2018年11月20日

EVF拡大セミナー報告:「第三の危機」VS 鳥類学者、あるいは(外来生物の功罪)

演 題 :「第三の危機」VS 鳥類学者、あるいは(外来生物の功罪)
開催日:平成30年11月20日(火)18:30〜20:30
場 所:きゅりあん6F大会議室
講 師:川上和人氏 森林総合研究所主任研究員

講演概要:
T 生物の多様性を保全することがなぜ必要なのか?
生物多様性基本法(2008年施行)では、生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を総合的かつ計画的に推進することにより、豊かな生物多様性を保持し、その恵沢を将来にわたって享受できる自然と共生できる社会を実現し、地球環境の保全に寄与することとあり、人類共通の財産である生物多様性を引き継いでいく義務があると明確に記されています。そして、生物多様性がもたらす恵沢は生態系サービスと呼ばれ、いくつかの種類に分類されています。
1.供給サービス・・・何かを供給してくれる。例えば、農産物・魚介類・
水・医薬品
2.調整サービス・・・気候や水質、農地環境などを調整する。例えば、
洪水などの制御や受粉など。
3.生息・生育地サービス・・・多様な生物が生き、遺伝的多様性が維持
できる生息地を提供する。
4.文化的サービス・・・レクレーションや文化の発展、芸術的インスピ
レーションを得る。
次世代に生物の多様性を残すためには、保全のためにできることをして行くことであり森林を守る、寄付をする、研究、行政色々な立場での保全活動があります。
また、生物多様性の国家戦略で、基本法は生物多様性を阻害する四つの危機を示しています。
1.第一の危機・・・開発・乱獲の利用しすぎる危機
2.第二の危機・・・里山の放置などの利用しないことによる危機
3.第三の危機・・・外来種の侵入等、人間が何かを持ち込んでしまう危機
4.第四の危機・・・地球温暖化で世界的レベルでの気候変化の危機
中でも、このセミナーのテーマは第三の危機:外来生物の侵入です。

U 外来生物の問題
1.世界の侵略的外来種ワースト100、同様に日本の侵略的外来種ワースト100もあります。ブラックバス、ミシシッピアカミミガメ、繁殖力の強いグリーンワームそして意外なのは日本のわかめです。我が国や朝鮮半島でのみ好まれるわかめですが、船のバラスト水として世界の港に運ばれて繁殖しています。
2.侵略的外来生物による影響はどんなところで問題になっているのでしょう
か?

日本でも南西諸島・伊豆諸島・小笠原諸島の島嶼と陸上の池・湖・
川などの狭い面積の中で周囲から取り残された領域です。島嶼は面積が小
さいので、狭い所で生物が進化すると移動性が低く防御力が低くなります。
また、これらのエリアでは個体数が少ないので絶滅しやすい環境でもあり
ます。島は地球全体の5%しかなく、しかも鳥類絶滅種の83%は島嶼で
起きています。

3.余談ですが、オーストラリア大陸以上の大きさの陸地を大陸とし、それより面積が少ない陸地を島と表します。また、この島は二つに分類できます。
A.海洋島(小笠原諸島)・・海洋プレート上にあり、海が深く孤立する。
  地上哺乳類は遠くまで泳げない。捕食者であるキツネ・イタチ・テンは海洋島にはいない。海洋島では生態系が簡単で種が少ない環境になっています。
B.大陸島(本州・沖縄)・・大陸プレート上にあり、海面レベルの上下で      
  陸続きになる可能性が大きい。

V 世界自然遺産/小笠原諸島をモデルとして侵略的外来生物の影響を観察しま
す。
1.小笠原固有種の鳥類は四種(メグロ・オガサワラカラスバト・オガサワラガビチョウ・オガサワラマシコ)で長い時間をかけて進化し、島の環境に適合していると考えられます。メグロ以外は既に絶滅しています。
2.メグロはメジロより一回り大きく、小笠原村のマークになっている絶滅危惧種IBで約15000羽が生息していると推定されており、個体数は決して多くありません。本州では、木の幹にキツツキ、地上にツグミと空間を分割利用しているが、小笠原ではメグロは競争者や捕食者がいないので全体を使って生きています。
さて、メグロは母島・向島・妹島にのみ生息しているが、DNA分析で島ごとに独自の遺伝的パターンがないかを調べました。そうするとミトコンドリアDNAに、母島や妹島にしかない配列が見つかり、島間の移動がほとんど生じていないことが分かりました。
 島という環境では、しばしば移動性が低下することがあり、メグロもその
典型例と言えます。

