2020年10月22日

セミナー案内:「コロナ後に何が来るのか?〜世界史の転換」

WebSemiIcon.jpg 10月22日 EVF Webセミナーのご案内
演題: 「コロナ後に何が来るのか?〜世界史の転換」

講師:加藤 茂孝様
元、国立感染症研究所室長、元米国疾病対策センター(CDC)客員研究員

sem2020102201.jpg

<セミナーの概要>
1.パンデミックの度に世界史が多かれ少なかれ転換した。
2.14世紀のヨーロッパのペスト(黒死病)で、人口が激減し、中世から近世への大転換が起こった。
3.2019年から始まった新型コロナのパンデミックは、世界同時不安を起こした21世紀型パンデミックであった。このパンデミックで我々の住む世界は大きく変わると予想される。何がどう変わるのであろうか?
本講演では、今まさに猛威の中にある新型コロナウィルスによって、何がどう変わるのかについて語っていただきます。
sem2020102202.jpg
日時:2020年10月22日(木)よりWeb公開いたします
  場所:ご自宅のパソコンやスマホからご視聴お願いします
  参加費:個人賛助会員・ネット会員 1,000円、一般 1,500円
  (指定口座に振り込みお願いします。
   振込手数料は参加者様にてご負担をお願いします。)
  お申込み締切り:10月18日(日)
  参加費振込期限:10月19日(月)
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
お申し込みは下記のURLをクリックして必要事項を記入し送信をお願いします。
セミナーの申込み : https://www.evfjp.org/postmail_semina/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

posted by EVF セミナー at 00:00| セミナー紹介

2020年09月24日

EVFセミナー報告:「日本がこの30年間 GDPがなぜ成長しなかったか」

演題:「日本がこの30年間 GDPがなぜ成長しなかったか」
 講師:ビジネス・ブレイクスルー大学大学院経営学研究科教授 工学博士 宮 正義様
 Web視聴開始日:2020年9月24日(木)
 参加視聴者:〇〇名

1.講師紹介
・1966年 京都大学工学部化学工学科卒業
・1966年 フルブライト留学生として米国イリノイ大学大学院に留学
・1970年 旭化成株式会社入社
      HDPEの製造、ポリオレフィンの研究開発(15年間)
      LSIデサインセンター、LSI情報技術研究所(10年間)研究開発本部(8年間)
・2003年 技術経営研究所設立(研究開発コンサルタント)
・2005年 立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科 客員教授、教授
・2016年 ビジネス・ブレイクスルー大学大学院経営学研究科 教授

U.講義内容
<現状>
この30年間、日本はGDPがほとんど伸びておらず、人口も増えていない。
sem202009244.jpg  
<30年間の停滞の本質は何か>
1.日本経済の振り返り
平成30年間の日本経済を振り返ると、まずは1985年のプラザ合意により1ドル240円が2年後には120円の超円高になり、日本経済が深刻な円高不況になったことが停滞の発端。この結果大規模な財政出動と大胆な金融緩和を余儀なくされ、その後の巨大なバブル発生の原因となった。
続いてアメリカ主導による1986年の日米半導体協定と1991年の輸入割当により、日本の半導体産業は競争力を失うこととなる。
円高による産業の空洞化と安い材料の輸入で製造業、第一次産業等壊滅的打撃を受けた。
戦後日本の経済復興の要因であった日本型金融システム(不動産を担保として低金利で資金調達が可能)だが、バブル崩壊により不動産の単なる担保割れの問題が銀行の自己資本減少、銀行による「貸し渋り」「貸し剥がし」となり多くの企業の倒産に繋がった。今までに経験したことのない不良債権処理で専門家の意見は大きく割れ、対応が遅れに遅れた。
2.人口減少
一人あたり実質GDPが不変であるとすると、GDPは人口の増減に規定される。人口が減少しているのでGDPも減少することとなる。
3.低い労働分配率
企業の売上高は殆ど同じだが、経常利益と内部留保が大きく伸びた。労働分配率の低下と非正規労働者の比率がアップし、平均賃金が欧米と比べて日本だけが低下している。
4.研究開発の効率の悪さ。
米国では研究開発費の支出が多い企業ほど生産性の成長率が大きいが、日本では研究開発費が大きいものの革新的な商品開発が少なく生産性向上に結びついていない。
5.低い国内投資額
実質GDPに占める日本企業の国内設備投資額は、1980年代までは17〜18%だったが、2000年代以降は12〜13%まで落ち込んだ。

<提言>
内部留保の一部を従業員に還元して、賃金をアップ。
労働分配率を67.7%から70%台にアップ。
国内への設備投資の増加。
国内消費を増やすためには内部留保を国内設備投資に回し、国内賃金アップが必要。
優等生であるフランスの施策を参考に少子化対策の実施。
子育てに優しい国になれるように、国民全員で努力。

V.主な質疑応答
Q1.日本が不良債権問題等に十分な対応ができていなかった背景には、日本政府が問題を軽く見ていたとか、日本人が低賃金でも我慢するという精神構造があるのでは無いか。
→日本政府の役人は過去に起こったことを調べて対応するという能力には優れるが、全く経験したことがないような事象に対しては優秀性を発揮できなかったのではないか。

Q2.日本だけがこれほど成長がないという原因は、政府の施策のまずさと人口減少以外に起業家マインドの欠如、DX化の遅れ、パラダイムシフトへの乗り遅れ等の日本特有の構造的な問題があるのでは無いか。
→日本の産業の育成が米国に押さえつけられたということが一番の大きな要因であるが、確かに日本ではベンチャーの育成やイノベーションの活用ができていないのが問題。

Q3.効率が悪いとはいえ、多額の研究開発をしている日本にはまだ期待が持てそうな気がするが・・・
→日本の研究開発も他社のマネをするのではなく、世の中に無いモノの開発等の独自性・クリエイティビティを発揮するように努力しないといけない。

Q4.労働生産性のアップのためには、労働市場の流動化が必要ではないか。
→競争力の無い低い生産性の領域から競争力のある領域へのシフトが必要。政府は競争力の無い領域の保護に力を入れるのではなく、競争力のある領域への労働力のシフトのための人材の再教育に力を入れるべき。

Q5.人からAIに労働がシフトすると、労働分配率がますます下がるのではないか。
→そうならないように新しい仕事に対応できるように再教育が必要。特に40代、50代の人の再教育が必要。

Q6.日本が30年間GDPを成長できなかった理由が理解でき、心のもやもやが晴れてきた気がいたしました。政府、国民とも、これに対する問題意識が薄く、目標設定と改善への取り組みが必要と思います。
→今後の日本の目標設定と改善策はぜひ必要と思いますが、非力な私には講演でこの点を述べることが出来ませんでした。

Q7. 貿易自由化(グローバリズム)の錦の御旗の本家本元が耐えきれず自国第一に転じざるを得なくなったいまこそ、我が国は我が国に日本第一に立ち返る道はないものでしょうか。
→現在の米国と中国の経済的、政治的対立は、35年前の日米の関係と類似していると思います。日本は米国の強権に屈してプラザ合意以降の展開になりました。中国は日本と異なって米国に対抗しようとしており、この摩擦は今後10年以上続くと思います。米国は段々競争力が弱くなっても、自国が世界一でないと許せないと思う人が多い国です。日本第一でなく、米中の狭間で近隣諸国と協調して段々日本独自の政策を展開すべきと思います。

Q8.わが国の閉そく感の対価として、米国民は経済成長に見合う幸福を享受しているのでしょうか。
→今のアメリカの大統領選挙戦をみれば、国内の分断が激しく共和党支持者と民主党支持者共に不満が渦巻いています。

Q9.プラザ合意以降30有余年、現在の円市場は概ね105円、現在の円相場はなお強いられたものなのでしょうか。
→経済の専門家でも為替相場の動向は、政治的・経済的な変動要因が多過ぎて予測できないと思います。個人的には100円〜110円が妥当かと思います。以前79円の時もありました。アメリカ政府の意向は、円相場に陰に陽に反映しているかも?

Q10.日銀の調査研究で、「先進国の中で、生産年齢人口一人当たりのGDP成長率は、日本が一番高い。」との視点もあるように思いました。
→私が調べた日銀のワーキングペーパーシリーズには、その様な記述はありませんでした。生産人口一人当たりのGDP成長率が、日本が一番高ければ30年間のGDPの停滞は無かったと思います。

文責:桑原 敏行

講演資料:日本がこの30年間 GDPがなぜ成長しなかったか
posted by EVF セミナー at 16:00| セミナー紹介

2020年08月27日

EVFセミナー報告:「グリーン・リカバリーの中で進める脱炭素化」

演題:「グリーン・リカバリーの中で進める脱炭素化」
   〜始まったコロナ後の経済回復、グリーン・リカバリーの議論〜

講師:公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)気候エネルギー・海洋水産室長 山岸尚之様                
Web視聴開始日: 2020年8月27日(木)
視聴者予定数: 45名
講師略歴:
 •2001年3月に立命館大学国際関係学部を卒業。
 •2003年5月に米ボストン大学大学院にて、国際関係論・環境政策の修士号を取得。
 •卒業後、WWFジャパンの気候変動担当オフィサーとして、政策提言・キャンペーン活動などをはじめ、国際的な提言活動に携わる。2020年より現職。
 •著作:諸富徹・山岸尚之/編(2009)『脱炭素社会とポリシーミックス』日本評論社など
 •その他:外務省・気候変動に関する有識者会合(2018年1月〜4月)など

