2022年10月27日

EVFセミナー報告:CCUS/カーボンリサイクルの展望と課題

演題:「CCUS/カーボンリサイクルの展望と課題」
講師:須山千秋 氏
 一般社団法人カーボンリサイクルファンド理事
聴講者数 49名

講師紹介
1981年 京都大学工学部資源工学科(物理探査専攻)卒業
1981年 三井鉱山株式会社 入社
1992年 日揮株式会社 入社
2017年 一般社団法人石炭フロンティア機構(JCOAL)出向 カーボンニュートラル推進部担当参事(現在)
2019年 一般社団法人カーボンリサイクルファンド設立、理事(現在)
技術士(資源工学)

[講演概要]

1.CCUS/カーボンリサイクルの動き

・日本のCO2排出量(10.4億トン)における電力由来(エネルギー転換)CO2排出量は全体の約40%、うち石炭火力由来は27%(2020年度確報値:環境省)。化石燃料火力発電を全廃しても、CO2削減量は半分にも満たない。
・電力以外でも化石資源の役割は大きく、将来、化石資源が枯渇した後、炭素を何から得るのかを考えると、CO2は資源である。(太陽光や風力等の再生エネルギーから物質を作ることはできず、また熱需要対策も課題となる。)
・CO2削減は、さまざまな技術を活用した総力戦。うち、2050年にCO2排出ネットゼロというIEA(国際エネルギー機関)のロードマップにおいて、CO2排出をゼロにすることは難しくCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:二酸化炭素回収・利用・貯留)で76億トンが期待されている。
・CO2削減に向けた選択肢として、排出削減+CCUS/カーボンリサイクル(CO2利用・貯留)が望ましい。
・カーボンニュートラルの達成には、カーボンリサイクルが不可欠。すなわち、CO2(世の中から炭素がなくなることはない)を資源として活用し、排出量と吸収・除去(利用、固定)量をバランスさせる海、森林、土壌への吸収を含めた地球規模の炭素循環がカギとなる。カーボンニュートラル実現に向けて目指すべき社会とは、すなわち循環炭素社会である。
・カーボンリサイクル技術のロードマップは3つのフェイズ。フェイズ1:カーボンリサイクルに資する研究、技術開発、実証に着手。水素が不要な技術や高付加価値製品を製造する技術に重点を置く。フェイズ2:2030年に普及する技術を低コスト化。需要の多い汎用品の製造技術に重点を置く。フェイズ3:更なる低コスト化を実現させ、2030年ごろからの消費の拡大(化学品、燃料、鉱物・コンクリート製品)、2040年ごろからの普及開始をめざす。
・カーボンリサイクルのCO2削減ポテンシャルは、2030年で約100億トン、約100兆件の市場規模と試算している例がある。(ただし、今後LCAを含めた評価が必要)
・日本のCCSロードマップ(2020年5月公表):2030年までの民間主導のCCS事業開始に向けた事業環境整備を政府目標として掲げる。CCS事業に対する政府支援措置。
・2050年時点での想定年間貯留量の目安は、2030年中にCCS事業を開始するとして、1.2億トンから2.4億トン。
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2. カーボンリサイクルファンドの概要

・カーボンリサイクルファンドは、2019年8月設立。ミッションは、国と連携してカーボンリサイクル(CR)の社会実装および民間のCRビジネス化の支援。法人会員112社(2022年10月20日現在)。業種を超えた連携によるカーボンリサイクルの推進を目指す。広報活動(CRに係わる啓発活動)、研究助成活動などを事業内容とする。また、カーボンリサイクルにかかる研究シーズ(アイデア、人)の発掘、育成を志向する。
・CO2をエネルギーの最終形(不要物)として捉えるのではなく、水や空気を通して循環する炭素循環のなかでイノベーションを起こしていくことを企図する。
・カーボンリサイクルファンドの政策提言:@イノベーション開発促進と人材育成、ACO2バリューチェーンの構築、B地方創生およびグローバル市場への展開。

3. CCUS/カーボンリサイクルの課題と社会実装に向けた今後の展望

・CO2バリューチェーンの構築:CO2の発生源から回収・輸送・利用・貯留までの
CO2バリューチェーンを見据え、具体的な場所を想定してカーボンリサイクル技術の社会実装モデルを検討する必要がある。カーボンリサイクルの社会実装には、産学官地域を含む多面的なアプローチが不可欠。政策支援のみならず、市場創出、社会的受容なども。
・CCS推進のポイントとしてのCCS長期ロードマップ。@CCS事業実施のための国内法整備、ACCSコストの低減、BCCS事業への政府支援、CCCS事業への国民理解、D海外CCS事業の推進。
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4.Q&A

Q:CO2からエネルギーへの転換が実現するのはいつごろか。
A:未だ回収コストが高いという問題がある。どのくらいのコストでペイするかは製品による。80ドルくらいでペイする製品もある。
Q:「CCS」、「US」と「リサイクル」は同義のはず。名称を統一したらどうか。
A:海外では、「US」あるいは「S」が主流で、「カーボンリサイクル」は日本の言葉。統一は難しいかもしれない。
Q: 苫小牧のプロジェクトはどうなるのか。
A: 現在、モニタリング継続中。次の展開は、商業規模。2030年に向けて民間で展開し、国がサポート。
Q:CCUSのSは、日本発祥か。
A: 違うと思う。メジャーやアメリカか。CCSは欧米で石油メジャーのEOR(石油増産)を中心に進んでいる。その土壌として、アメリカではチャレンジャーが多く、そこから技術が生まれる。また、海外には寄付の文化があり、資金が投入されている。日本には、新しいものを生む力、環境、文化が乏しいのは残念なこと。
Q:メタネーション(燃料転換)(注:水素とCO2を反応させ、天然ガスの主成分であるメタンを合成すること)、水素とリサイクルの状況はどうか。
A: メタネーションのための水素を何で作るかが課題。豪州では褐炭ガス化による水素製造実証が進んでいる。日本でも、再生エネルギーが普及すれば、地方で水素を作ることもできる。日本で取り組むべき課題である。
Q: CCSは場所を先に決めればよいのか。日本では、玄武岩での固定が早いか。
A: 健全な帯水層があれば安全に固定化できるが地震を誘発するという誤解もあり、地元の理解が必要だと思われる。玄武岩固定はアイスランドで実施されたが、まだロジックが理解されておらずデータの蓄積が必要。
文責:高橋直樹

講演資料:CCUS/カーボンリサイクルの展望と課題
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2022年09月22日

EVFセミナー報告:脱炭素社会実現に貢献する核融合エネルギーがいよいよ現実に!

演題:「脱炭素社会実現に貢献する核融合エネルギーがいよいよ現実に!ー実験炉イーターは運転開始まで77%、発電する原型炉は2040年代ー」
講師: 文部科学省技術参与(核融合研究開発担当) 工学博士 栗原研一様

聴講者数:60名

講師紹介:
・1979年 東京大学工学部原子力工学科卒業 
・同年  日本原子力研究所入所
・2012年 日本原子力研究開発機構核融合研究開発部門副部門長
・2016年 量子科学技術研究開発機構那珂核融合研究所長
・2020年 同核融合/量子エネルギー部門長
・2022年 文部科学省技術参与(核融合研究開発担当)
・2020〜2022年 文科省科学技術・学術審議会専門委員(核融合科学技術委員会委員)
 この間、北海道大学・名古屋大学・九州大学の各大学院非常勤講師、核融合の二国間・多国間協力における日本側委員等を兼任 

<講演概要>
・70年以上にわたる研究の成果により、核融合発電の見通しが得られてきた。設計段階を含めて、1990年代〜2040年代で実験炉、2030年代〜2050年代に発電実証のための原型炉、最終的にはこれ以降に商業炉で電力供給を目指している。
・核融合発電の特徴は、燃料である重水素と、三重水素(トリチウム)の元になるリチウムは海水からとれるため無尽蔵にあること、長期隔離が必要となる放射性廃棄物はないこと、原子炉のような臨界状態にならないため核融合反応は容易に停止でき安全性が確保できること等があげられる。
・最も起こりやすい核融合反応を探した結果、重水素と三重水素を反応させることがよいことがわかった。燃料1グラムが0.996グラムになるだけで、石油8トン分のエネルギーが発生する。また、重水素と三重水素の核融合反応で生成した中性子をリチウムにあてることで三重水素が生成され、燃料として再利用可能になる。
・重水素と三重水素はそれぞれ+の電荷を持っていて反発するので、核融合反応を起こさせるためには、1億度以上のプラズマ状態が必要となる。1億度でも密度が薄いので容器を溶かす熱量ではない。
・プラズマ状態を作り、原子核と電子を閉じ込める方法として、トカマク(ロシア発明)、ヘリカル、レーザー方式の研究を行ったが、トカマク型装置が最も発電実現に近い型式であることがわかった。
・現在は実用化に向けた実験炉の段階で、日・欧・米・露・中・印・韓が参加するプロジェクトで実験炉ITER(国際熱核融合実験炉)が、フランスで建設され、2025年に運転開始の予定である。
・並行して、日本では、実験炉JT-60SAを量研那珂研究所に建設し、ITERよりもプラズマ圧力を高くし、原型炉を小さくすることにより低コスト化の開発を行う。
・モノづくりの実力が性能を決めるため、日本の製造技術の高さが日本の成果に繋がっている。エネルギー増倍率、イオン温度、電子温度という主要性能で、日本が世界1位の性能を記録し、維持している。
・核融合の研究開発で培われた技術の波及効果は宣伝不足で知られていない。MRI、高精度加工技術、三重水素回収技術、海水からリチウム回収技術等、数々の技術が医療、環境関連産業、製造業の分野で極めて広く活用されている。
・世界は原型炉に向けての競争状態にある。米・英は、5万kW級の発電を2040年代に計画、中国は大型 原型炉を2030年代に計画。日本は原型炉の概念設計の基本設計は完了し、現在の国のロードマップでは2035年に原型炉の建設開始を判断する。また、高市大臣からGX戦略の一環として核融合国家戦略策定に向けた核融合戦略会合の設立がプレスリリースされた。


<講演内容>
1.核融合とは
・エネルギー源のルーツから見ると、以下のように、エネルギーの根源は核融合に行きつく。重い元素が軽い元素に変換されるときにエネルギーが出るが重い元素は超新星爆発等で原子核が融合してできる。太陽光・熱が絡むエネルギーは、太陽の中で原子核が融合してエネルギーを出す。
・電気エネルギーの発生方法としては、光エネルギー(太陽パネル)から太陽電池を通して電気に変換か、水力、風力は、運動エネルギーで発電機を回し電気に変換する。火力(化学的結合エネルギー)、原発(重原子核の結合エネルギー)、核融合(軽原子核の結合エネルギー)ではエネルギーを熱として取り出し、運動エネルギーに変更し、発電機を回転させる。但し、核融合は中性子をリチウムに当てることによって自分で自分の燃料である三重水素(トリチウム)も生産する。
・アインシュタインの質量とエネルギーの等価原理により、1グラムの質量で1000万人の1日分の摂取エネルギーを生むことができる。質量数(元素)で、鉄やニッケルに向かう核反応はすべてエネルギーを発生する。重い元素であるウラン等は核分裂で熱を出しながら軽い原子核に変わる。軽い元素は核融合で熱を出しながら重い原子核になる。その中で、ヘリウムに変わる反応で大量のエネルギーが発生するので、ヘリウムに変わる核融合を探すことになる。
・地球で最も起こりやすい核融合反応を探した結果、重水素と三重水素を反応させることがよいことがわかった。燃料1グラムが0.996グラムになるだけで、石油8トン分のエネルギーが発生する。
・重水素は海水中に約33g/t(60億年分に相当)入っていて、無尽蔵にある。三重水素は天然にはないが、海水中のリチウムから核融合炉の中で作ることができ、約0.2g/t(1600万年分)あるので、実質無尽蔵である。
・重水素と三重水素はそれぞれ+の電荷を持っていて反発するので、反応させるためにはぶつけるスピードが必要で、その障壁を越えるためには40億度が必要となる。しかし、実際はトンネル効果により1億度以上で核融合反応が実現できる。(原子核は、その存在が雲のような広がりを持ったものなので、裾野でのふれあいで一定の確率で反応が起きる)
・温度的には、1万度以上になると電子が剥がれ始め、10万度を超えると原子核と電子がバラバラになるプラズマ状態になる。プラズマ状態の事例として、蛍光灯の中は1万度になっているが、密度が薄いのでガラスを溶かす熱量にはならない。

2.核融合の開発小史:日本がトップランナーになった訳
・プラズマ状態の+の原子核とーの電子を、どうやって効率良く閉じ込めるのかを1950年代から研究してきた。日本で研究開発を先導した湯川秀樹博士は、1957年に原子力委員会に設置された「核融合反応懇談会」初代会長となった。博士は、原子力委員会に、2つの計画による研究開発体制を答申し、活動を開始した。A計画は、プラズマの基礎的な研究を名大にプラズマ研究所を設置し、各大学との協調するもので、現在土岐にある核融合科学研究所のヘリカル方式(螺旋状の磁力線を外部のヘリカルコイルで生成)につながっている。B計画は、実証研究を中心に、早期発電の実現に近いトカマクを研究開発し、実験炉ITER建設へつながっている。
・トカマクは、ロシア語で、電流、容器、磁気、コイルの最初の1-2文字をつなげた造語で、1951-1954年頃のロシアの大発明。ドーナツ型プラズマの中に電流を流すことにより、磁力が螺旋状になり、原子核と電子が混ざり合う。
・発電プラントの概念は、ドーナツ型容器中のプラズマで重水素、三重水素が核融合反応を起こすと、ヘリウムと中性子が反応の結果発生する。発生した高速中性子を炉心の周辺に置いたリチウムにあてると三重水素が生産出来る。この三重水素を燃料として再び使う。
・1985年から大型トカマクによる実験が開始されたが、1995年ぐらいまでは性能向上がなく苦しんだが、プラズマの形状を変更した1995年以降性能が上がり始め、一気に核融合実現への道筋ができてきた。この間で、エネルギー増倍率、イオン温度、電子温度で、日本が世界1位の性能を記録した(この成果はJT-60計画における超高温プラズマにより達成)。
・日本では、ヘリカル方式、慣性核融合方式(レーザー)も研究しているが、ヘリカル方式は、周りの道具立てが複雑で、性能がトカマクに桁違いに劣る。その結果プラズマの主半径が大きくなり、大きな炉(直径30m以上)が必要になる。慣性核融合方式は、1秒間に10回程度の爆縮が必要とされ、その都度レーザーを燃料ペレット一点に照射しなければならないが、レーザーは光学系の熱変形が戻るまでに数10分以上かかり、エネルギー生成システムとして成立していない。従って、核融合炉に向かっているのは、トカマクのみである。大型トカマクを保有した欧州JETと日本JT-60で、エネルギー増倍率1を超えるプラズマの生成に成功している。
・核融合炉の安全性は、@連鎖反応ではなく単独反応が起こる環境を維持しているので、スイッチ切でプラズマが生成出来る環境がなくなりすぐに反応停止できる。A燃料の三重水素は、金属間化合物に吸蔵させ閉じ込めるので通常漏れ出すことはない。もし、漏れても回収する技術も確立されている。B放射性物質として、中性子が金属に当り、金属の不純物でコバルト60が生成するが、半減期が約5年と短く、100年で100万分の1に減衰することから、多くはもとの一般物レベルに放射能が減衰する。 C炉心は真空なのでハザードの発生源にならない。燃料としての三重水素が大量に漏れないように貯蔵タンク管理が必要。D原子炉のような臨界状態はないので、安全性は高く社会的受容性も高い。実験炉ITERを日本に誘致していた時に、原子炉等規制法ではなく、RI規制法を基礎とする考え方が原子力安全委員会で示されたことがある。
・実用化に向けて、現在は実験炉の段階で、実験炉ITERは日・欧・米・露・中・印・韓による約2兆円のプロジェクトで、フランスで建設している。モノづくりの精度が性能を決めるため、日本の高精度製作の実力が発揮されている。ITERの実験を踏まえ、2035年に発電実証のための原型炉を建設するかどうかの判断を行う。最終的には今世紀中葉以降に商業炉の稼働を目指している。

3.国際協力と日本:技術や知財の安全保障
・実験炉ITERは南フランスに建設中、熱出力50万kW、エネルギー増倍率10、電気出力は1/3になるので17万kW相当で水力発電所規模。
・ITERの先端機器は日本企業が製作に大いに貢献。先端機器を作ることは日本企業の得意技。殆どの先端機器は日・欧・米が担当、露・中・印・韓は汎用電源、冷却系等のローテクを担当。
・ITER本体はほとんど金属で、ステンレスを中心とした鉄材で総重量は23000t(東京タワー6個分、エッフェル塔3−4個分)になる。金属が放射化すると人が入れないので、中のメインテナンスはロボットが行う。
・日本の実力発揮実例として、@トロイダル磁場コイル(三菱重工と東芝が担当)を日本9機、欧州が9機作成し、現地で組み立て。1mmの製作誤差で作らなければならない。 A100万ボルトの直流電源。世界で日立だけが製作できる。
・ITERは77%建設が進捗している。(2025年運転開始予定)
・並行して、JT-60SA プロジェクトでは、ITERよりも圧力が高いプラズマを生成出来る特徴を持っている。圧力が高いプラズマを安定に維持出来ると、原型炉を小さくでき、コストを抑えることができる。ただし、圧力を上げると螺旋状にプラズマが乱れるため、安定化機構が必要になる。那珂研究所に建設し2020年3月に本体組み立て完了。2022年中にプラズマ実験開始予定。
・核融合は、最初にプラズマを着火し高温にするためにかなりのパワー(原発一基分程度)が必要になる。系統から直接投入すると、系統に大きな電力変動を与えることから不可能なので、一旦電動発電機に運動エネルギーとして貯めることが必要でなる。
・ITERプロジェクトでは、知財に関しては、平和利用であり、核融合への利用を前提に共有することが協定になっている。核融合機器は、世界初唯一無二=FOAK(First of a Kind)機器であり、知的財産に留意すべきであるが、完成図面は共有が義務付けられている。しかし、図面共有程度だけでは、製作のプロセス、技術が伴わないと製作できない。
・核融合の研究開発で培われた技術の波及効果は宣伝不足で知られていない。@MRI―磁場・超電導技術 A高精度加工技術 Bトリチウム回収技術―原子力発電所の水素爆発を防ぐ(東日本大震災後に開発され、同様の原子炉には水素の酸化反応触媒が装備されている) Cリチウム回収技術―海水等からの採取により国内自給 等、数々の技術が医療、環境関連産業、製造業の分野で活用されている。

4.発電する原型炉に向けた戦略
・日本での核融合の施策は、第6次エネルギー基本計画(2021年10月閣議決定)において、2050年カーボンニュートラルの実現にむけた戦略的な技術開発・社会実装等の推進の項目に挙げられている。
・ロードマップでは、2050年以降に核融合発電炉の登場を想定し、原型炉の概念設計の基本設計は2019年11月に完了し、2035年に原型炉の建設に入るかどうかの判断を行うことが日本のロードマップである。オールJapan体制で原型炉の研究開発を進めており、117名が参加。
・日本の原型炉は、黒四ダムの発電所相当の約30万kW電気出力を計画している。
・主要国は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、原型炉計画が加速している。
  米国は、2045年に5万kW級のパイロットプラント建設をバイデン政権になって計画した。
  英国は、グリーン産業革命に向けて、2040年までに原型炉を建設。早期実証として5万kWの原型炉建設候補地も決まりつつある。
  中国 ITER相当の大型原型炉を自力で作ろうとしている。 2030年代に安徽省に建設を計画。
・また、民間企業とのベンチャーの活動が活発になっている。米国では、1979年に米国核融合発電協会、2018年に核融合産業協会が設立され、Google他多くの投資家により、合計で5000億円を超える投資額となっている。
・世界は、すでに国際協力を進めながらも、同時に国際競争の時代になっている。9月12日政府はGX戦略の一環で核融合国家戦略策定に向け会合を立ち上げるとの高市大臣からプレスリリースがあり、9月21日読売新聞の社説で「核融合戦略」が取り上げられた。


5.主な質疑応答
Q1 2040年に発電ができるようになったのは何ができるようになったのか。発電エネルギーにするにはどうするのか。
A1 核融合の方式にトカマクとヘリカルの議論があるが、トカマクは世界中に多くの装置を作って確認されて、発電に必要と装置の規模がわかってきた。ヘリカルは多くの装置を作っていないので、スケーリングが明確ではないが、規模が同程度のトカマクと比べて2桁性能が劣る。また、構造が複雑であり、同じ性能を出すには、極めて大型の装置にならざるを得ない、発電のための装置は、交換が必要となるが、複雑なヘリカルコイルを巻いている装置で工学的にどのように置いてメンテを行うのか、等の問題がある。トカマクを原型炉にするという選択はこれまでの70年間に及ぶ世界の核融合実験の結論である。核融合発電の見通しが立ったのは、ITERの建設により、巨大なトロイダル磁場コイル、超電導導体等の高精度の装置が実際に作ることができた。プラズマ閉じ込める磁場の圧力は約50気圧であるので、2,3気圧のプラズマは抑えきれる筈だが、現実は局所的にプラズマの圧力が磁場の圧力を、磁力線を組み替える等で逃れことがあり、不安定性で消滅してしまうが、その不安定性抑制の方法が中型装置で実証されたことが挙げられる。発電方式は、炉心の周りに置いた中性子を熱化する装置で熱に変換する。日本の方式は、冷却水の熱に換えて蒸気タービンを回す通常の発電と同じ方法を採用している。

Q2 原型炉はどこに作るのか
A2 これからの議論になるが、原型炉はそれぞれの国で作ることが暗黙の了解になっている。安全保障もあり、国力、技術の蓄積になる。例えば、中性子を熱に換えるプランケットの設計は、国ごとに異なる。ITERは2兆円、原型炉はそれよりも低コストと考えられるが、現在のロードマップでは、2035年に日本は原型炉の建設判断をする。早ければ10年後に完成するので、2045年頃に完成することが期待される。

Q3 スイスのセルン研究所と核融合とのつながり
A3 セルン研究所は素粒子の研究になる。技術的には、粒子加速器は加速粒子の電流が低いがスピードは速い(エネルギーが高い)。核融合は1億度の環境を作るため、加熱装置の加速粒子の電流は数十Aオーダーで数桁も大きい。一方、そのエネルギーの大きさから、電源、ダメージを受けた電極の作り等が課題になる。セルンとの技術的課題が異なるため、殆ど研究協力はない。

Q4 核融合炉発電で、日本は化石燃料依存から脱却できますか。(後日、Web聴講者からの質問)
A4 核融合発電は、小規模プラントではエネルギー収支がプラスにならないため、ある程度の装置規模が必要となり、数十万kW程度の中規模以上の発電プラントとなります。従いまして、電力のベースロードを受け持つ発電方式を想定しています。一方、系統の負荷変動に対応するような、出力を急激に変化させる運転は、核融合の場合不可能ではありませんが、プラズマの制御上あまり得意ではないと思います。以上の核融合発電の特性から、化石燃料を使った火力発電の中で、基幹エネルギーを担うものに置き換わることは可能です。一方、再生可能エネルギーのように気象による発電パワーの急激な時間変動を補償する火力発電分は、火力以外の発電で置き換えるのが難しいと思います。従いまして、核融合、原子力、水力といった負荷変動が得意ではない発電方式は、どれもベースロードを担う電力を供給し、急激な負荷変動は、石油、石炭、LNG等の化石燃料を使った火力発電が一定規模必要となります。但し、少し未来に目を向けますと、(1)大容量蓄電池が系統に分散配置されて、再生可能エネルギーの変動を吸収出来るようになったり、(2)化石燃料を使わない火力発電、例えば、核融合電力を使った火力発電用の合成燃料製造や水素製造が出来れば、化石燃料依存から完全に脱却出来ます。化石燃料資源には、枯渇の問題も避けられませんので、このような究極の化石燃料依存脱却が、エネルギー開発の目指すところと思っています。

文責:白橋 良宏
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介

2022年08月25日

EVFセミナー報告:「メタバースとは何か ー 仮想空間の世界へのご招待」

演題:「メタバースとは何か ー 仮想空間の世界へのご招待」
〜メタバースを使いこなして子供、孫と遊ぼう〜
講師:NPO法人リライフ社会デザイン協会(レスダ) 副代表理事 小柳津 誠様
 
聴講者数:57名
講師紹介:
・1983年 名古屋大学工学部電気電子工学科卒
・1983年 (株)リクルート入社(経営企画 情報システム 営業)
・1992年 (株)コスモライフ(リクルート事業会社) 情報システム部長、コールセンター長
・2004年 伊藤忠アーバンコミュニティ(株) CIO兼教育事業本部長
・2014年 起承転結社 代表 (教育事業、新規事業コンサル)
・2017年 レスダ 副代表理事
・2020年 早稲田大学社会人教育事業室 Program Producer
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<講演概要>

1.本日の趣旨
・私は、元々はアニメオタクでメタバースの専門家ではない。素人なので専門性は抜きにして、自分がなるほどと思えたことを皆さんにお伝えしたい。
・「自問自答自習自得」は、九州大学サイバーセキュリティセンターが提供する教育プログラムにある言葉。バーチャルの世界は分からないことが多いので、自分でちゃんと考えるという意味でここにご紹介した。
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2.Web3って何?
・「ウェブの父」ティム・バーナーズ・リー氏は、インターネットやメールで使っているURL・WWW・HTTP・HTMLやブラウザ等ほとんど全て彼が生み出した。彼がアプローチしてきたシナリオを共有することで、何がメタバースなのか、DAOとは何か等全て一連のつながりであることが分かる。
・Web1:インターネット/「読み込む」の登場により、個人が自由に情報発信
・Web2:iPhone/「書き込み」登場から巨大なプラットフォーマーGAFAへ
・グローバルなプラットフォーマーへの集中と問題:皆が安心安全でそれに任せた結果、あらゆるリソースがプラットフォーマーに流れた。その結果、莫大な富と大量の貧しさが構造化している。そこに気付くがどうかが大事なところ。
・Web3:DAOという組織で「分散」と「自律」ということ。一人一人が自律してというのが発想のベースにある。

3.「仮想」って何?
・メタバースはコアな根っこでサーバー上に生まれた仮想空間。この「仮想空間」の中に「現実」を表現する方法がVR「仮想現実」・AR「拡張現実」・XR「複合現実」。
・メタバースとSF・アニメとは明らかに差がある。「現実との連動」があるのがメタバースで、だからこそビジネスが動く。
・広告宣伝は、テレビからネットへ。2021年末に北米全体の広告宣伝費の使用先は、テレビがここ30数年間で初めて2位になった。北米で起こったことは数年後に日本でも起きる。

4.Metaディスリ
・Twitterの最初の呟きはいくら?
・子供の落書きが3万ドル
・AIロボット「ソフィア」が描いたデジタルアートが75百万円

5.あなたは「DAO」できますか?
・DAOの一番大事なところは、分散ということではなく非集中ということ。
・アナログなDAOも私はあると考える。一人一人が自律してお互いに干渉せず全体を動かしていく組織

6.Moonshot計画について
・内閣府Moonshot計画:2030年に10体以上のアバターで身体、頭脳、空間、時間の制約から解放、2050年までに人が身体、頭脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現。

7.最期が変わる?
・自分が50年後の人に言いたいことを遺しておきたい。本当に遺したいのは意志。
・Somnium Spaceが開発中の「Life Forever」は、自分の容姿や声、さらに人格まで模倣したアバターに取組んでいる。

<講演内容>

1.本日の趣旨

・私は、元々はアニメオタクでメタバースの専門家ではなく、デジタルの世界について個人的な趣味でいろいろやってきたことで結果的にメタバースであるとか、バーチャルの世界について多少の経験がある。素人なので専門性は抜きにして、自分がなるほどと思えたことを皆さんにお伝えしたい。
・ここに書いた「自問自答自習自得」は、九州大学サイバーセキュリティセンターが提供する教育プログラムにある言葉で、ハッカーのウイルス攻撃から守るものは技術的なものだけではなく、彼らが一体何を狙っているのかという心の問題であるとか、哲学の問題を突き詰めていかないとウイルス対策はできないという趣旨で、私が気に入った言葉。バーチャルの世界は分からないことが多いので、自分でちゃんと考えるという意味でご紹介した。

2.Web3って何?

(「ウェブの父」ティム・バーナーズ・リー氏)
・キーワードとして覚えていただきたいのは、ティム・バーナーズ・リー氏のこと。皆さんがインターネットやメールで使っているURL・WWW・HTTP・HTMLやブラウザ等は、ほとんど全て彼が生み出したもので、「ウェブの父」と言われている。
・彼がアプローチしてきたシナリオを共有することで、何をしたかったのか、何がメタバースなのか、DAOというものがなぜ組織として生まれてきたのかが、全て一連のつながりであることが分かる。

(Web1:インターネット/「読み込む」の登場により、個人が自由に情報発信)
・Web1はHTMLによるインターネットで、軍用の網状ネットワークでどこかが切れても必ず届くというもの。彼が言い出した1990年当時は、情報発信は放送局・新聞社等の特定の権利者しかできないものであった(独占/既得権益)。特定の人しかできなかったことを、まずは皆が世界中どこにいても自由に発信できるようにつくったインターネットがWeb1である。

(Web2:iPhone/「書き込み」登場から巨大なプラットフォーマーGAFAへ)
・Web2は2007年のiPhoneで、「書き込める」ことが出来るようになった。テキストのみでなく、写真が送れて自由に書き込めるようになったことで劇的な変化をもたらした。

(グローバルなプラットフォーマーGAFAへの集中と問題)
・そこで起きてきたことが問題で、自分の情報を発信するとなると怖さがあり、悪用されるのではないかという思いがあった。そこで、自分の身を自分で守るのではなく、有名な看板を掲げているところに自分を守ってもらおうと、そこに皆が集中した。これがグローバルなプラットフォーマーで、GAFAである。安心安全で皆がそれに任せた結果、あらゆるリソースがプラットフォーマーに流れた。
・私はゲームオタクで、「うま娘/プリティダービー」のアプリケーションの話で例えると、そこは単にデータが流れていくという生やさしいものではない。2019年(コロナ直前)のオリエンタルランド(ディズニーランドとディズニーシー)の集客は年間2,500万人、売上5,256億円で、エンタメの頂点にある。これと比較してプリティダービーの一日平均はどれくらいと思われるか? 無料利用もできるが、一日の課金利用はどれくらいか? 利用者は150万人〜200万人程度。

【会場男性】:1日10百万円(1年36億5千万円)
【講師】:データに変動はあるが、一日約10億円。お金は儲からないし、キックバックもなくただ単に女の子のウマのキャラクターが走るのに課金しているだけ。但し、この10億円を売上げるために、キャラクターやその動きとか、作家やデザイナー等様々な人が関わっている。一日10億円が365日、ゲームはこれだけでなく日本だけでも何百本のアプリが有り、それが世界中、中国・台湾・アメリカ・イギリス等にある。
・実はGAFA、例えばアップルさんは当然一定の利益をとっている、これが驚くべき水準。通常、商売でお世話になった人に「利益」の何%かを返すのは普通にあるが、彼らは「売上」の30%のレベルで、これを毎日世界中で得ておりものすごい売上になっている。問題は、この状態でGAFAは大きな売上があがり素晴らしいということでいいのかということ。実はこれがWeb3に繋がっている。

(Web3:DAOへのつながり)
・Web3が考えようとしているのは、DAOという組織で「分散」と「自律」ということ。一人一人が自律してというのが発想のベースにある。
・創設者のティム氏が、このWeb3を提唱している。「新しいことを新しいエンジニア(それまでの技術に束縛されない若手)」が言っているのではなく、「一番新しいことを最初からやっていた人(その道を最初から究めた一番の経験者)」が言っていることが大事なポイント。
・そのティム氏が「Web3はまだ存在しないもの」と言っている。今の世の中でいわれているWeb3は一体何かということになるが、私が思うにキャッチーなキーワードを前にすると、皆が思考停止になる。冷静にデータを観察して論理的にものごとを考える訓練を受けた皆さんにもっと考えてほしい。ウマ娘のゲームの売上の30%を世界中で得ていることは、すごく儲かっているビッグビジネスということではなく、どうみてもおかしいということ。確かにプラットフォームを作ったが、その結果何が起こっているか。莫大な富と大量の貧しさが構造化している。GAFAだけのせいではないが、そこに気付くがどうかが大事。

(「ティム氏が考えていること」は何か?)
・いろいろな思いがあって1990年にインターネットを立ち上げ、そのために必要なHTMLやWWWを作り、その後世の中が変わり、今Web3を作らないといけないと考えている。どんなことがその動機にあると思うか? 彼は何をしたいのか?

【会場女性】:国境を取り払って、全部自由な空間を作りたいということ。
【会場男性】:いつでも自由に情報発信ができること。
【オンライン男性】:途中からGAFAの権力的志向が強くなったことから、世界の皆が平等で自由に情報の送信・受信をやろうということではないか。
【会場男性】:昨日Roblox(https://corp.roblox.com/ja/)という孫のゲームを見て思ったことだが、「バース」とは「ユニバース」で、「自由な宇宙で皆で創造ができる」ということではないか。
【講師】:国境をなくすとか自由な情報発信とかはWeb1からの流れで、世界の平等を宇宙レベルでというのもその延長線上で共感できる。リアルよりバーチャル世界が先に動いている。
・私が個人的に一番感じるのは、皆が便利なことにまき込まれ過ぎていること。便利なのはいいが、「便利かそうでないか」と「大切かそうでないか」ということを混在してしまっている。そういう状況に対して、彼が言うところの「自律」ということを皆が考える必要があると思う。

3.「仮想」って何?

(メタバースとVR・AR・XRの違い、後者は仮想空間に「現実」をつくる表現方法)
・メタバースとセットになっているVR・AR・XRという言葉がある。日本人の悪い癖で、漢字で書きたがりそのせいでわかりにくくなっている。
・メタバース「仮想空間」とVR「仮想現実」・AR「拡張現実」・XR「複合現実」を見分ける方法は「現実」という言葉。メタバースにはこの言葉が入っておらず、それ以外は全て入っている。メタバースはコアな根っこでサーバー上に生まれた仮想空間。そこに「現実」はない。この「仮想空間」の中に「現実」を表現する方法がVR・AR・XR。仮想の中に現実をつくるVR(仮想現実)、現実を仮想で拡げるAR(拡張現実)、両者を混在させるXR(複合現実)ということ。

(メタバースとSF・アニメとの違い、「現実との連動」)
・メタバースとSF・アニメとは明らかに差がある。「現実との連動」があるのがメタバースで、だからこそビジネスが動く。
・バーチャルシティの渋谷でゲームセンターに入り、クレーンゲームで商品を吊上げ落とすと次の日にアマゾンからその商品が届く、というように仮想と現実が繋がっている。商品や流通・販売が動くことが、アニメやSFと絶対的に違うところ。仮想空間ではお店を開く土地も売られている。仮想と現実のつながりをデザインしたものがこの図である。
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【会場男性】:クレーンゲームの話はよく分かったが、土地のケースはどういうことか?
【講師】:土地はSANDBOX(https://www.sandbox.game/jp/)というサイトで、SANDという通貨で土地(LAND)を買うと、その電子的空間を利用できる権利がもらえる。その占有した場所に仮想現実としてお店を開いたり商品を並べたりすることができ、その権利の売買がビジネスになっている。今から2年間くらい前に世に出て、最高価格が発売になった時の価格の40倍になり、今はまた元にもどった経緯がある。
・仮想空間がもてはやされて、なぜ何十億円も投資するのかは、夢物語ではなくあくまで現実が動いているからで、逆にお金が動いているということは、どこかで必ず現実と繋がっているとみていただくと、いろいろなことに気がつかれるのではないかと思う。

(メタバースの事例1:選挙、史上初の「メタバース街頭演説会」)
・先日の選挙で自民党が立会演説会を仮想空間で行い、結構反響があった。集まったアバターを通じて実際にリアルで参加者が聞いており、現実とつながった世界となっている。

(メタバースの事例2:SnapのARグラスを使ったNIKEの動画)
・AR(拡張現実)サングラスでランニングするシーン。現実の中に仮想で鳥が飛んだり、現実の中に仮想の新しいのもが拡張で入ってくる。特定のメガネを掛けた人のみが見ることができ(拡張現実)、その中でコマーシャルを映すことも可能。個人が自分の好きな人にメッセージを入れることも、できるようになると思う。

(広告宣伝は、テレビからネットへ)
・ここに掲載している企業は、広告宣伝費をテレビからネットに移している。2021年末に北米全体の広告費用の使用先で、テレビが第2位になった。30数年間テレビがずっと1位だったものが、昨年初めて2位になった。1位がネットで、多分この先変わらないのではないか。北米でおきたことは数年先に日本でおきる。テレビもあと5〜10年ではないか。

【会場男性】:今は民放が自分の番組宣伝を自分の局でやっていて、枠が埋まらないのか?
【講師】:民放もそうだが、TVerで無料で見られるように、今までは生でしか見られないということで広告宣伝費を高くとれていたものが、生で見ていなくてもインターネットやYouTubeで見られるようになってきた。放送法違反でもそれを全て摘発することはできない。テレビ局もそれが分かっているので、「独占だから権利を金に換えて儲ける」のではなく、「多くの人が見て楽しむ際に少しずつ金をもらう」ビジネスモデルに変えてきており、それしか方法が無くなってきたという厳しい状況にある。

4.Metaディスリ※
※報告者注記(ディスリスペクト)

(Twitterの最初の呟きはいくら?)
【講師】:Twitter最初のコメントはいくらで落札されたか?
【オンライン男性】:1億円
【会場男性】:2億円
【講師】:3億円です。NFT※やTwitterが巨大プラットフォームとして話題となっていた時期でもあるが、本当にこの金額で売れた。
※報告者注記:NFT Non Fungible Token 

【会場男性】:買ったというのはどういう権利を手に入れたということか?
【講師】:所有権を意味する。絵画と同じで公開して他の人も見ることはできるが、他の人は持っているとはいえず、所有権はNFTを買った人にある。デジタルで証明される仕組みがNFT。

【講師】:今年の5月、3億円で買った人が売りに出したがいくらで落札されたか? 購入時の価値の20倍(60億円)で、チャリティオークションで半額が寄付される仕組み。
【オンライン男性】:80億円
【講師】:実は値がついたのは440万円で、入札は最低価格に満たず成立しなかった。Twitterという巨大なプラットフォームの最初の一言に、価値はないわけではないと思うが、チューリップ相場やバブル等もそうだったがやはり本当の価値に戻るものと思う。

(子供の落書きが3万ドル)
・シボレーの例で、世界でただ一台の限定特殊デザイン車を高い価格で出したが、誰も買わなかった。
・ニューヨーク在住の一般市民の子供が描いた落書きが、NFT化して「Open Sea」サイト※で3万ドルで売れた。お金を出す人は、子供に凄い才能を感じて芸術作品として買ったということで買う人の自由であるが、それがOpen Seaを通じて売買されたことが面白い。
※報告者注記:Open SeaはNFT販売を行っている最大手マーケットプレイス(ネット記事より)

(AIロボット「ソフィア」が描いたデジタルアートが75百万円)
・AIロボット「ソフィア」が自らNFT資産を使って描いたデジタルアートが、75百万円で落札された。人間の指示や意図、技術等は一切介在していないが、どこに価値があるのか? 芸術家のように長い間に自分の感性や経験とか技量を尽くして描いた作品ではない。ソフィアは電源を入れたら描くわけで、芸術の価値とは何かを考えさせられる。ソフィアを否定するわけではなく、アートの価値とお金の交換がこれからどうなっていくのかと思う。

【会場男性】:Open Seaで子供の落書きを売るのと、メルカリで売るのとは何が違うのか?
【講師】:基本的には同じで、唯一違うのは、そこで使われているお金が「イーサリアム」という仮想通貨であること。メルカリも現金ではなく、メルペイでチャージして決済するのと同じ。仮想通貨では国境がなく、となると通貨とは何かという問題も提起される。

【会場男性】:買った人はどうなるのか?
【講師】:買った人が現物を貰うか、NFTというこの絵はあなたの持ち物という証明書だけを貰うのかは、当事者同士の決めごと。例えば巨大なアート作品であれば、モノはそのままでNFTを所有すれば、世界中でこれはあなたの持ち物ということを証明してくれる。NFTというブロックチェーンに基づいた証明書が有効ということ。

5.あなたは「DAO」できますか?

