2020年02月26日

EVF総会記念セミナー報告:「日本文明とエネルギー」〜歴史と地形から見るエネルギー論〜

演題:「日本文明とエネルギー」〜歴史と地形から見るエネルギー論〜
講師:NPO法人 日本水フォーラム代表理事 竹村 公太郎氏 
開催場所:JICA市ヶ谷ビル セミナールーム201AB
開催日時:2020年2月26日(水)15:30〜17:30

1.講師紹介
  講師の竹村先生は神奈川県のご出身で、東北大学工学研究科 土木工学専攻(修士課程)を修了後、建設省(当時)に入省し宮ヶ瀬ダム所長、近畿地方建設局長を経て国土交通省河川局長などを歴任。2002年に国土交通省を退官後、公益財団法人リバーフロント研究所代表理事を経て、現在はNPO法人日本水フォーラム代表理事・事務局長。
  先生は一貫して河川、水資源、環境問題に取り組まれ、著書にベストセラーとなった『日本史の謎は「地形」で解ける(PHP文庫3部作)』『水力発電が日本を救う』などのほか、養老孟司氏との共著に『本質を見抜く力〜環境・食料・エネルギー』などの著作がある。
semi2020022615.jpg
2.講演概要:
  今日の話しはエネルギー論を地形で統一し、過去の歴史を見て今はこうで、将来はこうなるだろうと話しを進められた。
・なぜ、桓武天皇は奈良から出たか? なぜ、家康は江戸に行ったか?
・江戸のオイルピークと近代のエンジンは化石エネルギー(人類の歴史の奇跡の一つに日本の明治以降の近代化)
・これからの時代を近代化(膨張への対応)と考えれば、経済発展しても林業・農業・漁業が衰退し、国土が荒廃してしまうので膨張は続かない。
・日本の生き残り作戦で新しいダムを造れないなら既存ダムをどう活用(ダムに発電機を整備、ダムの運用変更、ダムの嵩上げ、ピーク発電)するかを考え、水力エネルギーは地方分散型でやっていかねばならない。
semi2020022614.jpg
3.講演内容
  先ず、滅びた文明(8文明:メソポタミア、エジプト、クレタ、古代ギリシャ、ローマ、ビザンティン、中央アメリカ、アンデス)と存続した文明(5文明:西欧、イスラム、インド、中国、日本)の違いを過去と現在の状況(森林率などの環境変化)スライドで判りやすく説明され、次いで360度緑に囲まれ真ん中に湖のある奈良盆地が日本の都になった背景を生命の源の「水」とエネルギーの源の「森林」というインフラ面から説明された。
  「なぜ、桓武天皇は奈良から出たか?」では歴史家の間には諸説があるが、先生は土木屋=インフラの観点から燃料や建築(祈念構造物)流域の毎年百万本以上の立木伐採で周りの山が荒廃し、大和川より何倍も大きく「水」と「木」が豊かな淀川流域にある京都へ遷都したと、今の奈良盆地からは想像がつかない説明であった。
  次いで「なぜ、家康は江戸に行ったか?」では宮廷、寺院、城などの祈念構造物のための巨木伐採(木材需要)進展により森林再生が困難となる時代変遷と秀吉による山地荒廃した関西から未だ文明の地でなかった利根川流域の手つかずの森林(エネルギー)が広がる江戸への移封の歴史面から多くのスライドで説明された。
いよいよ「江戸のオイルピーク」の話しに移り、江戸時代の耕地面積と人口変遷グラフや天領となった天竜川流域の木材伐採量の推移グラフなどと歌川広重の「東海道五十三次」に描かれた沢山の絵には東海道筋の山や丘に鬱蒼とした木々がないはげ山の景色を重ね合せて江戸末期には日本列島全体の森林が荒廃し、貴重なエネルギー源であった木材の確保が難しくなっていたとのことだった。
  「近代のエンジンは化石エネルギー」について、人類の歴史の奇跡の一つに日本の明治以降の近代化の話しが紹介された。ペリー提督の黒船来航を機に大政奉還、王政復古となり、政府が蒸気機関を横浜〜新橋に導入し、北海道、いわきと九州で小規模だったが炭鉱が開かれ、当時の規模では石炭は無尽蔵で、これを機に紡績や重化学工業が発展した。
第2次世界大戦前夜の石油産出分布図(1940年)が紹介され、当時の需要量400万klに対して供給量は30万klしかなく残りはアメリカに依存していた。当時は国内で木炭バスが走り、各地の山々ははげ山と化していた。昭和天皇独自録に「先の戦争は、石油で始まり石油で終わった」とあり、エネルギー可採年数(2013年)が石炭で約109年、石油で約53年、ガスで約56年、巨大油田発見の経年変化を見ると発見の中心が1960年代で、供給のピークは2020年と云われていた。世界のエネルギー自給率(2015年)では、第1位のノルウェーが677.4%、第2位のオーストラリアが235%、第8位のアメリカが85.0%に対して日本は第33位の6.0%となっていて、再生可能エネルギーで「日本は生き残れるか?」もう限界が見えてきたとの事。
 これからの時代を「近代化(膨張への対応)、」と考えれば、人、面積、時間の生産性を上げることであった。人の生産性を上げるには大量生産のための画一性、マニュアル化→人は都市に集中し、各地方の過疎化への原因となった。面積の生産性で都市集中→地方の衰退→多様性の喪失に、時間とスピードを上げるとエネルギー大→地場産業が衰退し、自然と向き合ってきた林業・農業・漁業が衰退し、国土が荒廃していくことなった。この膨張は続かない。
