講師:NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)理事・主席研究員 水戸部 啓一様
Web視聴開始日:2021年7月21日(水)
聴講者数:53名
報告担当: 正会員 橋本 升
講師紹介
・(株)本田技研研究所にて商品開発プロジェクト、技術研究、商品企画室マネージャーを経て、本田技研工業(株)環境安全企画室長、経営企画部長
・2010年に退職後、神奈川工科大学非常勤講師、専修大学兼任講師、専修大学社会科学研究所客員研究員を経て、現在、(NPO)国際環境経済研究所理事・主席研究員、早稲田大学自動車部品産業研究所招聘研究員などに就任。
講演の概要
・昨年、気候変動問題への取り組み気運の国際的な高まりから、英国やカナダ、米国などから相次いで2030年代に化石燃料を使用する自動車の販売を禁止する方針が打ち出された。 また日本政府も昨年10月に2050年カーボン・ニュートラルの実現を掲げ、2030年代半ばに電動車xEV(注)100%を目指すとしている。
・一方で、ガソリンエンジンなど内燃機関車からバッテリー電気自動車などへの転換はエネルギーの低炭素化や資源、そして消費者の意識改革など普及のための様々な課題を持っている。また急激な変化は自動車産業のみならず日本経済への影響も極めて大きい。
・これらの課題を踏まえて日本の自動車産業の行方についてご講演をいただいた。
(注):本報告中にある電動車に関わる用語をまとめておく。
ICE(Internal Combustion Engine):内燃機関。ガソリンやディーゼルエンジン等。
BEV(Battery Electric Vehicle):バッテリー電気自動車。一般的に言う電気自動車/EV。
HEV(Hybrid Electric Vehicle):ハイブリッド車。
PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle):プラグイン・ハイブリッド車。
FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle):燃料電池自動車。
PEV(Plug-in Electric Vehicle):プラグイン車。BEVやPHEVなど外部から充電可能な車
xEV(Electrified Vehicle):電動車。電動化された車(HEV,PHEV,BEV,FCEV)の総称。
ZEV(Zero Emission Vehicle)、ZEV規制:米国カリフォルニア州。
ZEV(BEV,FCEV等)を主要メーカーに一定割合の販売義務付け。
NEV(New Energy Vehicle/新能源車)、NEV規制:中国。
NEV(BEV,PHEV,FCEV)を生産(輸入)事業者に一定割合の生産(輸入)義務付け。
T.主要各国のICE車規制等の動向
T-1)電動車両を巡る動きとEVシフト
気候変動問題が顕在化した1992年に気候変動枠組み条約が採択され各国の重要な課題となった。2008年の洞爺湖サミットに報告されたIEAの2050年2℃の技術シナリオでは、自動車は2050年までに90%以上が電動化される必要があるとされ、自動車企業や各国の政策担当者に大きな方向を示した。
電動車両を巡っては、米国カリフォルニア州が大気汚染問題から1990年にZEV法を制定してBEVやFCEVの実用化を促し、2012年には2018年以降のZEV拡大の枠組みが定まった。同年、中国は自動車産業政策の柱としてNEV規制案を発表し、電動化に重点を置いた。それらの情勢に加え、2015年にドイツVolkswagenのディーゼル排気ガス不正認証問題が発覚し、それを契機に欧州メーカー各社は気候変動対策として電動化戦略を打ち出し、電動シフトは大きなテーマとなった。
T-2)主要各国のICE車規制等の動向
2015年に主要排出国を含む世界のすべての国が参加するパリ協定が成立した。パリ協定では自国の目標を提出し管理するプレッジ&レビュー方式がとられ、長期目標として世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃以下に保つとともに、1.5℃に抑える努力をするとなった。2018年にIPCCは「1.5℃特別報告書」で、1.5℃以下に抑えるモデルではCO2排出量が2050年頃には正味ゼロに達するとの結果を示した。それ以降、EUや主要国で「カーボン・ニュートラル」宣言が相次いでいる。それらの影響から、ガソリンやディーゼルなどの化石燃料を使用するICE車から、CO2や大気汚染物質を排出しないZEVへの転換が各国政府の重要な政策課題となった。世界におけるICE車規制や強化の動きを以下に概観する。尚、各国のICE車販売規制方針は発表のみで、法的な枠組みは今後検討される。