(DAO:Decentralized Autonomous Organization/自律分散型組織)
・Web3の世界は、国家とか組織とかのあり方に影響し、その一種の組織論がDAO。日本語では「自律分散型組織」と訳されているが、これは間違いで、Decentralizedは分散ではなく非集中とすべき。非集中を実現するためには前提として分散が必要だが、分散してるから非集中というわけではない。分散しても分散した人が思考停止していれば自律はしていない。DAOの一番大事なところは、分散ということではなく非集中ということ。
・自律分散型組織には、アナログなDAOもあると考える。一人一人が自律してお互いに干渉せず全体を動かしていく組織で、皆さんも経験していると思う。
・皆が共通の意識を持ち、その時々の状況に合わせて共通の目的に即した判断を支持するのがDAOで、以下に例をあげてみる。

(アナログなDAOの例:日本ラグビー南アに勝利)
・日本ラグビーが2015年ラグビーW杯初戦で優勝候補の南アフリカと対戦したとき、皆さんのご記憶にあると思うが、終盤に相手ゴール前で反則を獲得し、キック・スクラム・ラインアウトの選択肢があった際、エディ・ジョーンズ・ヘッドコーチのキックの指示に反し、リーチ・マイケル主将がスクラムを選んで結果トライで逆転勝利した。あのリーチの判断は独断ではなく、全員のスクラム選択の思いがあってこそで、予め決めていたことではなく、その時に必要なことを皆が認めてその人が判断するということ、これがDAO。

(アナログなDAOの例:ブラックジャック)
・カードゲームのブラックジャック(子/プレイヤー4〜5人+親/ディーラー)で、レベルが高くなってくると子は皆が残りの絵札を覚えており、親に1対1で勝つより親がドボンすると全員が勝てるので、どうすれば親がゲームオーバーになるかをお互い知らないプレイヤー同士が会話の出来ない暗黙の中で連携し、親をドボンさせたらgood job!ということで同様にDAOである。

(中高生のゲームシーン)
・マクドナルドで中高生がたむろってゲームをしているのは日常的に見られるが、あれはチームになって相手を倒している。どうするかは個人に任されており、相手の攻撃も早いので、お互いに合図を送ったりする時間もなく瞬時の判断で対応している。怪我した人を治すヒーラー役や魔法を使って相手を倒すマジシャン役等いろいろな役割と組合わせがあり、黙って皆がやっている。これもある種のDAOと思う。
・今の子供達はこういうことを皆経験しており、目配りだけで何をしようとしているのかを察し、協調して動くことを知っている。こういう子供達が社会人になり、リアル組織の中でリーダーに従うということが分かるかどうか、大人は少し違う目線で彼らを見る必要があるのではないかと思う。是非、土日の昼間にマクドナルドで観察してください。

6.Moonshot計画について

(内閣府Moonshot計画:10体以上のアバターで身体、頭脳、空間、時間の制約から解放)
・内閣府がMoonshot計画を策定している。2030年までに1つのタスクに対して、一人で10体以上のアバターを自由に操作して実際の社会活動に参加できるようにするもの。予算も47兆円と本気。まずは身障者とかシルバーの皆さんが利用できるようにすることで、少子高齢化を克服するもの。2050年までに人が身体、頭脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現する。それで全てのことが出来る訳ではないが、今まで出来なかったことの大きな部分が出来るようになる。
・2050年は先のことではあるが、日本政府の計画として公式に発表されており、英語版も用意されている。世界に対して発信しているもののその割には誰も知らないので、是非、皆さんにも関心を持っていただきたい。

7.最期が変わる?

(自分の意志をメタバースで遺す)
・私はもう60代だが、自分で動画を撮って遺言を残そうと思っている。去年取組んだが、プライベートな遺言で財産を分けるというより、今日の時点で自分が50年後の人に言いたいことを遺しておきたい。今の社会を見ていて、孫が大人になったときにお祖父さんの言うことが正しいと思ってもらえるようなもの、ノストラダムスの大予言ではないが、今の自分が考えている未来に対しての思いを遺しておきたい。私は、本当に遺したいのは意志と思う。津波の記憶もそうで50年前の記憶が残っていたらもう少し避けられたかもしれない。同じことを私たちも一人の人間として遺しておきたい。
・私は三国志が好きだが、実際に登場人物の声は聞いたことはない。今までは有名人でないと、そういうコンテンツは遺せなかったが、今は誰でも遺すことができる。

(安楽死について)
・安楽死について調べた。法律的に安楽死が認められている国はあるが、残念ながら日本では認められていない。死ぬときぐらいは自分で決めたいと思う。
・Somnium Spaceが開発中の「Life Forever」は、自分の容姿や声、さらに人格まで模倣したアバターに取組んでいる。自身の記憶や普段の行動等をAIが全てデータとして記録している。私は今日の自分を遺したいわけではなく、50年後の見通しを遺したいと思っているが、あたかも自分がAIロボットとして遺ることが面白いと思う人もいると思う。
・少し前まではあり得なかったことがいろいろできる時代なってきており、こういうこともあることをお伝えしたかった。経験と知恵が一番役に立つので、今日お話ししたことを将来に向けて皆さんの経験や知恵を活かせる助けに少しでもなればと思う。
ご清聴ありがとうございました。

<質疑応答>

Q1:【会場男性】
・今日はありがとうございました。メタバースを構成しているのは洗濯槽の泡の一つ一つではないかと思いました。泡はそれぞれ勝手なことを言うのでしょうが、最終的に寄り集まるところは、LINEの同好の士や、このEVF(環境ベテランズファーム)のように気持ちを一つにして集まるということになるのかと。それぞれがバラバラに言いたいことを言って、最期にまとまるモノは何もないというイメージを持った。今日のお話は最後で安楽死までいったが、ブツブツ言っている泡の一人として、一体どういう世界になるのかなと、いかがでしょうか?
【講師】
・おっしゃっていることは全く私と同じで、先は分からないが、自然に帰るということのように思う。好きな人と好きなことをするために好きなことを考える、ということがいろいろな意味で出来るようになる。DAOがそうだが、例えばこのEVFも同好の士がいるが、ここだけの世界ではない。私はアニメファンでもあり、ドラゴンズファンでもある。自分がたくさん存在して、たくさんいる自分がそれぞれ好きな人と好きなことをやっている、それでなおかつお金が稼げる世界。
・夢みたいなものかもしれないが、実は既に遊ぶだけでお金が貰える世界ができつつある。フィリピンの一部では、ゲームをすると一定のお金が貰える。ベーシックインカムの発想に近く、そのベーシックなものが戸籍ではなく、ゲームをやることにあるということ。ゲームをやればベーシックインカムが入ってくる。日本人の考えるベーシックインカムは戸籍の登録が必要だが、ルールが違うだけで同じこと。好きなことは皆違っており、違うということは、より得意な人と苦手な人が生まれ、その差分でエネルギーというかビジネスが動くはず。今までは誰が得意で誰が苦手で、どこにその差分があるかが分からなかったが、今は皆が繋がり簡単に分かるようになってきたので、そういうことが可能になるのではと個人的には思っている。
・組織や国境は本当に無くなる。警察や消防はないと困るが、多分AIで代替できる。そういうモノはルールに基づいており、ルールに基づくモノはAIロボットができる。これだけは必要というモノを、皆がお金を出して作っておけば、あとは皆が好きなことをやればいい。
・日本人は好きなことをやって生きることを怠け者といったりするが、好きなことをやっている人で怠けている人は誰もいない。死ぬ気で遊んでいる。皆がそうやって汗を流してというようになれば、ある意味面白いのではないかと思う。

Q2:【オンライン男性】
・DAOの場合は、その組織の目的が予め決まっているわけではなくて、何人か集まった中で、楽しむモノが出てくるのが理想。そのためには顔を付き合わす必要もなく、今ならいくらでもテレワークでできる環境は整っている。ここからは私個人の感じで皆さんと異なるかもしれないが、EVFもDAOだと思う。みな自主的に役割分担を決めており、嫌になったらやめて次の人が自然にその役割を担うというのがこの十数年の歴史。正に(DAOの)典型なんですが、欠点はなにか皆が真面目すぎて成果を出さねばならない、脱炭素社会の形成に向けて何かcontributionを創れという暗黙のプレッシャーを感じている。そういうことも勘案して楽しくやる秘訣はないか?
【講師】
・そのご質問は和田さんがお答えになると思うが・・・。おっしゃるとおりDAOと思うが、DAOには自律分散とか共通の目的があるが、はっきりしていない要素がまだある。それは「循環」ということ。固定的役割はなく、その時、誰かが皆が思うことでこれをやろうと言い出して皆でやるという、そういうプラットフォームになっていないと、この人が司会者、あなたが世話役、あなたが下働きということ等々、日本人は役割分担が大好きで役割を決めたがる。逆に役割分担はしているが、朝起きたらリシャッフルされて、今日の役割分担を決めていく、それが自然に言葉や動作で皆に共有されていく「循環」というか、皆がそれぞれいろいろなことが出来る仕掛けや考え方がもう少し揃ってこないと本当のDAOはなかなか難しいのかもしれない。
・根っこにあるのはこのEVFのようなもので、スタートはここから。皆が真面目というのがキーワードで、日本人は「辛いことを我慢することを真面目」といっているが、「好きなことを一生懸命やることが真面目」というように定義を変えると、多分皆さんの真面目さがもう少し違う形になると思う。嫌なら、それは嫌だと言うこと、皆はよくても自分だけはやりたくないということでよく、それを「それはそうだよな」ということでやっていければそれでいいのではないか。そうすることでイメージしているDAOにより近づくのではないかと思う。実験的にこういうところで、やっていただきたい。

<講演会終了後 番外編>

Q1.【会場男性】:メターバースは私でも作れるか?
【講師】:メタにお金を払ったり、ある一定の条件で契約してある空間を買うことができる。NFT取引きを提供しているのがOpen Seaであり、ある空間を土地として認識し売買しているのがSAND BOX。皆さんがメタバースに自分の空間を作るのは可能で、今は商業利用の最低価格3百万円程度。小さい空間ではあるがそれをどう使うかは皆さん次第。1回バズルと費用は回収できる。

Q2.【会場男性】:その空間はメタ社が独占ということか?
【講師】:メタバースはメタ社の商品で、仮想空間は他にもある。多くの人の目線や注目を浴びているのがメタバース。別の仮想空間で安く始めることもなくはないが、今はメタバースに人気が集中しており、メタバースで小さくてもやり始めるのがいいように思う。

Q3.【会場男性】ハード的にはどの程度の準備が必要か?
【講師】:パソコン1台、ひょっとしたら高性能のスマホでできる。メタバースを持っているというだけで、影響力を持てるかもしれない。アンテナショップや地方のお店が東京でお店を買ったら簡単に潰れてしまうので、メタバースに出店するのも選択肢ではないか。なお、お金のやりとりは全て仮想通貨で現金ではない。

Q4.【会場男性】:地方自治体はそういうことをやっているか?
【講師】:北九州とか鎌倉とかやっている。

Q5.【会場男性】:この間日産がやっていたが、あれでも3億円とかかかっていたようだ。
【講師】:もっといろいろ可能性が出てくるかもしれない。出品することがポイント。まず皆さんはクライアントとしてどこかにアカウント登録をする。皆さんが持っている知識を個々に集めるのは大変だが、集まっている人でどういう情報の形にするのか、ちょっと工夫するのがいいと思う。皆さんはエンジニアなので、新しい技術に対して何かテイストをつける、皆さんは変数で考えたがるが変数はいい点がつけば褒められるが悪い点がつけば攻撃されるのでよくない。例えば色をつけること、この技術はピンク色とかこの技術は別の色とか。なぜこれはクリームイエローでスカイブルーではないのかをEVFとして言えれば、それだけで価値になる。エンジニアが数値でなくて色でモノを語っているのが新しい価値になる。そんなことがあると面白いと思う。
文責:井上 善雄

講演資料:「メタバーストは何か-仮想空間の世界へのご招待」
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介

2022年07月23日

EVFセミナー報告:どうつくる?持続可能な社会〜新型コロナとSDGs〜

演題:「どうつくる?持続可能な社会〜新型コロナとSDGs〜」
講師:室山 哲也様
元NHK解説主幹、東京都市大学特別教授   
Web視聴開始日:2022年7月23日
聴講者数:49名

講師紹介

・1953年、岡山県倉敷市生まれ、1976年NHK入局。「ウルトラアイ」などの科学番組デイレクター、「クローズアップ現代」「NHKスペシャル」「ロボコン」のチーフプロデューサ、解説主幹を経て、2018年に定年
・科学技術、生命・脳科学、環境、宇宙工学などの中心論説を行い、子供向け科学番組「科学大好き土曜塾」(Eテレ)の塾長として科学教育にも尽力した。
・モンテカルロ国際映像祭金獅子賞・放送文化基金賞・上海国際映像祭撮影賞・科学技術映像祭科学技術庁長官賞・橋田壽賀子賞ほか受賞多数。
・日本科学技術ジャーナリスト会議会長。東京都市大学特別教授。政府委員多数。

講演内容

いま、新型コロナが流行っている。いつまでこの状態が続いていくのか、果てしない状態がもう3年もつづいている。SDGs(持続可能な開発目標)のテーマから見ると一つの警告であるとも思われるので、それも含めて話をする。


1. 私たちの住んでいる地球は課題だらけ

1.1 「もし人類が滅亡するとしたら、どんなプロセスをたどるだろうか?」
・オックスフォード大学が、2015年に発表した「人類滅亡12のシナリオ」には、人類の未来を左右するさまざまな項目が並んでいる。
・「気候変動」から始まり、「核戦争」プーチンが始めたウクライナ戦争により、今まで核戦争がないと思っていたがリアルな感じになってきた。
・「生態系の崩壊」のリスク、現在地球上には3000万種の生物種がいるが環境汚染による生態系の破壊により、生物種が破壊する速さが増す。
・「グローバル経済での格差拡大による国際システムの崩壊」、「巨大隕石衝突」「大規模火山噴火」直近では6600年前に恐竜が全滅したようなことが、たびたび起こり、その都度生物種が絶滅し、また、新たにリセットされた生物種が生まれ進化してきた。これからもこのような事態が起こる。 
・「バイオハザード」「ナノテクによる小型核兵器開発」、「人工知能」これには光と影がある。
・「超汚染物質や宇宙人の襲来など未知の出来事」
・「政治の失敗による国際的影響」これが一番ありそうだが、これはいろいろな点とクロスしながら増幅していく。

1.2 人類滅亡12のシナリオには「パンデミック(新興感染症)」があがっている。
・私たちを悩ませている「新型コロナウイルス」は、この新興感染症の一つ。これで人類が滅亡するとは思えないが、社会的大きな影響を残していく。世界のショックは大きい。感染症には未知の新興感染症と既知のものが再び現れる再興感染症の2種類ある。今後新興感染症が増えてきて、これからも似たようなことが続く。何故そういうことが起こるかというと、ウイルスは人類が誕生する前から存在していて、遺伝子のかけらのようなものが入ったり出たりして進化のいちよういんになっている。
・もの凄くたくさんのウイルスが地球上にいて、ジャングルの中ではウイルスは共存共栄の状態にある。しかしジャングルの外にいる世界にとっては未知のもので、人間は免疫を持っていないので病気になったりする。
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・この図のようにジャングルがあって人の生活圏がある。ジャングルと人の生活圏は離れていたが、家畜経由で人間社会にウイルスが入ってくるようになった。(図1)

・人間の活動が活発化し、自然の奥深く侵入し、接触の機会が多くなり、免疫をもたない「未知のウイルス」に感染している。いいウイルスもいる。例えば赤ちゃんを育てる母体の胎盤はウイルスの遺伝子が入って形成され、母親の免疫が胎児を.異物として攻撃しないような仕組みにしている。
・人間側の社会構造が変化し、社会と自然のバランスが崩れる中で起こっている現象が今の新型ウイルスの問題であり、新興感染症の問題点である。
一旦取り付いたウイルスは、現代社会の交通網に乗って世界中にあっという間に拡大する。ゆっくりゆっくり感染していけば、我々は免疫を創ることが出来るが、そのスピードがあまりにも早いので大騒動になっていく。
・先進国では、お金があるのでワクチン接種などで感染を収束させることが出来るが、途上国は感染が拡大し、ウイルスの変異、強毒化して、そのウイルスが先進国に感染して被害の深刻化をもたらす。
・このため、先進国だけが対策しても、開発途上国などの対応が遅れれば、変異が繰り返され、タチの悪いウイルスが現れ、先進国に再流入し、イタチごっこは終わらない。この構図は、人類全体で取り組まなければ根本的には解決しない点で、SDGs(持続可能な開発目標)のテーマそのものだと言える。
・SDGsは、15年の国連サミットで、193カ国によって採択された。「環境問題」「貧困」「紛争」「格差」「健康問題」など、30年までに解決すべき17の目標が掲げられ、その下に169のターゲットが並んでいる。一見ばらばらの目標に見えるが、実はこれらは、根底で関連し合い、影響し合っている。
・SDGs3の目標「すべての人に健康と福祉を」に該当する。コロナはSDGsを考える一つの断面である。
解決すべき17の目標のどこから入っていても持続的な発展につながっていく。

1.3 SDGsの根底にある状況とは?
・なぜ今SDGsが必要なのかと考えるとき、人口急増があるのではないか
ヨーロッパでペストが大流行したときは人口が減少している。感染症は社会構造に大きく影響する。コロナも何らかの爪痕を残していくだろう。新型コロナにより、今から10年先に来ると思われた情報通信技術社会が一気に来てしまい未来に飛んだ状態で、社会構造も大きく変わってきている。
・人口急増は産業革命から始まった。2006年で67億人だったものが、2100年で109億人とピークアウトするのではないかと推計されている。もう少し早くアウトするのではないかとの研究も出ている。今はその途上の状況にある。人類増加と地球とのバランスが崩れることになり、地球規模の大きなリスクが生じている。おいおい2200年、2300年になったら人口減少について考えなければならないかもしれないが、私たちは人口急増の時代に生きている。
・我々が取り組まなければならないのはSDGsテーマである。
エコロジカルフットプリントという言葉があり、これは、人類が地球環境に与えている様々な負荷の大きさを、世界のいろいろなデータを基に計算し、数値で示し「負荷」の大きさを測る指標である。
・2014年度段階で、地球環境負荷の1.7個分で生活している。1個分で生活すれば、持続可能であるが、0.7個分余分に資源を食いつぶしていることになっている。
人類全員が日本人の生活をすると地球2.8個、アメリカ人のレベルの生活をすると地球5個必要になるというデータもある。貯金に例えれば、現在人類は元本まで使っている状態。
しかし途上国の人たちは電気がなく夜、本を読むことすらできない、彼らは豊かになる権利がある。今の格差社会の中で環境問題を考えていかなければならない。これからは地球1個分の文明、生活とか社会を創らなければならないことは明らかである。
・けれども、我慢してではなくもっと豊かになって、もっと素晴らしい人生を送りながら持続可能な地球1個分の生活をする。科学の力によってそれができないか。
・SDGs17枚のカードを組み替えたSDGsウェディングケーキモデルがある。一番底辺に自然環境、その上に社会、経済、文化と乗っている。社会、経済を回すことは良いが、回すことによって自然環境にひびがはいたら元も子ともない。うまく連鎖して同時に連動しながら回っていくシステムが求められている。
・大元の自然環境の面から、ことさら気候変動についての問題と、これらを解決するためにエネルギーはどうあるべきか。
気候変動とは全体の平均気温の上昇する現象をいう。暖かくなる地域と寒くなる地域が生じ、水循環が活発になり気候変動が起こる。これからの夏は暑いこともあり寒くなるところもあるが、全体的に底上げしていく現象は確かで、暑い夏が増えていく。
・ダボス会議のグローバルリスク報告書によると、最も発生可能性が高いリスクと、最も負のインパクトの大きいリスクに異常気象、自然災害、気候変動緩和・適応への失敗がある。なかなか対策が難しいのは、国益と地域益がバッティングすることである。これをクリアしながら、リスクを減らしていかなければならない。故にこれからの政治家には、イマジネーションと構想力、空想力が必要になる。
・世界の主な異常気象を気象庁のデータから、3年間(2015〜18)まとめたものがあるが、高温の地域、低温、多雨、少雨の地域と異常災害など多種多様なリスクが生じている。最近は高温の地域が増えている。地域ごとに課題が違う。
・さらに複雑にしているのは、地球温暖化で洪水、干ばつ・森林火災、水不足の被害があるいっぽう、一部の国では、ある時期だけ利益がある。
1990年度比で2.3℃上昇まで、中〜高緯度の人々は穀物生産性が向上するが2.3℃をこえると穀物生産性が低下していく。
日本でも同様なことが起こり、温暖化と品種改良の相乗効果で米の収量が増えてきている。
・また、北極海の夏場だけ氷が融けて海が現れるようになっている。これは、北極航路を運航することにより、日本から欧州や米国西海岸に燃料も少なく、時間短縮で運航できるようになる。さらに、北極海には採掘可能な石油資源が世界の25%位ある。
オープンシーになると北極海は文明国から見ると内海である。船が運航でき、資源があり、一大経済圏になる。近隣の国にとってはビジネスチャンスになる。
・一方で他の国から見たら、南極の氷が融けるということは、何が起こるかわからないリスクになる。地球温暖化対策はこのような矛盾したことにどのように対処していくかが問われていく。

1.4 解決のための根本的視点とは?
・日本や中国などでは人口減少にあるが、地球全体から見ると人口急増の途上にある。
人口爆発により人口の半数が都市に集中し、環境汚染をもたらし、森林が消滅し、生物種が絶滅に向かい、エネルギー不足に陥り、食料も不足し、地球温暖化が起きている。これら繋がっている諸々の症状をいろいろな施策によって同時に解決する必要がある。

1.5 どう解決?
・近江商人の経営理念を表すものに、売り手良し、買い手よし、世間よしがあるが、これに地球よし、未来よしを追加したい。こうすると現代的な三方よしができるのかなと思う。このような結果を導くような施策を探す。
・昨年のCOP26では、気温上昇を産業革命以前の温度から1.5℃以内に抑えることが合意された。。それには温暖化ガスを2050年までに実質ゼロにしなければならない。そのためには、農業からのメタン排出削減、電力の石炭火力削減、森林破壊防止、エコカーの導入などを推進しなければならない。今の目標では足らないので、毎年削減目標の上乗せを図っていくことを世界全体が合意した。
・日本も菅首相の時、2050年温室効果ガス排出実施セロを推進する法改正をした。そして2030年の電源構成の目標を設定した。再生可能エネルギーを36〜38%にすると計画しているが、問題があり、原発20〜22%にすることは関係者に聞いても難しいと言っている。石炭火力も19%としているが、世界の国々(先進国)から非難されている。
・政府は石炭火力のインフラを利用してアンモニアと混焼して、2050年には石炭火力を100%のアンモニア火力発電にすると説明している。だがアンモニアをどう製造するのかなとの課題が残っている。
・再エネをいかに増やすかが重要である。

1.6 解決の切り札?自然力×科学技術
・日本は世界で61位の小さな島国である。
海の面積は6位で水の量は世界4位の海洋大国である。そこに巨大なパワーを持つ黒潮が流れている。この海の存在を活かした洋上風力、潮流、温度差、波力の利用をする。地熱のポテンシャルではインドネシア、アメリカに次ぎ世界3位である。バイオマスの森林率は先進国3位で、さらに各地に太陽が降り注いでいる。こう見ると日本は自然エネルギー大国である。採算の取れる事業だけをやっても、現在の電力使用量の1から2倍のポテンシャルがある。巨大なものである。こういう視点から展開できないか。
・グリーン成長戦略で、次世代太陽光がある。
地球上に降り注ぐ太陽光エネルギーの1時間分は、人類消費の1年分である。
ゴビ砂漠の面積130万Kuの23%に太陽光パネルを敷き詰めると、計算上ではあるが、世界のエネルギー供給量に匹敵する。
・2021年経産省試算であるが太陽光は原発より安くなる。太陽光パネルの設置場所は公共建築物の屋根、貯水池、農地・耕作放棄地、最終処分場などに展開していこうというのが今の政府の考え方である。また、都市全体に、変換効率の高い、曲がるペロブスカイト型太陽電池の設置などが考えられる。
・洋上風力発電である。
海洋大国である日本は排他的経済水域をどう使うかが問われている。
九州大学の研究者が、効率的な風力発電であるレンズ風車を開発した。(図2)
図2 20220723D2.jpg

通常の風力発電に輪を付けると通常の3倍弱の能力の発電機になる。モジュールの上にレンズ風車を複数配置し、それらを組み合わせ構築物にし、モジュール天盤には、太陽パネルを敷き詰め、潮流、波力発電も付加し、真ん中のところは魚が寄ってくる構造を作り、海洋牧場にする。福岡で設置に向けて、地産地消型の発電システムとして最初から漁協と一緒に取り組んで地域の活性化を目指している。大規模発電には向かないが、中規模程度までならば凄く有効である。
・大規模洋上風力発電ならば日本の得意技の造船技術を活用することで成長戦略になるのではないか。プロデュースしていく発想の仕方が重要である。
・カーボンリサイクルこれは、二酸化炭素を有効利用しようということで、森林からのバイオマスも良いが、CO2吸収が熱帯雨林3倍のミドリムシとか海藻は大量に増えるのでうまく利用する。火力発電所から排出されたCO2はそのまま海底とか陸の中に貯留することが考えられているが、もったいないので海藻を増やして、バイオ燃料や食料にしていければ、CO2の有効利用になる。
・琉球大学の研究者が海洋バイオマス利用によるCO2削減およびバイオ燃料化に関する研究を行っている。海水と排ガスを溶かして2%くらいのCO2濃度にするとホソエダアオノリの成長が2倍になる。この海藻の糖類からの発酵液でエタノールを造るバイオエタノールの試作に成功した。また、この海藻を使って美味しいゼリーも製造している。
ミドリムシの事業などは大成功でミドリムシをジェット燃料に混ぜて利用する計画。西東京市ではミドリムシバスが走行していた。
・いろいろな知恵があるので、その中から政府が後押ししてブレークするようにしていく施策が必要である。
・つぎに、グリーン水素の話になるが
電気は蓄積できない。大規模発電所からの一次エネルギーは利用されない排熱、送電ロスなどが63%もある。実際に利用している一次エネルギーは37%しかない。
再生可能エネルギーは風力も地熱も偏在している。では電力をどう運ぶか、送電網の強化にはお金がかかる。送電網を使用しない解決法としてはバッテリーがある。ナス電池などあるけれども限界がある。
・水素をコアにしたエネルギー社会ができないのかということで実証実験を見に行った。東芝の川崎では太陽光発電で水を電気分解して、水素を作り、燃料電池に充填する。その電力を公園のカメラや照明、事業所でも使用し効率を調べている。
・長崎五島市でも浮体式洋上風力発電でつくられた電気を島に運び、そこで水を電気分解して水素を作っている。ここでは水素を圧縮してタンクに充填して、燃料電池船とか燃料電池車に使用している。またこの企業は常温に近い状態でメチルシクロヘキサンの液体に水素を混ぜて他の島に運びそれから水素を取り出して、燃料電池に充電し発電して効率を調べている。
・アルゼンチンのパタゴニアは一年を通じて一方向に強い偏西風がアンデスから吹き降りている。巨大な風力発電の基地を作って、水の電気分解で水素を生産したらどうなるか。これを世界の大規模水素サプライチェーンで回していけば水素国際社会ができる。今は、中東が石油を生産して世界を回しているが、これからはパタゴニアが世界の中心になるかもしれない。日本の北の地域にも吹いている場所があり、世界でも何か所か風の強い場所がある。そういう場所で水素を生産すれば、今は中東が石油を生産して世界を回しているがこれからはパタゴニアが回していくことになるかもしれない。
・そうなると、エネルギー問題だけでなく、安全保障とか、国際政治の構造が変わるだけのインパクトがある。その上に水素社会が乗っかっていく。水素は大きな政治的な意味を持っている背景がある。EV対燃料電池車みたいな話があるが、それぞれ違う未来を切り開くパワーがあるので、こういうことを含めて考えていった方が良い。
・このような、あの手、この手の知恵を使いながらどういう文明を進めていけばよいのか、SDGs社会でやらなければならない。

1.7 持続可能社会の思想とは
・被災地に行ったら夜は真っ暗闇だったが、小水力発電のあったじいちゃんの家だけが電気が灯っていた。冷蔵庫も使うことが出来た。近隣の人たちが集まって生き延び、救援が来るまで持ちこたえることが出来たエピソードがある。自然エネルギーは地べたにあるので災害の時にしぶとい社会をつくる糸口になる。これはSDGs社会に向いている。
・日本には、里山という文化がある。里山は大自然と町の間にある。
西洋は自然を支配し生物種が減少する。東洋は自然と共存し生物種が増加する。里山では木こりが木を切るときは少し残す。すると長年萌芽更新を繰り返し、その結果できた木の空洞の中で新たな生物種が生活し、生態系が豊かになる。このような里山エコシティのようなものができないだろうか

1.8 どうやって直すかわからないものを壊すのはやめて。
・ブラジル・リオデジャネイロで開催された環境保全と持続可能な開発に焦点を当てた国連会議で、子供環境運動代表のセバン・スズキさんが子供たちの声に耳を傾けてという演説をした。その後の大人たちに影響与えた。
・セバンさんからの演説から、私たちは12歳から13歳の子供たちの集まりで、今の世界を変えるために頑張っている。自分たちでお金をためてカナダからブラジルにやってきた。未来をかけて話す。ここに立って話すのは未来の子供たちのためである。世界中で飢え苦しむ子供たちのため、今にも死に絶えようとしている無数の動物達のためである。
・もし戦争のために使われるお金を貧しさと環境問題のために使えば、この地球は素晴らしい星になる。私はまだ子供だがこのことを知っている。
争いをしないこと、話し合いで解決すること、人を救うこと、自分のごみは自分で片づけること、傷付けないこと、分かち合うこと、欲張らないこと。
・ならばなぜ、大人たちは、私たちにするなということをしているのか。私たち子供たちの未来を本当に真剣に考えているのか。大人たちのやっていることのせいで私たちは泣いている。大人はいつも私たちを愛しているという。もしその言葉が本当なら行動で示して。
・ウクライナ戦争で子供たちを悲惨な目に合わせているプーチンにこの講説を聞かせてやりたい。

1.9 地球と共に生きる
NASAから地球を撮った3つの写真がある。地球を回りながら撮った写真、アポロ8号が月から撮った写真、ボイジャーが太陽系の海王星の外から撮った写真。地球の周りは真っ暗である。この地球上に3000万種の生物と、80億の人が住んでいる。80億の人はこの星と運命を共にするしかない。この地球で持続可能に地球と共に生きていくのにどうすればよいか、いま問われている。

2. 主な質疑応答

Q:セバン・スズキさんの話が感動的で、地球温暖化の被害者は次世代、次々世代の人たちが本当の被害者になると思っている。我々高齢者が、その人たちに正しく情報を伝達していかなければならないが、何かいい方法があるか。
A:温暖化は息の長い話で、想像力が必要になる。倫理観とか生き方とかありとあらゆるものがためされ、変わっていかなければならないもので、脱化石燃料が正しいものとすれば、それに代わるものがいかに素晴らしいものになっていくかを見つけ、楽しい温暖化対策について伝わるようにする。

Q:電気自動車の蓄電池を利用すると電力網が生かされると電力も助かるけれど、一例としてセクター間カップリング、例えば交通部門と発電部門あるいは水素を通じての鉄鋼部門など内外でポジティブにつなぐアイデアがないか。
A: 自動車については、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の方向性に従って、自動車のありようは大きな影響を及ぼし、車に人工知能が搭載されて、今後の社会を大きく変えることについて、大いに興味を持っている。気が付いたら車は生活を変え、地方も救うことになっているかもしれない。
また、DXも産業構造や社会構造を、根本から変えていく要素を含んでいる。

Q: SDGsにある思想は全人類をどう救うかという思想で国連がまとめた発想で、だれも反対できないが、ウクライナ戦争から地球は滅亡していくしかないにように思える。事実、ウクライナ戦争後、ドイツは原子力、石炭も使用する政策を進めているが、今後どう考えればよいのか。
A:安全保障上のリスクは、国内で使用するエネルギーを自らがハンドリングできるエネルギーがあればあるほど安定することになる。わが国は、日本の周りに天然ガス100年くらい利用できるメタンハイドレードとか、海に結構あるレアメタル、自然エネルギーとしての太陽光、風力、地熱、バイオマス、海流利用の波力などを生かして自立していくことが大切である。
バイオマスを造っている岡山県に行ってみると、森を育ててバイオマスチップでエネルギーを作ってやっている。森を育てないと再生可能にならないので、雇用を創ることになる。雇用が生まれてお年寄りとか、若者が来て森を管理することによって、人が集まり、村が街になり、地域の自立につながるサイクルが出来ている。その地では地域通貨などを使って、大手企業がお金を吸い上げるのではなく、エネルギーを含めて地域が回るような仕組みがある。文化が育つ、その街は凄く安定している。日本で優れた首長のいるところと、そうでないところでは差がものすごく出ると思う。優れた首長のところは浮上して素晴らしい街になるけれども、考えが古い首長のところは、沈没してどんどん劣化してやばいことになる。地域のリーダーシップが問われる時代になってきている。そこに再生エネルギーとかが噛んでくる。それらが総体として日本の安全保障に寄与していく。三菱総研の小宮山さんがプラチナ社会を提案している。高齢化が、人類の末路となるか、進化となるか。高齢者は足腰立てばすごいことだが、足腰立たずとも知恵を持っている。お年寄りが納税者としての可能性を持っている人がどんどん社会に参加する。再生医療やパワースーツもそうだし、老人のための娯楽の開発などで、輝く老人が生きる色々なコンテンツを創れば、内需拡大になり、課題解決先進国として、そのコンテンツを少子高齢化に悩む国に輸出できるだろう。そのような社会の設計、旗印があれば希望を持てるのではないか。

Q:日本は自然エネルギーの宝庫と考えるが、農業用地に太陽光発電機を設置すると農地法に引っかかるとか、水力発電をしようとするも治水用、農地用と発電用ダムで管轄が違いプロジェクトの障害になる。メディアの力で、省庁の既存権益を取り払うことが出来ないだろうか
A:記者クラブの記者は文部省付きとかがあって張り付いている。私はデイレクターなのでどこの省庁にも出入りできるが行政の縦割りが出来ていて、垣根を超えたデスカッッションがあまりできていない。マスコミの情報は、ある意味それと呼応して縦割りの傾向がある。
それに風穴をあけているのがネット社会であるがニュースの真偽の問題がある。マスコミでいうと記者クラブを廃止すれば記者は大変で自らネタを探さなければならなくなる。その時金太郎あめのような記事はなくなるが、生き残れる記者は一握りになる。

講師から受講者への質問

Q: EVが世界を変えているのは確かだが、トヨタは水素燃料を使用しエンジンを残すということは雇用を守るということか
A:個人的な意見だが、水素を使用するとの振り上げたこぶしをおろせなくなってしまい、雇用を守ることに持っていたように感じられる。
Q:燃料電池車は長距離走行にEVは短距離が有利とされているが
A:一般の乗用車は電気自動車が主となる可能性があると思う。そして、大型で走行ルートが決まっている場合は水素、というようにユーザニーズから棲み分けが進んでいくのではないか。
文責:立花賢一

