2023年01月26日

EVFセミナー報告:深海にも広がるプラスチック

演題:深海にも広がるプラスチック
講師:藤倉 克則様

JAMSTEC(国立研究開発法人・海洋研究開発機構・海洋生物環境影響研究センター長)

[聴講者数]:46名
[講師略歴]:
・東京水産大学(現 東京海洋大学)大学院修了、学術博士(水産学)。
・1988年 海洋科学技術センター(現 海洋研究開発機構)入所、チームリーダー、研究分野長などを経て2019年から海洋生物環境影響研究センター長。
・日本大学非常勤講師、東京海洋大学連携大学院客員教授、東北大学連携大学院客員教授、東海大学非常勤教員など歴任。
・専門は深海生物学。
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[講演概要]

・組織と活動の紹介

講師が今回のテーマに関心を持ったきっかけは、東北地方太平洋沖地震の津波で大量のプラスチック(以下 字数制約もあり、「プラ」とよぶ)が流され、深海に沈んでいることに驚き、この研究の道に進んだという。JAMSTEC(国立研究開発法人・海洋研究開発機構)の活動は海洋、地球、生命の統合的理解への挑戦として、地球環境変動の理解、地球内部ダイナミックス、生命の進化と海洋地球生命史、資源研究などの調査研究が主たる活動である。年間予算はトータルで400億円。また開発機構の研究ファシリティ(船舶、施設、観測機器・機材)・データベース等を紹介いただいた。

・研究の目的

何故 海洋プラや深海生物を研究するのか→人は他の生物を利用して生きている。現在気候変動や人の影響が深海にも危機を与えている。人は多くの魚を食べており、それは深海魚の領域までに達している。海洋を利用するためには「守ること」、「利用すること」のバランスが肝要。プラが悪者のように言われるが、人間生活に絶対に必要なものであり、特に医療、食品生産、流通などにおいては欠かせない。プラは分解しないので悪影響が出始めている。いったん海に流れ出ると、回収は非常に難しいので、これ以上プラによる汚染は拡大させられないので、何とか対策しようというのが世界の流れ。特に5ミリ以下のマイクロプラの回収はとてもできない。 

・持続可能な開発目標(SDG’s)での位置づけ

SDG’s)の14番目「海の豊かさを守ろう」とあるが、この項の最初の項目は「海洋汚染の防止・削減」が挙げられている。(目標は2025年)

・社会の理解を得るためには、科学的根拠の提示が必要

プラの現状:年間4億3800万トン生産(2017)、1960年から2014年までのプラの生産量は20倍に増えている。1950-2017の合計生産量は70億トン。世界でリサイクルされているプラはわずか10%で大半は埋め立てや、自然界に廃棄。日本は少し事情が違って、大半が焼却され、埋め立てや自然界への廃棄は6%程度である。プラが不適切に流れ出ている量で見るとアジア(中国)が世界全体の50%で圧倒的に多い。使い捨てのプラを量で比べると、日本は総量では少ないが、一人当たりの使用量が多く、アメリカに次いで2番目に多い。(過剰包装が原因か)

・プラの海洋への廃棄による影響

1)誤食→カモメ、魚類など 2)化学物質汚染の拡大  3)漁具への絡まり 4)生息地改変等がある。プラがPCB, DDTなどの化学物質を吸収、また製品にする時の添加剤などの物質が解け出てくる。食物連鎖の中で濃度が高くなっていく。5ミリ以下のマイクロプラが問題。小さくなればなるほど生き物に影響する。水中の生き物はこれらのマイクロプラをろ過するように食べていく。サメは海の食物連鎖の最終なので、サメ8種の肝臓を使って分析。深海にいる二枚貝にもプラ汚染は進んでいる。この食物連鎖が進むとやがて食料資源に影響を与えることが懸念される。

