2021年04月22日

EVFセミナー報告:普及型EVバス技術開発について

演題 : 「普及型EVバス技術開発について」
講師 : 熊本大学 大学院 先端科学研究部 シニア准教授 松田俊郎様

Web視聴開始日 : 2021年4月22日(木)
聴講者数 : 53名

1.講師紹介

1978年〜2012年 日産自動車株式会社で数々の新技術を商品化
・アンチロックブレーキ(ABS)の開発 (1980年〜99年)
・世界初の電子制御電動4輪駆動装置(アテーサETS) (1989年) 
・世界初の電動4輪駆動装置(e-4WD) (2002年)
・電気自動車の開発 (2005年〜)
2013年〜 熊本大学大学院 現職
・EVバス、トラック実用化研究 (環境省委託プロジェクト)
・いろいろなEVの社会実装研究 (電動農機等)
・先端ものづくり教育

2.講演概要

当プロジェクトは、量産されている乗用車EVのバッテリーやモーターを流用し、低価格で高性能かつ運転が容易でバス利用者に快適な新しいEVバスの性能や価値を社会に提案、全国普及を目指す。環境省の「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証実験」に採択され、2016年度〜2018年度に熊本市で実証試験を行なった「よかエコバス号」の技術をさらに進化させ、2018年度から利用者数の多さ、坂道の多さ、渋滞の多さなど、バスの運行により厳しい横浜市営バス路線で、EVバスを種々なルートで運航し、2021年2月まで実証試験を行なった。この実験により走行データを蓄積して実用性や新技術の評価を行い、EVバス大量運行のモデルを構築しつつある。

3.講演内容

(1)普及型EVバス技術開発の背景
・我が国のCO2削減のためには大型車(バス、トラック)に環境対応車両の導入が必要だが、高価格と航続距離不足のためEVバス・トラックの導入は遅れている。
・とくに地方では路線バスの排気の改善が課題であり、業界では運転士の確保も課題となっている。
・大型のEVバスは少量生産であり、価格は通常のバスの約2,000万円に比較して3〜4倍もするため
現在の大型車業界では対応がむつかしい。また、普及の担い手も不足しておりEVバスの普及が遅れ
ている。
・EV乗用車の技術を流用し、パートナーとして車両改装業会と組んで日本全国でEVバスを生産。地方創生にもつながる。

(2)技術開発の狙いと特長
・この解決策として以下の組み合わせにより、+1,100万円でEV化が可能な低価格EVバスを実現した。(ライフ3万台前提)
*中古の低床路線ディーゼルバスから既存のエンジンを取り外し、車体をEV用として再利用する。EV化により運転の容易化、快適性の向上も実現できる。
*普及型EV乗用車である日産リーフのモーターとバッテリーを活用しコストを下げる。
*バッテリーは40kWhのパック4個を並列接続して大容量化し、収容箱形状もバス搭載用に変更。
*モーターは日産リーフ用2機を大容量減速機で連結し高出力モーター化、かつ変速機不要化。
*搭載バッテリー量は50q走行をカバーする程度にして軽量化し、急速充電システムによる車庫での継ぎ足し充電を行うことにより、終日の運航を可能にした。
*制動を回生ブレーキでカバーすることにより、ほとんどアクセルペダルの操作だけで車庫から出て車庫に戻ってこられるため、運転しやすく疲れない。
・これによりバスの運転士には「運転しやすい、疲れない」、バス利用者には「揺れない、静か」、バス事業
者には「低年式車の再活用、運転技術が楽」などのメリットが生まれた。
・設計仕様と生産技術の標準化を図ることにより、全国の車両改装業界メーカーでのEVバスの生産が
可能になると期待される。
・あわせてEVバス大量導入の仕組み作りを進めている。

(3)実証試験(熊本事業)
・熊本市近郊を16,000q(116q/日)走行した結果、動力性能、静粛性、冷暖房、航続距離、燃費、環境性能の観点からの評価が高く、路線バスとしての実用性は十分と評価された。さらに変速機は不要との判断が得られた。

