講師:橘川 武郎様 国際大学副学長・国際経営学研究科教授、東京大学・一橋大学名誉教授、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員、EVF顧問
Web視聴開始日:2022年6月23日
聴講者数:56名
講師紹介
・1951年 和歌山県生まれ
・東京大学経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士
・青山学院大学経営学部助教授、東京大学社会科学研究所教授、一橋大学大学院商学研究科教授、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授を経て、2020年より国際大学国際経営学研究科教授(現職)
・2021年より国際大学副学長(現職)。東京大学・一橋大学名誉教授
・元経営史学会会長。総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員(現職)。EVF顧問(現職)
講演概要
・ウクライナ危機によりロシア産化石燃料の調達に支障をきたしているが、危機の本質は、日本のエネルギー自給率が低いことにあり、エネルギー自給率を高めていくこと、即ち再生可能エネルギーである太陽光発電や洋上風力発電により、ロシア産化石燃料に代替していくことが重要。温暖化対策が後退したのではとの見方もあるが、化石燃料の依存度を下げ、再生可能エネルギーへのシフトを急いでやらなければならないことが明らかになったととらえるべき。
・COP26で日本は、石炭火力発電の廃止時期を明示しなかったため評価されなかったが、2024年までに運転開始となる超々臨界圧石炭火力発電の経済耐用年数(15年)を考えると「2040年には石炭火力発電を停止」あるいは「2025年以降の石炭火力発電新設はない」と表明しても問題はなかったのではないか。
・2020.10.26菅首相所信表明演説「2050カーボンニュートラル」行われるまでは、CO2排出80%削減が目標で、カーボンニュートラル達成は難しいと考えられてきた。それを可能としたのは、2020.10.13JERAの「ゼロエミッション」宣言で公表されたカーボンフリー火力発電のコンセプト。具体的には石炭をアンモニアに、LNGを水素に置き換えることで、CO2排出ゼロの火力発電を実現するというもので、これにより2050年のカーボンニュートラル達成は、理論上可能となった。
・第6次エネルギー基本計画参考値として示された2050年の電源構成は、再生可能エネルギー50%〜60%、水素・アンモニア火力10%、水素・アンモニア以外のカーボンフリー(CCUS付)火力+原子力30〜40%。CCUS付き火力と原子力の内数は具体的に示されていないが、政治的な問題で原子力発電のリプレースが難しく2050年時点で稼働が見通せるのは18基。EVの普及により、2050年の電力総需要量は、現在の1兆kwから1.3〜1.5兆kwに増加すると見込まれており、それを踏まえて推計すると、原子力発電の割合は実質10%と考えられる。したがって、参考値として示された電源構成を再整理すると、再エネ50%〜60%、カーボンフリー火力30%〜40%(うち水素・アンモニア10%)、原子力10%となると考えられる。
・第6次計画において示された2030年度の電源ミックスの問題点は4つ。一点目は「再エネ36〜38%の実現可能性」。二点目は「原子力20〜22%の実現可能性」。三点目は「火力発電の縮小に伴うコストと原料安定調達の問題」。四点目は「総需要抑制で日本の産業の未来は大丈夫か」との問題。再エネと原子力で15%未達、火力発電で補わざるを得ないと思われ、未達部分の排出権購入で大変な国費流出を招くおそれがある。
・「2030GHG46%削減」や「2050カーボンニュートラル」が間違った目標ととらえるべきではなく、むしろグローバルスタンダードに近づいたと高く評価すべき。根本的な問題は第5次エネルギー基本計画(2018年)において、原子力・石炭の構成比が高すぎ、再エネ・LNGの比率が低すぎたことで、再エネシフトの取組みが遅れたことによるもの。