講演資料:どうつくる持続可能な社会
posted by EVF セミナー at 00:00| セミナー紹介

2022年06月23日

EVFセミナー報告:カーボンニュートラルへの日本の道

演題:「カーボンニュートラルへの日本の道」
講師:橘川 武郎様
国際大学副学長・国際経営学研究科教授、東京大学・一橋大学名誉教授、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員、EVF顧問   
Web視聴開始日:2022年6月23日
聴講者数:56名

講師紹介

・1951年 和歌山県生まれ
・東京大学経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士 
・青山学院大学経営学部助教授、東京大学社会科学研究所教授、一橋大学大学院商学研究科教授、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授を経て、2020年より国際大学国際経営学研究科教授(現職)
・2021年より国際大学副学長(現職)。東京大学・一橋大学名誉教授
・元経営史学会会長。総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員(現職)。EVF顧問(現職)
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講演概要

・ウクライナ危機によりロシア産化石燃料の調達に支障をきたしているが、危機の本質は、日本のエネルギー自給率が低いことにあり、エネルギー自給率を高めていくこと、即ち再生可能エネルギーである太陽光発電や洋上風力発電により、ロシア産化石燃料に代替していくことが重要。温暖化対策が後退したのではとの見方もあるが、化石燃料の依存度を下げ、再生可能エネルギーへのシフトを急いでやらなければならないことが明らかになったととらえるべき。
・COP26で日本は、石炭火力発電の廃止時期を明示しなかったため評価されなかったが、2024年までに運転開始となる超々臨界圧石炭火力発電の経済耐用年数(15年)を考えると「2040年には石炭火力発電を停止」あるいは「2025年以降の石炭火力発電新設はない」と表明しても問題はなかったのではないか。
・2020.10.26菅首相所信表明演説「2050カーボンニュートラル」行われるまでは、CO2排出80%削減が目標で、カーボンニュートラル達成は難しいと考えられてきた。それを可能としたのは、2020.10.13JERAの「ゼロエミッション」宣言で公表されたカーボンフリー火力発電のコンセプト。具体的には石炭をアンモニアに、LNGを水素に置き換えることで、CO2排出ゼロの火力発電を実現するというもので、これにより2050年のカーボンニュートラル達成は、理論上可能となった。
・第6次エネルギー基本計画参考値として示された2050年の電源構成は、再生可能エネルギー50%〜60%、水素・アンモニア火力10%、水素・アンモニア以外のカーボンフリー(CCUS付)火力+原子力30〜40%。CCUS付き火力と原子力の内数は具体的に示されていないが、政治的な問題で原子力発電のリプレースが難しく2050年時点で稼働が見通せるのは18基。EVの普及により、2050年の電力総需要量は、現在の1兆kwから1.3〜1.5兆kwに増加すると見込まれており、それを踏まえて推計すると、原子力発電の割合は実質10%と考えられる。したがって、参考値として示された電源構成を再整理すると、再エネ50%〜60%、カーボンフリー火力30%〜40%(うち水素・アンモニア10%)、原子力10%となると考えられる。
・第6次計画において示された2030年度の電源ミックスの問題点は4つ。一点目は「再エネ36〜38%の実現可能性」。二点目は「原子力20〜22%の実現可能性」。三点目は「火力発電の縮小に伴うコストと原料安定調達の問題」。四点目は「総需要抑制で日本の産業の未来は大丈夫か」との問題。再エネと原子力で15%未達、火力発電で補わざるを得ないと思われ、未達部分の排出権購入で大変な国費流出を招くおそれがある。
・「2030GHG46%削減」や「2050カーボンニュートラル」が間違った目標ととらえるべきではなく、むしろグローバルスタンダードに近づいたと高く評価すべき。根本的な問題は第5次エネルギー基本計画(2018年)において、原子力・石炭の構成比が高すぎ、再エネ・LNGの比率が低すぎたことで、再エネシフトの取組みが遅れたことによるもの。
・「2050カーボンニュートラル」へ向けて、最大の課題は発電コストで、2021.5.13にRITEで、2050年の発電コスト(限界費用)を電源構成を変えて7通りシミュレーションしたところ、限界発電コストは22.4円/kWh〜53.4円/kWhとなり、いずれのシナリオも現行の13円/kWhを大きく上回る結果となった。
・解決策としては、イノベーションに加えて既存インフラの徹底的活用が鍵になると考えている。具体的には、日本が技術開発においてリードしているアンモニア火力発電やメタネーションを、既存の石炭火力発電やガス管を活用することで開発コストを抑えていく方策が考えられる。
・気候変動対策の主舞台は非OECD諸国で、石炭火力発電やガス管といったインフラも普及しているので、日本の技術をアジア諸国、新興国に展開し、日本のリーダーシップを発揮していくことにフィージビリティがあるものと考えている。
・カーボンニュートラルに向けた取組みメニューについては、次の三つの落とし穴(課題)がある。一つ目は、いずれもエネルギー供給サイドの取組みで、需要サイドでは何をすればよいかといったアプローチが欠けていること。二つ目は、メニューが電力と非電力に分けられており、セクターカップリング(熱電供給)の観点が欠落していること。三つ目は、このままのメニューだと、カーボンニュートラルの担い手は大企業に限定されることになる。大企業のサプライチェーンとして中小企業もカーボンニュートラルの重要な担い手となってくるが、中小企業や消費者の個々の取組みには限界があり、それを束ねる地域(コミュニティ)の重要性に目を向けていないこと。
・セクターカップリングについては、デンマークに先進事例があり、日本においても、温水道管は2050年までには整備可能なインフラと考えられるので、有望な取組みメニューとして可能性ありと考えられる。
・コミュニティベースのカーボンニュートラル挑戦のポイントとしては、VPP(Virtual Power Plant,仮想発電所)があげられる。地域に設置されている太陽光発電(創電)、EV(蓄電)や節電行動を、DX、AIによりビックデータ化し、ブロックチェーン技術によりプライバシーを保護する形で発電ネットワークを構築していくもの。カーボンニュートラルは、トップダウンで大企業がイノベーションにより取り組んでいくアプローチと、コミュニティ全体がボトムアップで作りこんでいくアプローチの両面がマッチしないと実現しない。
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T.  講演内容

1.ウクライナ危機と日本のエネルギー

・コロナ禍による需要の落込みにより化石燃料の国際価格は下落したが、コロナ感染の収束による需要の回復と、エネルギーの脱炭素化シフトによる化石燃料生産投資の縮退で、2020年度の後半から化石燃料の国際価格が上昇傾向にあったところ、ウクライナ危機によるロシア産の石炭・石油・天然ガスの供給縮減で、国際価格の上昇傾向に拍車がかかっている。
・日本のロシア依存度は、2021年で石炭11%、原油4%、天然ガス9%。欧州と比較すると依存度は低いが、エネルギー自給率も低いため、代替調達先を国外に求めなければならない。
・最も影響が大きいのは天然ガス。ロシアのサハリン2から、LNGを長期契約で、足下の国際相場よりも低い価格で安定的に調達できているが、代替調達はスポット調達となるため、調達価格が数倍に跳ね上がってしまう。したがってエネルギー安定調達の観点からは、サハリン2の権益は死守する必要があり、国が契約主体となっている原油輸入先のサハリン1についても、サハリン2に与える影響を考慮すると、サハリン2と同様にその権益を死守する必要がある。
・ウクライナ危機の本質は、エネルギー自給率が低いことにあり、エネルギー自給率を高めていくこと、即ち再生可能エネルギーである太陽光発電や洋上風力発電により、ロシア産化石燃料に代替していくことが本質であろうが、洋上風力については運転開始までのリードタイムはは8年で、足下の電力不足対策には間に合わない。
・したがって、既設の発電施設で代替していくしかなく、脱化石燃料の観点からは停止中の原子力発電の再稼働が望ましいが、政府の動きをみる限り、再稼働の時期を具体的に見通すことは難しく、現実的には石炭火力発電により当面つないでいくしかない。
・2024年までに5基の超々臨界圧石炭火力発電が運転開始となる予定で、石炭火力発電で当面の電力不足は凌いでいけると考えられるが、その場合でも、カーボンニュートラルの目標達成の観点から、石炭火力発電をいつまで継続していくのか、具体的には石炭からアンモニアへの燃料転換へのロードマップを明確に示していく必要がある。
・ウクライナ危機の最中である2022年4月4日に、人的被害の影響や対応策に関するIPCCの第6次評価報告書第3部会報告書が出された。マスコミではウクライナ危機の影響で地球温暖化対策への取組みが後退したとの報道も一部にあるが、本質的には、化石燃料の依存度を下げ、再生可能エネルギーへのシフトを急いでやらなければならないことが明らかになったととらえるべき。

2.COP26

・コロナ禍により2020年の開催は見送られたため、ホスト国であるイギリスは2年間かけて準備することができた。イギリスは、製造業主体の経済から金融・サービス主体の経済へ移行しているため、CO2排出権取引など炭素市場規制やカーボンニュートラルへの資金負担が重要テーマとなった。
・このような文脈から、石炭火力発電の将来像が一つの焦点となった。アンモニア混焼によるカーボンフリー火力へのシフトといった具体的な石炭火力の手仕舞いの仕方を提示したのは日本だけであるが、石炭火力の廃止時期を明示しなかったため、日本の対策はあまり評価されなかった。
・JERAによると、2030年にはアンモニア混焼率20%、2035年までには混焼率60%まで達成できるとされており、それ以上の混焼はNox発生の問題がありガスタービンしか使えなくなる。また2024年までに運転開始となる5基の超々臨界圧石炭火力発電の経済耐用年数を15年と考えると稼働は2039年まで。したがって「2040年には石炭火力発電を停止」あるいは「2025年以降の石炭火力発電新設はない」と表明しても問題はなかったのではと考えている。

3.第6次エネルギー基本計画

・2020.10.26菅首相所信表明演説「2050カーボンニュートラル」を受け、2021.10.22岸田内閣において、第6次エネルギー基本計画(以下「第6次計画」)が閣議決定された。
・菅首相の所信表明演説が行われるまでは、「2050CO2排出80%削減」が目標であった。水力発電は開発余力がなく、地熱発電は温泉業界との調整問題、バイオマスは林業の弱体化により原料調達が覚束ないといった課題があり、再生可能エネルギーの主体は、太陽光発電と風力発電とならざるを得ない。
・太陽光・風力は発電量が変動するため、余剰電力を蓄電しカバーする体制を構築しなければならないが、蓄電池のコストが高いことと原料となるレアアース・レアメタル資源を中国におさえられているため、蓄電体制の構築は難しく、再エネのバックアップを石炭・ガス火力発電に頼らざるを得ず、カーボンニュートラル達成は難しいと考えられてきた。
・それを可能としたのは、2020.10.13JERAの「ゼロエミッション」宣言で公表されたカーボンフリー火力発電のコンセプト。具体的には石炭をアンモニアに、LNGを水素に置き換えることで、CO2排出ゼロの火力発電を実現するというもので、これにより2050年のカーボンニュートラル達成は、理論上可能となった。
・第6次計画において、参考値として示された2050年の電源構成は、再生可能エネルギー50%〜60%、水素・アンモニア火力10%、水素・アンモニア以外のカーボンフリー(CCUS付)火力+原子力30〜40%。
・CCUS付き火力と原子力の内数は具体的に示されていないが、政治的な問題で原子力発電のリプレースが難しく2050年時点で稼働が見通せるのは18基。EVの普及により、2050年の電力総需要量は、現在の1兆kwから1.3〜1.5兆kwに増加すると見込まれており、それを踏まえて推計すると、原子力発電の割合は実質10%と考えられる。
・したがって、参考値として示された2050年の電源構成を再整理すると、再エネ50%〜60%、カーボンフリー火力30%〜40%(うち水素・アンモニア10%)、原子力10%となると考えられる。

4.新しい2030年の電源ミックスと問題点

・第6次計画において示された2030年度の電源ミックスは、@ゼロエミッション電源 59%(従来比+15%)、A火力発電 41%(同比▲15%)としている。@の内訳は、再生可能エネルギー 36〜38%(同比+14%)、原子力 20〜22%(同比±0)、水素・アンモニア 1%(新設)。Aの内訳は、LNG火力 20%(同比▲7%)、石炭火力 19%(同比▲7%)、石油火力 2%(同比▲1%)。また、熱源も含めた一次エネルギー総供給量(原油換算)は、4億3000万kl(同比▲12%)としている。
・上記のシナリオには4つの問題点がある、一点目は「再エネ36〜38%の実現可能性」。伸びしろがあるのは洋上風力だが、上述の通り運転開始までのリードタイムが8年あり、今年取り掛かっても2030年には間に合わないという計算になる。太陽光は、日本は既にG7の中で、国土面積あたりの設置率がトップといった状況で伸びしろに乏しい。そのように考えると現実的には30%程度が限界で、6〜8%未達になると思われる。
・二点目は「原子力20〜22%の実現可能性」。資源エネルギー庁は、原子力発電27基・稼働率80%との前提で試算している。東北大震災発生時(2011.3.11)の原子力発電は、既設54基・建設中3基(計57基)で、現状は、稼働中10基、許可獲得済みだが未稼働7基、申請中だが許可未獲得10基、未申請9基で、廃炉決定が21基。前提となる試算を踏まえると、許可未獲得のものも含めて申請した全てを稼働させることが必要との計算になるが、未稼働・許可未獲得の中には既に暗礁に乗り上げているものもあり、現実的には2030年時点での稼働は20基程度と考えられ、5〜7%未達になると思われる。
・再エネと原子力の未達部分15%は火力発電で補うことになるが、そうなると2030年のCO2排出46%削減目標も未達となり、足らない分は排出権購入を迫られることになる。現在、ヨーロッパのCO2価格は5000円/トン。京都議定書と異なりパリ協定では目標未達分の排出権購入の義務はなく購入単価は交渉次第であるが、少なくとも3000円/トンは求められるものと考えられ、大変な国費流出を招くことになる。
・三点目は「火力発電の縮小に伴うコストと原料安定調達の問題」。再エネは石炭火力よりも発電コストが高く、石炭火力を減らしすぎるとコスト負担に耐えきれなくなるといった問題がある。LNGについては、一次エネルギーミックスの割合で計算すると、2030年の必要量は5500万トン未満と計算されるが、昨年のLNG輸入量は7400万トン。こうした縮小シナリオを閣議決定し公表したことで、既に他国との間で買い負けが生じており、足下のエネルギー不足の状況下、安定調達に支障をきたしている。
・四点目は「総需要抑制で日本の産業の未来は大丈夫か」との問題。上述の通り2050年の総発電量は30〜50%増と見込まれている中で、2030年は逆に12%減としている。背景には、再エネ比率を高くしたことに加えて、従来の電源ミックスにおいて原子力発電30基稼働を前提としていたところ、新電源ミックスにおいては27基稼働と1割減らした中で電源構成割合は据え置いたため、分母となる総発電量を減らして帳尻を合わせたもの。省エネの深堀りだけでは発電量の抑制に限界があり、粗鋼生産量25%減、紙パ生産量19%減といった産業縮小のシナリオも盛り込まれている。
・「2030GHG46%削減」や「2050カーボンニュートラル」が間違った目標ととらえるべきではなく、むしろグローバルスタンダードに近づいたと高く評価すべき。根本的な問題は第5次エネルギー基本計画(2018年)において、原子力・石炭の構成比が高すぎ、再エネ・LNGの比率が低すぎたことで、再エネシフトの取組みが遅れたことによるもの。
・第5次計画の2030年の電源ミックスを、再エネ30%、原子力15%、LNG火力33%、石炭火力20%、石油火力2%、とすべきであったと考えている。そうしておけば、洋上風力発電の着工も前倒しで進められており、2030年には、3GW・4GWクラスの洋上風力の運転開始することも可能であり、再エネ36%の目標達成も十分見通せ、再エネ・原子力の15%未達は生じなかったのではと考えられる。

5.カーボンニュートラルへの道

・「2050カーボンニュートラル」へ向けて、電力分野においては、ゼロエミッション電源、具体的には、再生可能エネルギー・原子力に加え、新たな技術として、カーボンフリー火力(水素・アンモニア・CCUS)。非電力・熱利用分野においては、モビリティーの電化(EV)、燃料の脱炭素化、具体的には、FCV、水素還元製鉄、メタネーション(e-gas)、合成液体燃料(e-fuel)、バイオマス。炭素除去やCO2発生分のオフセットメニューとして、植林や空気中のCO2直接除去(DACCS)の取組みが進められている。
・最大の課題は発電コストで、2021.5.13にRITEで、2050年の発電コスト(限界費用)を電源構成を変えて7通りシミュレーションしたところ、限界発電コストは22.4円/kWh〜53.4円/kWhとなり、いずれのシナリオも現行の13円/kWhを大きく上回る結果となった。
・解決策としては、イノベーションに加えて既存インフラの徹底的活用が鍵になると考えている。具体的には、日本が技術開発においてリードしているアンモニア火力発電やメタネーションを、既存の石炭火力発電やガス管を活用することで開発コストを抑えていく方策が考えられる。
・気候変動対策の主舞台は非OECD諸国で、石炭火力発電やガス管といったインフラも普及しているので、日本の技術をアジア諸国、新興国に展開し、日本のリーダーシップを発揮していくことにフィージビリティがあるものと考えている。その他、Sorghum、ブラックペレットといったバイオマスの新技術にも注目している。

6.3つの落とし穴(課題)

・上記5.で掲げたメニューについては、次の三つの落とし穴(課題)がある。一つ目は、いずれもエネルギー供給サイドの取組みで、需要サイドでは何をすればよいかといったアプローチが欠けていること。二つ目は、メニューが電力と非電力に分けられており、セクターカップリング(熱電供給)の観点が欠落していること。三つ目は、このままのメニューだと、カーボンニュートラルの担い手は大企業に限定されることになる。大企業のサプライチェーンとして中小企業もカーボンニュートラルの重要な担い手となってくるが、中小企業や消費者の個々の取組みには限界があり、それを束ねる地域(コミュニティ)の重要性に目を向けていないこと。
・セクターカップリングの先進事例として、デンマークにおいては、風力やバイオマスによる再エネ発電に余剰が生じたとき、余剰電力で温水を作り貯蔵し、温水パイプラインで熱源として供給している。課題は、エネルギー供給の主要な担い手であるガス事業者との調整と、温水パイプラインのインフラ整備であるが、デンマークにおいては、ガス会社が洋上風力発電メーカーに業態転換をすることなどで調整。温水パイプラインは水道管と同等の設備で、日本においても、2050年までには整備可能なインフラと考えられるので、有望な取組みメニューとして可能性ありと考えられる。
・コミュニティベースのカーボンニュートラル挑戦のポイントとしては、VPP(Virtual Power Plant,仮想発電所)があげられる。地域に設置されている太陽光発電(創電)、EV(蓄電)や、節電行動を、DX、AIによりビックデータ化し、ブロックチェーン技術によりプライバシーを保護する形で発電ネットワークを構築していくもの。カーボンニュートラルは、トップダウンで大企業がイノベーションにより取り組んでいくアプローチと、コミュニティ全体がボトムアップで作りこんでいくアプローチの両面がマッチしないと実現しない。

7. 主な質疑応答

Q:グレーアンモニアではカーボンフリー火力とならないので、グリーンもしくはブルーアンモニアが必要だが調達は可能か?
A:現在、日本ではアンモニアを、肥料原料として100万トン使用。石炭火力発電に20%混焼開始で300万トン、100%使用だと3000万トン必要と試算されている。セメント業界や石油化学業界もアンモニア活用の計画があり、それを加えると4000万トン以上必要と計算される。世界では2億トン生産されており量的には充足しているが、現状ほとんどがグレーアンモニア。グリーンアンモニア、CCS付きブルーアンモニアの主要な調達先は、オーストラリア、北米、中東になると考えられるが、いずれにしてもそんなに簡単ではない。

Q:イノベーションのアイデアは、どこに繋いでいくと実現可能性が高まるか?
A:政府のクリーンエネルギー戦略は、20兆円の資金を国費で造成し、130兆円の民間投資を呼び込み、合わせて150兆円の投資でカーボンニュートラルを実現していこうとするもの。課題は、政府の資金が民間投資の呼び水として有効に機能する仕掛けをどのように構築していくかということ。過去の同様の仕組みをみると、結果として散発的でバラ播きに終わってしまったものもあり、様々な投資・事業計画の有効性を見極める目利きが必要であり、目利きを担える技術屋の人材を揃えられるかどうかが大きなポイントとなる。

Q:需要サイドのアプローチについて、種々の取組みを普及・実行、次世代につなげていくためのポイントは?
A:いくつかあると思うが、一つはEVで、モビリティーというよりは電気ネットワークの要と位置付けられる。そのためにはある程度の台数を普及させることが必要。二つ目はスマートメーターから集まってくる様々なデータをDX、AIでビックデータ化し地域最適化を図っていくことだが、現状は、電力メーカーやガス会社がデータを囲い込んでいるため、自治体が関与し仕組みを構築していく必要がある。
その場合、GAFAのシステムを中心に据えると、個人データの囲い込みの問題が生ずるので、自治体自身がブロックチェーンによるシステムを構築する必要がある。

Q:電力ゼロエミッションについて、カーボンフリー燃料となるアンモニア・水素は自然界に存在しないので製造しなければならないが、その製造についてもゼロエミッションが前提との理解でよいか?
A:アンモニア・水素の利点は燃焼によるCO2排出ゼロという点にあるが、その製造に手間ひまがかかるため高コスト燃料となる。したがって製造コストを下げる技術革新が必要。アンモニアは、百年来ハーバーボッシュ法で製造しているがCO2を多量に排出するため、製造法の革新が待たれる。水素は、水を電気分解し製造しているが、製造時に使用する電気を再エネ余剰電力でということになると電解稼働率が低下しコスト高となってしまう。水素製造イノベーションの事例として、富士吉田市のハイドロジェンテクノロジーという会社で、テラヘルツ鉱石を触媒としてアルミニュウムと水を反応させることで水素を発生させる技術が確立し、実際に同社製造の水素100%専焼発電が運転開始している。この技術は、水素の発生量を柔軟に調整することが可能で、工場オンサイトのメタネーションに有効活用できる。いずれにしても更なる技術革新、イノベーションが必要。

Q:原子力発電をどのように位置付けるかが大きなポイントと考えるが、原子力発電が無いと電力確保が大変な状況になるとの理解促進をどのように図っていけばよいか?
A:国民全てが原子力発電反対という訳ではなく、高齢者と女性の反対割合は高いが、若い世代は原子力発電が必要と考えている人も多い。広く国民と議論をしていけば必要性の理解も進むと思うが、現下の政治状況の中で国民との議論が進んでいないのが実情。

Q:原子力発電の安全性について、福島の事故以降、安全基準を見直し安全性が向上していると思うが、これらの安全基準と個々の原発の安全性のレベルについて公開していけば、再稼働について理解が得られるのではないか?
A:原発は基本的に危険なものであり、知見されている危険性が最小化できていれば稼働許可を出してよいと考える。日本においては、原発に対する最大のリスクは地震・津波・火山と考えているが、ウクライナ戦争で原発が軍事標的となるといった、世界中で誰も想定していなかった新たなリスクが生じた。しかも原発本体ではなく送電線が攻撃対象となるとの事象が発生しており防ぎようがない。このような新たなリスクが知見された場合、原発の安全基準をゼロベースに戻して見直す必要があると考えられるし、戦時下においては攻撃対象となると考えると、長期的に安定電源として位置付けるのは困難ではないかといった本質的な問題に関わってくる。

Q:LNGについては、水素、アンモニアへの原料向けニーズも考慮すると、わが国の潜在的な必要量は2050年においても減らないと考えてよいか?
A:減らないし、場合によっては増えることも考えられる。

Q:日本の反原発感情を和らげ、世論変化の可能性が見えてくるタイミングはいつ頃と見通せるか?
A:政治家の覚悟が固まらない限り(実際には覚悟は固まらないので)、そのようなタイミングは来ないと思う。
文責:伊藤博通


講演資料:カーボンニュートラルへの日本の道
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2022年05月26日

EVFセミナー報告:コロナ・ウクライナ危機と金融政策

演 題 :コロナ・ウクライナ危機と金融政策−中央銀行は何と闘おうとしているのか
講 師 :田中 隆之先生 専修大学経済学部教授
    
Web視聴開始日:2022年5月26日
聴講者数:58名

講師紹介:
1981年 東京大学経済学部卒業
日本長期信用銀行入行。産業調査部、調査部(ニューヨーク市駐在エコノミスト)、市場企画部マーケットエコノミストを経て、長銀総合研究所主任研究員、長銀証券投資戦略室長チーフエコノミスト等歴任
2001年 専修大学経済学部教授(現職)
2012〜13年ロンドン大学(SOAS)客員研究員。専攻は金融政策、日本経済論
著書
『現代日本経済 バブルとポスト・バブルの軌跡』(日本評論社、2002年)
『「失われた十五年」と金融政策』(日本経済新聞出版社、2008年)
『金融危機にどう立ち向かうか』(ちくま新書、2009年)
『総合商社の研究』(東洋経済新報社、2012年)
『アメリカ連保準備制度(FRS)の金融政策』(金融財政事情研究会、2014年)
『総合商社』(祥伝社新書、2017年)など。


講演内容
はじめに 基本的なこと
・現在の日本では物価上昇が見られる。米国では30年ぶりのインフレ。そして20年ぶりの円安水準だが、背景には日米の金融政策の相違から来る金利差の拡大がある。
・金融政策には総需要調整策と金融システム安定化策の二つがある。今日の話題は前者。

1.非伝統的金融施策とは何か?
・通常の金融政策は、政策金利(短期)を公開市場操作で誘導して引き下げ、中長期の金利を低下させることで、設備投資増などを通じて景気拡大を図ろうとする。
・だが、政策金利がゼロに到達するとそれ以上の金融緩和ができないので、それ以外の手段で緩和効果を得ようとするのが非伝統的金融政策である。2008年の世界金融危機以降に米欧の主要国で登場した(ただし日本では一足早く1999年に導入された)。
・非伝統的金融政策手段のメニューは5つある
A 大量資金供給  〜闇雲に資金供給
B 大量資産購入  〜国債・その他の金融資産を買う
C フォワードガイダンス  〜期待に働きかける
D 相対的貸出資金供給  〜銀行の貸出増加を誘導する
E マイナス金利政策   〜強引に政策金利をマイナスにする
中心に位置するのは、BとCである。

2.変わりつつある中央銀行のマンデート(使命)
・2008年の世界金融危機までは物価の安定、完全雇用、および国際収支の均衡の三つが目的だったが、それ以降は「物価の安定」の意味がインフレ抑制からデフレ阻止に180度転換した。金融緩和で物価の安定も完全雇用もともに達成できる状況だが、それを追求しすぎると金融システムの安定と財政の規律付けが脅かされるようになってきている。

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・中央銀行のマンデート(使命)についても、気候変動への対応や格差問題への対応といった新しい役割を与えるべきと言う議論が出てきた。気候変動への対応とは具体的には気候変動対策を行う企業への民間金融機関・金融市場からの資金供給を、中央銀行が後押し。日銀による気候変動対応支援の資金供給をグリーンオペと呼んでいるが、問題点も多い。

3.泥沼から抜け出せない日銀の金融緩和政策
・2013年4月アベノミクスの一環として、2%の物価目標を2年で達成するとして、長期金利の低下による景気刺激を狙った量的・質的金融緩和を実施。
・目標を達成できず2016年1月にマイナス金利付き、さらに9月に長短金利操作付きの量的・質的金融緩和に変更。
・資産購入からの「正常化」に踏み出せないままコロナ危機を迎え、2020年3月「上限を設けない」資産購入へ。
・この結果、日銀のバランスシートでは極端な長期国債増。そして政府の債務残高増加。どちらも主要国では対GDP比で随一の規模。

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・株高・円安は引き起こせたが、家計・企業の期待は動かず、2%物価目標は未達。
・問題点は、2% 物価目標を降ろせないために大量資産購入の「出口」が見えないこと。このまま政府債務残高が増えると、市場が政府はインフレで債務削減を行うと読んだ時点で、長期金利上昇(国債暴落)、政府債務残高拡大、為替円安、インフレ進行の可能性がある。
・根本的な問題として、人口減少傾向が続く日本経済では将来、需要が増えないので投資意欲が沸かないという背景がある。新規需要を生むイノベーション、生産性の上昇が重要。
このまま政府債務残高が増えると、市場が政府はインフレで債務削減を行うと読んだ時点で、長期金利上昇(国債暴落)、政府債務残高拡大、為替円安、インフレが進行の可能性がある。
・根本的な問題として、人口減少傾向が続く日本経済では将来、需要が増えないので投資意欲が沸かないという背景がある。新規需要を生むイノベーション、生産性の上昇が重要。
・物価上昇により生産性向上・実質成長率上昇が実現するはずはなく、そもそも実質的な成長の結果として、賃金、物価が上昇するというのがノーマルな姿。

W.コロナ、ウクライナ危機とインフレ抑制
・今回の米欧のインフレは供給制約の側面が強いので、金融引き締めでは対処できない。とはいえ、予想インフレ率が高いところにアンカー(つなぎ留め)されないよう強い引き締め姿勢を見せる必要。
・FRBはインフレ率23%台に下げるため、本年、翌23年と利上げの予定。強い円安圧力は続く。
・政府・日銀はデフレ脱却を宣言し、2%物価目標を曖昧化(長期的な目標に棚上げ)して、資産購入からの撤退による財政ファンアンス懸念払拭が重要。
・だが、黒田総裁在任中には政策の変化はないというのが大方の見方。来年3月の新総裁誕生後、政策枠組みの変更があるかもしれない。

Q&A
Q1:銀行の業績が悪いのは低金利であるにもかかわらず借りるところがないからなのか?また金利に関しては期待にかけるという方法もあるとのことだが心理戦争なのか?
A1:1つには、低金利下で貸出金利と預金金利の利ザヤが縮小して、銀行がもうからない。つまり、預金金利はまさかマイナスにする(預金者から金をとる)わけにはいかないのでゼロ寸前までしか低下しないが、貸出金利はそれに迫るぐらい下がっている。また、低金利政策で企業に投資を促そうにも、日本市場は少子高齢化で先細り。投資の意欲がわかないというのが根本問題。
心理戦争といえるかどうかわからないが、金融市場参加者の期待に働きかけて長期金利の低下を促すという方法は「金利の期間構造に関する期待仮説」に沿ったもので、実際に作用して成功している面がある。ただし、家計や市場の期待に働きかけてインフレ期待を引き上げることには、成功していないといえる。

Q2:地銀が国債の低金利で苦しんで外債に資金をシフトしたが危険な資産のうまい処分方法は?また現代貨幣理論(MMT理論)とは?
A2:これと言ってうまい解決方法はなく、リスク管理を総合的にきちっとうまく対処していくしかない。MMTは自国通貨を発行できる国がデフォルトを起こすはずがないので、インフレが到来するまで財政拡張すべきだ、というもの。だが、これは普通の経済学でも言える当たり前の話。通常の経済学と違うのは、貨幣は納税手段として政府が認めているから貨幣たりえている、という彼らの貨幣観であり、それゆえ課税は通貨価値安定のためのものであって、インフレが来たら課税すればよい、という。だが、増税は速やかに決定できないのでインフレ対策として現実的でない。また、インフレが来るまで大丈夫、ではそもそも政策論にならない。なお、政府債務残高を対GDP比どこまで増やせるかは経済理論からは決まらず、市場参加者がどう判断するか、市場がどこで国債を売るかにかかっている。MMTよりもう少しまともな財政赤字容認論もあり、例えばO・ブランシャールは長期金利が名目成長率を下回る現状では、必ずしも基礎的財政収支を均衡させなくても政府債務残高対GDP比は発散しない、と述べる。確かにそうだが、日本の場合、計算してみると基礎的財政赤字は対GDP比2%程度までしか容認できず、今年は6.2%。相当な歳出削減または増税を本気でやらないと、政府債務残高は発散してしまう。

Q3:過去にFRBが金利を上げても円安にはならなかったが、今回円安になっているのは何故か?根本的になにが異なるのか?またこの基調が続くとするとドルが140円、150円になっていくのか?
A3:確かに日米の金利差が今回のように開いたことは過去にもあって、そのときにはこれほど円安にはなっていない。やや違ってきているのは、貿易収支が赤字になったり、少し前までは「有事の円買い」があったがその要素が薄れていることなど。怖いのは、「日本売り」で、円安、長期金利上昇という形になり、日銀も長期金利上昇を抑えられないということになった時で、そのときは140円、150円に進む。ただ、現段階では、為替市場参加者がそこまで行くと見ている、とは思えない。

Q4:金融政策で雇用は維持改善したが一人当たりの賃金は低下とあり。結局全体がより等しく貧しくなったということ。このような事を回避する闘いを金融政策及び中央銀行に望むのは的外れか。
A4:1 基本的には、金融政策(総需要調整策としての狭義の金融政策)にできるのは、景気循環を均すこと、つまり景気が悪い時に底上げし、良すぎるとインフレが来るので冷やしてやる、ということだけ。金融政策によって、経済成長率のトレンド(潜在成長率)を引き上げることはできない。
2 質問の中にある「雇用は維持改善したが一人当たり賃金は低下」というのは、図表20を指して言っておられるのかと推察。このグラフが示すのは、日銀が異次元緩和を行った2013年以降「雇用者数は増加したが、一人当たり賃金は横ばいに過ぎない」という事実。雇用者数が増加したのは、女性・高齢者が労働力化するという社会・雇用環境の大きな変化があったから(金融政策は緩和的な金融環境を整えて、それを下支えしたにすぎない)。ただし、女性・高齢者は非正規労働者として低賃金での雇用が多かったため、全体(一人当たり)の賃金は大きくは伸びず。加えて、正規雇用でも賃金の上昇が抑えられたことも、賃金が上がらない原因の一つ。
3 最近よく言われるのは、賃金が上がらないのが日本の低成長の原因であり、賃金を上げればそれが消費に回り、景気が良くなって低成長から脱却できる、という議論。安倍政権以来、政府は経団連に再三賃上げを要求してきた。しかし、賃金は、経済社会全体で生産した付加価値(GDP)の中から、その一部分として家計(労働者)に分配される。したがって、成長率が低いから賃金の上昇率が低いのであって、賃金を上げるだけで成長率が上がる、というロジックは成り立たない。
要は、イノベーションによって生産性を向上させ、同時に新規需要の開拓が進まないと、成長率は上がらない。そこで、ここ20年来、イノベーションの促進が必要だと言われ、最近は、その要は企業や政府の人的投資だ、ということが言われているが、なかなか進んでいない。
イノベーション促進策の一環として、最低賃金引上げによって中小企業に効率的な経営や技術開発を迫るべきだ、という議論も行われており、これはそれなりにロジカルな側面を持っている。つまり、生産性が向上すれば、賃上げができるわけで、それができない企業には退出を迫ることで、日本経済全体の生産性を上げて行こうという議論。賃上げをしてもやっていけるような生産性の向上、そのための研究開発投資、人的投資の促進が必要、ということになる。もっとも、言うは易しで、なかなか進まないのが実情。

Q5:日本経済がパッとしない或は悪い円安になりかねない原因は、貿易立国の後に来るエネルギーの地産地消による国富の流出を止めエネルギーセキュリティを高めるという明確な工程を金融も政治も技術も学術もが示せていない為ではないか?
A5:1 国産エネルギーの開発が必要で、そのための明確な工程を示すべきだ、というのは全くその通り。それによりエネルギー輸入が減れば国際収支の黒字が膨らみGDP需要構成項目の純輸出が伸びるので、日本経済の成長率を押し上げるのも確か。
2 ただ、それだけがGDP成長率の低さの原因ではないし(質問1への回答参照)、増してここへ来ての円安の原因とはいえないと思われる。今次の円安は、やはり日米金利差(両国中銀の金融政策の相違に起因)を市場が材料にしたところが大きく、また長期的な円安の傾向は、日本企業が円高でもやっていける国際競争力のある財・サービスを(バブル期以降)開発できていない証左といえる。過度の円高恐怖症の下、日本企業は円安になると手を抜いてイノベーションの努力を怠ってきたように見える。高度成長期・安定成長期の日本企業は、果敢にこれに挑戦していた、というイメージがあるにもかかわらず。
3 蛇足だが、日本の低成長(したがって1人あたり賃金上昇率の低さ)は、先に質問1への回答にも書いた通り、イノベーション不足によるところも大きいが、基本的には少子高齢化による人口減少のスピードが速いことがもっと大きな要因。@将来人口が増えない(需要が増えない)ことがわかっているので、企業が設備投資を手控えるという需要面と、A高齢化で生産年齢人口が(総人口以上に)減っているので、労働の投入が減るという供給面の双方から、成長率が低くなる度合いが他の先進国よりも大きく出てしまう。したがって、少子化対策が必要である、ということになるが、これも思うに任せないのが実情。

Q6:財政法第5条では「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。」とあるが、現在の政府の手法はこの精神に反すると言うことか。
A6:1 そのように言ってよいと思う。現在日銀が国債をどんどん買っているのは、市場(すでに国債を持っている銀行や証券会社)から。財政法5条は、「引き受け」すなわち、政府の発行した国債を直接日銀が買うことを禁じているが、市場から買うことを禁じてはいない。そこでこれをどんどんやっているわけだが、これは合法だが、財政法5条の精神に全く反する。
2 安倍首相は、先日(2022.5.9)「日銀は政府の子会社なので満期が来たら、返さないで何回借り換えてもかまわない。心配する必要はない」と発言したと伝えられているが、日銀が抱えた国債は日銀のバランスシート(B/S)を通じて、日銀の準備預金に変換されこれが市中銀行に保有されている(日銀B/Sの資産サイドに国債が、負債サイドに同額の準備預金が記帳される)。
現在は、この準備預金の多くの部分に支払う金利は0.1%の金利で済んでいるが、将来金利を引き上げなければならない局面になると(たとえばインフレ抑制のため)、この金利も上げなければならなくなる。すると、日銀は国債から得る金利よりも準備預金への利払いの方が多くなり、欠損が出る。これは結局国庫の負担になるので、政府債務残高は雪だるま式に増えていく。国債が売られ金利はさらに上昇する、というスパイラルに陥れば政府は容易に資金調達できなくなる(この状態を「財政破綻」と呼ぶ)。「心配する必要はない」というわけには、とてもいかない。

