2017年04月20日

EVFセミナー報告:京で草木染屋をやっています〜染めの実演を交えて〜

[演題]:京で草木染屋をやっています
    〜染めの実演を交えて〜

日時:平成29年4月20日(木)午後3時45分〜5時45分
場所:NPO法人「新現役ネット」A会議室
講師:青木 正明 氏(天然色工房手染メ屋 主宰)

講師紹介:
 1991年、東京大学医学部保健学科を卒業後、(株)ワコールに入社しナイトウエア及びスポーツアンダーウエア企画業務・ブランドMD業務に携わり、仕事で奈良の染色研究所を訪問した時に初めて草木色の染め色を目にして染色に興味を持ち始め同社を9年で退社、(株)益久染色研究所に転職された。
 転職3ヶ月後、古代染色家故前田雨城氏の上代染色復元絹地展示会の手伝いをした時に前田氏の染め色を観て涙が止まらない現象を体験し、自分でもこのような色目を染め出したいと強く思い同所を一年半で退所され、
 2002年1月、京都市中京区麩屋町で「天然色工房手染メ屋」を主宰しながらこれまで京都造形芸術大学で非常勤講師として染色概論座学、天然染料の染色技法実習や天然染料を使用した伎楽装束復元実習などにも携わって現在に至っている。

要約:
 草木染めとは植物の色を繊維に染めつける作業で、現代では比較的珍しい技術だが、19世紀に合成染料が開発されるまでは世界中で当たり前の染色方法だった。
 今回はムラサキの根、「紫根(しこん)」を使った染の実演をしながら、プロジェクターを使って草木染めの概要(染色とは?、高貴な紫色の歴史、紫根の特殊な染め方、薬用利用、化学的薬効評価など)を分かり易く説明して頂いた。

講演概要:
 今回は京浜東北線と山手線のトラブルの影響で多くの出席予定者の会場到着が遅れ、セミナー開始時間を15分遅らせての開始で、その間青木先生には「ムラサキの染め実演」の準備をして頂いた。
 先ず、紫根は地上部が可憐な多年草だが根は紫色で太い直根でこの根が乾燥すると染料になり、チップ状になった原料は少し匂いがし、かじると甘い(ブドウ糖)とのこと。
色をよく出すため、使う前にミルで出来るだけ細かく曳き、300ccの消毒用エタノールを混ぜ30分ほど浸け置く。次いで椿灰に熱湯を200cc注ぎ、かき混ぜて30分ほど静置しておく。ここで一旦実演を中断して、あらためて大学での進路選定の経過から草木染めに関わって来た経緯を交えて軽快な話し方で自己紹介された後、先ず「染め」とは何ぞやの説明となった。
染色とは?
 染色とは、繊維(細長くてしなやかである物質)と染料(色を持っていて、水に溶けて、手を持ってる分子の集合)が手をつなぐことで、繊維の細長い分子には+、−の「手」があり、染料にも+、−の「手」があって、繊維の分子の手に色素分子の手が磁石の力で引っ付くことと染色の現象を図を使って判り易く説明された。
 合成染料は1856年に英国の若き化学者パーキンが間違って紫色の染料を創ったのが始まりで、それまでは全て草木染めであったとのこと。
2.ムラサキの根と染め方
 ムラサキの根は古来より高貴な紫色を染め出す染料として重用されてきた。
染め方は、927年に編纂された「延喜式」第14巻“縫殿寮”章の雑染用土(くさぐさのそめようど)に38色の染め式の記述があり、高貴な紫色の染め方として紫草、酢、灰(椿灰)、薪の配分が示されていて青木先生はこれらを類推して草木染に供しているとのこと。
Semi20170420r1.jpg 先ほどエタノールに漬け置いた容器からごみ取りネットで紫根だけを取り除いて濃い赤紫のエタノール溶液に出来るだけ熱い湯を注ぎ2リットルに嵩上げし絹地を入れ、動かしながら染めた。
ムラサキを綺麗にしたいので椿に入っているアルミニウムを使い、このアルミニウムは光合成を阻害する働きがあり媒染効果による色素定着と発色するとのこと。
 紫根は特殊な染め方で、湯に入れて潰したり揉んだりしながら色を出し、次いで絹地を染め液に入れ浸け染めし、時間を置いて絹地を椿灰で作った灰汁に浸けて「媒染」する。
紫根の紫色の成分はシコニンとその誘導体で、リトマス試験紙のようにアルカリ性で青みに、酸性で赤みになるのでこれを20分から30分交互にしていく。江戸紫は青み系で京紫は赤み系で何方で終わらせるかで色を出す。シコニンは水に溶けにくく70℃、80℃のお湯の中に長時間(30分位)浸されると灰色になってしまう。またシコニンはアルコールには直ぐ出て生地には付きにくいので水で調整すると化学結合で生地に上手く付くようになる。
 次に何故灰は椿なのか?「延喜式」には灰としか記述がなく「万葉集」第12巻にある“紫は灰さすものぞ海石榴市(ツバイチ)の八十のちまたに逢える児や誰”の歌から古代染色家の仲間で類推されてきたとのこと。
3.紫根の薬用利用
 紫根は古来より薬用にも利用されている。古代中国の漢方原書「神農本草経」(西暦150〜160年)に紫根は中品(毒にもなり得る養生薬)として“味苦寒。心腹の邪気や五疸の病を治す”と掲載され、お腹に良い薬で、同じく古代中国の医学書「名医別録」に“膏を作り小児の瘡および顔のできものを治療する”と記載され軟膏としても利用されている。わが国でも江戸時代後半に華岡青洲が考案した万能軟膏「紫雲膏」が利用されてきた。
Semi20170420r2.jpg4.紫根の化学的な薬効評価
 紫根は天然染料の中では比較的言及されている物質で、シコニンとその誘導体(ナフトキノン誘導体)は薬理活性を持つものが多く、抗ウィルス薬、抗炎症薬などに利用されているが作用機能はよく分かっていないとのこと。
 日本には染色専用の植物という概念がなく、藍染の藍は元々日本原産植物ではなく紅花と同じく中国から来たもので、有用な植物として管理しながら育てて来たとのこと。

