講師:下田一喜氏
株式会社エイディーディー代表取締役社長
聴講者数 : 40名

日本大学経済学部卒業
温度調節器メーカー、チラーユニットメーカー、真空機器メーカー勤務を経て、2001年株式会社エイディーディー(ADD)を設立、それより現職
2.講演概要
ADD社は、「チラーのメンテナンス」から「合成ダイヤモンドを使った製品の開発・提供」までの4事業に展開しており、成功したビジネスになっているものが多い。最近取り組んでいるダイヤモンド電極による海水を直接、水分解することによる水素製造は有用であるとの印象を受けた。
1.ADD社の国内半導体メーカー用のチラーでは「−100℃まで冷やすチラー」から「−120℃の超低温まで冷やすチラー」まで扱っており、特にTSV(貫通電極)用超低温チラーを製造提供している。超低温チラーの実績を持つのはADD社のみである。
2.「−120℃まで冷やすチラーCW-1221」はタイヤメーカーにスタッドレスタイヤの長時間のテスト用に毎年30台程売れている。
又、自動車用の半導体のテスト用(-45℃)にも使われるようになってきている。こちらは今まで使われていたフッ素系液体がPガスの規制に引っかかって発がん性があると言うことがその理由で、来年からこのチラーを月に50台から100台位作ることになりそうである。
3.クライオバス フォーフット(足湯タイプで足を―100℃に冷やす)は3分間入るだけで、こむら返りがなくなる効果があって売れている。全日空の地上業務員が月に2000人位、足のむくみの改善に利用している。
クライオバス(人間の体の全身を―100℃に冷やす)は、サッカー選手などのスポーツ選手用にも使ってもらっている。
クライオバス フォーソール(足裏のみを―100℃に冷やす)は、ヴィッセル神戸がハーフタイムに使って、昨年優勝したので、宣伝になった。これは、保冷剤をフリーザーで冷やしたものを置くだけだが、高齢者施設で使われて足のむくみが取れたという報告がされていて、厚生労働省でロコモ(*1)対策になるのではないかと言われている。
4.又、ドライアイスの代わりになる商品を開発し、ゼロドライアイスサービスを行っている。これはファイザー社の新型コロナワクチンの第3接種時の輸送に使われた。これで、-65℃以下に32時間キープできた。
5.ダイヤモンドの軸受けは、ダイヤモンドが最も硬い物質で摩耗が殆どなく、摩擦係数が低いことから、風力発電機に着目して提供することを考えている。これを使うことによりほぼメンテナンスフリーにできる。更にバーティカル風力発電機は発電機を大きくできないという難点もダイヤモンド軸受けでカバーできる。
6.ダイヤモンド電極は貴金属の電極に比べ長寿命。その合成方法は真空チャンバー内にフィラメントを張り、メタンガスと水素ガスを入れ、フィラメント温度を2500℃まで上げると、メタンガスはプラズマ状態になり、炭素と水素に分解し、そこに水素ガスを流し込むと、その分解した水素とくっついて系外に排出される。残った炭素が基材の表面にくっついてダイヤモンド膜になる。
7.海水電気分解用ダイヤモンド電極は、海水を循環させながら定電流の条件で計96時間運転し、電極が変質することはなかったこと、生成物が付くこともなかったことを確認した。今度東海大学の使っていない水族館を使って何か月というオーダーのテストを行う。電気分解の効率を上げるには導電率を上げることで、ホウ素(ボロン)を今の1.0%から最大の1.5%まで上げる計画をしている。
8.ダイヤモンド電極でCO2からギ酸を作ってギ酸の燃料電池に利用する研究も行っている。これはダイヤモンド電極が強酸、強アルカリにも強いという点を利用していて、低濃度のCO2を水に吸収させてそれからギ酸を作る方式で、今は50Wの規模まで進んでいる。
4.質疑応答
主な質疑は以下の通り。
Q.(クライオ機器の説明を聞いて)これで凍傷にはならないのですか?
A.なりません。20〜30分入ると凍傷になりますが、3分間ならなりません。3分なら表面の血管だけが収縮し、クライオバスから出ると、周りの空気と温度差が140℃位あるので、脳が無茶無茶暑いと勘違いして血管を膨張させ、血流が良くなります。
Q.最も硬いダイヤモンドの平坦化はどのようにするのですか?ダイヤモンドの硬さを変えることはできますか?
A.ダイヤモンドの朋削りでできます。熱線射方式もありますが、当社は朋削りでやっています。朋削りは圧力をかければ、5分位でできます。
ダイヤモンドの硬さを変えることはできません。
Q.本日の発表は成功事業が多く、内容がきらきらしているように感じます。私が20年位前
の現役の頃にダイヤモンドコーティングを扱っていて、ダイスに使えないかと考えて富士ダイスや旭ダイヤモンドと接触していましたが、そのような会社との付き合いはありますか?
風力発電をターゲットにされていますが、いくら位で作れば売れると思っていますか?
A.旭ダイヤモンドとはないです。富士ダイスは知っていますがこちらもないです。まだ合成ダイヤモンドは市場が小さいですし、着目している企業は少ないと思っています。風力発電の全体のコストは把握しきれていませんが、小型のものでも5〜6百万円するのに発電量が何百Wということで、市場に出ないと思っています。その理由は軸受けなどにコストが多くかかっているからで、特に風力発電は竪型設置なので回転力と遠心力をどのように抑えるかが課題で、全体の荷重を1か所で支える軸受けがネックです。余談ですが、今後は水力発電にもダイヤモンドがSiCの軸にコーティングする方法などで使えると考えています。
Q.2023年4圧3日の静岡新聞でADD社と東海大学工学部と清水銀行は駿河湾の海水を電気分解して水素を製造する。3者連携で3年間技術研究して2030年位に長時間稼働できるプラントとして実用化を目指すと書かれています。そのイメージは、駿河湾に水素生成ステーションを作って、風力発電した電気を使って、駿河湾の海水を直接電気分解して水素を製造して、それを提供するような感じでしょうか?
A. イメージはそうです。特徴として、設備が駿河湾の湾内だと塩素が出ても希釈され問題なくなる(他物質との反応による分解やその量的な影響を確認すれば?)という点が良いと東海大学の先生が指摘しています。
又、産学金という組み合わせが、とても強いとの指摘もあり、有望視しています。
Q.ダイヤモンド電極による海水の電気分解の課題は何ですか?価格的な問題ですか?効率の問題なのか?副生物である塩素などの処理ですか?
A.ダイヤモンド電極の利点は寿命が長い、腐食がない、メンテナンスフリーですが、電気分解の効率をどれだけ上げられるかが課題です。 それにはホウ素ドープ量のコントロールが必要で、それによって電気を流れ易くすることで、そこをこれから我々はやっていくところです。それができれば、海水の電気分解を行っている場所は(風力発電の設置場所の関係で)海岸から100m行ったところになれば、水深も相応にあるので、副生成物は希釈などで対応可能と考えています。
以上
文責:浜田英外
講演資料:海水から直接水素製造する構想