講師:丹澤 太良 様 公益財団法人日本尊厳死協会顧問 (前理事)
日時:2023年7月28日(金)14:30−16:00
場所:新宿NPO協働推進センター501会議室
聴講者数:56名
講師略歴:
・1947年生まれ(75歳)東京都出身
・日本航空株式会社を定年退職後、母の尊厳死を看取った経験から、協会理事に就任。
・関東甲信越支部長、中国地方支部長を歴任。現在は支部顧問。主にセミナーの講師を担当。
・趣味:音楽鑑賞 特にモーツァルト
・好きな言葉:「健やかに生きよう!安らかに逝こう!」
講演概要:
(1)通常のEVFセミナーとはフィールドの異なるテーマでしたが、個々人に「死」について見つめる機会を与えて下さった貴重な講演であったと思います。講演は、実践的な話で、頭でっかちでなく、大変理解しやすかったと思います。特に、「日本人の死生観」は深く考えるテーマであったと思いました。
(2)講師は講演概要として、「人は必ず最期を迎えます。とかく『縁起でもない』と避けられる人生終焉の話ですが、どんな最期を迎えたいのか、どんな治療を受けたいのか受けたくないのか。考えておくこと。家族と話し合っておくことが必要です。医学の進歩によって様々な医療が発達しましたが、「病気は治らないが命は止めない」つまり「延命治療」も発達しています。これが果たして我々の幸せにつながるのか?考えてみる時期に来ていると思います。」をあげられています。正しくその内容のご講演でした。
講演内容:
最初に、この数十年間の技術の進歩は、当時では信じられないくらいすごいものがある。
例えば、(1)当時ケイタイが一人一台になるとは。(2)50年前の飛行機のエンジンは4発、今は国際線でも2発。(3)55年前、100歳以上は153人、現在は91千人(そのうち、90%は女性)、(寝たきりの方が多い)、医学の発達、栄養、環境の改善により、不治の病が治るようになった(例:結核)。
*しかし、延命治療(病は治せないが、死なせない)の発達により、これを良しとするか否とするか、正解は「個人で考えよ」。そんな時代になったのでは。
石飛幸三先生の言葉の趣旨は、「医療は病を治すことが本来の仕事だが、これからは治らない患者をどうやって優しく見送っていくかも医者の仕事であるべき」
憲法13条(幸せの追求権):全ての国民は個人として尊重されるーー>人は皆、幸せを追求する権利があるーー>尊厳死運動=基本的人権運動。
*現実は、いわゆる「ポックリ死」は5%くらいで、残りの95%は「終末期」を迎える。せっかくの最期は「不幸なケースが多い」。
*尊厳死協会の立ち位置(目的)は、基本的人権運動。
協会の言う尊厳死とは、不治で末期に至った患者が、自分の意志で、尊厳を保ったまま最後を生き、迎える死です。「安楽死」、あるいは「医師による自殺ほう助」とは、基本的に異なる。
尊厳死は、英語の「Death with Dignity」から来ている。
*「尊厳」が大げさだとして、同義語として「平穏死」「満足死」を使う先生もいらっしゃる。
*他に、「自然死」「自立死」も使われるが・・・。
*しかし、これらの言葉と、「安楽死」とは、全く異なる。
*一方では、日本以外の国、例えば、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、スイス、USA(10州)、カナダ、等では、安楽死や自殺ほう助も適法とされる場合もある。
尊厳死と安楽死は違うの?:
*「安楽死」は、「死」を与える行為であり、日本では違法です。
*「尊厳死」は、緩和医療によってQOL(Quality of Life)を大切にし、自然に任せる。自然死に近い。
安楽死・延命治療・尊厳死:尊厳死は、自然に任せる=自然死。但し、緩和ケアは必要。
緩和ケアとは?:WHOの定義があり、具体的には、
*痛み・苦しみからの解放、
*死を自然の過程と認め、早めない、引き延ばさない。
*死を迎えるまでのQOL(Quality of Life)向上を支える。(QOL維持には、多趣味の方が望ましい)
*患者及び家族を支える(死後のグリーフケアを含む)。(ホスピスでは患者50%、家族50%のケア)
*早い段階からの適用。(緩和ケアに入る前からスタート。例えば、抗がん剤投与開始と同時に)
尊厳死を阻むもの(尊厳死の抵抗勢力):
1.医療の問題:医師の倫理として「延命以上主義」を言う医師もまだいる。