 ご講演後、今回の染め実演で出来た高貴なムラサキ色に染まった絹地を女性参加者と青木先生とのジャンケン勝負でお一人にプレゼントされた。

質疑応答
Q1:紫色は貝からとるのですごく値段が高いので高貴とされると聞いたことがあるが、その紫と今回のムラサキとの違いは?
 A:物質として全く違い、紫は洋の東西を問わず高貴なものとされているが、西の方は貝が使われていた。藍のインディゴに臭素(Br)が2つ付くとジブロムインディゴの貝紫となり全く違うものだが色はよく似た紫色。貝紫は赤みの強い紫色だが染め方やタイミング、個体差でいろいろ変わり、酸化して染まるが反応は遅く、日に当たって発色するのが特殊。一方、藍は空気中でも簡単に酸化して染まる。ほかに紫に染まる物質は知らない。珍しいからどちらも高貴と言われる。
Q2:シコニンは合成化学で作れないのか?また作れるなら利害得失はどうか?
 A:化学屋がナフサやコールタールからではなく植物の根に着いている微生物をシャーレで培養して作っているという論文を見たことがあるが、天然物と合成物とでは経済性に問題があって、紫根が使われているのが現状との事。
以上 文責:立花 賢一

講演資料:「京都で草木染め屋をやってます」〜ムラサキの染め実演と染の話〜
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2017年03月23日

EVFセミナー報告:パリ協定が示した脱炭素化の流れに日本が貢献するために

[演題]:パリ協定が示した脱炭素化の流れに日本が貢献するために


日時:2017年3月23日(木) 15:30-17:30
場所:新現役ネットA 会議室
講師:WWF ジャパン山岸 尚之様

略歴:1997年に立命館大学国際関係学部入学。2001年3月に同大学を卒業。
同年9月よりアメリカ、マサチューセッツ州、ボストン大学大学院にて、国際関係論・環境政策の修士プログラムに入学。2003年5月に同修士号を取得。卒業後、WWFジャパンの気候変動担当オフィサーとして、政策提言・キャンペーン活動に携わるほか、国連会議での情報収集ロビー活動などを担当。
2011年より気候変動・エネルギーグループ長

演題:パリ協定が示した脱炭素化の流れに日本が貢献するために

要約:今回のパリ協定成立までの地球温暖化防止に係わる条約類の歴史を振り返り、パリ協定が示した方向性と特長の解説があった。その後現状についての認識、CO2削減に向 けた世界の潮流の紹介・解説が行われ、日本がやるべきことの提案があった。さらに 2050 年に化石燃料を使わず日本のエネルギーがすべて再生可能
エネルギーに よって供給されていることを前提とした長期シナリオについてのWWF 提案が紹介され、「自分・自社の身の回りでCO2/温室効果ガスの排出量削減」「“選択”を通じての社会の変革」などへの各人の取り組みが促された。
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講演概要:
1. パリ協定が 示した方向性
1992年にリオデジャネイロサミットで交わされた「国際気候変動枠組み条約」から
今回の「パリ協定」に至るまでの数々の国際条約の歴史について、最初におさらいの
説明があった。国際社会が CO2 削減をしない場合は産業革命前と比較して 2100 年
には 4℃、頑張って削減すれば1.5〜2℃の気温上昇にとどまる予想であり、このため
には今世紀後半に化石燃料を使わず CO2 排出量をゼロにする必要がある。 京都議定
書では先進国のみにCO2削減目標が課せられたが、今回のパリ協定ではほぼ全ての国
が削減目標を持ったところに大きな意味がある。 気温上昇1.5〜2℃に抑えるために、
5 年ごとに進捗状況をチェックし PDCA サイクルを回して前回より良い目標値を
設定して行くと言う枠組みとなった。これにより新たな協定書を作る必要がなくなった。

2. 現状についての認識
これまで経済の発展には大量のエネルギー消費が伴ってきた。世界の CO2 排出量に
対して中国 25%、アメリカ 15%が大きな割合を占めている。日本は 3%でありこれ
以上の削減は難しいと言われてきた。しかし人口一人当たりのCO2 排出量で見ると
アメリカは20 トン、 韓国 14 トン、日本 11 トン、中国 8 トン、世界平均では
7 トンと、日本はまだ努力代が残 っている。

3 .世界の潮流
WWFおよびCDP、国連グローバル・コンパクト、WRI(世界資源研究所)による
共同イニシアチブが、世界の平均気温の上昇を「2℃未満」に抑えるために企業に
対して科学的な知見と整合した削減目標を設定するよう求めている。これに応えて
世界で220の企業が参加し、日本からも22企業が参加している。また、再生可能エネ
ルギー100%を宣言する企業も数多く出てきており、それぞれ達成目標年を定めている。
さらに投資や金融の面では化石燃料を使用するプロジェクトから資本を引き揚げると
いった動きも出てきており、種々の分野でCO2 削減への努力が始まっている。