講演概要:
講師の山岸尚之氏は、気候変動に関するペシャリストで、EVFにおいてもこれまでCOPの報告など4度にわたりご講演をしていただいている。今回はコロナ禍後の、脱炭素化を目指す経済回復(グリーン・リカバリー)のグローバルな動きについてお話しいただいた。
コロナ後の経済回復について他の国々における活動を詳しく述べられ、遅れている日本の意識改革を強く求める講師の思いが伝わる内容であった。
1. 感染症拡大に起因する経済危機のCO2排出量への影響
今回のコロナ禍によるCO2排出量は8%の減少率(1日あたりでは17%減の日もあった)になり、絶対量としてリーマンショック時の6倍、第2次世界大戦後の減少をも大きく上回る。しかしながら、このまま経済回復すれば元に戻るだけとなる。
大気中のCO2濃度への影響は平均414ppmをほんの少し減らすだけとなる(温暖化を少し遅らせるだけ)。
2. グリーン・リカバリーの国際的な議論動向
欧州委員会は4月9日に欧州グリーンディール(COP25において環境保護施策を議論)をコロナ後の経済復興の中心とすべしと提言。7月21日には欧州理事会で7年間の投入予算を合意。
これら欧米の素早い対応は、コロナ以前よりグリーン対応による経済競争(攻勢)力をどうするか考えていることによる。
講師から、具体的な例としてフランスのエールフランスに対する支援の条件としてCO2削減目標や持続可能な代替燃料の導入などを入れたこと、カナダの大企業の支援策に気候関連情報開示を義務付けたことなどが紹介された。
欧米の企業や自治体などの非国家アクターについても述べられ、あの米国においてさえも300社に以上が賛同している。
日本JCI(気候変動イニシアティブ)も国に訴えている。
3. 日本の対応
わが国では、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策が4月7日、その改訂版が4月20日に発表されたが、感染防止対策と雇用・事業維持の緊急フェーズや経済活動回復とサプライチェーンやDX加速などのV字回復フェーズをあげ、気候変動対策などのグリーン・リカバリーのビジョンはほとんどない。ヒアリング段階で日常的な援助を求める声が多かったせいかもしれないとのこと。 
国際的な経済競争力を高めるためにも、国内におけるグリーン・リカバリーを目指す議論を増やしたい。講師からは、IEAの持続可能な回復プランや、オックスフォード大学の研究チームの示す政策分野がヒントとして示された。この中で建築物に注目すれば断熱効果による省エネ、雇用拡大が期待されるのではないかという。
更に注目しているのは、日本のエネルギー基本計画である。2018年に見直す年であったが2015年の案をそのまま踏襲している。現状に合っていない原子力の割合や国外から注目されている火力発電の割合の見直しがある。
防戦一方の日本の温暖化防止対策だがこの機にグリーン・リカバリーを皆ですすめようと締めくくられた。
4. Q & A
 Q1: CO2の影響のところで、排出量が減ったのにCO2濃度はほんの少ししか減らないとあった。温暖化防止には蓄積されたCO2を減らすこともクローズアップすべきでは。
 A1: CO2の寿命は長く、急には止められない。言われるようにCO2濃度を下げる方に注目してもらえれるようにしたい。
 Q2: 効率の悪い小規模石炭火力を廃するなどと言いながら、追浜大規模火力発電所を作ろうとしている。2050年までに火力発電をなくせるとは思えない。
 A2: 日本のエネルギー政策は3E+S(Energy Security, Economy Efficiency, Environment, Security)であり、石炭は資源が偏在しないことや安いことがあてはまる。ガス化や再生可能エネルギーでやや遅れていることもあり、石炭に執着があるようだが世界的な動きに合わせて変わらなければならないであろう。
 Q3: 欧州では車はEVへと転換しているが、日本ではコロナ後もEV転換の声が聞かれないが。
 A3: 欧州ではコロナ以前からEVについて議論していたので、グリーン・リカバリーに合わせた。日本では議論が進んでいなかった。
 Q4: 航空会社への支援条件として、2%の持続可能な代替燃料の導入とあるがどんな燃料になるか。
 A4: ICAOはカーボンニュートラルを進めており、CO2増加分を代替燃料とカーボンオフセットで賄おうとしている。いくつかのバイオ燃料を混ぜて使うことになろう。
 Q5: ユーグレナによる航空機燃料が研究されていると聞いている
 A5: 詳しいことは聞いていない。航空機の電動化は無理と言われているが、最近小型機の電動化の話がある。
文責:津田俊夫

講演資料:グリーン・リカバリーの中で進める脱炭素化
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介

2020年07月23日

EVFセミナー報告:「改革」のタイミングと内容は適切?これからの水産業と魚食文化を考える

演題:「改革」のタイミングと内容は適切?これからの水産業と魚食文化を考える 
講師:東京大学大学院農学生命科学研究科 教授
   八木信行様
Web視聴開始日:2020年7月23日(木)(約2週間)
視聴者:52名
 
T.講師紹介
八木先生は、1987年に東大農学部水産学部をご卒業後、農林水産省に入省。1994年にはペンシルバニア大学のMBAを取得。2008年から東大の生命科学研究所で漁業経済学や農学一般を研究され、学界・官界・ビジネス界で幅広い経験をされている。日本の水産業に対する考察・提言をご講義いただいた。

U.講演概要
導入部分で世界における天然漁獲と養殖の推移を確認し、各国漁業の特徴を踏まえ、日本が直面している漁業改革の問題点に迫った。2018年12月に漁業法が70年振りに改正され、今年の12月に施行される予定である。改革の要点は三点ある。
(1) 一つは、経済効率を高めることを重視して、「漁場が適切かつ有効に」利用されていない場合には、漁協以外の民間参入を認めること。
(2) 二つは、乱獲を防ぐため、条件が整った魚業種については、漁船隻数及び漁場の制限の従来管理に加え、船舶毎の漁獲を割当制にしたこと。
(3) 三つには、密漁防止のため罰則を三年以下の懲役または三千万円以下の罰金とすること。
現行の漁業法は、江戸時代から続いていた慣習を明治時代に立法化したもので、浜の秩序を維持し漁場を保全するために役立っているとの肯定的な見方は多いが、一方で(秩序を維持しすぎて)新規参入を阻害しているとの否定的な見方もあり、多様な意見が存在している。
このような中では “ゼロ”か“1”かの判断を求めてイデオロギー的な対立になることは時間のムダ。ゼロでも1でもない最適な解を求めて新漁業法の改革をすることが課題であった。その基準は、経済・社会・環境のバランスを考えていくことである。
以上、多岐にわたる分野に関連し、しかも複雑に利害が絡み合う水産業のお話をわかり易く、様々な蘊蓄も交えてご説明いただいた。その蘊蓄をいくつか紹介しておく。
*イカ・サンマは1〜1.5年と寿命が短いので、今年海にいる親魚の数から翌年の魚の数は予測が難しい。しかしマグロは7〜8年は生存するので多少の予測が可能。魚の中には、資源管理を人間が行うことが困難な種類と、比較的可能な種類がいる。
*ノルウェーは1980年代にサケ養殖を始めて、それまで塩漬けして新巻として食べられていた鮭を刺身で食べられるよう、日本・アジア・アメリカ向けに出荷した。その技術はチリに移転されている。天然のサケは寄生虫が怖いため刺身で食べる習慣が90年代までの日本にはなかったが、寄生虫フリーの養殖魚がマーケットに浸透し、新しい需要を作った。
*鰻が高いと言うが、江戸時代の鰻の価格は蕎麦の5倍ほどだったので、うな重が現在約3000円でも物価水準価格として妥当だろう。90年代は、ヨーロッパ産の稚魚を使った養鰻業が中国で盛んになり加工鰻が大量に日本に輸入されたためウナギの蒲焼きが1000円程度であったが、鰻としては安すぎたと言える。

V.講演の内容
1. 世界の漁獲高と各国漁業の特徴
(1) 国連食糧農業機関の統計によると、世界の漁獲高のうち、天然漁獲は1950〜1980年代に伸びている。船を造ればその分漁獲量が増えた時代だったが、1990年代以降は横ばいである。
養殖の方は、1990年頃から漸増している。エサを必要とするブリや真鯛等はそれほど数が伸びていないが、エサを必要としない貝類(ホタテや牡蠣等)が伸びているためである。
一方、日本の天然漁獲は1985年代半ばをピークに漸減している。養殖も1970〜1980年代がピークであり、以降はほぼ横ばいである。生産減のパターンは日本の農業も同じ。
天然漁獲はドイツ、イタリア、スペインなどの先進国は皆減少している。労働力が工業やサービス業に流れている。
中国は、1980年代半ばに天然漁獲が急増した。1990年代からは養殖も急増している。内水面にある池で、淡水魚(エサは植物)を養殖した影響が大きい。インドネシアやインドも漁獲量は近年伸びている。
まとめると、途上国は生産を伸ばし、先進国は生産を減少させているのが水産に関する世界の趨勢。
(2) ノルウェーは先進国の中でも減少幅が少ない。天然漁獲が長期的にそれほど減少しておらず、養殖で“ノルウェー・サーモン”を開発し成功している。以前はアラスカ産の塩鮭を新巻として売っていたが、2000年頃養殖化して生鮭を日本・アジア・アメリカ市場に出荷した。養殖の過程で、寄生虫を排除し、新たに生鮭食文化を創り出した。その技術は、チリにも移転されている。

2.「なぜ日本で漁業の生産量が減少したか」の課題に対する需要と供給面からの考察
経済学では、需要が生産量に大きく影響するとされる。漁業では需要の減退(=魚離れ)が大きい。水産物の輸入も2000年代から減少している。輸入しても売れない、漁獲しても売れない、といった声は業界内で多い。
(1) 漁業資源学の立場からは、漁業生産量=q×努力量α×資源量βである。
       q定数 α・β無視できる乗数
      漁業者の数が減っていることに伴う努力量の減少と、資源量減少の双方が生産量に影響していることがわかる。就業者の統計を見ると、日本の場合は漁業者は明らかに減っている。資源量は、減っている魚種も多いが増えている魚種もある。減っている理由は気候変動、過剰漁獲、沿岸開発など様々だが、どの要素がどの程度効いているのかといった研究はなされていないのが現状である。
(2) 以上考えると水産業の場合、消費者・流通(需要)そして供給者の立場から見ても、産業を強力に持ち上げる材料に乏しい。消費者の立場では、人口の減少・老齢化等で魚離れが進んでいる。流通の段階では、スーパーが売残りリスクを避けて取扱品目を限定し、人気魚のマグロ・はまち・鯖・鰻・サケ等に力を注いでおり、不人気なシイラ・サメ・エイなどは店頭に並ばない。日本近海では150−200種ほどの魚が獲れるが、スーパーに並ぶのはその1割にも満たない種類。あとは非食用に回っている。供給も、輸入量の減少・船員の高齢化・船の老朽化等、課題は多い。
3.日本と漁業先進国ノルウェーとの漁業比較
日本における漁業の生産現場では、流通や加工を含めてトータルで見たときに、効率化が不足していると考えられる。例えば、日本での水揚げは小型船を一人で繰り人力で行うが、陸揚げやセリは多数の関係者が関与する。ノルウェーにも日本のような小型船は多く、彼らは日本と似たような効率の低さであろうが、大型船の操業は極めて効率的。漁獲物の陸揚げ作業から加工から梱包まで自動化されているため、雇用人数が非常に少なく、遙かに経済効率性が高い。日本の場合、消費者価格を100として漁労者25、中間流通業者35、小売業者40の取り分と言う。ただ経済効率性を優先させるのか、雇用を優先させるのかについては、双方賛否両論がある。ゼロか1かの議論をして合意形成は図れないのが悩ましいところ。

