2019年03月19日

EVFセミナー報告:福島第一原発の廃炉技術とロボット−廃炉作業ロボットの研究開発の現状と課題−

演 題 :福島第一原発の廃炉技術とロボット
   −廃炉作業ロボットの研究開発の現状と課題−

実施日:2019年3月19日(火)
講師:新井民夫氏:技術研究組合・国際廃炉研究開発機構(IRID) 副理事長、東大名誉教授
開催場所:NPO法人新現役ネット会議室;〒108-0014港区芝5-31-10サンシャインビル
   
1.講師略歴:
・福島第一原子力発電所廃炉事業の技術研究開発を担う国際廃炉研究開発機構(IRID)の設立時(2013年)から副理事長に就任し、ロボット技術、設計システム、人材育成を中心に機構の運営に携わっている。
・1970年に東京大学工学部精密機械工学科を卒業、1977年同大博士課程修了、工学博士。
・複数移動ロボットの協調制御、クレーンとロボットによる重量物ハンドリング、ホロニック自律分散生産システムの研究など生産システム研究を進めた。
・2000年より東京大学人工物工学研究センター長としてサービス工学を提唱した。
・2008〜10年精密工学会会長。
・2012年、東京大学名誉教授。
・2012〜16年サービス学会を設立、初代会長。
・日本学術会議会員(第22〜23期)。
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2.講演まとめ:
2011年3月11日に発生した東日本大震災により福島第一原子力発電所の3つの原子炉では全電源を喪失し、結果、炉心溶融が起こり、これに加えて水素爆発が発生した。これらの炉を廃炉にするには、内部の状況調査、放射線量測定、除染、がれきの除去、燃料デブリの取出し、解体という一連の作業が求められ、人が近づけない高放射線量過酷環境の中でも働けるロボットの開発が必須である。
この講演では、事故炉の中で放射性物質の閉じ込めを確保しながら、遠隔操作で数百トンにもおよぶ燃料デブリの取り出しから、収納・移送・保管までを実行するロボットの開発の現状と展望について、ビジュアルな資料を用いつつ語っていただいた。
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3.講演概要
(1)IRIDの発足
2011年3月に炉心溶融を起こした東京電力第一原子力発電所の3つの原子炉は廃炉とすることが決められている。そのため、溶融燃料並びに燃料と周囲の物質とが入り混じって固まった燃料デブリを取り出さなければならない。この技術課題を解決するために、2013年に「廃炉技術を集中して研究開発する技術研究組合(IRID)」が発足した。IRIDのミッションは次の3点にある。1)世界に例のない原子炉内の燃料デブリ取り出しロボットの技術研究開発、2)長期に亘る廃炉事業の技術維持・発展のための人材育成、3)廃炉に関わる世界の英知を結集するための国内のみならず海外の研究機関との技術交流・技術協力の推進。

(2)廃炉作業の特徴
・過酷環境下、かつ未踏分野での仕事であり、開発の⽴案と変更の機敏性が求められる。
・多分野複合技術が要求され、多方面の⼈材参画と連携作業が必須である。
・長期に亘るダイナミックな計画と、それに関わる⼈材育成と開発技術の実用化が必須。
・廃炉は社会的課題であり、研究開発は国の仕事である(全体的に宇宙開発との類比)。

(3)廃炉の手順
廃炉の手順は通常なら下記の手順で行われる。
1)使用済み燃料の搬出、2)炉設備の系統除染、3)一定期間の安全貯蔵で放射能減衰を待つ、4)建屋内部の炉等の解体撤去、建屋除染、5)建屋解体、燃料は譲渡、汚染物廃棄。6)建屋内部からの廃棄物処理処分。
しかしながら、福島の炉は通常ならざる状態であり廃炉工事内容と手順を策定するためにも、まずロボットによる内部状況の調査から始めなければならない。そして最終的な炉解体工事に至るまで、全面的にロボットの活用に依存せざるを得ない。

(4)ロボットに求められる要求とロボット開発
1)ロボットの開発目的は現場観察、環境測定、燃料デブリサンプリング、燃料デブリ取り出し、等々多岐に亘り、それぞれで要求される機能、性能、大きさ、パワーが異なる。
2)高放射線環境での作業のため、電子機器を長期間使用することが出来ない。また、無線の信頼性が低いため、電源供給をも含めた有線による遠隔操作ロボットとなる。しかし、有線では高度なケーブルマネージメントが求められる。
3)炉内では、炉内構造物の落下、瓦礫、たまり水等の障害物があり、外部から遮蔽壁を通って、炉内作業ポイントまでのロボットの持ち込みに、移動の確保が必要となる。
4)使用場所、使用目的に合わせた駆動機能、形状変化機能、運動機能が必要であり、開発が進んでいる。
・クローラタイプ・ロボット(階段、段差、ガレキ走行等の高い運動機能を持ち、映像撮影、環境モニタリング、軽量物のハンドリングに威⼒を発揮する。)
・磁気吸着移動ロボット(磁力で鋼鉄製壁面に吸着し、移動可。サプレッションチェンバ(S/C)やベント管上の漏えいなどの調査を⾏うために開発。)
・⽔上ボート(漏洩箇所調査用)
・⽔中ロボット(トーラス室壁⾯の⽔没したペネ貫通部の漏えいを調査する。超⾳波ソナーによるドップラ計測機能を装備。)
・今までは、炉内調査のため、外部から炉内へ小径の貫通穴(ペネトレーションと呼ぶ)を通過でき、内部で運動性能を発揮できる超⼩型ロボットを開発してきた。今後は耐放射線性、保守性、環境に応じた駆動⽅式を有する重作業のできる⼤型ロボットの開発が必要となる。