Q7:ロシア中央銀行のパフォーマンスの評価と今後の見通しをお伺いしたい。
A7:1 私はロシア中銀について専門に研究したことがないので、新興国の中銀として、他との比較におけるこれまでのパフォーマンスがどうか、という評価をすることはできないが、ロシア中銀も多くの新興国の中銀同様に、市場指向型の金融政策の枠組みを徐々に整えてきていたことは間違いない。
2 ウクライナ侵攻後のロシア中銀の状況をお尋ねならば、インフレ率が急上昇(2021年初の5%程度→22年初8%→侵攻後4月18%。ロシア中銀のインフレ目標は4%)しルーブルも急落(対ドルで侵攻前の約4割強下落)したので、これに対する措置を講じている。第1に、政策金利を侵攻直前の9.5%から20.0%に引き上げた。第2に、@ロシア企業に外貨で得た収益の8割をルーブルに両替させる、A外貨預金に引き出しの上限を設ける、などの規制を行った。
その結果、4月の時点でルーブルはほぼ侵攻前の水準に戻り、インフレ率もやや頭打ちになったので、政策金利を17.0%に引き下げた。さらに5/26には11.0%まで引き下げており、ルーブル防衛はとりあえず成功しているように見える。
今後も、上記のような規制を中心にルーブルの下落とインフレ高進を抑えていくものと思われ、市場指向型の金融政策枠組みに戻ることは難しくなった。

以上
報告担当(文責):桑原 敏行

講演資料:コロナ・ウクライナ危機と金融政策
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2022年04月28日

EVFセミナー報告:日本の品質管理と取組んだ課題(統計的方法の適用(TC69)等)

演題:日本の品質管理と取組んだ課題(統計的方法の適用(TC69)等)
講師:尾島 善一先生
 東京理科大名誉教授  
Web視聴開始日:2022年4月28日(木) 

講師略歴 
1976年3月 東京大学工学部 卒業
1983年3月 東京大学工学博士
1984年4月 東京大学工学部 助手 (1987年3月まで)
1987年4月 東京理科大学 専任講師 (理工学部経営工学科) 助教授、教授
2017年3月 定年退職、名誉教授 現在に至る

要約:

日本の品質管理の父と言われる石川馨東京大学名誉教授の東大における最後の学部卒業生で、東大で工学博士になられた尾島善一東京理科大名誉教授より、日本の品質管理に関する話題から先生が品質管理に関連して取り組まれた課題である「統計的方法の適用(TC69)」等に関して、講演を頂いた。 
日本の品質管理に関しては、先生の個人的な経験に基づいて感じられている品質管理関連の一般用語に関して感想を交えて、主として問題点を取り上げ、解説して下さった。統計的方法の適用に関しては、先生がISOとの関係で担当を始められた経緯からTC69という専門委員会での活動の状況などに関してご説明を頂いた。両者とも内容が豊富で話題が多岐に渡り、聴講者にとって難解な箇所もあったが、通常はなかなか知ることが難しい日本の品質管理の現状と問題点を知る機会となり、有用な講演であった。

講演概要:

品質管理は、若い方でご存じのない方もいるかと思いますが、昔流行ったQC、IE、OR等の一つと考えて下さい。これらは1970年頃から大学でも始まり、経営工学科とか管理工学科とかの学科ができた一分野となります。
先ず、IE(Industrial Engineering)について説明しますと、自動車のT型フォード製造で利用されたような工程を分割して専門業務でなくし、あまり技能のない工員でも組み立てられるような単純作業に分割し、スピードを上げて簡単に作れるようにしたというものです。作業研究、時間研究というような項目に分けて検討し、非常に効率を上げてコストダウンに貢献したものです。IEに関しては生産性本部や日本能率協会が活動していて、ムリ、ムダ、ムラを無くそうとしていました。
次にOR(Operations Research)とは軍事研究的な、戦略研究と言って、問題を数学モデルで表現して最適化するということが中心で、いまとなっては、これが世界をダメにしているのではと考えています。最適化するという発想に無理があり、目的評価関数を最大(又は最小)にするという考えですが、実際にはかなりな問題と思っている。
そして品質管理はQC(Quality Control)として日本に入って来まして、QCは第2次大戦中は軍事機密であった経緯がありますが、中身は抜取検査と管理図に整理されます。抜取検査ではDodge, Romingの二人が有名で、彼らの抜取検査表が今でも残っています。管理図のShewhartはもっとすごく有名でウィキペディアで引いてもすぐに出てくると言う感じです。これらの人達はBell研究所(ATT(American Telephone &Telegraph; 電信電話会社)の研究所)の所属で、ATTの製造担当子会社のWestern Electronic社で作る製品品質を如何に上げるかということで考えられたものです。Shewhartは管理図を作り、製品は電話機とかで、抜取検査は調達先をどこかと定めなくても、納品先のロットの品質を保証するというアイデアです。戦後、占領軍がこの考えを導入したという経緯があり、通信網の確保のため電話の必要性が高かったので、凄い勢いで日本で訓練され広まった。電電公社やNTTが抜き取り検査の技術を持っていて、Western Electronic社の子会社であるNECが電話を製造していたという歴史がある。
これらの抜取検査、管理図ともに統計学を利用しているので、SQC(Statical Quality Control) と呼ばれており、データ収集、データ解析なども品質管理に含まれている。
品質管理では抜取検査が重要で、ロットの良・不良を判定するもので、不良(不適合)率を与えて評価している。日本の昔なりの細かな管理手法に対してそれを打破していく転換点になったと思う。
管理図(control chart)は、特性値を縦軸に、時間(時刻)を横軸にして打点し、それを結んだ折れ線グラフだけのものですが、ここで革命的に凄いのは管理限界線を入れて、中心線の上下3シグマにしたということです。これによって特性値は平均μ、分散(σの2乗)の正規分布に従うとする時、この中心線の上下3シグマに入る確率は99.7%ということで「ほとんどすべて」がカバーされるということです。この時、特性値が厳密に正規分布かどうかは全然問題にしておらず、良く使われるのが正規分布で、正規分布については色々な確率計算がされているというのがポイントです。又、3シグマという限界線が特性値のばらつきだけに依存していて、それ以外を考えていないというのが結構重要なところです。
日本的な品質管理を紹介しますと、PDCAがあります。これは日本で改変されたものです。元はIEで広く使われたplan-do-seeですが、それをとある日本の品質管理関係者が「see(見てる)だけでだめだ、それよりチェック、アクションしないといけない、更にぐるぐる回すPDCAサークルにした方が良い」と言ったことに発しています。国際化の中では、ActionがActに、サークルがcycleに変わりました。
国内ではQCサークルという活動が非常に受けてヒットしたという経緯があります。又、(優れた品質管理の実行者に授与する)デミング賞も品質管理普及に効果がありました。これは日科技連の役員の方の思い付きでした。(これはアメリカに逆輸入されてマルコム・ボルドリッジ賞となりましたが、日本が先んじたものです。) 後は、品質月間という活動も効果がありました。これは日本では毎年10月に工場全体で品質向上に努めることを行い成果を収めていて、今でも続いています。
そして国際的に残っているのは石川ダイアグラムで、これは特性要因図として確かに残っています。(これも日本から逆輸入) 又、QC七つ道具という整理(特性要因図、管理図、ヒストグラム等を7つ挙げて)をされた方もいましたが、これはこじつけのように思われて個人的には好きではありませんでした。
コマツ製作所で新製品開発が上手く行ったのはⒶ(マルエー)という名前でやったのが良くて、他の会社でもⒶと名前を付けてやると上手く行く。ところがⒷ(マルビー)と付けるとダメで大抵失敗する。その理由は(開発に)言われていること・期待されている以上に頑張って色々違うことを盛り込んで製品開発をしていると言う事情があって、Ⓑになると余計なエネルギーをかけて開発に取り組めるかとなって、大抵こけると言うことがありました。
次に取り組んだ課題についてお話しますと、
国際標準化機構(ISO;International Organization for Standardization)があって、これに日本国内で対応していたのが日本規格協会の国際委員会で、その初代委員長が石川馨先生で、2代目の奥野忠一先生の後、1990年頃に尾島が引き継いだ。TC69はISOの69番目の専門委員会(Technical committee)で、「統計的方法の適用」をテーマとして、ISOの世界では統計の主担当委員会となっています。これを引き継いだのは、その昔石川先生から久米均先生(尾島先生の指導教官)に「尾島にその分科委員会の議事録担当の委員をさせよ」と話があったことから始まって今に至っている。
TC69には全体委員会の他に6つのSC(Sub Committee分科委員会)があって、それぞれを色々な国が幹事国を担当し、色々な経緯があった。SC6「測定方法と結果」は西ドイツ→ドイツが担当で当初順調であったが、トラブルがあって辞退することになり、日本が幹事国を、尾島がChairmanを引き受けた。
この頃ISOの中ではTC176「品質」が設立され、久米先生のグループは全員そちらの支援に入って、尾島だけがTC69に残ったという経緯もあります。
そして、日本は上手く行かなかったが、世界では認証・認定がビジネスとして広がって、イギリスやアメリカ、ドイツ等はビルを建てたり、増築をしていた時期があります。
又、1995年にJIS規格の国際整合化が行われ、JIS Z 8101「品質管理用語」をISO3534「統計―用語および記号」に合わせて統計用語にした経緯もあります。これは色々と反感を買った面がありました。
最近のTC69では色々な動きが出て、SCからワーキンググループ(WG)への変更が行われたり、解散したりやCombiner(主査)の変更もあったり、任期の勝手な変更で、活動の低下が起こっている。 一方、中国が意欲を見せていて、シックスシグマのWGをSCにするのに中国が手を挙げてSC7になったということもあります。日本は田口メソッドと赤尾先生の品質機能展開を繋いで、SC8を作りました。
この他に、関心時として、「ロシアの侵攻」、「COVID19」,「地球温暖化」、「AI信仰の蔓延」、「数値化の信仰」、「ORにおける最適化」、「最適解に頑健性はあるか」等についてもご講演頂きました。気になさっておられることは、「最近の日本の品質はどんどん悪くなっていると思う。」ということでした。

質疑応答

(1)質問: 尾島先生、講義内容がてんこ盛りで、色々なところまで及んでご講演頂きありがとうございます。2点ばかり教えて下さい。一つは「日科技連という団体がご説明の中で出てきましたが、この日科技連が、日本の中で品質管理を扱っている学会・団体というに当たるのか、どういうように活動されているのかを教えて頂きたい」と、もう一つが「コマツ製作所の話の中で、ⒶとⒷがあって、Ⓐが上手く行って、Ⓑが上手く行かなかったというお話でしたが、それが皆さんが品質管理を使えた所に当たるのではないかと思いましたので、ⒶとⒷの違いを教えて頂きたい」ということです。
回答: 日科技連というのは日本科学技術連盟と言って、会員というのが特になくて(私も入っていません)セミナーをやったり、デミング賞委員会を運営したりイベントをしたりする団体で、セミナー団体(品質管理ベーシックコース、部課長セミナーとか)でもあります。日産自動車に行ったのは、日科技連経由ではなく、久米先生に行けと言われて行きました。
コマツ製作所の件は、新製品開発を品質管理を使ってやろうということで、Ⓐと呼ばれていた新製品を開発するということでした。それは不良も少なくて順調に伸びて成功したものです。それはトップクオリティのものという意味ではなく、単なる特定の名称(車で言うなら特定の車名とか車番号)です。(成功しそうな車ということではなく)「(これから)さあ頑張ってやるぞ」、「一つ目だからⒶと呼ぶ」と言うニュアンスと理解下さい。そして、その同じ手を使って次の車をやろうとする時、Ⓑと呼んで取り組むと、大抵こけるということでした(ので、このように表現していると言うことです)。

(2)質問: 今日は非常に面白い話を楽しく聞かせて頂き、ありがとうございました。私は技術者の端くれで、メーカーにいたものですから、品質管理に関してはお客様から色々言われ、図面の管理からその他で苦労したという記憶があり、今日の講演では懐かしい言葉が沢山ありました。ここから質問なのですが、お話の後半で、地球温暖化の話がありましたが、この地球温暖化は品質管理の最たる問題ではないだろうかと思っています。色々な品質管理手法があって地球温暖化の問題に関してどのデータがどう悪さしているかは大体見えている訳ですから、それをこうすれば処理できる・抑えることができるとか、又そういう風に捉えれば、品質管理そのものをもっと地球温暖化問題の解決に応用できるのじゃないかと感じますが、そういう観点で論じられたことはないように今日の先生の話を聞いて初めてそうじゃないかと思ったのですが、その辺りは如何でしょうか?
回答: 難しいですね。そもそも世の中で出回っている技術は結構その場凌ぎ的なものが多いじゃないですか?排出されるCO2を海の中に閉じ込めちゃおうとか、何か発想が貧弱なように感じます。仕様を減らさないとだめじゃないかと思います。そういう意味で、人間の文明が終わりを迎える時期が少し早くなるのか、遅くなるのかの違いなのかと、ちょっと思ったりしています。

(3)質問:品質管理の対象となるのは、ベクトル量か、スカラー量かというお話があったのですが、色々なところの生産工程においても、品質管理は感覚的には扱えず、何か定量化された尺度・数字がないと品質管理は成り立たないと思いますが、これはあらゆる分野においてそういう意味で定量化された尺度をもって管理されているのかどうか?気持ちだけで品質管理をやれやれと言っている会社も多いような気もするのですが?
回答: 尺度が良い値か悪い値か(大きい、小さい)という時はそれってスカラー化されていますから、必ずどこか足りないです。本来ベクトル量なのに、何でもスカラー化する時にどんな情報が落ちているかを考えないといけないということです。

(4)質問:それは、こういう風に考えると欠点(ベクトル量がスカラー化される時に主張されてしまう要素)が別の観点で定量化できるとかあるのでしょうか?
回答: 定量化というのはスカラー化するということを含んでいることが多いので、それはないと思う。ただ、世の中色んなものはみんなベクトル量なのに、すぐスカラー化する・スカラー化してどうこう言うことが多いから、そこを気を付けて問題を探すというだけでも随分良いと思う。

(5)質問:これは、品質管理の基本的な教育の中に、ベクトル量を縮小してスカラー量化するけれどこういう問題があると言うのは、周知徹底するような方法は確立していますか?
回答: 力不足で、ちゃんとやっていないので、私のアイデア留まりです。

(6)質問:私は自動車屋のOBです。先生が、セミナーの最初の部分や、「コスト最小化が本当に良いのだろうか?」というところで、「最近の日本の品質が信用できない」と仰ったのですが、具体的にはどんな点でしょうか?
回答:やはり、良く壊れるようになりました。 昔は製品のコストダウンがそこまで行かなかったのか、いいものを作るという所が「コストを安く」という所より重視されていたので、故障が少なかったし、それ(その製品)がアメリカに売れた時はそうだったのですが、今はアメリカ並み(の故障度合い)になってしまっています。それから、海外からの調達が増えたこともあって、それもスペックを与えてそのスペックで調達するのですが、そもそもそのスペックが本当に必要十分か?十分吟味されているのか?というような技術的な問題があって、悪くなる一方だなあと思っています。

(7)質問:仕様提示をして物を作るものの、その意味が分かってしてるかと言うと、分かっていないケースも結構あると聞いています。
回答:ある化学材料会社が海外から材料調達した時に、スペックに合ったものをサプライヤーが出して、それを使ったらトラブルが出たケースがあります。 この時にひどいと思ったのは買う側がこれを何に使うかを言わないということでした。

(8)質問:品質は積み上げの結果と思うので、ちゃんと後輩に伝承されているかはとても不安です。
回答:私も不安です。標準書等に書けない部分をどうやって伝えるかが大事で、量り易いものだけを量って、量れない大事なものを見落としているのと同じです。(「書けない部分に実は大事なものが入っているのですね?」という追加質問に対して)ええ、そう思います。
データの使い方で、もの凄い発明と思うのは、お医者さんの検査で使うCTです。見えなかったものが、さも輪切りにして見たかのように見えるようにするということは、もの凄いアイデアで、そういう所に転化するような技術は大事だと思う。そういう意識は大事だと思う。

(9)質問:田口メソッド、QFDの話が出まして懐かしく思いました。が、ついぞ最近聞かないように思います。 これらは産業界では結構広く使われているのでしょうか?
回答:会社に拠ります。リコーとかは、田口メソッドに社員を派遣して勉強させたりして普及しました。けど、社員単位の技術でそれを上手く使えるようになるかというのは難しいと思います。それも技術が消えないようにするためにそういう規格(国際)を作るというので、SC8を立ち上げたという経緯があります。QFDは、ドイツとかアメリカに赤尾先生の弟子がいて、そういう人たちが結構頑張っています。田口メソッドは田口伸(しん)さんという田口さんの息子さんが委員をやっていて努めてやっています。これらも上手く伝承されていく技術になり切らないのかもしれません。

(10)質問:日本人の名前の付いたメソッドですから使って行きたいと思いますが。
回答:日本人なら誰でも良いと言う訳ではないですが。

文責:浜田英外

講演資料:日本の品質管理と取り組んだ課題
posted by EVF セミナー at 15:00| セミナー紹介

2022年03月24日

EVFセミナー報告:「コロナ禍の英国事情」〜Brexitの動向、政治、経済、社会、スポーツの現状〜

演題:「コロナ禍の英国事情」〜Brexitの動向、政治、経済、社会、スポーツの現状〜 
講師:伊藤庸夫様

Web視聴開始日:2022年3月24日
講師略歴:
・サッカーの名門浦和高校卒業、当時関西サッカーの三強であった京都大学に進学、法学部にて国際法を習得。
・1966年 三菱重工業入社。社長室企画部、社長室開発部、化学プラント部、社長室海外部を歴任。同社サッカー部(日本リーグ)に所属。1980年 同社ロンドン事務所。日本サッカー協会(JFA)国際委員。1985年 東芝 International UK。1989年 TMITO Ltd.UK M.Dとして、ロンドンにてプラントコンサルタント・スポーツマネジメント事業を開始。・サッカー界においては、JFA国際委員(欧州代表)、Jリーグ発足準備委員会員、Jリーグサンフレッチェ広島海外担当強化部長・W杯用スタジアム設計建設コンペ審査員(1994年)、京都大学蹴球部 Technical Adviserdviser(2004年)、JFLチーム SAGAWA SHIGA FCのGM・JFL評議員議長(2007年)、JFAマッチコミッショナー(2010年)を歴任。新聞・雑誌記者として、各国サッカーリーグ・W杯・EURO杯や、ラグビーW杯、ウインブルドンテニス等を取材。テレビ東京・日テレ・NHK等に解説者として出演。
・英国のBath Univ、Essex Univ、London City Univ非常勤講師。筑波大学大学院 英国のスポーツと文化 非常勤講師(2003年)、びわこ成蹊スポーツ大学 スポーツマネジメント教授、淑徳大学 非常勤講師(2004年)
・東京生まれ(本籍滋賀県)で、ロンドンには1980年から延べ40年在住。訪問国は86か国にのぼる。

講演概要:
「コロナ禍の英国事情」Brexitの動向、政治、経済、社会、スポーツの現状」について伊藤庸夫様にご講演を頂きました。まず「英国の概要」に始まり、英国の一般的な国情に触れ、議会制度、国民性、教育制度、そして移民政策の外郭的な説明がありました。日本の制度とは表面的に似てはいますが本質的には全く異なることを強調しておられました。
そして演題のBrexitについてはすでに過去形となっていると指摘しておられましたが5年半にわたる議会での批准経過説明とその趣旨の解析を行い、今後の課題として以下の点につき解説いただきました。
1.北アイルランドとアイルランドの国境問題、輸出入手続き等がまだ不透明であること
2.移民難民制限を主としていた点も逆に労働者不足を招く結果であること
3.EU以外の諸外国との貿易協定の経過等

その後2020年3月から世界パンデミックになったコロナ対策について英国政府の対応、そして英国医療制度についての解説をして頂きました。特に保健省NHSと政府の働きによって、治療、ワクチン接種促進、一般国民への隔離対策(Lockdown)、罰金制度、そして休業補償制度が適時的確に行われ今年2月には全面解除した点を強調されました。
感染者数、死者数とも日本より多いが、制度設定には官民一体となった趣旨徹底がなされ、取り敢えずは収束化させたことを強調しておられました。
そして現在の問題点となっているのがウクライナ紛争ですが、この点については経済面で石油ガス価格の高騰が起こりインフレ傾向にあり国民生活を圧迫しつつある点を強調されました。
講師はスポーツ特にフットボールの専門家として活躍されており、この点にも見識を展開して頂くようにと思っておりましたが時間も少なく触れられなかったのは残念でした。
英国は往年のゆりかごから墓場の政策モットーはまだ残っており、教育、医療、老齢層の交通は無料の政策を続けており、それが因でBrexitにも拘らず難民、違法移民が移入している現実があることにも触れておられました。
小栗武治

講演資料:コロナ禍の英国事情
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介

2022年03月15日

EVFセミナー報告:COP26を踏まえた日本のエネルギー政策の課題

演題:COP26を踏まえた日本のエネルギー政策の課題
講師:高村ゆかり様

東京大学未来ビジョン研究センター教授、環境省中央環境審議会会長
Web視聴開始日:2022年2月24日
聴講者数:60名

講師紹介
・1989年3月 - 京都大学法学部卒業
・1992年3月 - 一橋大学大学院法学研究科修士課程修了
・1993年 - 1995年 パリ第2大学第三(大学院)課程及び国際高等問題研究所留学
・2000年 - 2001年 ロンドン大学客員研究員
・2006年4月 - 龍谷大学法学部教授
・2011年4月 - 名古屋大学大学院環境学研究科教授
・2018年10月 - 東京大学国際高等研究所サステイナビリティ学連携研究機構教授
・2019年4月 - 東京大学未来ビジョン研究センター教授
・2020年10月 - 第25期日本学術会議副会長
・2021年2月 - 環境省中央環境審議会会長

講演概要:
20世紀後半から世界規模での顕著な気候変動が生じている。IPCC第6次評価報告書(2021年8月)で、人間活動が大気、海洋、陸域の温暖化を引き起こしていることに疑いはない(unequivocal)と報告され、この数十年で(in the coming decades)温室効果ガスの大幅な排出削減がなければ、今世紀中に1.5℃、2℃を超える気温上昇となることが指摘された。
1994年以降、国連を中心とした世界における温暖化交渉が展開されてきた。COP26(グラスゴー会議2021年11月)で、2021年8月のIPCC第6次評価報告書を受け、世界の平均気温上昇を産業革命以前から1.5℃程度に抑えるにとする目標が表舞台にあがった。この会議で「石炭火力の削減」、「化石燃料補助金の廃止」という文言が初めてCOPの合意文書に入った。
これを受け世界各国がそれぞれカーボンニュートラル達成に向けて、技術、経済等の多方面から複合的政策を打ち出してきている。
講演では幅広いデータに基づきカーボンニュートラルへの世界の取り組みと展望について、お話をいただき、さらに わが国としてはこの世界的な大きな潮流を産業構造の大改革の好機ととらえ、官民挙げて新たな産業社会の構築に向けて取り組むべきと示唆された。


講演内容:

1.世界規模での顕著な気候変動
気候変動に伴い世界的に自然災害が増加。日本だけを見ても、2018,19年の台風・豪雨被害の経済損失額は5兆円を超える。世界的に保険金の支払額が急激に増加した。世界の気象関連経済損失額推移を見ても、2021年は3290億米ドル(約36兆円:史上3番目の経済損失額)に達している。

2.IPCC報告
IPCCの第5次評価報告書(2014年)で、「人間の影響が20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な(dominant)要因であった可能性が極めて高い(95%以上)、 気候変動を抑制するには、温室効果ガス排出量の抜本的かつ持続的な削減が必要である」と明言された。そして、IPCC第6次評価報告書(2021年8月)では、人間活動が大気、海洋、陸域の温暖化を引き起こしていることに疑いはない(unequivocal)と報告され、この数十年で(in the coming decades)温室効果ガスの大幅な排出削減がなければ、今世紀中に1.5℃、2℃を超える気温上昇となることが指摘された。

3.世界における温暖化交渉の展開
1992年 地球サミット(リオサミット):国連気候変動枠組条約採択(1994年発効)を嚆矢とし、現在に至るまで地球温暖化抑制の世界的な交渉の場としてCOPが毎年開催されてきた。
IPCCの第5次報告を受けた形で、2020年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組みとして、COP21(2015年)でパリ協定が採択され、「世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求すること」が掲げられた。2022年1月31日時点でパリ協定は 192カ国+EUが批准し、これは世界の排出量の約98.6%を占める。
引き続いてCOP26(グラスゴー会議2021年11月)で、2021年8月のIPCC第6次評価報告書を受け、「世界目標:1.5℃」が表舞台にあがった。この会議で「石炭火力の削減」、「化石燃料補助金の廃止」という文言が初めてCOPの合意文書に入った。
COP26では、また、世界各国が、自国の事情を反映させたそれぞれ以下のような目標達成時期を発表した。
• バイデン新政権誕生により米国もこれに加わる。G7先進主要国すべてが目標を共有
• 中国も遅くとも2060年までにカーボンニュートラルを実現(2020年9月)
• ブラジル、韓国、ベトナムなどが2050年までに、ロシア、サウジアラビアなどが2060年までに、インドは2070年までに排出実質ゼロ
の2050年カーボンニュートラル)
• 日本は、2050年に、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す(目標表明2020年10月26日)
• 現在までに、140カ国以上+EUがカーボンニュートラル(温室効果ガス/CO2排出実質ゼロ)を表明。

このように、世界各国において「カーボンニュートラル」、「ネットゼロ」を目指すことが表明された。が、この課題の目標達成には相当の困難を超えなければならない。今すぐやるべきことを明確にして行動に移さないと、1,5℃は単なるスローガンに終わってしまう。
これからの気温上昇の程度で、異常気象の発生頻度や強度が表−1に示すように変わる。

Table1.gif

現在までに各国がパリ協定の下で提出している目標だけでは1.5℃に気温上昇を抑制できない。IPCCの第6次報告書によれば、将来の影響リスクを低減させるには、2030年には世界のCO2排出量が減少し始めることが求められている。
IPCCはこれからの世界の炭酸ガス排出量の5つのシナリオに基づいた「炭酸ガス排出量と気温上昇の関係」について報告している(図−1参照)。これによると、すべての誓約+目標が達成されないと世界の気温上昇を1.5℃(以下)に押さえることが難しくなる。

fig1.jpg


4.再生可能エネルギーの現状
2018年の世界の最終エネルギー消費(熱、交通・輸送、電力)に占める再生可能エネルギーの比率を表−2に示す。

Table2.gif

熱と輸送燃料への再エネへの転換はまだ比率が低く、今後の課題である。輸送燃料の中では、特に航空機燃料への再エネの転換が今後の課題となる。

5.世界が目指すカーボンニュートラル達成方法
5−1.技術: 再生可能エネルギーの確立と導入普及
・ エネルギーの脱炭素化/COP26で初めて「石炭火力の削減」「化石燃料補助金の廃止」という文言がCOPの合意文書に入った。

5−2.経済: 欧米では、日本に比して、金融界のカーボンニュートラルに向けての動きが素早い。以下に最近の動向を例示する
・ Net-Zero Asset Owner Alliance(2019年9月立ち上げ)– 国連主導のアライアンス。2050年までにGHG排出量ネット・ゼロのポートフォリオへの移行をめざす– 66の機関投資家が参加、運用資産総額10兆米ドル
・ Net Zero Asset Managers Initiative(2020年12月立ち上げ)– 2050年GHG排出量ネット・ゼロに向けた投資を支援– 220の資産運用会社が参加、資産総額57.4兆ドル、世界の管理資産の60%近くを占める
・ Net-Zero Banking Alliance(2021年4月立ち上げ)– 98の銀行が参加、資産総額66兆米ドル、世界の銀行資産の43%を占める– 2050年までにポートフォリオをネット・ゼロにし、科学的根拠に基づいた2030年目標を設定
・エネルギー転換投資は、2021年、初めて7550億米ドル(83兆円)を超えた。2015年の2倍超。2004年の20倍超。再エネ投資は、2014年以降、年投資額は約3000億米ドル(33兆円)で推移している。交通・輸送の電化への投資がここ数年急激に増えて降り、2021年度には約2800億米ドルに達している。

5−3.政策;世界的に、政府のリーダーシップ、政策と実施の『総合化』が強く求められている。
・ EU:2019年12月に持続可能な社会への変革(transformation)の戦略、成長の戦略として「European Green Deal」を発表。炭素国境調整メカニズム(CBAM)の議論
・ 英国;2021年、G7議長国、COP26議長国。気候変動法(2019年6月改正)で、2050年排出実質ゼロを規定。2030年の排出削減目標(NDC)として1990年比53%削減から68%削減へと引き上げ。2035年目標を1990年比78%に。一部の上場企業に対して、TCFDにそったComply or Explainでの情報開示を2020年までに義務づけ。
・ 米国;2021年1月20日、パリ協定を再締結(30日後の2021年2月に効力発生)。2030年目標として、2005年比50-52%。 バイデン新政権の気候変動対策:遅くとも2050年までに排出実質ゼロ。2035年電力脱炭素化、グリーンエネルギー等へのインフラ投資に4年間で2兆ドル投資する計画
・中国;遅くとも2060年までにカーボンニュートラル。GDP単位当たりのCO2排出量を2030年までに05年比65%超削減。一次エネルギー消費に占める非化石燃料の割合も約25%に増やす。再生可能エネルギーの設備容量は世界一。水素・燃料電池産業も戦略的に育成。石炭火力を2020年までに1100GW未満にする(2016年13次五カ年計画)。14次五カ年計画は2021年発表予定。2030年ピークアウト計画作成中。
・日本;2050年カーボンニュートラル宣言(2020年10月。グリーン成長戦略(2020年12月)、グリーン成長戦略改定+実行計画(2021年6月)。2030年温暖化目標(2013年度比46%削減、50%削減の高みをめざす)の表明82021年4月)。 改正地球温暖化対策推進法成立(2021年5月)。 地域脱炭素ロードマップ(2021年6月)。 国土交通グリーンチャレンジ(2021年7月)。 第6次エネルギー基本計画(2021年10月)。地球温暖化対策計画(2021年10月。 脱炭素社会に向けた住宅・建築物における 省エネ対策等のあり方・進め方案(2021年8月。カーボンプライシング小委員会(環境省)、世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会(経産省)

6.日本が2030年・2035年にめざす目標と課題
• 2030年に電源構成の36-38%を再生可能エネルギーに。発電量で見ると、3,360~3,530億kWhを目指す。
• 2030 年までに1,000 万kW、2040 年までに浮体式も含 む3,000 万kW〜4,500 万kW の洋上風力の案件を形成
• 2030年に、新築される住宅・建築物についてはZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)。
• ZEB基準の水準の省エネ性能が確保されているととも に、新築戸建住宅の6割において太陽光発電設備が 導入 • 2030年に少なくとも100の脱炭素先行地域
• 2035 年までに、乗用車新車販売で電動車*100%を実現 (*電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハ イブリッド自動車)
•エネルギー起源のCO2排出量(単位:百万d-CO2)で見ると、2013年度で1,235を2030年度で677(2013年度比で▲45%)
• 2030年までの再エネの最大限導入と、2030年を超えてさらなる導入を実現するための仕込みを実現するための課題
– Feed-in Premium(FIP)など買取制度の適切な運用
– コスト低減(グリーン水素などのコスト低減にも資する)
– 再エネ最大限導入を可能にする土地利用、社会的受容性等の諸条件整備促進

7.世界的に見た電源ミックスの変化
世界的に過去約50年のトレンドを変える非化石電源(再エネ)への転換が起きている。再エネは2050年に69%に拡大。化石燃料は24%まで低減している。
2014年は化石燃料の発電所が一番安い国が多かったが、2020年前半には世界人口の少なくとも2/3を占める国にとっては,太陽光と風力が最も安い。これらの国は、世界のGDPの71%、エネルギー生産の85%を占める。日本では、まだまだ石炭火力の比率が高い。

8.発電コストの低減推移
日本の太陽光の発電コストは2010年から2019年の10年で63%低減(国際再生可能エネルギー機関、2020年)している。日本と世界の発電コスト低減の推移を図−2に示すが、日本のコストも低減するが、残念ながら高めで推移する。この原因は、固定価格買い取り制度(FIT)、機材費、人件費等々が世界標準から見て高値であることによる。

fig2.jpg

9.電力分野変革のイノベーション
再生可能エネルギーの発展に伴い、Decarbonization, Decentralization and Digitalization がセクターを超えたダイナミックな技術革新(イノベーション)の進行がもたらされる可能性が出てくる。
再生可能エネルギーの余剰電力を使って水素を作り、これを化学産業の熱源、あるいは交通・運輸部門の燃料とすることで、電力と他の産業分野と連携することが出来(セクターカップリング)、社会全体の脱炭素化、社会インフラの改革も可能となる。

10.日本企業のカーボンニュートラルへの取り組み
10−1.パリ協定の長期目標と整合的な目標(SBT)を掲げる日本企業
SBT(Science Based Targets:パリ協定(世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準(Well Below 2℃)に抑え、また1.5℃に抑えることを目指すもの)が求める水準と整合した、5年〜15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標)の認定を受けた企業数、大企業のみならず中小企業も含めて155社、
10−2.RE100への参加企業
RE100(「Renewable Energy 100%」の略称で、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的イニシアチブ)に加盟する企業数が64社を超えるなど、多くの民間企業がカーボンニュートラルへの積極的にかかわる意志を示している。
10−3.日本企業の2050年カーボンニュートラル目標・戦略
• 花王グループ、住友化学、東京ガスグループ、JER、大阪ガス、ENEOS、出光興産、JR東日本、JALグループやANAホールディングス等々の多くの企業が、再生可能エネルギーや水素を取り入れ、それぞれの企業(関連企業も含め)の原料調達、製品製造、各種オペレーション等から発生するCO2排出量削減(2030年)、排出実質ゼロ(2050年)を目指すことを宣言している。

11.Scope3排出量のネットゼロ(Scope3自社排出CO2以外の,原材料、調達、廃棄等々の段階から出るCO2排出量)への取り組み例
11−1.MicrosoftのClimate Moonshot (2020年1月)
• Carbon negative by 2030 (2030年 までに炭素排出マイナス)
• Remove our historical carbon emission by 2050 (2050年までに、 1975年の創業以来排出したすべ ての炭素を環境中から取り除く)
• $1 billion climate innovation fund (10億米ドルの気候イノベーション 基金)
• Scope 3 の排出量(サプライチェー ン、バリューチェーンからの排出 量)削減に焦点 – 2030年までにScope 3の排出量を半 分以下に削減 – サプライヤーにscope 1、2(自社事 業からの排出量)だけでなくscope 3 の排出量を提示を求め、それを基 に取引先を決定 61
11−2.Appleの2030年目標 (2020年7月)
• 2030年までに、そのすべての事業、製品のサ プライチェーン、製品のライフサイクルからの 排出量を正味ゼロにする目標と計画を発表
• すでに自社使用の電気はすべて再エネ100% を達成。2021年10月時点で、日本企業を含む 175のサプライヤーがApple製品製造を100% 再エネで行うことを約束
• 2020年目標:サプライヤーで、新規で4GWの クリーンエネルギーを増やす。すでに9GWの新規導入/導入誓約
• 日本企業(20社以上)による2030年再エネ100%の誓約:
11−3.日本においても、日立製作所、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグルー プ(SMBCグループ)、等多くの企業がScope3排出量のネットゼロを宣言している。

12.日本の課題
12−1.エネルギーの脱炭素化のために
• 日本の温室効果ガス排出量の約85%がエネルギー起源のCO2
• エネルギー需要家から脱炭素意向が強くなっている。また、今の技術の最大限活用して最大限の脱炭素を行うことが金融から求められている。
•「再エネの最大限導入」+非電力分野の「電化」、そのための施策の加速
•「電化」が困難な非電力分野の対策
• 炭素の価値、コストをうまくプライシングしていかないと、石炭は残ってしまうかも知れない・・
• 将来のエネルギービジョン、移行の戦略、検証と見直し、省庁をこえて総力で積み上げる
• 脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会
• いかにエネルギー転換を促すか。他の電源との相対的競争性。社会的コストの統合と電源間の公正な競争• 地域主導の、地域共生型の再エネ導入、土地規制と社会的受容性
• これらを実施、現実のものにする政府内の横断的連携
• 原子力の位置づけ

12−2.電力分野での脱炭素化加速のための課題
• 系統の整備と運用(いかに自然変動電源を効率的に系統に統合するか)
• 直流送電といった新たな選択肢
• 伸ばしたい電源には意欲的で明確な国の目標を、明確な目標が投資とイノベーションをもたらす
• 洋上風力目標(2040年4500万kW)のインパクト
• コストの低減もちろん、系統、市場をはじめ既存の制度、ルールをあらためて見直し、再エネ主力電源化を可能にする電力システムの構築と、予見可能な魅力的な市場環境整備
• エネルギー貯蔵(揚水、蓄電池、蓄エネ技術、等々)
• 電力供給量を確保しつつ火力を如何に減らすか。火力政策、特に石炭火力の削減・廃止にむけた対策
• 石炭の抵抗力を減らすには、政策と実施の総合化が必要


