2021年08月26日

EVFセミナー報告:「自動車とエネルギー」〜燃費、各国制度、エネルギーを巡る状況など〜

演題:「自動車とエネルギー」
  〜燃費、各国制度、エネルギーを巡る状況など〜
講師: 江澤正名様
  経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー課長

Web視聴開始日:2021年8月26日(木)
聴講者数:61名

講師紹介

・1995年東京大学工学部卒、通産省入省。石油部 精製課 係長、2003年自動車課 課長補佐(環境・技術担当),2007年ワシントン大学公共政策大学院修了。
・2012年資源エネルギー庁 電力需給流通政策室長、2016年同庁 石炭課長、2018年同庁 新エネルギー課長、2019年同庁 省エネルギー課長、現在に至る。

講演概要

・世界は気候変動問題への取り組み姿勢を強め、主要各国は電気自動車(EV)の普及を急ぎ、急速に化石燃料を使用する自動車の販売を排除する気運にある。日本政府も2050年カーボン・ニュートラルの実現を掲げ、2030年代半ばに電動車100%を目指す方向を打ち出した。長年自動車行政に携わってきた講師には省エネルギー課長の立場にとどまらず、エネルギーから見ると自動車はどう見えてくるのか、この先わが国の電力構成の変化と、自動車業界は環境対応、省エネ対応をどうするのか、目指すべき方向についてご講演頂いた。
・2050年のカーボンニュートラル実現のポイントは、比重を増大させざるを得ない太陽光発電を使いこなせる見通しを持つことであり、そのためには電力需給の調整弁にも使える自動車のEV化が不可欠である。自動車産業の競争力強化と、2050年カーボンニュートラルを組み合わせ、これら二つを同時に進める戦略的思考の重要性が強調された。講演は大変分かりやすく、質疑応答も具体的で活発に行われ充実のセミナーとなった。

講演内容

T.自動車燃費の推移と燃費規制の変遷
・わが国の乗用車燃費基準は1999年に導入され、以来3回基準値の引上げがなされたが、いずれも前倒しで達成、国内メーカーの国際協力を高める結果となった。2030年度燃費基準は2016年実績値に比して32%の燃費向上の大よその平均数値例でいえば25、4km/Lと策定された。

U.主要各国の自動車の燃費規制等
・自動車の販売台数の多いEU、米国、中国の燃費規制等を日本と比較してみると、いずれもCO2排出規制はわが国より厳しい。EUと米国(カリフォルニア州等)は、排出規制を超過すると多額の罰金をかけ、一方EVを販売すると罰金が大幅に減額されるシステム。カリフォルニア州等ではEV専門メーカーのテスラがこの利益を享受し、トヨタなどが罰金を支払っている構図となる。中国は燃費規制に未達の新型車は型式認定が認められない。(詳細は資料7頁〜9頁参照)
・わが国よりも厳しい燃費基準や市場環境が世界標準となり、相対的に緩い日本の規制でガラパゴス化し、結果として日本の自動車メーカーの競争力が低下することが懸念される。

V.エネルギー供給の変化
・第5次エネルギー基本計画(2018年7月3日閣議決定)においても再生可能エネルギーの主力電源化を目指すことが明確化された。今後はさらに太陽光、風力発電の規模拡大が必要とされているが、気候、昼夜の出力変動をいかに調整できるかが大きなポイントとなる。
・近年、エネルギー需給構造に革新的な変化を及ぼす流れが生まれている。それは太陽光コストの急激な低下、デジタル技術の発展と電力システムの構造転換の可能性、小売り自由化など電力システム改革の展開、再エネを求める需要家とそれに応える動き等である。2年前から順次、FIT買取期間を終え安価な電源として活用できる太陽光電力が大量に出現しつつある。
・電気は発電量と使用量が常時拮抗している必要があり、近年、再エネ出力制御(発電抑制=接続拒否)が頻発している。発電抑制時の昼間の時間帯には電力価格が最安値(卸電力市場で0,01円/kWh)になるものの、その安い電力の活用がなされていないのが実情。

W.EVDP(ダイナミックプライシング)実証事業・VPP(バーチャルパワープラント)実証事業

1) EVDP(ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト)の実証
小売電気事業者が卸売電力価格に連動した時間別料金を設定(=ダイナミックプライシング)し、EVユーザーの充電ピークシフトを誘導する実証を実施中。⇒太陽光発電が盛んとなる日中に電力需要をシフトするために、各家庭のガレージにあるEVに充電してもらう。

2) VPP(バーチャルパワープラント)の概要
VPPとは、太陽光発電等の再生可能エネルギー発電設備や蓄電池等のエネルギー機器、系統上に散在するエネルギーリソースを遠隔に制御し、電力消費量や発電量を増減させ、それらを束ねることで発電所のような電力創出・調整機能を仮想的に構成したものをいう。この需給バランスサービスの仲介を行う司令塔役をアグリゲーターと称する。

3) EVDP及びVPPの意義:再生可能エネルギーの導入拡大
近年の再生可能エネルギーの急速な導入拡大に伴い、自然変動電源(太陽光・風力)の出力変動が系統安定に影響を及ぼしており、これを吸収するための調整力の確保が喫緊の課題。そこで、EVDP及びVPPは再生可能エネルギーの供給過剰を吸収することで再エネの導入拡大に貢献することが大いに期待される。

4) エネルギーシステムとEVの融和
将来EVの普及が拡大して従来通り充電時間を自由とすると時間帯別に充電ピークが発生し、電力系統に悪影響を及ぼす可能性があるが、エネルギーシステムと連携することによりその課題は回避しうる。またEVは非常時の供給源としての価値、蓄エネ価値、また電力系統の需給調整機能の価値等、多様な価値を創出することにもつながる。

X.蓄電池としてのEV
・近年普及し始めている家庭用蓄電池は容量が7kWhと小さいが、EVに搭載されているバッテリーは大容量(40kWh)で且つ、バッテリー価格としては価格が割安である。EVの日中在宅率は70%との調査があり、昼間に太陽光発電を蓄電する大容量の”走る蓄電池”として有効に活用することが期待される。
・家庭用蓄電システムの自律的導入拡大を実現するため、目標価格を設定しそれを下回った蓄電システムに対しての支援制度がある。年々目標価格を低下させているのに対して、市場価格が追随して下落してきている。
・再エネを活用するためには、蓄電機能とモビリティ機能を有する電気自動車の最大限の活用が必要。すなわち、太陽光発電の余剰電力をEVの充電に活用し、蓄電したEVから家庭に給電できるシステムの構築が望まれる。
・2019年9月に千葉県で発生した強力台風被害による長期間の停電では、自動車メーカーが被災地にEVを派遣、給電することにより大きな貢献をした。非常時に電動車から給電できることが広く認識されていないというそもそもの課題も存在。

Y.まとめ
・EVの普及は燃費の向上と大容量電池として大きな付加価値を生む。そのためにはEVが電力システムに貢献出来るようにすることが必要。一方、わが国自動車メーカーは各国の厳しい規制、EV普及促進策に積極果敢に挑戦して競争力を維持して欲しい。「自動車産業の競争力強化」と「2050年度カーボンニュートラル」を同時に進める戦略が必要である。
・将来のクルマ
クルマ好きな講師が最後に私見として将来の車として次の車を挙げた。BEV:バッテリーで動く電気自動車、PHEV:プラグインハイブリッド車、HEV(シリーズ):エンジンは専ら発電機として機能し、駆動はすべてモーターが行うハイブリッド車。

(主な質疑応答)

Q1:“ゆがんだ市場も市場だ”とのこと、EUや中国のEV促進策はガソリンエンジン車の牙城である日本を引きずりおろそうとの作戦が隠れていないだろうか。
回答) そういう懸念も考えられるが各国の規制にイヤイヤ合わせてゆくとある時、後れをとってドラスチックに負ける。先んじて行く方が戦略としては正しいと考える。

Q2: EV化が必要なのはわかった。私は最近900世帯のマンション群から地方都市の90世帯のマンションに移住した。前のマンションにはEVは1台も見当たらず、今のマンションには充電設備が1台分しかない。駐車場に充電設備がないとEVは普及しない。
回答)私は住宅の省エネルギーにも関与している。マンションにはEVの充電設備のほか、省エネルギー向け給湯器の普及も大事であり、いいご指摘だ。

Q3:前の質問と重複するかもしないが、EVは価格が高いこともあって必ずしも日本では盛り上がっていない。日本市場をガラパゴス化しないためこれから欧米並みに規制を強め、強制的にEV化を進めようというお考えでしょうか。
回答) 日本も2035年に電動車100パーセンと言っているので、何らかの形でEV化する方向にはある。それをどのように実現してゆくべきかが思案のしどころである。確かにEV 普及のカギは価格で、搭載するバッテリーの価格の動向次第だとの見方があるが、バッテリーの製造は今や自動車メーカの自社開発ではない。ハイブッドに強い日本メーカーの技術をもってすればEUなどにはに負けない。米国のEV専門メーカのテスラの車を見て”これなら負けない”と言ううちにEV化を進めた方がいい。出遅れると追いつけなくなるという懸念もある。

Q4: ヨーロッパではハイブリッド車が少ない。日本のハイブリッド車を排除しているのではなかろうか。
回答) 走行モードの違いだろう。ハイブリッドはストップ&ゴー、頻繁に加減速のある日本の街中のような走行がハイブリッド車の強み。またヨーロッパ車のエンジンンの燃費も向上しているという事情もある。

Q5:バイオマス発電は FIT制度への適合はパーム油しかない。他の植物の油も認めていただく方向にあるが、パーム油以外のバイオマス発電にも力を入れて欲しい。
回答)バイオマス発電は電力供給の調整力があるので大事と思っている。非化石燃料の中で、EVを活用すれば太陽光発電が特に使いやすいということだ。

ところで中国がなぜEVにシフトするかと言えば、国内に石炭資源が豊富なため、石油など海外資源に依存せずに国内資源だけで発電でき、それでEVを動かそうとしているのではないか。ほかにノルウエーなどは水力が豊富なため水力で発電し、EVを動かそうとしている。各国の自動車政策はCO2ゼロという視点だけではないことに留意すべきだ。

Q6:EVが増えるとエンジンが不要になる。エンジン回りにいる業界の多くの雇用が失われることが心配だ。
回答)既存産業の雇用を維持するために競争力強化から目をそらすということは負けのシナリオになってしまう。そうするとある日突然、雇用が無くなる時が来る。そういうことがないように少しづつ準備していくのが大事ではないか。

Q7:日本には7,000万台の乗用車があると言われているが、これらがEVに置き換われば、時間帯によって生じる余剰電力を吸収できるか。
回答)太陽光で日中発生する余剰電力を吸収する力として、電動車の瞬時にためる蓄電能力に大いに期待しているところだ。

Q8:マンション居住者のEV充電のために、居住地区近隣のガソリンスタンドを2030年に間に合う期間に十分な量の充電ステーションに切り替えるという考えは如何でしょうか。
回答)ガソリンスタンドにおける充電設備の設置も一つの考え方ではあるが、急速充電であっても充電にかかる時間は数十分程度と長く、多数のEVがステーションに集中してしまう等、課題も多い。マンションにおける充電設備の設置なども含め、どのような充電設備の整備が必要になるかは重要な論点だ。
文責:佐藤孝靖

講演資料:自動車とエネルギー〜燃費、各国制度、エネルギーを巡る状況など〜
posted by EVF セミナー at 18:00| セミナー紹介

2021年07月21日

EVFセミナー報告:「進む各国のガソリン自動車の販売規制 〜我が国自動車産業の課題と対応〜」

演題:「進む各国のガソリン自動車の販売規制 〜我が国自動車産業の課題と対応〜」
講師:NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)理事・主席研究員 水戸部 啓一様

Web視聴開始日:2021年7月21日(水)
聴講者数:53名
報告担当: 正会員 橋本 升

講師紹介
・(株)本田技研研究所にて商品開発プロジェクト、技術研究、商品企画室マネージャーを経て、本田技研工業(株)環境安全企画室長、経営企画部長
・2010年に退職後、神奈川工科大学非常勤講師、専修大学兼任講師、専修大学社会科学研究所客員研究員を経て、現在、(NPO)国際環境経済研究所理事・主席研究員、早稲田大学自動車部品産業研究所招聘研究員などに就任。

講演の概要

・昨年、気候変動問題への取り組み気運の国際的な高まりから、英国やカナダ、米国などから相次いで2030年代に化石燃料を使用する自動車の販売を禁止する方針が打ち出された。 また日本政府も昨年10月に2050年カーボン・ニュートラルの実現を掲げ、2030年代半ばに電動車xEV(注)100%を目指すとしている。
・一方で、ガソリンエンジンなど内燃機関車からバッテリー電気自動車などへの転換はエネルギーの低炭素化や資源、そして消費者の意識改革など普及のための様々な課題を持っている。また急激な変化は自動車産業のみならず日本経済への影響も極めて大きい。 
・これらの課題を踏まえて日本の自動車産業の行方についてご講演をいただいた。

(注):本報告中にある電動車に関わる用語をまとめておく。
ICE(Internal Combustion Engine):内燃機関。ガソリンやディーゼルエンジン等。
BEV(Battery Electric Vehicle):バッテリー電気自動車。一般的に言う電気自動車/EV。
HEV(Hybrid Electric Vehicle):ハイブリッド車。
PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle):プラグイン・ハイブリッド車。
FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle):燃料電池自動車。
PEV(Plug-in Electric Vehicle):プラグイン車。BEVやPHEVなど外部から充電可能な車
xEV(Electrified Vehicle):電動車。電動化された車(HEV,PHEV,BEV,FCEV)の総称。
ZEV(Zero Emission Vehicle)、ZEV規制:米国カリフォルニア州。
ZEV(BEV,FCEV等)を主要メーカーに一定割合の販売義務付け。
NEV(New Energy Vehicle/新能源車)、NEV規制:中国。
NEV(BEV,PHEV,FCEV)を生産(輸入)事業者に一定割合の生産(輸入)義務付け。

T.主要各国のICE車規制等の動向

T-1)電動車両を巡る動きとEVシフト

気候変動問題が顕在化した1992年に気候変動枠組み条約が採択され各国の重要な課題となった。2008年の洞爺湖サミットに報告されたIEAの2050年2℃の技術シナリオでは、自動車は2050年までに90%以上が電動化される必要があるとされ、自動車企業や各国の政策担当者に大きな方向を示した。
電動車両を巡っては、米国カリフォルニア州が大気汚染問題から1990年にZEV法を制定してBEVやFCEVの実用化を促し、2012年には2018年以降のZEV拡大の枠組みが定まった。同年、中国は自動車産業政策の柱としてNEV規制案を発表し、電動化に重点を置いた。それらの情勢に加え、2015年にドイツVolkswagenのディーゼル排気ガス不正認証問題が発覚し、それを契機に欧州メーカー各社は気候変動対策として電動化戦略を打ち出し、電動シフトは大きなテーマとなった。

T-2)主要各国のICE車規制等の動向

2015年に主要排出国を含む世界のすべての国が参加するパリ協定が成立した。パリ協定では自国の目標を提出し管理するプレッジ&レビュー方式がとられ、長期目標として世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃以下に保つとともに、1.5℃に抑える努力をするとなった。2018年にIPCCは「1.5℃特別報告書」で、1.5℃以下に抑えるモデルではCO2排出量が2050年頃には正味ゼロに達するとの結果を示した。それ以降、EUや主要国で「カーボン・ニュートラル」宣言が相次いでいる。それらの影響から、ガソリンやディーゼルなどの化石燃料を使用するICE車から、CO2や大気汚染物質を排出しないZEVへの転換が各国政府の重要な政策課題となった。世界におけるICE車規制や強化の動きを以下に概観する。尚、各国のICE車販売規制方針は発表のみで、法的な枠組みは今後検討される。
(フランス)2017年:2040年から化石燃料車販売禁止方針を公表。
(英国)2017年:2040年からガソリン・ディーゼル車の販売禁止方針を公表。2020年:2030年(PHEVは2035年)に時期を前倒しとすると発表。
(米国)2020年:米カリフォルニア州知事は2035年に全てのLDV(light-Duty Vehicle:乗用車相当)をZEVとすることを要求するよう州政府に指示。
(カナダ)2020年:ケベック州は2035年にガソリン車新車販売禁止する計画を発表。
(中国)2020年:中国NEV規制改正。2021年以降のNEV比率アップと低燃費車を新設。2035年に環境対応車(NEVと低燃費車)で100%とする目標を発表。
(日本)2020年:経産省は、2030年代半ばに電動車(xEV)100%を目標とすると発表。

U.プラグイン車PEV(BEV+PHEV)の現状

U-1)世界の新車販売とPEVの状況

世界の新車販売台数は2017年に9千6百万台を超えたが、その後中国市場の低迷と、2020年にはコロナパンデミックの影響で8千万台を下回った。PEVの販売は全体市場が落ち込む中で成長を続け、PEV販売比率は4%を超えてきた。2020年のPEVの販売台数は312万台で、BEVが7割、PHEVは3割となっている。欧州が137万台、中国が127万台とこの2地域で世界全体の85%ほどを占めるが、それまでPEVのけん引役の中国が減速し、パンデミックの経済対策による補助金を増額した欧州が急速な成長を遂げている。