(フランス)2017年:2040年から化石燃料車販売禁止方針を公表。
(英国)2017年:2040年からガソリン・ディーゼル車の販売禁止方針を公表。2020年:2030年(PHEVは2035年)に時期を前倒しとすると発表。
(米国)2020年:米カリフォルニア州知事は2035年に全てのLDV(light-Duty Vehicle:乗用車相当)をZEVとすることを要求するよう州政府に指示。
(カナダ)2020年:ケベック州は2035年にガソリン車新車販売禁止する計画を発表。
(中国)2020年:中国NEV規制改正。2021年以降のNEV比率アップと低燃費車を新設。2035年に環境対応車(NEVと低燃費車)で100%とする目標を発表。
(日本)2020年:経産省は、2030年代半ばに電動車(xEV)100%を目標とすると発表。
U.プラグイン車PEV(BEV+PHEV)の現状
U-1)世界の新車販売とPEVの状況
世界の新車販売台数は2017年に9千6百万台を超えたが、その後中国市場の低迷と、2020年にはコロナパンデミックの影響で8千万台を下回った。PEVの販売は全体市場が落ち込む中で成長を続け、PEV販売比率は4%を超えてきた。2020年のPEVの販売台数は312万台で、BEVが7割、PHEVは3割となっている。欧州が137万台、中国が127万台とこの2地域で世界全体の85%ほどを占めるが、それまでPEVのけん引役の中国が減速し、パンデミックの経済対策による補助金を増額した欧州が急速な成長を遂げている。
U-2)PEVの新車攻勢と中国市場低価格EVの躍進
世界におけるPEVのモデル別の販売状況は2018年から2020年では大きく変化し、半数以上が2018年以降発売の新型車となった。特に中国や欧州で小型のBEVが伸びている。中国市場では基本モデルで約45万円の低価格な超小型EVが2021年上期のトップとなった。大都市のナンバープレート発給規制の優遇を受けられることが一要因。一方で欧州、特にドイツでは経済対策で補助金を上積みした結果で小型クラスのBEV購入が増えたと言われており、低価格のニーズは高い。
V.ICE車販売禁止政策の課題
V-1)気候変動対策としての実効性
ICE車を禁止し、BEVに転換すればCO2の排出をゼロにすることができるということでは無い。GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)の排出を製造から使用、廃棄までのライフサイクル全ての段階で削減されなければ実効性のある対策には繋がらない。
総合的なエネルギーの評価としてWell to Wheel(油井から車のホイールまでの意味)で見た場合、2015年のデータでは、中国、インド等の石炭火力発電の多い国で使われるBEVはHEVよりCO2排出が多い結果となる、一方で水力発電がほとんどを占めるノルウェーや原子力発電が主力のフランスでは5g-CO2/km以下とほぼゼロとなる。
車のライフサイクルの全てで発生するGHGの評価(LCA)では、リチウムイオン電池の製造に、大きなエネルギーを要することから、大容量の電池を搭載したBEVは、発電のCO2排出が多い場合にHEVやPHEVと比べてGHGの排出は多くなることがある。
Well to WheelでもLCAで見ても発電の低炭素化はBEVの気候変動対策の実効性を高める上で必須であり、電動車政策の中に含まれるべきである。
V-2)BEV普及の技術課題
BEVは走行時にCO2の排出ガスがゼロ、自宅でも充電可能、充電コストが安いなど優れた特徴がある反面、充電にかかる時間が長く、一回の充電で走れる距離が短く、また価格が高いと言う問題がある。その為に普及がなかなか進まず、各国政府は補助金などの優遇処置や充電スタンドの増設を進めている。BEVには高性能なリチウムイオン電池が用いられているが、材料にリチウムやコバルト、ニッケルなどの高価なレアメタルを用いることなどからコストが高く、性能や安全性などを満たした車はICE車の同級車に比べて100万円以上価格が高くなっている。
1)リチウムイオン電池のコスト
BEVの車載用リチウム電池の性能向上とコスト低減は大きな課題であり、各国が戦略的に研究を進めている。ガソリン車同等の性能と車両価格を狙う革新的電池の研究と並行して、現状のリチウムイオン電池の改良や先進的電池の開発が進められている。コストの目標は2020年代初めにおよそ100USD/kWhを目指している。また従来の2倍以上の性能と安全性を持つ全固体電池の研究が進んでおり、トヨタは2020年代の早い時期に実用化する計画である。
2)リチウムイオン電池と資源問題