4 .日本がやるべきこと
日本の温室効果ガス排出量は1990 年から見ても徐々に増えており、2013 年がピー
クになっている。日本では 2030年までに2013 年比で 26%削減、2050 年までに
80%削減の目標を掲げている。しかし、今後石炭火力発電所建設の計画が多くあり、
40年稼働するとすれば脱化石燃料の時代に入ってしまい矛盾がある。 これまでの
社会では、経済成長に比例してエネルギー消費も増えるとされてきた。 これに対し
て資源の再利用・循環利用を行い、一定の経済成長や便利さを維持しつつも、エネル
ギー消費を減らしていくデカップリングの考え方が出てきており、日本でも取り
入れていかなければならない。これらを含めた長期戦略の議論を進めなければなら
ない。 アメリカはじめ主要国はすでに国連に長期戦略を提出しているが、日本、
イタリアなどは未提出のままになっている。 WWF では 2050 年に日本のエネル
ギーがすべて再生可能エネルギーによって供給されていることを前提とした長期
シナリオを提案している。これによれば 2015 年に投資をした場合、2030 年には
初期投資を回収し終わり、2050年には大幅に黒字化する見通しとなっている。
私たちは「自分・自社の身の回りでの CO2/温室効果ガスの排出量削減」「“選択”
を通じての社会の変革」を図って行かなければならない。Semi20170323R1.jpg

5. 質疑応答
講演終了後、聴講者から原発の必要性、日本の地の利を生かした自然エネルギーの活用、
カーボンニュートラルの考え方への疑問、液体バイオ燃料の輸送部門へのさらなる
活用、他、数多くの意見や質問が出され、活発な論議が交わされた。(写真 DSCN5426)
以上

以上 文責:小栗武治

講演資料:「パリ協定が示した脱炭素化の流れに日本が貢献するために」

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2017年02月16日

EVFセミナー報告:日本海の謎

[演題]:日本海の謎  〜その深層で起こっていること〜

日時:平成29年2月16日(木)
場所:国際協力機構 市ヶ谷ビル(JICA市ヶ谷ビル)2階会議室
講師:東京大学大気海洋研究所 教授 理学博士 蒲生 俊敬 様

講演要旨
EVF第10回通常総会記念講演として、地球温暖化の影響が、すでに深海に及んでいるのか、私どもに馴染みの薄い基礎研究の成果からひも解いていただいた。
日本海の自然環境は、地形的な閉鎖性がとりわけ強く、また、冬季の季節風の存在があり、対馬暖流の流入という地理的特徴もある。この閉鎖性ゆえに、日本海は、独自の海水循環系を有している。
海水の循環スケールでは、全海洋で2000年かかるところが、約100年〜200年と速い。
表層の生物生産量が多く、下層への有機物輸送が活発であり、地球環境変化に敏感に反応している。先生自ら海水採取、分析し、1977年以来蓄積された時系列データは、日本海底層水の驚くべき実態を明らかにした。
日本海での研究成果は世界に先駆けて警告を発することができるとの示唆に富む高話をお聞きした。

講演概要
1)日本海に関する基礎的事項(日本海の形成・地理的特徴・歴史的役割)
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日本海は約2000万年前から1500万年前にかけて拡大し、日本列島となる部分が、大陸から離れ、約500万年前は、ほぼ現在の姿に近い日本列島は形成された。
日本海は、いくつかの海峡で外海とつながってはいるが、海峡部分はごく浅い。最深部分で約3800mもある日本海の水のほとんどは、外洋との出入りができない。
冬季の季節風が、表面の海水を極限まで冷やして「重い水」をつくり、それが海底まで沈んでいくことで、熱塩循環が駆動され、表層水と深層水が入れ替わる、大規模に循環する仕組みがある。其れゆえ日本海の底層水に豊富な酸素がある。
また、日本海は、日本列島に温暖かつ湿潤な気候と豊かな水資源が育む美しい自然環境をもたらしている。そのことが、縄文時代以来、日本が独自の文化を発展させる上で大きく寄与した。

2)日本海の海洋観測研究から明らかになった、そのユニークな科学的特徴
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日本海を取り囲む四つの海峡はどれも浅い。そのため、海洋としての閉鎖性が高く、
独立した海水循環のメカニズムを持つ。その狭さと閉鎖性ゆえに一般の海洋よりも敏感に
地球環境の変化に反応する。
近年、日本海にわずかな変化が見え始めた。今はわずかでも、将来危険な変化になりかねない徴候だという。
自ら海水採取し分析し、1977年以来蓄積された時系列データは、日本海底層水の驚くべき実態を明らかにした。
特に注目されるのは、溶存酸素濃度が年とともに減少を続け、過去30年間で約10%も減少したことである。
海洋表層では、酸素は植物プランクトンの光合成によって生産される。しかし光合成の起こらない深層では、酸素は海水の循環によって補強される。一方、海水中には有機物の酸化分解のため、酸素は常に消費されていく。もしこの消費に見合うだけの酸素が補充されないと、収支のバランスが崩れ、酸素濃度は次第に減少する。現在の日本海底層は、まさにこの状況にあるらしい。
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3)急激に変わりつつある地球環境の中で、日本海が今後果たすべき役割について
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日本海は全海洋の0.1%強の容積しかないが、全海洋と類似の熱塩循環系を独自に保有することから、全海洋のミニチュア版として注目されている。
ミニ海洋日本海で起こる現象は、世界の海でも同じように起こる可能性がある。地球全体でこれから起こることを先取りする「炭鉱のカナリア」としての役割が日本海には期待されている。と蒲生氏は結んだ
蒲生氏が持ち前の鋭い切り口と和やかな雰囲気で素晴らしいご講話を進められたおかげで、最先端のアカデミックな話もよく理解できた。
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この海の知られざる姿を解き明かす、
海洋科学ミステリーの本書をぜひご購読を。
以上 文責:立花 賢一