2.家族の問題:患者の近くにいる家続と遠方の家族(善意のエゴ)の意見の不一致。医師が訴えられる可能性もある。米国でも同様の問題があり、「A Daughter in California」に気を付けろ。
3.法率上の問題:医師が訴追されるリスクがある。
4.社会制度の問題:病院経営、本人(患者)の年金が便り。
5.日本人の死生観の欠如:死を語りたがらない、死の話を忌み嫌う。
ではどうすればいいの?:絶対はないが、思い描いておく(デザインしておく)ことが必要。
リビングウィルの勧め:尊厳死協会は、リビングウィルを啓発しています。
*入院時にリビングウィルの記入を求める病院が多くなりました。
*終活ノートにリビングウィルの記入欄があります。
リビングウィルとは、自分の終末期の過ごし方を決めておくこと。
*意思決定能力のあるうちに自分の終末期医療の内容の希望を書いておく。
*単なる延命治療を事前に拒否する意図で行われる場合が多い。一方、少ないが、徹底して治療を希望する人もいる。
尊厳死協会のLW:(1)延命治療は希望しません。(2)但し、緩和ケアは医療用麻薬などの使用を含めて充分に行って下さい。(3)以上の2点を私の関係者は繰り返し話し合い、私の希望を叶えてください。
ACP(Advance Care Planning)とは:日本医師会「終末期医療 ACPから考える」
*将来の医療及びケアについて、医療・ケアチームも含め関係者で、繰り返し話し合い、患者の意思決定を支援するプロセスのことです。
人生会議とは:厚生労働省ホームページより。
*人生会議とは、厚労省が公募して決めたACPの愛称です。
*厚労省は、スタートして直ぐにコロナがあり、本格的な活動はこれからです。
*ともかく、「関係者で会議をしましょう」が本旨。
*Planningですから、書き直せる。
ACP「人生会議」のまとめ:日本医師会ホームページより。
*会議を、患者が意思を明らかにできるときから、繰り返し行い、その意思を共有することが重要。
*患者の意思を確認できなくなったときにも、それまでのACPにより患者の意思の推測が可能に。
*かかりつけ医を中心に多職種が協働し、地域で支えるという視点が重要。
*医者が患者に「ACPやっていますか?」と聞く時代になっている。
本日に配布した当協会の会報の中、後方に、「私の希望表明書」が入っています。
死期が来たのを感じて、「ありがとう・・・」:ああ、いったい私はどこで「ありがとう」を言えばいいのか。科学と神の間でウロウロするほうはたまらない。
*生きるのもたいへんだが、今は死ぬのもタイヘンなのである。
「ああ 面白かった と言って 死にたい」:佐藤愛子さん。
元気に生まれて楽しく生きる/泣いて生まれて 笑って逝きたい。//
質疑応答
Q:日本人の死生観の欠如について?
A:世界を全て知っているわけではないが、欧州でも死を語る機会が少なかったが、最近は「Death Cafe」と称する「死」を気軽に語る会がある。特に日本人が「死を語らない」のは、(1)仏教の関係かもしれないが・・・?(2)第二次世界大戦の反省と経験から、特にマスコミが語りたがらない、(3)子供への「死についての教育の不足」が大きいのではないだろうか。。
Q:Ending NoteとLWについて?
A:遺言書は財産の問題があり、LWと異なり、皆と情報を共有する性質のものではない。LWは、終末期対策であり、遺言書は死後への対策。遺言書は、法律で担保されており、LWは働きかけてはいるが未法制化。
Q:医者の訴訟リスクについて?
A:尊厳死法案(一般に言われている法案名です)は、(1)患者の意思の尊重(2)医師の免責、で法案の中身はできているが、超党派の議員立法でもあり、なかなか法制化されないのが現状。
Q:尊厳死を進めるには合意が必要だが、実際には、会議の設定が難しいのでは?
A:「人生会議」をやっている人は、まだ少ない。会議の形は問わない、家族が共有していることが重要。
Q:妻の友人が乳がんになり、本格的な治療をせず、結局悪化し、早死に。「ちゃんと治療をしていれば・・・」と周りの人は、言うけれど・・・?
A:尊厳死の考え方では、(1)自分のデザインする考え方に従った、(2)治療して、効くかどうかは、誰もわからない、(3)患者本人の意思を優先すべき。
文責:三嶋 明
講演資料:人生のファイナルステージをどうすごすか