W 小笠原諸島の外来種生物対策
1.聟島列島でヤギ被害
  人間が持ち込んだヤギが、森林そして草原化した小笠原固有植物を食い荒 
  らした上、荒れ地になってしまいましたが、ヤギの根絶対策を施した結果、オナガミズナドリなどの海鳥が増加しました。
2.東島でクマネズミ
  クマネズミはもともと植物食を中心とした雑食性であったが、海鳥を食べ
るようになってしまっていたのです。ネズミ駆除の結果、海鳥の営巣が増
えました。
3.トクサバモクマオウ(オーストラリア原産の植物)
  落葉が10pもたまると他の植物が生息できないし、しかも土地が乾燥しま
す。トクサバモクマオウを駆除することで、水分量が増加して在来種のウ
ラジオエノキが増加しました。
 
*外来種はなぜ増えるのか?移入先には、もともとの生息地にいたはずの天敵がいないため、増加しやすい場合があります。また、進化の歴史が違うことで強い競争力を持っている生物や、低コストで生きられる生物は侵略的外来種になりやすい性質を持っています。

X 外来種の駆除には良いことも悪いこともある
1.算数では1プラス1−1(駆除)=1で元に戻ると考えられるが、生態系ではそうはなりません。駆除の影響から違った生態系になることもあります。そんなことで駆除でなく、侵入を防止することが生態系の保全には肝要です。
*トクサバモクマオウを駆除したら生物多様性は回復したが、その葉がカタ
ツムリの絶好の隠れ場所となっているような場合もあります。
*また、ネズミを駆除するとネズミを捕食している在来種のオガサワラノス 
 リ(鷹の一種)の生存が危惧されます。

2.外来種対策は生態系に対する影響があるからやるのだが、不測の事態が起きることを恐れすぎては駄目でしょう。何が起きるか予測して、特定種の排除・保護を目的とするのではなく、在来種による安定した生態系を作ること・保全することが上位に位置する目標であります。

3.定着した外来種は、生態系の中で機能を持ちます
A.外来生物対策
sem201811201.png

B.外来種生物問題の変遷
   STAGE1 認識外
   STAGE2 問題の認識
   STAGE3 対策開始
STAGE4 新たな課題
  以上、外来生物対策は「悪対善」の図式で考えるものでなく、もっと複雑な問題であります。大切なことは種間作用をキチンと把握して、生態系全体で考え対処することであろう。
sem201811202.jpg

質疑応答
1.メグロに興味があります。メグロのご先祖は遠くへ飛べない姿だし、海鳥 
でもない。何百キロもどうして飛んだのか?また、もしくは、フィリピン・プレートの上に島が乗っていて、昔はもっと南に位置していたのか?
答:鋭い良い質問です。フィリピン・プレートは少しづつ北に向かって動いています。プレート上の島はもっと南にあったと考えられます。
 サイパンに居るオウゴンメジロはメグロの祖先に近いもので、メグロは南方起源と考えられます。カワセミが1000キロも飛んで小笠原諸島にやってくることが確認されているので、小さい鳥でも頑張って飛べるのです。
sem201811203.jpg
2.飛翔力のある鳥がどうして北と南を往来しないのか?(渡りをしないのか)
答:渡り鳥の進化は食べ物の量に影響を受けます。北の方は寒くなると、昆虫が動かなくなり、両生類・爬虫類は冬眠します。小笠原諸島は亜熱帯で食べ物が豊富だから渡りをする必要がないのです。この「渡り」というのは鳥にとってリスクのとても大きいことです。行ったことのない所へ渡って、食べ物を新たに見つけそして危険を冒して戻ってくる。そんな危険な渡りをしない方が生き残りやすくなるのです。海洋島だから渡り鳥がいないのでなく、亜熱帯で季節的な変化が小さいから渡りをする必要がないのでしょう。

3.小笠原諸島の200〜300年前と現在、そして200年後を考えると、進化を
止めているのでないか?
答:人が持ち込む外来種が生態系の脅威となっているので、これを管理するこ
とは自然の進化を止めることではありません。また、全ての外来種を管理す
るのは現実的には不可能で、対象となっているのは侵略的な外来種のみとな
ります。 
 ただし、小笠原は世界自然遺産なので、基本的には生態系に対する人為的干
渉は最低限にすべきと考えられます。また、保全の目標となるべき人間が影
響を与える以前の環境はわかっていないので、在来種を中心に自律的に維持
される安定した生態系を目標に、保全が進められています。
                                以上
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介