2022年10月27日

EVFセミナー報告:CCUS/カーボンリサイクルの展望と課題

演題:「CCUS/カーボンリサイクルの展望と課題」
講師:須山千秋 氏
 一般社団法人カーボンリサイクルファンド理事
聴講者数 49名

講師紹介
1981年 京都大学工学部資源工学科(物理探査専攻)卒業
1981年 三井鉱山株式会社 入社
1992年 日揮株式会社 入社
2017年 一般社団法人石炭フロンティア機構(JCOAL)出向 カーボンニュートラル推進部担当参事(現在)
2019年 一般社団法人カーボンリサイクルファンド設立、理事(現在)
技術士(資源工学)

[講演概要]

1.CCUS/カーボンリサイクルの動き

・日本のCO2排出量(10.4億トン)における電力由来(エネルギー転換)CO2排出量は全体の約40%、うち石炭火力由来は27%(2020年度確報値:環境省)。化石燃料火力発電を全廃しても、CO2削減量は半分にも満たない。
・電力以外でも化石資源の役割は大きく、将来、化石資源が枯渇した後、炭素を何から得るのかを考えると、CO2は資源である。(太陽光や風力等の再生エネルギーから物質を作ることはできず、また熱需要対策も課題となる。)
・CO2削減は、さまざまな技術を活用した総力戦。うち、2050年にCO2排出ネットゼロというIEA(国際エネルギー機関)のロードマップにおいて、CO2排出をゼロにすることは難しくCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:二酸化炭素回収・利用・貯留)で76億トンが期待されている。
・CO2削減に向けた選択肢として、排出削減+CCUS/カーボンリサイクル(CO2利用・貯留)が望ましい。
・カーボンニュートラルの達成には、カーボンリサイクルが不可欠。すなわち、CO2(世の中から炭素がなくなることはない)を資源として活用し、排出量と吸収・除去(利用、固定)量をバランスさせる海、森林、土壌への吸収を含めた地球規模の炭素循環がカギとなる。カーボンニュートラル実現に向けて目指すべき社会とは、すなわち循環炭素社会である。
・カーボンリサイクル技術のロードマップは3つのフェイズ。フェイズ1:カーボンリサイクルに資する研究、技術開発、実証に着手。水素が不要な技術や高付加価値製品を製造する技術に重点を置く。フェイズ2:2030年に普及する技術を低コスト化。需要の多い汎用品の製造技術に重点を置く。フェイズ3:更なる低コスト化を実現させ、2030年ごろからの消費の拡大(化学品、燃料、鉱物・コンクリート製品)、2040年ごろからの普及開始をめざす。
・カーボンリサイクルのCO2削減ポテンシャルは、2030年で約100億トン、約100兆件の市場規模と試算している例がある。(ただし、今後LCAを含めた評価が必要)
・日本のCCSロードマップ(2020年5月公表):2030年までの民間主導のCCS事業開始に向けた事業環境整備を政府目標として掲げる。CCS事業に対する政府支援措置。
・2050年時点での想定年間貯留量の目安は、2030年中にCCS事業を開始するとして、1.2億トンから2.4億トン。
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2. カーボンリサイクルファンドの概要

・カーボンリサイクルファンドは、2019年8月設立。ミッションは、国と連携してカーボンリサイクル(CR)の社会実装および民間のCRビジネス化の支援。法人会員112社(2022年10月20日現在)。業種を超えた連携によるカーボンリサイクルの推進を目指す。広報活動(CRに係わる啓発活動)、研究助成活動などを事業内容とする。また、カーボンリサイクルにかかる研究シーズ(アイデア、人)の発掘、育成を志向する。
・CO2をエネルギーの最終形(不要物)として捉えるのではなく、水や空気を通して循環する炭素循環のなかでイノベーションを起こしていくことを企図する。
・カーボンリサイクルファンドの政策提言:@イノベーション開発促進と人材育成、ACO2バリューチェーンの構築、B地方創生およびグローバル市場への展開。

3. CCUS/カーボンリサイクルの課題と社会実装に向けた今後の展望

・CO2バリューチェーンの構築:CO2の発生源から回収・輸送・利用・貯留までの
CO2バリューチェーンを見据え、具体的な場所を想定してカーボンリサイクル技術の社会実装モデルを検討する必要がある。カーボンリサイクルの社会実装には、産学官地域を含む多面的なアプローチが不可欠。政策支援のみならず、市場創出、社会的受容なども。
・CCS推進のポイントとしてのCCS長期ロードマップ。@CCS事業実施のための国内法整備、ACCSコストの低減、BCCS事業への政府支援、CCCS事業への国民理解、D海外CCS事業の推進。
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4.Q&A

Q:CO2からエネルギーへの転換が実現するのはいつごろか。
A:未だ回収コストが高いという問題がある。どのくらいのコストでペイするかは製品による。80ドルくらいでペイする製品もある。
Q:「CCS」、「US」と「リサイクル」は同義のはず。名称を統一したらどうか。
A:海外では、「US」あるいは「S」が主流で、「カーボンリサイクル」は日本の言葉。統一は難しいかもしれない。
Q: 苫小牧のプロジェクトはどうなるのか。
A: 現在、モニタリング継続中。次の展開は、商業規模。2030年に向けて民間で展開し、国がサポート。
Q:CCUSのSは、日本発祥か。
A: 違うと思う。メジャーやアメリカか。CCSは欧米で石油メジャーのEOR(石油増産)を中心に進んでいる。その土壌として、アメリカではチャレンジャーが多く、そこから技術が生まれる。また、海外には寄付の文化があり、資金が投入されている。日本には、新しいものを生む力、環境、文化が乏しいのは残念なこと。
Q:メタネーション(燃料転換)(注:水素とCO2を反応させ、天然ガスの主成分であるメタンを合成すること)、水素とリサイクルの状況はどうか。
A: メタネーションのための水素を何で作るかが課題。豪州では褐炭ガス化による水素製造実証が進んでいる。日本でも、再生エネルギーが普及すれば、地方で水素を作ることもできる。日本で取り組むべき課題である。
Q: CCSは場所を先に決めればよいのか。日本では、玄武岩での固定が早いか。
A: 健全な帯水層があれば安全に固定化できるが地震を誘発するという誤解もあり、地元の理解が必要だと思われる。玄武岩固定はアイスランドで実施されたが、まだロジックが理解されておらずデータの蓄積が必要。
文責:高橋直樹

講演資料:CCUS/カーボンリサイクルの展望と課題
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