4.新漁業法改革の要点
今年12月に施行予定の新漁業法は、水産業の成長産業化をめざす点からは産業政策であり、経済効率の向上を図るものだが、改革の要点は漁業権をどう考えるかで様々な意見がある。改革の要点は次の三点である。
(1)一つは、経済効率を高めることを重視して、「漁場が適切かつ有効に」利用されていない場合には、漁協以外の民間参入を認めること。
(2)二つは、乱獲を防ぐため、条件が整った魚業種については、漁船隻数及び漁場の制限の従来管理に加え、船舶毎の漁獲を割当制にしたこと。
(3)三つには、密漁防止のため罰則を三年以下の懲役または三千万円以下の罰金とすること。
現行の漁業法は、江戸時代から続いていた慣習を明治時代に立法化したもので、浜の秩序を維持し漁場を保全するために役立っているとの肯定的な見方は多いが、一方で(秩序を維持しすぎて)新規参入を阻害しているとの否定的な見方もあり、多様な意見が存在している。

5.改革に対する様々な意見
 *賛成:養殖などに民間企業が参入すれば、浜は活性化する。
反対:民間企業は、漁場条件の良い所にしか参入しない。しかも、すぐに撤退する。
 *賛成:民間企業の方が販売チャンネルや新商品の開発力があるので、漁業の付加価値を高められる。
反対:浜と東京本社の利益配分が問題で、民間は本社へ利益を持って行く。
 *賛成:科学に基づく資源管理を強化できるし、資源の保全や維持が容易になる。
  反対:科学には限界があるので、頼りすぎは危険である。現場感覚も大事だ。
 *賛成:政府による資源管理で現場をコントロールすると、ガバナンスが向上する。
反対:日本のような漁船数が多い国は、政府による細かい管理は困難であるため、日本の伝統であるボトムアップ管理を活用し、社会基盤を評価すべきである。

6.多様な意見を踏まえた論点
   視点を変えて賛成・反対意見を整理すると、下記が論点になる。
   (1)雇用を守るのか? 経済効率を上げるのか?
   (2)環境を守るのか? 経済効率を上げるのか?
    (3)政府が漁業者に配分する対象 欧米:漁獲枠 日本:漁場使用権
       漁業者が保全しようとする対象  
             欧米:漁獲対象資源 日本:漁場の環境(森川海)
  これらに対して、八木先生の見解は、漁業者+地域全体で監視しているのが日本漁
業であって、関係者の人数が漁協レベルの200人程度なら環境問題の解決は可能で
ある。官民一体となった漁業管理として国際的評価も高い。   
  
7.八木信行先生の提言
  かねてより日本水産業の掟には、漁業者だけでなく、地域コミュニティ全体を巻き込んだ監視・取締り機能がある。しかも漁協の200人規模の関係者なら、政府がなくても環境問題の解決も可能であろう。2009年ノーベル経済学賞に輝いて、自主的管理が有効であることを示したエリノア・オストロム教授は、以下8つの基準が満たされる時、地域経済が守られるとしており、日本の沿岸漁業はその管理の好例だと思う。  
〜自主的管理の有効性の条件(オストロムの8条件)〜
(1)管理区域の境界線が明確に設定されている。
(2)利益配分のメカニズムがある。
(3)参加型の意思決定がされている。
(4)モニタリングを実施している。
(5)複数違反者にはより厳しい罰則規定がある。
(6)紛争解決の機能がある。
(7)排他的な権利の存在(フリーライダー防止)
(8)組織体制には複数の階層がある
日本では、漁業管理の対象が漁場使用権であり、オストロム型の「場所の管理」である一方、欧米の漁業管理の対象は漁業枠使用権で何トンと言う「漁獲の割当」である。また、漁業者が保全する対象は、日本では漁場の環境である森・川・海だが、欧米ではサバなどの漁獲資源そのものである。従って、漁業者が自らゴミ拾いをしている光景は日本では頻繁に見られるが、欧米ではそのような例は寡聞にして承知していない。
農林水産省的な視点から見ると、経済効率を最優先するやり方でなく、社会・経済・環境のバランスの上に立って考えるべきとみることが妥当だろう。
ご興味のある方は、7月20日刊行「水産改革と魚食の未来」八木信行編/恒星社厚生閣をご参照いただきたい。

8.質疑応答
Q1.日本でサンマが取れなくなったのは、サンマの通り道で中国・台湾の大型漁船が根こそぎ獲るからだと聞いている。解決策はどのようにすればよいか?
→日本でサンマが取れなくなったのは、資源が少なくなったことや、気候変動(海洋環境の変化)の影響など、複数の要因が複合的に効いている。日本では何十年も科学調査を行ってはいるものの、それぞれの要因が何パーセント効いているのか、などまではよくわかっていない。「他国が根こそぎ持っていく」と言うマスコミ報道は一つの仮説にすぎない。科学者は色々な要因が科学的に検証されない限り、結論付けすることが出来ない。ただしそもそも日本のサンマ漁船は世界的に見ると小型の船であり、サンマが沿岸に回遊してくるものを取っていた。仮に、サンマが沿岸から離れて何100キロもの沖にいたとしても、往復の燃油代などで経費がかかるので商売上そこまで捕りに行かない判断をする船主が多い。船が小さいのは、資源を保全するために大型漁船を作らせないという政府の規制があるから。解決策としては、船のサイズ規制は緩和しつつ漁獲総量の規制は強めて、漁船の大型化を図った上で、沖合に出かけて獲る等が考えられるが、日本だけ漁獲総量を規制しても外国にとられては資源保全の効果がない。急激に獲り始めた中国などと何らかの合意を模索する必要があるだろう。

Q2.鯨問題で日本は批判を浴び続けてきたが、去年のIWC脱退後、国際的に問題はなくなったのか?
→1986年から、北米・欧州・オーストラリア・ニュージーランドなどの圧力で商業捕鯨が禁止された。しかし、アラスカ・ロシアなどは先住民捕鯨と称して捕獲を継続したし、ノルウェー・アイスランドは法的な例外条項を活用して商業捕鯨を継続した。インドネシアなど捕鯨国であるもののIWCに加盟していない国もいる。韓国も日本も定置網などでクジラの「混獲」が相当数あるが、これはIWCの管轄権の外。捕鯨禁止といっても様々な捕獲が続いている。日本は1986年から2018年まで調査捕鯨をしてきた。IWCの捕鯨禁止条項は、沢山の科学データをそろえれば1990年以降は商業捕鯨再開を検討することが可能、との書き方になっている。それで調査捕鯨を30年以上実施したが、反捕鯨国の市民団体などからの政治圧力が強く捕鯨再開のためにIWC加盟国の75%が賛成する状況には当面ならないことも明らかになった。これでは外国人の反対で日本国民の権利が損なわれる変な構図が継続すると考えたのであろう、日本政府は昨年IWCを脱退した。脱退後大きな反対運動を懸念したが、大きな反発はなかった。捕鯨問題はいまや環境問題よりもアニマル・ライト(動物の権利)の問題という要素が強い。一方で日本が主張しているのは沿岸捕鯨業者の人権である。つまり捕鯨問題は、動物の権利を優先するのか捕鯨関係者とその家族の人権を優先するのか、との対立軸がある。外国の反捕鯨団体も人権は重視せざるを得ず、さすがに無茶な捕鯨反対はできなかったのではないか、と私は勝手に解釈している。

Q3.「改革」の主たる狙いはどこにあるのか?また、改革によって漁獲量の復活はあるか?あるとすればどの程度期待できるか?近大マグロの企業的経営と今回の改革との関係・影響をどう考えるか?
→養殖と沿岸漁業と沖合(日本の200カイリ内)、そして遠洋漁業(公海や外国の200カイリ内)に分けて考える。遠洋漁業は国際規制があるので今回改革の主たる対象でない。また資源保全のためには200カイリ内でも生産量を急には増加できない。このためコストを下げて効率を上げることが短期的な主眼となる。沖合漁業で、サバ・イワシを取る船を大型化して効率を高め、同時に漁獲総量の管理を厳格に実施する。アクセルとブレーキを踏むことが要求されるのが今回の改革。養殖業者も、ノルウェーのように単一の魚種で規模拡大をするのか、多種多様な魚を小規模に養殖するのか、二極分化していくだろう。その両方できるようにしているのが今回の改革。アクセルとブレーキ両方をかけやすいようにしないといけない点で大変。
漁獲の復活については、すでに日本は人口減少時代を迎え、食の嗜好変化で魚の需要自体も落ちている。魚輸入も減っている中で、飛躍的に漁獲が伸びても、売れないし、資源の保全にもならない。生産量が伸びることをよしとする価値観は漁業の場合は昭和の時代で終わっている。これからは環境との両立、経済では費用対効果、社会では沿岸社会の維持(過疎化への歯止め)をバランスさせないといけない。
近大マグロは稚魚が大きくなるまで陸上で育て、20〜30cmになって海のイケスに入れて飼育する。陸上は漁業権は関係ないが、海上では今でも漁業権を使用してイケスを保持している。今度の漁業法改正で影響が出るかもしれないが、それはプラスもマイナスも両方あり得る。