(5)現在までに行われた原⼦炉格納容器(PCV)内部調査
・(1号機)溶融燃料は、ほぼ全量が圧力容器(RPV)下部へ落下、炉⼼部には殆ど燃料が存在せずと推測。⇒・燃料デブリのペデスタル外側までの拡散の可能性から、ペデスタル外側の調査を優先。形状変化型ロボットを使用。グレーチング上を移動し、カメラ付き線量計を⽔⾯下に投⼊して調査。降下ポイントの⾼さ⽅向の線量率分布、地下階床⾯の燃料デブリの広がり状況の確認。
・(2号機)溶融した燃料のうち、⼀部は下部プレナムまたは又は格納容器(PCV)ペデスタルへ落下。燃料の⼀部は炉⼼部に残存と推測。⇒ペデスタル外側までの拡散の可能性低く、ペデスタル内側の調査を優先。クローラ型遠隔操作ロボットを使用。CRDレールを経由して直接ペデスタル開⼝部へ侵⼊を試みたが、粘性の高い物質のためとの干渉のため、途中停止。先立つ長尺竿先に付けたカメラによる画像では、ペデスタル底部の全体に,⼩⽯状・粘⼟状に⾒える堆積物を確認。燃料集合体の⼀部(上部タイプレート)がペデスタル底部に落下しており,その周辺に確認された堆積物は燃料デブリと推定。
(3号機)溶融燃料の存在形態は2号機に近いと思われる。PCV内の⽔位が⾼く、水中遊泳型ロボットを使用。着⽔後、潜⽔によりペデスタル⼊⼝から内部へ入る。底部に砂状、小石状の堆積物を確認。

(6)今後の展開・課題
IRIDの研究開発プロジェクトとしては次の3分野に関して、合計15プロジェクトが進行中。そのうち、9プロジェクトはロボット技術がベースになっている。
(1)燃料デブリ取り出し技術、(2)圧力容器補修、止水技術、(3)炉内調査、分析、評価技術

福島第一原発の廃炉は、人類が未だ踏み込んだことのない社会的・技術的分野であり、多分野複合技術とリソース(人材・予算)を必要とする長期プロジェクトである。この未踏分野における複雑かつ巨大システム技術を持続的進化させるためには、その考え方の基盤において、「認識科学」と「設計科学」を融合させながら推進することが重要。「認識科学」として観測⇒分析、その結果を使っての「設計科学」としての設計⇒適用があり、これらが循環することで持続的にシステムの進化が進む。

(7)講演の最後に講師は「君に何を期待するか」と若い人へのメッセージを発信された。
・福島第一原発の状況を科学的に理解せよ。
・社会の技術としての科学技術を広く眺める⼒を持て。同時に、社会科学的視点を理解せよ。
・部分最適化を避け、全体最適化を図れ。多分野複合技術者たれ。
・未踏分野の技術成功率は低いことを理解せよ。そして、技術の適⽤、失敗、その後の対応を深く考え、失敗例を的確な情報として残せ。

そして、「廃炉は世代をまたいだ⻑期事業。理解し、記憶し、⼿助けしよう」と呼びかけられた。

質疑応答
Q1;廃炉の達成は大変に難しそうであり、ダメな場合は、石棺もありうるか?
A1;ないと思う。国は石棺という手段を選択しないように考えている。
Q2;作業環境から無線は適さないとのことであるが、放射能耐性の高い材料もあると思うが?
A2;宇宙用にICが開発されているが、価格が高い。つまり、実用的な電子機器が使えるかどうかである。材料的には可能性がある。
Q3;IRIDは技術研究組合法に基づいての設立で、活動期間は10年と聞いている。プロジェクトの長さを考えると、それでは困るのでは?
A3;福島第一原発の廃炉技術開発をオール日本の態勢で立ち上げる必要があり、技術研究組合という枠組みを使った。組合故、時限で設置している。しかし、それで終わることはなく、必要に応じて、形態は変わっても何らかの形で技術開発の継続がなされよう。
Q4;お話の中で日本では技術伝承がないとおっしゃったが、自分の経験ではそうではなかった。
A4;一般論としては、日本はシステム的な技術について伝承が弱いと思う。また、日本ではリスクアセスメントが弱い。原子力はリスクに敏感な産業だけに進んでいると思っていたのだが、実際にはそうでもなかった。
(文責:橋本升)
講演資料:福島第一原発の廃炉技術とロボット
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