演題 :2050年カーボンニュートラルに向けた日本風力発電協会の取り組み
講師:秋吉 優 様(あきよし まさる)
株式会社ユーラスエナジーホールディングス代表取締役 一般社団法人日本風力発電協会代表理事
聴講者数:47名
講師略歴:
1983年3月 同志社大学 法学部法律学科卒業
1983年4月 株式会社トーメン入社
1999年4月 株式会社トーメンパワージャパン札幌支店長
2005年7月 株式会社 ユーラスジャパン事業開発第一部長
2011年4月 株式会社 ユーラスエナジーホールディングス アジア大洋州事業部長
2023年4月 同社 代表取締役副社長執行役員(現在)
2022年6月 一般社団法人日本風力発電協会 副代表理事
2024年2月 同代表理事(現在)
補足のご説明:中村 成人様(なかむら しげひと)一般社団法人日本発電協会専務理事
概要報告:
日本企業における風力発電事業の嚆矢は、ユーラスエナジー社による1987年米国事業である。冒頭 同社出身の講師から世界や日本の再生エネルギーに関する価値・意義や同社の立ち位置について紹介があり、続いて技術的側面とは少し角度を変えた制度設計的な面についての説明があった。EVFは洋上風力発電推しであり、第七次エネルギー基本計画に対しご意見箱に投稿もしており、特に実装時制度面について大変良い勉強になり活発な質疑応答もなされた。日本風力発電協会(JWPA)の取り組みは風力発電の主力電源化であるが、その前提として日本のエネルギー自給率が13%(2021年度)、OECD38ヶ国中37位と危機的状況にあり、化石燃料輸入による多額の国富流出があることを確認した。その状況において現在政府は再エネ主力電源化を含めた政策立案の山場に来ており、これを踏まえJWPAは技術要件に加え、市場開拓,認証・標準化,工程表(グランドデザイン)、地元協調、教育など事業全般について産官学民の横串を通し全体最適化に取り組んでいる。 また目標とする一次エネルギー供給量については各種審議会などで共有化された想定電力需要を踏まえて、全電力需要の1/3(設備容量換算で140GW/2050年)を風力発電が担うことを提言。また政府の脱炭素社会実現に向けた重要戦略は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(2021.6.18)」、「地球温暖化対策計画(2021.10.22)」、「GX・グリーントランスフォーメーション実現に向けた基本方針(2022.12.22)」、「第七次エネルギー基本計画(現在議論・検討中)」の4つである。講演最後の質問「風力発電における問題ワースト1を教えて欲しい」に対しては,1点に絞るのは難しいが1.風車認証期間短縮の加速化(太陽光発電は認証不要) 2,系統拡充による連系容量の確保(現在工程表に基づき進行中ではあるが),の2点と考える、との回答があった。
以下に質疑応答を紹介する。
Q1,地元メリットがいる.地元供給電気代無料はどうか?ストロー現象(利益が東京に吸い取られる)問題を必ず地元住民が意識すると思うので。
A1, その通りでやるべきである。適価で提供することで進めている。そういう時代である。
Q2, EEZは遠い沖合から送電するため設備の準備に時間がかかる。グランドデザイン(工程表)が必要ではないか?
A2,イエスである。また付け加えると洋上ウインドファームはそこに1ヶ所の変電所を設け一本の束にして高圧直流(HVDC)線などで陸上系統に接続する場合が多いが、その送電線を政府資金で進めるセントラル方式を要望している。
Q3,人材については自動車整備士のような国家資格がいるのではないか?
A3, 資格については経産省安全電力課が担当となるが、JWPAも教育機関や自治体とも連携して現在模索中。JWPAでは、発電・建設事業者などを対象として座学・実技からなる洋上風力メンテナンス用の資格試験のたたき台を準備中で、2024年度中に試行版初回を実施予定である。地元学校とも連携をしていく。また、日本財団の助成金も頂いている。
Q4,落雷に関して、メンテナンス要員の安全対策は?
