講 師 : 結城 隆 様 多摩大学経営情報学部客員教授
聴講者数:50名
講師略歴:
1955年:福島県生。一橋大学経済学部卒。
1979年:日本長期信用銀行入行、調査部、ロンドン支店、マーチャントバンキンググループ、パリ支店、ニューヨーク支店勤務を経て1999年ダイキン工業経営企画室、大金(中国)投資有限公司(北京)など。
2021年より現在:多摩大学経営情報学部客員教授
著書(含む共著・共訳):「アラブ産油国の挑戦」(日本経済新聞社)、「路地裏の世界経済」(東洋経済新報社)、「キャピタルシティー」(訳書、東洋経済新報社)、「中国市場に踏みとどまる」(上場大のペンネームで執筆、草思社)など。世界経済評論IMPACTに隔週でコラムを寄稿している。
講演概要:
・不動産不況
不動産不況の原因は、過剰投資、過剰な借り入れ、過剰在庫である。その引き金は2019年の政府による過剰投資への警鐘と2020年からの金融規制。その結果不動産開発業者の相次ぐ債務不履行と建設中止が起こった。この不動産問題に対して中国政府は施工中断した工事の再開と新規着工の抑制、金融危機抑制のための貸し手責任の追及も含む金融機関の監督強化、需要喚起のための金融緩和と不動産購入規制の撤廃等に全力を挙げて取り組んでいる。この結果中断していた工事の完了、大手不動産会社の株価アップ、消費者の購入意欲の向上が見られ始めている。銀行の不良債権は依然として残るがその比率は低下傾向にあり銀行の倒産が相次ぐという事態は避けられそうな状況。
・「新三様(EV、電池、太陽光発電パネル)」の成長力
不動産に代わる成長エンジンとして浮上しているのが「新三様(NEV、電池、太陽光発電パネル)」。特にNEVに関しては世界市場において中国のシェアは60%を超えた。国内の充電スタンドもNEV2台に1台の充電スタンド体制が構築されつつある。さらにリチウムイオン電池の世界生産シェアも圧倒的であり今後も拡大の見込み。但し中国NEVの課題としては、過剰生産能力と国内の過当競争、充電スタンドの品質問題、発火事故等の安全性、商品開発面での日欧米メーカーの猛追、欧米の保護主義の台頭といったことが上げられる。
・地政学的リスク
中国製品の世界貿易シェアは30%を超えている。No.2をとことん抑え込みたい米国としては、台頭する中国に対して貿易戦争を仕掛け中国の押さえ込みを図っている。中国の一帯一路構想には140カ国以上が参加、この10年間で中国は参加国に対し1兆ドルの投融資を行ってきた。最大の貿易相手国が中国とする国が120カ国に達しASEAN諸国の中国に対する信頼度は米国を上回ってきている。他方米国は9.11以降85カ国で反テロ軍事介入し、ドル覇権を利用した制裁措置を乱発。またウクライナ戦争、イスラエル・ハマス戦争によって欧米の偽善と虚偽が明らかになりつつある。中国はロシア、フランス、セルビア、ハンガリーに近づいており米国逆包囲網は徐々に進んでいるのが現状。
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日本のマスコミ報道の影響を受けて中国経済低迷の印象を持っていたが、不動産問題、新技術等について着々と対策が打たれており、日米欧が追いかける展開になっていることに気づかされた。非常に有意義なレクチャーだった。
Q1.中国では不動産は所有できないと言われているが実態は?
A1.土地の所有権は国のモノ。土地の使用権が50年の期限付きで売買されているのが現状。50年の期限到来後は、おそらく自動延長されることになる。国としては固定資産税を課すことができないかと水面下で議論されている。
Q2.人口減少問題はどうなっているのか?
A2.二人目三人目の子供は六歳まで生育補助金を出すこと等の少子化対策がなされている。また高額な教育費についても問題で塾の禁止等の措置が取られている。高齢化問題については、党が運営する「社区(町内会のようなもの)」が、高齢者向け食堂の運営やレクレーションの開催、見守り活動などを行っている。
Q3.日本企業の中国への投資は今後どう考えるべきか?
A3.ほとんどの日本企業は追加投資を控えているがニデックのように積極投資の企業もあるのが現状。投資を控えるという一辺倒はいかがなモノかと思われる。
Q4.不動産融資で貸した人の党員剥奪とは具体的にどういうイメージか?
A4.非常に不名誉なことで経歴にキズがつき禁治産者的なダメージを受ける。
Q5.EVシフトしている中国の電源構成(化石燃料、原子力、再エネetc)と今後の見通しは?
A5.2022年時点で、化石燃料が7割弱、グリーンエネルギーが3割弱、原子力が5%という構成。化石燃料の殆どが石炭。太陽光と風力発電は10%程度。海上巨大風力発電設備の設置や、甘粛省、新疆ウイグルの砂漠地帯での巨大太陽光発電プラントの設置などにより、再生可能エネルギーのシェアは中期的に見れば30%程度まで高まる見込み。
文責:桑原