講師:加藤仁様
一般社団法人日本風力発電協会 代表理事、日本風力開発(株) 副会長
Web視聴開始日:2021年11月25日
聴講者数:59名
講師紹介
・1977年3月 広島大学 政経学部 経済学科卒
・1977年4月 三菱重工業(株) 長崎造船所船舶営業部
・2008年4月 同社 本社 エネルギー・環境事業統括戦略室長
・2013年4月 同社 執行役員 原動機事業本部長兼風車事業部長
・2017年4月 MHI保険サービス(株)
・2017年7月 日本風力開発(株) 副会長
・2018年5月 一般社団法人日本風力発電協会 代表理事
講演概要
地球温暖化の影響で、世界各地で異常気象が頻発しており、電力エネルギー源の脱炭素化に向けた取り組みが待ったなしの状況下、有力な再生可能エネルギー電源の柱となる洋上風力発電について、先行する欧米・アジア各国の取組状況を紹介しつつ、我が国における現状と将来展望についてご解説いただいた。洋上風力発電を導入拡大していくことは、温室効果ガス大幅削減による気候変動対策に資するのみならず、エネルギー自給率の向上によるエネルギー安全保障の確立、大型の発電設備の開発・建設に伴う新たな産業の創出により、グリーン・リカバリーを実現していく意義がある。我が国での洋上風力発電の導入は緒についたばかりであるが、欧州における導入に向けた過去20年間の取組みの知見と我が国産業界の技術ポテンシャルを活かし、向こう10年で欧州に追いつくことが可能との展望が示された。EVFセミナーで風力発電をテーマとした講演は初めてで、聴講者も大いに触発され意義深い講演となった。
T. 講演内容
1.世界の洋上風力導入の動き
(1)脱石炭に向けた世界の取り組み
・地球温暖化の影響で、世界各地で異常気象が頻発しており、電力エネルギー源の脱炭素化に向けた取り組みが待ったなしの状況。
・2017年11月に、温暖化の原因となるCO2の一番大きな発生源となる石炭発電からの移行を促進する国際的な連盟「Powering Past__Coal Alliance(PPCA)」が発足。同連盟宣言文では「OECDやEUでは2030年までに、他の国々では2050年までに石炭火力から脱する」とし、そのために、<政府>は現存する従来型石炭火力を廃止、停止、<企業>は石炭火力の電力を使わない、<共通>の取組みとして、クリーンな電力を政策や投資で支援し、CCS無しの従来型石炭火力に対する投資を抑制する、としている。
・欧州では脱石炭火力に向けた動きが進んでおり、原子力発電の比率が高く石炭火力の比率が低いフランスでは2021年中に、英国では2025年までに、産炭国であるドイツも2038年までに石炭火力を廃止する計画を発表しており、ドイツではCOP26で更に前倒しする動きになっている。
・ドイツの状況を具体的にみると、2020年1月、メルケル政権において、2038年までに脱石炭火力を実現する計画について、石炭を産出する4つの州政府と合意。構造転換を後押しする投資などで計400億ユーロ(約4.8兆円)を拠出。RWEなどのエネルギー会社にも計43億5000万ユーロを補償する方針。
・EUでは、域内の温暖化ガスの排出を2050年に実質ゼロにする目標実現に向けて、今後10年で少なくとも1兆ユーロ(約122兆円)規模の投資計画を公表。スウェーデンやフィンランドが電力に占める再エネ比率がすでに4割を超える一方、ポーランドやルーマニア、チェコなど旧東欧諸国は石炭火力の依存度が高く、そうした国々の構造転換を後押しし、域内全体で目標達成していく方針。
(2)欧米・台湾における洋上風力発電の動向
・欧州の電源構成をみると、風力発電は2016年に設備容量ベースで150GWを突破、石炭火力発電を抜いて第2位のポジションとなった。2020年には、EU27ヵ国で再生エネルギーの発電量の割合は38%、石炭火力などの化石燃料の割合37%を抜き、再エネが電力の重要な柱となっている。
