2021年03月25日

EVFセミナー報告:プラスチック容器包装のリサイクルは「物」ではなく電力に

演題:プラスチック容器包装のリサイクルは「物」ではなく電力に
講師:環境企画 主宰 松村眞 様

日時:2021年3月25日(木) 
聴講者数:48名

1.講師略歴 
・1962年:日揮株式会社入社、石油精製などエネルギー関連設備設計
・1965年:東京大学工学部化学工学科助手、プロセスシステム工学研究
・1967年:日揮株式会社再入社後、環境関連設備の計画・設計・建設や環境調査・アセスメント             化学プラント省エネルギー技術開発、設備改善設計、情報・通信システムの計画             立案と整備、環境関連技術の整備と体系化、国内外の環境調査と対策提案を担当し、新規事業開発部部長、環境技術部部長等を歴任。
・1998年:日揮株式会社退社、環境調査と対策のコンサルティング事業開始
*発表論文は、化学工学分野、環境保全分野、省エネ分野、情報処理分野他、約150件*

2.要約:
エンジニアリング会社日揮で、海外や日本のプラント建設等のプロジェクトにおいて、環境や省エネルギー関連業務で担当及び管理職を歴任された後に、環境コンサルタント会社である環境企画を興され主宰されている松村眞氏から、近年問題になっているプラスチックごみに関する問題点と、松村氏が最も効果的と判断されている対策である「電力としての資源回収」を主題として解説を頂いた。 
一般廃棄物系のプラスチックごみが処理される形には、「マテリアル」、「ケミカル」、「サーマル」、「未利用」があるが、それぞれに排出者、収集者、収集後の選別者、再生原料化者などのどこかに負担が大きく、又、それぞれに再生品の市場性、再生品化率のどちらかもしくは両者が低いという問題点があった。それらの中で、「サーマル利用で焼却電力として資源回収する方法は、再生原料化者が焼却から発電を行うので、その負担が中くらいで、その他の排出者、収集者、収集後の選別者の負担が小であり、再生品の市場性はすぐに使える電力なので高であり、再生品化率は発電効率により不特定であるが、相応にすることが可能である」ということが分かった。ということから、「マテリアル」、「ケミカル」、「サーマル」というような区分けをすることなく、「サーマル(焼却)で電力として資源回収」一本にして、対処することを推奨するという結論でした。これによってプラスチックごみの分別収集は不要となるし、未利用のプラスチックごみも最小化できるし、プラスチックの元原料の石油分のエネルギーは、ヒートポンプエアコンの採用によりほぼ全量を回収できるとのことです。問題は現在日本でごみ処理をしている清掃工場の発電設備が貧弱であることで、今回の講演での内容に沿って設備を改善していく必要があるとのことでした。
環境、省エネルギーの専門家である松村氏の明快な講演で、普段プラスチックごみの排出やその周辺の問題にあまり気を留めていない参加者にも分かり易い内容でした。

