2017年04月20日

EVFセミナー報告:京で草木染屋をやっています〜染めの実演を交えて〜

[演題]:京で草木染屋をやっています
    〜染めの実演を交えて〜

日時:平成29年4月20日(木)午後3時45分〜5時45分
場所:NPO法人「新現役ネット」A会議室
講師:青木 正明 氏(天然色工房手染メ屋 主宰)

講師紹介:
 1991年、東京大学医学部保健学科を卒業後、(株)ワコールに入社しナイトウエア及びスポーツアンダーウエア企画業務・ブランドMD業務に携わり、仕事で奈良の染色研究所を訪問した時に初めて草木色の染め色を目にして染色に興味を持ち始め同社を9年で退社、(株)益久染色研究所に転職された。
 転職3ヶ月後、古代染色家故前田雨城氏の上代染色復元絹地展示会の手伝いをした時に前田氏の染め色を観て涙が止まらない現象を体験し、自分でもこのような色目を染め出したいと強く思い同所を一年半で退所され、
 2002年1月、京都市中京区麩屋町で「天然色工房手染メ屋」を主宰しながらこれまで京都造形芸術大学で非常勤講師として染色概論座学、天然染料の染色技法実習や天然染料を使用した伎楽装束復元実習などにも携わって現在に至っている。

要約:
 草木染めとは植物の色を繊維に染めつける作業で、現代では比較的珍しい技術だが、19世紀に合成染料が開発されるまでは世界中で当たり前の染色方法だった。
 今回はムラサキの根、「紫根(しこん)」を使った染の実演をしながら、プロジェクターを使って草木染めの概要(染色とは?、高貴な紫色の歴史、紫根の特殊な染め方、薬用利用、化学的薬効評価など)を分かり易く説明して頂いた。

講演概要:
 今回は京浜東北線と山手線のトラブルの影響で多くの出席予定者の会場到着が遅れ、セミナー開始時間を15分遅らせての開始で、その間青木先生には「ムラサキの染め実演」の準備をして頂いた。
 先ず、紫根は地上部が可憐な多年草だが根は紫色で太い直根でこの根が乾燥すると染料になり、チップ状になった原料は少し匂いがし、かじると甘い(ブドウ糖)とのこと。
色をよく出すため、使う前にミルで出来るだけ細かく曳き、300ccの消毒用エタノールを混ぜ30分ほど浸け置く。次いで椿灰に熱湯を200cc注ぎ、かき混ぜて30分ほど静置しておく。ここで一旦実演を中断して、あらためて大学での進路選定の経過から草木染めに関わって来た経緯を交えて軽快な話し方で自己紹介された後、先ず「染め」とは何ぞやの説明となった。
染色とは?
 染色とは、繊維(細長くてしなやかである物質)と染料(色を持っていて、水に溶けて、手を持ってる分子の集合)が手をつなぐことで、繊維の細長い分子には+、−の「手」があり、染料にも+、−の「手」があって、繊維の分子の手に色素分子の手が磁石の力で引っ付くことと染色の現象を図を使って判り易く説明された。
 合成染料は1856年に英国の若き化学者パーキンが間違って紫色の染料を創ったのが始まりで、それまでは全て草木染めであったとのこと。
2.ムラサキの根と染め方
 ムラサキの根は古来より高貴な紫色を染め出す染料として重用されてきた。
染め方は、927年に編纂された「延喜式」第14巻“縫殿寮”章の雑染用土(くさぐさのそめようど)に38色の染め式の記述があり、高貴な紫色の染め方として紫草、酢、灰(椿灰)、薪の配分が示されていて青木先生はこれらを類推して草木染に供しているとのこと。
Semi20170420r1.jpg 先ほどエタノールに漬け置いた容器からごみ取りネットで紫根だけを取り除いて濃い赤紫のエタノール溶液に出来るだけ熱い湯を注ぎ2リットルに嵩上げし絹地を入れ、動かしながら染めた。
ムラサキを綺麗にしたいので椿に入っているアルミニウムを使い、このアルミニウムは光合成を阻害する働きがあり媒染効果による色素定着と発色するとのこと。
 紫根は特殊な染め方で、湯に入れて潰したり揉んだりしながら色を出し、次いで絹地を染め液に入れ浸け染めし、時間を置いて絹地を椿灰で作った灰汁に浸けて「媒染」する。
紫根の紫色の成分はシコニンとその誘導体で、リトマス試験紙のようにアルカリ性で青みに、酸性で赤みになるのでこれを20分から30分交互にしていく。江戸紫は青み系で京紫は赤み系で何方で終わらせるかで色を出す。シコニンは水に溶けにくく70℃、80℃のお湯の中に長時間(30分位)浸されると灰色になってしまう。またシコニンはアルコールには直ぐ出て生地には付きにくいので水で調整すると化学結合で生地に上手く付くようになる。
 次に何故灰は椿なのか?「延喜式」には灰としか記述がなく「万葉集」第12巻にある“紫は灰さすものぞ海石榴市(ツバイチ)の八十のちまたに逢える児や誰”の歌から古代染色家の仲間で類推されてきたとのこと。
3.紫根の薬用利用
 紫根は古来より薬用にも利用されている。古代中国の漢方原書「神農本草経」(西暦150〜160年)に紫根は中品(毒にもなり得る養生薬)として“味苦寒。心腹の邪気や五疸の病を治す”と掲載され、お腹に良い薬で、同じく古代中国の医学書「名医別録」に“膏を作り小児の瘡および顔のできものを治療する”と記載され軟膏としても利用されている。わが国でも江戸時代後半に華岡青洲が考案した万能軟膏「紫雲膏」が利用されてきた。
Semi20170420r2.jpg4.紫根の化学的な薬効評価
 紫根は天然染料の中では比較的言及されている物質で、シコニンとその誘導体(ナフトキノン誘導体)は薬理活性を持つものが多く、抗ウィルス薬、抗炎症薬などに利用されているが作用機能はよく分かっていないとのこと。
 日本には染色専用の植物という概念がなく、藍染の藍は元々日本原産植物ではなく紅花と同じく中国から来たもので、有用な植物として管理しながら育てて来たとのこと。

 ご講演後、今回の染め実演で出来た高貴なムラサキ色に染まった絹地を女性参加者と青木先生とのジャンケン勝負でお一人にプレゼントされた。

質疑応答
Q1:紫色は貝からとるのですごく値段が高いので高貴とされると聞いたことがあるが、その紫と今回のムラサキとの違いは?
 A:物質として全く違い、紫は洋の東西を問わず高貴なものとされているが、西の方は貝が使われていた。藍のインディゴに臭素(Br)が2つ付くとジブロムインディゴの貝紫となり全く違うものだが色はよく似た紫色。貝紫は赤みの強い紫色だが染め方やタイミング、個体差でいろいろ変わり、酸化して染まるが反応は遅く、日に当たって発色するのが特殊。一方、藍は空気中でも簡単に酸化して染まる。ほかに紫に染まる物質は知らない。珍しいからどちらも高貴と言われる。
Q2:シコニンは合成化学で作れないのか?また作れるなら利害得失はどうか?
 A:化学屋がナフサやコールタールからではなく植物の根に着いている微生物をシャーレで培養して作っているという論文を見たことがあるが、天然物と合成物とでは経済性に問題があって、紫根が使われているのが現状との事。
以上 文責:立花 賢一

講演資料:「京都で草木染め屋をやってます」〜ムラサキの染め実演と染の話〜
posted by EVF セミナー at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | セミナー紹介
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