Q4.中国の漁獲・養殖が格段に伸びている。魚食文化でない中国で何が起きてこれほど急激に伸びたのか?
→80〜90年代にかけての急成長の理由は単純で、船舶機材がなかったのが造れるよう
  になったため天然漁獲も増えたと推測する。
中国は内水面を使う養殖が盛んである。そこでは海の魚を原料としたエサに頼らずに植物性のエサを与えて養殖できるものもある。また、わかめや海苔、そしてエサの不要な貝類も多い。中国の魚食文化は、北京ではないが、上海以南では魚食文化があり、米+魚がご馳走である。

Q5.鰻の値段はどうして高いのか?鰻資源回復はありうるか?
→江戸時代の古文書を漁って、蕎麦と鰻の物価を検証したことがある。大体蕎麦の5倍くらいの価格だった。いま、蕎麦を600円とすれば3000円のウナギ価格は妥当。
20年前欧州産稚魚が中国に入って、そこで大量に養殖されて日本に安く輸出された。これが1000円鰻の秘密だった。しかし環境上の理由で欧州産の鰻を輸出することが禁止される国際ルールになった。中国はWTOに訴えるなどしないで表面的には受け入れている。そして今では日本産の稚魚が国内もしくは台湾で育てられている状況。30年前に戻った。今後は鰻の資源が増える見込みは悲観的である。とりすぎとの説もあるが、河口で手作業で鰻の稚魚をすくっている日本の採集方法は50年以上変わっていない。むしろ大きく変わったのは生息環境。すみかである川はコンクリートの護岸で鰻の隠れ場所がなく、エサの小魚・エビが生息できなくなった。堰堤があるので上流に鰻は遡上できなくなった。この環境変化は不可逆的で、今さら改変することは防災の観点からも難しい。鰻の人工孵化は実験では成功しているが、商業ベースで安定してペイするまで技術は成熟していない。

Q6.ヨットが趣味で、日本中を航海してきた。気が付くのは広大な海の領域で、定置網・イケスを漁協に任せ、漁獲が落ちても行政は知らぬ顔だ。小さい港をそのままにして集約しようともしない。人手不足の解消や漁船の大型化を図るなど、水産国日本の復活オプションはあるか?
→日本魚食文化の象徴的な定置網は、日本が発祥。国際的には珍しく、欧米にはほとんどない。彼らは日本から定置網の技術を導入しなかったというのが理由。彼らにはそこまでは魚食にこだわっておらず、畜産物の食文化が主流。欧米スタンダードのヨットの世界観では、日本の沿岸が奇異に映るのも無理はない。水産庁は「何をやってきたのか」と批判も聞こえるが、日本の水産庁の人員は500人のレベル。他国はもっと多い(アメリカの水産当局(NMFS)は4000人以上人員がいる)。完璧な行政サービスを提供しようとすると水産庁の人員を大幅に増やさなければならない。水産の管理にそこまで税金を注ぎ込むべきかどうか、国民の間にも賛否両論があるだろう。
  現状で小さな政府が日本できているのは政府に変わって漁協や沿岸住民が密漁監視などの見張りをしているから。たしかに効率化を追求する産業政策の立場からすると、小さい漁港を沢山作るよりも、拠点を集めて大きな漁港を作って一つに集めた方が効率も良い点はそのとおり。しかし小さな拠点をなくすと監視の目は弱くなる。農水省も、「産業政策に特化して経済効率を追及するか」「社会政策も含めて面倒を見る省庁になりたいのか」二つの立場を行ったり来たりしている部分もある。

Q7.養殖は今の漁業を守る一つの方法だが、養殖の環境に対する阻害要因はないか。
→エサの過剰投与などで、栄養過多になり、海の下で滞って赤潮が発生するなどの環境汚染がある。

Q8.北朝鮮漁船など魚を違法に盗っていく。厳しく取り締まれないか?
→外国船の取締まりは海上保安庁である。日本は漁業者も見張り役になっていた。これまでは漁船の数も多く、漁業者の通報で海上保安庁が現場に急行することもあった。漁業者が減少してこの機能が弱まるのは懸念材料。テクノロジーの利用で違法操業をしている漁船を発見し取り締まることも大事だろう。

Q9.捕鯨は環境問題から動物の権利の問題になっているとのことですが、クジラの権利の問題がとりあげられるのはなぜでしょうか。
→動物の権利についてはヨーロッパなどを中心に広く尊重しようとする動きがあります。例えば動物実験の制限、また家畜の場合でも捕殺する際は苦しみを与えないようにする基準などがそれです。ただし、動物の死生観には文化的・宗教的な背景が強く関係しており、ヨーロッパで残酷と思われている行為が日本ではそう思われていなかったり、日本で残酷と思われている行為がヨーロッパではそう思われていなかったりしています。これはヨーロッパと日本だけではなく、例えばモンゴルと日本でも相当違います。以前私はモンゴル人の留学生と家畜の捕殺を議論したことがありますが、考え方は相当違うように思えました。人間の尊厳死や安楽死が議論になることがありますが、これに近い話と思います。つまり誰かが「正解」を勝手に決めて、それを他人に押しつけてはならない性質の話だと思います。ご質問では、クジラの権利の問題がとりあげられるのはなぜかとのことですが、個人個人によって理由は異なるため、単一の正解を私が代弁して述べることはできないと思います。
文責:羽岡秀晃


講演資料:改革」のタイミングと内容は適切?これからの水産業と魚食文化を考える
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介

2020年06月25日

EVF Webセミナーの報告:「国会事故調/報告の概要と現状の中間報告」

演題:「国会事故調/報告の概要と現状の中間報告」
講師 :東京理科大学大学院技術経営(MOT)専攻教授 元国会事故調/調査統括補佐
    石橋 哲 様
Web視聴開始日:2020年6月25日(木) (約2週間)
視聴者数:55名 

1. 講師紹介: 
・1964年和歌山県生れ。1987年東大法卒。同年日本長期信用銀行入行(〜1998年10月)。シティバンクを経て、2003年産業再生機構参画(マネージングディレクター)。2007年以降クロト・パートナーズを設立(代表、現)、神戸市住宅供給公社、日本郵政の民営化工程など組織変革支援に従事。11年の東日本大震災にあたっては、同年6月に内閣官房東京電力経営財務調査タスクフォースに、同12月国会事故調に、いずれもプロジェクトマネジメント機能として参画。2017年4月〜2020年3月サイバーセキュリティベンチャーBlue Planet-works取締役・代表取締役CEO。
・2019年4月から東京理科大大学院技術経営(MOT)専攻教授(リーダーシップ、倫理)。https://most.tus.ac.jp/teacher/ishibashi_satoshi/
・2017年5月〜衆議院原子力問題調査特別委員会アドバイザリーボードメンバー。その他、政策研究大学院大学グローバルヘルス政策イノベーションプログラム客員研究員、日本医療教育プログラム推進機構理事、国会事故調報告を出発点に世代立場を超えて社会の「システム」について考えあう場を「共創」するサークル活動「わかりやすいプロジェクト(国会事故調編)」        https://naiic.net/ 代表

2. 講演概要:
2011年3月11日に起こった東日本大震災、これによって生じた東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、以前より言われていた「原子力発電所は絶対安全」という神話が崩れ、近隣に住む多くの人から日常の生活を奪い、農業、漁業、その他産業に多大な被害を与え、社会にも大きな影響をもたらした。 事故の数か月後には東京電力も政府も、事故報告書をまとめたが、いずれも当事者の視点から纏められたものであった。 失われた国民からの国家に対する信頼、世界からの日本の信用の再建の出発点とするには不足であることから、国権の最高機関であり、国民の代表である立法府(国会)が、三権分立の基幹的機能である立法による行政に対する監視機能を憲政史上初めて行使した「国会事故調」が衆参全会一致で成立した法により2011年12月に国会に設定された。 この委員会は主として学者、医師、弁護士、ジャーナリストなどの民間人中心に構成され、業界や政府からの独立性・中立性を保ちつつ、7か月間で報告書をまとめた。 この報告はネットで今でも閲覧は可能。 https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/。 講師はこの委員会の調査統括補佐(事務局)として活躍され、現在に至るもその提言が埋没しないよういろいろな場で啓もう活動を行っている。

3. 講演内容
2011年12月にスタートしたこの委員会(国会事故調)は委員長の黒川氏の下、@ 国民の視点に立つ A 世界に発信する B未来に向けた報告とする この3点をしっかり心に留め、調査を進めた。 その中で、この事故は想定外の大きさの地震、津波による天災によるものであるという事故像を超え、むしろその可能性を知ったうえで、事前に対策の手を打た(て)なかった人災という事故像が現れた。 事故前において、「原発の安全」は、原子力発電所内部で何かあったとき(内部事象)には @止める A 冷やす B 閉じ込める、3層の多層防護で安全が担保できると言われていた。 しかし、国際原子力機関(IAEA)における「原子力の安全」の議論では、内部事象にとどまらず、外部事象や人為的事象までを含めて想定される起因事象に対し、放射性物質放出による影響緩和、周辺住民の安全確保までを視野に入れた5層の深層防護が原子力の安全に関する標準的フレームワークとされていたこと、日本における3層の防護はパッチワーク的であったことなどがわかった。また、日本の場合、原子力安全規制機関の監視、監督が行政であることは、他の海外諸国においては議会が監視している事とは異なり、必然的に透明性、公開性などに問題が生じている。 またこの事故を人災といえども個人の責任に帰するのではなく、根源的原因として横たわる組織的、制度的な問題、さらにはそれらを許容する法的枠組みとそれを可能とする関係者や国民のマインドセット(思い込み、常識)の解決こそが大切であり、それなくして再発防止は難しいとしている。 事故調としては8年前にその報告書で、以下の7つの提言を行ったが、96ケ月経った現在まだそれらについて具体的な検討や論議が進んでいないのは残念である。 

7つの提言 
(1)規制当局に対する国会の監視
(2)政府の危機管理体制の見直し
(3)被災住民に対する政府の対応
(4)電気事業者の監視
(5)新しい規制組織の要件
(6)原子力法規制の見直し
(7)独立調査委員会の活用
最後に国会事故調からのメッセージとして「福島原発事故はまだ終わっていない」 「日本の今後(9)の対応に世界は厳しく注視している」 「この経験を無駄にしてはいけない」 「改革の努力をすることが国会/国民一人ひとりの使命である」とまとめられて講演を終えられた。

