2023年09月29日

EVFセミナー報告:波力発電の現状と平塚市の取組み

演 題 :「波力発電の現状と平塚市の取組み」
講 師 :堂谷 拓 様
 平塚市産業振興部産業振興産業活性化担当 主査
日時:2023年9月29日(金)14:30〜16:00
場所:新宿
NPO協働推進センター501会議室
聴講者数:48名

講師略歴:
• Stony Brook University卒 BS Biology
• 首都大学東京(現東京都立大学)社会科学研究科博士前期課程修了(経営学修士・MBA)
• 政策研究大学院大学科学技術イノベーション政策・経営人材養成短期プログラム(修了)
• 平塚市産業振興部産業振興課産業活性化担当主査
• 平塚海洋エネルギー研究会を東京大学生産技術研究所林研究室と立ち上げ。波力発電の産業化、キャッシュレス決済サービスの実証実験などに従事
• 東海大学総合社会科学研究所研究員

概要報告:

・波力発電のポテンシャル:波力発電開発可能量は、砂浜海岸の距離の10%を開発した場合で見積もって3.6GWと見込んでいる。エネルギー基本計画の2030年度におけるエネルギー増加可能見込みの地熱0.9GW、水力0.7GWに比べても発電量は多い。
平均の波パワーは、日本海側は夏冬の変動が大きく、太平洋側は変動が少ない。波のエネルギーは沖合に行くほど高くなるが、沖合の波は振れ幅大きいこと、色々な方向から来るのに対し、沿岸では波のエネルギーが想定できること、一方向であることから、ウェーブ・ラダー型に適している。

・ウェーブ・ラダー型波力発電の開発経緯:船の操舵装置を逆利用したウェーブ・ラダー型波力発電の発電機構は、波によるラダーの揺動を油圧シリンダーの往復運動に変換し、オイルモーターを回し直結する発電機を回すシステムになっている。
ウェーブ・ラダー型波力発電は、文科省プロジェクトで岩手県久慈発電所が2016年に日本で初公開された。この初期型の発電所は発電効率が良くなかった。
第2世代として、2018年〜2021年環境省プロジェクトで平塚発電所では、発電効率を上げるために反射板を設け反射波を活用、ラダーを大きくし吸収できるエネルギーを大きくした等の改良、コスト削減を行った。国プロはプロジェクトが終わると撤去しなければならないので、現在は撤去されている。
第3世代では、国プロではなく資金調達して、発電所設置までの全体の低コスト化を図る。パワーテイクオフ装置(エネルギー変換装置)を小型化し量産可能なものにする。高回転可能なEVのモーターの活用。施工時は、起重機船をチャーターすると高額になるため、セルフエレベータープラットフォームを海底につけて船を浮かした状態で工事をする(洋上風力で利用しているものの小型版)等を検討しており、2023年度中に陸上試験が終了、2024年度以降資金が集まり次第、平塚海域で実証試験予定である。

・波力発電を取り巻く状況と平塚市の立ち位置(実績と政策論):波力発電は総合知の積み上げと人材育成の両立が課題。海洋土木、強電、機械等総合的に見れる人材が必要であるが、一方で、原子力強化にかじ取りされた時代に、大学の海洋エネルギーの専門家の多くが引退した。国プロは3年間で採択から撤去までを行わなければならず、実験期間が不足で知識の積み上げが難しい。平塚市は、環境省プロジェクトの前に3年間の内閣府の地方創生加速化交付金・地方創生推進交付金を活用し、波力発電の場所の確保、設計を終了させたため、実験実証の時間を確保した。実施体制は、東京大学を代表とし、14社が参加する平塚海洋エネルギー研究会を設立した。自治体も知識を作るところに入って、色々な分野の人たちとの議論から知的対流を起こすことにより、公共の課題解決にもつなげていく。
波力発電の商用化を目指すため、大学を中心とした開発実証から事業化を加速するために、
ベンチャーのコンサルティング企業e-ウェーブR&Dを設立。プロジェクト管理を東京大学からe-ウェーブR&Dに移行。3〜4年で技術移転する。
資金面では、内閣府が主催する「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」企業版ふるさと納税で、ヤフー株式会社が「地域カーボンニュートラル促進プロジェク」寄付先として選定したことで、注目が集まっている。今後は、寄附型のクラウドファンディング等の検討もしている。
また、国際エネルギー機関のオーシャンエナジーシステムズ年次報告(2020)に、平塚の取り組みがmajor successとして取り上げられ、波力発電は、プレコマーシャルの壁を超える段階に来ている。国産技術での再生可能エネルギー開発は、エネルギー安全保障上重要であり、第3世代の波力発電の実証に取り組んでいる。