質疑応答

Q1:液体バオ燃料として現在はパーム油だけがFITの中で認められているが、それ以外の液体バイオマスが認可される可能性は?
A1:現在の問題点は、食料との競合性等からの持続可能性に懸念が持たれており、パーム油以外のバイオマスについては、専門委員会で検討中であり、22年度中には結論が出るのでは。液体バイオ燃料は、買い取り制度の枠の外で航空燃料として注目されてきている。

Q2:日本の太陽光発電コストは低減傾向にあるが、世界と比べると倍近くコスト高であるが、初期のFITによる買い取り価格が高かった影響が未だに続いているのでは?
A2:FITでは太陽光は42円から始まったが、当時これが適切であったかどうかはわからなかったと思う。それ以外に、日本の太陽光発電に関しては、設置工事費、土地造成費、送電線へのアクセス等々がコストを押し上げている。工事費も含めて改善が必要。

Q3:日本で地熱が伸びないのは、温泉法や自然公園法等の法的規制が足をひっぱているためで、法規制緩和と、地産地消の考えが必要ではないか。
A3:同感である。各官庁の調整が重要。洋上風力では、政府が立地地域を設定・準備し、民間事業者は決められた地域内での建設行為からスタートできる。このモデルを地熱でも適用してはどうかと考える。講演の中でも述べたが、地熱に関しては、2030年に向けて地熱発電量として1.5GW(0.5GWの積み増し)が計画されている。

Q4:先月、EVFセミナーで「営農ソーラーシェアリング」の話の中で太陽光発電設備設置に対して農地法がネックになっていると聞いたが、如何なものか?
A4:最近「営農方ソーラーシェアリグ」の例も増えているが、そういうことが起こる可能性もある。今後、農業委員会の農地使用認可の時期とFIT認定時期との整合性(マッチング)も重要になる。日本の農地利用の仕組みを見直すことも必要。

Q5:日本の発電コストは高いとのお話があったが、日本の賃金は上がっていないのに、工事費等が何故高くなる?
A5:日本の土木建築工事の下請け制度もコストアップ要因の一つ。ドイツ等では工程管理手法によりコスト削減の改善が進んでいる。

文責:橋本 升
 
講演資料:COP26をふまえた日本のエネルギー政策の課題
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2022年01月24日

EVFセミナー報告:福島県二本松市におけるソーラーシェアリングと小型EVバギー導入レビュー

演題「福島県二本松市におけるソーラーシェアリングと小型EVバギー導入レビュー」
講師:近藤 恵様

合同会社 AgroKraft 代表社員
Web視聴開始日:2022年1月24日
聴講者数:48名

講師紹介

・株式会社 Sunshine(農業法人)、二本松営農ソーラー 株式会社(4MW営農型発電事業)、二本松ご当地をみんなで考える 株式会社(仮称「二本松電力」の準備会社)、各社の代表取締役。
・1979年 東京都生まれ。筑波大学、千葉県成田市、福島県二本松市、それぞれの地で有機農業の先達に師事。
・2006年より二本松市で専業有機農業経営。3.11原発事故に被災し農業を一時廃業。
・市民電力の立ち上げを支援しつつ、2021年よりソーラーシェアリングで営農法人として兼業農業復帰。


講演概要

震災時に食料には困らなかったが、エネルギーが全くなく、トラクターを1cmも動かせなかった。
その経験から水、食料だけでなくエネルギーを含めた自給自立が必要と考えた。エネルギーを作り出す方法として、ごみ発電、バイオマス発電など考えたが事業化が難しい。ソーラーパネルに対しても最初は抵抗があったが、農作業ができる高さと空間があれば農業とソーラー発電の両立ができると考えた。農作物に対する日照は6〜7割で十分であり、それ以上の日照は返ってよくないこともある。したがって農作業ができる空間の上にパネルを遮蔽率3割ぐらいの間隔でパネルを置いた営農型発電という形とした。2018年から始め面積も広げて2021年には畑でシャインマスカットや荏胡麻を栽培するようになった。これにより安定収入がある程度得られる。しかし耕作放棄地といえども農地にソーラーパネルを置くことに対する規制などが多くあり、これを役所に対して説明して認めてもらうために、ずいぶん時間を費した。ドイツでは垂直式のソーラーパネルが普及し始めており、これは午前と午後に発電ピークを迎えるために、社会の電力需要とマッチしており、またアニマルフェンスにもなり、普及が見込めるので検討しているが、日本には台風があるので、固定強度を大幅に上げる必要がある。 

Q & A

Q1:電力の買い取り価格がどんどん下がってきているが? 一方導入コストも下がってきているから、元は取れるという事か?
A1:2018年当時は27円/Kwhであったものが、現在19円まで落ちてきているが、スタート当初の価格が維持される仕組みのため、既存業者は大きな問題がないが、新規の参入は不利・困難になる。また大企業は巨大な設備を投入できるので、有利なシステムのように思う。

Q2:農地法の壁が高いと思うが? 耕作放棄地などを活用するのになぜ政府が認めようとしなかったのか、政府の考え方はいかに?
A2:一時、河野太郎の規制改革タスクフォースで論議された。中には農業といいつつも発電オンリーの所もある。 福島県は全国2番目に耕作放棄地が多くあるが、地方の農業委員会は認めたがらないが、利害調整をしなければならない。政治はやると決めた場合には必ずやると思う。営農型発電の建設ガイドラインができたが、「やってますよ」というなんとなくアリバイ作りのようなもので、本当にやる気ならば、韓国のように数値目標を作らなければだめだと思う。 

Q3:認可期間は自動更新となるのか、それとも再更新が必要か?
A3:3年と10年があるが、自動更新は認めてもらえない。壁の一つに金融機関があるが、この自動更新とはならないことが怖いため、お金を貸してもらえない。
 
Q4:農地法が障害となるというが、営農型発電は耕地面積を減らさないのに何故か? 
A4:農地法の本来の目的は、農業生産を守るためにあったものが、だんだん形骸化してきている。「農地法を守って農民守らず」と揶揄されるが、面積の広さに応じて管轄が、市、県、国と管轄が分かれており、末節な論議になってしまっている。悪用するような団体もないとは言わないが、全体からするとわずかなものと思う。どんな法律も抜け道を探す人はいる。

Q5:遮蔽率を下げて、空間を開けてパネルを置いているが、この発想はどこから?
A5:日本では2003年に千葉県で長島彬先生が始めたのが始まりだが、ドイツでは1981年に土地の有効活用として、このような立体的なものを始めた。

Q6:両面を使うということが良いアイデアだと思うが、垂直型のパネルの台風対策はどのようなものか?  
A6:現在、支柱を深く、太くするなど対策を進めており、最終段階にきている。最初のケースだから、失敗すると後続への影響が大きく大変なことになる。 

Q7:送電線の空き容量がないという事だったが、電力は地域の電力小売業者に売るので、送電線容量は問題ないのでは? 
A7:送電線の空き容量と電力の売却先は別の問題である。太陽光発電の予約量が一時期大量に出てきたので、ストップしてしまった。最大の発電を想定した安全率を取り過ぎのシステムを作ったのだが、その後それほど大量に太陽光発電しなかったので、送電線の容量は今ガラガラであり、問題はないはずである。 
売電先の問題は、一旦東北電力ネットワークに売り、そこから卸で個別配給会社を通して家庭に配給されるが、そこに制限がかかることはないが、売電価格があまりにも安くなってしまったので、直接売りたいという人が出てきた。 この場合には売電量の制限がかかるし、実際にそういうケースが出始めている。

文責:八谷道紀

講演資料:福島県二本松市におけるソーラーシェアリングと小型EVバギー導入レビュー
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2021年12月23日

EVFセミナー報告:COP26が示した国際潮流を読む

演題:「COP26が示した国際潮流を読む」 〜脱炭素の『実施』が求められる時代へ〜
講師:山岸 尚之様

WWFジャパン(公益財団法人 世界保護基金ジャパン) 気候エネルギー・海洋水産室長
Web視聴開始日:2021年12月23日
聴講者数:42名

講師紹介

・1997年に立命館大学国際関係学部に入学。同年にCOP3(国連気候変動枠組条約第3回締約国会議)が京都で開催されたことがきっかけで、気候変動問題をめぐる国際政治に関心をもつようになる。
・2001年に同大学を卒業後、9月より米ボストン大学大学院にて、国際関係論・環境政策の修士プログラムに入学。2003年に同修士号を取得。
・卒業後、WWFジャパンの気候変動担当オフィサーとして、政策提言・キャンペーン活動に携わる他、国連気候変動会議に毎年参加し、国際的な提言活動を担当。
・2020年より気候エネルギー・海洋水産室長(現職)。

講演概要

今回のCOP26で低炭素社会からエネルギーの大転換・脱炭素社会の「実施」が求められる時代になってきた。
2021年10月31日から英北部グラスゴーで開催されたCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)は、会期を1日延長し11月13日に、成果文書「グラスゴー気候合意」を採択して閉幕した。
焦点の一つだった石炭火力発電の利用については、当初の文書案の「段階的廃止」から中印など新興国の反発により、「段階的な削減」へ表現を弱めた。しかし、産業革命前からの気温上昇について1.5℃以内に抑える努力を追求する決意が、特に強調される形で明記された。
この話題になった「COP26」の現場の雰囲気や生の声、COP26での成果、合意を目指したパリ協定についての解説、世界的に強まってきた「脱炭素」路線について、今後の日本の課題、COP26以降のビジネス潮流などについて講演をいただいた。
最後に、脱炭素は何のために実施するかについて示唆に富むお話があった。

1. 話題になった「COP26」とは

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1.1 26回目の「締約国会議」 
1)開催期間と場所
・開催期間 2021年10月31日から11月13日
・開催場所 イギリス(スコットランド)・グラスゴー
2)約190カ国が参加
・コロナ禍での強行開催であったが、約4万人の参加者でパリ協定が選択されたcop21での約3万人強を超える過去最多の参加者であった。
・参加者は毎朝、ラテラルフローテスト(高速、低コストの新型コロナ検査)でテストを行い、ウエブサイト上で結果を報告してから会議場へ入場した。
・会期始まりの2日間、約120カ国の首脳が参加したワールドリーターズ・サミットが開催された。日本からは衆議員選挙直後であったが岸田首相、アメリカからはバイデン大統領が参加した。
・オンライとのハイブリッドで進行され、会場に直接いたとしても、実際の交渉が行われている会議室へのアクセスは限定的であった。
また、オンラインのプラットフォームを通じて傍聴する機会も多かった。このため、透明性がないとのかなりの混乱があった。「最も排他的なCOPダ!」という批判も一部にあった。
3)パリ協定の下で、温暖化(気候変動)対策の国際協力を話し合う
・最終日近辺は真夜中まで交渉は続けられていた。
COPが延期するのはいつものことであるが、会期を延長して決着した。
4)COP26の主な成果
(1)世界の平均気温上昇を1.5℃に抑える
・パリ協定での気温上昇に関する世界全体の目標である2℃未満から、1.5℃を目標として公式文書に明記された。
一年後までに、2030年度目標を再度見直すということに関しては、各国に対して必要に応じてという文言が入った。
・温暖化の最大要因として石炭火力削減方針が初めてCOP決定に明記された。
石炭火力の減少、化石燃料補助金廃止への言及などに加え、パリ協定の詳細なルールブック(実施指針)がすべて合意されてパリ協定が完成した。
(2)市場メカニズムに関するルールの完成
・他国での削減をクレジットとして購入し、自国での削減として使える仕組み。
・日本が実施しているJCM(2国間クレジット制度)のような「2国間型」と「国連主導型」の2種類がある。実際の運用化にはまだ少し時間はかかる。
・各国の排出量や取り組み状況を報告する仕組みの完成。
(3)透明性の枠組み
・全締約国に共通の項目・表で排出量の報告を行うこと、また比較可能な表形式で自国が決定する貢献(NDC)達成に向けた取り組みを行うことが決定された。
(4)NDC実施の共通の時間
・全締約国に対して、2025年に2035年目標、2030年に2040年目標を通報することを奨励する決定が採択された。
(5)損失と被害に関する「対話」の合意
・気候変動に伴う被害が、適応対策で対応できる範囲を超えて発生した場合の救済を行うための仕組みについて、話し合いを継続していくことが合意された。
(6)適応では
・気候変動の影響に適応する世界全体の議題を設定して、目標の議論を深める今後2年間の作業計画を開始することが決まった。
(7)気候資金の議論では
・1.5℃を目指すとなると途上国も排出量を減らしていかなくてはならない。そのためには先進国からの十分な支援が必要となる。
先進国やその他の国は、2020年に向けて、気候資金「1000億ドル」達成のため、さらなる努力を続けることになった。
また、2025年以降の資金数値目標に対する議論を開始し、本件に関する協議体を立ち上げ2022年から2024年にかけて議論することになった。

2. パリ協定について

2.1 パリ協定とは ?
・京都議定書の跡を継ぐ,2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組み
・気候変動(地球温暖化)に対して、従来の先進国・途上国という枠を超えて、どのように国際協力して対応するかを決めた国際条約

2.2 パリ協定の中身
(1)全体としての目的は
地球の平均気温の上昇(温暖化)を、産業革命前と比較して、2℃より充分低く、できれば1.5℃に抑えること。
(2)長期目標として
今世紀後半に、世界全体の温室効果ガス排出量を、生態系が吸収できる範囲に収めるという目標が掲げられた。これは、人間活動による温室効果ガスの排出量を実質ゼロにしていく目標である。
(3)年ごとの見直し
各国はすでに国連に提出している2025年/2030年に向けての排出削減量を含め、2020年以降、5年ごとの目標を見直し、提出していくことになったこと。
(4)より高い目標の設定 
5年ごとの目標の提出の際には、原則として、各国は、それまでの目標よりも高い目標を掲げること。
(6)資金支援
支援を必要とする国への資金支援については、先進国が原則的に先導しつつも、途上国も
他の途上国に対して自主的に行っていくこと。
(7)損失と被害への救済
気候変動の影響に、適応しきれずに実際、損失と被害が発生してしまった国々への救済を行うための国際的仕組みを整えていくこと。
(8)検証の仕組み
各国の削減目標に向けた取り組み、また、他国への支援について、定期的に計測・報告し、かつ国際的な検証をしていくための仕組みがつくられたこと。
これは、実質的に各国の排出削減の取り組みの遵守を促す仕掛けになる。

2.3 パリ協定後の流れ
・2016年 パリ協定の発効
・2017年 ルールブック策定に向けた交渉
・2018年 パリ協定の「実施指針(ルールブック)」策定
・2020年 パリ協定の実施へ
・世界全体と国別の2つのレベルで強化が検討されることになる。
・ほとんどの国は2030年目標を持っている。(一部2025年目標)

3. 世界的に強まってきた「脱炭素」路線

・2018年10月 IPCC1.5℃特別報告書
5℃目標の達成のためには、2050年ゼロを目指すことが必要であるとの知見
・2019年12月 欧州グリーンディール発表
EUの既存2030年目標(90年比40%削減)を引き上げるなどを含むパッケージ提案
・2019年12月 欧州連合理事会が2050年カーボン・ニュートラルに合意
・EUの政策決定機関である欧州連合理事会が、カーボン・ニュートラルについて合意
・2020年9月 中国が2060年までにカーボン・ニュートラルを発表
国連総会の一般討論におけるビデオ演説で、習近平首席が「我々はCO2排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までにカーボン・ニュートラルを目指す」と宣言
・2020年10月 日本・菅首相が2050年までにカーボン・ニュートラルを宣言
所信表明演説において「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボン・ニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言」
・2021年1月 アメリカが2050年ネットゼロ方針
大統領令の中で、ネットゼロ排出量を、経済全体で遅くとも2050年までに達成する方向に、アメリカを向かわせることを打ちだした。
・2021年2月 アメリカがパリ協定に復帰した。2016年の離脱方針から転換

4.日本の課題

4.1 2030年目標の改定
(1)日本は従来の目標26%削減を2030年46%削減(さらに50%の高みを目指す)
・。2050年ゼロを実現するためには、今後9年の行動が最も重要となる。
(2)菅前首相の所信表明演説では
・積極的に温暖化対策を行うことが、経済成長の制約ではなく、産業構造や経済社会の変革をたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要である。鍵となるのは、次世代太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした、革新的なイノベーションである。
・省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立する。長年続けてきた石炭火力発電に政策を抜本的に転換する。
(3)日本は、目標は良くなってきたが、実施に課題
・排出量削減の「目標」については、「ほぼ十分」な水準まで評価があがってきているが、「政策」については、石炭火力の継続的活用など以前として「不十分」なまま。

4.2 2030年に向けた日本のエネルギー基本計画
(1)エネルギー需要
2013→2030 経済成長1.4%/年 人口0.6%減 旅客輸送量2%減を前提として
・2013年 363百万kl 内訳 電力91百万kl 熱燃料等272百万kl
・2030年 280百万kl 内訳 電力78百万kl 熱燃料等202百万kl
・省エネの野心的な深堀りで62百万kl程度削減すると計画している。
(2)一次エネルギー供給
2015年策定の2030年数値と今年度改定の2030年主な数値を比較
・2015年策定の2030年数値 480百万kのうち 再エネ・原子力の自給119百万kl
・今年度改定の2030年数値 430百万klのうち 再エネ・原子力の自給129百万kl
・なお水素・アンモニアは全体の1%弱の4百万kl程度である。
・石炭は122百万klから82百万klと約30%程度削減した数値を計上している。
(3)各電源を電力システムに受け入れる場合
・天候・時間帯による太陽光・風力の発電量変動等を吸収する際は、原則、LNG→石炭→揚水→太陽光・風力の順に出力調整することになる。
・石炭火力について、2030年の新設は高効率を想定しているため、他の効率の悪い石炭を停止する断面が増え、高効率の追加分は高い設備利用率で動かすことになる。・
・一方、調整力が高くない石炭の追加で、瞬発力が高いが費用も高いLNG火力を大きく伸び縮みさせて調整局面が増える。

5. COP26以降のビジネス潮流 

5.1 企業の動き
(1)企業の気候変動対策の大きな2つの流れとしてバリューチェーン全体での削減と長期ではゼロを目指す。
(2)主要10カ国における企業目標のタイムフレーム別の数は日本企業の数も多いが、新興国・途上国企業も多くなってきいている。
(3)代表的な企業の事例
・2010年にソニーは2050年までに環境負荷ゼロを目指すビジョンを発表している。
・2019年にマイクロソフトは2030までにはカーボンネガティブを目指すことを宣言した。
・石油大手BPが、2050年までにネットゼロ企業になるという戦略を発表した。
(4)ネットゼロを目指す企業
・10年以上前から存在するが、過去2〜3年で劇的に増えている。
・世界の企業の中で、ネットゼロを掲げる企業が2019年から2020年に2倍になっている。
(5) 企業に求められる「1.5℃と整合した」について、SBTi(パリ協定に沿った目標策定のグローバルスタンダード)の承認を世界全体では694社、日本では67社が受けている。
・日本では現在までに承認を受けた目標を持つ140社のうち、37社は中小企業による取得である。
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5.2 COP26で様々な宣言があった。
・インドは2070年、タイは2065年、ベトナムは2050年までにネットゼロ目標を発表した。
・様々な有志連合により2030年までに森林破壊をゼロにする宣言を発表した。
・石炭+αに関する宣言では、46カ国参加の国内石炭火力廃止や海外石炭支援停止、脱石炭連盟への参加国48カ国、また、ガス、石油からの脱却を訴える連盟が発足した。
・GFANZ(気候変動に焦点を合わせた金融企業連合体)に日本企業も多数参加
・IFRS財団が、国際サステナビリティ基準審議会を設立した。サステナビリティ開示基準の国際標準が設定されていく。

5.3 日本国内の動き
・大手企業ではサプライチェーンとも協業し、環境負荷の低減をさせる。
・派手さはないが、きわめて重要な住宅・建築分野では国交省・経産省・環境省による住宅・建築物の省エネに関するロードマップマップでは、2025年までに省エネ基準適合義務化、
2030年に新築される住宅・建築物についてZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能が確保され、新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が導入されていること。
・これらを提供できる住宅供給事業者・建築事業者が生き残る。
・脱炭素の波は金融に、そして、地域にも来ている。サステナビリティ・リンク・ローンの広がりがある。
・環境省・経産省も、排出量を算定することに対して、手厚い情報提供および企業事例の提供を行っている。
・日本のCOPの流れは社会の津々浦浦まできている。

6.まとめに代えて 何のためにやるのか

6.1 気候変動によるリスクに曝される子供たち
・UNICFFは、子供たちの気候変動に関するリスク、子供たちの脆弱性について、独自の指標(CCRI)を作成した。
・世界の22億人の子供の約半数にあたる約10億人の子供たちが、「極めてリスクが高い」と分類された33カ国のいずれかで暮らしていると指摘している。

6.2 ユースたちの声
・今回COPでも前回の会議から引きつづき大きな流れとして多くの若者が集まり、デモ行進が行われた。
・交渉中でも、このような若者たちの声に言及し、本会合で1.5℃が目標とされなければ、子供や孫たちの世代に対して取り返しがつかなくなるという発言が多く聞かれた。この問題を機に、多くの若者が声を上げていた。
・これから最も被害を受ける将来を支える若い人の声を国際社会がどう受け止めるか、それにどう応えるかが、今の国際社会の流れである。

<質疑応答>

Q:COP26への我が国からの参加者は従来と比べてどうだったでしょうか
A:政府代表者はいつも通りでしたが、企業系は若干少なかった。経団連の代表は送らないとしていましたし、企業の方は帰国しても2週間の隔離で動けない支障もありました。行く直前の現地での対策やホテル代が1泊5万円で1週間通して予約しななければ取れない状況などでハードルが高かった。

Q:日本は、目標は良くなってきたが、実施に課題があると世界から見られているが、政策は方策なので、問題ないと考えますが、世界は本当に目標を達成できるとみているのでしょうか。
A:目標を立ててはいるが、石炭火力の対応とか、電気自動車も進行していない、建物の断熱強化も速やかに実施するのか、世界は懐疑的に見ている。
Q:宣言したことで世界から見られていくということでしょうか。
A:その通りです。

Q:日本では、効率の悪い石炭火力は廃止し、高効率の石炭火力は稼働していくとしている。また、高効率石炭火力は途上国に設置していくとしている。原子力に頼れない中、電力の安定供給のためエネルギー政策を展開している。各国は具体的にどう進めているかメディアからの情報が入ってこないので教示してほしい。
A:メルケル首相の政策で、産炭国であるドイツでは、石炭は主要エネルギー源であり、今後、段階的に廃止し、2038年(今後、2035年への前倒しを検討予定)までには、全廃する方針である。石炭火力発電の完全廃止に向けた、段階的な廃止計画・代償措置など包括的な枠組みの脱炭素法の制定で発電事業者への廃止費用を補償、産炭地域への財政支援等が行われている。欧州ではこれまで20年以上かけ建築物の断熱強化を推進している。また、EVやPHEVに強制導入が行われているが、日本では強制導入はないため、EVの導入に大きな遅れがある。

Q:気候変動問題=脱炭素問題ですか。当初COPは生物多様性の損失問題から始まったように思いますが、脱炭素問題よりも地球の環境問題の根本原因は温暖化ではなく世界人口の異常の増加が地球のバランスの取れたシステムに急激な変化をもたらし森林伐採などの広範囲な環境破壊をさせているのではないでしょうか。
A:確かに人口増加は環境負荷を増大させますが、それだけが原因ではありません。
森林破壊は中南米や東南アジア、アフリカで発生しています。その原因は日本も消費に加担していますが、中国での大量消費があります。COPには今回のCOP26国連気候変動枠組条約締約国会議とCOP15の国連生物多様性条約締約国会議があり、この会議はコロナ禍の影響で2部構成になり、1部は今年10月にオンラインで、2部は2022年4月に中国の昆明で開催する予定です。

Q:12月14日のニュースでEVシフトに後ろ向き気だったトヨタの社長が、2030年にはEVを350万台生産すると発表表しましたがこの真意は何でしょうか。
A:トヨタがEVに力を入れるとのことですが、販売数量約1000万台のうちの350万台ですから、世界のトヨタがどうするのか期待がかかっています。世界の自動車業界はEVに向かっています。COP26でのゼロエミッションにはトヨタ、ドイツ、アメリカの主要自動車会社が入っていなかった。

Q:日本では石炭火力でアンモニアを石炭と混焼し、2040年にはアンモニア専焼火力にし、2050年にはネットゼロ火力にする方向で動いていますがどう思われますか。
A:水素、アンモニア否定しませんが、鉄の製造に水素還元製鉄などは必要だと思います。しかし、2040年まで石炭を燃やし続けるのかというと賛同できません。

Q:気候変動によるリスクに曝される子供たちというお話がありましたが、若者たちに石炭火力をどうすればよいか決着をつけさせれば良いと思いますが、WWFジャパンは若者たちとかかわる活動をしていますか。
A:我々の組織はどちらかといえば若者にあまりアピールできていない団体です。でも、いろいろなイベントで若者たちと話し合っています。COP26では日本主催のジャパン・パブリオンでイギリスの若者とCOP26の内容について何が大切かについて話し合いました。また、最近、高校生にエネルギー問題についてのワークショップを開催しました。

Q:ポール・ホーケン氏による「Drawdown The Most Conprehensive Plan Ever Proposed to Reverse Global Warming」
(日本名:地球温暖化を逆転させるために提案された最も包括的な計画)が、ニューヨークタイムズ社から出され、今年その日本語訳が書店に並ぶようになりました。WWFではこの本並びにホーケン氏の活動をどのように評価していますか。
A:解決策のリストを整備し、可視化するという活動自体は意義があと思いますが、それを世界的にどう実行していくかが課題なので、WWFとして特別にこの活動を支持しているわけではありません。

Q:ホーケン氏は「一般の人が何ができるか、そしてそれがどのような影響を与えるかについての検討結果を書いた本である」と言っています。事実、80種類の二酸化炭素の削減効果を取り上げ各々について削減量(トン)を算出しています。例えば廃棄食料を減らすことにより2050年までに705億トンの二酸化炭素を減らすことが出来ると試算しています。これをWWFではどのように評価していますか。
A:個別の施策の正確さを検討することをしていないので、その点は判断できませんが、一般論として、食品ロスを減らすことによる削減は大事だと考えています。

Q:WWF では民間レベルでのカーボン・ニュートラル活動をどのようにとらえていますか。私は「ゴミの分別回収」がいつの間にか当たり前になったように、民間レベルでの、全国民の意識改革が必要だと思っています。山岸さんのお考えとそのために私たちが取るべき行動についてご教授願います。
A:それぞれの人々が取り組むべきことは確かにあります。その点では、下記文献が参考になります。
https://www.iges.or.jp/en/pub/15-lifestyles/ja
ただ、私としては、それだけではなく、先の衆院選や、今年の参院選で、有権者としての投票行動にしっかり気候変動対策意識を反映させること、商品や企業の選択において気候変動対策を考慮することなどを通じて、自分の外側、社会を変えるような行動こそが大事だと感じています。

文責:立花健一

講演資料:COP26が示した国際潮流を読む
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2021年11月25日

EVFセミナー報告:日本の風力発電の現状と将来展望

演題:「日本の風力発電の現状と将来展望」
講師:加藤仁様

一般社団法人日本風力発電協会 代表理事、日本風力開発(株) 副会長 
Web視聴開始日:2021年11月25日
聴講者数:59名

講師紹介
・1977年3月 広島大学 政経学部 経済学科卒
・1977年4月 三菱重工業(株) 長崎造船所船舶営業部 
・2008年4月 同社 本社 エネルギー・環境事業統括戦略室長
・2013年4月 同社 執行役員 原動機事業本部長兼風車事業部長
・2017年4月 MHI保険サービス(株)
・2017年7月 日本風力開発(株) 副会長
・2018年5月 一般社団法人日本風力発電協会 代表理事

講演概要
地球温暖化の影響で、世界各地で異常気象が頻発しており、電力エネルギー源の脱炭素化に向けた取り組みが待ったなしの状況下、有力な再生可能エネルギー電源の柱となる洋上風力発電について、先行する欧米・アジア各国の取組状況を紹介しつつ、我が国における現状と将来展望についてご解説いただいた。洋上風力発電を導入拡大していくことは、温室効果ガス大幅削減による気候変動対策に資するのみならず、エネルギー自給率の向上によるエネルギー安全保障の確立、大型の発電設備の開発・建設に伴う新たな産業の創出により、グリーン・リカバリーを実現していく意義がある。我が国での洋上風力発電の導入は緒についたばかりであるが、欧州における導入に向けた過去20年間の取組みの知見と我が国産業界の技術ポテンシャルを活かし、向こう10年で欧州に追いつくことが可能との展望が示された。EVFセミナーで風力発電をテーマとした講演は初めてで、聴講者も大いに触発され意義深い講演となった。

T.  講演内容

1.世界の洋上風力導入の動き
(1)脱石炭に向けた世界の取り組み
・地球温暖化の影響で、世界各地で異常気象が頻発しており、電力エネルギー源の脱炭素化に向けた取り組みが待ったなしの状況。
・2017年11月に、温暖化の原因となるCO2の一番大きな発生源となる石炭発電からの移行を促進する国際的な連盟「Powering Past__Coal Alliance(PPCA)」が発足。同連盟宣言文では「OECDやEUでは2030年までに、他の国々では2050年までに石炭火力から脱する」とし、そのために、<政府>は現存する従来型石炭火力を廃止、停止、<企業>は石炭火力の電力を使わない、<共通>の取組みとして、クリーンな電力を政策や投資で支援し、CCS無しの従来型石炭火力に対する投資を抑制する、としている。
・欧州では脱石炭火力に向けた動きが進んでおり、原子力発電の比率が高く石炭火力の比率が低いフランスでは2021年中に、英国では2025年までに、産炭国であるドイツも2038年までに石炭火力を廃止する計画を発表しており、ドイツではCOP26で更に前倒しする動きになっている。
・ドイツの状況を具体的にみると、2020年1月、メルケル政権において、2038年までに脱石炭火力を実現する計画について、石炭を産出する4つの州政府と合意。構造転換を後押しする投資などで計400億ユーロ(約4.8兆円)を拠出。RWEなどのエネルギー会社にも計43億5000万ユーロを補償する方針。
・EUでは、域内の温暖化ガスの排出を2050年に実質ゼロにする目標実現に向けて、今後10年で少なくとも1兆ユーロ(約122兆円)規模の投資計画を公表。スウェーデンやフィンランドが電力に占める再エネ比率がすでに4割を超える一方、ポーランドやルーマニア、チェコなど旧東欧諸国は石炭火力の依存度が高く、そうした国々の構造転換を後押しし、域内全体で目標達成していく方針。

(2)欧米・台湾における洋上風力発電の動向
・欧州の電源構成をみると、風力発電は2016年に設備容量ベースで150GWを突破、石炭火力発電を抜いて第2位のポジションとなった。2020年には、EU27ヵ国で再生エネルギーの発電量の割合は38%、石炭火力などの化石燃料の割合37%を抜き、再エネが電力の重要な柱となっている。
・EUにおける2020年の風力発電量は396TWhで前年比9%増。電力構成の割合は14%で再エネ電力の中で最も高い割合となっている。
・欧州で風力発電の普及を図る協会 Wind Europe においては、2019年11月コペンハーゲン開催の Offshore Wind Europe 2019 で、「2050年に洋上風力450GWを目指す」と発表。現状、洋上風力の発電容量は約20GWであり、相当ハイペースの投資が必要。
・一例として、北海の浅瀬に人工島を建設し、洋上風力の建設・メンテナンス・送電系統の拠点(ハブ)にしていこうとのプロジェクトも既に発表され、具体化が進められている。
・英国では、2019年3月に洋上風力発電関連産業にかかる官民一体の協議体「洋上風力セクターデイール」を発足(既存の連絡組織から移行)。政府と洋上風力関連産業界が、2030年までに洋上風力30GWを目指すことに合意。政府は電力買取契約締結で支援する一方、産業界においては、洋上風力発電英国調達比率を60%に引き上げ、直接雇用を現在の7,200人から27,000人に、洋上風力発電関連の輸出を5倍に増やすといった、産業育成政策が進められている。
・米国においては、これまでテキサスやカリフォルニアを中心に陸上風力発電の導入が進められており、既に風力関連部品工場の数は500以上、25,000人超が風力関連産業に従事している。洋上風力発電においても、その導入拡大は雇用創出・投資誘致・港湾や沿岸地域の活性化・国内製造業の繁栄に寄与するものと認められることから、洋上風力発電導入量を2025年に9〜14GW(国内生産率21%)、2030年に20〜30GW(国内生産率45%)とするシナリオを策定。その経済効果は、関連雇用数で 1.9〜4.5万人(2025年)、4.5〜8.3万人(2030年)、年間経済算出量で 6〜16兆円(2025年)、14〜28兆円(2030年)と評価されている。
・アジアに目を向けると台湾の導入が進んでおり、2020年6月時点で128MW(1サイト)が稼働中で、約750MW(2サイト)が建設中。導入目標を2025年に5.6GW、2035年に15.6GWとしている。政府は、現地産業育成のため、風車・基礎・海底ケーブル・使用船舶等に対して、厳しい現地調達要求(LCR)を設定。欧州メーカーは、現地企業との協業や投資・雇用を加速させている。

2.洋上風力を取り巻く国内の状況
(1)第6次エネルギー基本計画におけるエネルギーミックス
・2030年度における再生可能エネルギーの導入目標は、政府目標である2030年度の温室効果ガス46%削減に向けては、もう一段の政策強化等に取り組むこととし、その政策強化等の効果が実現した場合の野心的なものとして、合計3,360〜3,530億kWh程度(電源構成では36%〜38%)としている。
・風力発電(陸上+洋上)の発電量の2030年目標は、陸上17.9GW、洋上5.7GW、日本全体の発電電力量に占める割合で約5%と見込まれている。この目標実現に向け、2030年まで100万kWh/年のペースで、洋上風力発電の入札を実施していくこととしている。

(2)2030年のエネルギーミックスにおける原子力の課題
・原子力の電源構成割合は、第5次基本計画と同じく20〜22%程度(設備容量に換算すると3,356万〜3,779万kWh)であるが、昨今の状況から実際に再稼働となるのは計画を下回る懸念がある。原子力が計画を下回った場合、石炭火力でカバーするという訳にはいかないため、必要な電力が不足するという事態も生じかねない。
・政府においては、再稼働は最低限実現させるとの方針が改めて確認され、これから再稼働を確実に進めるアクションがとられてていくものと考えられる。
・2030年はクリアーしたとしても、原子力発電設備の寿命を考えると将来的に主要電源としてカウントできなくなり、大きな課題となっている。

(3)水素ロードマップとグリーンアンモニア
・水素については、太陽光や風力の余剰電力でグリーン水素を製造し、エネルギー源として貯蔵する方策が、欧州で進められている。
・アンモニアは水素と窒素の合成物なので、グリーンアンモニアを製造する為にはグリーン水素が必要だが、グリーンアンモニア製造時にロスが生じ、更にグリーンアンモニアをエネルギー源として電力を起こす過程でもロスが生じる。したがって、カーボンフリー電力源としては、グリーン水素を直接燃焼させコンバインドサイクル(複合火力発電所)を回していく方が効率的。
・このような背景から、COP26において、アンモニアは石炭火力の延命を図る手段ではないかとの議論を惹起し混乱が生じている。日本風力発電協会(以下「協会」)としては、グリーンでなくともブルーアンモニアであれば、カーボンフリーでなくても火力発電のCO2削減に寄与し、経済効率性の観点からも過渡期においては有用性が認められるため、アンモニアを電力源として使用する場合のグランドデザインを明確にし、議論を整理して欲しいと政府に提言している。

3.洋上風力導入の意義と課題
(1)洋上風力拡大の意義
・風力や太陽光といった再エネは、CO2削減による温暖化防止に資するのみならず、国内調達がほとんどできず海外調達に頼らざるを得ない化石燃料と異なり、再エネは国内で自給できるため、エネルギーの安全保障に資する。
・また、洋上風力発電は輸入が難しい大型の設備となるため、国内に関連の新たな産業を創出し、グリーンリカバリーの実現につながっていく。

(2)洋上風力の産業競争力強化に向けた基本戦略
・洋上風力の導入拡大を図り産業競争力を強化していくための官民協議体が組成され、「洋上風力産業ビジョン(第1次)」が発表された。
・同ビジョンでは、官民各々が目標を明示・設定。政府は、入札により、2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000万〜4,500kWの案件を形成するとの導入目標を明示。産業界は、国内調達比率を2040年までに60%にし、着床式発電コストを2030〜2035年までに8〜9円/kWhにするとの目標を設定しコミットした。
・同ビジョンの発表により、これまでアジアでは台湾や韓国に目を向けていた欧州の発電事業者などが、日本は、両国より大きなマーケットが期待できるもとして着目し、パートナーシップが具体化しつつあるのがここ一年の動き。

(3)洋上風力の主力電源化に向けた道筋
・協会では、今後10年で産業の基盤を形成、2030年以降早期に国際競争力を持つ国内産業を育成し、3つの目標(導入量,コスト,国内調達比率)の実現を目指すとの道筋を示している。
・欧州では、20年前から洋上風力導入の取組みに着手しており、現在既に、導入量は累積約23kWh、コストは安いところで5円/kWhと産業化の基盤が形成されている。
・我が国は、欧州がこれまで苦労して取り組んできた経験・知見を活かし、向こう10年で現在の欧州のレベルにキャッチアップ可能としている。

(4)日本の洋上風力のポテンシャル
・我が国は英国と同様、島国で海に囲まれており、排他的経済水域の広さは世界8位。洋上風力設置の対象となる水域は充分ある。
・協会で、水深と広さ、その水域での風力など一定の条件を置き導入可能量を調査したところ、着床式で約128GW、浮体式では約424GWのポテンシャル。
・着床式の場合、フェリー航路や漁業操業水域との調整があり、現実的にはポテンシャルの3分の1の40GW程度になるものとみているが、浮体式は1つのプロジェクトで原子力発電1基分相当(1GW)の発電容量となる規模が期待でき、主力電源としてのポテンシャルは充分にある。

