2022年09月22日

EVFセミナー報告:脱炭素社会実現に貢献する核融合エネルギーがいよいよ現実に!

演題:「脱炭素社会実現に貢献する核融合エネルギーがいよいよ現実に!ー実験炉イーターは運転開始まで77%、発電する原型炉は2040年代ー」
講師: 文部科学省技術参与(核融合研究開発担当) 工学博士 栗原研一様

聴講者数:60名

講師紹介:
・1979年 東京大学工学部原子力工学科卒業 
・同年  日本原子力研究所入所
・2012年 日本原子力研究開発機構核融合研究開発部門副部門長
・2016年 量子科学技術研究開発機構那珂核融合研究所長
・2020年 同核融合/量子エネルギー部門長
・2022年 文部科学省技術参与(核融合研究開発担当)
・2020〜2022年 文科省科学技術・学術審議会専門委員(核融合科学技術委員会委員)
 この間、北海道大学・名古屋大学・九州大学の各大学院非常勤講師、核融合の二国間・多国間協力における日本側委員等を兼任 

<講演概要>
・70年以上にわたる研究の成果により、核融合発電の見通しが得られてきた。設計段階を含めて、1990年代〜2040年代で実験炉、2030年代〜2050年代に発電実証のための原型炉、最終的にはこれ以降に商業炉で電力供給を目指している。
・核融合発電の特徴は、燃料である重水素と、三重水素(トリチウム)の元になるリチウムは海水からとれるため無尽蔵にあること、長期隔離が必要となる放射性廃棄物はないこと、原子炉のような臨界状態にならないため核融合反応は容易に停止でき安全性が確保できること等があげられる。
・最も起こりやすい核融合反応を探した結果、重水素と三重水素を反応させることがよいことがわかった。燃料1グラムが0.996グラムになるだけで、石油8トン分のエネルギーが発生する。また、重水素と三重水素の核融合反応で生成した中性子をリチウムにあてることで三重水素が生成され、燃料として再利用可能になる。
・重水素と三重水素はそれぞれ+の電荷を持っていて反発するので、核融合反応を起こさせるためには、1億度以上のプラズマ状態が必要となる。1億度でも密度が薄いので容器を溶かす熱量ではない。
・プラズマ状態を作り、原子核と電子を閉じ込める方法として、トカマク(ロシア発明)、ヘリカル、レーザー方式の研究を行ったが、トカマク型装置が最も発電実現に近い型式であることがわかった。
・現在は実用化に向けた実験炉の段階で、日・欧・米・露・中・印・韓が参加するプロジェクトで実験炉ITER(国際熱核融合実験炉)が、フランスで建設され、2025年に運転開始の予定である。
・並行して、日本では、実験炉JT-60SAを量研那珂研究所に建設し、ITERよりもプラズマ圧力を高くし、原型炉を小さくすることにより低コスト化の開発を行う。
・モノづくりの実力が性能を決めるため、日本の製造技術の高さが日本の成果に繋がっている。エネルギー増倍率、イオン温度、電子温度という主要性能で、日本が世界1位の性能を記録し、維持している。
・核融合の研究開発で培われた技術の波及効果は宣伝不足で知られていない。MRI、高精度加工技術、三重水素回収技術、海水からリチウム回収技術等、数々の技術が医療、環境関連産業、製造業の分野で極めて広く活用されている。
・世界は原型炉に向けての競争状態にある。米・英は、5万kW級の発電を2040年代に計画、中国は大型 原型炉を2030年代に計画。日本は原型炉の概念設計の基本設計は完了し、現在の国のロードマップでは2035年に原型炉の建設開始を判断する。また、高市大臣からGX戦略の一環として核融合国家戦略策定に向けた核融合戦略会合の設立がプレスリリースされた。