・EUにおける2020年の風力発電量は396TWhで前年比9%増。電力構成の割合は14%で再エネ電力の中で最も高い割合となっている。
・欧州で風力発電の普及を図る協会 Wind Europe においては、2019年11月コペンハーゲン開催の Offshore Wind Europe 2019 で、「2050年に洋上風力450GWを目指す」と発表。現状、洋上風力の発電容量は約20GWであり、相当ハイペースの投資が必要。
・一例として、北海の浅瀬に人工島を建設し、洋上風力の建設・メンテナンス・送電系統の拠点(ハブ)にしていこうとのプロジェクトも既に発表され、具体化が進められている。
・英国では、2019年3月に洋上風力発電関連産業にかかる官民一体の協議体「洋上風力セクターデイール」を発足(既存の連絡組織から移行)。政府と洋上風力関連産業界が、2030年までに洋上風力30GWを目指すことに合意。政府は電力買取契約締結で支援する一方、産業界においては、洋上風力発電英国調達比率を60%に引き上げ、直接雇用を現在の7,200人から27,000人に、洋上風力発電関連の輸出を5倍に増やすといった、産業育成政策が進められている。
・米国においては、これまでテキサスやカリフォルニアを中心に陸上風力発電の導入が進められており、既に風力関連部品工場の数は500以上、25,000人超が風力関連産業に従事している。洋上風力発電においても、その導入拡大は雇用創出・投資誘致・港湾や沿岸地域の活性化・国内製造業の繁栄に寄与するものと認められることから、洋上風力発電導入量を2025年に9〜14GW(国内生産率21%)、2030年に20〜30GW(国内生産率45%)とするシナリオを策定。その経済効果は、関連雇用数で 1.9〜4.5万人(2025年)、4.5〜8.3万人(2030年)、年間経済算出量で 6〜16兆円(2025年)、14〜28兆円(2030年)と評価されている。
・アジアに目を向けると台湾の導入が進んでおり、2020年6月時点で128MW(1サイト)が稼働中で、約750MW(2サイト)が建設中。導入目標を2025年に5.6GW、2035年に15.6GWとしている。政府は、現地産業育成のため、風車・基礎・海底ケーブル・使用船舶等に対して、厳しい現地調達要求(LCR)を設定。欧州メーカーは、現地企業との協業や投資・雇用を加速させている。
2.洋上風力を取り巻く国内の状況
(1)第6次エネルギー基本計画におけるエネルギーミックス
・2030年度における再生可能エネルギーの導入目標は、政府目標である2030年度の温室効果ガス46%削減に向けては、もう一段の政策強化等に取り組むこととし、その政策強化等の効果が実現した場合の野心的なものとして、合計3,360〜3,530億kWh程度(電源構成では36%〜38%)としている。
・風力発電(陸上+洋上)の発電量の2030年目標は、陸上17.9GW、洋上5.7GW、日本全体の発電電力量に占める割合で約5%と見込まれている。この目標実現に向け、2030年まで100万kWh/年のペースで、洋上風力発電の入札を実施していくこととしている。
(2)2030年のエネルギーミックスにおける原子力の課題
・原子力の電源構成割合は、第5次基本計画と同じく20〜22%程度(設備容量に換算すると3,356万〜3,779万kWh)であるが、昨今の状況から実際に再稼働となるのは計画を下回る懸念がある。原子力が計画を下回った場合、石炭火力でカバーするという訳にはいかないため、必要な電力が不足するという事態も生じかねない。
・政府においては、再稼働は最低限実現させるとの方針が改めて確認され、これから再稼働を確実に進めるアクションがとられてていくものと考えられる。
・2030年はクリアーしたとしても、原子力発電設備の寿命を考えると将来的に主要電源としてカウントできなくなり、大きな課題となっている。
(3)水素ロードマップとグリーンアンモニア