・「2050カーボンニュートラル」へ向けて、最大の課題は発電コストで、2021.5.13にRITEで、2050年の発電コスト(限界費用)を電源構成を変えて7通りシミュレーションしたところ、限界発電コストは22.4円/kWh〜53.4円/kWhとなり、いずれのシナリオも現行の13円/kWhを大きく上回る結果となった。
・解決策としては、イノベーションに加えて既存インフラの徹底的活用が鍵になると考えている。具体的には、日本が技術開発においてリードしているアンモニア火力発電やメタネーションを、既存の石炭火力発電やガス管を活用することで開発コストを抑えていく方策が考えられる。
・気候変動対策の主舞台は非OECD諸国で、石炭火力発電やガス管といったインフラも普及しているので、日本の技術をアジア諸国、新興国に展開し、日本のリーダーシップを発揮していくことにフィージビリティがあるものと考えている。
・カーボンニュートラルに向けた取組みメニューについては、次の三つの落とし穴(課題)がある。一つ目は、いずれもエネルギー供給サイドの取組みで、需要サイドでは何をすればよいかといったアプローチが欠けていること。二つ目は、メニューが電力と非電力に分けられており、セクターカップリング(熱電供給)の観点が欠落していること。三つ目は、このままのメニューだと、カーボンニュートラルの担い手は大企業に限定されることになる。大企業のサプライチェーンとして中小企業もカーボンニュートラルの重要な担い手となってくるが、中小企業や消費者の個々の取組みには限界があり、それを束ねる地域(コミュニティ)の重要性に目を向けていないこと。
・セクターカップリングについては、デンマークに先進事例があり、日本においても、温水道管は2050年までには整備可能なインフラと考えられるので、有望な取組みメニューとして可能性ありと考えられる。
・コミュニティベースのカーボンニュートラル挑戦のポイントとしては、VPP(Virtual Power Plant,仮想発電所)があげられる。地域に設置されている太陽光発電(創電)、EV(蓄電)や節電行動を、DX、AIによりビックデータ化し、ブロックチェーン技術によりプライバシーを保護する形で発電ネットワークを構築していくもの。カーボンニュートラルは、トップダウンで大企業がイノベーションにより取り組んでいくアプローチと、コミュニティ全体がボトムアップで作りこんでいくアプローチの両面がマッチしないと実現しない。
T. 講演内容
1.ウクライナ危機と日本のエネルギー
・コロナ禍による需要の落込みにより化石燃料の国際価格は下落したが、コロナ感染の収束による需要の回復と、エネルギーの脱炭素化シフトによる化石燃料生産投資の縮退で、2020年度の後半から化石燃料の国際価格が上昇傾向にあったところ、ウクライナ危機によるロシア産の石炭・石油・天然ガスの供給縮減で、国際価格の上昇傾向に拍車がかかっている。
・日本のロシア依存度は、2021年で石炭11%、原油4%、天然ガス9%。欧州と比較すると依存度は低いが、エネルギー自給率も低いため、代替調達先を国外に求めなければならない。
・最も影響が大きいのは天然ガス。ロシアのサハリン2から、LNGを長期契約で、足下の国際相場よりも低い価格で安定的に調達できているが、代替調達はスポット調達となるため、調達価格が数倍に跳ね上がってしまう。したがってエネルギー安定調達の観点からは、サハリン2の権益は死守する必要があり、国が契約主体となっている原油輸入先のサハリン1についても、サハリン2に与える影響を考慮すると、サハリン2と同様にその権益を死守する必要がある。
・ウクライナ危機の本質は、エネルギー自給率が低いことにあり、エネルギー自給率を高めていくこと、即ち再生可能エネルギーである太陽光発電や洋上風力発電により、ロシア産化石燃料に代替していくことが本質であろうが、洋上風力については運転開始までのリードタイムはは8年で、足下の電力不足対策には間に合わない。
・したがって、既設の発電施設で代替していくしかなく、脱化石燃料の観点からは停止中の原子力発電の再稼働が望ましいが、政府の動きをみる限り、再稼働の時期を具体的に見通すことは難しく、現実的には石炭火力発電により当面つないでいくしかない。
