2018年09月27日

EVFセミナー報告:「極地研究からわかる地球規模の気候変化」〜第58次副隊長兼越冬隊長に聞く〜

演 題 :「極地研究からわかる地球規模の気候変化」〜第58次副隊長兼越冬隊長に聞く〜
開催日:平成30年9月27日(木)午後3時30分〜5時30分
場 所:新現役ネット事務局A会議室
講 師:岡田雅樹氏  国立極地研究所准教授、第58次南極地域観測隊副隊長兼越冬隊長

 講師は京都大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程を修了し、国立極地研究所に入所。現在は研究教育系宙空圏研究グループ准教授として極域プラズマ物理学分野を担当されると共に情報基盤センター長も兼ねられています。

講演概要:
今回の講演では、第58次南極地域観測隊副隊長兼越冬隊長として本年3月に帰国され、
南極という自然条件のなか、南極観測船「新しらせ」による年1回の物資の輸送に大きく依存しながらも、第1次南極地域観測隊が昭和基地を開設してから60年の長きにわたり安定した運用を維持する一方で、世界的な観測競争に伍して最先端の観測を維持する昭和基地の現状と観測体制を32名の越冬隊員とともに越冬した経験を基に、南極の自然と観測隊運営について最新の映像と観測データから地球環境観測の現況と厳しい自然環境の中、いかにして隊員の安全と柔軟な運営を両立させているか基地運営の実態を多数の資料にて紹介いただきました。

