2021年01月28日

EVFセミナー報告:「2050年CO2ネットゼロに向けた次世代パワートレイン戦略とは?」

演題「2050年CO2ネットゼロに向けた次世代パワートレイン戦略とは?」
講師:PwCコンサルティング合同会社ディレクター 轟木 光様
Web視聴開始日:1月28日
参加視聴者:58名

1. 講師紹介:
日系自動車メーカー、国内コンサルティング会社を経て、現職。自動車関連産業を中心に、商品戦略、技術戦略、新市場参入戦略などの戦略に関するプロジェクトに従事。専門領域は自動車関連産業及びモビリティの戦略構築など。公益社団法人自動車技術会エネルギー部門委員会委員。著書に、「EV・自動運転を超えて日本流で勝つ(日経BP)」、等。

2. 講演概要
2-1. CO2ネットゼロの世界の動き
世界で進むCO2ネットゼロの動きを国ごとの動きとしてまとめ、その動きの中心は欧州諸国の取組みが早いことを強調。 都市、企業の動きに関しても同様。 ネットゼロに対する基本的な考え方は、気温上昇を1.5 に抑えることだが、そのためには莫大な投資も必要で、エネルギー産業は欧州委員会の予測によると0.8兆ドルの投資が必要とわかっている。 欧州では既に、パリ協定に対する8つのシナリオができている。日本の取り組みとしては、従来は80%削減という目標で進んでいたが、最近菅首相により2050年までにネットゼロを目標とする新しい目標が掲げられた。まだ官庁などでロードマップ作成はこれから。 国際的な取り組みの例を挙げて多くの団体、企業などのイニシアチブなどを紹介。 その中でSBT(Science-Based Targets)の詳細について製品の製造、販売、使用家庭だけでなく、Scope3と呼ばれる製造以前の段階や、使用後の廃却などの段階までのCO2排出について取り組むべきとされている。TCFD (Taskforce for Climate related Financial Disclosure)と呼ばれる取り組み、投資の世界でもグリーンボンドなど投資の対象として、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標目標などの情報開示が重要となってくる。

2-2. 自動車及びその他の交通産業におけるCo2ネットゼロに向けた取組
欧州委員会によると欧州での乗用車のパワートレインミックスでは2050年でゼロエミッション車が96%以上必要としている。これを2050年までに達成しようとすると、新車販売では2035年ぐらいから、ゼロエミッション車がほぼ100%必要となる予測。これにより電動化などや内燃機関の禁止などの規制、法制化につながっている。 小型商用車では90%以上がBEV、燃料電池車が必要だが、大型商用車では内燃機関が半分以上残ることになっている。  自動車に対する2030年以降のCO2規制はこの夏ごろ出てくるし、炭素税などの法規制などが欧州では出てくるなど、欧州では動きが活発化している。

石油会社各社の低炭素化への動きを見てみると、欧州各社はe-Fuel(再生可能エネルギー/合成燃料)含めてすでに多方面で進んでいるが、米国の石油会社ではまだ取り組みが遅い。 合成燃料やバイオ燃料はその作り方など様々であるが、e-Fuelに対してこれまでの化石燃料と同じ性能が求められる。 例えば、CO2ニュートラル、持続可能性、最小限の環境インパクト、良・経済性、良・機能性など5つのクライテリアが挙げられる。 代替ガソリンの比較、代替ディーゼルの比較としてはエージングやシーリングなどの問題が有り、これらを解決しながら混合比率を上げるなどして実質的なCO2削減につなげることが重要である。
2-3. 乗用車におけるパワートレイン戦略
欧州委員会によると2050年BEV、FCEVなどネットゼロ達成のためには95%以上が必要だが、ドイツで見ると2020年10月で8%を超えるまで上がってきているが、補助金があるために普及、(ノルウェイを除くとほぼどの国も同じ)  PwCとしてのシェア予測としても欧州では、2035年ではBEV7067%、FCEV 4%程度と予測している。 米国はゼロエミッション車の普及速度は欧州に比べて遅く、中国では2035年にBEV55%、FCEV5%程度と予測する。欧州の自動車会社はCO2規制達成のために、電動化を進めざるを得ないため積極的だが、日本の会社は「もうからないEV」ということで、欧州自動車会社に比べるとゼロエミッション車の拡大速度は遅い。 
EVの課題のひとつはコストである。 バッテリーの積載量とコストの関係で、航続距離をどのあたりにするかがポイントとなる。EVのもう一つの課題として、ライフサイクル全体でのCO2である。LCA視点でみると製造、廃棄でCO2分担が高い
バッテリーの研究開発と生産は、半導体業界のように分業化することにより、低コスト、ゼロエミッション化につながる可能性がある。 例えば日本とノルウェイが組むことで、ノルウェイの水力発電の電気でバッテリーを生産、数量は日本が世界に販売して確保というケースも考えられる。 また欧州は次世代のクリーン技術に投資する用意があるため、日本と欧州の組み合わせでWin-Winの構図ができる可能性がある。