(5)導入促進区域等の指定状況
・政府は「再エネ利用法」に基づき、着床式の導入促進区域を指定し、参入事業者の入札を実施しているが、秋田県(由利本荘市沖・三種町および男鹿市)と千葉県(銚子市沖)については、本年5月に入札が締め切られ、現在、事業者選定の評価が進められている状況。
・来年には、秋田県(能代市沖)の入札を実施することが発表されており、その他の指定区域についても順次入札が進められていくものとみられることから、協会としては、2030年までに1000万kWの導入目標の実現は、案件としては充分あると考えている。

(6)送電網の整備
・洋上風力は、水力発電の大型ダムや原子力発電と同規模の大型設備となるため、北海道・東北沖や九州沖などの豊富な風資源のある需要地から遠隔地に設置されることになる。
・現在の送電網は、9電力が各々の管轄区域で完結することを前提に整備されているが、風力発電は遠隔地に偏在することとなるため、管轄区域を超えた広域の送電網整備が必要。このため将来的には既存の電力会社の区域を越えて、広域で送電網の整備・運営・管理を行う統括送電会社が必要となる。
・広域送電を可能とすることにより、自然条件で左右される再エネの発電量を平均化し、電力安定供給に資する効果も期待できる。
・具体的には、北海道からは海底ケーブルを新設し直流で送電、九州・中四国では既設の連結送電線を増強し整備していくマスタープランの検討が進められている。
・マスタープランは、今年5月に中間整理が取りまとめられ、来年度中には最終プランが策定される予定。同プランにおいて、送電網整備にかかるコストと得られる便益を試算しているが、便益がコストを上回り有用と試算されている。
・我が国と同様の島国である英国においては、海底ケーブルによる遠距離直流送電の整備が進んでいる。陸上送電の場合、送電線鉄塔建設にかかる地権者との調整にかなりの時間がかかるが、海底ケーブルの場合、漁業者との調整はあるとしても、陸上と比較し短期間で長距離の送電線敷設が可能。また交流に比べ直流はロスが少ないとのメリットがある。我が国で直流送電は馴染みがないが、欧州のノウハウを輸入すれば技術的には可能であり、マスタープランでは、北海道からは海底ケーブル直流送電で計画している。

(7)拠点港の整備
・風力発電が設置できる場所は、洋上風況を考慮すると、北海道・東北、関東・東海、北九州に偏在している。
・洋上風力発電の導入を長期・安定的に着実に進め、また工事を効率的に実施しコストを低減するため、中期的にはいわゆるプレアッセンブル機能を併せ持つ大規模な拠点港の計画的な整備が必要不可欠。
・協会は、拠点港の整備にあたっては、規模・場所等の効率的なあり方を検討し、促進区域の指定及び中長期導入目標に整合した整備が必要である旨、国土交通省と協議している。

4.洋上風力とその関連産業
(1)洋上風力発電の基礎と風車のサイズ
・洋上風力発電の基礎は、海底に直に基礎を設置する着床式と、風車本体を洋上に浮かべ係留索で固定する浮体式がある。
・陸上風車は、騒音や輸送などの問題があり建設可能なサイズは自ずと限界があるが、洋上風力は、騒音問題の懸念がなく、予め陸上で組立て船で運搬できることから、非常に大きなサイズとなっている。
・現在商用化しているもので最大機のV174は、風車面積23,779u、定格出力9.5MW、翼長85m、ローター径174m、高さ約197m、タワーを除く重量〜500tで、ローター径が200mを超えるさらに大型サイズ機の商談も進められている。

(2)海洋の産業利用と洋上風力発電建設
・洋上風力発電建設箇所の調査にあたって、音波探査、SPT(ドリリング)、CPT等を実施し、地底の状況を調査する洋上地質調査船、風況、波浪等の気象・海象のデータを計測する洋上気象観測塔、洋上風力発電設備の点検保守作業や海中調査業務として使われる水中ドローンなどのインフラ整備が必要。
・実際の建設に際しては、プラットフォームを海面上に上昇させてクレーン、杭打ち等の作業を行う自己昇降式台船、海底ケーブルを敷設する船、洋上風力発電所の建設、保守、運用に作業員等を輸送する船などの工事専用船舶が必要で、欧州では、沖合設備に対応するための洋上風力建設・保守用の船員の宿泊施設となる船も運用されている。

(3)日本の風力発電関連産業の現状
・国内では陸上風力を展開した際に対応してきたメーカーがあり、発電機・増速機・軸受等の製造拠点は存在。洋上風力向けには相応の投資が必要となるため、これらのメーカーの再参入が期待される。
・つまり、潜在的な技術力とものづくりの基盤がある等、産業形成のポテンシャルを有していると言えることから、これらのメーカーに再参入を促し産業化を図っていくことが必要である旨、経済産業省に提言している。

(4)新産業「洋上風力発電産業」の創出・形成
・風車の部品点数は1基当り1〜2万点あり、自動車産業に匹敵するすそ野の広さがある。また、着床式の基礎は、直径約8m、長さ役60m。地震災害等への備えを考慮すると、場所によっては重量1500トン〜2000トンの大規模設備になる。こうした大型の鋼材を輸入するよりは内製化することが望ましく、既存産業である製鉄、造船、鉄構などのを再活性化が期待される。
・足下では、JFEホールディングス、東芝(GEと提携)、住友電工、東レ、五洋建設、日立造船が製造・増産に乗り出しており、産業界も興味をもって少しずつ進みだしたのかなと考えている。


(5)洋上風力人材育成プログラム
・洋上風力は新しい取り組みで、設計・製造・運用に関わる人材育成が大きな課題となっている。
・英国では、洋上風力サプライチェーン全域において必要となるスキルの棚卸を実施している。我が国でも、洋上風力発電に必要なスキルの棚卸しを行い、スキル取得のための方策を産官学で連携して検討することとしており、文部科学省も加わり、工業専門学校などの教育プログラムを検討している。

5.JWPAのミッション・ビジョン・バリュー(2021年5月策定「行動指針」)
<ミッション> 『風力発電の普及・拡大を通じて、人々に安心で安定した暮らしを届け、持続可能な社会の実現を目指す。』

< ビジョン > 『脱炭素社会の実現に向け各界の知識、経験、総意を結集して、風力発電の最大限の導入、運用をリードする。風力発電を経済的に自立した主力電源にするとともに、国際的にも競争力のある風力発電産業を構築することを目指す。』

< バリュー > 『個社や個別の業界の短期的な利益に偏ることなく、長期的且つ国家的な視野に立って、風力エネルギーの利活用に必要 な施策、政策を、責任を持って実行していく。』


U. 主な質疑応答

Q:浮体式は欧州で中心的な技術となっているのか? 我が国では台風の影響が懸念されるが?
A:欧州では、遠浅の北海が中心で、商用化しているのは着床式。浮体式は実証実験の段階であるが、モノパイル(基礎)といった重量のある設備が不要でコスト面の優位性があることから、2025年に商用化を目指して技術開発が急速に進んでいる。台風の影響については、風と風車の連成測定を行い、風向きに応じてブレードの角度を変えることで凌げるとの実験結果が出ている。係留ポイントが流されてしまわないかという点については、これから実証実験をしていくこととなる。我が国は造船大国で技術ポテンシャルがあり、先行する欧州のデザインや実証実験の結果を応用することで、浮体式の技術開発は短期間で進んでいき、欧州をキャッチアップ可能と考えている。

Q:東日本大震災級の大型津波が発生した場合、浮体式に影響はないか?
A:技術的な詳細は承知していないが、津波は、沖合では大きなうねりで遠浅の海岸に近づき波の破壊力が増す。浮体式は沖合に設置するもので、例えばカナダ・ニューファンドランド沖といった大きなうねりが生ずる荒海において、石油掘削リグが影響なく稼働していることから、浮体式に対する津波の影響については懸念はないと聞いている。逆に、浅瀬に設置する着床式の方が波の影響を直接受けることとなるが、鹿島灘の海岸辺りの浅瀬に風車が数基設置されているが、東日本大震災による津波の影響は受けなかったので、着床式も津波の影響は懸念ないと聞いている。

Q:領海とEEZ双方の利用を想定しておられるが、基本は領海での利用と考えておられるのか? EEZまで拡げるとなると、テロ対策といったセキュリティ面が懸念されるが?
A:風力発電の利用にかかる法整備がなされているが、同法では領海利用を前提としている。EEZを利用する場合、関係諸国への通知など国際的な調整が必要となり、まだ利用できる環境は整っていない。しかしながら領海内では必要な電力確保に限界があり、EEZの利用は必要と考えている。浮体式については、2025年から実証実験を開始し2030年から本格稼働させるロードマップを策定しているが、そのタイムスケジュールに間に合うように環境整備をしてほしいと、内閣府に要望している。テロ対策については、検討未着手。

Q:グリーンリカバリーの観点で、関連産業の裾野の拡がりは、太陽光発電と比較しどの程度の規模感か?
A:太陽光発電への投資額は、パネル本体がほとんどを占め、関連産業は簡単な基礎工事と設置台の組立ぐらいしかない。洋上風力発電は一箇所で、30万〜50万KWの規模であり、2000億〜3000億円といわれている。その内、3分の1が風車への投資額。したがって建設工事だけみても、太陽光と規模感が違う。ナセル(増速機、発電機など)の部品点数は1〜2万点あり内製化に時間はかかると思うが、かつての自動車産業がそであったのように、最初は輸入品中心であっても、相応のマーケットが形成されれば国内部品メーカーが参入し内製化が本格化していくものと思われ、裾野の拡がりという側面でも、太陽光と比べ規模感が違う。

Q:洋上風力発電のような大規模プラントの場合、環境アセスメントが必要であり、観光地であれば景観の問題もあると思うが、着工するまでに時間がかかるのではないか?
A:設置個所は政府が予め候補地を指定し環境アセスメントを実施している。また、入札に当たっては、地域協議会を立ち上げ、事前に漁業調整や地域連携などの課題を協議し、協議が整った所から入札を実施するとの手順になっている。


Q:太陽光は、設置後20年で約2割が廃棄となるが、無秩序に参入を許したため、廃棄時にオーナーが代わっているケースが多々あり、公害対策の面で懸念がある。洋上風力は大規模な設備でオーナーが簡単に代わるということはないだろうし、有力な産業と期待されるものと考えるがどうか?
A:太陽光は、簡単に設置できるため普及し再エネ電力の拡大に貢献したが、そのため投機的に投資される側面もありオーナーも頻繫に代わるケースが多く、産業面から考えるとインフラとしての電力事業とはカテゴリーが違う。洋上風力は大規模な設備投資となるため、参入してくるのは発電事業者。加えて、参入の条件として、事業売却には国の承認が必要で、廃棄費用として建設費の7割相当を織り込んだ期間20年の事業計画を提出し適格性の審査を受けることとなっており、インフラとしての電力事業と位置づけられるものと考えている。

Q:洋上風力は大量の鋼材を使用するため、塩害に伴うメンテナンス費用が相当かかると思うが、費用対効果で経済面のバランスはとれるのか?
A:結論を申すと懸念はない。欧州で既に20年間の運用実績があり、塩害により想定を超えたコストが発生した事実はない。最近は塗装技術も進んでおり、海中のモノパイルには特殊な塗装を施すので、全面的に再塗装するようなケースは想定されず、欧州での実証結果を踏まえメンテナンスコストを見積もれば、その範囲を超える特殊なケースが発生する懸念はないと考えている。

Q:参入事業者は既存の発電事業者か? ベンチャーが新規参入に手を挙げるケースもあるのか?
A:国内で、陸上風力発電を手掛けていた事業者が興味を持ち参入に動いている。また、大手電力会社も、新規の火力発電所を建設できないため、それに代わるものとして参入を検討している。ただし、洋上風力は1箇所あたり数千億円の投資となり、国内でのノウハウも乏しいことから、海外で洋上風力を手掛けている海外発電事業者とパートナーシップ協定を締結し参入するケースが大層を占める。

文責:伊藤博通

講演資料:日本の風力発電の現状と将来展望
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2021年09月22日

EVFセミナー報告:「インフォデミックでフェイクな時代をどう生きるか」

演 題 : 「インフォデミックでフェイクな時代をどう生きるか」
〜ウイルスのパンデミックならぬ偽情報の感染・爆発〜

講師:小谷 賢 様

日本大学危機管理学部教授
Web視聴開始日:2021年9月22日(水)
聴講者数:57名

講師紹介
1996年 立命館大学国際関係学部卒業
1998年 京都大学大学院人間 ・ 環境学研究科修士課程修了、同博士後期課程進学
2000年 ロンドン大学キングス・カレッジ大学院修士課程修了。(指導教員はブライアン・ボンド、マイケル・ドックリル)
2004年 京都大学大学院人間 ・ 環境学研究科博士後期課程修了、博士(人間・環境学)学位論文『イギリス外交政策の源泉 : 1940-41年におけるイギリスの対日政策とインテリジェンス』
2004年 防衛庁防衛研究所戦史部教官
2008年 - 2009年 英国王立防衛安全保障研究所 (RUSI)(兼任)
2011年 防衛省戦史研究センター主任研究官、兼、防衛大学校講師
2016年 日本大学危機管理学部教授 (現職)
専門はインテリジェンス研究で、著書は『日英インテリジェンス戦史』他。 NHK「英雄たちの選択」レギュラーゲスト。


講演内容
1.ネット上における誤情報・偽情報の実態
・ネットの普及によって我々の生活は便利になってきた。ネットから日々の必要な情報を得ている。他方ネット上には多くの間違った情報やフェイクニュースがあふれている。どのように役立つ情報を見つけてくるかが大きな課題になっている。
・フェイクニュースの問題として多くの人がだまされ、情報で社会に混乱を招くケースがでてきている。最近では「マスクが品薄になる」「トイレットペーパーが無くなる」といった例がある。
・米国のスタンフォード大学の調査結果では、若者の特徴として「出典を確認して評価するという基本動作がなされていない、多くの人は元記事を読まずにニュースを拡散、拡散がインフォデミックを招く」と説明している。

2.情報とは
・そもそも情報とは三種類がある。
 シグナル:雑音・うわさ・デマ
  インフォメーション:データ・生の情報
  インテリジェンス:加工・分析された情報、諜報
・また誤情報と偽情報を正確に定義すると次のようになる。
  Mis-information 悪意のない誤った情報
  Dis-information 悪意のある情報。正誤が含まれる。政治的意図あり。
  Mal-information 悪意のある暴露情報。プロパガンダ。
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・「フェイクニュース」は曖昧な言葉で、できれば避けた方がよい。

3.国際間におけるフェイクニュースの実態
・国際政治学の専門家でさえ、よくフェイクニュースにだまされることがあり、情報操作が国際間でも大きな問題となっている。まさにインフォデミック(情報の感染爆発)の時代と言われるようになってきた。
・言葉だけで無く写真によるデマ情報もあり見極めが本当に難しい。
例1.オバマ大統領就任時にはワシントン広場に大勢の人が集まったがトランプの時には人はまばらであったとする写真は別の日に撮影したモノであった。
例2.福島に咲いた奇形の花の写真が世界中に拡散されたが、実はよくある自然現象で嘘の写真だった。
例3.ロシアの高官と北朝鮮のキムジョウンの握手の写真では表情が柔らかいキムジョウンの写真がロシアでは報道された(「ディープフェイク」)。友好性を国民に強調したいというロシア政府の意図があった。
例4.2016年6月のブレグジット選挙でEUの離脱が決定したが、選挙前の「英国はEUに毎週480億円者拠出金を支払っている」という間違った報道による影響が大きい。離脱が有利というように国民が印象づけられた。
・これらのフェイクニュースは「EUvsDisinfo」という真実を暴く組織により明らかになっている。
・情報が多すぎるために真実の情報を得ることが困難な時代。ともすると正確な情報よりも共感できる情報を求めることになってしまう。
・国際政治におけるインテリジェンスとは、外交・安全保障政策の判断のために収集、分析、評価された情報。
・情報にはPush型とPull型。本来は自分が必要になったときに取りに行くのが本来の姿。若い人ほどプッシュ型の影響が大。

4.ロシア・中国の情報操作の実態
・ロシアは偽情報を意図的に流すことにより相手国の国民をロシアに有利なように情報操作している。日本もそのターゲットになっている。中国による情報操作では田中上奏文(日本が中国を攻めれば日本が有利になるという元田中総理の文書)が一つの例。中国ではいまでも日本に不利になるようにこの文書が流布されている。
・ロシアは日本の一部マスコミと親密な関係。ロシアに有利な記事を書かせ日本国民を情報操作するということをやってきた。ロシアインターネットリサーチエージェンシーがフェイクニュースの源泉。この組織では一ヶ月に100のフェイクニュースを作って流すというノルマがあるという。
・このように偽情報と正しい情報を混在して流布させることにより武力を用いずに国際間の対立を煽ることにより相手国を弱体化できる。
例1.ウクライナ問題への介入に躊躇するEUに対して、ヌーランド米国国務次官補が「くそったれEU」と発言したことを盗聴していたロシアがYouTubeを使って拡散。欧米の関係が険悪になった。EUと米国の足並みが乱れた隙にロシアがクリミアに侵入。クリミア半島編入という結果になった。
例2.ヒラリー・クリントンはお金を貯め込んでいるといった悪い情報をロシアが流したためトランプとの選挙戦でかなり不利になったと言われている。
例3.2017年のフランス大統領選やドイツの連邦議会選挙等の欧米の選挙にもロシアが介入。ロシアに続き中国も2020年豪州の選挙、台湾総統選にも介入の疑惑がある。
例4.ファイザーのワクチンによってロシアで多数の死者という情報をロシアが流布。

5.フェイクニュースに対する国ごとの姿勢の違い
・ロシアや中国は自国に不利なニュースについては削除し、フェイクニュースを流した人を罰することも可能。フェイクニュースの拡散を取り締まることが出来る。
・一方欧米や日本は表現の自由が守られているためにフェイクニュースを取り締まることが出来ない。フェイクニュースを流した人を処罰する法律も無い。日本や欧米はフェイクニュースに非常に弱い状況にある。
・取り締まりにくい背景としては、フェイクニュースが正しい情報と間違った情報の両方を含んだSNS上のグレーゾーンにあり、そのグレーゾーンが広く漠然としていることによる。
・サイバー空間におけるディスインフォーメーションの位置は犯罪以上軍事以前のグレーゾーン。グレーゾーンが広くまた取り締まる規制が無い。そういった弱点をロシアや中国は突いてきている。
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6.我々はどうすべきなのか
・偽情報、意見、主観的情報、ファクトの区別を付ける。そのためには、「EUvsDisinfo」、「FactCheck.org」(米)、「ファクトチェック・イニシアティブ」(日)を活用してファクトチェックの必要。そして発信源の特定とネットリテラシーを高めることが重要。
・日本政府としてはたとえ取り締まりが出来なくともファクトチェックをしっかりと行うべき。
・結局個人の努力で自分を守らざるを得ない。その時の注意点としては、
情報にはきちんと最後まで目を通す
多面的に見る
事実と意見を区別しながら文章を読む
といったことが重要。
・またネットリテラシーを高めるためには、事実と意見を区別し多面的に思考する習慣を持つことが大切。


Q&A
Q1:マルインフォーメーションは具体的には女性週刊誌のゴシップのようなものか?
A1:マルインフォーメーションは全くのうそ。完全な創作。これとは異なり、偽情報は真実が含まれているので判断が困難なため要注意。

Q2:ファクトチェックの際にチェックするサイトそのものが間違っているという心配は無いか?
A2:ファクトチェックも間違えている可能性。いくつものサイトをチェックする必要。

Q3:インテリジェンスというとスパイ活動のような印象。日本政府のインテリジェンスはどうなっているのか?
A3:アメリカの情報機関ですら大量破壊兵器があったという誤った情報をトップに上げてイラク戦争が起こると言うことがあった。日本政府の方針としてはそういうダークな世界に近寄らない、秘密工作は行わないと言う方針を採用している。しかしそういった姿勢では今回のパンデミックのように何かあった場合適切な対策を取れず後手後手になるということがある。リスクを承知で情報収集をしていくべきと考える。

Q4:一時期トイレットペーパーが無くなった時があったが、台湾のオードリータンが「お尻は一つしか無い」「ユーモアが噂を超えるか駆逐する」と言ったという記事があった。本当にユーモアで噂を駆逐できるのか?
A4:トイレットペーパー不足という情報がスマホで大量に流れたりするとどうしても人はだまされてしまう。ユーモアでは噂を駆逐できないだろう。

Q5:スティーブジョブスが子どもにはスマホを持たせていないと聞いたが、小谷氏もスマホをお持ちで無いのか?
A5:私自身スマホを持っているがほとんど見ていない。情報を遮断している。自分の子どもにもスマホを持たせていない。情報の取捨選択が出来ない段階でスマホを持つべきでは無いと考えている。

Q6:ファクトチェックのためにAIのサポートを借りることが出来ないか?
A6:流れる情報量の方がAIの能力をうわまわっているのではないか。ロシアや中国は人海戦術で情報をチェックしているのが現状。

Q7:日本で全国紙の新聞が5、6紙ある。ファクトチェックという意味では2、3紙を購読せざるを得ないのか?
A7:2紙を購読すると言っても同じような傾向の朝日と毎日を購読するということでは意味が無い、朝日を取るなら産経というようにバランス良く情報収集の必要がある。

Q8:情報は多面的に判断すべきだが、どうすれば多面的に判断することが出来るのか?
A8:少なくとも反対のことを言っている情報を探すこと。何も反対意見が見つからなかったら本当という可能性が大。適切な情報収集に間違いはつきもの。自分で良い情報収集方法を見つけ出していくことが重要。

Q9:ネットの時代になって正しくない情報が多くなってきた。解決策は無いのか?
A9:時間がたてば誤情報は淘汰されていくはず。さほど心配はしなくても良いのではないか。

Q10:コロナについては多くの誤情報が流布している。全国民に影響を与えているという点では非常にまれな誤情報発生源といえるのではないか?
A10:老若男女すべての人が関心を持つという非常にまれなケースがコロナ。しかもやっかいなのは正しいことが分からないので偽情報が流布してしまうと言うケースといえよう。

Q11:データや真実の活用が重要との観点から言えば、送り手/受け手のエンド同士の直接対話を推し進めることもフェイク情報排除の良い方策ではないでしょうか?(例えばコロナ専門家/尾身氏による直接対話重視の若者たちとリモート対話)
PS,英雄たちの選択は、たいへん楽しく興味深く見ています。Choices shape the course of historyの副題も気にいっています。文字通り温故知新、日本再興の新な道筋を示しているように感じています。
A11.恐らく最大の問題は一般の国民はデータに基づいて判断する教育を受けたことがないという点。スマホの爆発的な普及がその傾向を加速している。他方「情報の発信者と受け手が直接やり取りを行うことで、デマの入る余地を少なくする」というのはその通りで、危機管理の分野ではリスク・コミュニケーションとして知られている。ただリスク・コミュニケーションは手間暇がかかり、参加できるのはごく少数の問題意識を持った人々に限定される。残りの大部分の人々をどのように啓発できるかどうかは、やはり教育の領域になってくるのではないか。あとはAI技術の進歩を待ち。デマやフェイクニュースを駆逐していくことが大切。
ps. 『英雄たちの選択』をいつもご視聴いただきましてありがとうございます。次の私の出演回は12月8日の予定で、太平洋戦争の開戦を扱っていきます。そこでもやはり情報が客観的に検討されない、ということが議題の一つになります。
文責:桑原 敏行
posted by EVF セミナー at 18:00| セミナー紹介

2021年08月26日

EVFセミナー報告:「自動車とエネルギー」〜燃費、各国制度、エネルギーを巡る状況など〜

演題:「自動車とエネルギー」
  〜燃費、各国制度、エネルギーを巡る状況など〜
講師: 江澤正名様
  経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー課長

Web視聴開始日:2021年8月26日(木)
聴講者数:61名

講師紹介

・1995年東京大学工学部卒、通産省入省。石油部 精製課 係長、2003年自動車課 課長補佐(環境・技術担当),2007年ワシントン大学公共政策大学院修了。
・2012年資源エネルギー庁 電力需給流通政策室長、2016年同庁 石炭課長、2018年同庁 新エネルギー課長、2019年同庁 省エネルギー課長、現在に至る。

講演概要

・世界は気候変動問題への取り組み姿勢を強め、主要各国は電気自動車(EV)の普及を急ぎ、急速に化石燃料を使用する自動車の販売を排除する気運にある。日本政府も2050年カーボン・ニュートラルの実現を掲げ、2030年代半ばに電動車100%を目指す方向を打ち出した。長年自動車行政に携わってきた講師には省エネルギー課長の立場にとどまらず、エネルギーから見ると自動車はどう見えてくるのか、この先わが国の電力構成の変化と、自動車業界は環境対応、省エネ対応をどうするのか、目指すべき方向についてご講演頂いた。
・2050年のカーボンニュートラル実現のポイントは、比重を増大させざるを得ない太陽光発電を使いこなせる見通しを持つことであり、そのためには電力需給の調整弁にも使える自動車のEV化が不可欠である。自動車産業の競争力強化と、2050年カーボンニュートラルを組み合わせ、これら二つを同時に進める戦略的思考の重要性が強調された。講演は大変分かりやすく、質疑応答も具体的で活発に行われ充実のセミナーとなった。

講演内容

T.自動車燃費の推移と燃費規制の変遷
・わが国の乗用車燃費基準は1999年に導入され、以来3回基準値の引上げがなされたが、いずれも前倒しで達成、国内メーカーの国際協力を高める結果となった。2030年度燃費基準は2016年実績値に比して32%の燃費向上の大よその平均数値例でいえば25、4km/Lと策定された。

U.主要各国の自動車の燃費規制等
・自動車の販売台数の多いEU、米国、中国の燃費規制等を日本と比較してみると、いずれもCO2排出規制はわが国より厳しい。EUと米国(カリフォルニア州等)は、排出規制を超過すると多額の罰金をかけ、一方EVを販売すると罰金が大幅に減額されるシステム。カリフォルニア州等ではEV専門メーカーのテスラがこの利益を享受し、トヨタなどが罰金を支払っている構図となる。中国は燃費規制に未達の新型車は型式認定が認められない。(詳細は資料7頁〜9頁参照)
・わが国よりも厳しい燃費基準や市場環境が世界標準となり、相対的に緩い日本の規制でガラパゴス化し、結果として日本の自動車メーカーの競争力が低下することが懸念される。

V.エネルギー供給の変化
・第5次エネルギー基本計画(2018年7月3日閣議決定)においても再生可能エネルギーの主力電源化を目指すことが明確化された。今後はさらに太陽光、風力発電の規模拡大が必要とされているが、気候、昼夜の出力変動をいかに調整できるかが大きなポイントとなる。
・近年、エネルギー需給構造に革新的な変化を及ぼす流れが生まれている。それは太陽光コストの急激な低下、デジタル技術の発展と電力システムの構造転換の可能性、小売り自由化など電力システム改革の展開、再エネを求める需要家とそれに応える動き等である。2年前から順次、FIT買取期間を終え安価な電源として活用できる太陽光電力が大量に出現しつつある。
・電気は発電量と使用量が常時拮抗している必要があり、近年、再エネ出力制御(発電抑制=接続拒否)が頻発している。発電抑制時の昼間の時間帯には電力価格が最安値(卸電力市場で0,01円/kWh)になるものの、その安い電力の活用がなされていないのが実情。

W.EVDP(ダイナミックプライシング)実証事業・VPP(バーチャルパワープラント)実証事業

1) EVDP(ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト)の実証
小売電気事業者が卸売電力価格に連動した時間別料金を設定(=ダイナミックプライシング)し、EVユーザーの充電ピークシフトを誘導する実証を実施中。⇒太陽光発電が盛んとなる日中に電力需要をシフトするために、各家庭のガレージにあるEVに充電してもらう。

2) VPP(バーチャルパワープラント)の概要
VPPとは、太陽光発電等の再生可能エネルギー発電設備や蓄電池等のエネルギー機器、系統上に散在するエネルギーリソースを遠隔に制御し、電力消費量や発電量を増減させ、それらを束ねることで発電所のような電力創出・調整機能を仮想的に構成したものをいう。この需給バランスサービスの仲介を行う司令塔役をアグリゲーターと称する。

3) EVDP及びVPPの意義:再生可能エネルギーの導入拡大
近年の再生可能エネルギーの急速な導入拡大に伴い、自然変動電源(太陽光・風力)の出力変動が系統安定に影響を及ぼしており、これを吸収するための調整力の確保が喫緊の課題。そこで、EVDP及びVPPは再生可能エネルギーの供給過剰を吸収することで再エネの導入拡大に貢献することが大いに期待される。

4) エネルギーシステムとEVの融和
将来EVの普及が拡大して従来通り充電時間を自由とすると時間帯別に充電ピークが発生し、電力系統に悪影響を及ぼす可能性があるが、エネルギーシステムと連携することによりその課題は回避しうる。またEVは非常時の供給源としての価値、蓄エネ価値、また電力系統の需給調整機能の価値等、多様な価値を創出することにもつながる。

X.蓄電池としてのEV
・近年普及し始めている家庭用蓄電池は容量が7kWhと小さいが、EVに搭載されているバッテリーは大容量(40kWh)で且つ、バッテリー価格としては価格が割安である。EVの日中在宅率は70%との調査があり、昼間に太陽光発電を蓄電する大容量の”走る蓄電池”として有効に活用することが期待される。
・家庭用蓄電システムの自律的導入拡大を実現するため、目標価格を設定しそれを下回った蓄電システムに対しての支援制度がある。年々目標価格を低下させているのに対して、市場価格が追随して下落してきている。
・再エネを活用するためには、蓄電機能とモビリティ機能を有する電気自動車の最大限の活用が必要。すなわち、太陽光発電の余剰電力をEVの充電に活用し、蓄電したEVから家庭に給電できるシステムの構築が望まれる。
・2019年9月に千葉県で発生した強力台風被害による長期間の停電では、自動車メーカーが被災地にEVを派遣、給電することにより大きな貢献をした。非常時に電動車から給電できることが広く認識されていないというそもそもの課題も存在。

Y.まとめ
・EVの普及は燃費の向上と大容量電池として大きな付加価値を生む。そのためにはEVが電力システムに貢献出来るようにすることが必要。一方、わが国自動車メーカーは各国の厳しい規制、EV普及促進策に積極果敢に挑戦して競争力を維持して欲しい。「自動車産業の競争力強化」と「2050年度カーボンニュートラル」を同時に進める戦略が必要である。
・将来のクルマ
クルマ好きな講師が最後に私見として将来の車として次の車を挙げた。BEV:バッテリーで動く電気自動車、PHEV:プラグインハイブリッド車、HEV(シリーズ):エンジンは専ら発電機として機能し、駆動はすべてモーターが行うハイブリッド車。

(主な質疑応答)

Q1:“ゆがんだ市場も市場だ”とのこと、EUや中国のEV促進策はガソリンエンジン車の牙城である日本を引きずりおろそうとの作戦が隠れていないだろうか。
回答) そういう懸念も考えられるが各国の規制にイヤイヤ合わせてゆくとある時、後れをとってドラスチックに負ける。先んじて行く方が戦略としては正しいと考える。

Q2: EV化が必要なのはわかった。私は最近900世帯のマンション群から地方都市の90世帯のマンションに移住した。前のマンションにはEVは1台も見当たらず、今のマンションには充電設備が1台分しかない。駐車場に充電設備がないとEVは普及しない。
回答)私は住宅の省エネルギーにも関与している。マンションにはEVの充電設備のほか、省エネルギー向け給湯器の普及も大事であり、いいご指摘だ。

Q3:前の質問と重複するかもしないが、EVは価格が高いこともあって必ずしも日本では盛り上がっていない。日本市場をガラパゴス化しないためこれから欧米並みに規制を強め、強制的にEV化を進めようというお考えでしょうか。
回答) 日本も2035年に電動車100パーセンと言っているので、何らかの形でEV化する方向にはある。それをどのように実現してゆくべきかが思案のしどころである。確かにEV 普及のカギは価格で、搭載するバッテリーの価格の動向次第だとの見方があるが、バッテリーの製造は今や自動車メーカの自社開発ではない。ハイブッドに強い日本メーカーの技術をもってすればEUなどにはに負けない。米国のEV専門メーカのテスラの車を見て”これなら負けない”と言ううちにEV化を進めた方がいい。出遅れると追いつけなくなるという懸念もある。

Q4: ヨーロッパではハイブリッド車が少ない。日本のハイブリッド車を排除しているのではなかろうか。
回答) 走行モードの違いだろう。ハイブリッドはストップ&ゴー、頻繁に加減速のある日本の街中のような走行がハイブリッド車の強み。またヨーロッパ車のエンジンンの燃費も向上しているという事情もある。

Q5:バイオマス発電は FIT制度への適合はパーム油しかない。他の植物の油も認めていただく方向にあるが、パーム油以外のバイオマス発電にも力を入れて欲しい。
回答)バイオマス発電は電力供給の調整力があるので大事と思っている。非化石燃料の中で、EVを活用すれば太陽光発電が特に使いやすいということだ。

ところで中国がなぜEVにシフトするかと言えば、国内に石炭資源が豊富なため、石油など海外資源に依存せずに国内資源だけで発電でき、それでEVを動かそうとしているのではないか。ほかにノルウエーなどは水力が豊富なため水力で発電し、EVを動かそうとしている。各国の自動車政策はCO2ゼロという視点だけではないことに留意すべきだ。

Q6:EVが増えるとエンジンが不要になる。エンジン回りにいる業界の多くの雇用が失われることが心配だ。
回答)既存産業の雇用を維持するために競争力強化から目をそらすということは負けのシナリオになってしまう。そうするとある日突然、雇用が無くなる時が来る。そういうことがないように少しづつ準備していくのが大事ではないか。

Q7:日本には7,000万台の乗用車があると言われているが、これらがEVに置き換われば、時間帯によって生じる余剰電力を吸収できるか。
回答)太陽光で日中発生する余剰電力を吸収する力として、電動車の瞬時にためる蓄電能力に大いに期待しているところだ。

Q8:マンション居住者のEV充電のために、居住地区近隣のガソリンスタンドを2030年に間に合う期間に十分な量の充電ステーションに切り替えるという考えは如何でしょうか。
回答)ガソリンスタンドにおける充電設備の設置も一つの考え方ではあるが、急速充電であっても充電にかかる時間は数十分程度と長く、多数のEVがステーションに集中してしまう等、課題も多い。マンションにおける充電設備の設置なども含め、どのような充電設備の整備が必要になるかは重要な論点だ。
文責:佐藤孝靖

講演資料:自動車とエネルギー〜燃費、各国制度、エネルギーを巡る状況など〜
posted by EVF セミナー at 18:00| セミナー紹介

2021年07月21日

EVFセミナー報告:「進む各国のガソリン自動車の販売規制 〜我が国自動車産業の課題と対応〜」

演題:「進む各国のガソリン自動車の販売規制 〜我が国自動車産業の課題と対応〜」
講師:NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)理事・主席研究員 水戸部 啓一様

Web視聴開始日:2021年7月21日(水)
聴講者数:53名
報告担当: 正会員 橋本 升

講師紹介
・(株)本田技研研究所にて商品開発プロジェクト、技術研究、商品企画室マネージャーを経て、本田技研工業(株)環境安全企画室長、経営企画部長
・2010年に退職後、神奈川工科大学非常勤講師、専修大学兼任講師、専修大学社会科学研究所客員研究員を経て、現在、(NPO)国際環境経済研究所理事・主席研究員、早稲田大学自動車部品産業研究所招聘研究員などに就任。

講演の概要

・昨年、気候変動問題への取り組み気運の国際的な高まりから、英国やカナダ、米国などから相次いで2030年代に化石燃料を使用する自動車の販売を禁止する方針が打ち出された。 また日本政府も昨年10月に2050年カーボン・ニュートラルの実現を掲げ、2030年代半ばに電動車xEV(注)100%を目指すとしている。
・一方で、ガソリンエンジンなど内燃機関車からバッテリー電気自動車などへの転換はエネルギーの低炭素化や資源、そして消費者の意識改革など普及のための様々な課題を持っている。また急激な変化は自動車産業のみならず日本経済への影響も極めて大きい。 
・これらの課題を踏まえて日本の自動車産業の行方についてご講演をいただいた。

(注):本報告中にある電動車に関わる用語をまとめておく。
ICE(Internal Combustion Engine):内燃機関。ガソリンやディーゼルエンジン等。
BEV(Battery Electric Vehicle):バッテリー電気自動車。一般的に言う電気自動車/EV。
HEV(Hybrid Electric Vehicle):ハイブリッド車。
PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle):プラグイン・ハイブリッド車。
FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle):燃料電池自動車。
PEV(Plug-in Electric Vehicle):プラグイン車。BEVやPHEVなど外部から充電可能な車
xEV(Electrified Vehicle):電動車。電動化された車(HEV,PHEV,BEV,FCEV)の総称。
ZEV(Zero Emission Vehicle)、ZEV規制:米国カリフォルニア州。
ZEV(BEV,FCEV等)を主要メーカーに一定割合の販売義務付け。
NEV(New Energy Vehicle/新能源車)、NEV規制:中国。
NEV(BEV,PHEV,FCEV)を生産(輸入)事業者に一定割合の生産(輸入)義務付け。

T.主要各国のICE車規制等の動向

T-1)電動車両を巡る動きとEVシフト

気候変動問題が顕在化した1992年に気候変動枠組み条約が採択され各国の重要な課題となった。2008年の洞爺湖サミットに報告されたIEAの2050年2℃の技術シナリオでは、自動車は2050年までに90%以上が電動化される必要があるとされ、自動車企業や各国の政策担当者に大きな方向を示した。
電動車両を巡っては、米国カリフォルニア州が大気汚染問題から1990年にZEV法を制定してBEVやFCEVの実用化を促し、2012年には2018年以降のZEV拡大の枠組みが定まった。同年、中国は自動車産業政策の柱としてNEV規制案を発表し、電動化に重点を置いた。それらの情勢に加え、2015年にドイツVolkswagenのディーゼル排気ガス不正認証問題が発覚し、それを契機に欧州メーカー各社は気候変動対策として電動化戦略を打ち出し、電動シフトは大きなテーマとなった。