BEVの普及拡大に必要なリチウムイオン電池の確保も大きな課題である。リチウムイオン電池に使われるリチウムやコバルト、ニッケルなどは資源量が限られており、また生産増加にも多額の投資が必要となる。現在、300万台レベルのBEVが仮に2030年に新車販売の30%の2650万台くらいになるとすると、電池は1640GWh/年が必要と推計され、リチウム、コバルトの需要は現在の生産量の数倍となる。これらの生産拡大には資源の埋蔵量や偏在化など様々な課題があり、既に囲い込みも始まっている。
因みに、リチウム、コバルトの埋蔵量、生産量は下表の通り。(表1)

一方、リチウムイオン電池製造時のGHG排出でもニッケル、マンガン、コバルトなどが主な要因となっており、材料の見直しによるこれらの使用削減やリサイクルも重要である。
EU委員会は「バッテリー規制改正案」を2020年に発表している。主な内容を下記に示す。
・ライフサイクル全体でのカーボン・フットプリント上限値導入(2027年〜)
・コバルト等再利用材の使用量の開示(2027年〜)
・再利用材使用割合の最低値導入(2030年〜)
3)BEV普及のための充電インフラ整備
充電インフラの整備は未だ充分ではなく、特に急速充電が可能なスタンドの数は日本でもガソリンスタンドに比べ3分の1程度。またマンション等では普通充電スタンドの設置も進んでいない。今後、日本政府はガソリンスタンド並みの利便性を確保することを目標にインフラ整備を進める計画である。また欧州でも充電インフラの不足や一部の国に偏っているなど、汎欧的な改善が必要となっており、各国政府も対策を進めるとしている。
(注):現在の各国の充電スタンド数(普通/急速)を下表に示す(2017年)。(表2)

V-3)消費者の選択
電動車が普及するか否かは、最終的には消費者の選択による。特にBEVについては従来の車と比べて、価格が高い、1回の充電で走れる距離が短い、充電時間がかかるなど利便性が低い、また電池の交換費用が高く中古車価格が安いといった消費者の懸念が強く、販売は低迷している。一方でHEVは市場の3割を超えるなど普及が進んでいるが、その大きな要因は減税などの優遇策と燃費基準、メーカー努力によるHEV車のモデル数増加があげられる。消費者は選択肢が増えることでHEVを選ぶ機会が多くなった。BEVの場合は補助金や充電スタンドの増設などで抵抗感は少しずつ改善されてきたが、まだモデル数は少ない。今後、メーカー各社は中国、欧州を中心に多くのモデルを投入するとアナウンスしている。
消費者の(従来車に比べて) BEV購入のブレーキになっている要因と、それぞれの改善状況を下表にまとめた。(表3)

V-4)販売規制のありかた
ICE車の販売規制を表明した国や地域において、まだその法的な枠組みは決まっていない。
法制化の検討は今後進むが、それに伴う以下のリスクを充分に考慮し、経済や産業競争力等を加味した制度設計を行う必要がある。
@過剰な規制によるメーカーの経済的リスクが大きい。
A消費意欲低下による販売減は経済に大きな影響
1)販売規制の方法
販売規制は自由な経済活動に制約を与えるものであり、制度設計には注意が必要である。これまでの販売規制に類似する規制では、主としてメーカーを対象とした規制が多い。しかし消費者が購入しなければ規制は実効性に欠けることから、消費者には優遇などの誘導策が合わせて用いられている。以下にその例を示す。
@ 販売規制:対象=メーカー・・消費者の選択に委ねられ確実に売れる保証はない。
・米カリフォルニア州ZEV規制
・米国、欧州などの燃費規制
A 生産または輸入規制:対象=メーカー・・売れなかった生産車はメーカー在庫となる。
・中国NEV規制
B 間接規制:対象=個人
・中国その他の都市部乗り入れ規制、ナンバー発行規制など
・欧州、日本など税の重課、軽課
・燃料税、揮発油税などの重課
・CO2課税
C 優遇政策による誘導
規制の方法は@〜Bの組み合わせの可能性があるが、2030年代半ばまでの限られた時間を考えれば強力な優遇措置の継続と政策の柔軟な運用が必須である。
2)主要メーカーの電動化計画
主要各社はICE車規制の潮流の中で電動化への対応を発表しているが、それぞれの戦略に応じた内容となっている。コアとなる電池についてはGMやVolkswagen Groupなど欧米各社は電池の生産に重点投資を行う計画で、日本メーカーは各地域の電池メーカーとのパートナーシップを進めているが、懸念もある。その為に、日本も資源確保やリサイクルなどを進める「電池サプライチェーン協議会」を2020年に設立した。
(GM)2035年までに、すべての新車をZEVにする。今後5年間で、電動車と自動運転車に270億ドルを投資。バッテリー新工場(米国テネシー州)に23億ドルを投資