  「確実な未来」について、気候変動による自然の狂暴化、地球環境の悪化とエネルギーの緊迫がほぼ間違いなく云えるとのこと。日本人口問題研究所の「日本二千年の人口史」
では江戸時代に3,000万人の人口が何処からも侵略されずピーク時には12,800万人まで急増し、現在12,400万人と減少し、これまでの膨張から縮小に転じ、持続可能から次世代、次々世代への「日本の生き残り作戦」は画一性から多様性、集中から分散型、スピードからスローにしろと云うこと。即ち石油、ガス、石炭、ウランは尽きるので、天然で尽きることのないエネルギーは太陽エネルギー、地球の重力、電磁場とマグマである。その「太陽エネルギーは無限で膨大」だが単位面積あたりのエネルギー濃度が薄いという弱点がある。風力も同じ。明治時代にグラハム・ベルが来日して日本列島を見て、四方海に囲まれお天道様があり、雨も降り、日本の地形は70%が山でエネルギーを集める装置があると見抜いたとのこと。これが水力エネルギーの強みである。日本列島は日本海側と太平洋側の間に分水嶺があり公平な国土をなしているが滝のような川が弱点でダムが必要となる。
「日本の水力発電」は、気象はアジアモンスーンの北限(雨が多い)、地理は海に囲まれている、地形は70%の山地が雨を集める装置、社会(インフラ)は平等な脊梁山脈で装置であるダムは太陽エネルギーの貯蔵庫と云える。
 先生は建設省に入省して川治ダム、大川ダムと宮ヶ瀬ダムの建設を担当された。新しいダムを造れないなら既存ダムをどう活用するかを考えている。先ずすべてのダムに発電機を整備する。ダムには発電機が付いているのもあるが、治水と利水があるが発電機が付いていない。ダムに簡単に穴を開けることができる。次いでダムの運用変更をする。特定多目的ダムには治水と利水があるが相反した運用を強いられている。治水はなるべく空にして洪水に備え、利水はなるべく貯めて渇水に備えている。今、台風が何時、何処に来るのか判っているので来る前に空けておけば良い。最近台風が多くなって、今やっと60年振りに運用変更が始まった。もう一つ、ダムの嵩上げがある。ダムの上部は広いので10m嵩上げすると容量がズーッと増える。もう一つ、本ダムの下流に小さなダムを造ってピーク発電の流量調整ダムとして使う。
 最後に、水力エネルギーとは太陽エネルギーと重力エネルギーとの話しで、これからの生き残りは進化(分化)で、進化は多様性(分散)。集中は退化であり、分散は進化である。東京への電力供給は大きな電力でやらねばならない。水力は分散型で中小規模発電であり、各地方でやっていける。これからはAI社会と云われているが、ものすごい電力を使う。日本海側は雪があり豊富なエネルギーがあるので、計算センターを日本海側に置くと良いだろう。
semi2020022612.jpg
  ここまで丁度1時間半、新型コロナウイルス感染予防のマスクを装着しながら多くのデータや写真を駆使した説明を頂き質疑応答に移り、主な質疑応答を以下に紹介します。
Q1:気候変動が激しくなり、予想も出来ない雨量が百年に一度ではなく変わってきている。インフラの整備とダムの話しをどう組み合わせたら良いのか?
A1:今あるダムをどう使うか、やっとその操作を変える方法が判って来た。今ある150位のダムの運用変更で、台風が来るぞ〜となったら水位を下げて空振りに終わったら(渇水、干ばつ)保険で対応する位考えて良いだろう。運用変更で洪水の安全性を上げる処に入ってきた。今あるダムを200%位価値あるダムに運用変更でして欲しいと云っている。
Q2:この前の台風で、ダムが満水になりオーバーフローすると崩れて大変なので緊急放流をするとの事だったが、これには運用変更で対応できると云うことか?
A2:あの事例はダムの洪水容量が絶対的に不足していた。山間部の川に障害物を造って流路を蛇行させ、洪水時にはその上流で水がダムアップする。これはダムではなく河道の蛇行の問題で、安全性のサービスには種々の工夫が必要。
Q3:農業用水に発電の仕掛けとか運用変更が仮に出来たとしたら日本の電力事情がどのようになるのか?
A3:今の電気のうち水力が10%位、既存ダムを使っても30%位か?水力は分散エネルギーなので、各地域毎にグリッドを造って使って行く世界になる、なって欲しい。
Q4:川に小水力発電機を設置しようとした場合やせせらぎにマイクロ水力発電機を設置しようとした場合、農業用水の水利権の問題があると聞いているが、政策的な対応は可能なのか?
A4:川という公共利用は厄介だが、川の水利権は随分緩くなって来た。但し、組織が大きく地方ほど難しい。所長が替わればガラッと変わるが、時間が解決する。
Q5:日本中にエネルギーを分散させた時に人口も分散しないと上手く行かないのでは?
A5:日本海側に農業用水というインフラがあるので世界の計算機センターを持って来て、若い人を集めるような事をしないと難しい。
sem2020022611.jpgsemi2020022613.jpg
30分間の質疑応答も時間が足りないくらい密度の濃く判りやすいご説明で出席者一同の大喝采の中、2時間のご講演を終えました。
文責:奥野 政博

講演資料:日本文明とエネルギー
  
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介