演題:「国会事故調/報告の概要と現状の中間報告」
講師 :東京理科大学大学院技術経営(MOT)専攻教授 元国会事故調/調査統括補佐
石橋 哲 様
Web視聴開始日:2020年6月25日(木) (約2週間)
視聴者数:55名
1. 講師紹介:
・1964年和歌山県生れ。1987年東大法卒。同年日本長期信用銀行入行(〜1998年10月)。シティバンクを経て、2003年産業再生機構参画(マネージングディレクター)。2007年以降クロト・パートナーズを設立(代表、現)、神戸市住宅供給公社、日本郵政の民営化工程など組織変革支援に従事。11年の東日本大震災にあたっては、同年6月に内閣官房東京電力経営財務調査タスクフォースに、同12月国会事故調に、いずれもプロジェクトマネジメント機能として参画。2017年4月〜2020年3月サイバーセキュリティベンチャーBlue Planet-works取締役・代表取締役CEO。
・2019年4月から東京理科大大学院技術経営(MOT)専攻教授(リーダーシップ、倫理)。https://most.tus.ac.jp/teacher/ishibashi_satoshi/
・2017年5月〜衆議院原子力問題調査特別委員会アドバイザリーボードメンバー。その他、政策研究大学院大学グローバルヘルス政策イノベーションプログラム客員研究員、日本医療教育プログラム推進機構理事、国会事故調報告を出発点に世代立場を超えて社会の「システム」について考えあう場を「共創」するサークル活動「わかりやすいプロジェクト(国会事故調編)」 https://naiic.net/ 代表
2. 講演概要:
2011年3月11日に起こった東日本大震災、これによって生じた東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、以前より言われていた「原子力発電所は絶対安全」という神話が崩れ、近隣に住む多くの人から日常の生活を奪い、農業、漁業、その他産業に多大な被害を与え、社会にも大きな影響をもたらした。 事故の数か月後には東京電力も政府も、事故報告書をまとめたが、いずれも当事者の視点から纏められたものであった。 失われた国民からの国家に対する信頼、世界からの日本の信用の再建の出発点とするには不足であることから、国権の最高機関であり、国民の代表である立法府(国会)が、三権分立の基幹的機能である立法による行政に対する監視機能を憲政史上初めて行使した「国会事故調」が衆参全会一致で成立した法により2011年12月に国会に設定された。 この委員会は主として学者、医師、弁護士、ジャーナリストなどの民間人中心に構成され、業界や政府からの独立性・中立性を保ちつつ、7か月間で報告書をまとめた。 この報告はネットで今でも閲覧は可能。 https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/。 講師はこの委員会の調査統括補佐(事務局)として活躍され、現在に至るもその提言が埋没しないよういろいろな場で啓もう活動を行っている。
3. 講演内容
2011年12月にスタートしたこの委員会(国会事故調)は委員長の黒川氏の下、@ 国民の視点に立つ A 世界に発信する B未来に向けた報告とする この3点をしっかり心に留め、調査を進めた。 その中で、この事故は想定外の大きさの地震、津波による天災によるものであるという事故像を超え、むしろその可能性を知ったうえで、事前に対策の手を打た(て)なかった人災という事故像が現れた。 事故前において、「原発の安全」は、原子力発電所内部で何かあったとき(内部事象)には @止める A 冷やす B 閉じ込める、3層の多層防護で安全が担保できると言われていた。 しかし、国際原子力機関(IAEA)における「原子力の安全」の議論では、内部事象にとどまらず、外部事象や人為的事象までを含めて想定される起因事象に対し、放射性物質放出による影響緩和、周辺住民の安全確保までを視野に入れた5層の深層防護が原子力の安全に関する標準的フレームワークとされていたこと、日本における3層の防護はパッチワーク的であったことなどがわかった。また、日本の場合、原子力安全規制機関の監視、監督が行政であることは、他の海外諸国においては議会が監視している事とは異なり、必然的に透明性、公開性などに問題が生じている。 またこの事故を人災といえども個人の責任に帰するのではなく、根源的原因として横たわる組織的、制度的な問題、さらにはそれらを許容する法的枠組みとそれを可能とする関係者や国民のマインドセット(思い込み、常識)の解決こそが大切であり、それなくして再発防止は難しいとしている。 事故調としては8年前にその報告書で、以下の7つの提言を行ったが、96ケ月経った現在まだそれらについて具体的な検討や論議が進んでいないのは残念である。
7つの提言
(1)規制当局に対する国会の監視
(2)政府の危機管理体制の見直し
(3)被災住民に対する政府の対応
(4)電気事業者の監視
(5)新しい規制組織の要件
(6)原子力法規制の見直し
(7)独立調査委員会の活用
最後に国会事故調からのメッセージとして「福島原発事故はまだ終わっていない」 「日本の今後(9)の対応に世界は厳しく注視している」 「この経験を無駄にしてはいけない」 「改革の努力をすることが国会/国民一人ひとりの使命である」とまとめられて講演を終えられた。
4. 質疑応答) (Q1〜Q3は収録時におけるEVF正会員からの質問)
Q1. 3.11後に原子力規制委員会ができたが、それを監視するのが国会であるべきだということはわかったが、規制委員会はずいぶん頑張っていると思うのに左右双方から厳しく批判されている。どう評価されているのでしょうか?
