2021年08月26日

EVFセミナー報告:「自動車とエネルギー」〜燃費、各国制度、エネルギーを巡る状況など〜

演題:「自動車とエネルギー」
  〜燃費、各国制度、エネルギーを巡る状況など〜
講師: 江澤正名様
  経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー課長

Web視聴開始日:2021年8月26日(木)
聴講者数:61名

講師紹介

・1995年東京大学工学部卒、通産省入省。石油部 精製課 係長、2003年自動車課 課長補佐(環境・技術担当),2007年ワシントン大学公共政策大学院修了。
・2012年資源エネルギー庁 電力需給流通政策室長、2016年同庁 石炭課長、2018年同庁 新エネルギー課長、2019年同庁 省エネルギー課長、現在に至る。

講演概要

・世界は気候変動問題への取り組み姿勢を強め、主要各国は電気自動車(EV)の普及を急ぎ、急速に化石燃料を使用する自動車の販売を排除する気運にある。日本政府も2050年カーボン・ニュートラルの実現を掲げ、2030年代半ばに電動車100%を目指す方向を打ち出した。長年自動車行政に携わってきた講師には省エネルギー課長の立場にとどまらず、エネルギーから見ると自動車はどう見えてくるのか、この先わが国の電力構成の変化と、自動車業界は環境対応、省エネ対応をどうするのか、目指すべき方向についてご講演頂いた。
・2050年のカーボンニュートラル実現のポイントは、比重を増大させざるを得ない太陽光発電を使いこなせる見通しを持つことであり、そのためには電力需給の調整弁にも使える自動車のEV化が不可欠である。自動車産業の競争力強化と、2050年カーボンニュートラルを組み合わせ、これら二つを同時に進める戦略的思考の重要性が強調された。講演は大変分かりやすく、質疑応答も具体的で活発に行われ充実のセミナーとなった。

講演内容

T.自動車燃費の推移と燃費規制の変遷
・わが国の乗用車燃費基準は1999年に導入され、以来3回基準値の引上げがなされたが、いずれも前倒しで達成、国内メーカーの国際協力を高める結果となった。2030年度燃費基準は2016年実績値に比して32%の燃費向上の大よその平均数値例でいえば25、4km/Lと策定された。

U.主要各国の自動車の燃費規制等
・自動車の販売台数の多いEU、米国、中国の燃費規制等を日本と比較してみると、いずれもCO2排出規制はわが国より厳しい。EUと米国(カリフォルニア州等)は、排出規制を超過すると多額の罰金をかけ、一方EVを販売すると罰金が大幅に減額されるシステム。カリフォルニア州等ではEV専門メーカーのテスラがこの利益を享受し、トヨタなどが罰金を支払っている構図となる。中国は燃費規制に未達の新型車は型式認定が認められない。(詳細は資料7頁〜9頁参照)
・わが国よりも厳しい燃費基準や市場環境が世界標準となり、相対的に緩い日本の規制でガラパゴス化し、結果として日本の自動車メーカーの競争力が低下することが懸念される。

V.エネルギー供給の変化
・第5次エネルギー基本計画(2018年7月3日閣議決定)においても再生可能エネルギーの主力電源化を目指すことが明確化された。今後はさらに太陽光、風力発電の規模拡大が必要とされているが、気候、昼夜の出力変動をいかに調整できるかが大きなポイントとなる。
・近年、エネルギー需給構造に革新的な変化を及ぼす流れが生まれている。それは太陽光コストの急激な低下、デジタル技術の発展と電力システムの構造転換の可能性、小売り自由化など電力システム改革の展開、再エネを求める需要家とそれに応える動き等である。2年前から順次、FIT買取期間を終え安価な電源として活用できる太陽光電力が大量に出現しつつある。
・電気は発電量と使用量が常時拮抗している必要があり、近年、再エネ出力制御(発電抑制=接続拒否)が頻発している。発電抑制時の昼間の時間帯には電力価格が最安値(卸電力市場で0,01円/kWh)になるものの、その安い電力の活用がなされていないのが実情。

