニューヨーク支店勤務を経て1999年ダイキン工業経営企画室、大金(中国)投資有限公司(北京)など。
2021年より現在:多摩大学経営情報学部客員教授
著書(含む共著・共訳):「アラブ産油国の挑戦」(日本経済新聞社)、「路地裏の世界経済」(東洋経済新報社)、「キャピタルシティー」(訳書、東洋経済新報社)、「中国市場に踏みとどまる」(上場大のペンネームで執筆、草思社)など。世界経済評論IMPACTに隔週でコラムを寄稿している。

講演概要:

・不動産不況
不動産不況の原因は、過剰投資、過剰な借り入れ、過剰在庫である。その引き金は2019年の政府による過剰投資への警鐘と2020年からの金融規制。その結果不動産開発業者の相次ぐ債務不履行と建設中止が起こった。この不動産問題に対して中国政府は施工中断した工事の再開と新規着工の抑制、金融危機抑制のための貸し手責任の追及も含む金融機関の監督強化、需要喚起のための金融緩和と不動産購入規制の撤廃等に全力を挙げて取り組んでいる。この結果中断していた工事の完了、大手不動産会社の株価アップ、消費者の購入意欲の向上が見られ始めている。銀行の不良債権は依然として残るがその比率は低下傾向にあり銀行の倒産が相次ぐという事態は避けられそうな状況。

・「新三様(EV、電池、太陽光発電パネル)」の成長力
不動産に代わる成長エンジンとして浮上しているのが「新三様(NEV、電池、太陽光発電パネル)」。特にNEVに関しては世界市場において中国のシェアは60%を超えた。国内の充電スタンドもNEV2台に1台の充電スタンド体制が構築されつつある。さらにリチウムイオン電池の世界生産シェアも圧倒的であり今後も拡大の見込み。但し中国NEVの課題としては、過剰生産能力と国内の過当競争、充電スタンドの品質問題、発火事故等の安全性、商品開発面での日欧米メーカーの猛追、欧米の保護主義の台頭といったことが上げられる。

・地政学的リスク
中国製品の世界貿易シェアは30%を超えている。No.2をとことん抑え込みたい米国としては、台頭する中国に対して貿易戦争を仕掛け中国の押さえ込みを図っている。中国の一帯一路構想には140カ国以上が参加、この10年間で中国は参加国に対し1兆ドルの投融資を行ってきた。最大の貿易相手国が中国とする国が120カ国に達しASEAN諸国の中国に対する信頼度は米国を上回ってきている。他方米国は9.11以降85カ国で反テロ軍事介入し、ドル覇権を利用した制裁措置を乱発。またウクライナ戦争、イスラエル・ハマス戦争によって欧米の偽善と虚偽が明らかになりつつある。中国はロシア、フランス、セルビア、ハンガリーに近づいており米国逆包囲網は徐々に進んでいるのが現状。
・  ・  ・
日本のマスコミ報道の影響を受けて中国経済低迷の印象を持っていたが、不動産問題、新技術等について着々と対策が打たれており、日米欧が追いかける展開になっていることに気づかされた。非常に有意義なレクチャーだった。

Q1.中国では不動産は所有できないと言われているが実態は?
A1.土地の所有権は国のモノ。土地の使用権が50年の期限付きで売買されているのが現状。50年の期限到来後は、おそらく自動延長されることになる。国としては固定資産税を課すことができないかと水面下で議論されている。

Q2.人口減少問題はどうなっているのか?
A2.二人目三人目の子供は六歳まで生育補助金を出すこと等の少子化対策がなされている。また高額な教育費についても問題で塾の禁止等の措置が取られている。高齢化問題については、党が運営する「社区(町内会のようなもの)」が、高齢者向け食堂の運営やレクレーションの開催、見守り活動などを行っている。

Q3.日本企業の中国への投資は今後どう考えるべきか?
A3.ほとんどの日本企業は追加投資を控えているがニデックのように積極投資の企業もあるのが現状。投資を控えるという一辺倒はいかがなモノかと思われる。