講演資料:「日本海の謎」
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2017年01月26日

EVFセミナー報告:自動運転への期待と課題

[演題]:自動運転への期待と課題・・自動車交通は今後どうなる


日時:平成29年1月26日(木)
場所:国際協力機構市ヶ谷ビル(JICA市ヶ谷ビル)会議室
講師:日産自動車(株) R&Dエンジニアリングマネージメント本部 グローバル技術渉外部 技術顧問  
福島 正夫 様

講演要旨
近年、一段と関心が高まっている自動運転技術につき、日産自動車の第一線で開発に携わっておられる講師をお招きし、自動運転技術の現状と課題、将来展望につき講演をいただいた。講演要旨は以下のとおりである。
1) 日産自動車のチャレンジ
”ゼロエミッション“と”死亡事故ゼロ“にチャレンジする。そのために、自動車の”電動化“と”知能化“を推進する
2) 運転支援について
ドライバーがやっている認知、判断、操作の一部をITS技術を用いて機械が補助する。その為に、車が人を守る“Safety Shield Concept”を導入し、通常運転から衝突後まで適切な技術を提供する。具体的にはACC(全車追従走行)、DCA(車間距離維持)、IBA(衝突被害軽減ブレーキ)、ESC(スタビリティコントロール)、LDW/P(車線逸脱防止)、LKS/A(車線維持)、BSW/I(車線変更時後側方車両検知)などがある。
この場合はあくまでもドライバーが主体的に責任を持って運転する
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「日産自動車HP 安全への取り組み」より

3) 自動運転について
ドライバーがやっている認知、判断、操作のうち、ステアリング、アクセル、ブレーキの操作を同時に機械が一部操作するものを言う。
米国SAEではLevel 0〜5の段階が定義されている。Level 0は全く自動運転無し。Level 5は完全無人運転。現在市販されている技術は日産セレナもBenz SクラスもLevel 2相当。
現在は高速道路単一車線の自動走行だが、2018年頃に車線変更も含めた自動化、2020年頃に交差点も含めた自動化を目指す。
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「日産自動車HP 日産が考える自動運転」より

大型トラックの自動運転による隊列走行は2008年にNEDO事業として開発を実施した。ドラーバーの負担低減、燃費の向上のメリットが大きいが、重量が重く制御が難しいなどの課題も大きい。
4) 自動運転実現化の課題
技術面では、人と車のインターフェース、外界を認識するセンサー、認識技術、地図データ収集、道路整備、通信インフラの普及、セキュリティなどがあげられる。
法規・社会面では法規整備、責任の所在の定義、社会のコンセンサス、国際協調などが課題となる。

以上の技術課題説明に加えて、内閣府主催の総合科学技術会議での総理試乗や、伊勢志摩サミット時の各国首脳試乗のいきさつ、軽井沢G7交通大臣会合での試乗エピソードなど、興味深い話題が紹介された。最後に時間が足りなくなるほど活発な質疑応答が交わされて、セミナーを終了した。
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以上 文責:深井吉男

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2016年12月15日

EVFセミナー:「自動式巨大津波減災装置の開発」

[演題]:「自動式巨大津波減災装置の開発」


日時:平成28年12月15日(木)
場所:東京サンシャインビル9F 新現役ネット会議室
講師:防波システム研究所 代表  濱田英外殿

講演要旨
 講師は2011年東日本大震災時の大津波災害から、自動式で経済的な新しい津波対策をと思った。2012年に発表された南海トラフの大震災の新聞記事で、自身の生まれ故郷の高知県黒潮町に日本最大の34mの大津波が到達すると想定されたので、更にその必要性を身にしみて思った。大学での専攻は反応で土木技術とは畑違いであったが、大プラントメーカーに身を置いたまま、2012年には近所の茅ヶ崎海岸、相模川の河原で自分の考えに基づく津波対策模型の実験を開始するという行動力と柔軟性を発揮され始めた。
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 そのアイデアは木造構造体自身の浮力で自動的に動作する可動する「防波扉」、「防波筏」、「防波門」および「津波警報装置」であり、津波来襲時にその力を利用しさらに逆手にとって、高い津波減災効果をより安いコストで実現しようとするものである。かつユニット形式で作製されるので、それらを多重に組み合わせることにより、巨大津波にも適用することを考慮している。完璧に津波の侵入を防ぐことはできないものの、通常は地表面に伏せて設置されていて生活や視界を妨げず、いざという時に作動して、防潮堤として機能し、津波の被害を固定式のコンクリート製防潮堤と比較して、その80%程度の高い津波低減効率で減災しようという新しいコンセプトの紹介があった。
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 現在、その装置が基本的に作動し、想定通りの波高低減効果を発揮することを、東京海洋大学および京都大学の協力の下で、小規模モデルで確認済であり、その実験結果の報告もあった。
 また、広くこの考えを理解してもらうためにも特許取得、国連世界防災会議などでの展示、日本自然災害学会誌などへの発表にも努め、その苦労話もあった。
 講演後の質疑応答でも、「津波メカニズムの理解の難しさ、減災設備の考えの難しさ」「新しい技術を実現するための課題」「スポンサーなど今後の支援体制」などについて熱心な意見・質問が出て、30分が短く感じるものであった。
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個人的な社会への思いとアイデアの実現に向けて、活動を起こした講師の熱意に感銘を受けた。海岸近辺での生活しやすさ、景観維持、建設費用の低減など現行の巨大防潮堤の欠点を補うことが期待できるものであり、うまく開発が進んで広く普及すれば良いなと思える興味の深い講演であった。
以上 文責:岡田康裕