4. 質疑応答)  (Q1〜Q3は収録時におけるEVF正会員からの質問)
Q1. 3.11後に原子力規制委員会ができたが、それを監視するのが国会であるべきだということはわかったが、規制委員会はずいぶん頑張っていると思うのに左右双方から厳しく批判されている。どう評価されているのでしょうか?
→ 規制(委)の目的は「安全の確保」であり、推進派から再稼働の邪魔をしているのではないかといわれることは、規制(委)がちゃんと仕事をしているということ、住民の避難計画への配意が不十分との批判は、原子力防災に関する法の立て付けに課題があると考える。

Q2. @ 国会事故調が7つの提言をまとめて報告されているが、そのうちどれとどれが取り入れられているのでしょうか?  A また黒川委員長のメッセージからは、環境やエネルギー状況が大きく変化する中で、原子力の位置づけも大きく変わらなければならないと言っているが、日本は変わってきているのでしょうか? 
→ @ 事故調は10項目の結論を出して、7つの提言を行った。 原子力の規制当局(推進行政、安全規制行政、その他関連行政を含む)や原子力関連事業者が、再び、原子力安全規制を「規制の虜」とし、その透明性・公開性を歪めることのないように国民の代表である国権の最高機関である国会がこれを監視することを提言している。残念ながら国会ではまだ一言も論議されていないまま8年経ってしまった。 なかには自分たちに投げられた宿題だと理解していない議員もいる。
→ A エネルギー事情は大きく変わっている。 原発は、枯渇が想定される化石燃料より、希少価値のウランを燃料としていても、そのエネルギー源としての可能性は無尽蔵であり、最終的には「安くてクリーンなエネルギー」として期待されていた。 現在、シェールガス開発などを背景に化石燃料の枯渇は遠のいた。 希少性の高かったウランは、中央アジアなどでの多くの埋蔵が確認されている。スリーマイル、チェルノブイリ、福島の後、原発の安全コストが大きく上昇し、また再生可能エネルギーのコストは激減している。原子力発電の経済合理性を支える根拠は大きく変化している。こういう状況下で安全保障問題、温暖化CO2問題、放射性廃棄物の処分なども合わせて、論議することが不可欠と考える

Q3. 政治家やえらい人達から「よく纏めてくれた」「頑張ってくれた」とお褒めをいただき、「これからも若い人たちを指導していって欲しい」といわれるそうだが、それは日本が記録を残さない文化であることの裏返しのように思うが如何か?
→ 質問者の意見に賛同。 責任を回避することを最優先として、記録を残さない不透明な組織、制度またそれ許容してしまう法的な枠組みに問題がある。 

以上が収録時にEVF正会員メンバーから出された質問ですが、これに加えて視聴者から後日寄せられたWebによる質問が2つあります。 石橋先生より後日メールでの回答をいただきましたので、以下に紹介いたします。

Q4.  (ネット会員M.T様)今回の国会事故調と同様の国会気象災害事故調のような仕組みの実現性はないのでしょうか、あるいはそのような仕組みを作るために必要なことはどんなことでしょうか?

■ 事実の集積、そこからの冷静な知見の積み上げが、大切なことは「気候変動」に関連する諸課題でも福島原発事故に関連する諸課題と同じとのご趣旨は深く共感いたします。いずれの諸課題についても、事実の集積の前に「価値判断」が先行した議論が飛び交っている気がします。面罵の応酬は非生産的ですので、国会事故調のような取り組みとするのは実効性があると私も考えます。
■ ちなみに、国会事故調提言7は以下のように記載しており、下線部にご着目ください。
提言7:独立調査委員会の活用
 未解明部分の事故原因の究明、事故の収束に向けたプロセス、被害の拡大防止、本報告で今回は扱わなかった廃炉の道筋や、使用済み核燃料問題等、国民生活に重大な影響のあるテーマについて調査審議するために、国会に、原子力事業者及び行政機関から独立した、民間中心の専門家からなる第三者機関として(原子力臨時調査委員会〈仮称〉)を設置する。また国会がこのような独立した調査委員会を課題別に立ち上げられる仕組みとし、これまでの発想に拘泥せず、引き続き調査、検討を行う。

福島原発事故のような被害があり、その反省を受けた提言を行って、その実現に向けた道について、私たち有権者が代表を送り続けている国権の最高機関である立法府では「一つの言葉も交わされていない」のが今の立ち位置と認識しております。現状を「今」に現出させているのは「私たち」の選択の帰結と考えられます。
M.T様ご記載のご提案が実現するため、なにが必要なのか、私も胸に手を当てて自問を重ね、言行一致の匍匐前進を重ねて参りたいと考えます。

Q5. (ネット会員K.N 様) EVFとしてはどのようなアクションを取るのでしょうか?
→ K.N 様  石橋様の6月講演に関して、事務局あての質問をいただき、ありがとうございました。 EVFを代表して私(和田 政信理事長)から取組状況を説明させていただきます。EVF理事会として中村様の御指摘を真摯に受け止め、EVFとしてどのように対応するのか検討を開始しております。これまでEVFはご存知のように、セミナー・見学会などを通じて環境問題(持続性の問題)の共有化と問題点の発掘努めてまいりました。今後は重要問題をEVFとし認識すること、そしてベテランの経験で問題にどう取り組むのか検討してまいります。
 (文責:八谷道紀)

講演概要資料:国会事故調報告概要
posted by EVF セミナー at 19:00| セミナー紹介

2020年06月01日

EVF Webセミナー参加申し込み方法、参加費の振込方法と質問・意見の送信方法

EVF Webセミナー参加申し込み方法、参加費の振込方法と質問・意見の送信方法

5月よりWebセミナーを開催します。

1)Web セミナー参加申し込み方法

通常セミナーと同様にセミナー申込みページからお願いします
「懇親会参加可否」は“不参加”をチェックお願いします

2)Web セミナー参加費の振込方法
EVF事務局より金額をe-mailで連絡いたします
指定口座宛てに期日までに振り込みをお願いします

3)Webセミナーへの質問・意見の送信方法
セミナー質問・意見のページから送信お願いします
事務局で整理し講師からの回答をHPに掲載いたします

Webセミナーについては、Webセミナーのご案内をご参照ください。
posted by EVF セミナー at 00:00| セミナー紹介

2020年05月28日

EVF Webセミナーの報告:「新型コロナウィルス流行と中国」

演題:「新型コロナウィルス流行と中国」
講師 : 中国ウォッチャー 荒井商事株式会社常勤顧問 結城 隆 様
Web視聴開始日:2020年5月28日(木) (約2週間)
聴講者数 : 62名

1.講師紹介
・1955年生まれ。福島県出身。一橋大学経済学部卒。旧日本長期信用銀行入行。調査部、ロンドン支店、マーチャントバンキンググループ、パリ支店、ニューヨーク支店勤務。
1999年ダイキン工業経営企画室、大金中国投資有限公司(北京)勤務。デンロコーポレーション常務執行役員を経て現職。
荒井商事において、新規事業開拓を担当する傍ら、東日本大震災事業者再生支援機構業務委託、柳沼プレス工業顧問を務める。中国ビジネス研究会会員。
主な著書: 中国市場に踏みとどまる(1999年草思社)、ジョークで読み解く省別中国人気質(2002年草思社)、その他四半期毎に中国観察レポートを発行。
座右の銘: 百年生きて、百年学べ。

2.講演概要
湖北省武漢市から発生した新型コロナウイルスは中国全土に拡散、その後欧米はじめ世界全土に広がり、1929年の大恐慌あるいはそれ以上の経済的厄災をもたらそうとしている。
中国が武漢市、湖北省をロックダウンしたのが1月23日、そのロックダウンは2か月半後の4月7日に解除された。(注:日本はちょうどその日に7都府県に緊急事態宣言を発した)。
中国は概略次の3段階の戦略で進んでいる。1〜3月は流行の制圧、4〜6月は経済復旧と対外支援、プロパガンダの展開、7〜9月に経済をV字回復させるという戦略である。今年第一四半期の中国のGDP成長率はマイナス6、8%、ロックダウンされた湖北省の成長率はさらに大きくマイナス39、2%だった。
世界に先駆けて流行を制圧した中国は、常態復帰に向けてインフラ投資の前倒し実施、金融緩和、中小企業の資金繰り支援、所得補償など様々な政策を打ち出している。今回のパンデミックによる中国の国内事情、アメリカや欧州、日本と関係した情勢について、地球儀を俯瞰する形で広範囲にわたって詳細にご講演頂いた。

新型コロナウイルス禍で3月、4月と中止せざるを得なかったEVFセミナーだったが、事務局の懸命な手探りの試行で初めてのWebセミナーに漕ぎつけ、講師の結城先生の充実した講演内容も相まって各方面から評価と励ましの声を頂いているところです。

3.講演内容
新型コロナウイルスの感染流行は中国→欧州→アメリカと広まった。3月以降は立場が逆転し、中国は新型コロナウイルスを克服したとして経済復旧に舵を切り、世界に向けて対外支援とプロパガンダを展開している。1月23日に武漢市、湖北省をロックダウンし、湖北省全域に「戦時体制」を導入。全土に外出・移動制限措置を施した。それからの中央政府は武漢市にすさまじいばかりの全面支援を行う一方、行政組織の不作為や怠慢を厳しく取り締まり、省・市のトップを含め630人が処分されたという。
財政・金融面では人民銀行は2〜3月にかけて3兆3,500億元を金融機関に供給する一方、インフラ投資は高速鉄道、高速道路等に7、6兆元、合計11兆元(=170兆円)のテコ入れを行った。
また景気対策として消費喚起策(ただし個人給付は不正受給が横行する可能性があり行わない)、産業梃子入れ策として自動車の排ガス規制の実施の半年間の先送りをはじめ、各種優遇策を導入した。この結果、早くも3月〜4月の製造業生産は常態に復帰、自動車産業は大手販売店の大幅な値引きと地方政府の購入促進策に加えて、消費者の自動車購入の動機の10%が「健康と安全」(=コロナ対策)となるなどで、4月には22か月の低迷から抜け出した。この時期、ファーウエイは半導体等の基幹技術の国産化を着実に進め、デジタル経済はこの3か月の間に100件のアプリが追加登録されるなどむしろ弾みがついた格好。また自動車の自動運転の実験も加速している。
最後に激化しているアメリカと中国の冷戦下でコロナ後の国際秩序はますます流動化してゆく。同じ冷戦といってもかつてのアメリカ対ソ連の冷戦とは異なり、現在の中国はヒト・モノ・カネで世界的に十分大きな存在となっていて、米・中の力は拮抗している。米・中はどこかで折り合えるのだろうか。一方、今回の新型コロナウイルスへの対応で中国の共産党権威に微かな揺らぎも感じられるということで講演を終えた。
    
