2019年06月27日

EVFセミナー報告:中国の一帯一路、そのバックにあるもの

演 題 :「中国の一帯一路、そのバックにあるもの 権力集中は何のため」
   〜さらなる相互理解のために〜


実施日:2019年6月27日(木)
講師:布施玄祥 中国/石油エコノミスト
開催場所:NPO法人新現役ネット会議室;〒108-0014港区芝5-31-10サンシャインビル

1.講師略歴
1949 奈良県生まれ、小中高と大阪  1971学生時代訪中
1973 出光興産入社 (神戸大経済卒・中国経済ゼミ)主に海外(原油輸入・事業計画)と販売業務 担当
1983-87 出光・北京事務所勤務
1993-96 出光・香港勤務
1996-98 メキシコ石油輸入協議会出向
2000-2007 大連出光中聯石油 勤務
2007-2009 経産省エネ庁シンクタンク(財)石油産業活性化センター(現(財)石油エネルギー技術センター)出向
2009末 退職 北京に在住(石油エコノミストとして研究調査、経営コンサル、講座講師など)
2016 拓殖大学 「世界の中の日本」講座 客員教授 就任
〜2019 各所での講演、調査支援など多数
2019全国石油商業組合連合会上海モータ−ショウ視察にアドバイサー招請参加
   石油化学工業協会講演
*趣味:中華グルメ(ラテン&シーフードも)、車評論
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2.講演の概略
講師の布施氏は、元出光興産勤務で、その折3度合計13年間中国大陸に駐在(北京・香港・大連)。2009年勇退後、北京に在住し、石油エネルギーを中心とし中国経済の観察をしている。同氏には3年前にEVFセミナーで講演、今回が二度目となる。
今回のご講演では、現場感覚での中国の実態をお伝えするとともに、大きな政策である一帯一路の背景にある、一党独裁的な権力集中を成し遂げつつある政権トップに垣間見える古代からの中国意識から我が国としての対応を考えたいとのこと。例えば、バスの中のスマホで熱心に乗客が見ているのは大半がトランプが悪いと言った内容(=今後予想される経済後退は中国政府が悪いのでない)であるし、文革によっても消えなかった儒教・道教・仏教など中国人の信仰の篤さや中国の伝統を肌身感覚で伝える、などであった。
一帯一路で個別にどうこうなったという話はしない。「近き者説(よろこ)び、遠き者来(きた)る」(論語)の文脈でお話したい。中国を理解するために、出来上がった事実とその背後にある中華文明論を織り込んで中国理解を進めるというものであった。

キーワードは7つである
(1)中華文明と四書五経 中国を知る手掛かりであろう
(2)中国の夢 宋の時代は世界の60%GDPシェアーであった。しかも、 人口は50百万人(鎌倉時代の日本は7.5百万人)漢族の作った最強の国への復帰をイメージしている。
(3)一帯一路 BRICS+上海協力機構+中国アフリカ会議+AIIB
(4)海洋大国 軍事化 (牛の舌+真珠の首飾り)
(5)中国製造25 AIを活かしたインダストリアル4.0
(6)中国独特の社会主義
(7)「徳」を説く習近平主席
 
 講演内容のレポートは、(5)(6)(7)の項目については別途項目を設けずに、全体の中で消化した。
以上、講演は120分近くに及んで活発な質疑応答で終えた。

3.講演の内容
3−1概略
中国は2001年にWTOに加入後、国際貿易の中では一人勝ちである。
1990年の中国のGDP世界シェアーは1.7%(日本13.7% 世界第2位)、2017年のそれは15.0%(日本6.1% 世界第3位)である。この間、中国の名目GDPは日本の2.5倍になった。
人口で見ても中国は三国一(中国・インド・日本)の桃太郎でもある。2015年で世界188ケ国=72億人のうちアジアの人口は54.3%で、中国が抜き出て14億人もいる。
結果として、中国の強い経済は米中貿易戦争を惹起して、東洋思想対西洋思想もしくは農耕民族対狩猟民族の対立と言われるまでになっている。
  