・海洋中のごみ集積場所(ごみパッチ)の形成

過去に海に流れ出たプラのうち表面に浮かんでいるとされる量は2500万トン、海の表面には26万トン(1パーセント)、99パーセントは行方不明。深海やまだ調査してない海域に、たくさん潜んでいる可能性。小さくなったものは網に引っ掛からない。プラの分布を正確に把握する必要がある。正確に測ることが難しいが、その技術が必要。プラの分布としては、日本の周りにたくさん集まる。東アジアから黒潮に乗ってやってくる。海の中にも渦があるが、そこにプラごみが集まる。日本の周りの渦を調べてみるとたくさんあった。これを「西太平洋ごみパッチ」と呼ぶ。(表面だけでなく、海底にもある)潜水艇「しんかい6500」を使って海底調査。40年近く深海調査をやっていて、古い映像を調べるとレジ袋だらけ。JAMSTEC深海デブリデータベースを作った。
台風は水とごみを大量に海に流す。相模湾にて台風の前後で調査した結果、台風の通過3日目と通過後に相当量のプラ数で(250倍、重量では1.300倍)

・海洋プラを測る方法

プラの分析に大変な手間と時間がかかる。採取した泥、水からプラを分離するのが結構面倒。海はものすごく広いので、世界中の研究室でこのような研究をやってもなかなか全体像はつかみにくい。ヨットをやっている人たちには環境意識が高いので、サンプリングなど協力してもらっている。

・まとめ:結論的にこの研究から学んだことを講師は以下のようにまとめられた。

日本のまわりはプラが多い
深海が行き着く先になる
深海生物へも影響
便利さ(プラ製品)の副作用(地球温暖化と同じ)
将来に向けた取り組みが重要
科学技術も重要な役割を持つ 

Q&A

Q1)横浜市はプラを生ごみと一緒に捨ててもよいとなっているが、燃焼以外はどうなっているのか。また相模湾の蒲鉾が心配だけど、汚れていると考えなければならないか?
A1)相模湾のプラごみは30年前に比べ 最近はますます増えてしまっている。一応対策もしているが、JAMSTECもそれを測るが、効果をみるにはモニタリングが必要。また「ピリカ」というアプリがあり、街を歩いている時にスマホで写真を撮り、プラの量を画像でAI解析してくれる。

Q2) 日本の場合、殆どのプラごみは燃焼で処理されているというが、燃焼した場合の問題は何か?
A2) 燃焼すればCO2が出るのとともに、日本以外の国ではダイオキシンなどの有害物質が発散される。ダイオキシンが出ないような燃焼設備は高額なので、途上国ではないと思う。こういう設備を合わせて協力するのが本来のあるべき姿。

Q3) レジ袋の有料化は効果があったのか? 
A3)使う量が減れば効果があるはずだが、レジ袋自体の量はたいしたことはないので、むしろプロパガンダ的な効果。プラ全体量を1/3にしたいが現在の生活を考えると無理に近い。流れ出すよりまだ埋め立てたほうが良い。適切に管理することが重要。

Q4)化学繊維を選択するとマイクロプラの馬鹿にならない量が出ると聞いたが、綿などの天然素材を使うのが良いことなのか。
A4)天然素材のほうが分解もされるので、良いに決まっているのだが、生産力とのバランスもある。特に木綿などは自然分解されるので、ゼロエミッション。 洗濯ではマイクロファイバーが出てくるが、日本の周りにマイクロファイバーが少ない。 日本の洗濯機にはごみ取ネットがついているので、有効なのかもしれない。

Q5)プラが海に集まるのは、陸から川、海と流れていくのか。プラごみ拾いなど自治会でやっているが、そのあとは燃やすのか?
A5)基本的には陸に落ちたものが、川などに流されて、海に出ていく。横須賀のごみ処理施設の見学でプラごみの選別をしていた。リサイクルできないものは燃焼、梅経ってなどで処理。ごみ部袋の中に別のごみ袋を2重に入れると、選別時に大変な手間がかかるので、ごみは1枚の袋に入れてほしいと係員から強く言われた。

Q6)陸上から海洋に流れないようなプラの処理が知恵を出して抑えるだろうと思うが、海洋に出てしまったプラの回収や処理をどのようにしていくのか?大量の集まっているところを処理すればまたそこにゴミが集まるのでは。
A6)取組はないわけではない。大きなゴミパッチを狙って回収するような動きはあるが、まだうまくいっていない。3.11の後、漁師が回収をしたこともある。大量に集まるパッチは海洋遠くて、なかなかうまくいかない。

以上
文責:八谷道紀
 
講演資料:海洋プラスチック問題
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