2023年06月23日

EVFセミナー報告:「地熱発電〜その課題と展望〜」

演題:「地熱発電〜その課題と展望〜」
講師:當舎 利行様
 JOGMEC地熱技術部主任研究員(東京海洋大学海洋電子機械工学部門 博士研究員)   
聴講者数:50名
講師紹介:
・1954年東京都生まれ
・1984年東京大学大学院理学系研究科地球物理専攻終了 理学博士
・1985年通商産業省工業技術院地質調査所地殻熱部 入所
(工業技術院サンシャイン計画推進本部併任、ニュージーランド在外研究、NEDO地熱開発センター出向など)
・2002年産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門
・2013年JOGMEC地熱部
・2015年熊本大学大学院先導機構
・2019年現職

講演概要

<はじめに>
・日本列島は環太平洋火山帯に位置する世界有数の火山帯国。地熱発電とは、火山の下にあるマグマから伝わる熱で形成された地熱貯留層(高温の熱水・蒸気溜り)に向けた井戸から噴出する蒸気でタービンを回す発電。
・有限の化石資源を燃焼させタービンを回す火力発電とは異なり自然の熱を利用するため、資源は永続的に利用可能でCO2の排出が少ないことから再生可能エネルギーと位置付けられている。
・また天候に左右される太陽光発電・風力発電の設備利用率は、太陽光(約12%)・風力(約20%)であるが、地熱発電は設備利用率(約70%)と一年を通して安定的な電力供給ができる。
・日本の地熱資源量は2347万kWで、アメリカ(3900万kW)、インドネシア(2700万kW)に続く世界第3位、国産資源の有効活用・安定したエネルギー供給源として益々重要性を増している。

1.地熱資源量の推定

・太陽光、風力、水力といった再生可能エネルギーの資源量は直接計測が可能だが、地熱は地下資源のため直接計測ができず資源量を推定するしかない。
・資源量推定の方法として容積法・シミュレーション法の二つがある。地熱発電所は、地表調査→地熱探査・評価→建設→操業の手順を経て運転開始となるが、全国規模で地熱資源量を探査・評価する場合は容積法を用い、実際に発電所の建設にとりかかる場合には、地熱貯留層の構造をモデル化したシミュレーション法を用いて、熱水の生産量・還元量を推測する。
・容積法は、@全国を等面積(1km mesh)で分割、A温泉ないしは温度が測定されている坑井を抽出、Bその温度データを元にして地下の温度分布をAI法(活動度指数)により推定、C資源を算定する温度(例えば150℃)を決める(これが、貯留層の上面になる)、D貯留層の下限は、重力探査より決める(重力基盤深度)、の手順で資源量を推定。
・容積法は、今有る地下の貯留層の温度と、そこから抽出される熱量を算定しているもので、資源量は2347万kW相当と推定されているが、そこには再生可能性の概念は入っていない。
・エネルギー基本計画(6次)における地熱発電の見通しは、電源構成比率1%、150万kWとなっているが、直近の導入量は54万kW(約4割)に過ぎない。FIT認定済みは5万kWでほぼ導入確実であり、調査・開発中が31万kW。残る60万kWは国立公園などでの開発が必要となる。
・国立公園に指定されている火山地域は、特別保護地区・第1種〜第3種特別地域の指定があり、地熱資源のポテンシャルの高い場所は特別保護地区・第1種特別地域に重なっている。したがって全国の推定資源量の内、半分程度は開発が難しい現状にある。

2.地熱発電の抱える課題と現状の対策

・1000kW以上の大規模地熱発電設備の発電量は減衰傾向にある。1000kW以下の小規模発電設備はFITの効果で、発電量は2014年度から増加傾向にあったが、2018年度をピークに大規模設備と同様に減衰傾向にある。
・減衰傾向の理由は、大規模設備においては、@熱水貯留層の減衰、Aスケールなどによる熱水生産・還元障害、B新規開発地点への地元理解や公園などの規則により新設が難しい、C開発までの長いリードタイム(10年以上)、D電力網への接続にかかるハードル、の5点、小規模設備においては、@小規模バイナリー発電機メーカーの撤退、Aそれに伴い既存発電機の維持管理が困難となったこと、B温泉業界が事業主体となっているケースが多くサポート体制不備(バックとなる業界団体が不明)、の3点があげられる。
・これらの課題に対し、JOGMECでは、地表調査・坑井掘削調査などのリスクの高い初期調査にかかる助成事業や掘削・探査にかかる技術開発支援など、NEDOでは、発電システム・発電機器にかかる技術開発支援などを行っている。