質疑応答)

Q1.5月18日に開幕したWHOの総会で一番にスピーチした習近平の強気の演説は何を意味するのか。
→ あれは国内向けと解釈できる。中国に対する初動の遅れやマスク外交に対する各国からの批判、反発については中国国内ではほとんど報道されていない。
Q2.コロナ前とコロナ後では中国の立ち位置はどのように変わるのだろうか。
→ 中国はこれまでは世界1番を目指して突っ走ってきた。中国製造2025がその例。ただ1番になったらどうしようかという心の準備が出来ていないように見える。2049年に実現しようとしている「中国の夢」も具体的なイメージがない。一方、コロナ後の世界を考えると、アメリカの凋落は明らか。その意味、コロナ後の世界というのは米中対立が先鋭化する中で、かなり流動的になるのではないか。
Q3.習近平が国賓として来日する計画を中止するのに、3月初めまでもつれ込んだ。なぜ早々に訪日中止に踏み切れなかったのか。
→ 訪日中止自体が日本側の事情ではなかろうか。習近平の訪日は東京五輪と並んで安倍政権にとっては今年の最重要日程だった。ギリギリまで待ったのではないか。中国では日本の新型コロナウイルスへの対応の遅さ、スケールの小ささに失望する見方が多い。
Q4.アメリカのCDC(疾病予防管理センター)のような機関は中国にも存在するか。
→ CDCは中国にもある。各地にもあり、武漢にもある。しかし米国ほど政治的な力はない。ウイルス流行の初動が遅れた原因のひとつもここにあるのではないかと思う。ただ、米国のCDCもトップが政治任用という事情もあって、初動はかなりギクシャクしたと聞いている。

Webセミナー視聴後に寄せられた主な質問と講師の回答)

Q5. WHO総会での習近平のスピーチ、もっと国際協調を訴えた方が中国に有利に働くと思うのだがいかがか。
→ 北京駐在の時に経験したのだが、中国人は片言の英語しかできなくても「流暢に話せます」というのが常。謙譲は美徳ではなく、自分の弱さをさらけ出すのと同じと考える。新型コロナウイルスを短期間で制圧できたことを世界に誇示しなければ、国内での批判にさらされる。
Q6.中国経済の当面の回復スピードが速いとのことだが、今までの貯金が大きく残っているということか。
→貯金ということでは、財政状態が他のOECD諸国に比してかなり健全だったという指摘は出来よう。実はコロナ流行期間中でも多くの国営企業は稼働していたようだ。流行制圧に目途がついた時、まず国営企業の操業を再開させ、自動車などの基幹産業の操業再開を促し、従業員の確保、工場と宿舎の送迎などに対して、政府が手厚く支援した。
Q7. 全人代でGDP目標値が示されなかったのは、コロナの傷が思いのほか大きかったということか。
→全人代でGDP成長率目標が示されなかった第一の理由は、あまりにも先行きが不透明だから。特に輸出については、最大の輸出先であるアメリカとの貿易交渉や華為に対する制裁措置が見通せず、回復の気配は見えていない。二つ目の理由は雇用だ。短期的には2億人の失業者が発生、ほとんどが農民工。全人代での政府工作報告で最も多く使われた言葉が「就業」だった。この問題はボディーブローのように経済回復の足を引っ張っていると思う。
Q8.中国のトップは党内権力闘争でのし上がった成功体験の延長線上で、国際社会においても振舞っているようにしか見えない。“1番”になっても世界のリーダーたりえないのではないか。
→国際社会のリーダーたる要件にはいくつかあるが、自国通貨の人民元が国際通貨として信認されているとはいい難い面があること、普遍的な価値観を他国と共有するまでに至っていないことなど、越えるべきハードルは少なくない。一方、国際社会のリーダーとなるべき資質では、頭の良さや経験、知見という面からみれば中国各界のトップの力量は相当高い。その上、中国社会は猛烈な競争社会であり、その中でのし上がってきた人々の力量はかなりのものと認識すべき。問題は優れた能力を持つリーダーの一方で、地べたとの能力格差だ。中国はどうしても内向きの事象にエネルギーを注がざるを得ない。
文責 : 佐藤孝靖

講演資料:新型コロナウイルス流行と中国

 参考資料:「Webセミナーのご案内」
posted by EVF セミナー at 16:00| セミナー紹介

2020年02月26日

EVF総会記念セミナー報告:「日本文明とエネルギー」〜歴史と地形から見るエネルギー論〜

演題:「日本文明とエネルギー」〜歴史と地形から見るエネルギー論〜
講師:NPO法人 日本水フォーラム代表理事 竹村 公太郎氏 
開催場所:JICA市ヶ谷ビル セミナールーム201AB
開催日時:2020年2月26日(水)15:30〜17:30

