2013年07月25日

EVFセミナー「PM2.5の概況と今後の見通し」

セミナー開催日時  平成25年7月25日
セミナーテーマ   PM2.5の概況と今後の見通し
講師        菅田 誠治
          (独)国立環境研究所 地域環境研究センター
             都市大気環境研究室 主任研究員 博士
           筑波大学大学院環境科学研究科連携大学院准教授 
参加者数       34名
講演概要報告

今回は今年の初めにマスコミで取り上げられ話題となった聞きなれない言葉であるPM2.5の高濃度汚染問題についてきちんと理解しようということで第一線でこの問題に取り組んでおられる(独)国立環境研究所  菅田 先生に解説していただいた。
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 ご講演いただいた内容は以下の通り。
1. 大気汚染と気象、大気汚染と気候変動
2. 大気汚染物質の概要
3. 日本の大気汚染の歴史、環境基準、現状
4. 2013年のPM2.5の状況を振り返る
5. 国立環境研究所でのPM2.5への取り組み例
6. 今後の見通し等
   
   以下要点を報告すると
1. 大気汚染と気象、大気汚染と気候変動
大気汚染と気象の違いは大気中に存在する物質とその量に着目して、大気汚染は大気中の組成がppmやppbの物質を扱う。
気候と大気汚染をつなぐ新しい概念としてSLCPs(短寿命気候汚染物質=光化学オキシダント、PM2.5の一部、メタン)があり、大気汚染物質の一部が気候変動にも影響することが分かってきてこれを削減することで地球温暖化を緩和したり大気汚染を抑制できることが着目されている。
2. 大気汚染物質の概要
大気汚染物質(ガス)とは、酸化窒素、オゾン、炭化水素、二酸化硫黄、一酸化炭素、アンモニアなどでこれらが酸性雨やエアロゾルの原因物質で発生源は車船等、工場排煙等、塗料溶剤等、家畜植物等である。
それらの中で粒径2.5μm以下の微小粒子状物質をPM2.5と総称するが、人間の呼吸器系、循環器系への影響があると言われている。
その発生は年、季節、曜日、時間帯、気候などによって変化し、さまざまなデータから推測するが正確につかむことは困難である。
風によって大気中の物質は運ばれるが、気象の複雑さの影響を受ける。風速は上空が大、濃度は地上付近が大であるが、いったん上空に運ばれると素早く運ばれ、地球を一周するような影響もある。
大陸沿岸部から1〜2日で日本へ、大陸内部からは数日で日本に運ばれるが地球一周には1週間程度である。ただし汚染予報の信頼限界は数日である。
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3. 日本の大気汚染の歴史、環境基準、現状
日本の大気汚染問題を振り返って見ると、1950〜60年代の高度成長期には四大公害病等が発生し、ばい煙規制法(1962年)、公害対策基本法(1967年)、大気汚染防止法(1968年)、国立公害研究所設立(1974年)、環境基本法(1993年)とその対策が取られてきているが、1997年にダイオキシン問題、2005年にはアスベスト問題が発生し、2009年にPM2.5環境基準が定められているが2013年にPM2.5問題が発生している。
2009年に定められたPM2.5(微小粒子状物質)の基準は1年平均値が15μg/m3以下、1日平均値が35μg/m3となっている。
大気汚染は常時監視されており全国で約2000局の監視測定所があるが、その内1600局が一般環境大気測定局、残り400局余りが自動車排気ガス測定局である。
環境基準の達成状況だが「平成23年度大気汚染状況について」(環境省 2013/5/16)によれば光化学オキシダントとPM2.5が達成状況の低い2物質だが、PM2.5は達成率は27.6%(一般環境大気測定局)となっている。
4. 2013年のPM2.5の状況を振り返る
西日本4地域(九州、中国、四国、近畿)における日平均PM2.5濃度の平均値&最大値は1/13頃、1/21頃と1/30〜2/1は4地域とも濃度が高かった。
過去2年の同時期との比較では基準値超過率は2013年と2012年はほぼ同程度であった。
今年1月のPM2.5の状況をまとめると、全国の環境基準値超過日数は16日であったこと、西日本で広域的に濃度が上昇し、また、九州西端の離島でも高濃度が観測されたが、過去2年と比較して特に高い濃度ではなかった。観測とシミュレーション結果を総合すると越境大気汚染が影響していた可能性が高いが、大都市圏では越境汚染と都市汚染が重合して濃度が上昇したと考えられる。
2月に環境省Pm2.5専門家会合が開かれ、日平均値が70μg/m3を超えると予想される場合には「注意喚起」が行われることになった。ちなみに今年1〜5月で70μg/m3を超えたのは延べ8日、20地点でこれは過去2年と比べて多くないペースである。
「注意喚起」が出たら個人としてできることは、屋外での長時間の激しい運動や外出を避ける、換気や窓の開閉を最小限にする、高感受性者は、体調に応じてより慎重に行動する、マスクや空気清浄機は性能の確認をしておくことなどである。
さて過去の日本の汚染状況と比べると昭和40年代は浮遊粉塵濃度は約200〜400μg/m3だったがPM2.5だけでは100〜200μg/m3以上だったと推定されます。現在の北京のPM2.5の年平均濃度は70μg/m3程度ですから、ちょうど日本の昭和40年代と同程度と考えられます。
5. 国立環境研究所でのPM2.5への取り組み例
5月末に国立環境研と地方環境研との共同研究で「Pm2.5の短期的/長期的環境基準超過をもたらす汚染機構の解明」の3年間の研究が始まった。
環境省でも環境研究総合推進費 B-1101により「全国の環境研究機関の有機的連携によるPM2.5汚染の実態解明と発生源寄与評価」が3年計画でスタートしている。
国立環境研の所有する大気汚染予測システムVENUSを用いて翌日24時までに大気汚染物質全般の予測計算を行う。
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6. 今後の見通し等
PM2.5と光化学オキシダント(オゾン)は近年重要な大気汚染問題の対象である。
2013年のPM2.5状況は特別なものではなく梅雨と夏を除く季節には越境汚染の影響を強く受けることがあるのが普通である。
以下私見だが、日本の過去の大気汚染状況と中国の現在の汚染状況はほぼ同程度であり、中国は対策を取らざるを得ないので、今後日本への影響が増大するとは考えにくい。

以上は菅田講師のご講演を筆者が要約したものであり、文責は筆者にあることをご了解いただきたい。
−以上−
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posted by EVF セミナー at 18:00| Comment(0) | TrackBack(0) | セミナー紹介
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