<講演内容>
1.核融合とは
・エネルギー源のルーツから見ると、以下のように、エネルギーの根源は核融合に行きつく。重い元素が軽い元素に変換されるときにエネルギーが出るが重い元素は超新星爆発等で原子核が融合してできる。太陽光・熱が絡むエネルギーは、太陽の中で原子核が融合してエネルギーを出す。
・電気エネルギーの発生方法としては、光エネルギー(太陽パネル)から太陽電池を通して電気に変換か、水力、風力は、運動エネルギーで発電機を回し電気に変換する。火力(化学的結合エネルギー)、原発(重原子核の結合エネルギー)、核融合(軽原子核の結合エネルギー)ではエネルギーを熱として取り出し、運動エネルギーに変更し、発電機を回転させる。但し、核融合は中性子をリチウムに当てることによって自分で自分の燃料である三重水素(トリチウム)も生産する。
・アインシュタインの質量とエネルギーの等価原理により、1グラムの質量で1000万人の1日分の摂取エネルギーを生むことができる。質量数(元素)で、鉄やニッケルに向かう核反応はすべてエネルギーを発生する。重い元素であるウラン等は核分裂で熱を出しながら軽い原子核に変わる。軽い元素は核融合で熱を出しながら重い原子核になる。その中で、ヘリウムに変わる反応で大量のエネルギーが発生するので、ヘリウムに変わる核融合を探すことになる。
・地球で最も起こりやすい核融合反応を探した結果、重水素と三重水素を反応させることがよいことがわかった。燃料1グラムが0.996グラムになるだけで、石油8トン分のエネルギーが発生する。
・重水素は海水中に約33g/t(60億年分に相当)入っていて、無尽蔵にある。三重水素は天然にはないが、海水中のリチウムから核融合炉の中で作ることができ、約0.2g/t(1600万年分)あるので、実質無尽蔵である。
・重水素と三重水素はそれぞれ+の電荷を持っていて反発するので、反応させるためにはぶつけるスピードが必要で、その障壁を越えるためには40億度が必要となる。しかし、実際はトンネル効果により1億度以上で核融合反応が実現できる。(原子核は、その存在が雲のような広がりを持ったものなので、裾野でのふれあいで一定の確率で反応が起きる)
・温度的には、1万度以上になると電子が剥がれ始め、10万度を超えると原子核と電子がバラバラになるプラズマ状態になる。プラズマ状態の事例として、蛍光灯の中は1万度になっているが、密度が薄いのでガラスを溶かす熱量にはならない。

2.核融合の開発小史:日本がトップランナーになった訳
・プラズマ状態の+の原子核とーの電子を、どうやって効率良く閉じ込めるのかを1950年代から研究してきた。日本で研究開発を先導した湯川秀樹博士は、1957年に原子力委員会に設置された「核融合反応懇談会」初代会長となった。博士は、原子力委員会に、2つの計画による研究開発体制を答申し、活動を開始した。A計画は、プラズマの基礎的な研究を名大にプラズマ研究所を設置し、各大学との協調するもので、現在土岐にある核融合科学研究所のヘリカル方式(螺旋状の磁力線を外部のヘリカルコイルで生成)につながっている。B計画は、実証研究を中心に、早期発電の実現に近いトカマクを研究開発し、実験炉ITER建設へつながっている。
・トカマクは、ロシア語で、電流、容器、磁気、コイルの最初の1-2文字をつなげた造語で、1951-1954年頃のロシアの大発明。ドーナツ型プラズマの中に電流を流すことにより、磁力が螺旋状になり、原子核と電子が混ざり合う。
・発電プラントの概念は、ドーナツ型容器中のプラズマで重水素、三重水素が核融合反応を起こすと、ヘリウムと中性子が反応の結果発生する。発生した高速中性子を炉心の周辺に置いたリチウムにあてると三重水素が生産出来る。この三重水素を燃料として再び使う。
・1985年から大型トカマクによる実験が開始されたが、1995年ぐらいまでは性能向上がなく苦しんだが、プラズマの形状を変更した1995年以降性能が上がり始め、一気に核融合実現への道筋ができてきた。この間で、エネルギー増倍率、イオン温度、電子温度で、日本が世界1位の性能を記録した(この成果はJT-60計画における超高温プラズマにより達成)。
・日本では、ヘリカル方式、慣性核融合方式(レーザー)も研究しているが、ヘリカル方式は、周りの道具立てが複雑で、性能がトカマクに桁違いに劣る。その結果プラズマの主半径が大きくなり、大きな炉(直径30m以上)が必要になる。慣性核融合方式は、1秒間に10回程度の爆縮が必要とされ、その都度レーザーを燃料ペレット一点に照射しなければならないが、レーザーは光学系の熱変形が戻るまでに数10分以上かかり、エネルギー生成システムとして成立していない。従って、核融合炉に向かっているのは、トカマクのみである。大型トカマクを保有した欧州JETと日本JT-60で、エネルギー増倍率1を超えるプラズマの生成に成功している。
・核融合炉の安全性は、@連鎖反応ではなく単独反応が起こる環境を維持しているので、スイッチ切でプラズマが生成出来る環境がなくなりすぐに反応停止できる。A燃料の三重水素は、金属間化合物に吸蔵させ閉じ込めるので通常漏れ出すことはない。もし、漏れても回収する技術も確立されている。B放射性物質として、中性子が金属に当り、金属の不純物でコバルト60が生成するが、半減期が約5年と短く、100年で100万分の1に減衰することから、多くはもとの一般物レベルに放射能が減衰する。 C炉心は真空なのでハザードの発生源にならない。燃料としての三重水素が大量に漏れないように貯蔵タンク管理が必要。D原子炉のような臨界状態はないので、安全性は高く社会的受容性も高い。実験炉ITERを日本に誘致していた時に、原子炉等規制法ではなく、RI規制法を基礎とする考え方が原子力安全委員会で示されたことがある。
・実用化に向けて、現在は実験炉の段階で、実験炉ITERは日・欧・米・露・中・印・韓による約2兆円のプロジェクトで、フランスで建設している。モノづくりの精度が性能を決めるため、日本の高精度製作の実力が発揮されている。ITERの実験を踏まえ、2035年に発電実証のための原型炉を建設するかどうかの判断を行う。最終的には今世紀中葉以降に商業炉の稼働を目指している。

