2019年11月28日

EVFセミナー報告:これからのエネルギーとCO2活用への道

演 題 :これからのエネルギーとCO2活用への道
講  師 : 保田 隆 様 日揮グローバル株式会社シニアーフェロー
開催場所 : 品川区立綜合区民会館「きゅりあん」大会議室
開催日時 : 2019年11月28日(木)14:30〜17:30
 
1.講師略歴: 
・1982年 東京大学工学部反応化学科卒業、同年 日揮株式会社入社
・2003年〜2009年 リファイナリー、ニューエネルギープロセス部長
・2009年〜2014年 執行役員、技術統括担当役員(CTO)、技術開発本部長
・2014年〜2016年 常務執行役員、プロセス技術本部長
・2016年〜2018年 常務執行役員、インフラ統括本部長代行、技術イノベーション本部長
・2018年 日揮株式会社 顧問、日本エヌ・ユー・エス株式会社特任顧問
・2019年 日揮グローバル株式会社シニアフェロー、日本エヌ・ユー・エス株式会社シニアフェロー、日本メタンハイドレート調査株式会社(JMH)取締役、JCOAL評議員、石油学会理事など

2.講演概要:地球温暖化問題から今世紀中の「炭酸ガス排出実質ゼロ」に向けて、世界は脱炭素社会へ大きく舵を切りつつある。化石燃料に制約が課せられる一方、再生可能エネルギーや水素社会への転換が求められている。講演では、これからの世界におけるエネルギー問題と言う複雑なシステムを次の観点から問題を掘り起こし、将来展望が語られた。
〇現時点でのエネルギー各論
〇脱炭素社会から要請される各種のエネルギーのあるべき姿
〇低炭素・脱炭素社会を誘導するために新しく生まれつつある世界における金融・財政的仕組み
〇脱炭素社会創設のキーワードである「CO2の活用の道」
現代世界における最重要課題の一つである地球環境問題の根幹をなす「密接不可分なエネルギーと炭酸ガス問題」の現状分析、解決への道を技術的のみならず金融・財政的仕組みという観点からも縦横無尽に語り尽くされた感のある講演であった。
semi2019112811.jpg
3.講演内容:
(1)エネルギー長期見通し
今後20年間における世界的なエネルギー需要は30数%増加と見通されているが、一方環境意識から低炭素化が一層求められている。
個別エネルギーそれぞれの展望としては、再生エネルギーが全電源の半分を占め、化石燃料はエネルギー源として必要であるが、環境問題から天然ガス利用にシフトし石油、石炭等の化石燃料率は今後急激な低下を見る。原子力の需要も減少。
石炭は炭酸ガス問題からフェードアウト、石油は便利さから使い続けられるが、2035年頃までに需要がピークアウトすると見られる。
地球温暖化問題の深刻化から結果として世界的に再生可能エネルギーに頼らざるを得なくなる。化石燃料+CO2活用の道も探る必要がある。

1−1)LNG
世界的にLNG需要拡大(過去10年間で40%増加)最大の輸出国はオーストラリア、最大の輸入国は日本だが、中国、インドの輸入量アップが著しい。これからの20年間で産出量は倍増、アジア地域での消費量は世界の70%となる。一方、脱炭素問題から石炭同様座礁資産となる可能性もあり、バイオメタン、合成メタン、水素等への転換が求められる。
1−2)シェールガス
現在は、北米が生産の中心、これからは南米、中国等での生産が増加。米国は増産トレンド。
1−3)原子力
日本のエネルギー基本計画では2030年国内原子力発電シェア20〜22%としているが、達成は恐らく無理。中国、ロシア、新興国では伸びるがOECD国では撤退傾向。
1−4)再生可能エネルギー
今後最も増加するのは再生可能エネルギーである。2016年から2040年にかけて、水力を除いた風力、太陽光、地熱などの再生可能エネルギーの発電は2〜 3倍に増加すると予測。水力を含めると、一次エネルギー消費に占める再生可能エネルギーのシェアは2016年現在 の10.0%弱から、30%前後へと拡大。
再生可能エネルギーは自然任せで変動が大きい。従って、今後の課題として蓄エネルギーシステムの導入が必須であり、それらのコストダウンが再生エネルギー拡大の鍵。
再生エネルギーが普及するほどに、それらは分散エネルギーとなり、手軽に連続的に使うにはリチウム電池をはじめとする蓄電池の導入が不可欠となる。
1−5)水素エネルギー
水素は、脱炭素社会でのエネルギーとしての役割と同時に、炭酸ガス等を有効化学製品に転換するために必須のものである。
【水素を得る手段】化学反応によって化石資源や様々な化学物質から製造可能。
【水素エネルギーの運搬手段】水素製造場所から水素利用の場所までの移動のために、手段が必要。液体化、他の化学物質にくっつけて使用場所で分離する等々の方法あり。インフラ整備が課題。
【課題】これらの「手間」に掛かるコストの低減が課題。因みに、現状ではLNGが15円/m3に対し水素は100円/m3程度。少なくとも20円〜30円/m3にすることが必要。