1.講師紹介
  講師の竹村先生は神奈川県のご出身で、東北大学工学研究科 土木工学専攻(修士課程)を修了後、建設省(当時)に入省し宮ヶ瀬ダム所長、近畿地方建設局長を経て国土交通省河川局長などを歴任。2002年に国土交通省を退官後、公益財団法人リバーフロント研究所代表理事を経て、現在はNPO法人日本水フォーラム代表理事・事務局長。
  先生は一貫して河川、水資源、環境問題に取り組まれ、著書にベストセラーとなった『日本史の謎は「地形」で解ける(PHP文庫3部作)』『水力発電が日本を救う』などのほか、養老孟司氏との共著に『本質を見抜く力〜環境・食料・エネルギー』などの著作がある。
semi2020022615.jpg
2.講演概要:
  今日の話しはエネルギー論を地形で統一し、過去の歴史を見て今はこうで、将来はこうなるだろうと話しを進められた。
・なぜ、桓武天皇は奈良から出たか? なぜ、家康は江戸に行ったか?
・江戸のオイルピークと近代のエンジンは化石エネルギー(人類の歴史の奇跡の一つに日本の明治以降の近代化)
・これからの時代を近代化(膨張への対応)と考えれば、経済発展しても林業・農業・漁業が衰退し、国土が荒廃してしまうので膨張は続かない。
・日本の生き残り作戦で新しいダムを造れないなら既存ダムをどう活用(ダムに発電機を整備、ダムの運用変更、ダムの嵩上げ、ピーク発電)するかを考え、水力エネルギーは地方分散型でやっていかねばならない。
semi2020022614.jpg
3.講演内容
  先ず、滅びた文明(8文明:メソポタミア、エジプト、クレタ、古代ギリシャ、ローマ、ビザンティン、中央アメリカ、アンデス)と存続した文明(5文明:西欧、イスラム、インド、中国、日本)の違いを過去と現在の状況(森林率などの環境変化)スライドで判りやすく説明され、次いで360度緑に囲まれ真ん中に湖のある奈良盆地が日本の都になった背景を生命の源の「水」とエネルギーの源の「森林」というインフラ面から説明された。
  「なぜ、桓武天皇は奈良から出たか?」では歴史家の間には諸説があるが、先生は土木屋=インフラの観点から燃料や建築(祈念構造物)流域の毎年百万本以上の立木伐採で周りの山が荒廃し、大和川より何倍も大きく「水」と「木」が豊かな淀川流域にある京都へ遷都したと、今の奈良盆地からは想像がつかない説明であった。
  次いで「なぜ、家康は江戸に行ったか?」では宮廷、寺院、城などの祈念構造物のための巨木伐採(木材需要)進展により森林再生が困難となる時代変遷と秀吉による山地荒廃した関西から未だ文明の地でなかった利根川流域の手つかずの森林(エネルギー)が広がる江戸への移封の歴史面から多くのスライドで説明された。
いよいよ「江戸のオイルピーク」の話しに移り、江戸時代の耕地面積と人口変遷グラフや天領となった天竜川流域の木材伐採量の推移グラフなどと歌川広重の「東海道五十三次」に描かれた沢山の絵には東海道筋の山や丘に鬱蒼とした木々がないはげ山の景色を重ね合せて江戸末期には日本列島全体の森林が荒廃し、貴重なエネルギー源であった木材の確保が難しくなっていたとのことだった。
  「近代のエンジンは化石エネルギー」について、人類の歴史の奇跡の一つに日本の明治以降の近代化の話しが紹介された。ペリー提督の黒船来航を機に大政奉還、王政復古となり、政府が蒸気機関を横浜〜新橋に導入し、北海道、いわきと九州で小規模だったが炭鉱が開かれ、当時の規模では石炭は無尽蔵で、これを機に紡績や重化学工業が発展した。
第2次世界大戦前夜の石油産出分布図(1940年)が紹介され、当時の需要量400万klに対して供給量は30万klしかなく残りはアメリカに依存していた。当時は国内で木炭バスが走り、各地の山々ははげ山と化していた。昭和天皇独自録に「先の戦争は、石油で始まり石油で終わった」とあり、エネルギー可採年数(2013年)が石炭で約109年、石油で約53年、ガスで約56年、巨大油田発見の経年変化を見ると発見の中心が1960年代で、供給のピークは2020年と云われていた。世界のエネルギー自給率(2015年)では、第1位のノルウェーが677.4%、第2位のオーストラリアが235%、第8位のアメリカが85.0%に対して日本は第33位の6.0%となっていて、再生可能エネルギーで「日本は生き残れるか?」もう限界が見えてきたとの事。
 これからの時代を「近代化(膨張への対応)、」と考えれば、人、面積、時間の生産性を上げることであった。人の生産性を上げるには大量生産のための画一性、マニュアル化→人は都市に集中し、各地方の過疎化への原因となった。面積の生産性で都市集中→地方の衰退→多様性の喪失に、時間とスピードを上げるとエネルギー大→地場産業が衰退し、自然と向き合ってきた林業・農業・漁業が衰退し、国土が荒廃していくことなった。この膨張は続かない。
  「確実な未来」について、気候変動による自然の狂暴化、地球環境の悪化とエネルギーの緊迫がほぼ間違いなく云えるとのこと。日本人口問題研究所の「日本二千年の人口史」
では江戸時代に3,000万人の人口が何処からも侵略されずピーク時には12,800万人まで急増し、現在12,400万人と減少し、これまでの膨張から縮小に転じ、持続可能から次世代、次々世代への「日本の生き残り作戦」は画一性から多様性、集中から分散型、スピードからスローにしろと云うこと。即ち石油、ガス、石炭、ウランは尽きるので、天然で尽きることのないエネルギーは太陽エネルギー、地球の重力、電磁場とマグマである。その「太陽エネルギーは無限で膨大」だが単位面積あたりのエネルギー濃度が薄いという弱点がある。風力も同じ。明治時代にグラハム・ベルが来日して日本列島を見て、四方海に囲まれお天道様があり、雨も降り、日本の地形は70%が山でエネルギーを集める装置があると見抜いたとのこと。これが水力エネルギーの強みである。日本列島は日本海側と太平洋側の間に分水嶺があり公平な国土をなしているが滝のような川が弱点でダムが必要となる。
「日本の水力発電」は、気象はアジアモンスーンの北限(雨が多い)、地理は海に囲まれている、地形は70%の山地が雨を集める装置、社会(インフラ)は平等な脊梁山脈で装置であるダムは太陽エネルギーの貯蔵庫と云える。
 先生は建設省に入省して川治ダム、大川ダムと宮ヶ瀬ダムの建設を担当された。新しいダムを造れないなら既存ダムをどう活用するかを考えている。先ずすべてのダムに発電機を整備する。ダムには発電機が付いているのもあるが、治水と利水があるが発電機が付いていない。ダムに簡単に穴を開けることができる。次いでダムの運用変更をする。特定多目的ダムには治水と利水があるが相反した運用を強いられている。治水はなるべく空にして洪水に備え、利水はなるべく貯めて渇水に備えている。今、台風が何時、何処に来るのか判っているので来る前に空けておけば良い。最近台風が多くなって、今やっと60年振りに運用変更が始まった。もう一つ、ダムの嵩上げがある。ダムの上部は広いので10m嵩上げすると容量がズーッと増える。もう一つ、本ダムの下流に小さなダムを造ってピーク発電の流量調整ダムとして使う。
 最後に、水力エネルギーとは太陽エネルギーと重力エネルギーとの話しで、これからの生き残りは進化(分化)で、進化は多様性(分散)。集中は退化であり、分散は進化である。東京への電力供給は大きな電力でやらねばならない。水力は分散型で中小規模発電であり、各地方でやっていける。これからはAI社会と云われているが、ものすごい電力を使う。日本海側は雪があり豊富なエネルギーがあるので、計算センターを日本海側に置くと良いだろう。
semi2020022612.jpg
  ここまで丁度1時間半、新型コロナウイルス感染予防のマスクを装着しながら多くのデータや写真を駆使した説明を頂き質疑応答に移り、主な質疑応答を以下に紹介します。
Q1:気候変動が激しくなり、予想も出来ない雨量が百年に一度ではなく変わってきている。インフラの整備とダムの話しをどう組み合わせたら良いのか?
A1:今あるダムをどう使うか、やっとその操作を変える方法が判って来た。今ある150位のダムの運用変更で、台風が来るぞ〜となったら水位を下げて空振りに終わったら(渇水、干ばつ)保険で対応する位考えて良いだろう。運用変更で洪水の安全性を上げる処に入ってきた。今あるダムを200%位価値あるダムに運用変更でして欲しいと云っている。
Q2:この前の台風で、ダムが満水になりオーバーフローすると崩れて大変なので緊急放流をするとの事だったが、これには運用変更で対応できると云うことか?
A2:あの事例はダムの洪水容量が絶対的に不足していた。山間部の川に障害物を造って流路を蛇行させ、洪水時にはその上流で水がダムアップする。これはダムではなく河道の蛇行の問題で、安全性のサービスには種々の工夫が必要。
Q3:農業用水に発電の仕掛けとか運用変更が仮に出来たとしたら日本の電力事情がどのようになるのか?
A3:今の電気のうち水力が10%位、既存ダムを使っても30%位か?水力は分散エネルギーなので、各地域毎にグリッドを造って使って行く世界になる、なって欲しい。
Q4:川に小水力発電機を設置しようとした場合やせせらぎにマイクロ水力発電機を設置しようとした場合、農業用水の水利権の問題があると聞いているが、政策的な対応は可能なのか?
A4:川という公共利用は厄介だが、川の水利権は随分緩くなって来た。但し、組織が大きく地方ほど難しい。所長が替わればガラッと変わるが、時間が解決する。
Q5:日本中にエネルギーを分散させた時に人口も分散しないと上手く行かないのでは?
A5:日本海側に農業用水というインフラがあるので世界の計算機センターを持って来て、若い人を集めるような事をしないと難しい。
sem2020022611.jpgsemi2020022613.jpg
30分間の質疑応答も時間が足りないくらい密度の濃く判りやすいご説明で出席者一同の大喝采の中、2時間のご講演を終えました。
文責:奥野 政博

講演資料:日本文明とエネルギー
  
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介

2020年01月23日

EVFセミナー報告:食品ロスと必要とする人をつなぐマクジルトン・チャールズ氏20年の歩み

演題:食品ロスと必要とする人をつなぐマクジルトン・チャールズ氏20年の歩み
演題 : 「食品ロスと必要とする人をつなぐマクジルトン・チャールズ氏20年の歩み」
講師 : セカンドハーベスト・ジャパン 創業者/CEOマクジルトン・チャールズ氏
開催日時 : 2020年1月23日(木) 15:30〜17:30
開催場所 : NPO法人新現役ネット会議室
聴講者数 : 35名

1.講師紹介
講師のマクジルトン・チャールズ氏はアメリカ北西部モンタナ州の生まれで、高校卒業までの18年間は波乱に満ちたものだった。その後海軍で横須賀に駐屯→ミネソタ大学→上智大学に進学。上智大学の時に「山谷」や「隅田川沿いのホームレス」を体験する。これが講師のセカンドハーベスト・ジャパン創立の原点となった。
現在は上智大学教養学部非常勤教授(Sophia University, Faculty of Liberal Arts)

2.講演概要
現在日本での食料廃棄物は年間で1,800万トンにも達する。一方で、食べるものに困っている人が2百万人を超えている。講師はこの2つをつなぐ以下のような活動を20年間にわたり培ってきた。
(1)Harvest Central Kitchen:
寄贈された食品を調理し、生活が困窮している人々へ温かい食事を提供する活動
(2)Harvest Pantry:
個人世帯を対象に緊急食糧支援を行なう活動
(3)Food Bank:
品質には問題がなく賞味期限も残っているのに廃棄されてしまう食品を寄贈して貰い、配給先のニーズと調整しながら配給する活動
(4) Advocacy & Development:
フードバンク活動の普及と発展のための研究調査や講演、シンポジウムの開催など

2020年には、10万人に生活を支えるに十分な食べ物を配給する体制づくりを目指している。

3.講演内容
1.【フードバンク経歴】
◇ 2000年1月 : フードバンク/Food Bank Japan を設立 (連帯組織)共同代表
◇ 2002年3月11日 : セカンドハーベスト・ジャパンを設立 
◇ 2010年4月5日 : Second Harvest Asiaを設立 
◇ 2013年2月 : 公益財団法人フードバンク連盟を設立 理事長
2.東京では緊急的な支援を受けられる場がまだまだ少ない。
    ニューヨーク    : 1,100ヶ所
    サンフランシスコ  :  250ヶ所
    香港        :  160ヶ所
    東京        :  25ヶ所

3.2007年にテレビ「ガイアの夜明け」で取り上げられてから、食品を提供してくれる会社が飛躍的に増加して、今日の基礎を固めた。
2020012311.gif    

4.「ボランティア」と「無償スタッフ」の違い
ボランティアは自分の都合の良い時だけしか働かない。無償スタッフは必要な役務を無償で提供してくれる。

5.「生活困窮者を助けてあげる」のではなく、「困っている人が自立できるよう道具を貸してあげる」ことが大事である。

6.フードバンク運営の基本は食品を提供してくれる会社とも、食品を配給する相手とも対等な立場を維持することである。
・「あげる→もらう」の一方通行ではなくお互いが対等なパートナー。
・提供者とセカンドハーベストジャパンの対等な信頼関係が、セカンドハーベストジャパンと食品受給者との対等な関係につながる。

7.フードバンクの仕事のリーダーシップの過ちは、人としての適応性の課題をテクニカルな課題と間違えてとらえることである。

8.現在の課題は以下の3点が不足していることである。
    ・人材  :  People
    ・協力者 : Pertners
    ・資金  :  Philanthropy
    