A4,日本海側での冬季の落雷が厄介であり、回転中のブレードに落雷し損傷すると破片が飛び散り大変危険。 600クーロンまでならOKであるもののこれを越える場合の統一方針はまだ決まっていない。しかし回避策はあり例えば、落雷接近データを見て風車を止めるなど。
Q5,EVFでは化石燃料から再エネへの電力変換のロードマップを描こうとしている。その背景での質問だが大規模風力の場合10万kW/515億円(≈政府目標5億円/MW)と言われているが、何基分か?
A5, 一基1万から1万5千kWなので8基分程度と考える。
Q6,投資回収期間は?
A6,入札から運用開始まで6年程度である。
Q7, 江戸幕府の終焉を勉強している。幕府軍が先に近代化しそうに見えたので、薩長が焦り、急いで戦いに持ち込んで江戸幕府を潰したというのが真相に近いのだが、その薩長のような気迫、passion(熱情)、やる気などが、今の霞が関・政府にあるのでしょうか?
A7,極めて真剣である。課題はあるものの業界やJWPAの意見も聞きながら最重要課題として熱心に取り組んでいる。
Q8,日本の人口は6千万人程度まで減少するという説もあるが、そうなった時のエネルギーの需給関係はどう見通せるのでしょうか?
A8,人口減少はあるが電気自動車やデータセンターなどで電力需要は増えるという意見もありはっきりとは読めていないと思う。
Q9,イギリスのクラスターは八つあり総合的な取り組みをしている。太陽光発電、系統連系、余剰電力による水の電気分解と水素貯蔵、そしてガスパイプライン。日本はこのようなことを構想しているのか?
A9, グリーン水素には積極的に取り組んでいる。 単価が高くなるので値差(ねさ,価格差)支援制度に少なくない予算が付き、まもなく入札が始まる。JWPAもグリーン水素は価値が高く今後増えていき燃料転換が起きると考えている。
Q9,風車は交流か直流か? 昔(1980~90年代)カリフォルニアのパームスプリングスで大規模風車群を見て疑問に思ったが電力調整はできるのか?
A9,発電機はすべて交流。最近は磁石を用いた高効率発電機もあり電気回路(直交変換)もいくつかのタイプがあるが、風車群単位で周波数や力率を厳密に調整して電力調整を行っている。ご指摘の風車群は30年近い昔のもので発電量が小さく、不調があっても大きな社会問題にはなっていなかったと思う。
Q10,電力需要の1/3を風力発電で担う目標だが前提の全需が大変重要である。どこでどのように誰が決めているのか?
A10, 詳しくは即答できないが各種審議会で予測値が報告されている。それらに基づき風力発電協会の目標を定めた。またJWPA独自の試算からも妥当性を確認した。Wind Vision2023に根拠を含め詳述してあるので是非ご確認いただきたい。
Q11, EVFは風力推しであり第七次エネルギー基本計画のエネ庁ご意見箱にも投稿した。質問は化石燃料代年間30兆円を再エネ作りに回せないのか?
A11,難しい問題で政府は原発と再エネの二本立て実現が必要として整理していると考えている。
Q12. 風力発電における問題ワースト1を教えて欲しい。
A12,1点に絞るのは難しいが1.風車認証期間短縮の加速化(太陽光発電は認証不要) 2,系統拡充による連系容量の確保(現在工程表に基づき進行中ではあるが)の2点と考える。補足すると現在日本には風車メーカーがない。認証に関して海外勢は嫌がっており。一方で洋上風力入札で先行した東芝はGEの主部品のサプライヤに留まっている状況であり、撤退した三菱重工・日立製作所日本製鋼所などが認証の迅速化と共に復帰してもらえればJWPAとしてもこれほど嬉しいことはない。
文責:寺本正彦
講演資料:2050年カーボンニュートラル実現に向けた日本風力発電協会の取り組み
2024年12月15日
EVFセミナー報告:2050年カーボンニュートラルに向けた日本風力発電協会の取り組み
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