2023年04月28日

EVFセミナー報告:脱炭素社会における太陽光発電の真の役割とポテンシャル

演題:脱炭素社会における太陽光発電の真の役割とポテンシャル
講師:増川武昭様
 太陽光発電協会(JPEA)事務局長
聴講者数:55名

[講師紹介]

1985年 昭和シェル石油株式会社 入社
1985年から1998年 石油開発部門にて石油ガスの探鉱・開発、LNGプロジェクト等に携わる
2002年から分散電源事業課長並びに電力販売課長として電力ビジネスに携わる
2013年ソーラーフロンティア株式会社に出向、2017年6月 太陽光発電協会 事務局長に就任
2021年出光興産株式会社 電力・再エネ事業部、2023年1月より 現職

[講演概要]

太陽光発電に関してポテンシャルと最新状況を詳細に説明し太陽光発電の意義や課題を明確に示した講演で、極めて有用であった。下記が要点である。

1.太陽光発電は、3U(1.Un-economical (高い)、2.Un-stable(不安定)、3.Useless(役に立たない))と言われ悪いイメージを持たれがちだが、そのポテンシャルと実態は違う。

2.太陽光のポテンシャルは、10m2(車庫の屋根相当)の太陽光発電パネル(10年前のものであっても)があれば、年間(天候や稼働時間を考えて)1000kWh(=3600MJ)の発電ができる。それで小型EV(10・15モードで燃費0.4MJ/Km)を動かせば、9000kmの走行が可能。

3.太陽エネルギーは地球に降り注ぐ膨大なもので、数値的には最近の地球全体の年間エネルギー消費量をわずか1〜2時間の太陽照射でまかなえるほどであり、そして枯渇する心配はない。

4.世界の太陽光発電は2008年以降急速に拡大していて、2021年の導入量は173.5GW((百万KW)で、大きな原子力発電所の約173所相当)で2008年の約27倍。世界の累計導入量は2021年時点で945GW。この中では中国が308GWと最大。日本は78GWで世界第3位。全世界の電力需要の6%位を賄うまで成長したが、まだ発展途上。この急速拡大の理由は価格が凄く安くなっている(2010年からの10年間で、パネルは93%低下、建設コストが81%低下)ことである。

5.このような状況から、国際エネルギー機関(IEA)によれば太陽光発電は2027年には累計導入量が2400GWと予想され、石炭火力を抜いて発電分野別の第1位になると予想されている。

6.2050年にカーボンニュートラル(CN)という目標は日本のエネルギー政策にとってゲームチェンジャーで、CNの実現には供給側も需要側も抜本的に変革していく必要があるが、進んでいない。CN達成に向けた2030年の太陽光の導入量として国は約104〜118GWという野心的目標を掲げている。目標達成には2020年末の倍程度に増やす必要があるが、そのためには、FIT(電力固定価格買取制度)に支えられた従来のモデルから、需要家に長期間買い取ってもらうPPAモデル等への転換による自立導入を増やす必要がある。FITの買取価格が導入時の40円から今は10円程度と市場価格に近付き、太陽光による自家消費メリットがコストを上回っていることもあり、東京都や川崎市による設置義務化の動きがある。

7.課題としては「コスト競争力の向上」(太陽電池モジュール変換効率の向上等)、「価値創出」(環境価値とかカーボンオフセットの価値。日本ではまだ価値が低い)、「電力市場への統合」(FITに頼らず電力市場で競争できるように)、「系統制約の克服」(系統の容量が足りず接続できない、或いは接続できても、太陽光の電力が余剰となる時間に出力が抑制されるといった課題の解決;セクターカップリング(電力供給、熱利用、運輸の3つのセクターで高効率化と脱炭素化を一体的に推進)によるシナジー効果を出すこと)、「長期安定稼働」(FIT終了後も継続運転することによる貢献)、「地域との共生&適地確保」(地域に歓迎されるものにする)がある。