・水素については、太陽光や風力の余剰電力でグリーン水素を製造し、エネルギー源として貯蔵する方策が、欧州で進められている。
・アンモニアは水素と窒素の合成物なので、グリーンアンモニアを製造する為にはグリーン水素が必要だが、グリーンアンモニア製造時にロスが生じ、更にグリーンアンモニアをエネルギー源として電力を起こす過程でもロスが生じる。したがって、カーボンフリー電力源としては、グリーン水素を直接燃焼させコンバインドサイクル(複合火力発電所)を回していく方が効率的。
・このような背景から、COP26において、アンモニアは石炭火力の延命を図る手段ではないかとの議論を惹起し混乱が生じている。日本風力発電協会(以下「協会」)としては、グリーンでなくともブルーアンモニアであれば、カーボンフリーでなくても火力発電のCO2削減に寄与し、経済効率性の観点からも過渡期においては有用性が認められるため、アンモニアを電力源として使用する場合のグランドデザインを明確にし、議論を整理して欲しいと政府に提言している。
3.洋上風力導入の意義と課題
(1)洋上風力拡大の意義
・風力や太陽光といった再エネは、CO2削減による温暖化防止に資するのみならず、国内調達がほとんどできず海外調達に頼らざるを得ない化石燃料と異なり、再エネは国内で自給できるため、エネルギーの安全保障に資する。
・また、洋上風力発電は輸入が難しい大型の設備となるため、国内に関連の新たな産業を創出し、グリーンリカバリーの実現につながっていく。
(2)洋上風力の産業競争力強化に向けた基本戦略
・洋上風力の導入拡大を図り産業競争力を強化していくための官民協議体が組成され、「洋上風力産業ビジョン(第1次)」が発表された。
・同ビジョンでは、官民各々が目標を明示・設定。政府は、入札により、2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000万〜4,500kWの案件を形成するとの導入目標を明示。産業界は、国内調達比率を2040年までに60%にし、着床式発電コストを2030〜2035年までに8〜9円/kWhにするとの目標を設定しコミットした。
・同ビジョンの発表により、これまでアジアでは台湾や韓国に目を向けていた欧州の発電事業者などが、日本は、両国より大きなマーケットが期待できるもとして着目し、パートナーシップが具体化しつつあるのがここ一年の動き。
(3)洋上風力の主力電源化に向けた道筋
・協会では、今後10年で産業の基盤を形成、2030年以降早期に国際競争力を持つ国内産業を育成し、3つの目標(導入量,コスト,国内調達比率)の実現を目指すとの道筋を示している。
・欧州では、20年前から洋上風力導入の取組みに着手しており、現在既に、導入量は累積約23kWh、コストは安いところで5円/kWhと産業化の基盤が形成されている。
・我が国は、欧州がこれまで苦労して取り組んできた経験・知見を活かし、向こう10年で現在の欧州のレベルにキャッチアップ可能としている。
(4)日本の洋上風力のポテンシャル
・我が国は英国と同様、島国で海に囲まれており、排他的経済水域の広さは世界8位。洋上風力設置の対象となる水域は充分ある。
・協会で、水深と広さ、その水域での風力など一定の条件を置き導入可能量を調査したところ、着床式で約128GW、浮体式では約424GWのポテンシャル。
・着床式の場合、フェリー航路や漁業操業水域との調整があり、現実的にはポテンシャルの3分の1の40GW程度になるものとみているが、浮体式は1つのプロジェクトで原子力発電1基分相当(1GW)の発電容量となる規模が期待でき、主力電源としてのポテンシャルは充分にある。
(5)導入促進区域等の指定状況
・政府は「再エネ利用法」に基づき、着床式の導入促進区域を指定し、参入事業者の入札を実施しているが、秋田県(由利本荘市沖・三種町および男鹿市)と千葉県(銚子市沖)については、本年5月に入札が締め切られ、現在、事業者選定の評価が進められている状況。