U-2)PEVの新車攻勢と中国市場低価格EVの躍進

 世界におけるPEVのモデル別の販売状況は2018年から2020年では大きく変化し、半数以上が2018年以降発売の新型車となった。特に中国や欧州で小型のBEVが伸びている。中国市場では基本モデルで約45万円の低価格な超小型EVが2021年上期のトップとなった。大都市のナンバープレート発給規制の優遇を受けられることが一要因。一方で欧州、特にドイツでは経済対策で補助金を上積みした結果で小型クラスのBEV購入が増えたと言われており、低価格のニーズは高い。

V.ICE車販売禁止政策の課題

V-1)気候変動対策としての実効性

ICE車を禁止し、BEVに転換すればCO2の排出をゼロにすることができるということでは無い。GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)の排出を製造から使用、廃棄までのライフサイクル全ての段階で削減されなければ実効性のある対策には繋がらない。
総合的なエネルギーの評価としてWell to Wheel(油井から車のホイールまでの意味)で見た場合、2015年のデータでは、中国、インド等の石炭火力発電の多い国で使われるBEVはHEVよりCO2排出が多い結果となる、一方で水力発電がほとんどを占めるノルウェーや原子力発電が主力のフランスでは5g-CO2/km以下とほぼゼロとなる。
車のライフサイクルの全てで発生するGHGの評価(LCA)では、リチウムイオン電池の製造に、大きなエネルギーを要することから、大容量の電池を搭載したBEVは、発電のCO2排出が多い場合にHEVやPHEVと比べてGHGの排出は多くなることがある。
Well to WheelでもLCAで見ても発電の低炭素化はBEVの気候変動対策の実効性を高める上で必須であり、電動車政策の中に含まれるべきである。

V-2)BEV普及の技術課題

BEVは走行時にCO2の排出ガスがゼロ、自宅でも充電可能、充電コストが安いなど優れた特徴がある反面、充電にかかる時間が長く、一回の充電で走れる距離が短く、また価格が高いと言う問題がある。その為に普及がなかなか進まず、各国政府は補助金などの優遇処置や充電スタンドの増設を進めている。BEVには高性能なリチウムイオン電池が用いられているが、材料にリチウムやコバルト、ニッケルなどの高価なレアメタルを用いることなどからコストが高く、性能や安全性などを満たした車はICE車の同級車に比べて100万円以上価格が高くなっている。

1)リチウムイオン電池のコスト

BEVの車載用リチウム電池の性能向上とコスト低減は大きな課題であり、各国が戦略的に研究を進めている。ガソリン車同等の性能と車両価格を狙う革新的電池の研究と並行して、現状のリチウムイオン電池の改良や先進的電池の開発が進められている。コストの目標は2020年代初めにおよそ100USD/kWhを目指している。また従来の2倍以上の性能と安全性を持つ全固体電池の研究が進んでおり、トヨタは2020年代の早い時期に実用化する計画である。

2)リチウムイオン電池と資源問題

BEVの普及拡大に必要なリチウムイオン電池の確保も大きな課題である。リチウムイオン電池に使われるリチウムやコバルト、ニッケルなどは資源量が限られており、また生産増加にも多額の投資が必要となる。現在、300万台レベルのBEVが仮に2030年に新車販売の30%の2650万台くらいになるとすると、電池は1640GWh/年が必要と推計され、リチウム、コバルトの需要は現在の生産量の数倍となる。これらの生産拡大には資源の埋蔵量や偏在化など様々な課題があり、既に囲い込みも始まっている。
因みに、リチウム、コバルトの埋蔵量、生産量は下表の通り。(表1)
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一方、リチウムイオン電池製造時のGHG排出でもニッケル、マンガン、コバルトなどが主な要因となっており、材料の見直しによるこれらの使用削減やリサイクルも重要である。
EU委員会は「バッテリー規制改正案」を2020年に発表している。主な内容を下記に示す。
・ライフサイクル全体でのカーボン・フットプリント上限値導入(2027年〜)
・コバルト等再利用材の使用量の開示(2027年〜)
・再利用材使用割合の最低値導入(2030年〜)

3)BEV普及のための充電インフラ整備

充電インフラの整備は未だ充分ではなく、特に急速充電が可能なスタンドの数は日本でもガソリンスタンドに比べ3分の1程度。またマンション等では普通充電スタンドの設置も進んでいない。今後、日本政府はガソリンスタンド並みの利便性を確保することを目標にインフラ整備を進める計画である。また欧州でも充電インフラの不足や一部の国に偏っているなど、汎欧的な改善が必要となっており、各国政府も対策を進めるとしている。
(注):現在の各国の充電スタンド数(普通/急速)を下表に示す(2017年)。(表2)
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V-3)消費者の選択

電動車が普及するか否かは、最終的には消費者の選択による。特にBEVについては従来の車と比べて、価格が高い、1回の充電で走れる距離が短い、充電時間がかかるなど利便性が低い、また電池の交換費用が高く中古車価格が安いといった消費者の懸念が強く、販売は低迷している。一方でHEVは市場の3割を超えるなど普及が進んでいるが、その大きな要因は減税などの優遇策と燃費基準、メーカー努力によるHEV車のモデル数増加があげられる。消費者は選択肢が増えることでHEVを選ぶ機会が多くなった。BEVの場合は補助金や充電スタンドの増設などで抵抗感は少しずつ改善されてきたが、まだモデル数は少ない。今後、メーカー各社は中国、欧州を中心に多くのモデルを投入するとアナウンスしている。
消費者の(従来車に比べて) BEV購入のブレーキになっている要因と、それぞれの改善状況を下表にまとめた。(表3)
table3.jpg

V-4)販売規制のありかた

ICE車の販売規制を表明した国や地域において、まだその法的な枠組みは決まっていない。
法制化の検討は今後進むが、それに伴う以下のリスクを充分に考慮し、経済や産業競争力等を加味した制度設計を行う必要がある。
@過剰な規制によるメーカーの経済的リスクが大きい。
A消費意欲低下による販売減は経済に大きな影響

1)販売規制の方法

販売規制は自由な経済活動に制約を与えるものであり、制度設計には注意が必要である。これまでの販売規制に類似する規制では、主としてメーカーを対象とした規制が多い。しかし消費者が購入しなければ規制は実効性に欠けることから、消費者には優遇などの誘導策が合わせて用いられている。以下にその例を示す。
@ 販売規制:対象=メーカー・・消費者の選択に委ねられ確実に売れる保証はない。
・米カリフォルニア州ZEV規制
・米国、欧州などの燃費規制
A 生産または輸入規制:対象=メーカー・・売れなかった生産車はメーカー在庫となる。
・中国NEV規制
B 間接規制:対象=個人
・中国その他の都市部乗り入れ規制、ナンバー発行規制など
・欧州、日本など税の重課、軽課
・燃料税、揮発油税などの重課
・CO2課税
C 優遇政策による誘導
規制の方法は@〜Bの組み合わせの可能性があるが、2030年代半ばまでの限られた時間を考えれば強力な優遇措置の継続と政策の柔軟な運用が必須である。

2)主要メーカーの電動化計画

主要各社はICE車規制の潮流の中で電動化への対応を発表しているが、それぞれの戦略に応じた内容となっている。コアとなる電池についてはGMやVolkswagen Groupなど欧米各社は電池の生産に重点投資を行う計画で、日本メーカーは各地域の電池メーカーとのパートナーシップを進めているが、懸念もある。その為に、日本も資源確保やリサイクルなどを進める「電池サプライチェーン協議会」を2020年に設立した。
(GM)2035年までに、すべての新車をZEVにする。今後5年間で、電動車と自動運転車に270億ドルを投資。バッテリー新工場(米国テネシー州)に23億ドルを投資
(Ford)欧州で販売する乗用車を2025年までにPEV、2030年にBEV100%電動化への投資額を2025年までに、300億ドル以上に増やす。EV向けバッテリーの開発・生産を目指す。
(VWG)2030年までに、グループ全体で約70車種の新型BEVと約60車種の新型HEV・PHEVを、市場に投入する予定。
電動化などの次世代技術への投資を約730億ユーロに増額。
・電池工場を6カ所建設、合計240GWh
・欧州全体に350kW急速充電ステーション網を25年に20年比5倍に拡大
(トヨタ)グローバルで2030年電動車800万台、内BEV+FCEV200万台
    電池はパナソニックと合弁、中国でCATLとパートナーシップ、BYDと業務提携。
(ホンダ) 先進国全体でのEV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年に80%、2040年には、グローバルで100%。
電池は中国でCATLと包括的アライアンス提携、米国でGMと共同開発。
(日産)2030年代早期に世界主要市場で販売するすべての新型車を電動車。
    Envision AESCと共同で英国、日本に電池工場新設

3)カーボンフリー燃料・水素とe-Fuelの動向

CO2を排出しない燃料として、再生可能エネルギーから作った水素や、回収したCO2と水素から作る合成燃料(e-Fuel)の研究が進んでいる。水素はFCEVに用いられるが、各国政府は太陽光などの変動電源のエネルギー貯留・輸送手段としての検討を進めている。一方で、ICE車に利用可能なe-Fuelはドイツを中心に研究が進んでいるが、日本もCCUS(Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage)/カーボンリサイクル燃料として研究が着手された。

W.ICE車禁止と日本の自動車産業への影響

W-1) 日本の自動車市場の現状と日本政府の目標

1)全体需要は2020年を除き横ばい傾向(概略500万台/年)の中で、PEVの販売は2017年約5万4千台をピーク(日産Leafのモデルチェンジ時期と重なる)に2020年で3万台弱と減少傾向。ランキングは、日産Leaf、トヨタPrius PHV、三菱Outlander PHEVの順。

2)日本政府の目標:政府は2050年温室効果ガス8割削減、乗用車は100%電動車の目標を掲げていたが、カーボン・ニュートラル宣言を受け、2021年6月の「グリーン成長戦略」で、2035年までに乗用車新車販売で電動車100%を目指すとした。2019年実績では、151万台(35.2%)。

3)電動車普及促進策
電動車の普及促進策としては、購入のインセンティブとして補助金や減税、また利便性を高める充電や水素充填スタンドの整備費用の補助もが行われてきている。補助金は国や地方自治体などが行っており、年度で変わるが、2021年度のCEV(Clean Energy Vehicle)補助金はBEVで一充電走行距離に応じて最大42万円、PHEVでは最大20万円となっている。

W-2) 日本の自動車メーカーへの影響への影響

 日本の自動車産業は全製造業の製品出荷額の18.8%で設備投資額や研究開発費も2割を超える基幹産業である。また世界生産のおよそ2割が日系ブランドで占めるグローバルビジネスを展開しており、世界各地域の販売規制の行方は大きな影響がある。以下でその影響について検証する。

1)BEV生産に伴う自動車工場への影響
  現生産工場でBEVとエンジン車の混流生産は可能である。エンジンやトランスミッションの鋳造や加工などを行ってきたパワープラント工場は設備や工程が変わるが、完成車工場は大きく変わらない。

2)BEVと企業収益の変化
BEV化に伴い、現在内製されているエンジンやトランスミッションの製造コストに比し、リチウム電池のコストが大きい。電池が外部からの購入品となると製造原価に占める購入部品費の割合が増加し、これらによって自動車製造会社の付加価値減少と原価管理の主導権が弱体化することが懸念される。

3)日本のZEV(BEV,FCEV)生産と輸出に伴う影響
 日本の自動車メーカーや部品メーカーに影響を与えるICE車の生産は、国内のZEVと輸出のICE車の規制を宣言した地域や国のZEV台数を推計すると、2035年頃にはBEVやFCEVのZEVが36%で、ICE搭載車(HEV、PHEV含む)は64%となる。従ってICE車からZEVへの切り替えは断層的でなく暫時進むことになる。尚、EUへの輸出はLCAや国境炭素調整などのGHG排出規制動向に注意が必要。

W-3)部品産業への影響

BEV化に伴い、エンジン関連や駆動系部品などを中心に自動車部品産業の製品出荷額の影響は約3割と見込まれる。特に事業影響が大きいのは、それらの関連メーカーやTeir2以下の専業メーカーで、切り替えが進む今後十数年のうちに事業の構造転換を進める必要がある。また海外生産向けの部品輸出はZEV規制国向けに影響がある一方で、拡大が見込まれる進展国へのICEの部品輸出は当面堅調に推移する見込みである。

W-4) 車載用リチウムイオン電池産業の課題

BEVなど電動車両のコア技術である車載用リチウムイオン電池は日本メーカーがトップシェアを占めていたが、現在では中国及び韓国企業にリードを許している。その要因は、BEV市場の拡大が見通せない中、大型投資を控えてきた日本企業に対し、中国政府の電動化政策に沿って積極的な投資を行った中国企業や韓国企業がコストで優位になったことにある。同時に電池素材も日本企業からコストが圧倒的に安い中国企業へシフトしている。しかし、EUのLCAや国境炭素調整にみられるように今後のブロック化の進展を考えると、コストの大きな電池の日本生産は重要である。既にリチウムやコバルトなどのレアメタルも中国のシェアが高まる中、日本も電池サプライチェーン協議会を設立したが、早急に実効のある取り組みが必要である。


X.まとめ

パリ協定の努力目標1.5℃への議論が進む中、EUや米国、日本など主要国では2050年カーボン・ニュートラルが重要な政策となってきた。英国の2030年ICE車販売規制発表にみられるようにEUの政策はトップダウン・アプローチが取られることが多い。しかし、気候変動対策としては、フランスやノルウェーのような発電時のCO2排出が極めて少ない国を除くと、現時点ではライフサイクルの排出でBEVが優れているとは言い難い。トップダウン・アプローチではそのギャップを埋めることが必要であり、気候変動対策としての今後の当局の手腕が問われている。また実施状況に応じて、実効性や課題に柔軟に政策を運用することが必要である。
一方で、日本の自動車産業は国内における基幹産業であり、またこれまでグローバルビジネスでの高い競争力を有してきた。中国のNEV規制や欧米のICE車規制への対応は個々の日本企業の大きな課題だが、日本の自動車産業としての競争力をどう維持し高めるかは日本の政策者が考慮すべきことである。気候変動対策には様々な手段とパスがあり、実効性と実現性のその最適化を図るとともに、日本の自動車産業が優位であった産業基盤を時代の転換に合わせて強化する必要がある。世界のブロック化が進む中で、リチウムイオン電池や制御半導体などコアとなる技術の開発と生産を国内で進めるためには、大型生産投資などのリスクを取る経営環境も必要になる。これまで日本は太陽光パネルや半導体、リチウムイオン電池など世界のトップシェアを持つ多くのリーディング技術で、資金の逐次投入などから徐々にシェアを落としてきた。日本にはリスクがとれる社会的な変革が求められる。

Q&A

Q1:電動車化や自動運転などが進むと,開発資源不足の問題がでてこないか?
A1:開発資源はクリチカルで大きなテーマ。システムを変える必要がある。これからは自動運転などでソフトウェアがさらに重要になる。ソフトウェア開発の仕組みを変えることと、ハード開発に外の資源をどのように活用するか等大きな課題で、開発資源の組みなおしが行われている。

Q2: e-fuelが開発されたとして各国政府の政策への影響対応は?
A2: e-fuelは電動化の難しい航空機や船舶などの利用に注目している。まだコストが非常に高く実用化までには時間がかかる。自動車については政策的に様子見の状況と思われる。

Q3: 経産省が、EV100%計画を2030年半ばに前に前倒してにもってきたが、どういう流れがあったのか?
A3: 2050年電動車100%というのも、経産省と自動車業界の検討会の中でしては温暖化対策目標から導かれた緩い目標だったが、カーボンニュートラル100%の政府方針を受けて経産省が自動車業界へ前倒しを要請したものと思われる。電動車両はHEVHybridを含む。EV電動車両100%目標の中で、軽自動車のHEV化は難しい課題。

Q4: 軽自動車のBEV化は成立するか?
A4: 日産とホンダは考えているとの話。中国で超小型低価格BEVが出てきてナンバー規制などもあり売れている。ドイツは長距離を大型車に任せ、の小型のBEVは毎日の通勤用に補助金も増えたのでという選択だと言われている。日本でも我が家に2台あればの1台は小型BEVも成立する可能性がある。但し価格が安くないと難しい。

Q5: 中国の動きと日本の対応は?
A5: 中国の自動車産業発展計画の目標の一つは電動化。輸出競争力とコア技術として電池を固めていく。資源も押さえる。リチウムやコバルトなどの精製も中国がトップ。VWは中国がマーケット。ドイツと中国は密接。日本も中国市場のシェアが大きい。日本はこの両方で成り立っているが、米中関係次第ではどちらかにシフトすることになる。