3−2中華文明と四書五経・・・中国を理解する基本として
中国的発想には世界の非常識=中国の常識と言われることもあるが、人類の知恵は中国の知恵でもある。布施先生のレジメには、中国理解のためのプリゼンが並びます。
大数原則・・・経験を山ほど積んで上達する。作りまくった製油所建設技術は世界一・新幹線技術・原発は第四世代で欧米の技術を完全体得。
漢字・・・・・「財経」雑誌を漢字で読むと一ページ、日本語にすると五ページ。
日本の当用漢字が1200字に対し、康煕字典は47000余字の多彩な表現力と簡素な構成の点が漢字の特徴。
世界の四大文明で言葉が残ったのは黄河文明の漢字のみである。
漢字の知恵・・田中角栄と周恩来のやり取り 「言必信、行必果」行ったことを守るだけでは小人で、実行してこそ大人の意
四書五経・・四書:論語・孟子・大学・中庸   儒教・政治の基本で科挙の原点 
五経:詩経・易経・礼記・書経・春秋 
儒教・・・・仁・義・礼・智・信 (参考:中国の人脈世界は地方政府+地縁+血縁が要素である)
科挙・・・・・598〜1905年まで行われた官僚登用試験で儒教を学ぶ
中華思想・・・中国を世界の中心に据え、遠方に済む民族を野蛮人とする。しかも、普遍性を持つ中央の文明を夷狄の地で教化していくことをミッションとする。
華外の地:台湾・沖縄・朝鮮半島・新疆・チベット 
余談だが、中国との軋轢回避して、日中協力関係を築く私案がある。南・東シナ海を地中海的入会地として、周辺国が共同利用する。元々、北京中央政府と折り合いの悪い広東省と福建省は、それぞれ香港及び台湾を橋渡しさせる。
中国人・・・・日本人との違いは2点で、強烈なリアリズムと自己防衛本能
中国人の強烈なリアリズム  対語は安っぽいヒューマニズム
生きることに大変熱心で、桜花のようには散らない。
そんな人を御する方法・・・時には強権を用いる必要がある。
ただし、強権行使には徳は必要条件
日本的な死ぬまで戦うことが理解できない
究極の人民民主主義の実現には
1.人民を強く抑え込み
2.人民に適度のガス抜きをさせ
 3.人民の地雷を踏まず
4.人民の一致団結はさせない
中国人の強烈な自己防衛本能

賄賂とパクリの中国的解釈・・・中国の伝統では肯定的側面もある。
賄賂は安易で合理的な受益者負担の考え方
パクリも経験の積み重ねで成り立っている漢方の世界や儒教百家争鳴では相互の切磋琢磨する競争の世界がある。また、現代の深圳のソフトウエア―会社ではお互いが手の内を見せあって技術・技量を磨いている。

「学び」は「真似び(まねび)」であり、真似ることが中国の文化であろうか。
「日本と中国」GDPの正規分布概念図を見て欲しい。この分布図を貧富もしくは能力分布とみても良かろう。中国にはA・Bに属するどうしようもない層が幅広に存在しているに対し、究極のリーダー層もいるのが中国だ。絶対数はかなり多くの賢く・リッチなリーダー層が存在する。
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3−3中国の夢
地球の中心は中華の地であり、中国の狙いは漢民族が最も繁栄した宋時代への回帰
で、モンゴル族の元や満州族の清でもない。漢族王朝の宋時代は人口で50百万人、
GDPは世界の60%を占めていたと言われる。そのような世界及び世界の繁栄を中
国主導で再度作り上げたいというのが「中国の夢」であろう。