講演資料:「自動式巨大津波減災装置の開発」
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2016年11月24日

EVFセミナー:「選ばれる都市 横浜」を目指した都市ブランドづくり

[演題]:「選ばれる都市 横浜」を目指した都市ブランドづくり


日時:平成28年11月24日(木)
場所:東京サンシャインビル9F 新現役ネット会議室
講師:横浜市文化観光局長 中山 こずゑ 様

講演要旨:

あうたびに、あたらしい。Find Your YOKOHAMA。講師は、日産自動車鰍フブランドマネジメントオフィス部長、ブランドコーディネーションディビジョン副本部長を歴任され、平成23年に横浜市の都市ブランド構築のために横浜市役所に移られたブランドマネジメントの数少ないプロです。ご講演は、民から官への転身で直面した組織文化の断絶から始まり、その中で着々と成果を上げてこられたその悪戦苦闘のご努力と横浜市が抱える文化観光面での課題と将来展望をざっくばらんに伺いました。
「やらされた方は戸惑っただろうが、さすがプロの仕事」「久しぶりに元気の出る明るい話を聞いた」「日本中の都市が横浜のようにブランド向上を図れば見える景色も随分変わるのでますます頑張ってほしい」などなどの聴講者の感想でした。
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講演概要:

1.横浜市を取り巻く状況
・ 横浜市民373万人のうち65歳以上の高齢者人口は2025年には100万人超え。税収構造は総額1兆4,955億円、市民一人当たり40万円と法人市民税の少ないのが特徴。
・ 都市間競争の激化でブランド価値が確立できないところは生き残れない。
2.横浜の成長戦略
・ 2011年文化観光局の発足。市長の方針は「国内外での横浜のプレゼンスを高めるため、文化芸術、そして観光MICEは非常に重要な政策分野と確信」「文化芸術のもたらす心の豊かさを、横浜のレガシーとして遺していきたい」
DSCN5200-2.jpg3.状況分析
・ データが不在、競合相手が不明、目標が不明確、ロゴやキャラが乱立という状況からスタート。マーケティング&ブランディング戦略は、自治体でも応用できると確信。
・ 横浜=中華街がなんと33%。国内魅力度ランクは第5位、住みたい街ランクは4年連続第1位だが。海外の評価はアジアの中で横浜は国内で9位、名前の認知度は96%と高いが、特徴までを認知している人は50%以下。
・ 横浜への期待は「ロマンチックな気持ち」「楽しい気持ちになれる」。
4.戦略的プロモーションの推進
・ まずトーン&マナーの統一から。その為に市内デザイナーの積極的活用、ターミナル駅での集中交通広告展開、露出度強化、祝祭感づくり、
・ その結果2012年から2015年で、広告価値換算で48%アップ。
5.ブランドスローガンの制定
・ 賑わいづくり、経済活性化、人的資源の充実、施策・事業に一貫性と持続性を持たせる。
・ 以上により「市民の誇り」や「都市全体のグレードアップの気運」を生み出す。
6.ブランドを伝えるプロモーション
・ シティーセールス/プロモーションツールにブランド表示、公民連携によるスローガンの掲出、ビジュアル中心のリーフレット、テレビによる国内外のプロモーション、時代の流れを捉えたプロモーションなどの戦略的展開
7.プロモーションの効果
・ 観光集客実人員15%アップ(対前年)、観光消費額9%アップ(対前年)
・ 外国人宿泊客数2011年に比較し2015年に約72万人と248%アップ。
・ その結果としての市内主要ホテルの稼働率も88.1%と伸長。
8.都市ブランド確立に向けた今後の展開
・ クリエイティブチルドレン活動、HAG(ハンドメイド・アニメーショングランプリ)横浜賞設立、スマートイルミネーション横浜活動などのコンテンツタイアップによる新たな魅力と賑わいの創出を目指す。
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以上
以上 文責:岡 昂

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2016年10月27日

EVFセミナー:「塗料・塗装と環境問題」〜その現状と未来〜

[演題]:「塗料・塗装と環境問題」〜その現状と未来〜


開催日:2016年10月27日(木) 15:30〜17:30
会場 :サンシャインビル9F 新現役ネット会議室
講師 :日本塗装機械工業会専務理事 平野 克己 様

講演要旨:

講師は、50年間塗料・塗装の世界で活躍されてきて、なお現在もその第1線に立っておられる。ご講演は、塗装・塗料の技術的背景、その歴史と現状および将来の課題と展望等々大変に広く且つ深いお話を聞かせていただいた。
スマフォ、家屋、自動車等々、我々の身の回りに塗装のないものはない。一方、塗料・塗装は間違いなく環境負荷を有する。その原因は塗料を構成する化学物質にあり、これをうまく制御するのが塗料・塗装業界の課題であり、日本の技術を持ってすれば、塗装による地球環境負荷を低減することは可能であるとのメッセージを頂いた。
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講演概要:

1.塗料・塗装とは
日本での塗料生産量は年間約160万d。塗料原料は、顔料(40万d)、樹脂(40万d)、溶剤(80万d)であり、それぞれが廃水処理(50万d)、CO2とVOC発生(80万d)、塗膜等固体廃棄(30万d)という環境負荷原因を内在している(括弧内は年間の使用量乃至は廃棄量)。粉体塗料は溶剤を使わず環境に優しいが、その仕上げのきれいさでは溶剤塗料に及ばず、使用量は年間3万d程度。
因みに中国での塗料生産量は1700万d、粉体系は100万dとなっている。

塗装とは、材料表面を塗料皮膜で覆うこと。方法としては、ローラー等による直接塗装、スプレー等の間接塗装、電着塗装、浸漬塗装等々。工業製品での塗装方法はスプレー(噴霧)塗装が主流であるが、使用塗料の約50%がVOCとして外気汚染源となる。

日本での塗料工業界の状況は、1.国内生産量:160万トン/年 2.日本企業の海外生産量:200万トン/年(内、中国50%) 3.塗料製造会社:200社 4.従業員:2万名(塗装関連:20万人)5.国内出荷金額:7〜8千億円/年(世界10兆円) 6.販売店数:約5000店
となっており、一方、塗装工業に関しては、前処理10分、塗装10分、乾燥30分を1ユニットとする工業的塗装ラインが、製造業で10、000ライン、塗装業で3、000ラインある。自動車板金塗装業者数としては30、000社。

塗料業界(約200社)と塗装設備業界(約600社)は、ニーズと法律があれば課題解決に向けて一体となって対応できるが、現状では双方の共通課題とならないため共同で事に当たる体制にはなっていない。
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2.塗装の歴史
塗料の歴史は古い。1〜2万年前のアルタミラ洞窟やラスコー洞窟の壁画が鮮やかに現在まで残っている。日本では縄文時代に既に翡翠が顔料(薄い緑)として使われていた(因みに日本鉱物科学会が本年9月、翡翠を日本の石として認定している)。また、1300年前の高松塚古墳壁画がある。
日本での工業的塗装は明治初期の洋式軍艦の製造から始まり、日本特許第1号(明治18年)は「錆止塗料及ビ其塗法」である。

3. 塗装の役割
塗装の役割は美観、素材保護、機能性付加(防錆、断熱、遮熱、抗菌、防水、撥水、帯電防止、等。
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4.塗料・塗装の未来と環境対応
これからの塗料・塗装に要求される課題は、@素材の防蝕・保護、省エネ効果に優れ且つ長持ちする塗料・塗装技術の開発 A塗装が与える環境負荷の低減(CO2、VOC発生量低減、産廃排出量の削減) B塗装段階での省エネルギー)
等であるが、そのためには環境対応とグローバル化に耐えられる総合的技術革新が求められる。

これらのためには塗料・塗装システム工学という分野を形成しつつ、塗料及び塗装設備業界の壁を越えた技術革新を図る必要がある。さらに、中国のPM2.5問題の解決等をも視野に入れた海外との連携が一層重要になる。付言すると、中国では塗料中のVOC含有量を420g/L とし、それ以上の場合は使用料の4%の課税という厳しい規制を本年から課している。また、日本と違って中国では若手と女性の当該分野における活躍が見られることなど、優れた技術を有する日本も安閑としていられない状況にある。

以上
以上 文責:橋本 升

講演資料:「塗料・塗装と環境問題」
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2016年09月29日

EVFセミナー:「水のあと始末から資源化まで」

[演題]:「水のあと始末から資源化まで」〜トイレから見た世界〜


開催日:2016年9月29日(木) 15:30〜17:30
会場 :新現役ネット事務局会議室
講師 :亀田 泰武 様(NPO 21世紀水倶楽部 理事長 工学博士)、
講師略歴:
 昭和41年東京大学工学部都市工学科卒業、同年  建設省入省
 平成6年 大口径気液二相流に関する研究で博士号取得 
 平成15年 NPO21世紀水倶楽部理事
 平成23年 同理事長、現在に至る
 著書 DVD パソコンで見る「行きたくなる水辺景観」
DSCN5056-2.jpg要旨:講師は長年、水処理および利用の分野で先頭に立ってご活躍されてきた。水の汚れ/生活と下水/病原菌と下水道/活性汚泥法の誕生/下水処理/雨水と汚水/富栄養化/今後の課題などについて、分かり易く、丁寧に、そして我々の生活に則してご講演頂いた。又、活発な質疑応答の中でも、例えば、我が国の現状設備について、自然災害リスクも含め明快にお答え頂き、講師の見識の高さを垣間見る思いであった。
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講演概要:
「水の汚れ」
昭和40年代中頃の多摩川の水の汚れ、同じく隅田川の汚染による花火大会の中止など、当時の水の汚れを思いださせた。更に、セミナー会場の田町駅前の下水道管設置状況が下水道台帳を用いて説明された。

「生活と下水」
*水質悪化の原因は、有害物質/病原性微生物/有機物質/栄養塩類によるものに分類される。
*水の汚れは、有機物である。 
  <有機物と酸素>
  ☐酸素は1㎥に最大10g程度しか溶けない
  ☐水の汚れの指標BODは有機物を分解するのに必要な酸素量
  ☐BOD濃度≒有機物濃度
  ☐1gの酸素燃焼で4キロカロリーのエネルギーを生み出すと考える
  ☐人の1日のBOD量は500g
  ☐人のBOD除去率は97%
  