8.太陽光電力のメリットは、「輸入燃料に依存せず燃料価格に影響されない(卸電力スポット価格が高騰し10円を超えるような場合はコスト競争力が高まる)」、「太陽光の発電量が多い時間帯には、燃料価格の高い火力電源の稼働を大きく抑えることで電力コストを抑制できる(九州等では太陽光発電が余った時はスポット市場の約定価格が0円/KWhになる)」である。
9.2050年に温暖化ガス排出を80%削減するためには、太陽光発電の導入量を300GWまで引き上げる必要がある。それをCNまで持っていくには300GW以上の導入が必要で、同時に蓄電池・EV等による電力貯蔵の最大化も必要となる。

[質疑応答]

(1)質問:今日の太陽光発電関連の話は資源エネルギー庁が狭い範囲での考えに沿ってまとめられたものだと思う。2050年には核融合が実用化されるとアメリカやイギリスが言っているし、太陽光発電は見た目が悪くて私は嫌いということもあって、太陽光は核融合に負けると思うので、両者の比較を教えて下さい。

回答:核融合もすごく有望な技術と思いますし、それをちゃんとやらなければいけないと思います。ただ、今の技術で、例えば2035年までに何が出来るかと考えた時に、現実的には太陽光と風力を優先すべきと思います。2050年にCO2をゼロにすることも大事ですが、それまでもCO2を出し続けることを考えると、地球温暖化防止の観点ではそれまでの徹底した対策(累積のCO2排出量を減らすこと)が大事で、先ずは今見えている技術に注力して出来るだけ早い段階でCO2排出を減らすことが必要と考えます。

(2)質問:太陽光電力に合った需要を作らなければいけない、余った電気をどう使うかと言う問題に対して、その場で大気中のCO2を回収する(DAC:Direct Air Capture)ことに余った電気を自己消費するような技術開発を進めて欲しい。

回答:それ(DAC)も重要なソリューションの一つで、まだ技術開発途上です。太陽光の余剰電力で直接CO2を吸収しようという話(DAC)は国でも検討されています。

(3)質問:国富の流出2.4兆円止められている、CO2削減の貢献が2.7兆円と聞きました。それは大変な額なので、早く手に入れたいと思います。太陽光で発電した時の利益は我々に還元されているのですか?それが見えたらみんなのモチベーションが全然変わって来ると思います。/ 我々の電気代がどんどん下がって来るようにならないと意味がないのですが?

回答:今でも効果が出ています。仮に太陽光がなかりせば、今の電力需要の8%は太陽光で賄っているのに対してLNGか石炭で賄わなければいけなかった訳で、燃料価格高騰時には電気料金が上がるのを抑えているのは間違いないと思います。将来火力でCO2代を払わなければいけなくなった時はそれを抑えると考えます。
(後注(報告者追記・講師確認修正):今は設備代を分割して(FITで高く買い取られた分は再エネ賦課金として)電気代に入れて支払っているので、若干高くなっている傾向にある。(FIT買取価格が10円以下に下がった新規の)太陽光が主力になり、(買取価格が高い時代の太陽光の買取期間(住宅用10年、事業用20年)が終了し)設備の償却が終わるか、メンテナンス費が下がった時に、庶民の懐に効いてくる。今は(燃料価格高騰時に)電気代が大きく高くなるのを抑えているというのが正しいと思われる。)

(4)質問:私は松本に住んでいて、私のマンションの屋上に太陽光パネルをびっしり貼っています。各戸が6枚ほどを所有していて、年間通すと電気代ほぼ全額賄えています。ということで私はソーラーパネル支持派で、もっと増えればいいなと思っています。心配は、増やした場合にソーラーパネルを作っているのは中国のメーカーが殆どであって、その中国に利することになるのではないか?ということです。それに対抗できるような日本の革新的な技術の開発は見られないのでしょうか?

回答:日本で流通している太陽電池パネルの9割以上は中国を含む外国製です。それなら化石燃料と同じではないかと思われがちですが、違います。何故ならば12円/kWhと言われる太陽光の電力コストの中でパネルの占める割合はせいぜい2割です。それ以外は国内での建設費等です。燃料がゼロということも大きく、日本の国益には反していないと考えます。安いものを輸入できているから安く発電できる、中国が沢山作っているから日本も安く買うことができ、世界に広まっている。太陽光がなかりせば、(中国や世界各国で)LNGや石炭をもっと買わなければいけなくなって、電気代がもっと高騰する、エネルギーの争奪戦になると考えると、それを緩和していると思う。もう一つの点はLNGや石油は備蓄期間が限られているが、太陽光は(輸入し設置すれば20年以上は発電できるので)それを考えなくても良いことがあって、それは意義があると思います。

(5)質問:東京でマンション住まいの者ですが、その理事会で議題になったのですが、電気代がえらく上がっていてコストダウンの方法がないかということでマンションの屋根や駐車場に屋根を作ってその屋根に太陽光パネルを置くことも候補に上がったのですが、太陽光の反射で害が出るということでボツになったのですが、その辺についてアドバイスはありますか?