3.講演概要:
先ず、プラスチックのマテリアルフローとして、現在日本国内における廃プラスチックが年間891万トン(2018年)あり、その内容は一般廃棄物系429万トン、産業廃棄物系462万トンとおおよそ半々に分けられる。 そして、それらのリサイクル形態は材料となる「マテリアル、ケミカル」と、燃料として生かされる「サーマル」、それ以外の「未利用」に分けられている。
一般廃棄物系に話を絞ると、マテリアルはPETボトル等で、割合は16.7%、ケミカルは高炉やコークス炉での利用で6.8%、サーマルは焼却電力利用がメインで57.7%、残りの未利用が単純焼却などで18.7%となる。つまり20%弱がただ焼却されているだけで資源回収されていない(地球温暖化の悪影響のみ)。
リサイクルの方法を評価すると、
@マテリアル利用では大部分がPETボトルの回収であり、分別収集が行われており、収集者と収集後の選別者の負担が大であるが、再生品の市場性がプラスチック原料として使えるということで高評価で、又、再生品化率が95%と高く有用である。
Aケミカル利用では、高炉やコークス炉での利用が中心であり、排出者、収集者、再生原料化者の負担が大であるが、再生品の市場性が燃料である石炭や石油相当で中程度で、再生品化率が93%と高い所が評価される。
Bケミカル利用の高炉、コークス炉、ガス化化学原料代替などでは利用手法が特定なもので、単なる燃焼による電力回収よりも市場性評価が高くなっている。
Cサーマル利用では、プラスチック容器包装(リサイクルマークのあるもの)は一般の燃えるゴミと混合収集される。固形燃料にするのは、再生原料化者が乾燥、粉砕、石灰混入、圧縮成形化などを行う必要があり、負担が非常に大であるのに対し、再生品の市場性は低質燃料で低であるが、再生品化率は歩留まりとして高いが意味はない。 
D一方、サーマル利用で焼却電力回収は、再生原料化者が焼却から発電を行うので、負担が中くらいであり、排出者、収集者、収集後の選別者の負担が小であるのを生かせるし、再生品の市場性はすぐに使える電力なので高であり、再生品化率は発電効率により不特定であるが、相応にすることが可能である。
そこでプラスチックごみを焼却している清掃工場での発電効率を見てみると、日本では10〜20%が多いが、ヨーロッパや北米では20〜25%以上が多く、33%の例まである。
日本で発電効率が低かったのは、日本の清掃工場は公営であるために、設備の拡充に重点がおかれ、設備投資費が抑制されたためである。又、電力会社からの電力の買い取り価格が低かったのも挙げられる。 一方、欧米では民営であることも多く、売電収入が重視されたという背景もある。
日本でも清掃工場の発電効率は近年上昇してきており、エコノマイザー等の色々な効率向上を図ることができるようになっている。特に需要側でヒートポンプを採用すれば、理論上プラスチックの原料である石油のエネルギーのほぼ全量を回収できると考えることもできる。

まとめとして、
@清掃工場は、焼却発電で熱量の20%〜25%を電力で回収でき、需要側はヒートポンプエアコンで電力を5倍以上の熱に変換できるから、プラスチックごみの元の石油のエネルギーを全量回収できる。
Aヒートポンプエアコンは暖房にも使うから、従来から暖房に使っていたガスや石油の消費が減り、温室効果ガスの排出も減る。
B混合収集だから、高炉微粉炭代替、コークス炉原料代替、ガス化・化学原料代替より、排出者・収集者・収集後の選別者・再生原料化者の負担が少ない。再生品の市場価値は高品質燃料相当で同水準。
C発電効率の高い清掃工場の市町村から切り代えたらどうか。
Dリサイクルが電力になると、コーヒーショップやコンビニのごみ箱から「プラスチック箱」がなくなり、分ける手間も不要になる。