「病原菌と下水道」
ヨーロッパでは水系伝染病のコレラ、赤痢などの恐怖が下水道整備の推進となった。日本でも、大政奉還により関所が撤廃され、コレラのまん延に繋がったのではないかと言われている。上水道を整備すれば、怖い伝染病を防げるということが分かり、日本では下水道整備が後回しになった。

「活性汚泥法の誕生」
*19世紀後半より環境衛生上のニーズがあったが、本格的な下水処理プラントは活性汚泥法が発明された1914年以降急速に建設された。日本でも1930年に名古屋で運転開始され、覆蓋設置という独自の工夫を行い、当時の研究者の努力が評価されている。この土壌微生物を利用する方法が優れているので、100年後でも世界中で使われている。
*基本プロセスは変わっていないが、最近の進歩を紹介すると、
<窒素やリンなどの除去/微細気泡発生装置による省エネ/プラスチック膜ろ過方式による活性汚泥の分離>
 
「下水処理」
*一家庭/3人程度当たり、標準活性汚泥処理施設の容量は0.4㎥程度。
*下水処理のためのエネルギーは、標準家庭で常時15W程度の消費。
 *汚泥の発生しない下水処理法はない。

「雨水と汚水」
*年間総量では1:1だが、設計最大水量は雨水量が汚水量の100倍にもなる。
*大都市地域では従来は合流式だったが、S45年以降は新設の場合は分流式が採用された。分流式に改造は困難。
*合流式下水道の最近の課題としては、(1)お台場の衛生管理、(2)皇居のお堀水質改善、などがある。
*致死的でないが感染症を起こす水系病原微生物が現在も問題である。下水処理では病原微生物の90〜99%は除去されている。

「富栄養化」
*リンと窒素は、高度処理すれば90%程度の除去は可能。
*東京湾の水質は段々良くなっている。リン濃度は、洗濯機の普及により一時高くなったが(洗剤にリンが入っていた)、その後合成洗剤、無リン洗剤の普及により、改善された。しかし、残された干潟の元気がない。又、水温上昇(過去30年で約5°C上昇)によるお台場などの雨の後のノロウィルスの課題が残る。
*琵琶湖の水質は悪くなっており、原因は不明。
*諏訪湖の水質は良くなっており、ワカサギの魚体が小型化。
*霞ヶ浦の水質は、あまり改善されていない。

◎発生する汚泥は、一人一日4kg程度あり、その1%が固形分であり、有機物なので、潜在エネルギーの価値はある。しかし、汚泥の処理施設の「運転管理」と「最終処分」が一番大変な業務である。

「今後の課題」
(1)災害時トイレの確保、   (2)津波対策、水洗トイレの機能保持が必要、
(3)地域に根ざした水環境形成、(4)下水道資源の活用(例:コンポスト堆肥)、
以上
以上 文責:三嶋 明

講演資料:「水のあと始末から資源化まで」
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2016年08月25日

EVFセミナー:「まだまだ頼りになるエネルギー=石炭」

[演題]まだまだ頼りになるエネルギー=石炭
   −地球温暖化対策に貢献する日本の最新石炭利用技術について−



開催日:2016年8月25日(木) 15:30〜17:30
会場 :新現役ネット事務局会議室
参加 :27名
講師 :原田 道昭 様(財団法人 石炭エネルギーセンター上席調査役 工学博士)、
講師略歴 :
 早稲田大学大学院理工学研究科資源及金属工学専攻博士課程後期修了
 1978年 第20次南極地域観測隊員(博士課程在学中に休学)
 1983年 早稲田大学理工学研究所奨励研究員
 1984年 (財)石炭技術研究所、 (財)石炭利用総合センター、 (財)石炭エネルギーセンター
 所属機関の統合が進む中、現職に至る。
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要約 :石炭利用分野に長年情熱を注いで来た第一人者にお話し頂いた。石炭の分類を導入に、発電での広汎性や製鉄での不可欠性と価格の安価性・安定性、および近年の環境対策の必要性の高まりに及んだ。次いで、世界の主要関係各国の状況、およびわが国の状況が説明された。更に、主題の「地球温暖化対策に貢献するわが国の石炭利用技術」が詳しく述べられ、最後に今後の石炭利用状況の見通し等が説明された。

講演概要:
 石炭利用について下記の順序で幅広く網羅的にお話し頂いた。

1. 今石炭はどのように使われているか

●石炭は以下の様に分類される。
1)石炭化(炭素の濃縮)の程度: 無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭
2)用途: 原料炭(製鉄)、一般炭(発電燃料、セメント燃料)、無煙炭
3)粘結性: 粘結炭、非粘結炭
●石炭による火力発電は世界各国で広く行われている。
1)褐炭露天掘りと山元発電の例: ドイツ、ポーランド、豪州、等
2)高い日本のクリーンコール技術: J-POWER磯子石炭火力、勿来IGCCプラント
●高炉法による製鉄には石炭(コークス)が不可欠である。
 コークス用には粘結性の高さが必要だが事前の判別は不可能
●石炭の輸入価格は安価で安定している。
 一般炭に比べ、原油は2.6倍、LNGは2.9倍(2015年12月)
●石炭利用における環境対策の必要性が高まっている。
1)熱量当りのCO2排出量: 石炭5:石油4:LNG 3
2)日本の石炭火力の排ガスは、ガスおよび石油火力の排出基準以下

