2019年05月23日

EVFセミナー報告:人工知能の光と影

演 題 :「人工知能の光と影」

実施日:2019年5月23日(木)
講師:室山哲也氏 日本科学技術ジャーナリスト会議副会長、大正大学客員教授/東京都市大学特別教授、元NHK解説主幹
開催場所:NPO法人新現役ネット会議室;〒108-0014港区芝5-31-10サンシャインビル

1.講師略歴
・1976年NHK入局。
・「ウルトラアイ」などの科学番組ディレクター、「クローズアップ現代」「NHKスペシャル」のチーフプロデューサー、解説主幹を経て、2018年定年。
・科学技術、生命・脳科学、環境、宇宙工学などを中心に論説を行い、子供向け科学番組「科学大好き土曜塾」(教育テレビ)の塾長として科学教育にも尽力した。
・モンテカルロ国際映像祭金獅子賞・放送文化基金賞・上海国際映像祭撮影賞・科学技術映像祭科学技術長官賞・橋田壽賀子賞ほか多数受賞。
・日本科学技術ジャーナリスト会議副会長。大正大学客員教授。東京都市大学特別教授。
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2.はじめに
人工知能は、急速に人間の脳に肉薄し、やがて独自の意識を持ち人類を支配するのではないかと心配する科学者まで現れている。いまや、世界規模で医療経済教育社会に大きな影響を及ぼす人工知能。元NHK解説主幹であり、日本科学技術ジャーナリスト会議副会長である室山哲也氏に、人工知能について明確に解説していただいた。

3.講演概要
すべては脳が作った!
人間の脳は、おおざっぱに言って、体のセンサーからの情報を脳の後ろ半分に入力し、前半分で運動野などを経由して体に情報を出力し、運動している。人類(ホモサピエンス)は20-30万年前に出現し、肉体の弱さを、二足歩行で脳の巨大化を支え、脳の知恵を武器に生き延びてきた。その結果さまざまな道具や機械を作り、肉体の能力を拡大してきた。見る機能は望遠鏡・顕微鏡で、話す機能は拡声器や放送通信で、動く機能は自動車や飛行機ロケットで、そして今や考える機能をコンピューターを使って拡大してきた。その文脈でAIが出現したわけであり、ある意味で必然的現象ともいえる。

人工知能(AI)とは
従来のコンピュータは、何に注目するかは人間が決め、それに従って作動してきた。AIのひとつ、ディープラーングなどは、人工知能がなにを注目すべきかを探ることができるようになってきた。とはいえまだまだパーフェクトではない。
ヒトの脳には3匹の動物が住んでいると言われている。生存を司るワニの脳、感情を司る馬の脳、最後に知能(知性)を司るヒトの脳である。AIは脳の働きのうちの知能(知性)の一部を実現した。囲碁や自動運転、病気の診断等特に知能の一部を特化して人間の能力をしのぐ優れた力を発揮する。また人工知能が小説や音楽を作ることができるともいわれているが、その内部にある意味を把握しているわけではなく、ものまねをしているだけということを押さえておく必要がある。

人間の脳とAIの違い
人間の脳はビッグデータなしでもなんとか問題解決が可能であり、しかもどんな領域でもほぼOK。これは脳が生きていると言うことであり生き物の不思議さである。
他方AIが活動するためにはビッグデータが必要。基本的には、ヒトがインプットした限りのデータをもとにしかアウトプットできず未知のことについては対応不可。ルールが定められている限られた領域で大変な能力を発揮するが、汎用性という意味ではまだまだである。。

さて本日のテーマの二番目として、AIの延長線で最近特に話題になっている自動運転について言及したい。
自動運転の前提知識
まず、自動運転とはなにか。自動運転のレベルは5段階ある。
自動車走行の動きの二つの要素、つまり「左右の動き」(ハンドル操作)と「前後の動き」(アクセルとブレーキの操作)がどれだけ自動化されているかで決まる。
レベル1は二つのうち、一つが実現した状態(自動ブレーキやACCなど)。
レベル2は二つが実現された状態。例えば、高速道路でボタンを押せば、車線を超えて車を追い抜くことも可能。レベル3はレベル2がさらに進化した状態で、基本的には、システムが運転するが、緊急事態が起きた時は、ドライバーが運転代行をする。
レベル4は限定条件(場所、時間、スピード、天候など)のもと、システムによる自動運転(ドライバーなし)が可能。
レベル5は、どこでもいつでも、ドライバーなしの無人運転で走行できる段階である。