→ 規制(委)の目的は「安全の確保」であり、推進派から再稼働の邪魔をしているのではないかといわれることは、規制(委)がちゃんと仕事をしているということ、住民の避難計画への配意が不十分との批判は、原子力防災に関する法の立て付けに課題があると考える。
Q2. @ 国会事故調が7つの提言をまとめて報告されているが、そのうちどれとどれが取り入れられているのでしょうか? A また黒川委員長のメッセージからは、環境やエネルギー状況が大きく変化する中で、原子力の位置づけも大きく変わらなければならないと言っているが、日本は変わってきているのでしょうか?
→ @ 事故調は10項目の結論を出して、7つの提言を行った。 原子力の規制当局(推進行政、安全規制行政、その他関連行政を含む)や原子力関連事業者が、再び、原子力安全規制を「規制の虜」とし、その透明性・公開性を歪めることのないように国民の代表である国権の最高機関である国会がこれを監視することを提言している。残念ながら国会ではまだ一言も論議されていないまま8年経ってしまった。 なかには自分たちに投げられた宿題だと理解していない議員もいる。
→ A エネルギー事情は大きく変わっている。 原発は、枯渇が想定される化石燃料より、希少価値のウランを燃料としていても、そのエネルギー源としての可能性は無尽蔵であり、最終的には「安くてクリーンなエネルギー」として期待されていた。 現在、シェールガス開発などを背景に化石燃料の枯渇は遠のいた。 希少性の高かったウランは、中央アジアなどでの多くの埋蔵が確認されている。スリーマイル、チェルノブイリ、福島の後、原発の安全コストが大きく上昇し、また再生可能エネルギーのコストは激減している。原子力発電の経済合理性を支える根拠は大きく変化している。こういう状況下で安全保障問題、温暖化CO2問題、放射性廃棄物の処分なども合わせて、論議することが不可欠と考える
Q3. 政治家やえらい人達から「よく纏めてくれた」「頑張ってくれた」とお褒めをいただき、「これからも若い人たちを指導していって欲しい」といわれるそうだが、それは日本が記録を残さない文化であることの裏返しのように思うが如何か?
→ 質問者の意見に賛同。 責任を回避することを最優先として、記録を残さない不透明な組織、制度またそれ許容してしまう法的な枠組みに問題がある。
以上が収録時にEVF正会員メンバーから出された質問ですが、これに加えて視聴者から後日寄せられたWebによる質問が2つあります。 石橋先生より後日メールでの回答をいただきましたので、以下に紹介いたします。
Q4. (ネット会員M.T様)今回の国会事故調と同様の国会気象災害事故調のような仕組みの実現性はないのでしょうか、あるいはそのような仕組みを作るために必要なことはどんなことでしょうか?
→
■ 事実の集積、そこからの冷静な知見の積み上げが、大切なことは「気候変動」に関連する諸課題でも福島原発事故に関連する諸課題と同じとのご趣旨は深く共感いたします。いずれの諸課題についても、事実の集積の前に「価値判断」が先行した議論が飛び交っている気がします。面罵の応酬は非生産的ですので、国会事故調のような取り組みとするのは実効性があると私も考えます。
■ ちなみに、国会事故調提言7は以下のように記載しており、下線部にご着目ください。
提言7:独立調査委員会の活用
未解明部分の事故原因の究明、事故の収束に向けたプロセス、被害の拡大防止、本報告で今回は扱わなかった廃炉の道筋や、使用済み核燃料問題等、国民生活に重大な影響のあるテーマについて調査審議するために、国会に、原子力事業者及び行政機関から独立した、民間中心の専門家からなる第三者機関として(原子力臨時調査委員会〈仮称〉)を設置する。また国会がこのような独立した調査委員会を課題別に立ち上げられる仕組みとし、これまでの発想に拘泥せず、引き続き調査、検討を行う。
福島原発事故のような被害があり、その反省を受けた提言を行って、その実現に向けた道について、私たち有権者が代表を送り続けている国権の最高機関である立法府では「一つの言葉も交わされていない」のが今の立ち位置と認識しております。現状を「今」に現出させているのは「私たち」の選択の帰結と考えられます。
M.T様ご記載のご提案が実現するため、なにが必要なのか、私も胸に手を当てて自問を重ね、言行一致の匍匐前進を重ねて参りたいと考えます。
Q5. (ネット会員K.N 様) EVFとしてはどのようなアクションを取るのでしょうか?
→ K.N 様 石橋様の6月講演に関して、事務局あての質問をいただき、ありがとうございました。 EVFを代表して私(和田 政信理事長)から取組状況を説明させていただきます。EVF理事会として中村様の御指摘を真摯に受け止め、EVFとしてどのように対応するのか検討を開始しております。これまでEVFはご存知のように、セミナー・見学会などを通じて環境問題(持続性の問題)の共有化と問題点の発掘努めてまいりました。今後は重要問題をEVFとし認識すること、そしてベテランの経験で問題にどう取り組むのか検討してまいります。
(文責:八谷道紀)
講演概要資料:国会事故調報告概要
2020年06月25日
EVF Webセミナーの報告:「国会事故調/報告の概要と現状の中間報告」
posted by EVF セミナー at 19:00| セミナー紹介