・来年には、秋田県(能代市沖)の入札を実施することが発表されており、その他の指定区域についても順次入札が進められていくものとみられることから、協会としては、2030年までに1000万kWの導入目標の実現は、案件としては充分あると考えている。
(6)送電網の整備
・洋上風力は、水力発電の大型ダムや原子力発電と同規模の大型設備となるため、北海道・東北沖や九州沖などの豊富な風資源のある需要地から遠隔地に設置されることになる。
・現在の送電網は、9電力が各々の管轄区域で完結することを前提に整備されているが、風力発電は遠隔地に偏在することとなるため、管轄区域を超えた広域の送電網整備が必要。このため将来的には既存の電力会社の区域を越えて、広域で送電網の整備・運営・管理を行う統括送電会社が必要となる。
・広域送電を可能とすることにより、自然条件で左右される再エネの発電量を平均化し、電力安定供給に資する効果も期待できる。
・具体的には、北海道からは海底ケーブルを新設し直流で送電、九州・中四国では既設の連結送電線を増強し整備していくマスタープランの検討が進められている。
・マスタープランは、今年5月に中間整理が取りまとめられ、来年度中には最終プランが策定される予定。同プランにおいて、送電網整備にかかるコストと得られる便益を試算しているが、便益がコストを上回り有用と試算されている。
・我が国と同様の島国である英国においては、海底ケーブルによる遠距離直流送電の整備が進んでいる。陸上送電の場合、送電線鉄塔建設にかかる地権者との調整にかなりの時間がかかるが、海底ケーブルの場合、漁業者との調整はあるとしても、陸上と比較し短期間で長距離の送電線敷設が可能。また交流に比べ直流はロスが少ないとのメリットがある。我が国で直流送電は馴染みがないが、欧州のノウハウを輸入すれば技術的には可能であり、マスタープランでは、北海道からは海底ケーブル直流送電で計画している。
(7)拠点港の整備
・風力発電が設置できる場所は、洋上風況を考慮すると、北海道・東北、関東・東海、北九州に偏在している。
・洋上風力発電の導入を長期・安定的に着実に進め、また工事を効率的に実施しコストを低減するため、中期的にはいわゆるプレアッセンブル機能を併せ持つ大規模な拠点港の計画的な整備が必要不可欠。
・協会は、拠点港の整備にあたっては、規模・場所等の効率的なあり方を検討し、促進区域の指定及び中長期導入目標に整合した整備が必要である旨、国土交通省と協議している。
4.洋上風力とその関連産業
(1)洋上風力発電の基礎と風車のサイズ
・洋上風力発電の基礎は、海底に直に基礎を設置する着床式と、風車本体を洋上に浮かべ係留索で固定する浮体式がある。
・陸上風車は、騒音や輸送などの問題があり建設可能なサイズは自ずと限界があるが、洋上風力は、騒音問題の懸念がなく、予め陸上で組立て船で運搬できることから、非常に大きなサイズとなっている。
・現在商用化しているもので最大機のV174は、風車面積23,779u、定格出力9.5MW、翼長85m、ローター径174m、高さ約197m、タワーを除く重量〜500tで、ローター径が200mを超えるさらに大型サイズ機の商談も進められている。
(2)海洋の産業利用と洋上風力発電建設
・洋上風力発電建設箇所の調査にあたって、音波探査、SPT(ドリリング)、CPT等を実施し、地底の状況を調査する洋上地質調査船、風況、波浪等の気象・海象のデータを計測する洋上気象観測塔、洋上風力発電設備の点検保守作業や海中調査業務として使われる水中ドローンなどのインフラ整備が必要。
・実際の建設に際しては、プラットフォームを海面上に上昇させてクレーン、杭打ち等の作業を行う自己昇降式台船、海底ケーブルを敷設する船、洋上風力発電所の建設、保守、運用に作業員等を輸送する船などの工事専用船舶が必要で、欧州では、沖合設備に対応するための洋上風力建設・保守用の船員の宿泊施設となる船も運用されている。
(3)日本の風力発電関連産業の現状