・2024年までに5基の超々臨界圧石炭火力発電が運転開始となる予定で、石炭火力発電で当面の電力不足は凌いでいけると考えられるが、その場合でも、カーボンニュートラルの目標達成の観点から、石炭火力発電をいつまで継続していくのか、具体的には石炭からアンモニアへの燃料転換へのロードマップを明確に示していく必要がある。
・ウクライナ危機の最中である2022年4月4日に、人的被害の影響や対応策に関するIPCCの第6次評価報告書第3部会報告書が出された。マスコミではウクライナ危機の影響で地球温暖化対策への取組みが後退したとの報道も一部にあるが、本質的には、化石燃料の依存度を下げ、再生可能エネルギーへのシフトを急いでやらなければならないことが明らかになったととらえるべき。
2.COP26
・コロナ禍により2020年の開催は見送られたため、ホスト国であるイギリスは2年間かけて準備することができた。イギリスは、製造業主体の経済から金融・サービス主体の経済へ移行しているため、CO2排出権取引など炭素市場規制やカーボンニュートラルへの資金負担が重要テーマとなった。
・このような文脈から、石炭火力発電の将来像が一つの焦点となった。アンモニア混焼によるカーボンフリー火力へのシフトといった具体的な石炭火力の手仕舞いの仕方を提示したのは日本だけであるが、石炭火力の廃止時期を明示しなかったため、日本の対策はあまり評価されなかった。
・JERAによると、2030年にはアンモニア混焼率20%、2035年までには混焼率60%まで達成できるとされており、それ以上の混焼はNox発生の問題がありガスタービンしか使えなくなる。また2024年までに運転開始となる5基の超々臨界圧石炭火力発電の経済耐用年数を15年と考えると稼働は2039年まで。したがって「2040年には石炭火力発電を停止」あるいは「2025年以降の石炭火力発電新設はない」と表明しても問題はなかったのではと考えている。
3.第6次エネルギー基本計画
・2020.10.26菅首相所信表明演説「2050カーボンニュートラル」を受け、2021.10.22岸田内閣において、第6次エネルギー基本計画(以下「第6次計画」)が閣議決定された。
・菅首相の所信表明演説が行われるまでは、「2050CO2排出80%削減」が目標であった。水力発電は開発余力がなく、地熱発電は温泉業界との調整問題、バイオマスは林業の弱体化により原料調達が覚束ないといった課題があり、再生可能エネルギーの主体は、太陽光発電と風力発電とならざるを得ない。
・太陽光・風力は発電量が変動するため、余剰電力を蓄電しカバーする体制を構築しなければならないが、蓄電池のコストが高いことと原料となるレアアース・レアメタル資源を中国におさえられているため、蓄電体制の構築は難しく、再エネのバックアップを石炭・ガス火力発電に頼らざるを得ず、カーボンニュートラル達成は難しいと考えられてきた。
・それを可能としたのは、2020.10.13JERAの「ゼロエミッション」宣言で公表されたカーボンフリー火力発電のコンセプト。具体的には石炭をアンモニアに、LNGを水素に置き換えることで、CO2排出ゼロの火力発電を実現するというもので、これにより2050年のカーボンニュートラル達成は、理論上可能となった。
・第6次計画において、参考値として示された2050年の電源構成は、再生可能エネルギー50%〜60%、水素・アンモニア火力10%、水素・アンモニア以外のカーボンフリー(CCUS付)火力+原子力30〜40%。
・CCUS付き火力と原子力の内数は具体的に示されていないが、政治的な問題で原子力発電のリプレースが難しく2050年時点で稼働が見通せるのは18基。EVの普及により、2050年の電力総需要量は、現在の1兆kwから1.3〜1.5兆kwに増加すると見込まれており、それを踏まえて推計すると、原子力発電の割合は実質10%と考えられる。
・したがって、参考値として示された2050年の電源構成を再整理すると、再エネ50%〜60%、カーボンフリー火力30%〜40%(うち水素・アンモニア10%)、原子力10%となると考えられる。
4.新しい2030年の電源ミックスと問題点