3−4一帯一路
(1)一帯一路
 2013年に習近平が提唱し、世界150ケ国以上が参加。海と陸でヨーロッパと中
国が結ばれる広域経済圏構想である。確かにスリランカのような債務の罠が生じ
たことはその通りである。
 勝つか負けるかのゼロサム・ゲームでない「ウィン・ウィンの関係」を目標。
 下記の三者が重要な構成者である。
  中国アフリカ協力会議 向こう50年のアフリカのGDP成長率期待。
    中国製原発をてこに、シンガポールのようにクーラー天国化をすると資源もあるアフリカであり世界経済工場の礎になる。
  BRICS ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ この5国で世界人口4割強
  上海機構 陸の一帯一路でシルクロードに沿う8ケ国 中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン、ウズベキスタン・インド・パキスタン  2001/6設立
一帯一路裁判所 西安で設立 「国際商事裁判所」 2019/5/29
 「フェアネッス」「プロフェッショナリズム」「コンビニエンス」の標語を唱っているが、中国人裁判官のみで公平な裁きができるか?
思想の背景:近き者悦び(よろこ)び、遠き者来(きた)る」(論語)

(2)中国国内経済発展の跛行性から中所得国の罠は出現しないだろう。
      各省のGDPを国の規模でとらえてみる。
山東省・江蘇省=スイス  北京=フィリピン
      広東省=インドネシア   マカオ=パナマ
      香港=エジプト
中国はまだらな発展をして、先進国・発展途上国・後進国で成り立っている。
 (3)経済発展の重視から全面発展の段階は4人の指導者が登場した。
   1992年 ケ小平 先富論 チャンスを掴み続け、思い切った改革を成し遂げよ。
   2002年 江沢民 小康社会 いくらかゆとりのある社会 朱鎔基が有能
   2007年 胡錦涛 和諧社会 調和の取れた社会 大気汚染の抑制・平等
   2012年 習近平 政治面の習、経済面の李克強とバランス
   ともかく経済政策面では正しいマクロ選択がなされた。四代にわたるブレない経済政策を続けたことは称賛できる。
(4)一極集中
順調に成長した中国経済だが、習近平=中国共産党への一極集中が課題である。
問題は権力の一極集中は腐敗を招くかある。権力の最大の物は「中国共産党とそれが牛耳る国家財政で、数百兆円が意のままになる。健全な精神を持った強権なら理想的な運営ができる。一極集中により理不尽な抵抗勢力を抑え以下に述べるような「正しいこと」ができる。つまり環境改善や汚職追放ができる。そして今までできなかった「善いこと」が進行している。
習主席は習大大(毛主席と同じ尊称)と呼ばれることを拒否している。
   環境汚染対策がうまく回っている
 汚職追放 虎もハエもたたく
   やくざ社会一掃
   地方債務の圧縮
 軍務の横暴を退治
   貧困層支援対策
   国営企業改革
   一帯一路・中国製造25・中国の夢・海洋大国推進の一連施策は、
世界の貧困層をGDPベースで引き上げることを意図しているのでないか?
(5)環境に見るキーワード
権力一極集中だからできる大転換の環境保護対策
国務院のスピーチライター楊偉民氏に接触する機会があった。同氏は謙虚で、中国の最近の四大発明はすべてパクリであると認識して、これを脱した中国オリジナルの発展が必要と説く。経済成長を犠牲にして も善政が大事だ。「善政=善いこと」とは汚染対策だ。環境汚染改善は   
環境査察チームによる地方巡回
       ドローンを利用した環境観察
       汚染工場の強制移転・閉鎖
       地方幹部の評価基準の強化などである。
中国は習近平の発言にある通り、世界ではそれを放棄したトランプ氏に代わり温
暖化防止の旗手、自由貿易の旗手でもある。
参考:中国古代の四大発明:羅針盤・火薬・紙・印刷
    中国最近の四大発明:eショップ・レンタバイスクル・キャッシュレス・新幹線



(6)中国の石油 
今は石油と石油化学一体化の第三世代製油所の時代で先進的である。燃やすためだけでなく、エチレン・プロピレンの石化製品材料への転換が進んでいる。
石油精製能力は世界第二位で15,655M b/d(2018年)は、日本の4.7倍であるが原油は約72%が輸入である。中国シェールガスの埋蔵量は世界一だが、インフラのない僻地に存在し、技術を要する深い地層にあることや、水圧破砕に使われる水の大量確保が困難で実際の生産には距離がある。