・国内では陸上風力を展開した際に対応してきたメーカーがあり、発電機・増速機・軸受等の製造拠点は存在。洋上風力向けには相応の投資が必要となるため、これらのメーカーの再参入が期待される。
・つまり、潜在的な技術力とものづくりの基盤がある等、産業形成のポテンシャルを有していると言えることから、これらのメーカーに再参入を促し産業化を図っていくことが必要である旨、経済産業省に提言している。
(4)新産業「洋上風力発電産業」の創出・形成
・風車の部品点数は1基当り1〜2万点あり、自動車産業に匹敵するすそ野の広さがある。また、着床式の基礎は、直径約8m、長さ役60m。地震災害等への備えを考慮すると、場所によっては重量1500トン〜2000トンの大規模設備になる。こうした大型の鋼材を輸入するよりは内製化することが望ましく、既存産業である製鉄、造船、鉄構などのを再活性化が期待される。
・足下では、JFEホールディングス、東芝(GEと提携)、住友電工、東レ、五洋建設、日立造船が製造・増産に乗り出しており、産業界も興味をもって少しずつ進みだしたのかなと考えている。
(5)洋上風力人材育成プログラム
・洋上風力は新しい取り組みで、設計・製造・運用に関わる人材育成が大きな課題となっている。
・英国では、洋上風力サプライチェーン全域において必要となるスキルの棚卸を実施している。我が国でも、洋上風力発電に必要なスキルの棚卸しを行い、スキル取得のための方策を産官学で連携して検討することとしており、文部科学省も加わり、工業専門学校などの教育プログラムを検討している。
5.JWPAのミッション・ビジョン・バリュー(2021年5月策定「行動指針」)
<ミッション> 『風力発電の普及・拡大を通じて、人々に安心で安定した暮らしを届け、持続可能な社会の実現を目指す。』
< ビジョン > 『脱炭素社会の実現に向け各界の知識、経験、総意を結集して、風力発電の最大限の導入、運用をリードする。風力発電を経済的に自立した主力電源にするとともに、国際的にも競争力のある風力発電産業を構築することを目指す。』
< バリュー > 『個社や個別の業界の短期的な利益に偏ることなく、長期的且つ国家的な視野に立って、風力エネルギーの利活用に必要 な施策、政策を、責任を持って実行していく。』
U. 主な質疑応答
Q:浮体式は欧州で中心的な技術となっているのか? 我が国では台風の影響が懸念されるが?
A:欧州では、遠浅の北海が中心で、商用化しているのは着床式。浮体式は実証実験の段階であるが、モノパイル(基礎)といった重量のある設備が不要でコスト面の優位性があることから、2025年に商用化を目指して技術開発が急速に進んでいる。台風の影響については、風と風車の連成測定を行い、風向きに応じてブレードの角度を変えることで凌げるとの実験結果が出ている。係留ポイントが流されてしまわないかという点については、これから実証実験をしていくこととなる。我が国は造船大国で技術ポテンシャルがあり、先行する欧州のデザインや実証実験の結果を応用することで、浮体式の技術開発は短期間で進んでいき、欧州をキャッチアップ可能と考えている。
Q:東日本大震災級の大型津波が発生した場合、浮体式に影響はないか?
A:技術的な詳細は承知していないが、津波は、沖合では大きなうねりで遠浅の海岸に近づき波の破壊力が増す。浮体式は沖合に設置するもので、例えばカナダ・ニューファンドランド沖といった大きなうねりが生ずる荒海において、石油掘削リグが影響なく稼働していることから、浮体式に対する津波の影響については懸念はないと聞いている。逆に、浅瀬に設置する着床式の方が波の影響を直接受けることとなるが、鹿島灘の海岸辺りの浅瀬に風車が数基設置されているが、東日本大震災による津波の影響は受けなかったので、着床式も津波の影響は懸念ないと聞いている。
Q:領海とEEZ双方の利用を想定しておられるが、基本は領海での利用と考えておられるのか? EEZまで拡げるとなると、テロ対策といったセキュリティ面が懸念されるが?