以上
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2021年06月24日

EVFセミナー報告:コロナ禍を克服した中国の現状と緊張高まる欧米関係

演 題:「コロナ禍を克服した中国の現状と緊張高まる欧米関係〜日本はどう対処すべきか〜 」 
講 師: 結城事務所主宰 結城 隆 様

Web視聴開始日:2021年6月24日(木)
視聴者数:55名
報告担当:EVF理事 奥野 政博
講師紹介:
・一橋大学経済学部卒業。金融、製造業、流通業で40年間にわたって調査・企画・新規事業立ち上げを経験。ロンドン、パリ、ニューヨーク、北京に都合16年間在住。
・グローバルな視点と虫の目で中国ビジネスを見て、著作、講演活動を幅広く行っている。趣味は料理。
・荒井商事株式会社非常勤顧問、柿沼技研株式会社取締役、柿沼五金(清遠)零部件有限公司薫事、北京如水滙科技有限公司副総理。

1.講演概要
マクロの数字を見る限り、中国はコロナ禍を完全に克服したといえる。それを象徴するのが5月1日から始まった労働節連休中の消費爆発で、耐久消費財の売れ行きも好調だ。その一方、新疆ウイグル、香港、台湾を巡ってアメリカやEUとの緊張感も高まっている。経済政策においてバイデン政権は、トランプ政権同様に対中強硬策を継続するように見え、「競争(経済・産業)、協調(環境)、敵対(人権・民主主義)」のキーワードがバイデン政権の対中政策の基本のようだが、コロナ禍克服で自信を深める中国が欧米の圧力に屈する気配はない。半導体にみられるグローバルサプライチェーンからの「中国外し」にも中国は自前主義で対抗しようとしている。政治問題については「ノーコメント」を貫いている日本企業が錯綜する地政学上の新たな緊張の中、どう対応すればよいのか5部(中国の新型コロナ制圧状況、コロナ禍の爪痕、中国の経済状況(消費爆発)、米中関係の三次元方程式(競争、敵対、協調の3つのキーワード)、グローバル・ジャパン戦略)の項目について沢山の最新データを示しながら1時間20分にわたってご講演を頂きました。

2.講演内容
(1)中国の新型コロナ制圧状況
・中国の今の感染状況は、感染者数が一日あたり全国で一桁台にまで落ち着いて来ていたが、広州市(人口:1,500万人)では5月以降1日あたり6〜7名の感染者が確認され、全市民対象にPCR検査が実施された。陽性者が発見されると即隔離され、地元衛生局や政府関係者の信賞必罰が徹底される厳しい政府の対応が採られている。
・大都市では一日あたり最低50万人のPCR検査実施体制が構築され、検査スタッフも地元+省内+省外の3層体制で支援されている。雲南省では3月に数10名の新規感染者が発見されたが、武漢から検査車両と検査スタッフが即送り込まれ、数10万人規模のPCR検査が行われた。
・6月7日時点での累積感染者数は114,707人で累積死者数は5,132人と国家健康衛生委員会から発表され、本土の感染者数は1桁台で推移している。
・中国のワクチン接種状況は、今年の1月以降一般の人たちにワクチン接種を開始し、6月7日時点で7.6億回、1日あたりの接種回数は2千万回にスピードアップされて日本のレベルを遙かに上回っている。ワクチンもフル生産されて海外各地へ約7億回分くらい輸出し、COVAXに基づく途上国へ約2千万回の無償供与が行われている。主な輸出先は中南米、アジア・太平洋で、アジア諸国(インドネシア、ラオス、カンボジア)には2億回分以上のワクチンが輸出されている。

(2)コロナ禍の爪痕
・コロナによる経済回復度合いが地域・国によってまちまちで、ワクチン接種が進む先進国、特に中国がトップでアメリカ、ヨーロッパがこれに続き、低所得発展途上国の回復が遅れる傾向にある。
・巨額なコロナ対策費用が各国で給付金支給などで財政赤字が急拡大している。EUでは、財政赤字がGDPの約9割まで高まり約7千億ユーロ弱の復興財政支援枠が設定され、そのうち約半分が贈与で、そのほか多国籍金融支援枠として1.8兆ユーロが設定され、その配分を巡る加盟国間の駆け引きが激しくなっている。
・EU以上にアメリカの財政赤字が高まり、トランプ政権とバイデン政権の2年間でコロナ対策予算が13兆ドルに達し、財政赤字は両年とも2019年の30倍に急増している。一方、雇用回復は頭打ちで一人あたり1400ドルの個人給付金もあり、中々労働市場に戻って来ない状況と、過剰流動性により株価が高騰し、中国からの輸入増により経常収支赤字が拡大している。
・日本の財政赤字も急速に拡大し、2020年にはGDPの約70%に達し、GDP比は敗戦の年を上回っている。
・ポストコロナの世界での注目点として、政府の巨額財政赤字拡大、環境対策、デジタル経済によるインフラ投資、グローバルサプライチェーンの見直しなどに相当なコストを要し、政府の役割の重要性が増すと共に、自由・民主主義vs権威主義の価値観の対立が深まり、中国の存在感が世界的に高まって来ている。

(3)中国の経済状況(消費爆発)
・中国政府のコロナ対策は、欧米・日本と比べると現金給付や大規模金融緩和を行わず、財政面での負担を極力抑えたと言える。雇用面では職場復帰を迅速に行い、これに関わる社会福祉企業負担を抑え、中小・零細企業向け融資を拡大し、行革も含め中国経済が抱える問題を抜本的に解決する政策を採り、「危中有機」「逆風飛揚」の視点から悲観的に捉えず、この機にポジテブな対応で財政規律を相当程度維持した。
・中国の中小・零細・個人企業は約1億社、税収の50%、GDPの60%、雇用の80%を占めて圧倒的な存在であったが、これまで政府の支援を受けていなかった。コロナ禍で資金繰り支援のために金利2.5%の優遇ローンとか国有銀行に新規貸出融資枠を設けるなど日本の企業支援策と比べて圧倒的なスピード感や規模感が覗える。
・4月の貿易統計では50%前後の伸びになっており、中国の経済回復で需要が急速に回復しているとうもろこし、大豆、銅や錫など一次産品の国際価格が高騰している。
・中国の大学新卒者数が毎年数10万人増え、その能力と企業が求める即戦力となる能力との乖離拡大という雇用面の課題のほか、昨年10月以降資金繰り逼迫が背景となった国有企業(AAA格付けが約8割)の債務不履行が相次いでいるほか、不動産開発会社の過重債務減らしで昨年7月以降、住宅購入規制強化、不動産向け融資の総量規制と財務規律強化の3本柱で推進している不良債権問題と昨年の出生率が過去最低の1.3(日本は1.4)となり2015年のふたりっ子政策の効果もなく今年から三人子も認めざるを得ないほか、結婚したら又貧乏な生活に戻り自由もなくなると考える若者が増え結婚件数もこの7年間で約半分に減少し、住宅価格の高止まり、教育費用の増加、両親の高齢化や託児所の圧倒的な不足などが社会問題となっている。

(4)米中関係の三次元方程式(競争、敵対、協調の3つのキーワード)
・先ず「競争」は、産業と経済、情報通信、AI、新エネ車など先端産業分野における覇権争いで、アメリカは300件を超える対中制裁法案を実行し、中国はつい先週、外国反制裁法を可決し対抗している。次いで「敵対」は、政治面で自由と民主主義vs権威主義、南シナ海問題を差して、アメリカは対中包囲陣の構築を目論み、中国は一帯一路構想対象国との関係を強化し、これまでの「戦狼外交」から今年から「愛される中国」外交にソフト転換しつつある。「協調」は、地球温暖化問題、地球環境汚染問題とパンデミック再発に如何に備えて行くのか二大経済大国が協調して行かなければならないと認識されている。
・「競争」での対中制裁法案が目白押しの状態となっていて、トップハイテク企業を輸出管理規制の対象にするとか中国製アプリのダウンロード禁止、中国企業のアメリカでの上場審査の厳格化やこの5月にはアメリカ株式上場中国企業の取引停止を命令するなど多岐にわたる対中制裁措置が採られている。中国は、アメリカによる半導体サプライチェーンのデカップリングで「中国製造2025」の目標自給率35%達成が難しくなっている。
・アメリカ政府の対中制裁措置に対して、司法当局によるバイデン政権への対応が目立って来ている。
・米中の金融関係は想像以上に緊密になっており、中国の資産運用業務の海外開放により、アメリカの巨額な財政赤字がファイナンスされる事態もあり得そう。
・中国とアセアン諸国の経済協力は緊密の度合いを増して来て、昨年11月にRCEPが成立し、今年の11月から発効して太平洋・アセアン地域での経済関係がより高まるだろう。
・協調についての環境問題では、中国とアメリカがCO2排出量とポリマー消費量ランキングで圧倒的な2大汚染排出国となっていて、どちらか一方が解決するという問題ではない。

(5)グローバル・ジャパン戦略
・今年の3月、ジョンソン政権が軍事力の規模縮減と質と効率の向上、大英帝国以来培ったソフトパワーを活かしグローバルなプレゼンスの拡充、国際金融センターのシティーを通じて中露への影響力を行使するというグローバルブリテン構想を発表した。
・これに対して日本は中国に次いで世界第3位のGDP規模で、アセアン諸国とは直接投資残高で中米に次ぐ緊密な経済関係、台湾とは歴史的な関係、中国進出企業が1.4万社もありデカップリングは日本の産業界にとってマイナスが大きいので、アメリカの対中政策で日本の立場が重要となっているので「自由で開かれたインド・太平洋構想」を乗り越えた「グローバル・ジャパン戦略」が必要となるだろうとのこと。
・日本企業の対応として、危機管理能力の向上とそのためのグローバルな情報収集体制の整備が必要で、中国市場に踏み止まらねばならない切実な現実を踏まえた株主や顧客への確実な情報発信の在り方を深化させる事が必要とのこと。そのためには、今中国で起こっている状況が何なのか、その背景が何なのかといった情報収集を高め、自信をつけてきた中国国民への対応を誤らない事が重要であるとアドバイスされ、1時間20分にわたるご講演を終えました。

3.質疑応答
Q:経済問題で中国の内需拡大の伸びと輸出外需の伸びのバランスはどうなっているのか?
A:アメリカがいろいろな形で対中政策を採っているが、中国がレアアースをストップする動きが出た時に、テキサスの閉山した大規模レアアース鉱山を再生産させようと綱引きをしている。電力供給削減による生産の頭打ちで銅や鉄鉱の国際価格が高騰して、中国は鉱物資源の輸出シェアを持っていて今後、カーボンニュートラル政策が進んで行くにつれて電力多消費の銅、アルミニューム、錫などの需給が厳しくなると思われる。トウモロコシと大豆の価格も高騰しているが、中国での需要が増えてきているのが背景にある。
Q:GDPの60%、雇用の80%を占める小規模・零細・個人企業の救済に日本やアメリカのように家賃支払いのための現金をばらまかずにここまで凌いできた事情は?
A:約1億社あるこれらの会社は新陳代謝が高いセグメントで、流動性が高いので現金をばらまいても意味がないと考えた。2つめは、これらの会社は資金力が無いので担保主義を採っている銀行や保証会社から借り易くする行政指導を行い、貸し倒れは銀行に責任を取らせている。3つめのポイントは、昨年のコロナ禍で倒産・廃業した企業は3百万社で、これに対する雇用創出が大きな課題になり、開業資金が少なく、少人数の雇用ができる「屋台経済」を薦め、夜間消費による「夜の経済」を進めてきたのでわざわざ現金をばらまく必要は無かった。
Q:中国の高齢化進展の速さが話題になっているが、高所得者は自分で起業できるが、増加した中産階級は自分で外資導入を直接選べないので国に窓口を置いて運用手段を先に提供して直接投資してもらうと考えてよいか?
A:中国の資産運用は非常に無茶苦茶な状態がずいぶん続き、高利でお金を集めて宅配したりお金を持ち逃げしたりしていたのを2018年から中国政府が淘汰して来た。専門的な知識や能力を持った資産運用業者があまりいなかったので貯蓄率が36%もあり投資銀行にとって黄金郷で、信頼できる専門業者が少ないので開放するしかないと判断したのではないか。
Q:中国のカーボンニュートラルをどう進めようとしているのか?石炭のあれだけの消費を何に切り替えようとしているのか?
A:カーボンニュートラルは既に始まっていて風力発電と水力発電、特に風力は海上風力発電が有望で、中国政府としては再生可能エネルギーと原子力発電の2本立てでカーボンニュートラルを進めて行くと思われる。ただし石炭業界、鉄鋼業界の様な多量なCO2を排出する問題をどうするのか頭の痛い政治問題となっているが、カーボンニュートラルは2060年までに達成すると言っているので逆算して40年間で目標達成する工程表は出来ていると思われる。
Q:一般的に格付け機関の格付けは信用されているのか?
A:格付け機関は数百社あり、結構なお金を取るが情実が入り込むところもあり、贈賄の性で捕まった格付け機関もある。AA以上の格付け取得が80%以上あるということは異常で、いずれ緩和されてくると思われる。
Q:輝ける星であったアリババの現状は?
A:デカすぎてもコントロール出来なくなるという事を政府が恐れたのが最大の背景と思われる。
Q:日本の10倍もある中国で、いとも効果的で迅速にコロナを退治できたのか?方針の徹底の仕方など日本で見倣うものがあるのか?
A:一番の大きな違いは、個人情報を政府に開示することに中国市民は全く抵抗感がないと言うこと。2つめは中国政府の組織力で、いろいろな部門から必要な人材を招集でき、必要な物資を自前の予算で実行できる。3つめは感染防止対策をキチンとやらない、感染状況をキチンと把握しない幹部がいたら即解雇し、改善出来たら復職させている。
文責:奥野 政博

講演資料:コロナ禍を克服した中国の現状と緊張高まる欧米関係
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2021年05月27日

EVFセミナー報告:カーボンニュートラルと次期エネルギー基本計画


演題:「カーボンニュートラルと次期エネルギー基本計画」
講師:国際大学副学長・国際経営学研究科教授 橘川武郎様
Web視聴開始日:2021年5月27日
聴講者数:73名
報告担当: 正会員 津田俊夫

講師紹介
・東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学、経済学博士
・青山学院大学経営学部助教授、東京大学社会科学研究所教授、一橋大学大学院商学研究科教授、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授を経て、2020年より国際大学大学院国際経営学研究科教授(現職) 
・2021年より国際大学副学長(現職)
・東京大学・一橋大学名誉教授
・元経営史学会会長、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員(現職)
・環境ベテランズファーム(EVF)顧問(現職)

講演
(国のエネルギー基本計画は3年毎に見直すことになっており、2018年第5次計画から3年目になる2021年の見直しにむけ活発な議論がなされている。今回は総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の委員である橘川先生から、国内外のエネルギー事情やエネルギー基本計画見直しに向けたホットな議論について幅広くお話を聞くことができた。)

1. 講演内容
(1) カーボンニュートラル
2020年10月26日の菅首相の「2050カーボンニュートラル」所信表明は、中国のカーボンゼロ表明、米国バイデン氏のパリ協定復帰意向という流れの中で日本が遅れず温暖化対策を示すぎりぎりのタイミングであったと思う。
梶山経産相も従来のエネルギーミックスを積極的に見直す姿勢を示している。
これらの背景には、アンモニアによるカーボンゼロの火力発電をめざすというJERA(東電と中電の火力発電部門を統合した会社)や、再生エネルギーを許容できるノンファーム型送電接続にトライする東電パワーグリッドといったゲームチェンジャーの存在がある。

カーボンニュートラルへむけて、「電力」では、再生可能エネルギーを5〜6割、水素・アンモニア火力を1割、水素・アンモニア以外のカーボンフリー火力+原子力を3〜4割とし、「非電力」では、エネルギー使用先の電化(年間総電力消費量を現1兆kWhを1.3〜1.5kWhにする)、水素利用(製鉄、燃料電池)、メタネーション、合成燃料、バイオマス利用をすすめ、更なる「カーボンオフセット」として、植林、DACCS(空気からCO2直接回収・貯留)といった方向が示されている。

(2) 再生可能エネルギー
日本では再生エネはコストが高いので普及が進まないとみられているが、世界では安いという理由で再生エネに向かっている。
日本でも太陽光発電7円/kWhの目標を持っているのでどんどん値段が下がるのではないか。
出力変動の大きい再生エネは、サプライチェーンやコストに問題のあるリチウムイオン電池等の蓄電池や、容量に制限のある送電線がボトルネックであったが、ノンファーム接続により送電線能力問題が解決できることと、カーボンフリー火力発電により出力調整を可能にすることにより、主力電源化し、更には熱源としても利用できることも含めて主力エネルギー化もするだろう。