・第6次計画において示された2030年度の電源ミックスは、@ゼロエミッション電源 59%(従来比+15%)、A火力発電 41%(同比▲15%)としている。@の内訳は、再生可能エネルギー 36〜38%(同比+14%)、原子力 20〜22%(同比±0)、水素・アンモニア 1%(新設)。Aの内訳は、LNG火力 20%(同比▲7%)、石炭火力 19%(同比▲7%)、石油火力 2%(同比▲1%)。また、熱源も含めた一次エネルギー総供給量(原油換算)は、4億3000万kl(同比▲12%)としている。
・上記のシナリオには4つの問題点がある、一点目は「再エネ36〜38%の実現可能性」。伸びしろがあるのは洋上風力だが、上述の通り運転開始までのリードタイムが8年あり、今年取り掛かっても2030年には間に合わないという計算になる。太陽光は、日本は既にG7の中で、国土面積あたりの設置率がトップといった状況で伸びしろに乏しい。そのように考えると現実的には30%程度が限界で、6〜8%未達になると思われる。
・二点目は「原子力20〜22%の実現可能性」。資源エネルギー庁は、原子力発電27基・稼働率80%との前提で試算している。東北大震災発生時(2011.3.11)の原子力発電は、既設54基・建設中3基(計57基)で、現状は、稼働中10基、許可獲得済みだが未稼働7基、申請中だが許可未獲得10基、未申請9基で、廃炉決定が21基。前提となる試算を踏まえると、許可未獲得のものも含めて申請した全てを稼働させることが必要との計算になるが、未稼働・許可未獲得の中には既に暗礁に乗り上げているものもあり、現実的には2030年時点での稼働は20基程度と考えられ、5〜7%未達になると思われる。
・再エネと原子力の未達部分15%は火力発電で補うことになるが、そうなると2030年のCO2排出46%削減目標も未達となり、足らない分は排出権購入を迫られることになる。現在、ヨーロッパのCO2価格は5000円/トン。京都議定書と異なりパリ協定では目標未達分の排出権購入の義務はなく購入単価は交渉次第であるが、少なくとも3000円/トンは求められるものと考えられ、大変な国費流出を招くことになる。
・三点目は「火力発電の縮小に伴うコストと原料安定調達の問題」。再エネは石炭火力よりも発電コストが高く、石炭火力を減らしすぎるとコスト負担に耐えきれなくなるといった問題がある。LNGについては、一次エネルギーミックスの割合で計算すると、2030年の必要量は5500万トン未満と計算されるが、昨年のLNG輸入量は7400万トン。こうした縮小シナリオを閣議決定し公表したことで、既に他国との間で買い負けが生じており、足下のエネルギー不足の状況下、安定調達に支障をきたしている。
・四点目は「総需要抑制で日本の産業の未来は大丈夫か」との問題。上述の通り2050年の総発電量は30〜50%増と見込まれている中で、2030年は逆に12%減としている。背景には、再エネ比率を高くしたことに加えて、従来の電源ミックスにおいて原子力発電30基稼働を前提としていたところ、新電源ミックスにおいては27基稼働と1割減らした中で電源構成割合は据え置いたため、分母となる総発電量を減らして帳尻を合わせたもの。省エネの深堀りだけでは発電量の抑制に限界があり、粗鋼生産量25%減、紙パ生産量19%減といった産業縮小のシナリオも盛り込まれている。
・「2030GHG46%削減」や「2050カーボンニュートラル」が間違った目標ととらえるべきではなく、むしろグローバルスタンダードに近づいたと高く評価すべき。根本的な問題は第5次エネルギー基本計画(2018年)において、原子力・石炭の構成比が高すぎ、再エネ・LNGの比率が低すぎたことで、再エネシフトの取組みが遅れたことによるもの。
・第5次計画の2030年の電源ミックスを、再エネ30%、原子力15%、LNG火力33%、石炭火力20%、石油火力2%、とすべきであったと考えている。そうしておけば、洋上風力発電の着工も前倒しで進められており、2030年には、3GW・4GWクラスの洋上風力の運転開始することも可能であり、再エネ36%の目標達成も十分見通せ、再エネ・原子力の15%未達は生じなかったのではと考えられる。
5.カーボンニュートラルへの道
