講師:三田 裕一様 一般財団法人 電力中央研究所エネルギートランスフォーメーション研究本部 研究統括室 上席研究員
日時:2023年10月27日(金)14:30〜16:00
場所:新宿区NPO協働推進センター501会議室
聴講者数:51名
講師紹介:

・1990年:早稲田大学大学院 理工学研究科修士修了
・同 年:財団法人電力中央研究所に入所、主にリチウムイオン電池の寿命評価試験、二次電池システムの性能評価試験等に従事.
・2021年7月より現職.
[講演概要]
1.カーボンニュートラル(以下CN)に向けて:
<世界的に再生可能エネルギーの導入が拡大し,需要と時間的・空間的なズレが増大。蓄電技術の効果的な導入がCN実現のキー>
・「第6次エネルギー基本計画(2021年10月)」で見直しされ、再エネ比率は2030年で36〜38%程度、火力発電所の構成比は石炭(19%程度)と天然ガス(20%程度)で低下(△26%)。系統安定化技術の高度化、太陽光発電・風力発電の供給力確保、既存エネルギーシステムの最大限の活用が必要。
・「CNの方向性」は、省エネ・電化・電源の脱酸素化・水素化等で進めるが、2050年段階で全部を非化石化することは難しく、CO₂を回収・貯留するネガティブエミッション技術も含めてトータルとして実現する方向性。
・「CNを実現する将来の電力系統」には、新たに送電線が必要。また需要地近郊の配電系統と基幹のメイン系統をマッチングさせて動かすこと、需要地での地産地消が必要。
・「太陽光発電の課題」は、発電効率や利用効率が高くないこと、エネルギー電源として発電予測が必要なこと、特性として、日没で急激な変動があり「ダックカーブの懸念」がある。
2.電力の安定供給:
<蓄電池(二次電池)は,電力の供給と需要の両サイドで活用>
・「電力広域系統のマスタープラン(ベースシナリオ)」(電力広域的運営機関OCCTO)で、試算が示されている。
・「安定した高品質な電力供給」は、電力会社が安定したポリシーで需給調整をすることで,電力の品質としての電圧・周波数を維持している。
・「需給調整市場の整備」について、2024年にフルオープン予定。ビジネスチャンスとして、蓄電池の大量設置計画が立てられている。
・「慣性力の維持:再エネに蓄電池とM-Gセット」は、電中研も提唱。回転発電機を介することで、系統から見ると同期発電機に見える。
3.電力貯蔵システム:
<多様な蓄電池を適材適所の利用>
・「電力貯蔵技術の役割」には、系統安定化、需要と供給の時間的シフト、調整火力の補助、負荷平準化、またバックアップ電源等が期待されている。
・「電力システムでの蓄電利用(例)」は、他のエネルギーシステムとの組合わせで便益が出る。
・「各種エネルギー貯蔵技術」で真っ先に挙げられるのは、蓄電池(二次電池)。他の貯蔵技術として、揚水発電、重力エネルギー貯蔵、海洋インバースダム、圧縮空気エネルギー貯蔵等がある。
4.定置用蓄電池:
<電気自動車は充電の集中が懸念されるが,V2Xの活用も期待>
・「2030年までの世界の蓄電システムの累積導入量予測」は、世界全体だと350GWが導入される予想。アメリカと中国が大量に導入する計画。
・「利用されている電力貯蔵技術」は、リチウムイオン電池の導入割合が大幅増加。
・「再生可能エネルギーの今後の推移(2023年度供給計画)」は、圧倒的に太陽光が多く巷で言われてるほど蓄電池は導入されていない状況。
・「定置用蓄電システムの設置場所とユースケース」では、組み合わせて多用途対応(マルチユース)の実現が重要になる。
5.リチウムイオン電池:
<現状、リチウムイオン電池の劣化診断、残存価値の評価技術を活用して最大限の活用が不可欠。全固体電池は課題が多いが、期待は大きい。>
・「リチウムイオン電池の特徴」は、様々な電池があり形も多様。弱点は使用する電解液が可燃性(消防法の危険物)で、大量の使用には離隔距離を取る必要がある。(日本での事故例はないが、韓国でMW級蓄電池の火災事故が頻発。安全基準の整備などの対策が取られている)
・「運用条件(電池の使い方)と電池劣化」については、安定して長期で運用するために、「寿命の見える化」が必要。
・「EV循環による低コスト化・資源確保」について、中古自動車の大半が国外流出していること、リサイクル技術がまだ確立できていなくて事業化が難しい問題がある。国内に市場がない一つの原因として、現状では,中古EVの残価が判断できなくて公正な評価ができない(技術,制度がない)課題がある。
・「全固体電池の特徴と課題」について、次世代蓄電池として全固体リチウムイオン蓄電池が期待されている。一番は可燃性のものではないということ。一方、本当に大電流で充電できるのか、寿命についても短いという課題がある。
【質疑応答】
Q1:蓄電池の単位がMWとMWhが出てくるが、MWhが正しいか?
A1:電池はアワー(MWh)で示される蓄電可能なエネルギー量で評価するのが基本。ただ電力設備がほとんどワットなので、使われ方の最適運用の評価となるとワットを明記しておく必要がある。
Q2:蓄電池は電気を貯めるだけなので、再エネに入れるのはどういう考え方か?
A2:再エネの中に入っている場合は、個人的な捉え方だが、何かと組み合わせて使うので蓄電池も入れてもらっていると理解している。
Q3:電圧調整とかサイクル調整とか需給調整をどうやって調整しているのか?
A3:電力会社にそれぞれ中央給電指令所(中給)があり、各電力会社が自身のエリアをコントロールしているのが原則。中給から遠隔で操作し微調整をしている。電力広域的運営機関OCCTOが、決まり事とか常に協議をして連携を取りつつ対応している。
Q4:電中研さんが提唱されているM -Gセットで、その中のモーターは電気自動車もハイブリッドも100kWだが、そのうち1000万台になると思う。そのモーターは使用後全部使えないのか?
A4:システム的な規模感でいうと、系統屋さんは100メガとか1ギガの単位でオーダーを考えている。電気自動車のモーターを多数接続して運用することになり,統合的な制御技術が必要になるため容易ではない。一方,電池については,使用済みの電池は結構バラバラな特性なので、ばらつきがある電池を全部同期しながら一体として動かす制御技術が重要になってくると思う。
文責:井上 善雄
講演資料:再生可能エネルギーの活用における蓄電技術の現状と課題