(4)実証実験(横浜事業) 
・熊本で実証したEVバス技術に、バッテリーの容量増、急速充電器性能アップ、変速機廃止、などの改良技術を織り込み、渋滞路が多い、登坂路が多い、利用者が多いなどのバスの運行がさらに厳しい横浜市で2018年10月から2020年1月末にかけて実証実験を行なった。走行実験は昨年の10月28日から今年の1月末まで3か月間で、営業運行は4千q、輸送人員1万6千名で、曜日ごとに異なる路線を走行した。変速機を不要としたため軽量化ができ、バッテリー搭載量にマージンができたり、駆動系伝達効率アップなどの種々のメリットが得られた。
・実証試験の結果、運転士からは発進・加速性能、登坂性能、制動性能、音振性能、等々の観点から路線バスとしての性能は十分と評価された。また利用客からも静粛性、乗り心地等で高い評価が得られ、EVバスへの期待が大きいことが分かった。
・実証試験車からのCO2排出量はディーゼルバスに比べて―38%と推算された。
・実証実験条件下では、電力の基本料金が高いことが原因で燃料費用はディーゼル車に比べ倍近く高くなってしまった。

(5)今後の展望 
・普及型EVバスの技術の確立を目指す。
 実用的な低床路線バス
 バッテリーの再利用、運転の容易化などの新たな付加価値
 全国の改装車工場での生産の可能化
 低価格化ポテンシャルの追求、などなど

・社会実装の推進(事業化)を図る。
 EV路線バスの普及
 いろいろな用途へのEVの拡大
 電力会社との連携
 非常用電源としての防災への活用
 再生バッテリーの活用、などなど

4.質疑応答

主な質疑は以下の通り。

Q.全国で生産可能ということはどういうことか?
A.バスの製造はシャシーメーカーではなく車体工業会の改装車メーカーで行なうため、全国各地に対応できるメーカーがあり、10社くらいが手を挙げている。

Q.バッテリー量はもっと減らせないのか?
A.熊本事業では容量がぎりぎりだったが、横浜事業では容量の3割くらいしか使っていないため余裕があった。全国への適用を考えたら継ぎ足し充電があれば現状で十分だと考えている。

Q.電気代が高価になったとのことだが、発電設備を持つごみ焼却施設のごみ収集車であれば電気代は不要なので、今回のEVバス技術をごみ収集車に適用してはどうか?
A.ゴミ収集車のEV化には別事業者が国の事業として実証試験もやっているので、そちらの方にお任せしたい。

Q.中国のBYDがEVバスに進出しているが、これに風穴を開けてほしい。
A.BYDのEVバスとの直接比較はむつかしいが、わが方はBYDのEVに比べバッテリーの搭載量が約半分しかないので充電なしでは走れない。 しかし回生制動で100の使用電力の内50がバッテリーに戻ってくるため、電費性能ではわが方が圧倒的に良い。

Q.バスの車体や室内の改造は必要ないのか? また日野やいすずのバスでも使えるのか?
A. このバスは改造申請で認証をとっているので、もともとの強度部材やフロアはそのまま使用せざるを得ず、改造はしていない。バッテリー搭載のための新しいフレームやブラケットは元の車両の骨格に繋げている。どの会社製のバスも車体のレイアウトはほとんど同じなので対応できる。

Q.使用済みバッテリーの再利用はしているのか?
A. 再生バッテリーの利用はしておらず、新しいバッテリーのみ使用している。バッテリーの劣化は観測しているが、データは公表できない。

Q.日野自動車、いすゞ自動車などとタイアップして、路線バスをEV化できないか?
A. 彼らの収益源はトラックがメインであり、バスには興味がなくむしろお荷物扱い。このままだと日本はますます遅れていく。

文責 : 小栗武治


講演資料:普及型EVバス技術開発の概要
          
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