・「2050カーボンニュートラル」へ向けて、電力分野においては、ゼロエミッション電源、具体的には、再生可能エネルギー・原子力に加え、新たな技術として、カーボンフリー火力(水素・アンモニア・CCUS)。非電力・熱利用分野においては、モビリティーの電化(EV)、燃料の脱炭素化、具体的には、FCV、水素還元製鉄、メタネーション(e-gas)、合成液体燃料(e-fuel)、バイオマス。炭素除去やCO2発生分のオフセットメニューとして、植林や空気中のCO2直接除去(DACCS)の取組みが進められている。
・最大の課題は発電コストで、2021.5.13にRITEで、2050年の発電コスト(限界費用)を電源構成を変えて7通りシミュレーションしたところ、限界発電コストは22.4円/kWh〜53.4円/kWhとなり、いずれのシナリオも現行の13円/kWhを大きく上回る結果となった。
・解決策としては、イノベーションに加えて既存インフラの徹底的活用が鍵になると考えている。具体的には、日本が技術開発においてリードしているアンモニア火力発電やメタネーションを、既存の石炭火力発電やガス管を活用することで開発コストを抑えていく方策が考えられる。
・気候変動対策の主舞台は非OECD諸国で、石炭火力発電やガス管といったインフラも普及しているので、日本の技術をアジア諸国、新興国に展開し、日本のリーダーシップを発揮していくことにフィージビリティがあるものと考えている。その他、Sorghum、ブラックペレットといったバイオマスの新技術にも注目している。
6.3つの落とし穴(課題)
・上記5.で掲げたメニューについては、次の三つの落とし穴(課題)がある。一つ目は、いずれもエネルギー供給サイドの取組みで、需要サイドでは何をすればよいかといったアプローチが欠けていること。二つ目は、メニューが電力と非電力に分けられており、セクターカップリング(熱電供給)の観点が欠落していること。三つ目は、このままのメニューだと、カーボンニュートラルの担い手は大企業に限定されることになる。大企業のサプライチェーンとして中小企業もカーボンニュートラルの重要な担い手となってくるが、中小企業や消費者の個々の取組みには限界があり、それを束ねる地域(コミュニティ)の重要性に目を向けていないこと。
・セクターカップリングの先進事例として、デンマークにおいては、風力やバイオマスによる再エネ発電に余剰が生じたとき、余剰電力で温水を作り貯蔵し、温水パイプラインで熱源として供給している。課題は、エネルギー供給の主要な担い手であるガス事業者との調整と、温水パイプラインのインフラ整備であるが、デンマークにおいては、ガス会社が洋上風力発電メーカーに業態転換をすることなどで調整。温水パイプラインは水道管と同等の設備で、日本においても、2050年までには整備可能なインフラと考えられるので、有望な取組みメニューとして可能性ありと考えられる。
・コミュニティベースのカーボンニュートラル挑戦のポイントとしては、VPP(Virtual Power Plant,仮想発電所)があげられる。地域に設置されている太陽光発電(創電)、EV(蓄電)や、節電行動を、DX、AIによりビックデータ化し、ブロックチェーン技術によりプライバシーを保護する形で発電ネットワークを構築していくもの。カーボンニュートラルは、トップダウンで大企業がイノベーションにより取り組んでいくアプローチと、コミュニティ全体がボトムアップで作りこんでいくアプローチの両面がマッチしないと実現しない。
7. 主な質疑応答
Q:グレーアンモニアではカーボンフリー火力とならないので、グリーンもしくはブルーアンモニアが必要だが調達は可能か?
A:現在、日本ではアンモニアを、肥料原料として100万トン使用。石炭火力発電に20%混焼開始で300万トン、100%使用だと3000万トン必要と試算されている。セメント業界や石油化学業界もアンモニア活用の計画があり、それを加えると4000万トン以上必要と計算される。世界では2億トン生産されており量的には充足しているが、現状ほとんどがグレーアンモニア。グリーンアンモニア、CCS付きブルーアンモニアの主要な調達先は、オーストラリア、北米、中東になると考えられるが、いずれにしてもそんなに簡単ではない。
Q:イノベーションのアイデアは、どこに繋いでいくと実現可能性が高まるか?