A:風力発電の利用にかかる法整備がなされているが、同法では領海利用を前提としている。EEZを利用する場合、関係諸国への通知など国際的な調整が必要となり、まだ利用できる環境は整っていない。しかしながら領海内では必要な電力確保に限界があり、EEZの利用は必要と考えている。浮体式については、2025年から実証実験を開始し2030年から本格稼働させるロードマップを策定しているが、そのタイムスケジュールに間に合うように環境整備をしてほしいと、内閣府に要望している。テロ対策については、検討未着手。
Q:グリーンリカバリーの観点で、関連産業の裾野の拡がりは、太陽光発電と比較しどの程度の規模感か?
A:太陽光発電への投資額は、パネル本体がほとんどを占め、関連産業は簡単な基礎工事と設置台の組立ぐらいしかない。洋上風力発電は一箇所で、30万〜50万KWの規模であり、2000億〜3000億円といわれている。その内、3分の1が風車への投資額。したがって建設工事だけみても、太陽光と規模感が違う。ナセル(増速機、発電機など)の部品点数は1〜2万点あり内製化に時間はかかると思うが、かつての自動車産業がそであったのように、最初は輸入品中心であっても、相応のマーケットが形成されれば国内部品メーカーが参入し内製化が本格化していくものと思われ、裾野の拡がりという側面でも、太陽光と比べ規模感が違う。
Q:洋上風力発電のような大規模プラントの場合、環境アセスメントが必要であり、観光地であれば景観の問題もあると思うが、着工するまでに時間がかかるのではないか?
A:設置個所は政府が予め候補地を指定し環境アセスメントを実施している。また、入札に当たっては、地域協議会を立ち上げ、事前に漁業調整や地域連携などの課題を協議し、協議が整った所から入札を実施するとの手順になっている。
Q:太陽光は、設置後20年で約2割が廃棄となるが、無秩序に参入を許したため、廃棄時にオーナーが代わっているケースが多々あり、公害対策の面で懸念がある。洋上風力は大規模な設備でオーナーが簡単に代わるということはないだろうし、有力な産業と期待されるものと考えるがどうか?
A:太陽光は、簡単に設置できるため普及し再エネ電力の拡大に貢献したが、そのため投機的に投資される側面もありオーナーも頻繫に代わるケースが多く、産業面から考えるとインフラとしての電力事業とはカテゴリーが違う。洋上風力は大規模な設備投資となるため、参入してくるのは発電事業者。加えて、参入の条件として、事業売却には国の承認が必要で、廃棄費用として建設費の7割相当を織り込んだ期間20年の事業計画を提出し適格性の審査を受けることとなっており、インフラとしての電力事業と位置づけられるものと考えている。
Q:洋上風力は大量の鋼材を使用するため、塩害に伴うメンテナンス費用が相当かかると思うが、費用対効果で経済面のバランスはとれるのか?
A:結論を申すと懸念はない。欧州で既に20年間の運用実績があり、塩害により想定を超えたコストが発生した事実はない。最近は塗装技術も進んでおり、海中のモノパイルには特殊な塗装を施すので、全面的に再塗装するようなケースは想定されず、欧州での実証結果を踏まえメンテナンスコストを見積もれば、その範囲を超える特殊なケースが発生する懸念はないと考えている。
Q:参入事業者は既存の発電事業者か? ベンチャーが新規参入に手を挙げるケースもあるのか?
A:国内で、陸上風力発電を手掛けていた事業者が興味を持ち参入に動いている。また、大手電力会社も、新規の火力発電所を建設できないため、それに代わるものとして参入を検討している。ただし、洋上風力は1箇所あたり数千億円の投資となり、国内でのノウハウも乏しいことから、海外で洋上風力を手掛けている海外発電事業者とパートナーシップ協定を締結し参入するケースが大層を占める。
文責:伊藤博通
講演資料:日本の風力発電の現状と将来展望