回答:反射は設置する時に考慮することが重要です。一方、反射してしまうと発電効率が落ちるので(パネルは設計上)反射を抑えるようにしていますし、(設置方法で)許容範囲に収まることも多いのでケースバイケースで検討して下さい。角度を変えることも考えられますし、垂直に設置しているケースもあります。反射して害があるからと言って太陽光発電を止めるというのはナンセンスというご意見はその通りで、配慮は必要だけど止める絶対的な理由にはならない。

(6)質問:国によって国状が違うので最適ミックスが変わると思いますが、例えば欧州の先進国、ドイツ等と比べてみて我が国では太陽光発電の割合がどういう位置であるのが良いのか、太陽光と水力と風力と再生可能エネルギーの割合は変わるんじゃないかと思いますが、如何ですか?

回答:欧州は風況が良いので、ドイツでも風力発電が多い。とは言え太陽光も相当増えています。オランダは日射があまりない所ですが、そこでも増えています。国が支援しているということもあるし、ウクライナ危機でガスでセントラルヒーティングをしてるのではえらく高くなってしまったこともあって、家に太陽電池をできるだけ付けろとなっています。ヒートポンプ給湯器も含めてそれが防衛策になっています。家では風力発電を採用するのが無理なのでということもあります。

(7)質問:私が30年近く前の1995年に家を建てようと思った時に屋上に全部太陽光パネルを付けようと思いました。建設会社も電力会社もそんなことやったことがないと言って諦めたことがありました。その後どうなっているのかを含め、今日の話を興味深く聞かせて頂きました。質問は、ここ10年位、八ヶ岳山麓に行った時にその周辺のテニスコートがどんどんソーラー畑になっていくという経験をしました。ところがここ1〜2年その動きが止まったような気がします。前に質問した方は(そのように景色を台無しにして)面白くないと仰っていましたが、私は単にその理由の知りたいのですが、如何ですか?

回答:止まってはいないのですが、大部スローダウンしています。理由としては(FITの)買い取り価格がずっと下がっていることがあります。昔は凄く儲かるビジネスだったのですが、今はそんなに儲からなくなっています。不動産投資のように行かなくなっていますし、規律も厳しくなっている(FITの申請に一杯チェックされる、事業者として覚悟を持ってないとできない)からだと思います。

(8)質問:九州電力の太陽光発電を捨てているほどのことは他の電力会社はできているのですか。

回答:はい、九州電力管内ほど多くは発生していませんが、北海道、東北、北陸、中国、四国、沖縄、そして最近では中部電力でも出力抑制が発生しています。現在まで発生していないのは東京と関西の大消費地のみです。解消には、1)地域間の連系線を増強し、余っている地域から余っていない地域に送電するか、 2)需要側の行動変容(昼の時間帯により電気を使う(家庭部門、業務部門に加え電気炉等を活用し)と設備投資(ヒートポンプ給湯器やEV、電気炉等の導入)を加速し、余剰電力を吸収する。3)将来的には、蓄電池の大量導入や水素製造、DACの活用が期待されます。

(9)質問:ご見識では脱炭素社会に向けた日本の自動車メーカーの取り組みをどう俯瞰されますか。

回答:海外(欧米、中国)のメーカーに比べると、EVへのシフトに関しては出遅れ感を否めません。今までの日本のメーカーの強みを考えれば当然とは思いますが。太陽光等の再エネのポテンシャルをご理解頂き、最大限活用することをもっと真剣に考えて頂ければ幸いです。

文責:浜田英外


講演資料:脱炭素社会における太陽光発電の真の役割とポテンシャル
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