(2)温室効果ガス削減とCO2活用への道
(2−1)パリ協定とそれをめぐる世界(含む石油メジャー)の動向
1)パリ協定(2015年):
・全ての国が温室効果ガス削減に取り組むこと。
・世界の気温上昇を産業革命以前の気温から2℃を超えない水準(1.5℃を努力目標)とする。
・今世紀中に世界の脱炭素化を図る(排出実質ゼロ)。化石燃料依存型からの抜本的転換。
・パリ協定達成のための必要CO2排出削減目標=2060年までに世界で年間300億トンを削減(2016年の世界のCO2排出量は323億トン、日本の全排出量=13億トン、日本の石炭火力排出量=2.6億トン、ガス火力=1.7億トン、石油火力=0.4億トン)。

2)パリ協定以降:
〇 欧米の動き
・EU環境理念主義とUS現実主義の対立
・欧州の施策=2050年にほぼ80%削減が目標。電力の脱炭素化へ。再生エネルギーへのシフト。石炭火力の停止。等々
・米国=パリ協定を離脱。温暖化ガス排出削減に係わる先進技術を展開し、世界のリーダーを目指す。CO2除去技術でCO2固定化の推進。
〇 日本の動き
・日本の長期戦略(2019年6月閣議決定)=脱炭素社会を目指し、2050年までに80%の温室効果ガスを削減。このため、革新的技術開発が必要。イノベーションを通じて環境と成長の好循環を目指す。
〇 石油メジャーの動き:
・株主、機関投資家、NGO等からの圧力もあり、石油に過度に依存しない経営体質への転換を急がざるを得なくなってきている。

(2−2) 温暖化問題とCO2活用への道
1)二酸化炭素削減技術
〇 CO2の利用や製造でよく用いられる技術用語を以下に簡単に解説する。
・【合成ガス】化石燃料のガス化や、触媒を用いて炭化水素を分解して得られる水素と一酸化炭素(CO)の混合ガス。さらにこれからアンモニア、メタノール等が誘導される。
・【FT合成】合成ガスから液体燃料を合成する。
・【メタネーション】CO2と水素からメタンを合成し、CO2発生の少ない燃料あるいは化学原料に転 
 換する。
・【逆シフト反応】CO2と水素からCOと水を作り、これを合成ガス原料とする。
・【部分酸化】炭化水素系燃料と空気の混合物を部分的に燃焼させる反応。水素に富んだ合成ガスが生成される。
〇 CCS:Carbon dioxide Capture and Storage:
発電所や工場排ガスから炭酸ガスを分離し、高圧で地中に圧入・貯留する。まだ開発途上とでもいうべき段階であり、世界的には大規模(年間80万トン以上)プロジェクトは10数件、処理される炭酸ガスは年間4000万トン程度にとどまる。日本では2019年11月22日に苫小牧で累積30万トンの圧入を達成した。
現状での試算では回収CO2トン当たり7300円と評価され、石炭火力では、kWh当り7300円となりまだまだ実用化には遠い。
・特殊な炭酸ガス固定法として、セメント製造時にセメントの半分以上を、CO2と反応することでCO2を吸収し固まる性質を持った混和材に置き換え、セメント製造時に排出されるCO2を大幅に削減する方法もある。
〇 CCUS:Carbon dioxide Capture、Utilization and Storage:
換言すれば、これはカーボンリサイクルである。CO2を回収した後に
・石油油田にCO2を高圧注入し、石油回収を行うと同時に地中にCO2を貯留。
・人工光合成(CO2と水素を原材料とし太陽エネルギーと触媒を活用し合成ガスを作る)の原料とし、さらに合成ガスから化学品を誘導する。水中の微細藻を利用し光合成で成長させ、これを原材料として液体燃料などを製造。