W.EVDP(ダイナミックプライシング)実証事業・VPP(バーチャルパワープラント)実証事業

1) EVDP(ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト)の実証
小売電気事業者が卸売電力価格に連動した時間別料金を設定(=ダイナミックプライシング)し、EVユーザーの充電ピークシフトを誘導する実証を実施中。⇒太陽光発電が盛んとなる日中に電力需要をシフトするために、各家庭のガレージにあるEVに充電してもらう。

2) VPP(バーチャルパワープラント)の概要
VPPとは、太陽光発電等の再生可能エネルギー発電設備や蓄電池等のエネルギー機器、系統上に散在するエネルギーリソースを遠隔に制御し、電力消費量や発電量を増減させ、それらを束ねることで発電所のような電力創出・調整機能を仮想的に構成したものをいう。この需給バランスサービスの仲介を行う司令塔役をアグリゲーターと称する。

3) EVDP及びVPPの意義:再生可能エネルギーの導入拡大
近年の再生可能エネルギーの急速な導入拡大に伴い、自然変動電源(太陽光・風力)の出力変動が系統安定に影響を及ぼしており、これを吸収するための調整力の確保が喫緊の課題。そこで、EVDP及びVPPは再生可能エネルギーの供給過剰を吸収することで再エネの導入拡大に貢献することが大いに期待される。

4) エネルギーシステムとEVの融和
将来EVの普及が拡大して従来通り充電時間を自由とすると時間帯別に充電ピークが発生し、電力系統に悪影響を及ぼす可能性があるが、エネルギーシステムと連携することによりその課題は回避しうる。またEVは非常時の供給源としての価値、蓄エネ価値、また電力系統の需給調整機能の価値等、多様な価値を創出することにもつながる。

X.蓄電池としてのEV
・近年普及し始めている家庭用蓄電池は容量が7kWhと小さいが、EVに搭載されているバッテリーは大容量(40kWh)で且つ、バッテリー価格としては価格が割安である。EVの日中在宅率は70%との調査があり、昼間に太陽光発電を蓄電する大容量の”走る蓄電池”として有効に活用することが期待される。
・家庭用蓄電システムの自律的導入拡大を実現するため、目標価格を設定しそれを下回った蓄電システムに対しての支援制度がある。年々目標価格を低下させているのに対して、市場価格が追随して下落してきている。
・再エネを活用するためには、蓄電機能とモビリティ機能を有する電気自動車の最大限の活用が必要。すなわち、太陽光発電の余剰電力をEVの充電に活用し、蓄電したEVから家庭に給電できるシステムの構築が望まれる。
・2019年9月に千葉県で発生した強力台風被害による長期間の停電では、自動車メーカーが被災地にEVを派遣、給電することにより大きな貢献をした。非常時に電動車から給電できることが広く認識されていないというそもそもの課題も存在。

Y.まとめ
・EVの普及は燃費の向上と大容量電池として大きな付加価値を生む。そのためにはEVが電力システムに貢献出来るようにすることが必要。一方、わが国自動車メーカーは各国の厳しい規制、EV普及促進策に積極果敢に挑戦して競争力を維持して欲しい。「自動車産業の競争力強化」と「2050年度カーボンニュートラル」を同時に進める戦略が必要である。
・将来のクルマ
クルマ好きな講師が最後に私見として将来の車として次の車を挙げた。BEV:バッテリーで動く電気自動車、PHEV:プラグインハイブリッド車、HEV(シリーズ):エンジンは専ら発電機として機能し、駆動はすべてモーターが行うハイブリッド車。

(主な質疑応答)