2-4. 商用車・バスのパワートレインミックス戦略
欧州委員会によると小型商用車は乗用車とほぼ同じで、BEV、FCEVが主体となる。しかしながら同様に欧州委員会によると大型バスや大型商用車は様相が違う可能性がある。 世界的にみて8割がたのバス会社の経営は赤字と言われている。多くのバス会社は地方自治体からの補助金等が頼りだと言われている。 欧州65都市におけるバス政策 ゼロエミッション化を目指したClean Bus Development Initiative にて、どのようにCO2削減して、排出ガスをクリーンにしていくのか?という活動を、バス事業者、バス製造会社及び地方自治体などがタッグを組みながら、様々な情報交換を行い進めている。 大型商用車ではBEVが充電時間という問題があり、充電中もドライバーの人件費が発生するためどのようにそのコスト増加を負担するのか?が問題となる可能性がある。 輸送の世界では、km-ton/gでのCO2排出量で評価することが多い。したがって大型商用車のBEV化を考える場合、積載量と充電時間というファクターを考えなければならない。 一方水素は魅力的である。トラックだけではなく、他の交通も燃料電池に食指を動かしている。  
欧州での水素活用に向けた取り組みとして、欧州水素社会戦略(EU Hydrogen Strategy)を発表。 しかしFCEVの課題もコストが高い、車両コストの半分が燃料電池システムであり、またその中でもスタックのコストが高いなどの課題も多い。 燃料電池のエネルギー効率はBEVに比べて悪い。 
内燃機関の燃料としてe-Fuelがあげられているが、活用のためにはLCAの考え方が重要。 Well to Wheelで考えないといけない。 Tank to WheelではBEVの方が有利である。 e-Fuelの課題としては製造コストが高いこともあげられる。 

2-5. その他の産業におけるパワートレインの戦略
水素やe-Fuelは航空機や船舶として候補として挙げられる。 

2-6. 全体まとめ
(1)欧州委員会で行われたシミュレーションでは、乗用車、小型商用車は2050年でBEV, FCEVが90%以上となる。
(2)同様に欧州委員会で行われたシミュレーションでは大型商用車、バスはBEVに加えて、FCEV、e-Fuelによる内燃機関の活用が重要。
(3)航空機、船舶などの他の交通機関はH2とe-Fuelの活用が期待される。
(4)e-Fuelが活用されるためには、Well-to-tank のかんがえかた、LCA評価が重要である。
(5)バッテリーは半導体のビジネス同様、製造と開発を得意な国と地域で分担して全体でCO2排出削減と利益を両立させる選択が考えられる。

3. Q&A
Q1) シナリオ作りで、どうして欧州が先行し、何故日本が遅れているのか?  不思議なことは、欧州が本当に達成できると思っているのか、単なる努力目標ではないのか? 日本では企業責任が問われるので、簡単にシナリオが描けないのではないか?

A) 欧州はもともと化石燃料を提供できる側ではないという立場で、エネルギーセキュリティーの点から見ると早く化石燃料から脱却したいと思っていることがポイント。 2016年のディーゼルゲート(排ガス規制不正適合事件)により内燃機関に対する信用が落ちてきており、電動に縋りつくしかなく戦略の方向転換をせざるを得なくなった。

Q2)  菅首相が2050年ネットゼロを打ち出したのは、企業と相談したとは思えないが如何か?
A)  政治的背景については良くわかりません。  様々な論議があり、今後も政治議論、技術議論などを繰り返してロードマップを考えていくことが重要。

Q3) 日本の自動車産業を困らせようという欧州側の意向があったのかと思っていたが、EUの中でドイツの進め方は、他の国と違うのか?
 A)新規参入者に対して内燃機関がその部品の多さや、構造の複雑さ等により参入障壁であった。 昨今は自動車に対する価値観、使われ方が変わってきている。 車自体がスマホのように便利になることが期待され、内燃機関の車はそれに向いていない。 電気自動車のほうが新しい価値観にあっている。 これが方向転換のドライバーとなる可能性がある。

Q4)  e-Fuel 使う限り必ずCO2発生するが、それを処理する(Capture)技術が間に合うのか? 2050年のネットゼロに対して整合性はあるのか?  自動車はCO2分散型で、排ガスをばらまいていくので、ガスの回収は不可能。e-Fuelは問題大ありではないか?
A) キャプチャーする技術は開発途上である。 2050年で乗用車は90%以上がEV化されているが、大型や他の交通機関は内燃機関を残さざるを得ないが、それに代わる技術がない以上、飛行機や船舶などを殺すこと(使わない)は簡単だが、そのために我々の生活もダメになってしまう。 バランスを取っていくことが重要である。

Q5) VWは中国で成功して、電気自動車も始めたが、中国の持つ技術力について聞きたい?
A) あまり良い情報は持ち合わせていないが、今後のビジネスの競争フィールドでは数量で勝つことではなくサービスである可能性がある。 自動車の販売ではなく、売った後にお客からいかにお金をいただくかがポイントとなり、そちらにシフトしようとしている。 走ること、安全であることは当たり前で、「お客に何を提供するのか」、価値として変わってきているように感じられる。

Q6) 2年前の話でBEVは補助金で伸びているが今後伸びるのはFCEVではないかという話だったと思うが, 今日の資料ではFCEVよりBEVがメインとなっているように説明されたが、どうして変わったのか?
 A)2年前と前提条件が変わってきた。ネットゼロという前提は2年前にはなかった。 二つ目は技術革新でコバルトの問題なども解決されてきた。 今回は欧州委員会によるシミュレーションをベースに話したが、まだこれからも変わる可能性はある

文責:八谷 道紀
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