A:政府のクリーンエネルギー戦略は、20兆円の資金を国費で造成し、130兆円の民間投資を呼び込み、合わせて150兆円の投資でカーボンニュートラルを実現していこうとするもの。課題は、政府の資金が民間投資の呼び水として有効に機能する仕掛けをどのように構築していくかということ。過去の同様の仕組みをみると、結果として散発的でバラ播きに終わってしまったものもあり、様々な投資・事業計画の有効性を見極める目利きが必要であり、目利きを担える技術屋の人材を揃えられるかどうかが大きなポイントとなる。
Q:需要サイドのアプローチについて、種々の取組みを普及・実行、次世代につなげていくためのポイントは?
A:いくつかあると思うが、一つはEVで、モビリティーというよりは電気ネットワークの要と位置付けられる。そのためにはある程度の台数を普及させることが必要。二つ目はスマートメーターから集まってくる様々なデータをDX、AIでビックデータ化し地域最適化を図っていくことだが、現状は、電力メーカーやガス会社がデータを囲い込んでいるため、自治体が関与し仕組みを構築していく必要がある。
その場合、GAFAのシステムを中心に据えると、個人データの囲い込みの問題が生ずるので、自治体自身がブロックチェーンによるシステムを構築する必要がある。
Q:電力ゼロエミッションについて、カーボンフリー燃料となるアンモニア・水素は自然界に存在しないので製造しなければならないが、その製造についてもゼロエミッションが前提との理解でよいか?
A:アンモニア・水素の利点は燃焼によるCO2排出ゼロという点にあるが、その製造に手間ひまがかかるため高コスト燃料となる。したがって製造コストを下げる技術革新が必要。アンモニアは、百年来ハーバーボッシュ法で製造しているがCO2を多量に排出するため、製造法の革新が待たれる。水素は、水を電気分解し製造しているが、製造時に使用する電気を再エネ余剰電力でということになると電解稼働率が低下しコスト高となってしまう。水素製造イノベーションの事例として、富士吉田市のハイドロジェンテクノロジーという会社で、テラヘルツ鉱石を触媒としてアルミニュウムと水を反応させることで水素を発生させる技術が確立し、実際に同社製造の水素100%専焼発電が運転開始している。この技術は、水素の発生量を柔軟に調整することが可能で、工場オンサイトのメタネーションに有効活用できる。いずれにしても更なる技術革新、イノベーションが必要。
Q:原子力発電をどのように位置付けるかが大きなポイントと考えるが、原子力発電が無いと電力確保が大変な状況になるとの理解促進をどのように図っていけばよいか?
A:国民全てが原子力発電反対という訳ではなく、高齢者と女性の反対割合は高いが、若い世代は原子力発電が必要と考えている人も多い。広く国民と議論をしていけば必要性の理解も進むと思うが、現下の政治状況の中で国民との議論が進んでいないのが実情。
Q:原子力発電の安全性について、福島の事故以降、安全基準を見直し安全性が向上していると思うが、これらの安全基準と個々の原発の安全性のレベルについて公開していけば、再稼働について理解が得られるのではないか?
A:原発は基本的に危険なものであり、知見されている危険性が最小化できていれば稼働許可を出してよいと考える。日本においては、原発に対する最大のリスクは地震・津波・火山と考えているが、ウクライナ戦争で原発が軍事標的となるといった、世界中で誰も想定していなかった新たなリスクが生じた。しかも原発本体ではなく送電線が攻撃対象となるとの事象が発生しており防ぎようがない。このような新たなリスクが知見された場合、原発の安全基準をゼロベースに戻して見直す必要があると考えられるし、戦時下においては攻撃対象となると考えると、長期的に安定電源として位置付けるのは困難ではないかといった本質的な問題に関わってくる。
Q:LNGについては、水素、アンモニアへの原料向けニーズも考慮すると、わが国の潜在的な必要量は2050年においても減らないと考えてよいか?
A:減らないし、場合によっては増えることも考えられる。
Q:日本の反原発感情を和らげ、世論変化の可能性が見えてくるタイミングはいつ頃と見通せるか?
A:政治家の覚悟が固まらない限り(実際には覚悟は固まらないので)、そのようなタイミングは来ないと思う。
文責:伊藤博通
講演資料:カーボンニュートラルへの日本の道