Q1:“ゆがんだ市場も市場だ”とのこと、EUや中国のEV促進策はガソリンエンジン車の牙城である日本を引きずりおろそうとの作戦が隠れていないだろうか。
回答) そういう懸念も考えられるが各国の規制にイヤイヤ合わせてゆくとある時、後れをとってドラスチックに負ける。先んじて行く方が戦略としては正しいと考える。

Q2: EV化が必要なのはわかった。私は最近900世帯のマンション群から地方都市の90世帯のマンションに移住した。前のマンションにはEVは1台も見当たらず、今のマンションには充電設備が1台分しかない。駐車場に充電設備がないとEVは普及しない。
回答)私は住宅の省エネルギーにも関与している。マンションにはEVの充電設備のほか、省エネルギー向け給湯器の普及も大事であり、いいご指摘だ。

Q3:前の質問と重複するかもしないが、EVは価格が高いこともあって必ずしも日本では盛り上がっていない。日本市場をガラパゴス化しないためこれから欧米並みに規制を強め、強制的にEV化を進めようというお考えでしょうか。
回答) 日本も2035年に電動車100パーセンと言っているので、何らかの形でEV化する方向にはある。それをどのように実現してゆくべきかが思案のしどころである。確かにEV 普及のカギは価格で、搭載するバッテリーの価格の動向次第だとの見方があるが、バッテリーの製造は今や自動車メーカの自社開発ではない。ハイブッドに強い日本メーカーの技術をもってすればEUなどにはに負けない。米国のEV専門メーカのテスラの車を見て”これなら負けない”と言ううちにEV化を進めた方がいい。出遅れると追いつけなくなるという懸念もある。

Q4: ヨーロッパではハイブリッド車が少ない。日本のハイブリッド車を排除しているのではなかろうか。
回答) 走行モードの違いだろう。ハイブリッドはストップ&ゴー、頻繁に加減速のある日本の街中のような走行がハイブリッド車の強み。またヨーロッパ車のエンジンンの燃費も向上しているという事情もある。

Q5:バイオマス発電は FIT制度への適合はパーム油しかない。他の植物の油も認めていただく方向にあるが、パーム油以外のバイオマス発電にも力を入れて欲しい。
回答)バイオマス発電は電力供給の調整力があるので大事と思っている。非化石燃料の中で、EVを活用すれば太陽光発電が特に使いやすいということだ。

ところで中国がなぜEVにシフトするかと言えば、国内に石炭資源が豊富なため、石油など海外資源に依存せずに国内資源だけで発電でき、それでEVを動かそうとしているのではないか。ほかにノルウエーなどは水力が豊富なため水力で発電し、EVを動かそうとしている。各国の自動車政策はCO2ゼロという視点だけではないことに留意すべきだ。

Q6:EVが増えるとエンジンが不要になる。エンジン回りにいる業界の多くの雇用が失われることが心配だ。
回答)既存産業の雇用を維持するために競争力強化から目をそらすということは負けのシナリオになってしまう。そうするとある日突然、雇用が無くなる時が来る。そういうことがないように少しづつ準備していくのが大事ではないか。

Q7:日本には7,000万台の乗用車があると言われているが、これらがEVに置き換われば、時間帯によって生じる余剰電力を吸収できるか。
回答)太陽光で日中発生する余剰電力を吸収する力として、電動車の瞬時にためる蓄電能力に大いに期待しているところだ。

Q8:マンション居住者のEV充電のために、居住地区近隣のガソリンスタンドを2030年に間に合う期間に十分な量の充電ステーションに切り替えるという考えは如何でしょうか。
回答)ガソリンスタンドにおける充電設備の設置も一つの考え方ではあるが、急速充電であっても充電にかかる時間は数十分程度と長く、多数のEVがステーションに集中してしまう等、課題も多い。マンションにおける充電設備の設置なども含め、どのような充電設備の整備が必要になるかは重要な論点だ。
文責:佐藤孝靖

講演資料:自動車とエネルギー〜燃費、各国制度、エネルギーを巡る状況など〜
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