T-2)主要各国のICE車規制等の動向

2015年に主要排出国を含む世界のすべての国が参加するパリ協定が成立した。パリ協定では自国の目標を提出し管理するプレッジ&レビュー方式がとられ、長期目標として世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃以下に保つとともに、1.5℃に抑える努力をするとなった。2018年にIPCCは「1.5℃特別報告書」で、1.5℃以下に抑えるモデルではCO2排出量が2050年頃には正味ゼロに達するとの結果を示した。それ以降、EUや主要国で「カーボン・ニュートラル」宣言が相次いでいる。それらの影響から、ガソリンやディーゼルなどの化石燃料を使用するICE車から、CO2や大気汚染物質を排出しないZEVへの転換が各国政府の重要な政策課題となった。世界におけるICE車規制や強化の動きを以下に概観する。尚、各国のICE車販売規制方針は発表のみで、法的な枠組みは今後検討される。
(フランス)2017年:2040年から化石燃料車販売禁止方針を公表。
(英国)2017年:2040年からガソリン・ディーゼル車の販売禁止方針を公表。2020年:2030年(PHEVは2035年)に時期を前倒しとすると発表。
(米国)2020年:米カリフォルニア州知事は2035年に全てのLDV(light-Duty Vehicle:乗用車相当)をZEVとすることを要求するよう州政府に指示。
(カナダ)2020年:ケベック州は2035年にガソリン車新車販売禁止する計画を発表。
(中国)2020年:中国NEV規制改正。2021年以降のNEV比率アップと低燃費車を新設。2035年に環境対応車(NEVと低燃費車)で100%とする目標を発表。
(日本)2020年:経産省は、2030年代半ばに電動車(xEV)100%を目標とすると発表。

U.プラグイン車PEV(BEV+PHEV)の現状

U-1)世界の新車販売とPEVの状況

世界の新車販売台数は2017年に9千6百万台を超えたが、その後中国市場の低迷と、2020年にはコロナパンデミックの影響で8千万台を下回った。PEVの販売は全体市場が落ち込む中で成長を続け、PEV販売比率は4%を超えてきた。2020年のPEVの販売台数は312万台で、BEVが7割、PHEVは3割となっている。欧州が137万台、中国が127万台とこの2地域で世界全体の85%ほどを占めるが、それまでPEVのけん引役の中国が減速し、パンデミックの経済対策による補助金を増額した欧州が急速な成長を遂げている。

U-2)PEVの新車攻勢と中国市場低価格EVの躍進

 世界におけるPEVのモデル別の販売状況は2018年から2020年では大きく変化し、半数以上が2018年以降発売の新型車となった。特に中国や欧州で小型のBEVが伸びている。中国市場では基本モデルで約45万円の低価格な超小型EVが2021年上期のトップとなった。大都市のナンバープレート発給規制の優遇を受けられることが一要因。一方で欧州、特にドイツでは経済対策で補助金を上積みした結果で小型クラスのBEV購入が増えたと言われており、低価格のニーズは高い。

V.ICE車販売禁止政策の課題

V-1)気候変動対策としての実効性

ICE車を禁止し、BEVに転換すればCO2の排出をゼロにすることができるということでは無い。GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)の排出を製造から使用、廃棄までのライフサイクル全ての段階で削減されなければ実効性のある対策には繋がらない。
総合的なエネルギーの評価としてWell to Wheel(油井から車のホイールまでの意味)で見た場合、2015年のデータでは、中国、インド等の石炭火力発電の多い国で使われるBEVはHEVよりCO2排出が多い結果となる、一方で水力発電がほとんどを占めるノルウェーや原子力発電が主力のフランスでは5g-CO2/km以下とほぼゼロとなる。
車のライフサイクルの全てで発生するGHGの評価(LCA)では、リチウムイオン電池の製造に、大きなエネルギーを要することから、大容量の電池を搭載したBEVは、発電のCO2排出が多い場合にHEVやPHEVと比べてGHGの排出は多くなることがある。
Well to WheelでもLCAで見ても発電の低炭素化はBEVの気候変動対策の実効性を高める上で必須であり、電動車政策の中に含まれるべきである。

V-2)BEV普及の技術課題

BEVは走行時にCO2の排出ガスがゼロ、自宅でも充電可能、充電コストが安いなど優れた特徴がある反面、充電にかかる時間が長く、一回の充電で走れる距離が短く、また価格が高いと言う問題がある。その為に普及がなかなか進まず、各国政府は補助金などの優遇処置や充電スタンドの増設を進めている。BEVには高性能なリチウムイオン電池が用いられているが、材料にリチウムやコバルト、ニッケルなどの高価なレアメタルを用いることなどからコストが高く、性能や安全性などを満たした車はICE車の同級車に比べて100万円以上価格が高くなっている。

1)リチウムイオン電池のコスト

BEVの車載用リチウム電池の性能向上とコスト低減は大きな課題であり、各国が戦略的に研究を進めている。ガソリン車同等の性能と車両価格を狙う革新的電池の研究と並行して、現状のリチウムイオン電池の改良や先進的電池の開発が進められている。コストの目標は2020年代初めにおよそ100USD/kWhを目指している。また従来の2倍以上の性能と安全性を持つ全固体電池の研究が進んでおり、トヨタは2020年代の早い時期に実用化する計画である。

2)リチウムイオン電池と資源問題

BEVの普及拡大に必要なリチウムイオン電池の確保も大きな課題である。リチウムイオン電池に使われるリチウムやコバルト、ニッケルなどは資源量が限られており、また生産増加にも多額の投資が必要となる。現在、300万台レベルのBEVが仮に2030年に新車販売の30%の2650万台くらいになるとすると、電池は1640GWh/年が必要と推計され、リチウム、コバルトの需要は現在の生産量の数倍となる。これらの生産拡大には資源の埋蔵量や偏在化など様々な課題があり、既に囲い込みも始まっている。
因みに、リチウム、コバルトの埋蔵量、生産量は下表の通り。(表1)
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一方、リチウムイオン電池製造時のGHG排出でもニッケル、マンガン、コバルトなどが主な要因となっており、材料の見直しによるこれらの使用削減やリサイクルも重要である。
EU委員会は「バッテリー規制改正案」を2020年に発表している。主な内容を下記に示す。
・ライフサイクル全体でのカーボン・フットプリント上限値導入(2027年〜)
・コバルト等再利用材の使用量の開示(2027年〜)
・再利用材使用割合の最低値導入(2030年〜)

3)BEV普及のための充電インフラ整備

充電インフラの整備は未だ充分ではなく、特に急速充電が可能なスタンドの数は日本でもガソリンスタンドに比べ3分の1程度。またマンション等では普通充電スタンドの設置も進んでいない。今後、日本政府はガソリンスタンド並みの利便性を確保することを目標にインフラ整備を進める計画である。また欧州でも充電インフラの不足や一部の国に偏っているなど、汎欧的な改善が必要となっており、各国政府も対策を進めるとしている。
(注):現在の各国の充電スタンド数(普通/急速)を下表に示す(2017年)。(表2)
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V-3)消費者の選択

電動車が普及するか否かは、最終的には消費者の選択による。特にBEVについては従来の車と比べて、価格が高い、1回の充電で走れる距離が短い、充電時間がかかるなど利便性が低い、また電池の交換費用が高く中古車価格が安いといった消費者の懸念が強く、販売は低迷している。一方でHEVは市場の3割を超えるなど普及が進んでいるが、その大きな要因は減税などの優遇策と燃費基準、メーカー努力によるHEV車のモデル数増加があげられる。消費者は選択肢が増えることでHEVを選ぶ機会が多くなった。BEVの場合は補助金や充電スタンドの増設などで抵抗感は少しずつ改善されてきたが、まだモデル数は少ない。今後、メーカー各社は中国、欧州を中心に多くのモデルを投入するとアナウンスしている。
消費者の(従来車に比べて) BEV購入のブレーキになっている要因と、それぞれの改善状況を下表にまとめた。(表3)
table3.jpg

V-4)販売規制のありかた

ICE車の販売規制を表明した国や地域において、まだその法的な枠組みは決まっていない。
法制化の検討は今後進むが、それに伴う以下のリスクを充分に考慮し、経済や産業競争力等を加味した制度設計を行う必要がある。
@過剰な規制によるメーカーの経済的リスクが大きい。
A消費意欲低下による販売減は経済に大きな影響

1)販売規制の方法

販売規制は自由な経済活動に制約を与えるものであり、制度設計には注意が必要である。これまでの販売規制に類似する規制では、主としてメーカーを対象とした規制が多い。しかし消費者が購入しなければ規制は実効性に欠けることから、消費者には優遇などの誘導策が合わせて用いられている。以下にその例を示す。
@ 販売規制:対象=メーカー・・消費者の選択に委ねられ確実に売れる保証はない。
・米カリフォルニア州ZEV規制
・米国、欧州などの燃費規制
A 生産または輸入規制:対象=メーカー・・売れなかった生産車はメーカー在庫となる。
・中国NEV規制
B 間接規制:対象=個人
・中国その他の都市部乗り入れ規制、ナンバー発行規制など
・欧州、日本など税の重課、軽課
・燃料税、揮発油税などの重課
・CO2課税
C 優遇政策による誘導
規制の方法は@〜Bの組み合わせの可能性があるが、2030年代半ばまでの限られた時間を考えれば強力な優遇措置の継続と政策の柔軟な運用が必須である。

2)主要メーカーの電動化計画

主要各社はICE車規制の潮流の中で電動化への対応を発表しているが、それぞれの戦略に応じた内容となっている。コアとなる電池についてはGMやVolkswagen Groupなど欧米各社は電池の生産に重点投資を行う計画で、日本メーカーは各地域の電池メーカーとのパートナーシップを進めているが、懸念もある。その為に、日本も資源確保やリサイクルなどを進める「電池サプライチェーン協議会」を2020年に設立した。
(GM)2035年までに、すべての新車をZEVにする。今後5年間で、電動車と自動運転車に270億ドルを投資。バッテリー新工場(米国テネシー州)に23億ドルを投資
(Ford)欧州で販売する乗用車を2025年までにPEV、2030年にBEV100%電動化への投資額を2025年までに、300億ドル以上に増やす。EV向けバッテリーの開発・生産を目指す。
(VWG)2030年までに、グループ全体で約70車種の新型BEVと約60車種の新型HEV・PHEVを、市場に投入する予定。
電動化などの次世代技術への投資を約730億ユーロに増額。
・電池工場を6カ所建設、合計240GWh
・欧州全体に350kW急速充電ステーション網を25年に20年比5倍に拡大
(トヨタ)グローバルで2030年電動車800万台、内BEV+FCEV200万台
    電池はパナソニックと合弁、中国でCATLとパートナーシップ、BYDと業務提携。
(ホンダ) 先進国全体でのEV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年に80%、2040年には、グローバルで100%。
電池は中国でCATLと包括的アライアンス提携、米国でGMと共同開発。
(日産)2030年代早期に世界主要市場で販売するすべての新型車を電動車。
    Envision AESCと共同で英国、日本に電池工場新設

3)カーボンフリー燃料・水素とe-Fuelの動向

CO2を排出しない燃料として、再生可能エネルギーから作った水素や、回収したCO2と水素から作る合成燃料(e-Fuel)の研究が進んでいる。水素はFCEVに用いられるが、各国政府は太陽光などの変動電源のエネルギー貯留・輸送手段としての検討を進めている。一方で、ICE車に利用可能なe-Fuelはドイツを中心に研究が進んでいるが、日本もCCUS(Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage)/カーボンリサイクル燃料として研究が着手された。

W.ICE車禁止と日本の自動車産業への影響

W-1) 日本の自動車市場の現状と日本政府の目標

1)全体需要は2020年を除き横ばい傾向(概略500万台/年)の中で、PEVの販売は2017年約5万4千台をピーク(日産Leafのモデルチェンジ時期と重なる)に2020年で3万台弱と減少傾向。ランキングは、日産Leaf、トヨタPrius PHV、三菱Outlander PHEVの順。

2)日本政府の目標:政府は2050年温室効果ガス8割削減、乗用車は100%電動車の目標を掲げていたが、カーボン・ニュートラル宣言を受け、2021年6月の「グリーン成長戦略」で、2035年までに乗用車新車販売で電動車100%を目指すとした。2019年実績では、151万台(35.2%)。

3)電動車普及促進策
電動車の普及促進策としては、購入のインセンティブとして補助金や減税、また利便性を高める充電や水素充填スタンドの整備費用の補助もが行われてきている。補助金は国や地方自治体などが行っており、年度で変わるが、2021年度のCEV(Clean Energy Vehicle)補助金はBEVで一充電走行距離に応じて最大42万円、PHEVでは最大20万円となっている。

W-2) 日本の自動車メーカーへの影響への影響

 日本の自動車産業は全製造業の製品出荷額の18.8%で設備投資額や研究開発費も2割を超える基幹産業である。また世界生産のおよそ2割が日系ブランドで占めるグローバルビジネスを展開しており、世界各地域の販売規制の行方は大きな影響がある。以下でその影響について検証する。

1)BEV生産に伴う自動車工場への影響
  現生産工場でBEVとエンジン車の混流生産は可能である。エンジンやトランスミッションの鋳造や加工などを行ってきたパワープラント工場は設備や工程が変わるが、完成車工場は大きく変わらない。

2)BEVと企業収益の変化
BEV化に伴い、現在内製されているエンジンやトランスミッションの製造コストに比し、リチウム電池のコストが大きい。電池が外部からの購入品となると製造原価に占める購入部品費の割合が増加し、これらによって自動車製造会社の付加価値減少と原価管理の主導権が弱体化することが懸念される。

3)日本のZEV(BEV,FCEV)生産と輸出に伴う影響
 日本の自動車メーカーや部品メーカーに影響を与えるICE車の生産は、国内のZEVと輸出のICE車の規制を宣言した地域や国のZEV台数を推計すると、2035年頃にはBEVやFCEVのZEVが36%で、ICE搭載車(HEV、PHEV含む)は64%となる。従ってICE車からZEVへの切り替えは断層的でなく暫時進むことになる。尚、EUへの輸出はLCAや国境炭素調整などのGHG排出規制動向に注意が必要。

W-3)部品産業への影響

BEV化に伴い、エンジン関連や駆動系部品などを中心に自動車部品産業の製品出荷額の影響は約3割と見込まれる。特に事業影響が大きいのは、それらの関連メーカーやTeir2以下の専業メーカーで、切り替えが進む今後十数年のうちに事業の構造転換を進める必要がある。また海外生産向けの部品輸出はZEV規制国向けに影響がある一方で、拡大が見込まれる進展国へのICEの部品輸出は当面堅調に推移する見込みである。

W-4) 車載用リチウムイオン電池産業の課題

BEVなど電動車両のコア技術である車載用リチウムイオン電池は日本メーカーがトップシェアを占めていたが、現在では中国及び韓国企業にリードを許している。その要因は、BEV市場の拡大が見通せない中、大型投資を控えてきた日本企業に対し、中国政府の電動化政策に沿って積極的な投資を行った中国企業や韓国企業がコストで優位になったことにある。同時に電池素材も日本企業からコストが圧倒的に安い中国企業へシフトしている。しかし、EUのLCAや国境炭素調整にみられるように今後のブロック化の進展を考えると、コストの大きな電池の日本生産は重要である。既にリチウムやコバルトなどのレアメタルも中国のシェアが高まる中、日本も電池サプライチェーン協議会を設立したが、早急に実効のある取り組みが必要である。


X.まとめ

パリ協定の努力目標1.5℃への議論が進む中、EUや米国、日本など主要国では2050年カーボン・ニュートラルが重要な政策となってきた。英国の2030年ICE車販売規制発表にみられるようにEUの政策はトップダウン・アプローチが取られることが多い。しかし、気候変動対策としては、フランスやノルウェーのような発電時のCO2排出が極めて少ない国を除くと、現時点ではライフサイクルの排出でBEVが優れているとは言い難い。トップダウン・アプローチではそのギャップを埋めることが必要であり、気候変動対策としての今後の当局の手腕が問われている。また実施状況に応じて、実効性や課題に柔軟に政策を運用することが必要である。
一方で、日本の自動車産業は国内における基幹産業であり、またこれまでグローバルビジネスでの高い競争力を有してきた。中国のNEV規制や欧米のICE車規制への対応は個々の日本企業の大きな課題だが、日本の自動車産業としての競争力をどう維持し高めるかは日本の政策者が考慮すべきことである。気候変動対策には様々な手段とパスがあり、実効性と実現性のその最適化を図るとともに、日本の自動車産業が優位であった産業基盤を時代の転換に合わせて強化する必要がある。世界のブロック化が進む中で、リチウムイオン電池や制御半導体などコアとなる技術の開発と生産を国内で進めるためには、大型生産投資などのリスクを取る経営環境も必要になる。これまで日本は太陽光パネルや半導体、リチウムイオン電池など世界のトップシェアを持つ多くのリーディング技術で、資金の逐次投入などから徐々にシェアを落としてきた。日本にはリスクがとれる社会的な変革が求められる。

Q&A

Q1:電動車化や自動運転などが進むと,開発資源不足の問題がでてこないか?
A1:開発資源はクリチカルで大きなテーマ。システムを変える必要がある。これからは自動運転などでソフトウェアがさらに重要になる。ソフトウェア開発の仕組みを変えることと、ハード開発に外の資源をどのように活用するか等大きな課題で、開発資源の組みなおしが行われている。

Q2: e-fuelが開発されたとして各国政府の政策への影響対応は?
A2: e-fuelは電動化の難しい航空機や船舶などの利用に注目している。まだコストが非常に高く実用化までには時間がかかる。自動車については政策的に様子見の状況と思われる。

Q3: 経産省が、EV100%計画を2030年半ばに前に前倒してにもってきたが、どういう流れがあったのか?
A3: 2050年電動車100%というのも、経産省と自動車業界の検討会の中でしては温暖化対策目標から導かれた緩い目標だったが、カーボンニュートラル100%の政府方針を受けて経産省が自動車業界へ前倒しを要請したものと思われる。電動車両はHEVHybridを含む。EV電動車両100%目標の中で、軽自動車のHEV化は難しい課題。

Q4: 軽自動車のBEV化は成立するか?
A4: 日産とホンダは考えているとの話。中国で超小型低価格BEVが出てきてナンバー規制などもあり売れている。ドイツは長距離を大型車に任せ、の小型のBEVは毎日の通勤用に補助金も増えたのでという選択だと言われている。日本でも我が家に2台あればの1台は小型BEVも成立する可能性がある。但し価格が安くないと難しい。

Q5: 中国の動きと日本の対応は?
A5: 中国の自動車産業発展計画の目標の一つは電動化。輸出競争力とコア技術として電池を固めていく。資源も押さえる。リチウムやコバルトなどの精製も中国がトップ。VWは中国がマーケット。ドイツと中国は密接。日本も中国市場のシェアが大きい。日本はこの両方で成り立っているが、米中関係次第ではどちらかにシフトすることになる。

以上
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2021年06月24日

EVFセミナー報告:コロナ禍を克服した中国の現状と緊張高まる欧米関係

演 題:「コロナ禍を克服した中国の現状と緊張高まる欧米関係〜日本はどう対処すべきか〜 」 
講 師: 結城事務所主宰 結城 隆 様

Web視聴開始日:2021年6月24日(木)
視聴者数:55名
報告担当:EVF理事 奥野 政博
講師紹介:
・一橋大学経済学部卒業。金融、製造業、流通業で40年間にわたって調査・企画・新規事業立ち上げを経験。ロンドン、パリ、ニューヨーク、北京に都合16年間在住。
・グローバルな視点と虫の目で中国ビジネスを見て、著作、講演活動を幅広く行っている。趣味は料理。
・荒井商事株式会社非常勤顧問、柿沼技研株式会社取締役、柿沼五金(清遠)零部件有限公司薫事、北京如水滙科技有限公司副総理。

1.講演概要
マクロの数字を見る限り、中国はコロナ禍を完全に克服したといえる。それを象徴するのが5月1日から始まった労働節連休中の消費爆発で、耐久消費財の売れ行きも好調だ。その一方、新疆ウイグル、香港、台湾を巡ってアメリカやEUとの緊張感も高まっている。経済政策においてバイデン政権は、トランプ政権同様に対中強硬策を継続するように見え、「競争(経済・産業)、協調(環境)、敵対(人権・民主主義)」のキーワードがバイデン政権の対中政策の基本のようだが、コロナ禍克服で自信を深める中国が欧米の圧力に屈する気配はない。半導体にみられるグローバルサプライチェーンからの「中国外し」にも中国は自前主義で対抗しようとしている。政治問題については「ノーコメント」を貫いている日本企業が錯綜する地政学上の新たな緊張の中、どう対応すればよいのか5部(中国の新型コロナ制圧状況、コロナ禍の爪痕、中国の経済状況(消費爆発)、米中関係の三次元方程式(競争、敵対、協調の3つのキーワード)、グローバル・ジャパン戦略)の項目について沢山の最新データを示しながら1時間20分にわたってご講演を頂きました。

2.講演内容
(1)中国の新型コロナ制圧状況
・中国の今の感染状況は、感染者数が一日あたり全国で一桁台にまで落ち着いて来ていたが、広州市(人口:1,500万人)では5月以降1日あたり6〜7名の感染者が確認され、全市民対象にPCR検査が実施された。陽性者が発見されると即隔離され、地元衛生局や政府関係者の信賞必罰が徹底される厳しい政府の対応が採られている。
・大都市では一日あたり最低50万人のPCR検査実施体制が構築され、検査スタッフも地元+省内+省外の3層体制で支援されている。雲南省では3月に数10名の新規感染者が発見されたが、武漢から検査車両と検査スタッフが即送り込まれ、数10万人規模のPCR検査が行われた。
・6月7日時点での累積感染者数は114,707人で累積死者数は5,132人と国家健康衛生委員会から発表され、本土の感染者数は1桁台で推移している。
・中国のワクチン接種状況は、今年の1月以降一般の人たちにワクチン接種を開始し、6月7日時点で7.6億回、1日あたりの接種回数は2千万回にスピードアップされて日本のレベルを遙かに上回っている。ワクチンもフル生産されて海外各地へ約7億回分くらい輸出し、COVAXに基づく途上国へ約2千万回の無償供与が行われている。主な輸出先は中南米、アジア・太平洋で、アジア諸国(インドネシア、ラオス、カンボジア)には2億回分以上のワクチンが輸出されている。

(2)コロナ禍の爪痕
・コロナによる経済回復度合いが地域・国によってまちまちで、ワクチン接種が進む先進国、特に中国がトップでアメリカ、ヨーロッパがこれに続き、低所得発展途上国の回復が遅れる傾向にある。
・巨額なコロナ対策費用が各国で給付金支給などで財政赤字が急拡大している。EUでは、財政赤字がGDPの約9割まで高まり約7千億ユーロ弱の復興財政支援枠が設定され、そのうち約半分が贈与で、そのほか多国籍金融支援枠として1.8兆ユーロが設定され、その配分を巡る加盟国間の駆け引きが激しくなっている。
・EU以上にアメリカの財政赤字が高まり、トランプ政権とバイデン政権の2年間でコロナ対策予算が13兆ドルに達し、財政赤字は両年とも2019年の30倍に急増している。一方、雇用回復は頭打ちで一人あたり1400ドルの個人給付金もあり、中々労働市場に戻って来ない状況と、過剰流動性により株価が高騰し、中国からの輸入増により経常収支赤字が拡大している。
・日本の財政赤字も急速に拡大し、2020年にはGDPの約70%に達し、GDP比は敗戦の年を上回っている。
・ポストコロナの世界での注目点として、政府の巨額財政赤字拡大、環境対策、デジタル経済によるインフラ投資、グローバルサプライチェーンの見直しなどに相当なコストを要し、政府の役割の重要性が増すと共に、自由・民主主義vs権威主義の価値観の対立が深まり、中国の存在感が世界的に高まって来ている。

(3)中国の経済状況(消費爆発)
・中国政府のコロナ対策は、欧米・日本と比べると現金給付や大規模金融緩和を行わず、財政面での負担を極力抑えたと言える。雇用面では職場復帰を迅速に行い、これに関わる社会福祉企業負担を抑え、中小・零細企業向け融資を拡大し、行革も含め中国経済が抱える問題を抜本的に解決する政策を採り、「危中有機」「逆風飛揚」の視点から悲観的に捉えず、この機にポジテブな対応で財政規律を相当程度維持した。
・中国の中小・零細・個人企業は約1億社、税収の50%、GDPの60%、雇用の80%を占めて圧倒的な存在であったが、これまで政府の支援を受けていなかった。コロナ禍で資金繰り支援のために金利2.5%の優遇ローンとか国有銀行に新規貸出融資枠を設けるなど日本の企業支援策と比べて圧倒的なスピード感や規模感が覗える。
・4月の貿易統計では50%前後の伸びになっており、中国の経済回復で需要が急速に回復しているとうもろこし、大豆、銅や錫など一次産品の国際価格が高騰している。
・中国の大学新卒者数が毎年数10万人増え、その能力と企業が求める即戦力となる能力との乖離拡大という雇用面の課題のほか、昨年10月以降資金繰り逼迫が背景となった国有企業(AAA格付けが約8割)の債務不履行が相次いでいるほか、不動産開発会社の過重債務減らしで昨年7月以降、住宅購入規制強化、不動産向け融資の総量規制と財務規律強化の3本柱で推進している不良債権問題と昨年の出生率が過去最低の1.3(日本は1.4)となり2015年のふたりっ子政策の効果もなく今年から三人子も認めざるを得ないほか、結婚したら又貧乏な生活に戻り自由もなくなると考える若者が増え結婚件数もこの7年間で約半分に減少し、住宅価格の高止まり、教育費用の増加、両親の高齢化や託児所の圧倒的な不足などが社会問題となっている。

(4)米中関係の三次元方程式(競争、敵対、協調の3つのキーワード)
・先ず「競争」は、産業と経済、情報通信、AI、新エネ車など先端産業分野における覇権争いで、アメリカは300件を超える対中制裁法案を実行し、中国はつい先週、外国反制裁法を可決し対抗している。次いで「敵対」は、政治面で自由と民主主義vs権威主義、南シナ海問題を差して、アメリカは対中包囲陣の構築を目論み、中国は一帯一路構想対象国との関係を強化し、これまでの「戦狼外交」から今年から「愛される中国」外交にソフト転換しつつある。「協調」は、地球温暖化問題、地球環境汚染問題とパンデミック再発に如何に備えて行くのか二大経済大国が協調して行かなければならないと認識されている。
・「競争」での対中制裁法案が目白押しの状態となっていて、トップハイテク企業を輸出管理規制の対象にするとか中国製アプリのダウンロード禁止、中国企業のアメリカでの上場審査の厳格化やこの5月にはアメリカ株式上場中国企業の取引停止を命令するなど多岐にわたる対中制裁措置が採られている。中国は、アメリカによる半導体サプライチェーンのデカップリングで「中国製造2025」の目標自給率35%達成が難しくなっている。
・アメリカ政府の対中制裁措置に対して、司法当局によるバイデン政権への対応が目立って来ている。
・米中の金融関係は想像以上に緊密になっており、中国の資産運用業務の海外開放により、アメリカの巨額な財政赤字がファイナンスされる事態もあり得そう。
・中国とアセアン諸国の経済協力は緊密の度合いを増して来て、昨年11月にRCEPが成立し、今年の11月から発効して太平洋・アセアン地域での経済関係がより高まるだろう。
・協調についての環境問題では、中国とアメリカがCO2排出量とポリマー消費量ランキングで圧倒的な2大汚染排出国となっていて、どちらか一方が解決するという問題ではない。

(5)グローバル・ジャパン戦略
・今年の3月、ジョンソン政権が軍事力の規模縮減と質と効率の向上、大英帝国以来培ったソフトパワーを活かしグローバルなプレゼンスの拡充、国際金融センターのシティーを通じて中露への影響力を行使するというグローバルブリテン構想を発表した。
・これに対して日本は中国に次いで世界第3位のGDP規模で、アセアン諸国とは直接投資残高で中米に次ぐ緊密な経済関係、台湾とは歴史的な関係、中国進出企業が1.4万社もありデカップリングは日本の産業界にとってマイナスが大きいので、アメリカの対中政策で日本の立場が重要となっているので「自由で開かれたインド・太平洋構想」を乗り越えた「グローバル・ジャパン戦略」が必要となるだろうとのこと。
・日本企業の対応として、危機管理能力の向上とそのためのグローバルな情報収集体制の整備が必要で、中国市場に踏み止まらねばならない切実な現実を踏まえた株主や顧客への確実な情報発信の在り方を深化させる事が必要とのこと。そのためには、今中国で起こっている状況が何なのか、その背景が何なのかといった情報収集を高め、自信をつけてきた中国国民への対応を誤らない事が重要であるとアドバイスされ、1時間20分にわたるご講演を終えました。

3.質疑応答
Q:経済問題で中国の内需拡大の伸びと輸出外需の伸びのバランスはどうなっているのか?
A:アメリカがいろいろな形で対中政策を採っているが、中国がレアアースをストップする動きが出た時に、テキサスの閉山した大規模レアアース鉱山を再生産させようと綱引きをしている。電力供給削減による生産の頭打ちで銅や鉄鉱の国際価格が高騰して、中国は鉱物資源の輸出シェアを持っていて今後、カーボンニュートラル政策が進んで行くにつれて電力多消費の銅、アルミニューム、錫などの需給が厳しくなると思われる。トウモロコシと大豆の価格も高騰しているが、中国での需要が増えてきているのが背景にある。
Q:GDPの60%、雇用の80%を占める小規模・零細・個人企業の救済に日本やアメリカのように家賃支払いのための現金をばらまかずにここまで凌いできた事情は?
A:約1億社あるこれらの会社は新陳代謝が高いセグメントで、流動性が高いので現金をばらまいても意味がないと考えた。2つめは、これらの会社は資金力が無いので担保主義を採っている銀行や保証会社から借り易くする行政指導を行い、貸し倒れは銀行に責任を取らせている。3つめのポイントは、昨年のコロナ禍で倒産・廃業した企業は3百万社で、これに対する雇用創出が大きな課題になり、開業資金が少なく、少人数の雇用ができる「屋台経済」を薦め、夜間消費による「夜の経済」を進めてきたのでわざわざ現金をばらまく必要は無かった。
Q:中国の高齢化進展の速さが話題になっているが、高所得者は自分で起業できるが、増加した中産階級は自分で外資導入を直接選べないので国に窓口を置いて運用手段を先に提供して直接投資してもらうと考えてよいか?
A:中国の資産運用は非常に無茶苦茶な状態がずいぶん続き、高利でお金を集めて宅配したりお金を持ち逃げしたりしていたのを2018年から中国政府が淘汰して来た。専門的な知識や能力を持った資産運用業者があまりいなかったので貯蓄率が36%もあり投資銀行にとって黄金郷で、信頼できる専門業者が少ないので開放するしかないと判断したのではないか。
Q:中国のカーボンニュートラルをどう進めようとしているのか?石炭のあれだけの消費を何に切り替えようとしているのか?
A:カーボンニュートラルは既に始まっていて風力発電と水力発電、特に風力は海上風力発電が有望で、中国政府としては再生可能エネルギーと原子力発電の2本立てでカーボンニュートラルを進めて行くと思われる。ただし石炭業界、鉄鋼業界の様な多量なCO2を排出する問題をどうするのか頭の痛い政治問題となっているが、カーボンニュートラルは2060年までに達成すると言っているので逆算して40年間で目標達成する工程表は出来ていると思われる。
Q:一般的に格付け機関の格付けは信用されているのか?
A:格付け機関は数百社あり、結構なお金を取るが情実が入り込むところもあり、贈賄の性で捕まった格付け機関もある。AA以上の格付け取得が80%以上あるということは異常で、いずれ緩和されてくると思われる。
Q:輝ける星であったアリババの現状は?
A:デカすぎてもコントロール出来なくなるという事を政府が恐れたのが最大の背景と思われる。
Q:日本の10倍もある中国で、いとも効果的で迅速にコロナを退治できたのか?方針の徹底の仕方など日本で見倣うものがあるのか?
A:一番の大きな違いは、個人情報を政府に開示することに中国市民は全く抵抗感がないと言うこと。2つめは中国政府の組織力で、いろいろな部門から必要な人材を招集でき、必要な物資を自前の予算で実行できる。3つめは感染防止対策をキチンとやらない、感染状況をキチンと把握しない幹部がいたら即解雇し、改善出来たら復職させている。
文責:奥野 政博

講演資料:コロナ禍を克服した中国の現状と緊張高まる欧米関係
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2021年05月27日

EVFセミナー報告:カーボンニュートラルと次期エネルギー基本計画


演題:「カーボンニュートラルと次期エネルギー基本計画」
講師:国際大学副学長・国際経営学研究科教授 橘川武郎様
Web視聴開始日:2021年5月27日
聴講者数:73名
報告担当: 正会員 津田俊夫

講師紹介
・東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学、経済学博士
・青山学院大学経営学部助教授、東京大学社会科学研究所教授、一橋大学大学院商学研究科教授、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授を経て、2020年より国際大学大学院国際経営学研究科教授(現職) 
・2021年より国際大学副学長(現職)
・東京大学・一橋大学名誉教授
・元経営史学会会長、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員(現職)
・環境ベテランズファーム(EVF)顧問(現職)

講演
(国のエネルギー基本計画は3年毎に見直すことになっており、2018年第5次計画から3年目になる2021年の見直しにむけ活発な議論がなされている。今回は総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の委員である橘川先生から、国内外のエネルギー事情やエネルギー基本計画見直しに向けたホットな議論について幅広くお話を聞くことができた。)

1. 講演内容
(1) カーボンニュートラル
2020年10月26日の菅首相の「2050カーボンニュートラル」所信表明は、中国のカーボンゼロ表明、米国バイデン氏のパリ協定復帰意向という流れの中で日本が遅れず温暖化対策を示すぎりぎりのタイミングであったと思う。
梶山経産相も従来のエネルギーミックスを積極的に見直す姿勢を示している。
これらの背景には、アンモニアによるカーボンゼロの火力発電をめざすというJERA(東電と中電の火力発電部門を統合した会社)や、再生エネルギーを許容できるノンファーム型送電接続にトライする東電パワーグリッドといったゲームチェンジャーの存在がある。

カーボンニュートラルへむけて、「電力」では、再生可能エネルギーを5〜6割、水素・アンモニア火力を1割、水素・アンモニア以外のカーボンフリー火力+原子力を3〜4割とし、「非電力」では、エネルギー使用先の電化(年間総電力消費量を現1兆kWhを1.3〜1.5kWhにする)、水素利用(製鉄、燃料電池)、メタネーション、合成燃料、バイオマス利用をすすめ、更なる「カーボンオフセット」として、植林、DACCS(空気からCO2直接回収・貯留)といった方向が示されている。

(2) 再生可能エネルギー
日本では再生エネはコストが高いので普及が進まないとみられているが、世界では安いという理由で再生エネに向かっている。
日本でも太陽光発電7円/kWhの目標を持っているのでどんどん値段が下がるのではないか。
出力変動の大きい再生エネは、サプライチェーンやコストに問題のあるリチウムイオン電池等の蓄電池や、容量に制限のある送電線がボトルネックであったが、ノンファーム接続により送電線能力問題が解決できることと、カーボンフリー火力発電により出力調整を可能にすることにより、主力電源化し、更には熱源としても利用できることも含めて主力エネルギー化もするだろう。

(3) 原子力発電
2050年の電源ミックスにおいて、“水素・アンモニア以外のカーボンフリー火力+原子力”で30〜40%として原子力発電の評価を残しているが、副次電源化は免れない。
政府の「リプレース回避」と「新増設無し」で、全ての運転期間を60年間に延長したとしても、現存する33基の内、50年で残るは18基、69年には無くなる。
1)火力シフト、2)廃炉ビジネスによる雇用確保、3)オンサイト中間貯蔵に対する保管料支払い、の3点からなる「リアルでポジティブな原発のたたみ方」が、選択肢として必要になってきている。
使用済み核燃料の処理では、プルトニウム使用について「もんじゅ」が消えた現在、軽水炉サイクルでの利用不足を日米原子力協定でつかれる懸念がある。

(4) 石炭火力発電所
非効率火力フェードアウトは、第5次エネルギー基本計画ですでに言われていたことなので政策転換でない。
廃棄される非効率火力は114基、高効率は24基で、基数的には大きな削減だが出力ではそれほど減らない。更にこれから10件の高効率(USC)新設がある。25年以降は需要を満たすので新設なしとなろう。
火力輸出も、禁止ではなくて、輸出先がCO2削減にまじめに取り組んでいれば高効率発電所を出すという条件の「厳格化」である。

(5) 電源ミックス
講師の私案では、
2050年:再エネ50〜60%、原子力0〜10%、火力40%(再生エネに対する出力調整のため火力はこのくらい必要かと)
2030年:再エネ30%(政府案22〜24%)、原子力15%(同20〜22%)LNG火力33%(同27%)、石炭火力20%(同26%)、石油火力2%(同3%)
であるが、カーボンプライシングにより変わるかもしれない。カーボンプライスは現行数百円/tCO2であるが、将来的には3000円/tCO2や10,000円/tCO2あるいはそれ以上もありうる。