3.国際協力と日本:技術や知財の安全保障
・実験炉ITERは南フランスに建設中、熱出力50万kW、エネルギー増倍率10、電気出力は1/3になるので17万kW相当で水力発電所規模。
・ITERの先端機器は日本企業が製作に大いに貢献。先端機器を作ることは日本企業の得意技。殆どの先端機器は日・欧・米が担当、露・中・印・韓は汎用電源、冷却系等のローテクを担当。
・ITER本体はほとんど金属で、ステンレスを中心とした鉄材で総重量は23000t(東京タワー6個分、エッフェル塔3−4個分)になる。金属が放射化すると人が入れないので、中のメインテナンスはロボットが行う。
・日本の実力発揮実例として、@トロイダル磁場コイル(三菱重工と東芝が担当)を日本9機、欧州が9機作成し、現地で組み立て。1mmの製作誤差で作らなければならない。 A100万ボルトの直流電源。世界で日立だけが製作できる。
・ITERは77%建設が進捗している。(2025年運転開始予定)
・並行して、JT-60SA プロジェクトでは、ITERよりも圧力が高いプラズマを生成出来る特徴を持っている。圧力が高いプラズマを安定に維持出来ると、原型炉を小さくでき、コストを抑えることができる。ただし、圧力を上げると螺旋状にプラズマが乱れるため、安定化機構が必要になる。那珂研究所に建設し2020年3月に本体組み立て完了。2022年中にプラズマ実験開始予定。
・核融合は、最初にプラズマを着火し高温にするためにかなりのパワー(原発一基分程度)が必要になる。系統から直接投入すると、系統に大きな電力変動を与えることから不可能なので、一旦電動発電機に運動エネルギーとして貯めることが必要でなる。
・ITERプロジェクトでは、知財に関しては、平和利用であり、核融合への利用を前提に共有することが協定になっている。核融合機器は、世界初唯一無二=FOAK(First of a Kind)機器であり、知的財産に留意すべきであるが、完成図面は共有が義務付けられている。しかし、図面共有程度だけでは、製作のプロセス、技術が伴わないと製作できない。
・核融合の研究開発で培われた技術の波及効果は宣伝不足で知られていない。@MRI―磁場・超電導技術 A高精度加工技術 Bトリチウム回収技術―原子力発電所の水素爆発を防ぐ(東日本大震災後に開発され、同様の原子炉には水素の酸化反応触媒が装備されている) Cリチウム回収技術―海水等からの採取により国内自給 等、数々の技術が医療、環境関連産業、製造業の分野で活用されている。

4.発電する原型炉に向けた戦略
・日本での核融合の施策は、第6次エネルギー基本計画(2021年10月閣議決定)において、2050年カーボンニュートラルの実現にむけた戦略的な技術開発・社会実装等の推進の項目に挙げられている。
・ロードマップでは、2050年以降に核融合発電炉の登場を想定し、原型炉の概念設計の基本設計は2019年11月に完了し、2035年に原型炉の建設に入るかどうかの判断を行うことが日本のロードマップである。オールJapan体制で原型炉の研究開発を進めており、117名が参加。
・日本の原型炉は、黒四ダムの発電所相当の約30万kW電気出力を計画している。
・主要国は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、原型炉計画が加速している。
  米国は、2045年に5万kW級のパイロットプラント建設をバイデン政権になって計画した。
  英国は、グリーン産業革命に向けて、2040年までに原型炉を建設。早期実証として5万kWの原型炉建設候補地も決まりつつある。
  中国 ITER相当の大型原型炉を自力で作ろうとしている。 2030年代に安徽省に建設を計画。
・また、民間企業とのベンチャーの活動が活発になっている。米国では、1979年に米国核融合発電協会、2018年に核融合産業協会が設立され、Google他多くの投資家により、合計で5000億円を超える投資額となっている。
・世界は、すでに国際協力を進めながらも、同時に国際競争の時代になっている。9月12日政府はGX戦略の一環で核融合国家戦略策定に向け会合を立ち上げるとの高市大臣からプレスリリースがあり、9月21日読売新聞の社説で「核融合戦略」が取り上げられた。