(3) 原子力発電
2050年の電源ミックスにおいて、“水素・アンモニア以外のカーボンフリー火力+原子力”で30〜40%として原子力発電の評価を残しているが、副次電源化は免れない。
政府の「リプレース回避」と「新増設無し」で、全ての運転期間を60年間に延長したとしても、現存する33基の内、50年で残るは18基、69年には無くなる。
1)火力シフト、2)廃炉ビジネスによる雇用確保、3)オンサイト中間貯蔵に対する保管料支払い、の3点からなる「リアルでポジティブな原発のたたみ方」が、選択肢として必要になってきている。
使用済み核燃料の処理では、プルトニウム使用について「もんじゅ」が消えた現在、軽水炉サイクルでの利用不足を日米原子力協定でつかれる懸念がある。

(4) 石炭火力発電所
非効率火力フェードアウトは、第5次エネルギー基本計画ですでに言われていたことなので政策転換でない。
廃棄される非効率火力は114基、高効率は24基で、基数的には大きな削減だが出力ではそれほど減らない。更にこれから10件の高効率(USC)新設がある。25年以降は需要を満たすので新設なしとなろう。
火力輸出も、禁止ではなくて、輸出先がCO2削減にまじめに取り組んでいれば高効率発電所を出すという条件の「厳格化」である。

(5) 電源ミックス
講師の私案では、
2050年:再エネ50〜60%、原子力0〜10%、火力40%(再生エネに対する出力調整のため火力はこのくらい必要かと)
2030年:再エネ30%(政府案22〜24%)、原子力15%(同20〜22%)LNG火力33%(同27%)、石炭火力20%(同26%)、石油火力2%(同3%)
であるが、カーボンプライシングにより変わるかもしれない。カーボンプライスは現行数百円/tCO2であるが、将来的には3000円/tCO2や10,000円/tCO2あるいはそれ以上もありうる。

(6) 化石燃料代替の水素
電力業界はアンモニアを使うだろう。
水素を使うのは、電力以外のエネルギー産業、自動車(アンモニアは使えず)、水素還元による鉄鋼業である。
ただし、水素については技術開発中なので実装は2030年代以降になり、30年の電源ミックスでは、アンモニアと合わせても1〜2%にとどまるだろう。
とすると、NDC(国が決定する貢献)46%が難しくなるが、これは、数字が高すぎるのではなくて、今までの対応が遅すぎたということに他ならない。

(7)電力業界
2016年電力小売り自由化、2020年発送電分離により10電力体制は崩壊している状況。
送配電も送電と配電が分離されると、送電会社は系統運営を効率的にする広域化に向かい、東電グリッドが東北電ネットワークとの経営統合を狙う(洋上風力や地熱の資源が多い東北と、大消費地の東京が結びつく)。
原発に強く石炭に弱い関西電力と、石炭に強く原発に弱い中国電力が、経営統合するかもしれない。
東電が柏崎刈羽原発を売却し、運営を原電・東北電力に託する(事実上の準国営化)というシナリオもある。
このように電力会社の大きな編成替えもあるのではないか。ドイツでも、システム改革によって、8社が4社になった。

2. 質疑応答
Q:柏崎刈羽原発は問題続きで管理体制が改まらないので、準国営化などになることに問題があると思うが?
A:現場のスタッフは優秀であり、大震災のあとの水害で東北電力が窮地にあったときも、柏崎刈羽原発はよく助けた。電力問題の本質は、「高い現場力と低い経営力のミスマッチ」にあると思う。東電は、事故を起こした張本人であり、原発を営む資格がないので、ABWR(軽水炉型)という最新鋭炉を含めて、売却するしかないのではないか。

Q:炭素から水素・アンモニアへの移行があるが、原料調達の見込みについて伺いたい。また水素・アンモニアにかかわる化学技術開発に国の資金をつぎ込むことに議論はないのか?
A:日本国内でのアンモニアの年間消費量は約200万tであるが、50年には火力発電燃料用だけで3,000万t必要と言われている。世界のアンモニア生産量は約2億tであるが、政府のグリーン成長戦略ではその半分の約1億t分サプライチェーンに関与するという実現性薄い話が出たりする。問題のある所である。 
ブルー水素を得る過程でCCUSが重要になるが、別の道としてC1化学が重要になるかもしれない。例えばCO2でなくてCOの形であれば化学的に利用価値が高まる可能性はあり、研究開発が望まれるが、国からの研究費拠出は悲観的である。民間頼りである。

Q:原発依存が低くなるが、廃炉やその他の原子力関係技術の担当・開発技術者が少なくなるだろうという問題について分科会などでは話も出ないのか?
A:もちろん出ている。推進派も多いし、分科会でも一番話題になっている。グリーン成長戦略では、洋上風力、アンモニア、水素に続いて4番目に原子力があり、研究課題として小型炉、高温炉、核融合をあげている。しかし、いずれも開発は進めるが、実機を作ることはしないという。だから資金を出そうというところはないだろう。
リプレースするなら今始めないと50年に間に合わない時期と思っているが、政府も電力会社も言い出さない。

Q:東電は廃炉専門会社になるということだが、終わるまで40年あるいはそれ以上かかるが、東電が全うできるかという議論はないのか?
A:議論はされていない。東電は柏崎刈羽の再稼働に期待していたが難しいので、パワーグリッドとEP(エナジーパートナー)の稼ぎで生き続けるのだろう。半世紀にわたり水俣の補償を続けている「チッソ方式」に例がある。

Q:洋上風力に関して送電線や漁業権との調整についてうかがいたい
A:送電についての注目点は、風力の直流電源から電気ををそのまま送る直流送電にある。データーセンターなど直流電源の大口利用に効果が大きい。直流に経験があるのはNTTなので、期待している。
漁業者を事業者に組込む方式は、秋田県で試みがあるようだ。地熱発電に地元の温泉業者の協力を得る、前向きの話もあるようだ。

Q:最近引っ越しをした地方では太陽光発電が普及しているが、採算が悪くなるという話である。これに関する施策についてうかがいたい。
A:これは大きな問題で、2019年にFIT(固定価格買い取り制度)が終了したことにある。一般家庭の太陽光設備は4Kw程度であり、全量買い取られるのは10Kw以上なので、FITのもとでも、余剰分しか買い取ってもらえなかった。そのFITも終了したので、自家消費するしかない状況である。自家消費後の余剰分を隣家へ売るには送電線を使う託送料がかかる。電気自動車(EV)によって融通しあう人もいる。いずれにしてもオフグリッド策はこれからである。

Q:CCS(二酸化炭素回収・貯留)は日本には適地は無いのではないか、やっているところはあるか?
A:苫小牧で実証試験を行った。新潟の天然ガス採掘跡で進める話もある。断層の多い日本では難しいかもしれない。日本の企業がオーストラリアの褐炭利用と結びつけて計画しているが、廃棄物の他国移転として非難されるかもしれない。CCS事業は利益を生まない事業なので進みは遅いが、炭素規制により炭素価格が上がれば変わることも予想される。
産油国のカナダではEOR(Enhanced Oil Recovery)としてCO2を地下に押し込む操作がある。天然ガス産出のノルウエーは輸出先のオランダで発生したCO2を引き取って地中に戻す計画をもっている。ノルウエー自体は水力発電依存度が高くて、EV化の最先進国である。

Q:水素については非電力の主役、また、2030年代以降の社会実装とのことでしたが、社会実装に10年以上時間がかかる主因はどのような点でしょうか?
A:水素のインフラができていないことです。 欧米ではそれぞれ3000km程の水素パイプラインがありますが、日本にはほとんどありません。対照的に、肥料産業等で広く使われているアンモニアについては、日本を含めグローバルなサプライチェーンが一応構築されています。電力業界が水素でなくアンモニアを選択する一つの理由は、インフラの整備具合の違いにあります。

Q:原発がリプレースなく2050年代から2060年代にかけてゼロに向かう場合、バランスとして石炭火力の脱炭素化負担がより高まるのではないかと推察しますが、アンモニア混焼、専焼実装のスピード感についてどのようにお考えでしょうか?
A:因果関係は、原子力の後退⇨カーボンフリー石炭火力の拡大ではなく、それとは逆のカーボンフリー石炭火力の拡大⇨原子力の後退になると思います。
 石炭火力については、2030年までにアンモニア混焼が本格的に始まり、2050年には完全にアンモニア専焼(最早「石炭火力」ではなく「アンモニア火力」)となっているでしょう。

Q:再エネ、原子力、石炭火力、それから将来的な水素のバランスを取るのがLNGと思いますが、今後LNGの全体に占める比重についてどのようにお考えでしょうか?年間8000万トン輸入しているLNGがこの先どの程度減少傾向に向かうのか気になります。
A:2050年には、LNGを今の形で使うことはなくなり、すべて水素・アンモニア・合成メタンに代替されていることでしょう。もちろんLNGを輸入して日本で燃料でなく、水素・アンモニアに変える(その際排出されるCO2はCCUSで処理)方法は残るかもしれません。2018年に策定された第5次エネルギー基本計画は、定性的には「天然ガスシフト」をうたいましたが、定量的には「2030年一次エネルギーミックス・天然ガス18%」を打ち出すことで30年の天然ガス必要量を年間6200万トンに抑え込み、「天然ガスシフト」と逆行するものでした(18年当時のLNG輸入量は年間約8000万トン)。
 現在策定中の第6次エネルギー基本計画で、NDC(国家による削減目標)46%(2013年比の温室効果ガス排出量)と機械的に帳尻を合わせるエネルギーミックスが作られると、30年の天然ガス必要量は年間5000万トン前後にまで削減される恐れがあります。そうなれば、エネルギー・セキュリティ上由々しき事態が生じかねません。

文責:津田俊夫


講演資料:カーボンニュートラルと次期エネルギー基本計画
          


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2021年04月22日

EVFセミナー報告:普及型EVバス技術開発について

演題 : 「普及型EVバス技術開発について」
講師 : 熊本大学 大学院 先端科学研究部 シニア准教授 松田俊郎様

Web視聴開始日 : 2021年4月22日(木)
聴講者数 : 53名

1.講師紹介

1978年〜2012年 日産自動車株式会社で数々の新技術を商品化
・アンチロックブレーキ(ABS)の開発 (1980年〜99年)
・世界初の電子制御電動4輪駆動装置(アテーサETS) (1989年) 
・世界初の電動4輪駆動装置(e-4WD) (2002年)
・電気自動車の開発 (2005年〜)
2013年〜 熊本大学大学院 現職
・EVバス、トラック実用化研究 (環境省委託プロジェクト)
・いろいろなEVの社会実装研究 (電動農機等)
・先端ものづくり教育

2.講演概要

当プロジェクトは、量産されている乗用車EVのバッテリーやモーターを流用し、低価格で高性能かつ運転が容易でバス利用者に快適な新しいEVバスの性能や価値を社会に提案、全国普及を目指す。環境省の「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証実験」に採択され、2016年度〜2018年度に熊本市で実証試験を行なった「よかエコバス号」の技術をさらに進化させ、2018年度から利用者数の多さ、坂道の多さ、渋滞の多さなど、バスの運行により厳しい横浜市営バス路線で、EVバスを種々なルートで運航し、2021年2月まで実証試験を行なった。この実験により走行データを蓄積して実用性や新技術の評価を行い、EVバス大量運行のモデルを構築しつつある。

3.講演内容

(1)普及型EVバス技術開発の背景
・我が国のCO2削減のためには大型車(バス、トラック)に環境対応車両の導入が必要だが、高価格と航続距離不足のためEVバス・トラックの導入は遅れている。
・とくに地方では路線バスの排気の改善が課題であり、業界では運転士の確保も課題となっている。
・大型のEVバスは少量生産であり、価格は通常のバスの約2,000万円に比較して3〜4倍もするため
現在の大型車業界では対応がむつかしい。また、普及の担い手も不足しておりEVバスの普及が遅れ
ている。
・EV乗用車の技術を流用し、パートナーとして車両改装業会と組んで日本全国でEVバスを生産。地方創生にもつながる。

(2)技術開発の狙いと特長
・この解決策として以下の組み合わせにより、+1,100万円でEV化が可能な低価格EVバスを実現した。(ライフ3万台前提)
*中古の低床路線ディーゼルバスから既存のエンジンを取り外し、車体をEV用として再利用する。EV化により運転の容易化、快適性の向上も実現できる。
*普及型EV乗用車である日産リーフのモーターとバッテリーを活用しコストを下げる。
*バッテリーは40kWhのパック4個を並列接続して大容量化し、収容箱形状もバス搭載用に変更。
*モーターは日産リーフ用2機を大容量減速機で連結し高出力モーター化、かつ変速機不要化。
*搭載バッテリー量は50q走行をカバーする程度にして軽量化し、急速充電システムによる車庫での継ぎ足し充電を行うことにより、終日の運航を可能にした。
*制動を回生ブレーキでカバーすることにより、ほとんどアクセルペダルの操作だけで車庫から出て車庫に戻ってこられるため、運転しやすく疲れない。
・これによりバスの運転士には「運転しやすい、疲れない」、バス利用者には「揺れない、静か」、バス事業
者には「低年式車の再活用、運転技術が楽」などのメリットが生まれた。
・設計仕様と生産技術の標準化を図ることにより、全国の車両改装業界メーカーでのEVバスの生産が
可能になると期待される。
・あわせてEVバス大量導入の仕組み作りを進めている。

(3)実証試験(熊本事業)
・熊本市近郊を16,000q(116q/日)走行した結果、動力性能、静粛性、冷暖房、航続距離、燃費、環境性能の観点からの評価が高く、路線バスとしての実用性は十分と評価された。さらに変速機は不要との判断が得られた。

(4)実証実験(横浜事業) 
・熊本で実証したEVバス技術に、バッテリーの容量増、急速充電器性能アップ、変速機廃止、などの改良技術を織り込み、渋滞路が多い、登坂路が多い、利用者が多いなどのバスの運行がさらに厳しい横浜市で2018年10月から2020年1月末にかけて実証実験を行なった。走行実験は昨年の10月28日から今年の1月末まで3か月間で、営業運行は4千q、輸送人員1万6千名で、曜日ごとに異なる路線を走行した。変速機を不要としたため軽量化ができ、バッテリー搭載量にマージンができたり、駆動系伝達効率アップなどの種々のメリットが得られた。
・実証試験の結果、運転士からは発進・加速性能、登坂性能、制動性能、音振性能、等々の観点から路線バスとしての性能は十分と評価された。また利用客からも静粛性、乗り心地等で高い評価が得られ、EVバスへの期待が大きいことが分かった。
・実証試験車からのCO2排出量はディーゼルバスに比べて―38%と推算された。
・実証実験条件下では、電力の基本料金が高いことが原因で燃料費用はディーゼル車に比べ倍近く高くなってしまった。

(5)今後の展望 
・普及型EVバスの技術の確立を目指す。
 実用的な低床路線バス
 バッテリーの再利用、運転の容易化などの新たな付加価値
 全国の改装車工場での生産の可能化
 低価格化ポテンシャルの追求、などなど

・社会実装の推進(事業化)を図る。
 EV路線バスの普及
 いろいろな用途へのEVの拡大
 電力会社との連携
 非常用電源としての防災への活用
 再生バッテリーの活用、などなど

4.質疑応答

主な質疑は以下の通り。

Q.全国で生産可能ということはどういうことか?
A.バスの製造はシャシーメーカーではなく車体工業会の改装車メーカーで行なうため、全国各地に対応できるメーカーがあり、10社くらいが手を挙げている。

Q.バッテリー量はもっと減らせないのか?
A.熊本事業では容量がぎりぎりだったが、横浜事業では容量の3割くらいしか使っていないため余裕があった。全国への適用を考えたら継ぎ足し充電があれば現状で十分だと考えている。

Q.電気代が高価になったとのことだが、発電設備を持つごみ焼却施設のごみ収集車であれば電気代は不要なので、今回のEVバス技術をごみ収集車に適用してはどうか?
A.ゴミ収集車のEV化には別事業者が国の事業として実証試験もやっているので、そちらの方にお任せしたい。

Q.中国のBYDがEVバスに進出しているが、これに風穴を開けてほしい。
A.BYDのEVバスとの直接比較はむつかしいが、わが方はBYDのEVに比べバッテリーの搭載量が約半分しかないので充電なしでは走れない。 しかし回生制動で100の使用電力の内50がバッテリーに戻ってくるため、電費性能ではわが方が圧倒的に良い。

Q.バスの車体や室内の改造は必要ないのか? また日野やいすずのバスでも使えるのか?
A. このバスは改造申請で認証をとっているので、もともとの強度部材やフロアはそのまま使用せざるを得ず、改造はしていない。バッテリー搭載のための新しいフレームやブラケットは元の車両の骨格に繋げている。どの会社製のバスも車体のレイアウトはほとんど同じなので対応できる。

Q.使用済みバッテリーの再利用はしているのか?
A. 再生バッテリーの利用はしておらず、新しいバッテリーのみ使用している。バッテリーの劣化は観測しているが、データは公表できない。

Q.日野自動車、いすゞ自動車などとタイアップして、路線バスをEV化できないか?
A. 彼らの収益源はトラックがメインであり、バスには興味がなくむしろお荷物扱い。このままだと日本はますます遅れていく。