4.質疑応答
  主な質疑は以下の通り。
Q.食品衛生に関する行政からの指導はあるか?
A.販売しているわけではないので行政からの指導はほとんどない。
    
Q.需要の見込み違いで提供された食品を廃棄することはないか?
A.需要と供給を計画的にマッチングさせているので廃棄することはない。

Q.食品提供者はセカンドハーベストジャパンに渡せば責任は終了か?
A.食品は提供者から預かった形であり、どこに配給したかを毎月提供者に報告している。

セミナー風景写真 :
sem2020012312.jpgsem2020012313.jpg
以上
文責 : 小栗武治

講演資料:マクジルトン チャールズ氏20年の歩み

posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介

2019年12月19日

EVFセミナー報告:自動運転実現に向けた世界の動き

演題:自動運転実現に向けた世界の動き
講師:内村 孝彦様 特定非営利活動法人 ITS Japan常務理事 、東京大学生産研究所次世代モビリティ研究センター特任研究員
開催日時:2019年12月19日(木) 15:30〜17:30
開催場所:NPO法人新現役ネット会議室
sem2020011911.jpg
1.講師紹介
・1981年 日産自動車株式会社入社
・主な開発業務
 衝突安全、エアバック初の市場投入
 衝突安全開発を北米で開始
 世界統一ダミーの開発
 先行開発を北米で開始
・現在
 特定非営利活動法人 ITS Japan常務理事 
 東京大学生産研究所次世代モビリティ研究センター特任研究員
2.講演概要
自動運転車の商品化、普及より、交通事故の減少、渋滞削減、二酸化炭素の削減が見込まれている。各国や多くの自動車メーカーやその他の企業が完全自動運転相当の自動運転車の市販に向けて開発がおこなわれている。
講演では、民間組織の代表として関係組織と連携した活動を推進しているITS Japanの常務理事である講師が自動運転の課題と世界の自動運転開発動向とこれからの見通しなどについて、ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)の観点から分かりやすく語られた。
 世界の自動運転開発動向
 自動運転とは?
 世界動向
 欧州、米国、UK、日本
 高度自動運転車両(Level 4)
 Level 4 Mobility Service実用化の課題
自動運転は利点が多々あるが、潜在的障害も多く、障害に対処するための方策や制度上の問題、技術的限界、現地調査など、多岐にわたる情報からの、将来展望も含めた講演である。
3.講演内容
4,世界の自動運転開発動向
〇欧米共通
・実証実験が依然拡大
・自動運転に活用する車両の進化
・条件付自動運転(Level 3)以上の実現は容易でないと認識が高まる。
・自動運転実現には安全の確保は必須の下、規制の破壊的取り組みが必要である。
〇米国
・自動運転評価試験場が各地で拡大
・自動運転への物流への適用が進化
・自動運転用いて移動困難者へのモビリティ提供も進化
〇欧州
・二酸化炭素削減等環境対応への取り組みが拡大
・自動運転による環境改善への効果が期待される。
・国際連携を積極的に推進
自動運転と課題
●日本語では自動運転の表現は1つしかないが、英語は多種類あり、使う言葉により表す自動運転は異なる。
●自動運転への期待:渋滞による時間損失を問題視して、2次作業の許容を狙う。
●どのような自動運転を実現するのか:価値の提供が必要であり、欧州では運転中の2次作業の許容を目指す。米国では、製造物責任の課題があり、ドライバーに運転責任を残す考え方が主流。
●GMの運転者支援装備:2020年からドライバーの目の動きをモニターして周囲の監視を怠ると警報を発する。
●自動運転実現に向けた課題-1
センサーは異常気象による竜巻、枯葉、砂塵などを検知しにくい。
道路の地割れは発生比率は低いがセンサーは検知しにくい大きな問題がある。
センサーは、人間のような情緒的な判断ができない。
自動運転実現に向けた課題-2
遂次変化する環境への対応が難しい。
実験場だけのベンチテストだけでは評価不十分である。
性能とコストは比例する。
●自動運転実現に向けた課題-3
自動・手動運転車の混在問題があり、自動運転からの人間への切り替えの対処
システムのエラーへの対応能力に個人差がある。
ドライバーモニタリングとして注意喚起、状況記録が必要になる。
●自動運転実現に向けた課題-4
高度道路交通システムでは繋がるほどリスクが高まる。
法律と規制の制度や仕組み、事故や不具合時の賠償責任、実用化による効果の把握必要。
●自動運転実現に向けた課題-5
自動運転システムに対する倫理的配慮として安全、モビリティ、合法性の成立が必須である。
さまざまな環境でどのように自動化を機能させるか、哲学者と技術者の共同研究が必要。
●自動運転実現に向けた課題-6
法律は事故の起こり得るシナリオをカバーできない。
法律を破ることがより安全な場合もある。(速度超過、車線離脱、道路外走行)
車の挙動は、設計思想に委ねられる。
●保険に関するパラダイムシフト
運転者が関与しない車の責任の所在は、運転者?、自動車製造会社?、サプライヤ-?、
保険会社?、政府?、になるのか、現在の法律では運転者に責任があることになる。
運転支援により、交通事故が減少することが期待されている。
世界動向
情報源として2019年度の主要国際会議からの最新情報から
●欧米の動向
統合移動サービスの実現として自動運転車両の公共交通への活用に期待
●欧州の動向
・交通安全、排気ガス低減、渋滞削減、アクセス向上、輸送精度、快適性、時間の有効活用、土地利用の改善、新たな仕事の創出、欧州による業界リードを目的にITS、つながる車、自動化車両を取り込んだCooperative, connected and automated mobility (CCAM)を推進している。
・CCAM推進のための欧州委員会の施策として、デジタル、研究開発活動、協調型ITS、産業について欧州域で連携して共通目標であるCCAMの開発を加速させ実現するために、車載技術、車両評価、大規模デモ、共有自動運転、社会経済的評価、インフラと接続の保証、ビックデータ・AIの8つのテーマを上げて取り組んでいる。
法的枠組み:テスト、検証、認証の標準化。道路システムすべての関係者の責任と義務の定義。
・自動運転により、二酸化炭素削減等環境対応への取り組みが拡大し、環境改善への効果があると期待がよせられている。
●米国の動向
・米連邦運輸省のニーズとしては、毎年3万人を超える自動車事故による死者を減らしたい意向がある。
・自動運転車のスマートシティでのパイロットプログラムが一般市民も参画して3地域で実施されている。
ニューヨーク市では政府や民間企業の出資のもと、1万台の公用車を活用して交差点の安全、歩行者保護等を対象に、実施されている。
タンパ市では混雑時の渋滞削減と歩行者、自転車安全を対象に、実施されている。
気象が厳しいワイオミング州ではトラックへの気象、交通情報提供を対象に、実施されている。
・2018年10月に発行した自動運転車3.0の施策方針は、輸送の未来に備える6つの原則と戦略を掲げている。
安全性を優先、技術中立を維持、規制を刷新、規則、運用環境の整合促進、自動運転に積極的に対処、アメリカ人の亭受する自由を保護促進するとしている。
・各地で実施の自動運転低速シャトル実証試験では、当初フランス製であった車両を米国車で展開している。
・自動運転バスについては通勤渋滞がひどいリンカートンネル間で、渋滞削減を狙い、バス乗車促進による走行車両を削減する試みが始まった。
・自動運転車と協調型自動運転車に米連邦運輸省から8プロジェクトに60m$の助成金が投入されている。なお、米国は政府による自動車会社への介入は低い。
・自動運転評価試験場が各地で拡大
・国の予算で実施したので報告書はしっかりしたものになっている。
●UKの取り組み
・2019年9月発行の2030年までの協調型自動運転車のロードマップには、社会と人、車両、インフラ、サービスの観点での関連要素の連動をまとめている。
・モビリティの未来の施策では、人、物質、サービスの世界でリーダーになる。
・クリーンな成長の施策では、クリーンな成長への世界的変革について、英国産業の利点の最大化を目指している。
・高齢社会の施策では、高齢化社会のニーズを満たすために、革新力を活用するとしている。
・AI&データ経済の施策では、UKを人口知能とデータ革命の最前線に置くとしている。
●日本の取り組み
2019年9月発行の官民ITS構想・ロードマップ2019には、自動運転システムによる社会的期待として、より安全かつ円滑な道路交通社会、より多くの人が快適に移動できる社会、産業競争力の向上と関連産業の効率化を上げている。
・安全運転支援システムの普及については、交通事故削減にかかわる指標として2020年を.目途に交通事故死者数2500人以下としている。
・2025年までに、つぎの自動運転(Level 4)を確立する。
自家用車:高速道路での自動運転(Level 4)
物流サービス:高速道路での自動運転トラック(Level 4)
移動サービス: 限定地域での無人自動運転移動サービス(レLevel4)
・2030年までにつぎの世界一安全で円滑な道路交通社会を構築するという目標を定めている。
自家用車:交通事故の撲滅・交通渋滞の緩和、産業競争力の向上を図る。
物流サービス:人口減少時代に対応した物流の革新的効率化を図る。
移動サービス:全国各地域で高齢者等が自由に移動できる社会にする。
・自動走行ビジネス検討会を経済産業省と国土交通省で2015年に立ち上げた。
また、国土交通省は法律改正への取り組み、警察庁では交通ルール策定に取り組でいる。
高度自動運転車両(Level 4)
〇高度自動運転車両Level 4では、実現形態がつぎの2種存在する。
・走行環境によりレベルを変化させて走行できる車両
・操作系がなく常にレベル4で走行する車両
〇Level 4の課題
・乗用車の高度自動運転車両の課題・・・運転しない移動が可能、運転条件切り替えの際の要件、無人走行時の要件等
・乗用車派生の運転を必要としない移動専用車利用:新しい車両の定義、運転免許等
・低速シャトルの実用化から幅広い車両への展開:車両に求められる性能要件等
・利用制限範囲拡大に対する課題:車両にかかわる要件とインフラ等走行環境に関する要件
●自動運転を取り巻く環境
・ロードマップでは:物流/移動サービスについては2020年限定地域での無人自動移動サービスを実現、オーナーカーでは高速道路から一般道へ拡張していく。
・Level4車両の必要性:物流/移動サービスの運営上のコストは人件費が約60%を占める。
また、若い運転手の大型第二種免許保有者の年度ごとに減少、無人運転により人件費改善の可能性がある。
Level 4 モビリティサービス実用化の課題
●無人運転車両の実用化のニーズは高く、世界各地域で物流/移動サービス用車両に焦点を合わせ、Level4無人化を想定した実証実験が進行中であるが、実現に至れる車両の認可、運用など法制度含めた課題、持続可能とするビジネスモデルの構築等の諸条件が準備できていない。また、技術的難易度が高く、実用化・実運用にはまだ至っていない。
●Level 4モビリティサービスの実用化を実現したい。
・無人運転を実現するために、運行設計領域を含めた提供サービスを明確化し、国際的に受容できる地区限定実用化を実現し、早期に社会貢献することが望ましい。
sem2020011912.jpg
■質疑応答
Q1:Level 4の車両はいつ頃できるか
A1:高価格であるがもうすでにできている。
Q2:実証試験段階の保険は
A2:東京海上火災自動車保険で契約できると聞いている。
(文責:立花 賢一)
posted by EVF セミナー at 16:00| セミナー紹介