Q4.不動産融資で貸した人の党員剥奪とは具体的にどういうイメージか?
A4.非常に不名誉なことで経歴にキズがつき禁治産者的なダメージを受ける。

Q5.EVシフトしている中国の電源構成(化石燃料、原子力、再エネetc)と今後の見通しは?
A5.2022年時点で、化石燃料が7割弱、グリーンエネルギーが3割弱、原子力が5%という構成。化石燃料の殆どが石炭。太陽光と風力発電は10%程度。海上巨大風力発電設備の設置や、甘粛省、新疆ウイグルの砂漠地帯での巨大太陽光発電プラントの設置などにより、再生可能エネルギーのシェアは中期的に見れば30%程度まで高まる見込み。

文責:桑原
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2024年04月27日

EVFセミナー報告:ボロンドープダイヤモンド電極による海水から直接水素製造するシステムの構想

演題:「ボロンドープダイヤモンド電極による海水から直接水素製造するシステムの構想」
講師:下田一喜氏
株式会社エイディーディー代表取締役社長
聴講者数 : 40名

se2024042701.jpg1.講師紹介
日本大学経済学部卒業
温度調節器メーカー、チラーユニットメーカー、真空機器メーカー勤務を経て、2001年株式会社エイディーディー(ADD)を設立、それより現職

2.講演概要

ADD社は、「チラーのメンテナンス」から「合成ダイヤモンドを使った製品の開発・提供」までの4事業に展開しており、成功したビジネスになっているものが多い。最近取り組んでいるダイヤモンド電極による海水を直接、水分解することによる水素製造は有用であるとの印象を受けた。 

1.ADD社の国内半導体メーカー用のチラーでは「−100℃まで冷やすチラー」から「−120℃の超低温まで冷やすチラー」まで扱っており、特にTSV(貫通電極)用超低温チラーを製造提供している。超低温チラーの実績を持つのはADD社のみである。

2.「−120℃まで冷やすチラーCW-1221」はタイヤメーカーにスタッドレスタイヤの長時間のテスト用に毎年30台程売れている。
又、自動車用の半導体のテスト用(-45℃)にも使われるようになってきている。こちらは今まで使われていたフッ素系液体がPガスの規制に引っかかって発がん性があると言うことがその理由で、来年からこのチラーを月に50台から100台位作ることになりそうである。

3.クライオバス フォーフット(足湯タイプで足を―100℃に冷やす)は3分間入るだけで、こむら返りがなくなる効果があって売れている。全日空の地上業務員が月に2000人位、足のむくみの改善に利用している。
クライオバス(人間の体の全身を―100℃に冷やす)は、サッカー選手などのスポーツ選手用にも使ってもらっている。
クライオバス フォーソール(足裏のみを―100℃に冷やす)は、ヴィッセル神戸がハーフタイムに使って、昨年優勝したので、宣伝になった。これは、保冷剤をフリーザーで冷やしたものを置くだけだが、高齢者施設で使われて足のむくみが取れたという報告がされていて、厚生労働省でロコモ(*1)対策になるのではないかと言われている。

4.又、ドライアイスの代わりになる商品を開発し、ゼロドライアイスサービスを行っている。これはファイザー社の新型コロナワクチンの第3接種時の輸送に使われた。これで、-65℃以下に32時間キープできた。

5.ダイヤモンドの軸受けは、ダイヤモンドが最も硬い物質で摩耗が殆どなく、摩擦係数が低いことから、風力発電機に着目して提供することを考えている。これを使うことによりほぼメンテナンスフリーにできる。更にバーティカル風力発電機は発電機を大きくできないという難点もダイヤモンド軸受けでカバーできる。

6.ダイヤモンド電極は貴金属の電極に比べ長寿命。その合成方法は真空チャンバー内にフィラメントを張り、メタンガスと水素ガスを入れ、フィラメント温度を2500℃まで上げると、メタンガスはプラズマ状態になり、炭素と水素に分解し、そこに水素ガスを流し込むと、その分解した水素とくっついて系外に排出される。残った炭素が基材の表面にくっついてダイヤモンド膜になる。

