2020年05月28日

EVF Webセミナーの報告:「新型コロナウィルス流行と中国」

演題:「新型コロナウィルス流行と中国」
講師 : 中国ウォッチャー 荒井商事株式会社常勤顧問 結城 隆 様
Web視聴開始日:2020年5月28日(木) (約2週間)
聴講者数 : 62名

1.講師紹介
・1955年生まれ。福島県出身。一橋大学経済学部卒。旧日本長期信用銀行入行。調査部、ロンドン支店、マーチャントバンキンググループ、パリ支店、ニューヨーク支店勤務。
1999年ダイキン工業経営企画室、大金中国投資有限公司(北京)勤務。デンロコーポレーション常務執行役員を経て現職。
荒井商事において、新規事業開拓を担当する傍ら、東日本大震災事業者再生支援機構業務委託、柳沼プレス工業顧問を務める。中国ビジネス研究会会員。
主な著書: 中国市場に踏みとどまる(1999年草思社)、ジョークで読み解く省別中国人気質(2002年草思社)、その他四半期毎に中国観察レポートを発行。
座右の銘: 百年生きて、百年学べ。

2.講演概要
湖北省武漢市から発生した新型コロナウイルスは中国全土に拡散、その後欧米はじめ世界全土に広がり、1929年の大恐慌あるいはそれ以上の経済的厄災をもたらそうとしている。
中国が武漢市、湖北省をロックダウンしたのが1月23日、そのロックダウンは2か月半後の4月7日に解除された。(注:日本はちょうどその日に7都府県に緊急事態宣言を発した)。
中国は概略次の3段階の戦略で進んでいる。1〜3月は流行の制圧、4〜6月は経済復旧と対外支援、プロパガンダの展開、7〜9月に経済をV字回復させるという戦略である。今年第一四半期の中国のGDP成長率はマイナス6、8%、ロックダウンされた湖北省の成長率はさらに大きくマイナス39、2%だった。
世界に先駆けて流行を制圧した中国は、常態復帰に向けてインフラ投資の前倒し実施、金融緩和、中小企業の資金繰り支援、所得補償など様々な政策を打ち出している。今回のパンデミックによる中国の国内事情、アメリカや欧州、日本と関係した情勢について、地球儀を俯瞰する形で広範囲にわたって詳細にご講演頂いた。

新型コロナウイルス禍で3月、4月と中止せざるを得なかったEVFセミナーだったが、事務局の懸命な手探りの試行で初めてのWebセミナーに漕ぎつけ、講師の結城先生の充実した講演内容も相まって各方面から評価と励ましの声を頂いているところです。

3.講演内容
新型コロナウイルスの感染流行は中国→欧州→アメリカと広まった。3月以降は立場が逆転し、中国は新型コロナウイルスを克服したとして経済復旧に舵を切り、世界に向けて対外支援とプロパガンダを展開している。1月23日に武漢市、湖北省をロックダウンし、湖北省全域に「戦時体制」を導入。全土に外出・移動制限措置を施した。それからの中央政府は武漢市にすさまじいばかりの全面支援を行う一方、行政組織の不作為や怠慢を厳しく取り締まり、省・市のトップを含め630人が処分されたという。
財政・金融面では人民銀行は2〜3月にかけて3兆3,500億元を金融機関に供給する一方、インフラ投資は高速鉄道、高速道路等に7、6兆元、合計11兆元(=170兆円)のテコ入れを行った。
また景気対策として消費喚起策(ただし個人給付は不正受給が横行する可能性があり行わない)、産業梃子入れ策として自動車の排ガス規制の実施の半年間の先送りをはじめ、各種優遇策を導入した。この結果、早くも3月〜4月の製造業生産は常態に復帰、自動車産業は大手販売店の大幅な値引きと地方政府の購入促進策に加えて、消費者の自動車購入の動機の10%が「健康と安全」(=コロナ対策)となるなどで、4月には22か月の低迷から抜け出した。この時期、ファーウエイは半導体等の基幹技術の国産化を着実に進め、デジタル経済はこの3か月の間に100件のアプリが追加登録されるなどむしろ弾みがついた格好。また自動車の自動運転の実験も加速している。
最後に激化しているアメリカと中国の冷戦下でコロナ後の国際秩序はますます流動化してゆく。同じ冷戦といってもかつてのアメリカ対ソ連の冷戦とは異なり、現在の中国はヒト・モノ・カネで世界的に十分大きな存在となっていて、米・中の力は拮抗している。米・中はどこかで折り合えるのだろうか。一方、今回の新型コロナウイルスへの対応で中国の共産党権威に微かな揺らぎも感じられるということで講演を終えた。
    
