講師:植村 文香様 日揮ホールディングス(株)サステナビリティ協創ユニットSAF事業アシスタントマネージャー
*SAF:持続可能な航空燃料
聴講者数:41名
講師紹介:
2017年4月旧日揮株式会社入社
2017年9月オーストラリア/LNGプラント建設現場
2018年4月国内石炭ガス化プラント設計
2019年4月タイ/化学プラント設計
2019年12月〜SAF製造事業検討
2023年2月〜合同会社SAFFAIRE SKY ENERGY 兼務出向
講演概要
1.会社概要(日揮ホールディングス):
1928年設立、現在/従業員数8,865名、グループ企業数87社。2019年に社名を現・日揮ホールディングに変更。プロジェクト実績は、80か国、20,000件以上。注力する領域は、CO₂マネジメント/資源循環/バイオ/DXカーボンクレジット認証。講師在籍の「廃食用油 SAF」プロジェクト」は、現在急拡大中。
2.SAF(Sustainable Aviation Fuel)について:
化石燃料以外を原料とする持続可能な航空燃料であり、従来の航空燃料と比べてライフサイクルでCO₂排出量を大幅に削減。「中大型の航空機」にはSAFが不可欠。
大幅なCO₂削減には他に代替がなく、世界でのSAFの需要は拡大が予測され、今年は、「SAF元年」と位置付けられている。EUでは2025年よりSAFの供給義務化がスタートし、日本でも2030年に国内SAF10%供給の目標を設定。2022年時点での世界のSAFの需給ギャップは非常に大きく、製造プロジェクトは欧米企業が先行しており、製造効率の良い「廃食用油」などの油脂原料が主流。
2022年10月の第41回ICAO総会で、2025年までの取組について「オフセット量算定の基準となるベースラインを2019年CO₂排出量の85%に変更」すること等を決定。この見直しを踏まえ、国内のSAFの需給量のすり合わせが必要。
国内SAF製造に向けた取り組みとして、ENEOS/コスモ石油/出光興産/富士石油/太陽石油があげられるが、既に投資決定、設備建設しているのは、日揮ホールディングス/コスモ石油/レボインターナショナルの事業のみ。
SAFの原料として「廃食用油」は、製造プロセス/上流工程の処理工数が少なく有利、又他の原料に比べCO₂削減効果は大きい。
SAFの製造技術には色々あるが、HEFA(廃食用油から)が2025年まではベースの製造技術、加えてATJ(バイオエタノールから)。2050年に向けては合成燃料が増加すると予測される。
3.日揮グループが取り組む廃食用油を原料とするSAF製造事業について:
日揮HD(48%)、コスモ石油(48%)、レボインターナショナル(4%)により、2022年11月に国産SAFの製造会社「SAFFAIRE SKY ENERGY」が設立。日揮グループは、主に全体サプライチェーン構築とSAF製造装置建設を担当。
4.原料廃食用油の回収について:
原料は、全国の飲食店舗からの廃食用油のみを使用。廃食用油は、堺市のSAF製造設備の原料集積所に集められる。原料油脂から、水素化精製プロセスにより、SAF、バイオナフサなどが精製される。
NEAT SAF(100%バイオマス由来)は、50%以上を従来ジェット燃料と混合して製品化(混合SAF)。混合SAFは、堺製油所から日本の国際空港へ出荷され、その際、GHG排出削減カウントの為のCORSIA適格燃料の国際認証が必要となる。
国内の廃食用油(50万トン)の課題は、家庭系(10万トン)の「再利用」と、事業系(40万トン)の内、海外輸出(12万トン)などの「国内資源循環」。その為にサプライチェーン全体の連携によりトレーサビリティの確保が必要。廃食用油は、空港・商業施設・百貨店・外食関連企業などとの連携で回収。
資源循環による脱炭素化社会の実現を目指す「FRY to FLY Project」には、本日時点で211団体が加盟。
<よく準備された、大変理解しやすい、素晴らしい内容のセミナーでした。>
Q&A:
Q1)日本の10%目標とSAF50%混合は、製造量と熱効率からのものか?
A1)SAFは、熱効率などの品質上は従来の燃料とほぼ同じ。規格も新しく先ず50%に。現在、SAF100%に向けての実証実験も行われている。10%目標は、製造量からではなく、2050年のカーボンネットゼロに向けての取り組みから。一方、廃食用油の供給量には上限があり、2050年に向けてSAFの他の製造方法も含め積み上げて行く必要がある。
Q2)日本の将来の需要に対して、現在の堺の製造量はどれくらいか?
A2)現在の国内の年間廃食用油は50万トンで、そのうちの海外輸出12万トンと家庭系10万トンの合計が、22万トン。2030年の供給予測が172万トンなので、全く足りない。アルコール、ゴミなどからの他の製法が必要。現在の堺の製造会社は3万キロで22万キロと比べ全く足りない。しかし、原料の収集には苦労しているのが現状。この問題が解決できれば、将来2号機、3号機も考えられる。
Q3)水素化精製プロセスの水素はグリーンなのかブルーなのか?将来的には?また、LCA上はどの程度、進んでいるのか?
A3)現状の水素は、既設のコスモ・堺プラントからで、石油由来。今後グリーン化に。ICAOの計算式があり、それを基に計算すると、廃食用油の84%がCO₂削減、13.9%がCO₂排出量となり、その13.9%のほとんどが水素。これがグリーン化されれば、90%のCO₂削減となる。
Q4)日本全体の食用油の生産量はどれくらいか?廃食用油収集の回収率を知りたい。
A4)業界の数字は、示されていない。人口減により油の需要も落ちているし、各社の現場では濾過機等により油の使用を減らす努力もされている。
Q5)@SAFのコストは?Aパーム油はSAFの原料になりうるか?B排出権は、誰がクレジットを得るのか?CNEAT SAFは、航空燃料の△47℃をクリアできるのか?
A5)@SAFは収集コストなどもかかり、JET燃料のおおよそ3〜5倍のコスト。SAF採用の背景には、航空各社の脱炭素の認識がある。Aパームとアンモニアだが、アンモニアは他のものに使えるのでわざわざSAFには。廃パーム油は使える。常温での液体油の回収が多く行われており、固化のパーム油のハンドリングは少し難しいが、品質的には問題はない。B排出権は航空会社が。コストとしては、排出権取引の方が安いが、航空各社の姿勢の表れ。C出来る。正しく△47℃のスペックミートの試運転をしているところ。
Q6)天麩羅油は植物由来で吸収して燃やすから、SAFがカーボンフリーと理解しているが・・・。
A6)その通り。今まで石油を掘り起こしてジェット燃料を作っていたけれど、植物由来に変えることにより、新たにカーボンを地上に掘り起こさなくなる。これはLife Cycleで考えている。
Q7)@10数年前に、京都のバスで、軽油の代わりにバイオディーゼルを、と聞いた事があるが、その後どれくらい進んでいるのか、そしてSAFとの取り合いにならないのか?A廃食用油の値段について。
A7)@京都市も含め各自治体で結構やられているが、採算があわない、エンジンがおかしくなる場合があり、又臭いなどから、止めているところもあり、日本のバイオディーゼルの需要は少ない。今のところは、SAFとの競合にはなっていない。A買い取り価格は、基本的には各社(店舗)に損の無いように決めさせてもらっている。
文責:三嶋 明