文責 : 小栗武治


講演資料:普及型EVバス技術開発の概要
          
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2021年03月25日

EVFセミナー報告:プラスチック容器包装のリサイクルは「物」ではなく電力に

演題:プラスチック容器包装のリサイクルは「物」ではなく電力に
講師:環境企画 主宰 松村眞 様

日時:2021年3月25日(木) 
聴講者数:48名

1.講師略歴 
・1962年:日揮株式会社入社、石油精製などエネルギー関連設備設計
・1965年:東京大学工学部化学工学科助手、プロセスシステム工学研究
・1967年:日揮株式会社再入社後、環境関連設備の計画・設計・建設や環境調査・アセスメント             化学プラント省エネルギー技術開発、設備改善設計、情報・通信システムの計画             立案と整備、環境関連技術の整備と体系化、国内外の環境調査と対策提案を担当し、新規事業開発部部長、環境技術部部長等を歴任。
・1998年:日揮株式会社退社、環境調査と対策のコンサルティング事業開始
*発表論文は、化学工学分野、環境保全分野、省エネ分野、情報処理分野他、約150件*

2.要約:
エンジニアリング会社日揮で、海外や日本のプラント建設等のプロジェクトにおいて、環境や省エネルギー関連業務で担当及び管理職を歴任された後に、環境コンサルタント会社である環境企画を興され主宰されている松村眞氏から、近年問題になっているプラスチックごみに関する問題点と、松村氏が最も効果的と判断されている対策である「電力としての資源回収」を主題として解説を頂いた。 
一般廃棄物系のプラスチックごみが処理される形には、「マテリアル」、「ケミカル」、「サーマル」、「未利用」があるが、それぞれに排出者、収集者、収集後の選別者、再生原料化者などのどこかに負担が大きく、又、それぞれに再生品の市場性、再生品化率のどちらかもしくは両者が低いという問題点があった。それらの中で、「サーマル利用で焼却電力として資源回収する方法は、再生原料化者が焼却から発電を行うので、その負担が中くらいで、その他の排出者、収集者、収集後の選別者の負担が小であり、再生品の市場性はすぐに使える電力なので高であり、再生品化率は発電効率により不特定であるが、相応にすることが可能である」ということが分かった。ということから、「マテリアル」、「ケミカル」、「サーマル」というような区分けをすることなく、「サーマル(焼却)で電力として資源回収」一本にして、対処することを推奨するという結論でした。これによってプラスチックごみの分別収集は不要となるし、未利用のプラスチックごみも最小化できるし、プラスチックの元原料の石油分のエネルギーは、ヒートポンプエアコンの採用によりほぼ全量を回収できるとのことです。問題は現在日本でごみ処理をしている清掃工場の発電設備が貧弱であることで、今回の講演での内容に沿って設備を改善していく必要があるとのことでした。
環境、省エネルギーの専門家である松村氏の明快な講演で、普段プラスチックごみの排出やその周辺の問題にあまり気を留めていない参加者にも分かり易い内容でした。

3.講演概要:
先ず、プラスチックのマテリアルフローとして、現在日本国内における廃プラスチックが年間891万トン(2018年)あり、その内容は一般廃棄物系429万トン、産業廃棄物系462万トンとおおよそ半々に分けられる。 そして、それらのリサイクル形態は材料となる「マテリアル、ケミカル」と、燃料として生かされる「サーマル」、それ以外の「未利用」に分けられている。
一般廃棄物系に話を絞ると、マテリアルはPETボトル等で、割合は16.7%、ケミカルは高炉やコークス炉での利用で6.8%、サーマルは焼却電力利用がメインで57.7%、残りの未利用が単純焼却などで18.7%となる。つまり20%弱がただ焼却されているだけで資源回収されていない(地球温暖化の悪影響のみ)。
リサイクルの方法を評価すると、
@マテリアル利用では大部分がPETボトルの回収であり、分別収集が行われており、収集者と収集後の選別者の負担が大であるが、再生品の市場性がプラスチック原料として使えるということで高評価で、又、再生品化率が95%と高く有用である。
Aケミカル利用では、高炉やコークス炉での利用が中心であり、排出者、収集者、再生原料化者の負担が大であるが、再生品の市場性が燃料である石炭や石油相当で中程度で、再生品化率が93%と高い所が評価される。
Bケミカル利用の高炉、コークス炉、ガス化化学原料代替などでは利用手法が特定なもので、単なる燃焼による電力回収よりも市場性評価が高くなっている。
Cサーマル利用では、プラスチック容器包装(リサイクルマークのあるもの)は一般の燃えるゴミと混合収集される。固形燃料にするのは、再生原料化者が乾燥、粉砕、石灰混入、圧縮成形化などを行う必要があり、負担が非常に大であるのに対し、再生品の市場性は低質燃料で低であるが、再生品化率は歩留まりとして高いが意味はない。 
D一方、サーマル利用で焼却電力回収は、再生原料化者が焼却から発電を行うので、負担が中くらいであり、排出者、収集者、収集後の選別者の負担が小であるのを生かせるし、再生品の市場性はすぐに使える電力なので高であり、再生品化率は発電効率により不特定であるが、相応にすることが可能である。
そこでプラスチックごみを焼却している清掃工場での発電効率を見てみると、日本では10〜20%が多いが、ヨーロッパや北米では20〜25%以上が多く、33%の例まである。
日本で発電効率が低かったのは、日本の清掃工場は公営であるために、設備の拡充に重点がおかれ、設備投資費が抑制されたためである。又、電力会社からの電力の買い取り価格が低かったのも挙げられる。 一方、欧米では民営であることも多く、売電収入が重視されたという背景もある。
日本でも清掃工場の発電効率は近年上昇してきており、エコノマイザー等の色々な効率向上を図ることができるようになっている。特に需要側でヒートポンプを採用すれば、理論上プラスチックの原料である石油のエネルギーのほぼ全量を回収できると考えることもできる。

まとめとして、
@清掃工場は、焼却発電で熱量の20%〜25%を電力で回収でき、需要側はヒートポンプエアコンで電力を5倍以上の熱に変換できるから、プラスチックごみの元の石油のエネルギーを全量回収できる。
Aヒートポンプエアコンは暖房にも使うから、従来から暖房に使っていたガスや石油の消費が減り、温室効果ガスの排出も減る。
B混合収集だから、高炉微粉炭代替、コークス炉原料代替、ガス化・化学原料代替より、排出者・収集者・収集後の選別者・再生原料化者の負担が少ない。再生品の市場価値は高品質燃料相当で同水準。
C発電効率の高い清掃工場の市町村から切り代えたらどうか。
Dリサイクルが電力になると、コーヒーショップやコンビニのごみ箱から「プラスチック箱」がなくなり、分ける手間も不要になる。

質疑応答
(1)質問: 大変クリアな結論で胸がすっとしました。そもそもプラスチックごみはごみと一緒にして出してはいけないとか、焼却炉を傷めるという話があったが、その辺は如何なのでしょうか?
回答: 古い1980年台位の焼却炉ではプラスチックが炉の中で溶けて井格子から垂れ下がると言った問題がありましたが、今は全部技術的には解決していて、どこでもプラスチックが燃えないとか炉が損傷するとかはないです。 それから、(プラスチックごみを一般ごみと一緒に出してはいけないと言われていた)別の理由としては、技術的にドイツが先行していて、燃やすのはリサイクルではない、あくまでも物としてリサイクルするのが筋という考えで、熱にするのはリサイクルに該当しないと考えていたことが挙げられます。それは日本も同じでした。又、焼却炉で燃やすのは発電効率が低くて、ヒートポンプも効率が悪かったのも確かで、プラスチックを燃やすのは以前は行われていなかった。
(2)質問: マイクロプラスチックは日本で回収されているものの中でどれ位の率になっていますか?
回答: (マイクロプラスチックになっている)海洋に流れているプラスチックは不法投棄によるもので、圧倒的に外国からのもので、日本の場合はかなりキチンと収集されており、日本ではデータとしては出ていない。日本から海外に資源ごみとして輸出されたものについては、(以前はあったかもしれないが、)今はそれが殆どできない。又、日本からプラスチック製品が海外に行って不法投棄されるものについては日本では分からないし、その国の問題で日本の努力では改善するのは容易でない。問題なのは漁網などが結構捨てられたりしていることであるがそれはデータとして日本ではない。
(3)質問: プラスチックごみから発電する場合の費用対効果はどのように評価しているか?
回答: 300t/dの発電設備付き清掃工場の建設費は約300億円で、その内発電設備は2割以下で、電力は15円/kwの価値があるので、発電設備の負担は4〜5年で十分にペイします。ですから自治体は頑張って増設すべきと思う。アメリカではそうやってビジネスにしている。日本は民間企業でないから、それをしないし、公共の公衆衛生設備というコンセプトで来ているのが現実です。
(4)質問: プラ容器を電力にする考えに大賛成です。日本の清掃工場はプラ容器だけでなく生ごみを焼却処理するという目的もあり、どういう割合で燃焼するかがポイントと思う。生ごみをそのまま焼却するとカロリーが低いので、熱量のある廃プラをわざわざ燃やすことがあると思うが、その辺りのバランスについてはどのようにお考えでしょうか?
回答: 現在清掃工場で燃しているごみの中にどれ位のプラスチックが混じっているかと言うと1割位です。混合ごみとしてプラスチックが入ったままで燃焼し、プラスチックだけを分けて燃やすというわけではない。カロリー的にも問題なく、助燃しないで自燃させている。水分が多いとなかなか自燃しないということがあるが、日本のごみは全部自燃で処理されており、問題ない。又、カロリー調整のために廃プラを別分けするということではなく、発電設備を増強して電力に変えたり増やす方が良いのではというご指摘はその通りです。
(5)質問: 私の住んでいる世田谷区ではプラスチックについてはペットボトル以外は全て生ごみと一緒に燃えるゴミとして回収しており、分別が楽である。これは焼却して電力に変えて行く設備が清掃工場に整っているので、こういうことができると言うことなのでしょうか?
回答: 世田谷区は分別排出しないし、東京23区の内いくつかの区もそうなっている。その理由は分別排出するための収集の費用が自治体の負担となるので、それよりも燃えるゴミとして集めてリサイクルの品目を増やさないことが経費節減になると言う理由で世田谷区は(発電設備を持ち、そのように)やっている。 世田谷の清掃工場の発電効率は高いので、それで良いと思う。
(6)質問: 私の家ではエネファームを使っている。非常に熱効率が高くてエネルギーコストが下がって大喜びです。松村先生のおっしゃるヒートポンプを使って効率を高めてエネルギーのトータルを減らすのに大賛成である。一方、2050年のCO2フリーと言われているが、このことに関しての先生の考えを教えて頂きたい。
回答: CO2フリーとなると再生可能エネルギーで電力を賄うということになるが、再生可能エネルギー電力はやっと2割であり、化石燃料に8割依存している。仮に原発がもっとできたとしても、化石燃料依存度が5割を切るような事態はそうそう簡単には実現しません。ということで化石燃料の使用は続く中で、ヒートポンプを使って空気中の熱を取り込んで化石燃料の消費を下げるということは意義があると思う。日本の民間のエネルギー消費では暖冷房と給湯に相当使っているので、ヒートポンプ技術は電力エネルギーを5倍もの熱に変換できるのは凄いと思う。これを使って化石燃料の消費を減らすのは正しいと思う。心配なのは、「混ぜればごみ、分ければ資源という考えがあること」や「分別回収でそれを産業化している人たちもいること」で、その辺の説得力を高めるロジックも必要と思っている。
清掃工場の建設には国の金がかなり入っているのに、それに発電工場を付けて電力を売った金は自治体がもらって良いのかというような話もあったが、これはしくみの問題でトータルで悪い話ではないので進めて良いと思う。
(7)質問: 以前に、公共事業のPFI(Private Finance Initiative)化ということで民営化が検討され、その中にごみ事業も入っていたが、それがなっていないのは何が間違っていたのでしょうか?
回答: 詳しくは分からない。今は清掃工場を民間企業が始めているものがいくつか出ている。権益が絡むこともあるし、清掃工場では用地が必要で、資本がいるのに収益性が保証されるかという問題もある。アメリカの例では、「ごみを何トン出せ、出さないと金を出せ」というような話をしているのを聞いたし、そのような内容を書いた契約書にサインしているのに驚いた。
(8)質問: 発電をコンバインドでしている清掃工場の中で、EVFの工場見学にお勧めの工場はありますでしょうか?
回答: 比較的東京都は熱心で発電効率が高くて良いと思う。横浜、大阪なども関心が高く、良い工場が多い。世田谷も良いと思う。

文責:浜田英外


講演資料:講演資料:プラスチック容器包装のリサイクルは「物」ではなく電力に
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2021年02月25日

EVFセミナー報告:「1.5℃のライフスタイル」―脱炭素型のよりよい暮らしを目指して

演題「1.5℃のライフスタイル」―脱炭素型のよりよい暮らしを目指して
講師:小嶋 公史(さとし)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機構(IGES)
プリンスパルコーディネーター・上席研究員 小嶋 公史(さとし)様
Web視聴開始日:2021年2月25日(木)
聴講者数 : 47名

1.講師紹介
・東京大学大学院工学系研究科修士課程修了(工学修士)、英国ヨーク大学環境学部博士課程修了(Ph.D.)。1994年より(株)パシフィックコンサルタンツインターナショナルにおいて、コンサルティング技師として上下水道・環境保全分野での政府開発援助プロジェクトに従事。その後、英国ヨーク大学で博士号(環境経済学)を取得。
・2005年より公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)勤務。専門は環境経済学、環境・開発政策評価。IGESでは、経済モデルなどを活用した定量的政策分析ツールの開発や、途上国で依然深刻である貧困問題の解決と、人類の生存基盤である生態系の保全をどのように両立するのか、という観点で持続可能な開発に関する研究に従事。近年はカーボンプライシングや持続可能なライフスタイル関連の研究などに取り組んでいる。

2.講演概要
気候変動対策のための国際合意であるパリ協定では、産業革命前からの気温上昇を2℃未満、できれば1.5℃未満に抑える努力が地球規模で必要とされているが、今や世界は1.5℃未満が目標とされつつある。そのためには技術革新や企業の努力などによる排出削減に加え、私たちの暮らしを通じて排出される“カーボンフットプリント”を削減するのが重要だ。“カーボンフットプリント”とは、私たちが消費する製品やサービスを、製造し、流通し、消費し、廃棄する、という製品のライフサイクルを通じた温室効果ガス排出をいう。
地球環境戦略研究機関(IGES)では、フィンランドのアールト大学ほかとの共同研究を行い、2年前にその研究成果を出版した。その概要と日本についての分析結果をまとめた日本語版要約本を昨年1月に出版した。講師の小嶋公史(さとし)先生は3人の著者の一人である。本セミナーの核心部は、1.5°C目標に対する世界共通の一人当たりカーボンフットプリント目標を提示したうえで、日本人の場合はライフスタイル・カーボンフットプリントを2030年までに約三分の一に、2050年までに約十分の一に削減する必要がある。そのためにとり得るライフスタイルの選択肢を多方面から考察された。その上で、最終消費者である私たちが持続可能かつ豊かな暮らしの在り方を地球規模で検討し、消費者主導で脱炭素型のビジネスモデルならびに社会システムの変革を導く、新たな可能性を強調してセミナーを終えられた。

3.講演内容
1)1.5℃未満が新たな目標に
人為的温室効果ガス(GHG)の排出量をゼロにしない限り地球温暖化は進行する。2015年に採択されたパリ協定は2020年以降の温室効果ガス(GHG)排出削減のための新たな国際枠組みとして、歴史上はじめて全ての国が参加する公平な合意と言われる。パリ協定では地球全体の平均気温の上昇を産業革命以前に対し「2℃より十分低く抑え、1.5℃未満に抑えるための努力」を追求することが合意された。さらに2018年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が「1.5℃特別報告書」は発表し、気温が2℃上昇した場合でも大きな影響が予測され、1.5℃未満に抑えることによりリスクを抑えることが出来ることを示し、1.5℃が新たな目標になりつつある。

2)出版された、「1.5℃ライフスタイル」―脱炭素型の暮らしを実現する選択肢ー
地球環境戦略研究機関(IGES)では、フィンランドのアールト大学、同じくフィンランドのD-mat等と共同研究を行い、その研究成果として2019年2月に英語版レポートを出版、国際的に注目を集めた。研究は日本、フィンランド、中国、ブラジル、インドの平均的な暮らしでのGHG排出量や特徴、脱炭素社会に向けて取りうる選択肢を示した。
IGESからは2020年1月に、その概要と日本についての分析結果をまとめた日本語要約版を出版した。セミナーの講師、小嶋公史(さとし)先生はその本の3人の著者のお一人である。
3)カーボンフットプリント
温室効果ガス(GHG)の直接排出だけにとらわれず、カーボンフットプリントなる概念でGHGをとらえる。“カーボンフットプリント”とは購入する製品やサービスの、製造、流通、消費、廃棄等サプライチェーンにおける間接排出を含めたライフサイクルにおけるトータルのGHGの排出量を指す。