質疑応答)

Q1.5月18日に開幕したWHOの総会で一番にスピーチした習近平の強気の演説は何を意味するのか。
→ あれは国内向けと解釈できる。中国に対する初動の遅れやマスク外交に対する各国からの批判、反発については中国国内ではほとんど報道されていない。
Q2.コロナ前とコロナ後では中国の立ち位置はどのように変わるのだろうか。
→ 中国はこれまでは世界1番を目指して突っ走ってきた。中国製造2025がその例。ただ1番になったらどうしようかという心の準備が出来ていないように見える。2049年に実現しようとしている「中国の夢」も具体的なイメージがない。一方、コロナ後の世界を考えると、アメリカの凋落は明らか。その意味、コロナ後の世界というのは米中対立が先鋭化する中で、かなり流動的になるのではないか。
Q3.習近平が国賓として来日する計画を中止するのに、3月初めまでもつれ込んだ。なぜ早々に訪日中止に踏み切れなかったのか。
→ 訪日中止自体が日本側の事情ではなかろうか。習近平の訪日は東京五輪と並んで安倍政権にとっては今年の最重要日程だった。ギリギリまで待ったのではないか。中国では日本の新型コロナウイルスへの対応の遅さ、スケールの小ささに失望する見方が多い。
Q4.アメリカのCDC(疾病予防管理センター)のような機関は中国にも存在するか。
→ CDCは中国にもある。各地にもあり、武漢にもある。しかし米国ほど政治的な力はない。ウイルス流行の初動が遅れた原因のひとつもここにあるのではないかと思う。ただ、米国のCDCもトップが政治任用という事情もあって、初動はかなりギクシャクしたと聞いている。

Webセミナー視聴後に寄せられた主な質問と講師の回答)

Q5. WHO総会での習近平のスピーチ、もっと国際協調を訴えた方が中国に有利に働くと思うのだがいかがか。
→ 北京駐在の時に経験したのだが、中国人は片言の英語しかできなくても「流暢に話せます」というのが常。謙譲は美徳ではなく、自分の弱さをさらけ出すのと同じと考える。新型コロナウイルスを短期間で制圧できたことを世界に誇示しなければ、国内での批判にさらされる。
Q6.中国経済の当面の回復スピードが速いとのことだが、今までの貯金が大きく残っているということか。
→貯金ということでは、財政状態が他のOECD諸国に比してかなり健全だったという指摘は出来よう。実はコロナ流行期間中でも多くの国営企業は稼働していたようだ。流行制圧に目途がついた時、まず国営企業の操業を再開させ、自動車などの基幹産業の操業再開を促し、従業員の確保、工場と宿舎の送迎などに対して、政府が手厚く支援した。
Q7. 全人代でGDP目標値が示されなかったのは、コロナの傷が思いのほか大きかったということか。
→全人代でGDP成長率目標が示されなかった第一の理由は、あまりにも先行きが不透明だから。特に輸出については、最大の輸出先であるアメリカとの貿易交渉や華為に対する制裁措置が見通せず、回復の気配は見えていない。二つ目の理由は雇用だ。短期的には2億人の失業者が発生、ほとんどが農民工。全人代での政府工作報告で最も多く使われた言葉が「就業」だった。この問題はボディーブローのように経済回復の足を引っ張っていると思う。
Q8.中国のトップは党内権力闘争でのし上がった成功体験の延長線上で、国際社会においても振舞っているようにしか見えない。“1番”になっても世界のリーダーたりえないのではないか。
→国際社会のリーダーたる要件にはいくつかあるが、自国通貨の人民元が国際通貨として信認されているとはいい難い面があること、普遍的な価値観を他国と共有するまでに至っていないことなど、越えるべきハードルは少なくない。一方、国際社会のリーダーとなるべき資質では、頭の良さや経験、知見という面からみれば中国各界のトップの力量は相当高い。その上、中国社会は猛烈な競争社会であり、その中でのし上がってきた人々の力量はかなりのものと認識すべき。問題は優れた能力を持つリーダーの一方で、地べたとの能力格差だ。中国はどうしても内向きの事象にエネルギーを注がざるを得ない。
文責 : 佐藤孝靖

講演資料:新型コロナウイルス流行と中国

 参考資料:「Webセミナーのご案内」
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