2020年08月27日

EVFセミナー報告:「グリーン・リカバリーの中で進める脱炭素化」

演題:「グリーン・リカバリーの中で進める脱炭素化」
   〜始まったコロナ後の経済回復、グリーン・リカバリーの議論〜

講師:公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)気候エネルギー・海洋水産室長 山岸尚之様                
Web視聴開始日: 2020年8月27日(木)
視聴者予定数: 45名
講師略歴:
 •2001年3月に立命館大学国際関係学部を卒業。
 •2003年5月に米ボストン大学大学院にて、国際関係論・環境政策の修士号を取得。
 •卒業後、WWFジャパンの気候変動担当オフィサーとして、政策提言・キャンペーン活動などをはじめ、国際的な提言活動に携わる。2020年より現職。
 •著作:諸富徹・山岸尚之/編(2009)『脱炭素社会とポリシーミックス』日本評論社など
 •その他:外務省・気候変動に関する有識者会合(2018年1月〜4月)など

講演概要:
講師の山岸尚之氏は、気候変動に関するペシャリストで、EVFにおいてもこれまでCOPの報告など4度にわたりご講演をしていただいている。今回はコロナ禍後の、脱炭素化を目指す経済回復(グリーン・リカバリー)のグローバルな動きについてお話しいただいた。
コロナ後の経済回復について他の国々における活動を詳しく述べられ、遅れている日本の意識改革を強く求める講師の思いが伝わる内容であった。
1. 感染症拡大に起因する経済危機のCO2排出量への影響
今回のコロナ禍によるCO2排出量は8%の減少率(1日あたりでは17%減の日もあった)になり、絶対量としてリーマンショック時の6倍、第2次世界大戦後の減少をも大きく上回る。しかしながら、このまま経済回復すれば元に戻るだけとなる。
大気中のCO2濃度への影響は平均414ppmをほんの少し減らすだけとなる(温暖化を少し遅らせるだけ)。
2. グリーン・リカバリーの国際的な議論動向
欧州委員会は4月9日に欧州グリーンディール(COP25において環境保護施策を議論)をコロナ後の経済復興の中心とすべしと提言。7月21日には欧州理事会で7年間の投入予算を合意。
これら欧米の素早い対応は、コロナ以前よりグリーン対応による経済競争(攻勢)力をどうするか考えていることによる。
講師から、具体的な例としてフランスのエールフランスに対する支援の条件としてCO2削減目標や持続可能な代替燃料の導入などを入れたこと、カナダの大企業の支援策に気候関連情報開示を義務付けたことなどが紹介された。
欧米の企業や自治体などの非国家アクターについても述べられ、あの米国においてさえも300社に以上が賛同している。
日本JCI(気候変動イニシアティブ)も国に訴えている。
3. 日本の対応
わが国では、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策が4月7日、その改訂版が4月20日に発表されたが、感染防止対策と雇用・事業維持の緊急フェーズや経済活動回復とサプライチェーンやDX加速などのV字回復フェーズをあげ、気候変動対策などのグリーン・リカバリーのビジョンはほとんどない。ヒアリング段階で日常的な援助を求める声が多かったせいかもしれないとのこと。 
国際的な経済競争力を高めるためにも、国内におけるグリーン・リカバリーを目指す議論を増やしたい。講師からは、IEAの持続可能な回復プランや、オックスフォード大学の研究チームの示す政策分野がヒントとして示された。この中で建築物に注目すれば断熱効果による省エネ、雇用拡大が期待されるのではないかという。
更に注目しているのは、日本のエネルギー基本計画である。2018年に見直す年であったが2015年の案をそのまま踏襲している。現状に合っていない原子力の割合や国外から注目されている火力発電の割合の見直しがある。
防戦一方の日本の温暖化防止対策だがこの機にグリーン・リカバリーを皆ですすめようと締めくくられた。
4. Q & A
 Q1: CO2の影響のところで、排出量が減ったのにCO2濃度はほんの少ししか減らないとあった。温暖化防止には蓄積されたCO2を減らすこともクローズアップすべきでは。
 A1: CO2の寿命は長く、急には止められない。言われるようにCO2濃度を下げる方に注目してもらえれるようにしたい。
 Q2: 効率の悪い小規模石炭火力を廃するなどと言いながら、追浜大規模火力発電所を作ろうとしている。2050年までに火力発電をなくせるとは思えない。
 A2: 日本のエネルギー政策は3E+S(Energy Security, Economy Efficiency, Environment, Security)であり、石炭は資源が偏在しないことや安いことがあてはまる。ガス化や再生可能エネルギーでやや遅れていることもあり、石炭に執着があるようだが世界的な動きに合わせて変わらなければならないであろう。
 Q3: 欧州では車はEVへと転換しているが、日本ではコロナ後もEV転換の声が聞かれないが。
 A3: 欧州ではコロナ以前からEVについて議論していたので、グリーン・リカバリーに合わせた。日本では議論が進んでいなかった。
 Q4: 航空会社への支援条件として、2%の持続可能な代替燃料の導入とあるがどんな燃料になるか。
 A4: ICAOはカーボンニュートラルを進めており、CO2増加分を代替燃料とカーボンオフセットで賄おうとしている。いくつかのバイオ燃料を混ぜて使うことになろう。
 Q5: ユーグレナによる航空機燃料が研究されていると聞いている
 A5: 詳しいことは聞いていない。航空機の電動化は無理と言われているが、最近小型機の電動化の話がある。
文責:津田俊夫

講演資料:グリーン・リカバリーの中で進める脱炭素化
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介