5.主な質疑応答
Q1 2040年に発電ができるようになったのは何ができるようになったのか。発電エネルギーにするにはどうするのか。
A1 核融合の方式にトカマクとヘリカルの議論があるが、トカマクは世界中に多くの装置を作って確認されて、発電に必要と装置の規模がわかってきた。ヘリカルは多くの装置を作っていないので、スケーリングが明確ではないが、規模が同程度のトカマクと比べて2桁性能が劣る。また、構造が複雑であり、同じ性能を出すには、極めて大型の装置にならざるを得ない、発電のための装置は、交換が必要となるが、複雑なヘリカルコイルを巻いている装置で工学的にどのように置いてメンテを行うのか、等の問題がある。トカマクを原型炉にするという選択はこれまでの70年間に及ぶ世界の核融合実験の結論である。核融合発電の見通しが立ったのは、ITERの建設により、巨大なトロイダル磁場コイル、超電導導体等の高精度の装置が実際に作ることができた。プラズマ閉じ込める磁場の圧力は約50気圧であるので、2,3気圧のプラズマは抑えきれる筈だが、現実は局所的にプラズマの圧力が磁場の圧力を、磁力線を組み替える等で逃れことがあり、不安定性で消滅してしまうが、その不安定性抑制の方法が中型装置で実証されたことが挙げられる。発電方式は、炉心の周りに置いた中性子を熱化する装置で熱に変換する。日本の方式は、冷却水の熱に換えて蒸気タービンを回す通常の発電と同じ方法を採用している。

Q2 原型炉はどこに作るのか
A2 これからの議論になるが、原型炉はそれぞれの国で作ることが暗黙の了解になっている。安全保障もあり、国力、技術の蓄積になる。例えば、中性子を熱に換えるプランケットの設計は、国ごとに異なる。ITERは2兆円、原型炉はそれよりも低コストと考えられるが、現在のロードマップでは、2035年に日本は原型炉の建設判断をする。早ければ10年後に完成するので、2045年頃に完成することが期待される。

Q3 スイスのセルン研究所と核融合とのつながり
A3 セルン研究所は素粒子の研究になる。技術的には、粒子加速器は加速粒子の電流が低いがスピードは速い(エネルギーが高い)。核融合は1億度の環境を作るため、加熱装置の加速粒子の電流は数十Aオーダーで数桁も大きい。一方、そのエネルギーの大きさから、電源、ダメージを受けた電極の作り等が課題になる。セルンとの技術的課題が異なるため、殆ど研究協力はない。

Q4 核融合炉発電で、日本は化石燃料依存から脱却できますか。(後日、Web聴講者からの質問)
A4 核融合発電は、小規模プラントではエネルギー収支がプラスにならないため、ある程度の装置規模が必要となり、数十万kW程度の中規模以上の発電プラントとなります。従いまして、電力のベースロードを受け持つ発電方式を想定しています。一方、系統の負荷変動に対応するような、出力を急激に変化させる運転は、核融合の場合不可能ではありませんが、プラズマの制御上あまり得意ではないと思います。以上の核融合発電の特性から、化石燃料を使った火力発電の中で、基幹エネルギーを担うものに置き換わることは可能です。一方、再生可能エネルギーのように気象による発電パワーの急激な時間変動を補償する火力発電分は、火力以外の発電で置き換えるのが難しいと思います。従いまして、核融合、原子力、水力といった負荷変動が得意ではない発電方式は、どれもベースロードを担う電力を供給し、急激な負荷変動は、石油、石炭、LNG等の化石燃料を使った火力発電が一定規模必要となります。但し、少し未来に目を向けますと、(1)大容量蓄電池が系統に分散配置されて、再生可能エネルギーの変動を吸収出来るようになったり、(2)化石燃料を使わない火力発電、例えば、核融合電力を使った火力発電用の合成燃料製造や水素製造が出来れば、化石燃料依存から完全に脱却出来ます。化石燃料資源には、枯渇の問題も避けられませんので、このような究極の化石燃料依存脱却が、エネルギー開発の目指すところと思っています。

文責:白橋 良宏
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介