4)日本のカーボンフットプリントの特徴
GHGの排出量を生産ベース(=領域ベース)の指標と消費ベース(=カーボンフットプリント)と比較すると、日本は消費ベースが生産ベース上回る。すなわち輸入を通して海外において引き起こすGHGが大きい。
・1970年代に消費ベースが生産ベースを上回り、輸入に依存する時代に。
・1995年頃までは消費ベース・生産ベースともに増加。
・2000年代から二つの指標は横ばいが続くが、大幅減少への移行傾向は見られない。

5)ライフスタイル・カーボンフットプリントの国内消費者間比較
<フットプリントの大きい家庭>
 自動車利用、物質的消費、長距離レジャー、非効率的な住居、小さな世帯人数、などの高炭素型ライフスタイルの特徴。
<フットプリントが小さい家庭>
物質的消費が限られ、大人数で住む傾向にある。必ずしも低収入世帯ではなく、多様なライフスタイルの側面がフットプリントを決定づけている。

6)1.5℃に対応する一人当たり家計消費の目標値と現状とのギャップ
日本の家計消費の現状のフットプリントは7.6トン/1人・年
・2030年までの目標値は約三分の一の2.5トン (Cf. ブラジルの現状が2.8トン)
・2050年までの目標値は約十分の一の0.7トン (Cf. インドの現状が2.0トン)

7)ライフスタイル・カーボンフットプリントを削減する3つのアプローチ
次の3つのアプローチを全ての消費領域(食・住居・移動・製品・レジャー)で取り入れてゆくことが脱炭素型ライフスタイルの実現につながる。
(1)消費総量削減アプローチ :テレワーク、職住近接、食品ロス削減等
(2)モード転換アプローチ :公共交通、再エネ、菜食等
(3)効率改善アプローチ :低燃費車、省エネ住宅等〜効率改善だけでは大幅削減は不可

8)脱炭素型ライフスタイルの選択肢
住 居 :コンパクトな住居空間、再生可能エネルギー由来の系統電力に切り替え、再エネ設備の設置、住居の断熱、暖房にヒートポンプ使用、温水シャワーヘッド等での温水の節約。
移 動 :車を使わない通勤・プライベートの移動、近場での週末のレジャー、飛行機移動の削減、電気自動車の導入、ライドシェア(1台に必ず2名以上乗車)。
 食  :赤身の肉を鶏肉・魚など低炭素型たんぱく源に転換、乳製品を植物由来の代替品に転換、菜食、食べ過ぎ飲み過ぎている菓子・アルコール類の削減、食品ロス削減のため見切り品を積極的に買う・飲食店でのドギーバッグ等。

9)ロックイン効果への対策が必要
・消費者の選択肢は入手可能性、周囲のインフラ、コミュニティの状況に制約を受けている(=ロックインされている。)⇒製品やサービスが近くで容易に入手できる、コミュニティにインフラがあるなど容易なアクセスが必要。政策上の後押しも必要。
・消費者は長時間労働と大量消費のライフスタイルという大きな社会の流れにロックインされている。⇒社会全体での取り組みを後押しするために、1人1人には消費者、市民、社員、ボランティア、教育者など様々な役割があることを啓発。

10)消費モード転換を可能にする条件整備
政府・自治体と企業、消費者のステークホルダーが、協働して消費モードを転換に勤める必要がある。
企業 :テレワーク、シェアリング、食品ロス削減、肉・乳製品の代替品、その他の低炭素型の製品・サービスの選択肢の提供、1.5℃目標と調和した自社の戦略的計画策定・投資決定やビジネスモデル採用。
消費者:消費に関する習慣の変更、特に短期的に実行可能な選択肢への変更、投票・購買行動による政府・企業への社会システム転換への働き掛け。

質疑応答)
Q1)温室効果ガス(GHG)の排出量はどのように計算するのか。またカーボンフットプリントはどのように算出するのか。
A)直接排出される温室効果ガスは、化石燃料をどれだけ使うかなどをもとに国連作業部会で計算マニュアルがある。次にカーボンフットプリントの計算には、製品ライフサイクルの各段階の排出量を積み上げるボトムアップ方式と、トップダウン方式の二通りの計算方法がある。トップダウン方式では、その国の産業連関表を活用した行列演算によって直接排出量と間接排出量を合計したカーボンフットプリントを推計する方法である。

Q2)昨今の新型コロナウイルス禍で大変な苦痛を受けているが、そのおかげで大気汚染が改善されたとの話を聞く。しかしより良い暮らしを求めてのこととはいえ、心の準備が必要だ。教育、啓発が重要になってくるのではなかろうか。
A)おっしゃる通りだ。ロックダウンのようなやり方は無理。皆が納得することが必要で、価値観が変わらないとだめだ。コロナ対策としての行動変容の中で、望ましい将来に向けて有効なものは何かを洗い出し、そのような行動変動は促進すべき。例えばテレワークをしてみて、「意外といい面が多い」と気がついたならうまく活用していけばよい。コロナ対策のなかで幸せに繋がるものは何かということだと思う。

Q3)菅首相が2050年までにネットゼロと宣言したが、脱炭素とはどこまでできるか。
A)確かに将来を見通すのはまだ難しい。余分なGHGを吸収すると言っても、CO2を地下に貯留するCCSは日本国内では貯留できるキャパシティが無い。地震国だから管理が難しい。CO2の再利用などは期待できる。

Q4)たまたま昨日テレビで牛肉の代替品のことが報じられていたが、その製品の味はどうかなどで話題が賑わっていた。温室効果ガス削減に大いに寄与するものだとの啓発もして欲しかったと、先ほど思い出した次第だ。
A)そういう1人1人の気持ちが大事だ。商品にラベルをつけてカーボンフットプリントにいくらいくら有用だと明示しようというアイデアもあるが、個々の商品にそれは難しい。ただそういう教育、啓発は大事だと思っている。子供向け啓発の本を出版しようという会社があり、その本の監修を依頼されているところである。

文責 : 佐藤孝靖

講演資料:「1.5℃のライフスタイル」ー脱炭素型のより良い暮らしを目指して
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2021年01月28日

EVFセミナー報告:「2050年CO2ネットゼロに向けた次世代パワートレイン戦略とは?」

演題「2050年CO2ネットゼロに向けた次世代パワートレイン戦略とは?」
講師:PwCコンサルティング合同会社ディレクター 轟木 光様
Web視聴開始日:1月28日
参加視聴者:58名

1. 講師紹介:
日系自動車メーカー、国内コンサルティング会社を経て、現職。自動車関連産業を中心に、商品戦略、技術戦略、新市場参入戦略などの戦略に関するプロジェクトに従事。専門領域は自動車関連産業及びモビリティの戦略構築など。公益社団法人自動車技術会エネルギー部門委員会委員。著書に、「EV・自動運転を超えて日本流で勝つ(日経BP)」、等。

2. 講演概要
2-1. CO2ネットゼロの世界の動き
世界で進むCO2ネットゼロの動きを国ごとの動きとしてまとめ、その動きの中心は欧州諸国の取組みが早いことを強調。 都市、企業の動きに関しても同様。 ネットゼロに対する基本的な考え方は、気温上昇を1.5 に抑えることだが、そのためには莫大な投資も必要で、エネルギー産業は欧州委員会の予測によると0.8兆ドルの投資が必要とわかっている。 欧州では既に、パリ協定に対する8つのシナリオができている。日本の取り組みとしては、従来は80%削減という目標で進んでいたが、最近菅首相により2050年までにネットゼロを目標とする新しい目標が掲げられた。まだ官庁などでロードマップ作成はこれから。 国際的な取り組みの例を挙げて多くの団体、企業などのイニシアチブなどを紹介。 その中でSBT(Science-Based Targets)の詳細について製品の製造、販売、使用家庭だけでなく、Scope3と呼ばれる製造以前の段階や、使用後の廃却などの段階までのCO2排出について取り組むべきとされている。TCFD (Taskforce for Climate related Financial Disclosure)と呼ばれる取り組み、投資の世界でもグリーンボンドなど投資の対象として、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標目標などの情報開示が重要となってくる。

2-2. 自動車及びその他の交通産業におけるCo2ネットゼロに向けた取組
欧州委員会によると欧州での乗用車のパワートレインミックスでは2050年でゼロエミッション車が96%以上必要としている。これを2050年までに達成しようとすると、新車販売では2035年ぐらいから、ゼロエミッション車がほぼ100%必要となる予測。これにより電動化などや内燃機関の禁止などの規制、法制化につながっている。 小型商用車では90%以上がBEV、燃料電池車が必要だが、大型商用車では内燃機関が半分以上残ることになっている。  自動車に対する2030年以降のCO2規制はこの夏ごろ出てくるし、炭素税などの法規制などが欧州では出てくるなど、欧州では動きが活発化している。

石油会社各社の低炭素化への動きを見てみると、欧州各社はe-Fuel(再生可能エネルギー/合成燃料)含めてすでに多方面で進んでいるが、米国の石油会社ではまだ取り組みが遅い。 合成燃料やバイオ燃料はその作り方など様々であるが、e-Fuelに対してこれまでの化石燃料と同じ性能が求められる。 例えば、CO2ニュートラル、持続可能性、最小限の環境インパクト、良・経済性、良・機能性など5つのクライテリアが挙げられる。 代替ガソリンの比較、代替ディーゼルの比較としてはエージングやシーリングなどの問題が有り、これらを解決しながら混合比率を上げるなどして実質的なCO2削減につなげることが重要である。
2-3. 乗用車におけるパワートレイン戦略
欧州委員会によると2050年BEV、FCEVなどネットゼロ達成のためには95%以上が必要だが、ドイツで見ると2020年10月で8%を超えるまで上がってきているが、補助金があるために普及、(ノルウェイを除くとほぼどの国も同じ)  PwCとしてのシェア予測としても欧州では、2035年ではBEV7067%、FCEV 4%程度と予測している。 米国はゼロエミッション車の普及速度は欧州に比べて遅く、中国では2035年にBEV55%、FCEV5%程度と予測する。欧州の自動車会社はCO2規制達成のために、電動化を進めざるを得ないため積極的だが、日本の会社は「もうからないEV」ということで、欧州自動車会社に比べるとゼロエミッション車の拡大速度は遅い。 
EVの課題のひとつはコストである。 バッテリーの積載量とコストの関係で、航続距離をどのあたりにするかがポイントとなる。EVのもう一つの課題として、ライフサイクル全体でのCO2である。LCA視点でみると製造、廃棄でCO2分担が高い
バッテリーの研究開発と生産は、半導体業界のように分業化することにより、低コスト、ゼロエミッション化につながる可能性がある。 例えば日本とノルウェイが組むことで、ノルウェイの水力発電の電気でバッテリーを生産、数量は日本が世界に販売して確保というケースも考えられる。 また欧州は次世代のクリーン技術に投資する用意があるため、日本と欧州の組み合わせでWin-Winの構図ができる可能性がある。

2-4. 商用車・バスのパワートレインミックス戦略
欧州委員会によると小型商用車は乗用車とほぼ同じで、BEV、FCEVが主体となる。しかしながら同様に欧州委員会によると大型バスや大型商用車は様相が違う可能性がある。 世界的にみて8割がたのバス会社の経営は赤字と言われている。多くのバス会社は地方自治体からの補助金等が頼りだと言われている。 欧州65都市におけるバス政策 ゼロエミッション化を目指したClean Bus Development Initiative にて、どのようにCO2削減して、排出ガスをクリーンにしていくのか?という活動を、バス事業者、バス製造会社及び地方自治体などがタッグを組みながら、様々な情報交換を行い進めている。 大型商用車ではBEVが充電時間という問題があり、充電中もドライバーの人件費が発生するためどのようにそのコスト増加を負担するのか?が問題となる可能性がある。 輸送の世界では、km-ton/gでのCO2排出量で評価することが多い。したがって大型商用車のBEV化を考える場合、積載量と充電時間というファクターを考えなければならない。 一方水素は魅力的である。トラックだけではなく、他の交通も燃料電池に食指を動かしている。  
欧州での水素活用に向けた取り組みとして、欧州水素社会戦略(EU Hydrogen Strategy)を発表。 しかしFCEVの課題もコストが高い、車両コストの半分が燃料電池システムであり、またその中でもスタックのコストが高いなどの課題も多い。 燃料電池のエネルギー効率はBEVに比べて悪い。 
内燃機関の燃料としてe-Fuelがあげられているが、活用のためにはLCAの考え方が重要。 Well to Wheelで考えないといけない。 Tank to WheelではBEVの方が有利である。 e-Fuelの課題としては製造コストが高いこともあげられる。 

2-5. その他の産業におけるパワートレインの戦略
水素やe-Fuelは航空機や船舶として候補として挙げられる。 

2-6. 全体まとめ
(1)欧州委員会で行われたシミュレーションでは、乗用車、小型商用車は2050年でBEV, FCEVが90%以上となる。
(2)同様に欧州委員会で行われたシミュレーションでは大型商用車、バスはBEVに加えて、FCEV、e-Fuelによる内燃機関の活用が重要。
(3)航空機、船舶などの他の交通機関はH2とe-Fuelの活用が期待される。
(4)e-Fuelが活用されるためには、Well-to-tank のかんがえかた、LCA評価が重要である。
(5)バッテリーは半導体のビジネス同様、製造と開発を得意な国と地域で分担して全体でCO2排出削減と利益を両立させる選択が考えられる。

3. Q&A
Q1) シナリオ作りで、どうして欧州が先行し、何故日本が遅れているのか?  不思議なことは、欧州が本当に達成できると思っているのか、単なる努力目標ではないのか? 日本では企業責任が問われるので、簡単にシナリオが描けないのではないか?

A) 欧州はもともと化石燃料を提供できる側ではないという立場で、エネルギーセキュリティーの点から見ると早く化石燃料から脱却したいと思っていることがポイント。 2016年のディーゼルゲート(排ガス規制不正適合事件)により内燃機関に対する信用が落ちてきており、電動に縋りつくしかなく戦略の方向転換をせざるを得なくなった。

Q2)  菅首相が2050年ネットゼロを打ち出したのは、企業と相談したとは思えないが如何か?
A)  政治的背景については良くわかりません。  様々な論議があり、今後も政治議論、技術議論などを繰り返してロードマップを考えていくことが重要。

Q3) 日本の自動車産業を困らせようという欧州側の意向があったのかと思っていたが、EUの中でドイツの進め方は、他の国と違うのか?
 A)新規参入者に対して内燃機関がその部品の多さや、構造の複雑さ等により参入障壁であった。 昨今は自動車に対する価値観、使われ方が変わってきている。 車自体がスマホのように便利になることが期待され、内燃機関の車はそれに向いていない。 電気自動車のほうが新しい価値観にあっている。 これが方向転換のドライバーとなる可能性がある。

Q4)  e-Fuel 使う限り必ずCO2発生するが、それを処理する(Capture)技術が間に合うのか? 2050年のネットゼロに対して整合性はあるのか?  自動車はCO2分散型で、排ガスをばらまいていくので、ガスの回収は不可能。e-Fuelは問題大ありではないか?
A) キャプチャーする技術は開発途上である。 2050年で乗用車は90%以上がEV化されているが、大型や他の交通機関は内燃機関を残さざるを得ないが、それに代わる技術がない以上、飛行機や船舶などを殺すこと(使わない)は簡単だが、そのために我々の生活もダメになってしまう。 バランスを取っていくことが重要である。

Q5) VWは中国で成功して、電気自動車も始めたが、中国の持つ技術力について聞きたい?
A) あまり良い情報は持ち合わせていないが、今後のビジネスの競争フィールドでは数量で勝つことではなくサービスである可能性がある。 自動車の販売ではなく、売った後にお客からいかにお金をいただくかがポイントとなり、そちらにシフトしようとしている。 走ること、安全であることは当たり前で、「お客に何を提供するのか」、価値として変わってきているように感じられる。

Q6) 2年前の話でBEVは補助金で伸びているが今後伸びるのはFCEVではないかという話だったと思うが, 今日の資料ではFCEVよりBEVがメインとなっているように説明されたが、どうして変わったのか?
 A)2年前と前提条件が変わってきた。ネットゼロという前提は2年前にはなかった。 二つ目は技術革新でコバルトの問題なども解決されてきた。 今回は欧州委員会によるシミュレーションをベースに話したが、まだこれからも変わる可能性はある

文責:八谷 道紀
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2020年12月24日

EVFセミナー報告:「日・米・中を中心とした今後の世界情勢の行方」

演題:「日・米・中を中心とした今後の世界情勢の行方」
講師:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、内閣官房参与(外交) 宮家 邦彦 様
Web視聴開始日:2020年12月25日(金) 
参加視聴者:54名
T. 講師紹介<講師略歴>
 ・78年3月 東京大学法学部卒
 ・78年4月 外務省入省
 ・86年5月 外務大臣秘書官
 ・96年7月 中東第二課長
 ・98年1月 中東第一課長
 ・98年8月 日米安全保障条約課長
 ・00年9月 在中国大使館公使
 ・04年1月 在大使館公使
 ・04年7月 中東アフリカ局参事官 