(Ford)欧州で販売する乗用車を2025年までにPEV、2030年にBEV100%電動化への投資額を2025年までに、300億ドル以上に増やす。EV向けバッテリーの開発・生産を目指す。
(VWG)2030年までに、グループ全体で約70車種の新型BEVと約60車種の新型HEV・PHEVを、市場に投入する予定。
電動化などの次世代技術への投資を約730億ユーロに増額。
・電池工場を6カ所建設、合計240GWh
・欧州全体に350kW急速充電ステーション網を25年に20年比5倍に拡大
(トヨタ)グローバルで2030年電動車800万台、内BEV+FCEV200万台
電池はパナソニックと合弁、中国でCATLとパートナーシップ、BYDと業務提携。
(ホンダ) 先進国全体でのEV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年に80%、2040年には、グローバルで100%。
電池は中国でCATLと包括的アライアンス提携、米国でGMと共同開発。
(日産)2030年代早期に世界主要市場で販売するすべての新型車を電動車。
Envision AESCと共同で英国、日本に電池工場新設
3)カーボンフリー燃料・水素とe-Fuelの動向
CO2を排出しない燃料として、再生可能エネルギーから作った水素や、回収したCO2と水素から作る合成燃料(e-Fuel)の研究が進んでいる。水素はFCEVに用いられるが、各国政府は太陽光などの変動電源のエネルギー貯留・輸送手段としての検討を進めている。一方で、ICE車に利用可能なe-Fuelはドイツを中心に研究が進んでいるが、日本もCCUS(Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage)/カーボンリサイクル燃料として研究が着手された。
W.ICE車禁止と日本の自動車産業への影響
W-1) 日本の自動車市場の現状と日本政府の目標
1)全体需要は2020年を除き横ばい傾向(概略500万台/年)の中で、PEVの販売は2017年約5万4千台をピーク(日産Leafのモデルチェンジ時期と重なる)に2020年で3万台弱と減少傾向。ランキングは、日産Leaf、トヨタPrius PHV、三菱Outlander PHEVの順。
2)日本政府の目標:政府は2050年温室効果ガス8割削減、乗用車は100%電動車の目標を掲げていたが、カーボン・ニュートラル宣言を受け、2021年6月の「グリーン成長戦略」で、2035年までに乗用車新車販売で電動車100%を目指すとした。2019年実績では、151万台(35.2%)。
3)電動車普及促進策
電動車の普及促進策としては、購入のインセンティブとして補助金や減税、また利便性を高める充電や水素充填スタンドの整備費用の補助もが行われてきている。補助金は国や地方自治体などが行っており、年度で変わるが、2021年度のCEV(Clean Energy Vehicle)補助金はBEVで一充電走行距離に応じて最大42万円、PHEVでは最大20万円となっている。
W-2) 日本の自動車メーカーへの影響への影響
日本の自動車産業は全製造業の製品出荷額の18.8%で設備投資額や研究開発費も2割を超える基幹産業である。また世界生産のおよそ2割が日系ブランドで占めるグローバルビジネスを展開しており、世界各地域の販売規制の行方は大きな影響がある。以下でその影響について検証する。
1)BEV生産に伴う自動車工場への影響
現生産工場でBEVとエンジン車の混流生産は可能である。エンジンやトランスミッションの鋳造や加工などを行ってきたパワープラント工場は設備や工程が変わるが、完成車工場は大きく変わらない。
2)BEVと企業収益の変化
BEV化に伴い、現在内製されているエンジンやトランスミッションの製造コストに比し、リチウム電池のコストが大きい。電池が外部からの購入品となると製造原価に占める購入部品費の割合が増加し、これらによって自動車製造会社の付加価値減少と原価管理の主導権が弱体化することが懸念される。
3)日本のZEV(BEV,FCEV)生産と輸出に伴う影響
日本の自動車メーカーや部品メーカーに影響を与えるICE車の生産は、国内のZEVと輸出のICE車の規制を宣言した地域や国のZEV台数を推計すると、2035年頃にはBEVやFCEVのZEVが36%で、ICE搭載車(HEV、PHEV含む)は64%となる。従ってICE車からZEVへの切り替えは断層的でなく暫時進むことになる。尚、EUへの輸出はLCAや国境炭素調整などのGHG排出規制動向に注意が必要。
W-3)部品産業への影響