質疑応答
(1)質問: 大変クリアな結論で胸がすっとしました。そもそもプラスチックごみはごみと一緒にして出してはいけないとか、焼却炉を傷めるという話があったが、その辺は如何なのでしょうか?
回答: 古い1980年台位の焼却炉ではプラスチックが炉の中で溶けて井格子から垂れ下がると言った問題がありましたが、今は全部技術的には解決していて、どこでもプラスチックが燃えないとか炉が損傷するとかはないです。 それから、(プラスチックごみを一般ごみと一緒に出してはいけないと言われていた)別の理由としては、技術的にドイツが先行していて、燃やすのはリサイクルではない、あくまでも物としてリサイクルするのが筋という考えで、熱にするのはリサイクルに該当しないと考えていたことが挙げられます。それは日本も同じでした。又、焼却炉で燃やすのは発電効率が低くて、ヒートポンプも効率が悪かったのも確かで、プラスチックを燃やすのは以前は行われていなかった。
(2)質問: マイクロプラスチックは日本で回収されているものの中でどれ位の率になっていますか?
回答: (マイクロプラスチックになっている)海洋に流れているプラスチックは不法投棄によるもので、圧倒的に外国からのもので、日本の場合はかなりキチンと収集されており、日本ではデータとしては出ていない。日本から海外に資源ごみとして輸出されたものについては、(以前はあったかもしれないが、)今はそれが殆どできない。又、日本からプラスチック製品が海外に行って不法投棄されるものについては日本では分からないし、その国の問題で日本の努力では改善するのは容易でない。問題なのは漁網などが結構捨てられたりしていることであるがそれはデータとして日本ではない。
(3)質問: プラスチックごみから発電する場合の費用対効果はどのように評価しているか?
回答: 300t/dの発電設備付き清掃工場の建設費は約300億円で、その内発電設備は2割以下で、電力は15円/kwの価値があるので、発電設備の負担は4〜5年で十分にペイします。ですから自治体は頑張って増設すべきと思う。アメリカではそうやってビジネスにしている。日本は民間企業でないから、それをしないし、公共の公衆衛生設備というコンセプトで来ているのが現実です。
(4)質問: プラ容器を電力にする考えに大賛成です。日本の清掃工場はプラ容器だけでなく生ごみを焼却処理するという目的もあり、どういう割合で燃焼するかがポイントと思う。生ごみをそのまま焼却するとカロリーが低いので、熱量のある廃プラをわざわざ燃やすことがあると思うが、その辺りのバランスについてはどのようにお考えでしょうか?
回答: 現在清掃工場で燃しているごみの中にどれ位のプラスチックが混じっているかと言うと1割位です。混合ごみとしてプラスチックが入ったままで燃焼し、プラスチックだけを分けて燃やすというわけではない。カロリー的にも問題なく、助燃しないで自燃させている。水分が多いとなかなか自燃しないということがあるが、日本のごみは全部自燃で処理されており、問題ない。又、カロリー調整のために廃プラを別分けするということではなく、発電設備を増強して電力に変えたり増やす方が良いのではというご指摘はその通りです。
(5)質問: 私の住んでいる世田谷区ではプラスチックについてはペットボトル以外は全て生ごみと一緒に燃えるゴミとして回収しており、分別が楽である。これは焼却して電力に変えて行く設備が清掃工場に整っているので、こういうことができると言うことなのでしょうか?
回答: 世田谷区は分別排出しないし、東京23区の内いくつかの区もそうなっている。その理由は分別排出するための収集の費用が自治体の負担となるので、それよりも燃えるゴミとして集めてリサイクルの品目を増やさないことが経費節減になると言う理由で世田谷区は(発電設備を持ち、そのように)やっている。 世田谷の清掃工場の発電効率は高いので、それで良いと思う。
(6)質問: 私の家ではエネファームを使っている。非常に熱効率が高くてエネルギーコストが下がって大喜びです。松村先生のおっしゃるヒートポンプを使って効率を高めてエネルギーのトータルを減らすのに大賛成である。一方、2050年のCO2フリーと言われているが、このことに関しての先生の考えを教えて頂きたい。
回答: CO2フリーとなると再生可能エネルギーで電力を賄うということになるが、再生可能エネルギー電力はやっと2割であり、化石燃料に8割依存している。仮に原発がもっとできたとしても、化石燃料依存度が5割を切るような事態はそうそう簡単には実現しません。ということで化石燃料の使用は続く中で、ヒートポンプを使って空気中の熱を取り込んで化石燃料の消費を下げるということは意義があると思う。日本の民間のエネルギー消費では暖冷房と給湯に相当使っているので、ヒートポンプ技術は電力エネルギーを5倍もの熱に変換できるのは凄いと思う。これを使って化石燃料の消費を減らすのは正しいと思う。心配なのは、「混ぜればごみ、分ければ資源という考えがあること」や「分別回収でそれを産業化している人たちもいること」で、その辺の説得力を高めるロジックも必要と思っている。
清掃工場の建設には国の金がかなり入っているのに、それに発電工場を付けて電力を売った金は自治体がもらって良いのかというような話もあったが、これはしくみの問題でトータルで悪い話ではないので進めて良いと思う。
(7)質問: 以前に、公共事業のPFI(Private Finance Initiative)化ということで民営化が検討され、その中にごみ事業も入っていたが、それがなっていないのは何が間違っていたのでしょうか?
回答: 詳しくは分からない。今は清掃工場を民間企業が始めているものがいくつか出ている。権益が絡むこともあるし、清掃工場では用地が必要で、資本がいるのに収益性が保証されるかという問題もある。アメリカの例では、「ごみを何トン出せ、出さないと金を出せ」というような話をしているのを聞いたし、そのような内容を書いた契約書にサインしているのに驚いた。
(8)質問: 発電をコンバインドでしている清掃工場の中で、EVFの工場見学にお勧めの工場はありますでしょうか?
回答: 比較的東京都は熱心で発電効率が高くて良いと思う。横浜、大阪なども関心が高く、良い工場が多い。世田谷も良いと思う。

文責:浜田英外


講演資料:講演資料:プラスチック容器包装のリサイクルは「物」ではなく電力に
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介