U.講演内容1.「地政学リスク」とは何か 
  地政学という言葉自体が乱用されている。
EVF関係者が疑うべきエコノミスト
・「地政学リスク」を多用する人 ・「陰謀論」を語る人 ・「運命論」を弄ぶ人 ・「結果論」しか言わない人
インテリジェンスを知らないエコノミストの説明
記者やエコノミストは自ら説明できない国際情勢のことを地政学的リスクと呼ぶ傾向にある。彼らは経済的合理性では説明しきれない複雑な国際情勢に出くわすと、苦し紛れに地政学的リスクを多用する。本当に意味が分かっているのか。
「経済合理性」と「地政学的合理性」は異なる。 
マネーは「経済合理性」で動く、パワーは「経済合理性」では動かない、エコノミストの最大の弱点はパワーの問題を「経済合理性」で説明しようとするから説明できなくなることだ。
地政学とは国家の地理的位置関係が国際政治に与える影響を研究する学問などと定義されている。

2.コロナで変わること、変わらないこと
コロナは疫病で「破壊者」だから何も生み出さず、どの国に対しても容赦なく、見境なく破壊するだけである。しかし破壊することで、すでにあった流れを加速し、多くの場合、劇症化するし、従って、技術革新や経済、政治、軍事面の「トレンド」はコロナで加速する。
・短期の経済的影響
ワクチンが出来たら多少変わるかもしれないが、今回のパンデミックは当分続き、希望的観測は捨てざるを得ない。
・短期の政治、軍事的影響
現職政治家はパンデミックにやられ、トランプや安倍元首相も退場した。
中国は1930年代の日本と同じような政治的過ちを犯す恐れがある。30年代の東南アジアと今の東南アジアと比較すると、共通点がある。強烈な新興国が台頭し、現状変更志向があり、米を過小評価し、米国の西太平洋における海洋覇権に挑戦する。米国はこれをどう見ているか。中国の台頭を恐れ始めている。30年代と似ている部分と似ていない部分がある。このコロナによって国際情勢はどの部分が加速化され、劇症化されるか。
・中長期的な大局観
現時点での国際政治のメジャーリーグは、米国と中国、ロシアである。日本やヨーロッパ、インド、イラン、トルコなどはマイナーリーグである。
ロシアの人口は日本よりも少し多く、GDPは韓国より少し上くらいで、それほどの国ではないが、なぜメジャーかというと、それはプーチンという天才的な政治家がいるからである。
米国の敵といえば、今まではソ連が最大の敵であったが、今の状況下では中国である。
自由主義的国際秩序の危機について、ブッシュ政権は2001年の時点でこれからは中国の問題だとわかっていた。その時起きたのが9.11のテロで中国の問題を先送りした。湾岸戦争から30年間近く中東で戦争してきた。このツケが今起こっている。もし中国への懸念を深めているとき、いま中東のどこかでどえらいテロが起きたら、米国の対中強硬姿勢がぶっ飛ぶということを、常にワイルドカードとして考えておく必要がある。

3.アメリカの大統領選挙について
・今年の選挙を見るときに、どうしても必要になるのが2012年と2016年の選挙に
なる。
2016年のクリントンが負けてトランプが勝った選挙を2012年オバマが勝った選挙と比較するとアメリカの西側は全く結果が同じで、全50州のうち44州は変わっていない。6つの州がどこかというとアイオワ、ウェストン、ミシガン、ペンシルベニア、フロリダ、オハイオである。なぜこんなことが起きたか。1996年から2012年にかけて、製造業の衰退により、5大湖周辺の工業地帯にいる低学歴でブルーカラーの白人男性らの怒りが高まった。1970年代は圧倒的に白人多数社会だったが、2050年になると白人がマイノリティになる。一人当たりの平均収入はアジア系が一番多く、次に白人でヒスパニック、アフリカ系となる。白人には富裕層もいるわけだから、超貧乏な白人も沢山いることになる。白人男性の自分達は忘れ去られたという絶望感、この恐怖がトランプ現象を生んだ。醜く、不健全で、無責任な白人ナショナリズム、ポピュリズム、排外主義、差別主義といった人間の暗黒面「ダークサイト」と呼ぶべき運動の結果がトランプを生んだのである。
・米大統領選:2020年11月18日現在
今回の選挙はコロナが起きて大統領の信任投票になってしまった。トランプはコロナについては、何もしていない。この状況下で600万票ほどの差がついたが、激戦州では僅差で負けてしまった。
バイデンが勝ったのではなく、現職のトランプが自滅した。トランプはこの選挙で前回より、数百万の票と少数派からの票を伸ばしている。ということは、トランプ現象、「ダークサイト」は抑えられていなく、米国内の極端な分断は増している。
・バイデン政権外交安保チーム
バイデン政権は常識的な正統派の政治エリートを採用したオバマ第三次政権である。不確実性は低くなったが、よくなる保証はない。オバマ政権時代この人たちで一度失敗している。
民主党はリベラリストも残っているが、枢要ポストは中道層のエリートの実務家で占められるだろう。バイデンは米国の分断に加えて、サンダースを取り巻く急進左派による民主党分断にも取り組まなければならない。

4.漢族中国の地政学的脆弱性
中国の将来を考える際の基本として中国人、特に漢族中国人の国家観、歴史観、民族観などを述べる。彼ら漢族が、自らの過去、現在、未来をどのような発想で捉えているのか、理解する必要がある。中国がいかなる歴史を歩んできたか、外部からの挑戦・脅威をいかに認識してきたかなど、彼らの国家観を知る必要がある。
漢族中国史の視点からみると、漢族にとって紀元前2世紀から南北朝の5世紀頃まで、外的脅威は北方民族だった蛮族が次々と侵入を繰り返したことである。こうした北方からの脅威に対応するため建設されたのが万里の長城である。そのあと大帝国の唐になる。しかし唐時代の8世紀後半に、中原と中央アジアを結ぶ回廊は北方のウイグルと南方のチベットに鋏み打ちされ、長く脅かされていた。これがまさに中国漢族の地政学的脆弱性であり今も続いている。
11世紀後半の宋の時代になると、周りが強くなり、漢族中国は小さくなる。
宋はやがて女真族の「金」に北半分を支配され、13世紀にはモンゴル族の「元」が中国全域を支配した。14世紀に漢族王朝の明が復活するも、西方はウイグルとチベットが勢力を拡大しており、元に比べれば支配領域は小さかった。
17世紀には満州族が「後金」を経て「清」を建国して、ウイグルとチベットを含む中国全域を支配した。やがてロシアが南下してウラジオストックを取り、日本も満州を占領した。
中国の漢族の領土は、周りの蛮族との力関係で決まり、周りが弱くなれば大きくなり、周りが強くなれば小さくなる。
いまの中国の北の蛮族はロシアである。帝政ロシアの70年代頃は仲が悪かったが、いまは中国の敵ではない。
ウイグルとチベットを掌中に収めたので、インドとの小競り合いがあるが、ヒマラヤ山脈が横たわるので、インドは脅威ではない。中国の南方での蛮族はベトナムである。ベトナムとは抗争を歴史的に繰り返してきたが、1979年のベトナムが勝利した中越戦争以来、陸地では戦いを交えていない。インドとの高山地帯を除けば陸の国境地帯で中国では軍事的脅威はない。
いま中国には、陸からの脅威がないのに、中国はなぜ膨大な軍事費を使い、たくさんの空母とミサイルを保有しようとしているのか、それは、海からの脅威に備えているからである。
今の中国で最も豊かで脆弱な地域は太平洋側の沿岸で、その海の輸送ルートを邪魔しているのは日米同盟だと中国は見ている。日米に対抗し、西太平洋上の覇権を争うことになる。

5.中国の経済政治発展モデル
経済が発展すれば、市民社会ができ中国を変え、民主化が促進されるだろうと考え、我々は希望を持って、中国に20年間投資した。ところが、結果は、経済は繁栄したが、独裁は継続したままであった。日本の場合は早くから気づいていたが、米国ではそれに気づいたのはオバマ政権の第2期目で、その頃から米国の対中政策は徐々に変化し始めた。トランプ政権はそれを引継いだだけである。バイデン政権が第3期オバマ政権だとすれば、第2期オバマ政権の対中政策とは基本的には変わらない。

6.中国の接近阻止/領域拒否
中国が軍事戦略のパワーを展開するための目標ラインとしての第一列島線の内側と小笠原からグアムへ向けての第二列島線の内側の西太平洋をすべて支配しようとしている。そして、自国の海域だと主張する。中国は太平洋を2分割し、米国は、台湾、朝鮮、日本から出ていってハワイに帰ってくれと言っている。
公海における航行の自由を中国は事実上否定し、西太平洋の力による現状変更を画している。
7.米中覇権争いの行方
・米国国防総省内での訓練の「米中戦争」のゲームで中国に勝てなくなった。
米国:高価、代替不能、有人、巨大、移動困難な、数量の少ない、プラットフォームに依存してきた。
その30年間に中国はどうしたか?
中国:廉価、無人、小型、精密誘導、使い捨て、移動に敏捷な、無数の兵器群で、米軍の接近阻止という米国の弱点を衝いた戦略を編み出した。
中国の勝ちである。
これが続くと第二列島線にも進出を許してしまって、米国も日本も海洋国家が成り立たな
くなり、海洋権益を守れなくなる。
中国の沿岸に何百、何千と配備されている命中率の高い弾道ミサイルを、例えは空母に200発同時に打ち込めば必ず空母は沈む。
いま時、必ず沈められる空母などいらないのだ。
我々も、中国の戦略に対抗できうる、廉価、無人、小型、精密誘導、使い捨て、移動に敏捷な、無数の兵器群を持ち、中国への抑止力とする「戦い方改革」をしなければならない。
これから10年間そのような方向で動かなければならないが、全然そのようになっていない。
・大国間戦争の意味:いずれも戦略的譲歩はしない。
中国は「力の真空」をずっと探していて、米国の関心が薄れたら「戦わずして勝つ」としている。
中国のような大国の場合、勝たしてくれない。戦えばこちら側にもダメージがでて、全ての目的を達成できなくなる。そこで優先順位を付けなければならなくなる。では、尖閣諸島はどうするか、これに優先順位を付けるのは難しい利益がある。米国が中東、特にイラク、アフガニスタン、シリアから撤退するのはある程度仕方がない。
中国はバイデンが親中派になるとは思っていない。
中国はあと10年以内に「中所得国の罠」に嵌る筈である。中国だけが経済理論から外れるわけがない。
この危機感を習近平がどれほど思っているかわからないが。

8.米海上戦力のローテーション 20100606−20110406
海上米軍の位置を示した地図がある。
地図は毎週更新される。2010.6.6から2011.4.6までの9カ月間について地図を重ねて動かしてみる。米国海軍は空母を11隻保有(その内4隻が実稼働)していて、ヘリ空母を含む20隻ほどが世  界中をローテーションで回っている。
2011.3.11の東日本大震災の時、米軍は友達作戦で日本の周辺に2隻の空母とヘリ空母1隻を配置し、東北の同胞を支援してくれたが、その時、ほかの2隻はインド洋に配備されていた。
もし、朝鮮半島で何らかの危機があって、同時期に中東や南シナ海で危機が起こった場合、米軍は中東に2隻を派遣するであろう。その結果、南シナ海と東シナ海は空になる。そのようなケースが危惧される。
V. 質疑応答
Q1. 日本は中国に対してどう対応していけばよいか?
 例えば、日中外相会談後の共同記者発表の場で飛び出した、王毅外相の発言について
正体不明の漁船が頻繁に尖閣諸島に侵入しているため、中国公船が必要な反応をしていると説明したが、茂木外相は反論しなかった。一言あっても良かったと考えるが?
A1. 一言あっても良かったと思うが、言っても言わなくても力関係が決まつたり、変わる
 わけでない。
 尖閣は我が国が実効支配しているのに、中国が手を出してきている。日本固有の領土と
して有効に支配してきたのであり、話し合いで解決する領土問題は存在しないとしている。あえて答える必要もなかったのだろう。
 
Q2.中国の軍備が強すぎ、日本近海の海上防衛の維持に力を入れる効果がどの辺にあるの
 か?
A2.攻撃は最大の防御である。防御は最大の攻撃にはならない。しかも防御は受け身だか
 ら、やたら金がかかる。日本では攻撃能力は駄目だという呪縛にかかってしまっている
ので、ミサイル防衛ならいいだろうということで、これに金をかけている。だが、ミサイル技術は日進月歩で既存のミサイル防衛システムが不十分になる可能性は常にある。また、イージスをうまく使えば、まだまだ使える。
 イージス艦を今6隻保有しているが、米国の空母11隻保有のうち実稼働が4隻と同じ
 ように、イージス艦10隻持っていても良くて3隻の実稼働になる。ということで、山
 口と秋田でイージス艦の負担を軽減するため、地上でミサイルを打ち落とせるように、
 地上配備型迎撃システム「イージスアショア」を配備しようとしていた。しかし、北朝
 鮮はすでに、現行イージスシステムの能力を超えるミサイルを持ち始めた。その陸上 
イージス施設に莫大な金をかけて、うまく使えるのかと考えた時に、どうしても意見は割れる。日本のように狭いところで、まして、ブースターを落としてはいけないなんて話になれば、どうしようもない。
攻撃は最大の防御であるとすれば、今はどうしたらもっと安上がりに、抑止力を維持できるかを考える必要がある。防衛費は5兆数千億円しかないわけだから、陸での防衛だけでは難しい。海上を選択したのは正しい。いずれにせよ、相手のミサイルも進化していくわけだから、それに対応できるように、日本のミサイルシステムも常に更新していく必要がある。北朝鮮のような普通じゃない国に対する戦略を考えるのは難しい。

Q3.韓国と北朝鮮とはどのような関係を作ったら良いか?
A3.非常に厳しい問題である。いま日韓関係は無茶苦茶である。また、北朝鮮との関係も
 良くない。
 本来朝鮮半島は安定して、統一し、独立して、民主主義で、法の支配があることが、
 あるべき姿ではある。そこに行くためには相当大きな長い距離がある。むしろそして
その距離広がっているように思える。いま韓国・北朝鮮の最大の問題は、冷戦後の米日同盟による安定の維持はもう終わるということである。朝鮮半島では歴史的な伝統的なバ
ランス外交、つまり最も強い国に朝貢することが、脆弱な半島国家が文化、言語を維持する最善の方法であった。戦ったら滅ぼされるわけだから。
韓国にしてみれば、中国が台頭してきたが、米国は頼りにならない。北朝鮮は核を持っている。されば伝統的「バランス外交」に回帰するしかないと韓国は考えているのだろう。これが韓国の現実であれば日米は、韓国が反対方向に行かないようすることしかできないのではないか。
北朝鮮にしてみれば、トランプは扱い易かったが、バイデンはトランプのような馬鹿
 かなことはしてくれない。かつ、韓国は全く信用できないし、中国は怖いわけである。
 当分は日本には靡いてこないが、北朝鮮がどこかで日本との関係改善を考えることは
 あり得る。とすればいつか拉致問題が花開くことになる。
 
Q4.持続的可能性や社会的平等の観点からみると、脱成長のコモン型社会に移行するのが
良いと斎藤幸平氏が社会主義的発想に近いことを提唱している。米国では資本主義に対して疑問が出てきている。中国はコロナを治めたが、社会制度としては良いと思えない。日本はこういう場面において、どういう方向性を目指すべきか?
A4.資本主義が修正資本主義を経て、共産主義に勝ち、アメリカの一人勝ちの時代があり、その後ネオリベラリズムが出てきて、富の再分配ができなくなり、資本主義の弊害が出てきて、再び平等性をより重んじる考え方が出てきた。これは当たり前のことだと思う。それを社会主義と呼ぶかどうか、ナショナリズムにもなり得るのではないか。
では中国をどこに入れるかというと、中国は現在までの思想史の潮流とは違う方向で動いている。国家資本主義そのものである。社会主義というよりは、重商主義、権威的な国家資本主義である。中国が旨くいったのは、自由、民主、法の支配、適正手続き、人権を無視したおかげであり、独裁的な権威主義により何でもできるので、旨くいっているだけである。現在までの思想史の流れと一緒にしないほうが良い。
中国は非常に単純化すれば、今までのやり方を14億の中国人がどこまで我慢するかである。
あんなに他人の言うことを聞かない中国人たちが、たった一人の言うことだけを聞き続けられるわけがない。いずれどこかで、行き詰まると思っている。日本についていえば純
粋の資本主義ではなく、むしろ唯一成功した社会主義国家ともいえるだろう。