先ず最初に先生が所属している国立極地研究所の建物や南極観測実施体制の中での位置付け、国際学術研究組織体制と第58次南極地域観測隊(夏隊35名、越冬隊33名と同行者25名)が「しらせ」甲板上でお正月を迎えた様子をご紹介頂いた。
次いで1961年に発効した南極条約(51条約締結国)に基づく南極観測実施国(29ヶ国)と越冬実施国(20ヶ国)の基地位置と絡めて昭和基地の気象・海氷状況と気温の変化をグラフを使って厳しい環境を紹介して頂きました。因みに最低気温は-32.9℃(8/29/2017)で最高気温は5.4℃(12/22/2017)で、一日中太陽が出ている“白夜”が11月末から1月末と一日中太陽が出てこない“極夜”が6月20日から2ヶ月半があり、この期間の隊員の体調管理が大変との事。
また昭和基地には約70棟の建物と一般家庭約400件分の発電機(300kVA、2基)があり、「しらせ」による年1回1,000トンの物資が輸送されています。
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 宇宙環境の予測、宇宙天気予報への応用のためのオーロラ観測(宙空圏変動)、地球温暖化予測のための精密観測と温暖化物質(微量元素)の変化観測(気水圏変動観測)、30年以上にわたりペンギンの個体数変化を調べることで南極の温暖化が生息環境にどのような影響を及ぼすかの調査(生態圏変動)についてデータと豊富な写真を用いて説明頂いた。特にオーロラ発現の動画は参加者の興味を大いに曳き付けました。
南極氷床の成り立ちの説明では、南極海下からの大陸岩盤の上に厚さ平均約2,450mの氷床(雪が降り積もり圧縮されてでき、世界の淡水の90%を占める)が覆い被さって最高標高が約4,000mもある氷でできた南極大陸のイメージと南極大陸の落ちる隕石の集積機構についても説明された。
ここまで約1時間、丁寧な説明をされた後、越冬隊員の構成について写真を交えて説明頂きました。観測系隊員が14名でその内訳は、宙空圏分野が5名、気水圏分野が1名、地圏分野が1名、生物圏分野で2名と気象観測に5名との事。
観測隊員の裏方になる設営系隊員が18名でその内訳は機械担当(エンジン、制御、電気、設備と車両)が7名、調理と医療担当が夫々2名、通信、衛星受信、ネットワークおよび環境保全担当が夫々1名と少数精鋭の体制であることを感じ取れました。
第59次先遣隊(18名)受入の為の緊急用滑走路(1,000m、昭和基地から8km)の整備状況と隊員との交歓やペンギン、湖沼調査やアザラシ調査状況さらに昭和基地からの情報発信としてのホームページ“昭和基地NOW!!”やテレビ会議を用いた小学生を対象とした“南極教室”なども写真や動画をフル登場で判り易く説明頂きました。
南極観測隊における危機管理として火災、漏油事故、隊員の生命にかかわる事故・病気などに対する行動実施計画書・安全対策計画書として“昭和基地油流失防災計画指針”“ブリザード対策指針”“防火・防災指針”“野外行動における安全行動指針”“レスキュー指針”および“内陸行動における安全指針”が用意され、これらの指針に基づいた訓練状況の映像解説で基地生活の厳しさがよく理解できました。
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ここまで丁度1時間半、多くのデータ、写真や動画を駆使した説明を頂き質疑応答の時間になり、これまでのセミナーでは類を見ない約15件もの質疑応答となり司会者も時間を気にしながら進行をされました。
質疑応答の数例を以下に紹介します。
Q1:燃料は600トン輸送されるそうだが、水は飲料水や洗濯水などに使われると思うが現地調達しているのですか?また発電機を使っているのでコージェネになっていますか?
A1:発電機はコージェネになっていて熱効率で70%回収している。冷却水は暖房や融雪に活用し、水は貴重で常日頃節水に心がけている。
Q2:60年間の南極観測予算は減ってはいないと思うが?また一冬の越冬費用は?
A2:当初1億円弱でスタートし、現在は約30億円規模の予算。一番費用が掛かるのは「しらせ」の運航で約20億円、越冬隊が約10億円。
Q3:33名の越冬隊員が約1ヶ月の引継ぎでは難しいと思う。越冬経験が2度目、3度目という隊員がいるのか否か?また、建築担当が1名で33名の隊員を指導できるのか?
A3:越冬が2度目という隊員が約10%前後で、越冬隊長も2度目・3度目の経験者を充て、建物の建設は夏隊を1〜2名増員して行い、越冬隊は内装改修をメインにしている。
Q4:南極は寒い処なので冷蔵庫はあるのか?長い期間閉じられた環境で生活するので帰国後、同窓会的な集まりはあるのか否か?
A4:生鮮食品を凍らせないための大型冷蔵庫が3個、冷凍庫も3個あり、分散保管している。同窓会も年1〜2回実施している隊が普通。
Q5:現地での廃棄物処理対策は?減量化・燃料化は行っているのか?
A5:南極条約で厳しくなっており、持ち帰りが原則。固形物は焼却して減量・減容化し、灰は持ち帰る。汚水の浄化装置があり、浄化水は海洋投棄が出来る。1,000トン持ち込み、400トンを持ち帰っている。
Q6:33名の隊員のメンタルケアは?またインターネットを利用したカウンセリングの事例は?
A6:太陽のない時期は滅入る隊員が出てくるので懇親会など行って気分転換を図っている。テレビ電話やラインを使って家族とのコミュニケーションが頻繁に行われている。
東葛病院と連携して何かあればテレビ会議で対応している。対応アドバイスが必要な場合は専門病院と患部を確認しながら対処している。
Q7:帰国してからのデータ発表期間の制限は?
A7:南極条約で観測データは原則2年を目途に公開することになっている。その間、個人が自由に使えるが、共同研究ではオープンデータアクセスを使うこともある。
Q8:先生の専門はオーロラ分野と聞いているが?
A8:オーロラの電波を観測して光では天気が悪くて見えない時でも電波によりオーロラ現象が分かり、地球規模の観測が出来る。
 3月に帰国されてから数多くのご講演をなされ、豊富なデーター、写真や動画を駆使されたご発表で30分間の質疑応答も時間が足りないくらい密度の濃く出席者一同の大喝采の中、2時間のご講演を終えました。
以上
講演資料:昭和基地創設60周年を迎える南極観測
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介