7.海水電気分解用ダイヤモンド電極は、海水を循環させながら定電流の条件で計96時間運転し、電極が変質することはなかったこと、生成物が付くこともなかったことを確認した。今度東海大学の使っていない水族館を使って何か月というオーダーのテストを行う。電気分解の効率を上げるには導電率を上げることで、ホウ素(ボロン)を今の1.0%から最大の1.5%まで上げる計画をしている。

8.ダイヤモンド電極でCO2からギ酸を作ってギ酸の燃料電池に利用する研究も行っている。これはダイヤモンド電極が強酸、強アルカリにも強いという点を利用していて、低濃度のCO2を水に吸収させてそれからギ酸を作る方式で、今は50Wの規模まで進んでいる。

4.質疑応答
  主な質疑は以下の通り。

Q.(クライオ機器の説明を聞いて)これで凍傷にはならないのですか?
A.なりません。20〜30分入ると凍傷になりますが、3分間ならなりません。3分なら表面の血管だけが収縮し、クライオバスから出ると、周りの空気と温度差が140℃位あるので、脳が無茶無茶暑いと勘違いして血管を膨張させ、血流が良くなります。

Q.最も硬いダイヤモンドの平坦化はどのようにするのですか?ダイヤモンドの硬さを変えることはできますか?
A.ダイヤモンドの朋削りでできます。熱線射方式もありますが、当社は朋削りでやっています。朋削りは圧力をかければ、5分位でできます。
ダイヤモンドの硬さを変えることはできません。

Q.本日の発表は成功事業が多く、内容がきらきらしているように感じます。私が20年位前
の現役の頃にダイヤモンドコーティングを扱っていて、ダイスに使えないかと考えて富士ダイスや旭ダイヤモンドと接触していましたが、そのような会社との付き合いはありますか?
風力発電をターゲットにされていますが、いくら位で作れば売れると思っていますか?
A.旭ダイヤモンドとはないです。富士ダイスは知っていますがこちらもないです。まだ合成ダイヤモンドは市場が小さいですし、着目している企業は少ないと思っています。風力発電の全体のコストは把握しきれていませんが、小型のものでも5〜6百万円するのに発電量が何百Wということで、市場に出ないと思っています。その理由は軸受けなどにコストが多くかかっているからで、特に風力発電は竪型設置なので回転力と遠心力をどのように抑えるかが課題で、全体の荷重を1か所で支える軸受けがネックです。余談ですが、今後は水力発電にもダイヤモンドがSiCの軸にコーティングする方法などで使えると考えています。

Q.2023年4圧3日の静岡新聞でADD社と東海大学工学部と清水銀行は駿河湾の海水を電気分解して水素を製造する。3者連携で3年間技術研究して2030年位に長時間稼働できるプラントとして実用化を目指すと書かれています。そのイメージは、駿河湾に水素生成ステーションを作って、風力発電した電気を使って、駿河湾の海水を直接電気分解して水素を製造して、それを提供するような感じでしょうか?
A. イメージはそうです。特徴として、設備が駿河湾の湾内だと塩素が出ても希釈され問題なくなる(他物質との反応による分解やその量的な影響を確認すれば?)という点が良いと東海大学の先生が指摘しています。
又、産学金という組み合わせが、とても強いとの指摘もあり、有望視しています。

Q.ダイヤモンド電極による海水の電気分解の課題は何ですか?価格的な問題ですか?効率の問題なのか?副生物である塩素などの処理ですか? 
A.ダイヤモンド電極の利点は寿命が長い、腐食がない、メンテナンスフリーですが、電気分解の効率をどれだけ上げられるかが課題です。 それにはホウ素ドープ量のコントロールが必要で、それによって電気を流れ易くすることで、そこをこれから我々はやっていくところです。それができれば、海水の電気分解を行っている場所は(風力発電の設置場所の関係で)海岸から100m行ったところになれば、水深も相応にあるので、副生成物は希釈などで対応可能と考えています。
以上   
文責:浜田英外

講演資料:海水から直接水素製造する構想
 
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