BEV化に伴い、エンジン関連や駆動系部品などを中心に自動車部品産業の製品出荷額の影響は約3割と見込まれる。特に事業影響が大きいのは、それらの関連メーカーやTeir2以下の専業メーカーで、切り替えが進む今後十数年のうちに事業の構造転換を進める必要がある。また海外生産向けの部品輸出はZEV規制国向けに影響がある一方で、拡大が見込まれる進展国へのICEの部品輸出は当面堅調に推移する見込みである。
W-4) 車載用リチウムイオン電池産業の課題
BEVなど電動車両のコア技術である車載用リチウムイオン電池は日本メーカーがトップシェアを占めていたが、現在では中国及び韓国企業にリードを許している。その要因は、BEV市場の拡大が見通せない中、大型投資を控えてきた日本企業に対し、中国政府の電動化政策に沿って積極的な投資を行った中国企業や韓国企業がコストで優位になったことにある。同時に電池素材も日本企業からコストが圧倒的に安い中国企業へシフトしている。しかし、EUのLCAや国境炭素調整にみられるように今後のブロック化の進展を考えると、コストの大きな電池の日本生産は重要である。既にリチウムやコバルトなどのレアメタルも中国のシェアが高まる中、日本も電池サプライチェーン協議会を設立したが、早急に実効のある取り組みが必要である。
X.まとめ
パリ協定の努力目標1.5℃への議論が進む中、EUや米国、日本など主要国では2050年カーボン・ニュートラルが重要な政策となってきた。英国の2030年ICE車販売規制発表にみられるようにEUの政策はトップダウン・アプローチが取られることが多い。しかし、気候変動対策としては、フランスやノルウェーのような発電時のCO2排出が極めて少ない国を除くと、現時点ではライフサイクルの排出でBEVが優れているとは言い難い。トップダウン・アプローチではそのギャップを埋めることが必要であり、気候変動対策としての今後の当局の手腕が問われている。また実施状況に応じて、実効性や課題に柔軟に政策を運用することが必要である。
一方で、日本の自動車産業は国内における基幹産業であり、またこれまでグローバルビジネスでの高い競争力を有してきた。中国のNEV規制や欧米のICE車規制への対応は個々の日本企業の大きな課題だが、日本の自動車産業としての競争力をどう維持し高めるかは日本の政策者が考慮すべきことである。気候変動対策には様々な手段とパスがあり、実効性と実現性のその最適化を図るとともに、日本の自動車産業が優位であった産業基盤を時代の転換に合わせて強化する必要がある。世界のブロック化が進む中で、リチウムイオン電池や制御半導体などコアとなる技術の開発と生産を国内で進めるためには、大型生産投資などのリスクを取る経営環境も必要になる。これまで日本は太陽光パネルや半導体、リチウムイオン電池など世界のトップシェアを持つ多くのリーディング技術で、資金の逐次投入などから徐々にシェアを落としてきた。日本にはリスクがとれる社会的な変革が求められる。
Q&A
Q1:電動車化や自動運転などが進むと,開発資源不足の問題がでてこないか?
A1:開発資源はクリチカルで大きなテーマ。システムを変える必要がある。これからは自動運転などでソフトウェアがさらに重要になる。ソフトウェア開発の仕組みを変えることと、ハード開発に外の資源をどのように活用するか等大きな課題で、開発資源の組みなおしが行われている。
Q2: e-fuelが開発されたとして各国政府の政策への影響対応は?
A2: e-fuelは電動化の難しい航空機や船舶などの利用に注目している。まだコストが非常に高く実用化までには時間がかかる。自動車については政策的に様子見の状況と思われる。
Q3: 経産省が、EV100%計画を2030年半ばに前に前倒してにもってきたが、どういう流れがあったのか?
A3: 2050年電動車100%というのも、経産省と自動車業界の検討会の中でしては温暖化対策目標から導かれた緩い目標だったが、カーボンニュートラル100%の政府方針を受けて経産省が自動車業界へ前倒しを要請したものと思われる。電動車両はHEVHybridを含む。EV電動車両100%目標の中で、軽自動車のHEV化は難しい課題。
Q4: 軽自動車のBEV化は成立するか?
A4: 日産とホンダは考えているとの話。中国で超小型低価格BEVが出てきてナンバー規制などもあり売れている。ドイツは長距離を大型車に任せ、の小型のBEVは毎日の通勤用に補助金も増えたのでという選択だと言われている。日本でも我が家に2台あればの1台は小型BEVも成立する可能性がある。但し価格が安くないと難しい。
Q5: 中国の動きと日本の対応は?
A5: 中国の自動車産業発展計画の目標の一つは電動化。輸出競争力とコア技術として電池を固めていく。資源も押さえる。リチウムやコバルトなどの精製も中国がトップ。VWは中国がマーケット。ドイツと中国は密接。日本も中国市場のシェアが大きい。日本はこの両方で成り立っているが、米中関係次第ではどちらかにシフトすることになる。
以上