Q5.日本の企業は中国に進出している。また、主要な貿易国でもあるが中国に頼っていいのか?
A5.1939年の技術的レベルの低い地域性の強い「ブロック経済化」とは違い、今世界ではデジタルブロック経済化が出来ている。米国を中心とするインターネットの世界と中国を
中心とするインターネットの世界という、デジタルブロック経済間の戦いが始まっている。いずれどちらかが覇権を握る時代が来る。国家安全保障上必要な技術、産業、応用については、中国とデカプリングするしかない。
 安全保障上の地政学的な合理性だと思う。
日本の場合、最先端なものは補助金を出しても自国でやるべきだ。逆に安全保障上問題ないものは、中国と自由に経済活動をするという二つの方法に分かれていくだろう。

Q6.中国外交はあたかも中国共産党の党内闘争の延長のように振舞っているように見  えるのですが、どのように評価しますか?
A6.中国外交部は政策実施機関に過ぎず、政策立案の権限は事実上持っていないので、単なる官僚の生き残りのための「付託」行動でしかない。

Q7.トランプ政権の中東での実績、就中、イスラエルの首都移転、湾岸4か国国交正常化をどのように評価されますか?
A7.基本的には過去20年間現実を追認しただけの話。パレスチナ内部の分裂は深刻で、
 アラブ諸国はとうの昔にパレスチナ問題に対する関心を失っている。アラブにとって
 敵はペルシャであって、ユダヤではないと言うことなのだろう。
文責:立花 賢一

講演資料:日・米・中を中心とした今後の世界情勢の行方
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2020年11月26日

EVFセミナー報告:最近の極端気象と地球温暖化を考える

演題:「最近の極端気象と地球温暖化を考える」
 講師:東京大学大気海洋研究所気候システム研究系教授 木本 昌秀様
 Web視聴開始日:2020年11月26日(木)
 参加視聴者:47名

1.講師紹介
・1980年 京都大学理学部卒業、気象庁に入庁
・1985年 UCLA留学(〜1987年)
・1989年 Ph.D.(Atmospheric Sciences)
・1994年 東京大学気候システム研究センター助教授
・2001年 同教授
・2010年 大気海洋研究所副所長(〜2019年)
・専門は気象学、気候力学。コンピュータシミュレーションを駆使して異常気象、気候変動のメカニズム解明、予測に取り組む。
U.講演内容
<頻発する極端気象>
1.2018年には「平成30年7月豪雨」で死者・行方不明者合わせて281名、それに続く猛暑(公式記録で最高気温41.1℃) で熱中症死者1400名超。秋には大型の台風21号、台風24号が到来。「平成30年7月豪雨」・台風21号・台風24号の災害による保険金支払額は合わせて1兆5695億円で、東日本大震災による保険金支払額1兆2167億円を上回っている。
2.2019年には台風15号の関東上陸により千葉県で鉄塔2基倒壊・電柱1996本損壊、93万戸が停電し完全復旧に30日以上かかった。また台風19号による豪雨で信濃川や多摩川など71河川140箇所が決壊し、死者・行方不明者も合わせて108名となった。
  
<異常気象?極端気象?>
1.気象庁では「その地点、季節として出現頻度数が小さく平常的には現れない現象または状態。統計的には30年に1回以下の出現率の現象」を「異常気象」と定義し使用しているが、異常と正常の違いに関心がいき過ぎ、次も又発生しますから逃げてくださいよ、といったメッセージが伝わりにくいので、私は「極端気象」という言葉を使うようにしている。
2.例えば、東京の1965年から2018年までの7月の平均気温は、暑い年もあれば寒い年もありヒストグラムは正規分布に近い形をとっており、分布の30分の1以下の高い平均気温であれば猛暑と呼んでおり、30分の1以下の低い気温であれば冷夏と呼んでいる。つまり統計的には極端に暑い年や寒い年が何年かに一度の確率で現れるということで、それが正常な姿ともいえる。
3.寺田寅彦先生は「災害は忘れた頃にやって来る」とおっしゃられたが、災害は忘れた頃ではあるが必ずやって来るものであり備えが必要。加えて長期間に亘る地球温暖化の影響が重なって、極端気象がより発生しやすい状況にあり、今までの経験だけでは判断が難しい状況にある。

<地球は温暖化している>
1.1850年から2020年にかけての地球全体の平均気温の推移をみると、トレンドとしては0.73℃/100年の上昇と推計される。
2.これに大気中のCO2濃度の推移と人間活動によるCO2排出量の推移を重ね合わせると同じく上昇トレンドにあり、CO2は地表を温める温室効果があることから、少なくともグラフを見る限り平均気温の上昇と人間活動によるCO2排出量、大気中のCO2濃度の上昇には関連があることが推測される。

<19世紀末〜現在の気候変化>
1.年平均気温長期変化傾向(1891-2019年)では、地域差なく地球全体で上昇傾向にあることが伺える。
2.世界の年降水量偏差では、1891年から2019年通算の年間平均降水量からの差が年毎にプラスマイナスゼロの線を上下して推移しており、また観測された陸域の年降水量の変化(1901-2010年)は世界全体で増加した地域もあれば減少した地域もあり、長期増加傾向は気温のようにはっきりとは現れていない。降水量は時間的・空間的に局地性が強い性格の気候変数であるため、時間空間的に平均した統計では有意な長期変化傾向は検知されていない。

<世界の自然災害の推移>
1.自然災害は、極端気象が人の住む地域で発生し、その極端気象の影響で実際に損害を与えた場合に認知されるものであり、また対策を講じれば災害も防げるため、気候イベントと災害イベントは必ずしも一致しないが、ミュンヘン再保険会社が公表している災害イベント発生件数では、損害の比較的小さいものも含めてカウントしたときには増加傾向にあり(1980-2018年)、自然災害は増えているとの見方もできる。

<世界平均地上気温の将来予測>
1.コンピュータシミュレーションによって地表気温の推計を行うと、観測データと同様の上昇トレンドが計算されるが、人為起源の強制力を除き自然起源強制力のみで計算した場合には上昇トレンドはみられず、人間の活動が気温上昇に影響を与えていることが伺える。IPCCの報告書では、他の証拠とも合わせて「気候システムに対する人間の影響は明白である。」との強い表現でレポートされている。
2.将来の気候をシミュレーションすると、何も対策を講じなかった場合は今世紀の終わり頃に世界平均地上気温は産業革命以前に比べ4℃以上上昇すると推計されている。現在の地上平均気温は産業革命以前から比べるとおよそ1℃上昇しておりその4倍の水準。平均気温1℃の上昇でも前述したとおり猛暑になれば災害級の被害が発生している。世界平均では年間4℃の上昇であるが、地域的・季節的には気温上昇10℃を超える猛暑になってもおかしくない気候。一方対策を講じた場合には、パリ協定の目標である2℃以内の上昇に留めることも可能とのシナリオが推計されている。

<温暖化を止める緩和策>
1.過去数百年に亘る人間活動によりCO2排出量は累積しており、またCO2は大気中に長く留まる性質の物質で濃度も上昇しているため、地上気温の上昇をただちに抑えることは残念ながら困難。2℃目標に限らず、気温上昇を止めるためには、ゼロエミッション(人間活動によるCO2排出量ゼロ)、すなわち低炭素ではなく脱炭素を可能な限り早期に達成しなければならないことがわかっている。
2.CCSといった排出されたCO2を地中に埋める技術を用いれば、少しぐらいのCO2排出は許容されるのではないかとの見解もあるが、この対策を実行するためには大変なコストがかかる相当大掛かりな事業になるものと想定され、これに多くを頼るわけにはいかない。
3.我が国の電源別発受電内訳(2018年)では水力や太陽光といった自然エネルギーは18%しかなく、東日本大震災があったため原子力に大きく頼るわけにはいかず、島国であり他国からの電力供給も受けられないため、残り82%の電源をゼロエミッションにシフトしていくには相当の困難が予想されるが、地球温暖化を止めるためにはゼロエミッション達成は必須の条件である。

<温暖化に伴い、極端気候の増加が予測されている>
1.日本の年平均気温は長期増加傾向にあるが、年間降水量については長期増加の兆候がまだ検知されておらず、これは世界平均の傾向と同様。
2.しかし、例えば猛暑日の日数や日降水量200ml以上の日数の長期変化傾向をみると確実に増加しており、とくに降水については極端気象の変化を見たほうが長期の変動が探知しやすい。
3.気温上昇が進めば大気中の水蒸気量は増えるが、地球全体で平均すると気温1℃の上昇で増加する降水量は2〜3%である。しかし降水の場合は、上昇気流が発生した場所では雨が降り下降気流が発生した場所は乾燥するといった局地性が強いため、より雨の降り易い場所、季節に焦点をあて変化をみた方が長期の影響を統計的に探知し易い。
4.台風は、日本に上陸するのは年に2、3回で接近も10回もあれば多い方。大災害を引き起こすようなケースの発生頻度が少ないため、将来予測は、たくさんの事例を集め高解像度で定量的にシミュレーションしなければならない。

<極端気象イベントに対する温暖化寄与の評価>
1.地球温暖化の影響は、数十年かけてデータをみて長期傾向を取り出し初めてその影響がわかる。一つ々の極端気象イベントが地球温暖化のせいで起こるわけではないが、極端気象イベントやそれらに伴う災害に地球温暖化の影響が全く寄与していないわけではない。一つ々の極端気象イベントに地球温暖化の影響がどれくらいあったのかということを評価できれば、一般の理解も得られやすく、ひいては対策の推進に寄与できる。
2.地球が温暖化すれば毎年猛暑になるわけではないが、猛暑となる確率が増し、その程度も増加する。例えば日本における2013年の猛暑のケースで温暖化の影響がなかった場合と温暖化の影響があった場合の双方をシミュレーションすると、2013年に実際に観測された以上の猛暑となるリスクが1.3%から8.9%に増加するとの計算結果が得られた。
3.また「平成30年7月豪雨」の降雨量データを基にシミュレーションすると、温暖化の影響がなかった場合の降雨量は6〜7%少なくなるとの計算結果が得られた。地上気温が1℃上がれば大気中の水蒸気量は7%程度増すが、降雨量のシミュレーション結果はこの水蒸気量の増加量に相当し、まさに温暖化の影響が降雨量の嵩上げ効果に寄与しているといえ、近年発生した極端気象イベントに温暖化の影響が確実に寄与し、リスクが増し嵩上げしているといえる。

<直近予測〜リードタイムの確保>
1.温暖化が極端気象イベントにもたらす影響を踏まえ、様々な対策とリスクに対する備えが必要になってくるが、実際に生命を守るということになると極端気象イベント発生の直前に、可能な限り早く正確に予報を出すことが肝要。
2.気象庁の予報精度の質も増し、例えば台風については以前は3日前にしか予報できなかったが最近は5日前から進路予報・強度予報を出せるようになった。さらに気象状況を探知する様々な測器も開発・実用化され予報精度向上に努めており、技術のある方々には新たな観測技術の研究・開発に努められ、さらなる予報精度向上に寄与していただきたいと願っている。
3.天気予報は観測データをコンピューターに入力、数値天気予報モデルで計算し予報結果を出しているが、例えば遠方にある台風強度の画像解析による推定や降水予測に基づく避難のタイミングのガイダンス、あるいは予測を踏まえたビジネスへの応用等、様々な場面でAIの活用も期待される。気象庁では、気象情報のビジネスへの活用を目的とした「気象ビジネス推進コンソーシアム(現在会員数803)」を企画し立ち上げており、参考情報として紹介。

<まとめ>
(1)地球温暖化が進行中
(2)温暖化抑止にはゼロエミッションが必要!
(3)温暖化に伴い極端気象が増加する
−気温はますます高く
−豪雨は激しく、台風も強化
(4)温暖化の適応本格化
  −リスクマネジメント〜(気象)情報を上手に利用して
(5)防災対策はますます肝要に
  −これまでの経験に頼らない
  −最後は自分で判断
  −より良い予測は命を救う

V.質疑応答
Q1.ゼロエミッションが実現しても、既に地球の絶妙なバランスは崩れており元に戻らないと思うがどう考えるか。
→ゼロエミッションは人間活動によるCO2累積排出量を一定のレベルに留め、その下での(気温が上がった)環境で我慢しましょうとの政策。CO2累積排出量を削減する技術はまだなく、自然活動による削減に頼らざるを得ないため、足下では自然環境の改善・回復事業しか対策はないので、CO2累積排出量を削減するためにはかなり長期の期間を要する。もしかしたら将来、例えば人工光合成などの新技術が開発されるかもしれないが、我々の世代は我慢しなければならないと考えている。

Q2.東京近辺は、縄文海浸といって7000年前は海の底であったといわれている。地表の氷が溶けたことにより海水面が上昇したことが原因と思われるが、その当時にも温暖化の影響があったのか。
→もっと時代を遡れば地球は氷期・間氷期を繰り返し経験してきている。地球の自転軸と公転軌道の微妙なズレにより太陽に対する傾きが変わるため大きな気候変動が起きると考えられており、こうした環境変化によりCO2濃度も変わるが、気温変化の主たる要因ではない。氷期・間氷期は10万年間で10℃の気温変化であったが、足下の温暖化は人間活動の影響で気温上昇の変化スピードが速く、環境や生態系に大きなダメージを与えることを踏まえてその及ぼす影響を考えていかなければならない。

Q3.気象予報は気象庁に加え民間の予報会社の情報もあるが、退避行動を起こす場合、気象庁の発表をみて動いた方がよいか。
→今のところ災害に結びつく短期の気象予報は、世界でも国内でも気象庁が断トツ。基本的な気象の予測は気象庁の予報に基づくべきだが、どの地区でいつ避難するか等、ユーザーへのきめ細かな情報の提供等に民間の活躍の余地は大いにある。気象庁の予算は限られており、防災に結びつく気象予報に重点化しているので、例えば長期予報や周辺情報は、民間との役割分担を推進している。

Q4.太陽光発電と一体となったバラマキ型センサーなどの測器は気象庁がやっているのか
→ほぼ民間でやっている。AI技術により精度の劣る民間の観測データも活用できるようになったため、これらの民間の測器による観測データも受け入れている。気象庁は不特定多数に向けての予報をやっており、太陽光発電のセンサーのように特定の発電会社や需要者向けの観測は行っていない。

Q5.世界中の電源の中で石炭火力は4割あり、日本の技術をアメリカや中国で用いれば10億トン単位でCO2排出を削減できるとの意見もあり、石炭火力も活動すべきと思うがいかがか。
  
→ゼロエミッションを実現するための技術はとてつもなく難しい。今ある効率的な技術は有用だが、新たな技術の開発、イノベーションを真剣に考えるべきだ。政府にはこれらの技術革新や技術者の教育を後押しする政策を立案・実施して欲しいし、ベテランの技術者も後輩の指導・育成に注力して欲しい。日本人は、これまで技術と頭脳で世界と伍してきた。日本人のポテンシャルを活かせばゼロエミッションに向けた技術開発、イノベーションも達成可能と期待している。

Q6.最近の台風の進路予想をみるとフランスやイギリスの気象観測会社の予報も発表しているが、なぜ他国が日本の気象予報をしているのか。また各国の予報を比較するとどこの精度が高いのか。
→台風によってどの国の予報が一番よいかはコロコロ変わるものです。気象予報は大事な情報なので、各国とも政府機関が独自のモデルを持ち実施しており、全地球の観測データを用いて予報している。したがって他国の気象予報も可能なわけであるが、モデルで全地球のデータを用いてシミュレーションしているのは大気に国境がないため、全地球のデータを入力しないと自国の予報もできないことが理由。気象庁の予報精度は世界でも2、3番手のトップレベルで、トップクラスはほぼ一線で並んでいる。共通のモデルで世界一本化すればよいのではとの意見もあるが、各国のどのモデルにも各々優劣があり、観測精度を向上させていくためには、他国のモデルの進んでいるところを取り入れていくなど、お互いに切磋琢磨し精度を向上させていく方向がよいと考える。

Q7.「溶接、食品、物流などに使われる液化天然ガスやドライアイスなどを扱う日本の産業用ガス業界は恒常的にCO2不足に悩まされている。CO2は@溶接した金属の化学変化を防ぐガスとして使用、Aビールや炭酸飲料の製造、B農作物の光合成促進、C腹腔鏡手術医療用など幅広く使用されているが、昨今の通信販売増加により物流需要も伸びている。日本国内の年間需要は天然ガス約77万トン、ドライアイス約35万トンあり、全て韓国から輸入されている」と新聞報道されています。日本でCO2の回収・再利用を図るカーボンリサイクルの技術が確立されれば温室効果ガスの削減に大きく寄与し、産業用ガスの安定供給にも役立つと考えるがいかがか。
→対策技術は私の専門ではありませんが、例えば日本では発電量の8割近くを化石燃料に依存している現状ですので、CO2排出の削減のみでカーボンニュートラルを実現するのは大変困難だと思います。ですので、CO2を有効利用できるカーボンリサイクルの技術を推進することは大変重要だと思います。技術的なことに加え、コストや、量的にどの程度期待できるのかなど課題は多いと思いますが、有望な分野であることは間違いありません。

文責:伊藤 博通
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