3.地熱発電の将来

・上記の課題に加え、温泉事業者の理解促進のため熱水を用いない地熱資源の開発が必要であるが未だ研究段階にあること、バイナリー発電設備の普及は代替フロン等の2次媒体規制により限定的とならざるを得ないこと、労働環境規制により掘削事業が逼迫していることなどの問題もあり、現状において、2030年の目標達成(残り60万kW)は大きな目標である。
・地熱発電による水素の製造やメタネーションなどの幅広い活用方法の検討も必要であるが、電力として直接使う方が効率的でベストであり、そのためには電力網の充実(容量・接続地点)の喫緊の課題の解決が急務となっている。
・政府において、1997年に「新エネルギー」の範疇が定められたが、地熱資源はその範疇から外されてしまったことが、2000年代初頭から福島での原子力発電事故までの地熱発電開発停滞の原因の一つとなっている。その中でも、地熱業界ではJICAなどの国際支援を行っており、タービンメーカーのシェアの高さとともに世界からは期待されている。また、世界をリードする技術開発も行われている。国内の開発を促進するためには、トルコやケニアのような政府の関与は不可避と考えている。
・最後に、熱水を使わない新たな地熱資源の開発として、【超臨界地熱資源開発】【ESG技術(二酸化炭素利用)】【クローズサイクル地熱】について紹介(添付の講演資料参照)。


主な質疑応答

Q:大規模な地熱発電の開発には長期間を要し国立公園の問題もあるので、発電量を追求するのではなく、スイスや土湯温泉のように温水も含めた熱エネルギー資源として、地産地消の小規模バイナリー発電の開発を進めていく方が良いのでは?
A:地熱発電はエネルギー基本計画に位置付けられているため、政策的な観点から、政府の助成事業は1000kW以上の大規模発電が対象となっているが、温泉事業者等の理解促進の観点からは、小規模バイナリー発電の開発を進めていくのも重要と考えている。

Q:スイスのような開発が進まない理由は、温泉事業者の理解が得られないためか?
A:地熱発電の熱水貯留層は温泉源よりも深く、温泉源の熱水を直接使用しないので基本的には問題ないが、地下はどこで繋がっているかはっきりと判らないため、「地熱発電が大量の熱水を汲み上げることで温泉源が枯れるのでは」といった温泉事業者の懸念を中々払拭できない。モニタリングを行いながら開発を進めていくことが、重要と考える。

Q:熱水を使わない新たな地熱発電は再生可能エネルギーとして明確に位置付け可能か?これらの発電設備の実用化はいつ頃になるか?
A:現行の地熱発電は、貯留層の熱水の復元が見通せなければ再生可能性に疑問を生ずるが、中心温度は6000℃という地球の中での高深度の地熱を利用した新たな方式は、熱のみを用いる方法であり、熱の枯渇は地球の寿命から考えても再生可能性に問題はない。地上から地下高深度に水を注入し熱水として循環させるアイデアは1960年頃からあり、NEDOにおいて山形の肘折に実験設備も設けられていたが、新エネルギーの範疇から外れたことに起因し政府予算外となったため、2000年代に入り開発が中断してしまった。同様の熱のみを用いる地熱開発【ESG技術(二酸化炭素利用)】が行われているが実用化は2050年頃の見通し。

Q:松川発電所は操業開始から57年経ているが、発電量は落ちてるのか?寿命はどのくらいとみられるか?
A:貯留層の減衰により発電量は落ちている。地上設備は更新すれば寿命を伸ばすことが可能。水を注入することで貯留層を復元させることも試みられているが、必ずしも注入量がストレートに復元量に結びついてはおらず、また水を注入することで地震を誘発する懸念もあるため、更なる技術開発が必要。

Q:酸性流体による腐食、鉱物スケールの問題について、どのような対策を講じられているか?
A:地熱発電所によっては、酸性の熱水を利用せざるを得ないところがある。そのような地点では、酸性に強い鋼材に換えることで対応している。また、鉱物が沈殿して坑井や貯留層をふさぐスケールについては、酸性薬品注入による除去を行っているが、スケールをゼロにするなどの根本解決には至っていない。

文責:伊藤博通


講演資料:地熱発電〜その課題と展望〜
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介