また、上海モーターショーでの印象だが、EV化は一服したのでないかと感じられた。石油屋の目から見て、軍事用の石油(ディーゼルや航空機用)を確保するためには、連産品であるガソリンの需要を一定量保持する必要があり、現在も量的な余剰現象が起きているのでないかと見ている。
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3−5海洋大国 軍事化 
南海の牛の舌(九段線)・インド洋の真珠の首飾り(スリランカ・パキスタン)・西太平洋のハワイ以西・東海の尖閣諸島が中国の防衛線。中国の覇権主義は、イスラエルのシナイ半島やヨルダン川西岸ガザ地区に対してのトラウマと同じで、放っておいてはエルサレム本体を侵略される意識に近い。
中国は石油の70%以上を輸入に依存して、その60%がホルムズ海峡及びマラッカ海峡を通る。
中国海軍は「近海防御」戦略で、南シナ海など近海の海上航行を確保し、遠海護衛戦略として太平洋やインド洋に作戦展開する。これは、空母建造のみでなく潜水艦の活動範囲の拡大と民間船に加えた軍用船も利用できる海外での港湾建設も含んでいる。

講師は、一帯一路に対する我が国のスタンスとして、注意しておく点として以下をあげた。
(1)第三国支援について、中国との協働を是々非々でという安倍首相のスタンス中国は自民党/二階氏の北京会議出席を高く評価している。
(政府でなく、自民党である)
(2)第一回一帯一路東京フォラム(6月15日)では、一部「中国よいしょ派」の曲解させかねない言動には盲目的な一帯一路への追従、同時にAIIBへの加盟主張が見られるが、警戒すべきであろう。 AIIBの顧問に鳩山元首相がいるのではあるが!
(3)世界GDP向上のため、日中が南アジアやアフリカの潜在力を共同で掘り起こすことは、欧米にできない東洋の復権に繋がるだろう。
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質問1
ある自動車メーカーが数億円をかけて中国で排水処理装置を完成した。これを見て「日本人はなんと無駄なことをするのか。ここでは役人が水質検査に来る時、新たなコックを作っておき切り替えれば良い。」また、新疆ウィグル自治区の人が回教巡礼をして喜びの声を上げたという話も聞いたが一方では多くの弾圧されている人がいる。こういった状況が心の芯から変わっていくことがあるのか?
〜布施先生
 虐げられた人が存在する強烈なリアリズムの世界がある。日本人は、「TOO MUCH」に遵法するところがある。上海で儲けられない漢族が、一旗揚げるために新疆やチベットに行ってそこに住む人を虐める。新疆・チベットの人は漢族が大嫌いで、宗教的(中華思想・回教・チベット仏教)な軋轢も大きい。お互いが非寛容だ。チベットでは、鳥葬の有様を日本人には見せるが漢人には見せない。

質問2
 中国は毛沢東の築いた共産主義が残った。ロシア共産主義もなくなり、中国共産党のパワーを感じる。この点についてどう思われるか?

〜布施先生
 中国共産党の強権が凄いし、プーチンの比でない。中華思想では、正しい王様が中央に座っている。インドがそうであるように、レベルの低い人に一票を与えてしまったという恐怖心がない。中国の人民は、今の共産党を信じているが共産主義を信じているわけでない。この意味ではマルクス・レーニン主義をパクった中国王政という似非共産主義と思う。

質問3
 香港について尋ねたい。中国は人民が13億人、監視カメラが25億台といわれている。習近平さんの徳を重んじる政治との整合性はあるのか?

〜布施先生
 香港人のマジョリテイはそれほど中国化に抵抗がない。中国の繁栄と資本主義との「とりもち」で利益を得ることを身に染みて知っている人たちだ。カメレオン的な生き方だ。
 また、ハイテクを活かしたコントロールに対しては、エリート層は深刻に考えていないし、中間層は「上に政策あれば、下に対策あり」と対処するだろう。上海デイズニーランドは顔面認識だし、中国人の識別も顔面認識になるらしい。慣れてきたら慣れるのでないか。
(文責:羽岡)

講演資料:中国一帯一路
posted by EVF セミナー at 15:00| セミナー紹介