Q1 波力発電のポテンシャルを理解したい。波が板に当たる圧力をエネルギーに変えるのか、位置エネルギーを変えるのか。発電効率はどのくらいか。効率を上げるポテンシャルはどのくらいあるか。
A1 波の運動エネルギーを油圧に変えて発電している。エネルギー変換効率は、油圧への変換効率 80%、電気に変換+電線で効率は50%くらいになる。
効率を向上させるためには、蓄圧器を外すことが油圧の効率を上げるのに重要。沿岸域は電線が短くて済むためコストが下がる。平塚では海中は通さず、発電所からアクセス桟橋を通って防潮堤沿いに電線をとおしたので、沖合よりも効率良くできた。

Q2 離岸流はエネルギーにならないのか。
A2 考え方は潮流発電に近い。波は上下運動はするが流れはない。
ウェーブラダータイプは離岸流を受けると傾いたままで発電が止まってしまう。プロペラタイプがよく、そのタイプを研究しているグループもある。平塚の発電所は防波堤の沖合20mくらいにあった。

Q3 ウェーブラダーではパルス状の電流しかでないと使いにくい電力ではないか。
A3 平塚のものは低圧接続でパワーコンディショナーを介したので電気のクオリティを担保できているが、大型化していくときに波の発電は正弦波になるので、正弦波同士を重ね合わせるように発電所を設置できないか考えている。1/4周期ずらして並べるアイデアを持っている。

Q4 気候変動が波力発電に将来影響でてくるのか。
A4 気候変動の影響は、波が強くなることについては、発電自体にはプラス方向。海面上昇が懸念される。潮位から何m上に発電所をおくことを最初に決めるので、水位が変わると効率も変わってしまうし、場合によっては、高波で機械が壊れる可能性もある。

Q5 発電された電力を送電線で送るのではなく、蓄電しておいて定期的に船が回収する方法は可能性あるか。
A5 現実的にはあり得ると思われる。台湾のコンサルから、沖合の洋上風力で潜水艦が電線を切ってしまうケースがあるとのこと。線を出しっぱなしも危険性があるので、蓄電して船で運ぶとか、人の目が定期的に入ることは今後重要になってくると思われる。

Q6 知的対流、発信の重要性について、欧州では論文発表をして課題を前に進めることがあると思うが、日本では発表の場がない。エネルギー学会では個々の部品は知らない、海洋学会は建物はしらない、日本の学会がこうなっているが、どうやって突破するのか、悩まれていることがあれば教えて欲しい。
A6 興味を持って考えてるところ。こうあったらいいなと具体的なものは描けていないが、東大の先生と話していると、学問の領域では細分化して精鋭化させていかないと生き残れない。大学に求めても難しいのではないかと言われた。総合知と書いたが、東大の先生は、電力中央研究所にいたが、専門は海洋土木で、役柄いろいろな発電に関わり、発電所を作ることはどういうことかの知識を網羅することができた方。仕事のキャリアで偶然出来上がったのが日本の実態。
偶然ではなく、意図してこのような人財が生まれるようなシステムを考えていかなければならないと思う。学際的なつながりをそれぞれ学会ごとで分科会を作って、発電所の学会を作って各学会を集めて提案していくしかないか。知識を作るときの方法で2種類提唱されている。
学会のように従来の知識に基づいて新しい知識を上積みしていくものと、創発みたいな形で、バックグランドが違う人が集まってその場で思いついた知識で、その場限りでその人にしか残されない知識。後者の知識を見える化し、誰でも使えるようにしていくことが今後重要と考える。
東海大で肩書をいただいているのは、行政の立場で研究会の中で公開できるものを公開していく。なかなか難しいですが。

Q7 日本の漁港は2800か所ある。港の近くの防波堤に波力発電を作ることはよいアイデアだと思う。6つの柱で計画している波力発電は何kWか。  
A7 70kW発電機2機で140kWを想定している。

Q8 波力発電の設置費用は他の発電に比べるとどの程度か。風力・太陽光発電のコストに比べるとどうか。
A8 風力発電の高かったことに比べて倍くらいのコストがかかる。インフラにそのままのせることが可能になれば、ジャケットの製作コストがいらなくなる。インドネシアの場合は、石油を掘っていた井戸があるので、そこに設置させればコストは抑えられる。

Q9 漁業の方から反対はないのか。
A9 平塚は漁業者がさばけていて、新し物好き。フレンドリー。最初心配していたが、もともと漁業をしていない場所であった。遊漁の方は、観光船的に、釣りに来たお客さんに発電所を話題にしてくれる。理解がある。
文責:白橋 良宏

講演資料:波力発電の現状と平塚市の取組み
posted by EVF セミナー at 18:00| セミナー紹介