(6) 化石燃料代替の水素
電力業界はアンモニアを使うだろう。
水素を使うのは、電力以外のエネルギー産業、自動車(アンモニアは使えず)、水素還元による鉄鋼業である。
ただし、水素については技術開発中なので実装は2030年代以降になり、30年の電源ミックスでは、アンモニアと合わせても1〜2%にとどまるだろう。
とすると、NDC(国が決定する貢献)46%が難しくなるが、これは、数字が高すぎるのではなくて、今までの対応が遅すぎたということに他ならない。

(7)電力業界
2016年電力小売り自由化、2020年発送電分離により10電力体制は崩壊している状況。
送配電も送電と配電が分離されると、送電会社は系統運営を効率的にする広域化に向かい、東電グリッドが東北電ネットワークとの経営統合を狙う(洋上風力や地熱の資源が多い東北と、大消費地の東京が結びつく)。
原発に強く石炭に弱い関西電力と、石炭に強く原発に弱い中国電力が、経営統合するかもしれない。
東電が柏崎刈羽原発を売却し、運営を原電・東北電力に託する(事実上の準国営化)というシナリオもある。
このように電力会社の大きな編成替えもあるのではないか。ドイツでも、システム改革によって、8社が4社になった。

2. 質疑応答
Q:柏崎刈羽原発は問題続きで管理体制が改まらないので、準国営化などになることに問題があると思うが?
A:現場のスタッフは優秀であり、大震災のあとの水害で東北電力が窮地にあったときも、柏崎刈羽原発はよく助けた。電力問題の本質は、「高い現場力と低い経営力のミスマッチ」にあると思う。東電は、事故を起こした張本人であり、原発を営む資格がないので、ABWR(軽水炉型)という最新鋭炉を含めて、売却するしかないのではないか。

Q:炭素から水素・アンモニアへの移行があるが、原料調達の見込みについて伺いたい。また水素・アンモニアにかかわる化学技術開発に国の資金をつぎ込むことに議論はないのか?
A:日本国内でのアンモニアの年間消費量は約200万tであるが、50年には火力発電燃料用だけで3,000万t必要と言われている。世界のアンモニア生産量は約2億tであるが、政府のグリーン成長戦略ではその半分の約1億t分サプライチェーンに関与するという実現性薄い話が出たりする。問題のある所である。 
ブルー水素を得る過程でCCUSが重要になるが、別の道としてC1化学が重要になるかもしれない。例えばCO2でなくてCOの形であれば化学的に利用価値が高まる可能性はあり、研究開発が望まれるが、国からの研究費拠出は悲観的である。民間頼りである。

Q:原発依存が低くなるが、廃炉やその他の原子力関係技術の担当・開発技術者が少なくなるだろうという問題について分科会などでは話も出ないのか?
A:もちろん出ている。推進派も多いし、分科会でも一番話題になっている。グリーン成長戦略では、洋上風力、アンモニア、水素に続いて4番目に原子力があり、研究課題として小型炉、高温炉、核融合をあげている。しかし、いずれも開発は進めるが、実機を作ることはしないという。だから資金を出そうというところはないだろう。
リプレースするなら今始めないと50年に間に合わない時期と思っているが、政府も電力会社も言い出さない。

Q:東電は廃炉専門会社になるということだが、終わるまで40年あるいはそれ以上かかるが、東電が全うできるかという議論はないのか?
A:議論はされていない。東電は柏崎刈羽の再稼働に期待していたが難しいので、パワーグリッドとEP(エナジーパートナー)の稼ぎで生き続けるのだろう。半世紀にわたり水俣の補償を続けている「チッソ方式」に例がある。

Q:洋上風力に関して送電線や漁業権との調整についてうかがいたい
A:送電についての注目点は、風力の直流電源から電気ををそのまま送る直流送電にある。データーセンターなど直流電源の大口利用に効果が大きい。直流に経験があるのはNTTなので、期待している。
漁業者を事業者に組込む方式は、秋田県で試みがあるようだ。地熱発電に地元の温泉業者の協力を得る、前向きの話もあるようだ。

Q:最近引っ越しをした地方では太陽光発電が普及しているが、採算が悪くなるという話である。これに関する施策についてうかがいたい。
A:これは大きな問題で、2019年にFIT(固定価格買い取り制度)が終了したことにある。一般家庭の太陽光設備は4Kw程度であり、全量買い取られるのは10Kw以上なので、FITのもとでも、余剰分しか買い取ってもらえなかった。そのFITも終了したので、自家消費するしかない状況である。自家消費後の余剰分を隣家へ売るには送電線を使う託送料がかかる。電気自動車(EV)によって融通しあう人もいる。いずれにしてもオフグリッド策はこれからである。

Q:CCS(二酸化炭素回収・貯留)は日本には適地は無いのではないか、やっているところはあるか?
A:苫小牧で実証試験を行った。新潟の天然ガス採掘跡で進める話もある。断層の多い日本では難しいかもしれない。日本の企業がオーストラリアの褐炭利用と結びつけて計画しているが、廃棄物の他国移転として非難されるかもしれない。CCS事業は利益を生まない事業なので進みは遅いが、炭素規制により炭素価格が上がれば変わることも予想される。
産油国のカナダではEOR(Enhanced Oil Recovery)としてCO2を地下に押し込む操作がある。天然ガス産出のノルウエーは輸出先のオランダで発生したCO2を引き取って地中に戻す計画をもっている。ノルウエー自体は水力発電依存度が高くて、EV化の最先進国である。

Q:水素については非電力の主役、また、2030年代以降の社会実装とのことでしたが、社会実装に10年以上時間がかかる主因はどのような点でしょうか?
A:水素のインフラができていないことです。 欧米ではそれぞれ3000km程の水素パイプラインがありますが、日本にはほとんどありません。対照的に、肥料産業等で広く使われているアンモニアについては、日本を含めグローバルなサプライチェーンが一応構築されています。電力業界が水素でなくアンモニアを選択する一つの理由は、インフラの整備具合の違いにあります。

Q:原発がリプレースなく2050年代から2060年代にかけてゼロに向かう場合、バランスとして石炭火力の脱炭素化負担がより高まるのではないかと推察しますが、アンモニア混焼、専焼実装のスピード感についてどのようにお考えでしょうか?
A:因果関係は、原子力の後退⇨カーボンフリー石炭火力の拡大ではなく、それとは逆のカーボンフリー石炭火力の拡大⇨原子力の後退になると思います。
 石炭火力については、2030年までにアンモニア混焼が本格的に始まり、2050年には完全にアンモニア専焼(最早「石炭火力」ではなく「アンモニア火力」)となっているでしょう。

Q:再エネ、原子力、石炭火力、それから将来的な水素のバランスを取るのがLNGと思いますが、今後LNGの全体に占める比重についてどのようにお考えでしょうか?年間8000万トン輸入しているLNGがこの先どの程度減少傾向に向かうのか気になります。
A:2050年には、LNGを今の形で使うことはなくなり、すべて水素・アンモニア・合成メタンに代替されていることでしょう。もちろんLNGを輸入して日本で燃料でなく、水素・アンモニアに変える(その際排出されるCO2はCCUSで処理)方法は残るかもしれません。2018年に策定された第5次エネルギー基本計画は、定性的には「天然ガスシフト」をうたいましたが、定量的には「2030年一次エネルギーミックス・天然ガス18%」を打ち出すことで30年の天然ガス必要量を年間6200万トンに抑え込み、「天然ガスシフト」と逆行するものでした(18年当時のLNG輸入量は年間約8000万トン)。
 現在策定中の第6次エネルギー基本計画で、NDC(国家による削減目標)46%(2013年比の温室効果ガス排出量)と機械的に帳尻を合わせるエネルギーミックスが作られると、30年の天然ガス必要量は年間5000万トン前後にまで削減される恐れがあります。そうなれば、エネルギー・セキュリティ上由々しき事態が生じかねません。

文責:津田俊夫


講演資料:カーボンニュートラルと次期エネルギー基本計画
          


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2021年04月22日

EVFセミナー報告:普及型EVバス技術開発について

演題 : 「普及型EVバス技術開発について」
講師 : 熊本大学 大学院 先端科学研究部 シニア准教授 松田俊郎様

Web視聴開始日 : 2021年4月22日(木)
聴講者数 : 53名

1.講師紹介

1978年〜2012年 日産自動車株式会社で数々の新技術を商品化
・アンチロックブレーキ(ABS)の開発 (1980年〜99年)
・世界初の電子制御電動4輪駆動装置(アテーサETS) (1989年) 
・世界初の電動4輪駆動装置(e-4WD) (2002年)
・電気自動車の開発 (2005年〜)
2013年〜 熊本大学大学院 現職
・EVバス、トラック実用化研究 (環境省委託プロジェクト)
・いろいろなEVの社会実装研究 (電動農機等)
・先端ものづくり教育

2.講演概要

当プロジェクトは、量産されている乗用車EVのバッテリーやモーターを流用し、低価格で高性能かつ運転が容易でバス利用者に快適な新しいEVバスの性能や価値を社会に提案、全国普及を目指す。環境省の「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証実験」に採択され、2016年度〜2018年度に熊本市で実証試験を行なった「よかエコバス号」の技術をさらに進化させ、2018年度から利用者数の多さ、坂道の多さ、渋滞の多さなど、バスの運行により厳しい横浜市営バス路線で、EVバスを種々なルートで運航し、2021年2月まで実証試験を行なった。この実験により走行データを蓄積して実用性や新技術の評価を行い、EVバス大量運行のモデルを構築しつつある。

3.講演内容

(1)普及型EVバス技術開発の背景
・我が国のCO2削減のためには大型車(バス、トラック)に環境対応車両の導入が必要だが、高価格と航続距離不足のためEVバス・トラックの導入は遅れている。
・とくに地方では路線バスの排気の改善が課題であり、業界では運転士の確保も課題となっている。
・大型のEVバスは少量生産であり、価格は通常のバスの約2,000万円に比較して3〜4倍もするため
現在の大型車業界では対応がむつかしい。また、普及の担い手も不足しておりEVバスの普及が遅れ
ている。
・EV乗用車の技術を流用し、パートナーとして車両改装業会と組んで日本全国でEVバスを生産。地方創生にもつながる。

(2)技術開発の狙いと特長
・この解決策として以下の組み合わせにより、+1,100万円でEV化が可能な低価格EVバスを実現した。(ライフ3万台前提)
*中古の低床路線ディーゼルバスから既存のエンジンを取り外し、車体をEV用として再利用する。EV化により運転の容易化、快適性の向上も実現できる。
*普及型EV乗用車である日産リーフのモーターとバッテリーを活用しコストを下げる。
*バッテリーは40kWhのパック4個を並列接続して大容量化し、収容箱形状もバス搭載用に変更。
*モーターは日産リーフ用2機を大容量減速機で連結し高出力モーター化、かつ変速機不要化。
*搭載バッテリー量は50q走行をカバーする程度にして軽量化し、急速充電システムによる車庫での継ぎ足し充電を行うことにより、終日の運航を可能にした。
*制動を回生ブレーキでカバーすることにより、ほとんどアクセルペダルの操作だけで車庫から出て車庫に戻ってこられるため、運転しやすく疲れない。
・これによりバスの運転士には「運転しやすい、疲れない」、バス利用者には「揺れない、静か」、バス事業
者には「低年式車の再活用、運転技術が楽」などのメリットが生まれた。
・設計仕様と生産技術の標準化を図ることにより、全国の車両改装業界メーカーでのEVバスの生産が
可能になると期待される。
・あわせてEVバス大量導入の仕組み作りを進めている。

(3)実証試験(熊本事業)
・熊本市近郊を16,000q(116q/日)走行した結果、動力性能、静粛性、冷暖房、航続距離、燃費、環境性能の観点からの評価が高く、路線バスとしての実用性は十分と評価された。さらに変速機は不要との判断が得られた。

(4)実証実験(横浜事業) 
・熊本で実証したEVバス技術に、バッテリーの容量増、急速充電器性能アップ、変速機廃止、などの改良技術を織り込み、渋滞路が多い、登坂路が多い、利用者が多いなどのバスの運行がさらに厳しい横浜市で2018年10月から2020年1月末にかけて実証実験を行なった。走行実験は昨年の10月28日から今年の1月末まで3か月間で、営業運行は4千q、輸送人員1万6千名で、曜日ごとに異なる路線を走行した。変速機を不要としたため軽量化ができ、バッテリー搭載量にマージンができたり、駆動系伝達効率アップなどの種々のメリットが得られた。
・実証試験の結果、運転士からは発進・加速性能、登坂性能、制動性能、音振性能、等々の観点から路線バスとしての性能は十分と評価された。また利用客からも静粛性、乗り心地等で高い評価が得られ、EVバスへの期待が大きいことが分かった。
・実証試験車からのCO2排出量はディーゼルバスに比べて―38%と推算された。
・実証実験条件下では、電力の基本料金が高いことが原因で燃料費用はディーゼル車に比べ倍近く高くなってしまった。

(5)今後の展望 
・普及型EVバスの技術の確立を目指す。
 実用的な低床路線バス
 バッテリーの再利用、運転の容易化などの新たな付加価値
 全国の改装車工場での生産の可能化
 低価格化ポテンシャルの追求、などなど

・社会実装の推進(事業化)を図る。
 EV路線バスの普及
 いろいろな用途へのEVの拡大
 電力会社との連携
 非常用電源としての防災への活用
 再生バッテリーの活用、などなど

4.質疑応答

主な質疑は以下の通り。

Q.全国で生産可能ということはどういうことか?
A.バスの製造はシャシーメーカーではなく車体工業会の改装車メーカーで行なうため、全国各地に対応できるメーカーがあり、10社くらいが手を挙げている。

Q.バッテリー量はもっと減らせないのか?
A.熊本事業では容量がぎりぎりだったが、横浜事業では容量の3割くらいしか使っていないため余裕があった。全国への適用を考えたら継ぎ足し充電があれば現状で十分だと考えている。

Q.電気代が高価になったとのことだが、発電設備を持つごみ焼却施設のごみ収集車であれば電気代は不要なので、今回のEVバス技術をごみ収集車に適用してはどうか?
A.ゴミ収集車のEV化には別事業者が国の事業として実証試験もやっているので、そちらの方にお任せしたい。

Q.中国のBYDがEVバスに進出しているが、これに風穴を開けてほしい。
A.BYDのEVバスとの直接比較はむつかしいが、わが方はBYDのEVに比べバッテリーの搭載量が約半分しかないので充電なしでは走れない。 しかし回生制動で100の使用電力の内50がバッテリーに戻ってくるため、電費性能ではわが方が圧倒的に良い。

Q.バスの車体や室内の改造は必要ないのか? また日野やいすずのバスでも使えるのか?
A. このバスは改造申請で認証をとっているので、もともとの強度部材やフロアはそのまま使用せざるを得ず、改造はしていない。バッテリー搭載のための新しいフレームやブラケットは元の車両の骨格に繋げている。どの会社製のバスも車体のレイアウトはほとんど同じなので対応できる。

Q.使用済みバッテリーの再利用はしているのか?
A. 再生バッテリーの利用はしておらず、新しいバッテリーのみ使用している。バッテリーの劣化は観測しているが、データは公表できない。

Q.日野自動車、いすゞ自動車などとタイアップして、路線バスをEV化できないか?
A. 彼らの収益源はトラックがメインであり、バスには興味がなくむしろお荷物扱い。このままだと日本はますます遅れていく。

文責 : 小栗武治


講演資料:普及型EVバス技術開発の概要
          
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2021年03月25日

EVFセミナー報告:プラスチック容器包装のリサイクルは「物」ではなく電力に

演題:プラスチック容器包装のリサイクルは「物」ではなく電力に
講師:環境企画 主宰 松村眞 様

日時:2021年3月25日(木) 
聴講者数:48名

1.講師略歴 
・1962年:日揮株式会社入社、石油精製などエネルギー関連設備設計
・1965年:東京大学工学部化学工学科助手、プロセスシステム工学研究
・1967年:日揮株式会社再入社後、環境関連設備の計画・設計・建設や環境調査・アセスメント             化学プラント省エネルギー技術開発、設備改善設計、情報・通信システムの計画             立案と整備、環境関連技術の整備と体系化、国内外の環境調査と対策提案を担当し、新規事業開発部部長、環境技術部部長等を歴任。
・1998年:日揮株式会社退社、環境調査と対策のコンサルティング事業開始
*発表論文は、化学工学分野、環境保全分野、省エネ分野、情報処理分野他、約150件*

2.要約:
エンジニアリング会社日揮で、海外や日本のプラント建設等のプロジェクトにおいて、環境や省エネルギー関連業務で担当及び管理職を歴任された後に、環境コンサルタント会社である環境企画を興され主宰されている松村眞氏から、近年問題になっているプラスチックごみに関する問題点と、松村氏が最も効果的と判断されている対策である「電力としての資源回収」を主題として解説を頂いた。 
一般廃棄物系のプラスチックごみが処理される形には、「マテリアル」、「ケミカル」、「サーマル」、「未利用」があるが、それぞれに排出者、収集者、収集後の選別者、再生原料化者などのどこかに負担が大きく、又、それぞれに再生品の市場性、再生品化率のどちらかもしくは両者が低いという問題点があった。それらの中で、「サーマル利用で焼却電力として資源回収する方法は、再生原料化者が焼却から発電を行うので、その負担が中くらいで、その他の排出者、収集者、収集後の選別者の負担が小であり、再生品の市場性はすぐに使える電力なので高であり、再生品化率は発電効率により不特定であるが、相応にすることが可能である」ということが分かった。ということから、「マテリアル」、「ケミカル」、「サーマル」というような区分けをすることなく、「サーマル(焼却)で電力として資源回収」一本にして、対処することを推奨するという結論でした。これによってプラスチックごみの分別収集は不要となるし、未利用のプラスチックごみも最小化できるし、プラスチックの元原料の石油分のエネルギーは、ヒートポンプエアコンの採用によりほぼ全量を回収できるとのことです。問題は現在日本でごみ処理をしている清掃工場の発電設備が貧弱であることで、今回の講演での内容に沿って設備を改善していく必要があるとのことでした。
環境、省エネルギーの専門家である松村氏の明快な講演で、普段プラスチックごみの排出やその周辺の問題にあまり気を留めていない参加者にも分かり易い内容でした。

3.講演概要:
先ず、プラスチックのマテリアルフローとして、現在日本国内における廃プラスチックが年間891万トン(2018年)あり、その内容は一般廃棄物系429万トン、産業廃棄物系462万トンとおおよそ半々に分けられる。 そして、それらのリサイクル形態は材料となる「マテリアル、ケミカル」と、燃料として生かされる「サーマル」、それ以外の「未利用」に分けられている。
一般廃棄物系に話を絞ると、マテリアルはPETボトル等で、割合は16.7%、ケミカルは高炉やコークス炉での利用で6.8%、サーマルは焼却電力利用がメインで57.7%、残りの未利用が単純焼却などで18.7%となる。つまり20%弱がただ焼却されているだけで資源回収されていない(地球温暖化の悪影響のみ)。
リサイクルの方法を評価すると、
@マテリアル利用では大部分がPETボトルの回収であり、分別収集が行われており、収集者と収集後の選別者の負担が大であるが、再生品の市場性がプラスチック原料として使えるということで高評価で、又、再生品化率が95%と高く有用である。
Aケミカル利用では、高炉やコークス炉での利用が中心であり、排出者、収集者、再生原料化者の負担が大であるが、再生品の市場性が燃料である石炭や石油相当で中程度で、再生品化率が93%と高い所が評価される。
Bケミカル利用の高炉、コークス炉、ガス化化学原料代替などでは利用手法が特定なもので、単なる燃焼による電力回収よりも市場性評価が高くなっている。
Cサーマル利用では、プラスチック容器包装(リサイクルマークのあるもの)は一般の燃えるゴミと混合収集される。固形燃料にするのは、再生原料化者が乾燥、粉砕、石灰混入、圧縮成形化などを行う必要があり、負担が非常に大であるのに対し、再生品の市場性は低質燃料で低であるが、再生品化率は歩留まりとして高いが意味はない。 
D一方、サーマル利用で焼却電力回収は、再生原料化者が焼却から発電を行うので、負担が中くらいであり、排出者、収集者、収集後の選別者の負担が小であるのを生かせるし、再生品の市場性はすぐに使える電力なので高であり、再生品化率は発電効率により不特定であるが、相応にすることが可能である。
そこでプラスチックごみを焼却している清掃工場での発電効率を見てみると、日本では10〜20%が多いが、ヨーロッパや北米では20〜25%以上が多く、33%の例まである。
日本で発電効率が低かったのは、日本の清掃工場は公営であるために、設備の拡充に重点がおかれ、設備投資費が抑制されたためである。又、電力会社からの電力の買い取り価格が低かったのも挙げられる。 一方、欧米では民営であることも多く、売電収入が重視されたという背景もある。
日本でも清掃工場の発電効率は近年上昇してきており、エコノマイザー等の色々な効率向上を図ることができるようになっている。特に需要側でヒートポンプを採用すれば、理論上プラスチックの原料である石油のエネルギーのほぼ全量を回収できると考えることもできる。

まとめとして、
@清掃工場は、焼却発電で熱量の20%〜25%を電力で回収でき、需要側はヒートポンプエアコンで電力を5倍以上の熱に変換できるから、プラスチックごみの元の石油のエネルギーを全量回収できる。
Aヒートポンプエアコンは暖房にも使うから、従来から暖房に使っていたガスや石油の消費が減り、温室効果ガスの排出も減る。
B混合収集だから、高炉微粉炭代替、コークス炉原料代替、ガス化・化学原料代替より、排出者・収集者・収集後の選別者・再生原料化者の負担が少ない。再生品の市場価値は高品質燃料相当で同水準。
C発電効率の高い清掃工場の市町村から切り代えたらどうか。
Dリサイクルが電力になると、コーヒーショップやコンビニのごみ箱から「プラスチック箱」がなくなり、分ける手間も不要になる。

質疑応答
(1)質問: 大変クリアな結論で胸がすっとしました。そもそもプラスチックごみはごみと一緒にして出してはいけないとか、焼却炉を傷めるという話があったが、その辺は如何なのでしょうか?
回答: 古い1980年台位の焼却炉ではプラスチックが炉の中で溶けて井格子から垂れ下がると言った問題がありましたが、今は全部技術的には解決していて、どこでもプラスチックが燃えないとか炉が損傷するとかはないです。 それから、(プラスチックごみを一般ごみと一緒に出してはいけないと言われていた)別の理由としては、技術的にドイツが先行していて、燃やすのはリサイクルではない、あくまでも物としてリサイクルするのが筋という考えで、熱にするのはリサイクルに該当しないと考えていたことが挙げられます。それは日本も同じでした。又、焼却炉で燃やすのは発電効率が低くて、ヒートポンプも効率が悪かったのも確かで、プラスチックを燃やすのは以前は行われていなかった。
(2)質問: マイクロプラスチックは日本で回収されているものの中でどれ位の率になっていますか?
回答: (マイクロプラスチックになっている)海洋に流れているプラスチックは不法投棄によるもので、圧倒的に外国からのもので、日本の場合はかなりキチンと収集されており、日本ではデータとしては出ていない。日本から海外に資源ごみとして輸出されたものについては、(以前はあったかもしれないが、)今はそれが殆どできない。又、日本からプラスチック製品が海外に行って不法投棄されるものについては日本では分からないし、その国の問題で日本の努力では改善するのは容易でない。問題なのは漁網などが結構捨てられたりしていることであるがそれはデータとして日本ではない。
(3)質問: プラスチックごみから発電する場合の費用対効果はどのように評価しているか?
回答: 300t/dの発電設備付き清掃工場の建設費は約300億円で、その内発電設備は2割以下で、電力は15円/kwの価値があるので、発電設備の負担は4〜5年で十分にペイします。ですから自治体は頑張って増設すべきと思う。アメリカではそうやってビジネスにしている。日本は民間企業でないから、それをしないし、公共の公衆衛生設備というコンセプトで来ているのが現実です。
(4)質問: プラ容器を電力にする考えに大賛成です。日本の清掃工場はプラ容器だけでなく生ごみを焼却処理するという目的もあり、どういう割合で燃焼するかがポイントと思う。生ごみをそのまま焼却するとカロリーが低いので、熱量のある廃プラをわざわざ燃やすことがあると思うが、その辺りのバランスについてはどのようにお考えでしょうか?
回答: 現在清掃工場で燃しているごみの中にどれ位のプラスチックが混じっているかと言うと1割位です。混合ごみとしてプラスチックが入ったままで燃焼し、プラスチックだけを分けて燃やすというわけではない。カロリー的にも問題なく、助燃しないで自燃させている。水分が多いとなかなか自燃しないということがあるが、日本のごみは全部自燃で処理されており、問題ない。又、カロリー調整のために廃プラを別分けするということではなく、発電設備を増強して電力に変えたり増やす方が良いのではというご指摘はその通りです。
(5)質問: 私の住んでいる世田谷区ではプラスチックについてはペットボトル以外は全て生ごみと一緒に燃えるゴミとして回収しており、分別が楽である。これは焼却して電力に変えて行く設備が清掃工場に整っているので、こういうことができると言うことなのでしょうか?
回答: 世田谷区は分別排出しないし、東京23区の内いくつかの区もそうなっている。その理由は分別排出するための収集の費用が自治体の負担となるので、それよりも燃えるゴミとして集めてリサイクルの品目を増やさないことが経費節減になると言う理由で世田谷区は(発電設備を持ち、そのように)やっている。 世田谷の清掃工場の発電効率は高いので、それで良いと思う。
(6)質問: 私の家ではエネファームを使っている。非常に熱効率が高くてエネルギーコストが下がって大喜びです。松村先生のおっしゃるヒートポンプを使って効率を高めてエネルギーのトータルを減らすのに大賛成である。一方、2050年のCO2フリーと言われているが、このことに関しての先生の考えを教えて頂きたい。
回答: CO2フリーとなると再生可能エネルギーで電力を賄うということになるが、再生可能エネルギー電力はやっと2割であり、化石燃料に8割依存している。仮に原発がもっとできたとしても、化石燃料依存度が5割を切るような事態はそうそう簡単には実現しません。ということで化石燃料の使用は続く中で、ヒートポンプを使って空気中の熱を取り込んで化石燃料の消費を下げるということは意義があると思う。日本の民間のエネルギー消費では暖冷房と給湯に相当使っているので、ヒートポンプ技術は電力エネルギーを5倍もの熱に変換できるのは凄いと思う。これを使って化石燃料の消費を減らすのは正しいと思う。心配なのは、「混ぜればごみ、分ければ資源という考えがあること」や「分別回収でそれを産業化している人たちもいること」で、その辺の説得力を高めるロジックも必要と思っている。
清掃工場の建設には国の金がかなり入っているのに、それに発電工場を付けて電力を売った金は自治体がもらって良いのかというような話もあったが、これはしくみの問題でトータルで悪い話ではないので進めて良いと思う。
(7)質問: 以前に、公共事業のPFI(Private Finance Initiative)化ということで民営化が検討され、その中にごみ事業も入っていたが、それがなっていないのは何が間違っていたのでしょうか?
回答: 詳しくは分からない。今は清掃工場を民間企業が始めているものがいくつか出ている。権益が絡むこともあるし、清掃工場では用地が必要で、資本がいるのに収益性が保証されるかという問題もある。アメリカの例では、「ごみを何トン出せ、出さないと金を出せ」というような話をしているのを聞いたし、そのような内容を書いた契約書にサインしているのに驚いた。
(8)質問: 発電をコンバインドでしている清掃工場の中で、EVFの工場見学にお勧めの工場はありますでしょうか?
回答: 比較的東京都は熱心で発電効率が高くて良いと思う。横浜、大阪なども関心が高く、良い工場が多い。世田谷も良いと思う。

文責:浜田英外


講演資料:講演資料:プラスチック容器包装のリサイクルは「物」ではなく電力に
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2021年02月25日

EVFセミナー報告:「1.5℃のライフスタイル」―脱炭素型のよりよい暮らしを目指して

演題「1.5℃のライフスタイル」―脱炭素型のよりよい暮らしを目指して
講師:小嶋 公史(さとし)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機構(IGES)
プリンスパルコーディネーター・上席研究員 小嶋 公史(さとし)様
Web視聴開始日:2021年2月25日(木)
聴講者数 : 47名

1.講師紹介
・東京大学大学院工学系研究科修士課程修了(工学修士)、英国ヨーク大学環境学部博士課程修了(Ph.D.)。1994年より(株)パシフィックコンサルタンツインターナショナルにおいて、コンサルティング技師として上下水道・環境保全分野での政府開発援助プロジェクトに従事。その後、英国ヨーク大学で博士号(環境経済学)を取得。
・2005年より公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)勤務。専門は環境経済学、環境・開発政策評価。IGESでは、経済モデルなどを活用した定量的政策分析ツールの開発や、途上国で依然深刻である貧困問題の解決と、人類の生存基盤である生態系の保全をどのように両立するのか、という観点で持続可能な開発に関する研究に従事。近年はカーボンプライシングや持続可能なライフスタイル関連の研究などに取り組んでいる。

2.講演概要
気候変動対策のための国際合意であるパリ協定では、産業革命前からの気温上昇を2℃未満、できれば1.5℃未満に抑える努力が地球規模で必要とされているが、今や世界は1.5℃未満が目標とされつつある。そのためには技術革新や企業の努力などによる排出削減に加え、私たちの暮らしを通じて排出される“カーボンフットプリント”を削減するのが重要だ。“カーボンフットプリント”とは、私たちが消費する製品やサービスを、製造し、流通し、消費し、廃棄する、という製品のライフサイクルを通じた温室効果ガス排出をいう。
地球環境戦略研究機関(IGES)では、フィンランドのアールト大学ほかとの共同研究を行い、2年前にその研究成果を出版した。その概要と日本についての分析結果をまとめた日本語版要約本を昨年1月に出版した。講師の小嶋公史(さとし)先生は3人の著者の一人である。本セミナーの核心部は、1.5°C目標に対する世界共通の一人当たりカーボンフットプリント目標を提示したうえで、日本人の場合はライフスタイル・カーボンフットプリントを2030年までに約三分の一に、2050年までに約十分の一に削減する必要がある。そのためにとり得るライフスタイルの選択肢を多方面から考察された。その上で、最終消費者である私たちが持続可能かつ豊かな暮らしの在り方を地球規模で検討し、消費者主導で脱炭素型のビジネスモデルならびに社会システムの変革を導く、新たな可能性を強調してセミナーを終えられた。

3.講演内容
1)1.5℃未満が新たな目標に
人為的温室効果ガス(GHG)の排出量をゼロにしない限り地球温暖化は進行する。2015年に採択されたパリ協定は2020年以降の温室効果ガス(GHG)排出削減のための新たな国際枠組みとして、歴史上はじめて全ての国が参加する公平な合意と言われる。パリ協定では地球全体の平均気温の上昇を産業革命以前に対し「2℃より十分低く抑え、1.5℃未満に抑えるための努力」を追求することが合意された。さらに2018年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が「1.5℃特別報告書」は発表し、気温が2℃上昇した場合でも大きな影響が予測され、1.5℃未満に抑えることによりリスクを抑えることが出来ることを示し、1.5℃が新たな目標になりつつある。

2)出版された、「1.5℃ライフスタイル」―脱炭素型の暮らしを実現する選択肢ー
地球環境戦略研究機関(IGES)では、フィンランドのアールト大学、同じくフィンランドのD-mat等と共同研究を行い、その研究成果として2019年2月に英語版レポートを出版、国際的に注目を集めた。研究は日本、フィンランド、中国、ブラジル、インドの平均的な暮らしでのGHG排出量や特徴、脱炭素社会に向けて取りうる選択肢を示した。
IGESからは2020年1月に、その概要と日本についての分析結果をまとめた日本語要約版を出版した。セミナーの講師、小嶋公史(さとし)先生はその本の3人の著者のお一人である。
3)カーボンフットプリント
温室効果ガス(GHG)の直接排出だけにとらわれず、カーボンフットプリントなる概念でGHGをとらえる。“カーボンフットプリント”とは購入する製品やサービスの、製造、流通、消費、廃棄等サプライチェーンにおける間接排出を含めたライフサイクルにおけるトータルのGHGの排出量を指す。

4)日本のカーボンフットプリントの特徴
GHGの排出量を生産ベース(=領域ベース)の指標と消費ベース(=カーボンフットプリント)と比較すると、日本は消費ベースが生産ベース上回る。すなわち輸入を通して海外において引き起こすGHGが大きい。
・1970年代に消費ベースが生産ベースを上回り、輸入に依存する時代に。
・1995年頃までは消費ベース・生産ベースともに増加。
・2000年代から二つの指標は横ばいが続くが、大幅減少への移行傾向は見られない。

5)ライフスタイル・カーボンフットプリントの国内消費者間比較
<フットプリントの大きい家庭>
 自動車利用、物質的消費、長距離レジャー、非効率的な住居、小さな世帯人数、などの高炭素型ライフスタイルの特徴。
<フットプリントが小さい家庭>
物質的消費が限られ、大人数で住む傾向にある。必ずしも低収入世帯ではなく、多様なライフスタイルの側面がフットプリントを決定づけている。

6)1.5℃に対応する一人当たり家計消費の目標値と現状とのギャップ
日本の家計消費の現状のフットプリントは7.6トン/1人・年
・2030年までの目標値は約三分の一の2.5トン (Cf. ブラジルの現状が2.8トン)
・2050年までの目標値は約十分の一の0.7トン (Cf. インドの現状が2.0トン)

7)ライフスタイル・カーボンフットプリントを削減する3つのアプローチ
次の3つのアプローチを全ての消費領域(食・住居・移動・製品・レジャー)で取り入れてゆくことが脱炭素型ライフスタイルの実現につながる。
(1)消費総量削減アプローチ :テレワーク、職住近接、食品ロス削減等
(2)モード転換アプローチ :公共交通、再エネ、菜食等
(3)効率改善アプローチ :低燃費車、省エネ住宅等〜効率改善だけでは大幅削減は不可

8)脱炭素型ライフスタイルの選択肢
住 居 :コンパクトな住居空間、再生可能エネルギー由来の系統電力に切り替え、再エネ設備の設置、住居の断熱、暖房にヒートポンプ使用、温水シャワーヘッド等での温水の節約。
移 動 :車を使わない通勤・プライベートの移動、近場での週末のレジャー、飛行機移動の削減、電気自動車の導入、ライドシェア(1台に必ず2名以上乗車)。
 食  :赤身の肉を鶏肉・魚など低炭素型たんぱく源に転換、乳製品を植物由来の代替品に転換、菜食、食べ過ぎ飲み過ぎている菓子・アルコール類の削減、食品ロス削減のため見切り品を積極的に買う・飲食店でのドギーバッグ等。

9)ロックイン効果への対策が必要
・消費者の選択肢は入手可能性、周囲のインフラ、コミュニティの状況に制約を受けている(=ロックインされている。)⇒製品やサービスが近くで容易に入手できる、コミュニティにインフラがあるなど容易なアクセスが必要。政策上の後押しも必要。
・消費者は長時間労働と大量消費のライフスタイルという大きな社会の流れにロックインされている。⇒社会全体での取り組みを後押しするために、1人1人には消費者、市民、社員、ボランティア、教育者など様々な役割があることを啓発。

10)消費モード転換を可能にする条件整備
政府・自治体と企業、消費者のステークホルダーが、協働して消費モードを転換に勤める必要がある。
企業 :テレワーク、シェアリング、食品ロス削減、肉・乳製品の代替品、その他の低炭素型の製品・サービスの選択肢の提供、1.5℃目標と調和した自社の戦略的計画策定・投資決定やビジネスモデル採用。
消費者:消費に関する習慣の変更、特に短期的に実行可能な選択肢への変更、投票・購買行動による政府・企業への社会システム転換への働き掛け。

質疑応答)
Q1)温室効果ガス(GHG)の排出量はどのように計算するのか。またカーボンフットプリントはどのように算出するのか。
A)直接排出される温室効果ガスは、化石燃料をどれだけ使うかなどをもとに国連作業部会で計算マニュアルがある。次にカーボンフットプリントの計算には、製品ライフサイクルの各段階の排出量を積み上げるボトムアップ方式と、トップダウン方式の二通りの計算方法がある。トップダウン方式では、その国の産業連関表を活用した行列演算によって直接排出量と間接排出量を合計したカーボンフットプリントを推計する方法である。

Q2)昨今の新型コロナウイルス禍で大変な苦痛を受けているが、そのおかげで大気汚染が改善されたとの話を聞く。しかしより良い暮らしを求めてのこととはいえ、心の準備が必要だ。教育、啓発が重要になってくるのではなかろうか。
A)おっしゃる通りだ。ロックダウンのようなやり方は無理。皆が納得することが必要で、価値観が変わらないとだめだ。コロナ対策としての行動変容の中で、望ましい将来に向けて有効なものは何かを洗い出し、そのような行動変動は促進すべき。例えばテレワークをしてみて、「意外といい面が多い」と気がついたならうまく活用していけばよい。コロナ対策のなかで幸せに繋がるものは何かということだと思う。

Q3)菅首相が2050年までにネットゼロと宣言したが、脱炭素とはどこまでできるか。
A)確かに将来を見通すのはまだ難しい。余分なGHGを吸収すると言っても、CO2を地下に貯留するCCSは日本国内では貯留できるキャパシティが無い。地震国だから管理が難しい。CO2の再利用などは期待できる。

Q4)たまたま昨日テレビで牛肉の代替品のことが報じられていたが、その製品の味はどうかなどで話題が賑わっていた。温室効果ガス削減に大いに寄与するものだとの啓発もして欲しかったと、先ほど思い出した次第だ。
A)そういう1人1人の気持ちが大事だ。商品にラベルをつけてカーボンフットプリントにいくらいくら有用だと明示しようというアイデアもあるが、個々の商品にそれは難しい。ただそういう教育、啓発は大事だと思っている。子供向け啓発の本を出版しようという会社があり、その本の監修を依頼されているところである。

文責 : 佐藤孝靖

講演資料:「1.5℃のライフスタイル」ー脱炭素型のより良い暮らしを目指して
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介