2)カーボンリサイクル
〇日本のカーボンリサイクル促進の動き:2019年1月ダボス会議で安倍首相がその重要性を強調。経産省にカーボンリサイクル室を設置。予算増加の動きあり、産学ともに推進機運にある。
ロードマップとしては、2030年までは回収技術の確立、その後普及品(ポリカーボネイト、バイオジェット燃料、コンクリート製品等)製造技術の低コスト化を実現し、安価な水素の調達が可能となる2050年以降は汎用品の生産技術確立を図る。
〇 カーボンリサイクルの中で、CO2を新しい燃料として転換するときに重要な働きをするのは水素であり水素コストがCO2用途拡大のキーとなる。
〇 水素製造コスト:水素製造法には各種あり、製造コストは原料コストに大きく依存するが、現状で製造コストの高いものから順に列記すると、水の電気分解、重質油の部分酸化、石炭ガス化、天然ガス中のメタンの水蒸気改質や部分酸化等々がある。いずれも、原料となる化石燃料および分解用エネルギーとしての電力コストにほぼ比例する。
水の電気分解の効率は既に充分高く、電解水素のコストダウンは既に限界に近く、他の方法での水素製造方法でのイノベーションがのぞまれる。

(3)まとめ(脱炭素社会実現のための世界の流れ)
〇 パリ協定の目標⇒今世紀中の「炭酸ガス排出実質ゼロ」に向けて、低炭素を軸とした現状から脱炭素を軸とした社会への転換のためには世界的な技術的イノベーションが必要になる。
〇 世界的な運輸・産業・民生・電力の各分野におけるCO2発生実態を定量的に把握し、次世代ないし次世紀まで持続させない技術とさらに生み出すべき技術を見極め、それらに必要な経済的側面も見極める必要があろう。
G20の要請により金融安定理事会が民間主導の気候変動関連財務情報開示(Task Force on Climate-related Financial Disclosure)を発足させた(2015年)。世界で567機関、日本で43機関が署名しており、パリ協定とTCFDとが密接に関連し始めている。
〇 財政面では、世界的には、ESG投資が進んでいる。これは環境(environment)、社会(social)、企業統治(governance)に配慮している企業(環境問題であれば、地球温暖化対策に取り組む企業)を重視・選別して行う投資である。世界的には2018年には3千兆円を超えている。
〇 <タクソノミー> EUのサステナビリティ方針に資する経済活動を分類したものであり、EUのアクションプランでは金融商品の基準や銀行の資本規制等、さらには機関投資家による投資などもタクソノミーのグリーンリストに基づくことが必要とされ、エネルギー関連では再生可能エネルギーは問題ないが、石炭火力は不適格とされている。
semi2019112812.jpg
Q&A
〇 バイオ利用のジェット燃料製造が世界でも複数試みられているが、展望如何?⇒技術的にはいろいろと進んでいるが、最終的にはコストが課題であろう。
〇 GTL(天然ガスからの液体燃料製造)の展望は?⇒ShellやSasolの技術が生かされ世界で商業生産に使われている。石油製品需要の減退傾向の中でGTLプラントのニーズは高くないと考えられる。CO2やバイオマスを活用した合成ガスからFT合成で液体燃料を製造するプロセスが期待されるが、コスト面ではハードルが非常に高い。
〇 CO2回収技術について⇒アミン回収が主流。コスト問題は装置規模との相関大。固体吸着・分離の方法もあり得る。
〇 ESG投資の見通しは?⇒世界的には確実に拡大しつつある。 
(文責:橋本 升)

講演資料:これからのエネルギーとCO2活用への道
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介