自動運転の課題は?
結論から言うと、AIの進歩のスピードに、法律や人間社会のルールや人間の特性が追い付けない構図から、様々な課題が生まれている。
@法律問題
自動運転の場合、車線消失による事故、道路にゴミがあった場合の事故、ナビの地図未更新による事故等々のケースがあり得る。その場合、自動車所有者、メーカー、ナビなどの情報提供者、道路管理者など係る主体が多岐にわたるため、事故の責任の所在が判然としない。責任の所在に関して、法的責任はまだ検討中という状況である。
A人間と混在
社会のすべての車が自動運転になれば、交通事故や渋滞が減り、エネルギー効率も高まり、社会的利益は大きい。しかし、人間のドライバーと混在するとき、様々な課題が発生する。ドライバー同士ならコミュニケーションし合える短いクラクションの合図等、ニュアンスが複雑な状況を、AIではまだ理解できないといった問題がある。
Bレベル3の壁
レベル3以上は、システムが運転主体となる。しかし、システムが運転不可能な緊急事態が発生した時は、人間のドライバーに運転代行を要求してくる。この時の安全性をどう確保するのかが大きな問題となっている。解決のためには、AIが、常にドライバーの健康状態や意識の状況を把握して、ドライバーの状況に応じてサインを出すシステム(HMI)が必要になってくるが、実際にはまだ達成可能な領域に達っしていないのが現状。
C「トロッコ問題」といわれる究極の問題。
たとえば、無人走行中の車が、ハンドルを右に切っても左に切ってもだれかが死亡し、急ブレーキをかければ、車内の人が死亡するような場合、AIはどのように判断すればいいかという問題である。
人間のドライバーの場合、ケースバイケースでとっさに判断するが、自動運転の場合は、事前にその場合どうするかという判断をAIにインプットしておかなければならない。
この悪魔のような判断は、いわゆる「生命の選択」であり、事前には当然、社会的合意が必要となる。私達は、このような判断基準を、事前に決めるなど、日本社会が合意できるのかという課題も横たわっている。

AIをどう育てるか
AIで人間の仕事がなくなるといわれているのは、仕事をパターン化しやすい工場労働者やオフィスワークの事務等である。正解が難しい創造的仕事、例えば精神科医や広告ディレクター等は消えにくいと言われている。
「人間の雇用がAIによって奪われるのではないか?」「AIが人類を支配するのではないか?」といった不安はある。しかしAIは人間がデータをインプットして作り上げるモノ。「正しいビッグデータを与える」「プロセスの可視化」等によって人工知能を育て共存していかなければならない。
20万年前にホモサピエンスが誕生したが、19万年は狩猟時代で獲物はみんなで分け合い平等社会であったといわれている。そして1万年前に農業が生まれ200年前の産業革命により「大金持ち26人の資産が世界の下位半分の38億人の資産と同じ」という不平等な格差社会になっている。このような進化のプロセスも射程に入れて、人間と機械の関係を考える必要がある。豊橋技術科学大学 岡田美智男教授は人に頼る「弱いロボット」を開発し、ロボットやAIと人間の共存の仕組みを考えている。このような時代だからこそコミュニケーションの大切さ、「人間としての幸せとは何か」を研究しながら、人間とAIの共存の解を見つけていく必要があるのではないか。
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4.質疑応答
(1)Q1:AIが仕事をしてくれれば人間は何もしなくてもよくなるのではないか。
ヒトの仕事はなくならない。産業革命においてラッダイト運動という機械破壊運動が起こったが仕事はなくならなかった。アテネでは奴隷に働かせたが市民はそれなりの幸せを求めた活動をしていた。要は何が幸せかという問題。
(2)Q2:AIの時代に人間はどんな仕事をすることになるのか
  人間にしかできない仕事を模索する必要がある。
(3)Q3:アルファー碁などはものすごいエネルギーが必要としてるが、、、
  AIもエネルギー問題とリンクしている。AIを考えるときエネルギー問題も検討も必要。
(4)Q4:自動運転の時にサーバー攻撃からどうして守るのか
  心配ではあるが、専門家のヒトが考えて前に進んで欲しい。
(5)Q5:アシモフの3原則では3番目にロボット自らを守るとなっているが自動運転ではどうか。
  日本では議論されていないが議論を深めていく必要。

(文責:桑原
講演資料:人工知能の光と影
posted by EVF セミナー at 16:00| セミナー紹介