2. 世界の中での石炭

●世界の確認可採埋蔵量(2010年)は8,609億3,800万トンである。
 国別に、米国(27.6%)、ロシア(18.2%)、中国(13.3%)、豪州(8.9%)、インド(7.0%)
●世界の石炭生産量(2014年)は増加傾向に歯止めがかかっている。
 豪州、インドは順調に生産増だが、インドネシアは急成長後2014年に減少に転じた。
 米国は2012年以降大幅減であり、最大生産国の中国も前年比1億トン近い減である。
●世界の石炭消費量(2014年)も増加傾向に歯止めがかかっている。
 米国、EUの落ち込みが激しく、最大消費国の中国も前年比1億トン以上の減である。
 一方インドの消費は大幅に増加し、インドネシア、韓国、ベトナム等も増加傾向である。
●主要各国の状況は以下の如くである。
1)豪州
 重要な輸出国(国内消費は1/4弱)で、日本の要求に合う高品質炭を1億トン以上輸出
 石炭産業の持続的成長・環境対策を重視しているが、インフラ整備に課題がある。
2)インドネシア
 低品位炭が多い。石炭生産は増産から抑制に転じた。一般炭の大輸出国である。
 石油生産の減少に伴い、石炭の高付加価値化や国内供給の義務化の動きが生じている。
3)中国
 世界生産の半分近くを占めるが、2009年に純輸入国に、2011年は世界一の輸入国に近年の経済成長減速で輸入が激減しており、今後の石炭需給動向は不透明である。
4)米国
 消費の9割は電力向けでシェールガス台頭の影響を受け、2015年に一時首位を転落
 政府規制で老朽石炭火力は閉鎖、新規石炭火力建設も困難。石炭火力は40%を割込み
5)インド
 生産量、消費量共に近年急増している。今後も積極的に石炭を利用する方針である。
 日本を抜き世界第二位の石炭輸入国になったが、政府は輸入を抑える方針である。
●世界の石炭輸出/輸入は堅調に増加している。
  主要輸出国: インドネシア、豪州、ロシア、米国、コロンビア、等
  主要輸入国: 中国、インド、日本、韓国、台湾、等

3. わが国における石炭

●日本の石炭生産は供給の0.7%に過ぎず、近年ほぼ100%を海外炭で供給している。
 石炭政策による合理化やエネルギーミックスの多様化が進み海外炭の使用が増加した。
●我が国の一次エネルギー供給構成の変遷
 オイルショック等を踏まえ、石油依存度(最高1973年75%)の低減を推進して来ている。
●震災後の発電構成
 原子力発電停止で電力需給がひっ迫、代替火力発電燃料費は約3.8兆円増加(2013年度)
●産業別石炭消費(2010年度)
 電力:43.3%、鉄鋼:37.6%、窯業土石:5.5%、紙・パルプ3.0%、その他:10.6%
●石炭輸入推移は2007年以降ほぼ同一水準。輸入先は豪州が大半で2位はインドネシア
 豪州:63.4%、インドネシア:18.7%、ロシア:8.0%、カナダ:4.9%
●長期エネルギー需給見通し(目標水準)
1)安全性の確保が大前提
2)温室効果ガス排出量の削減は欧米と比較して遜色ないレベルの削減目標に
3)自給率の向上は現状の6%から震災前(20%)を上回る25%に
4)原子力比率の可能な限りの削減と徹底した省エネ
5)電力コストの現状よりの引き下げ
 2030年発電比率:石油2%、石炭26%、LNG27%、原子力22~20%、再生エネ22~24%
 石炭火力発電は、高効率化を促進し、環境負荷低減と両立しながら有効活用を図る。

4. 地球温暖化対策に貢献するわが国の石炭利用技術

状況分析:
●日本の石炭火力の発電効率は世界最高レベルである。
 中国、インドの石炭火力の発電効率は低い。但し、中国はここ数年高くなって来ている。
●開発目標〜高効率発電・低炭素化
 IGFC(石炭ガス化燃料電池複合発電)等で更なる高効率化を目指している。
●石炭火力の国際展開(技術移転による低炭素化の推進)
 今後も石炭火力発電需要の増加中、高効率発電の技術移転やシステム輸出で競争力維持
●世界の石炭火力の導入見通し(2012年→2035年)
 世界需要は約129兆円で、特にアジアでは約79兆円であり需要が拡大する見込みである。
 具体的推進事項:
●石炭ガス化燃料電池複合発電実証事業(大崎クールジェン)
 酸素吹IGCCの確立と燃料電池との組合せ発電技術を見越した実証。発電端効率55%
●石炭とバイオマスの混焼
 バイオマスのカーボンオフセットを利用した低炭素化だが、採算上の課題が多い。
●インドネシアで進めている低品位炭(褐炭)活用事業
1)UBC(改質褐炭)実証事業(神戸製鋼所): 瀝青炭同等発熱量の改質炭にする
2)JCF(JGC Clean Fuel)事業(日揮): 低品位炭原料の新液体燃料を製造
3)二塔式ガス化炉利用事業(IHI): 褐炭をガス化し、水素、メタン、DME等に転換
●褐炭から水素を製造する事業(川崎重工)
 豪州で水素を製造し、日本等に輸出する。
●CCS(CO2地中貯留技術)への取組
 石炭火力発電等で排出されるCO2を分離回収し、地中帯水層に圧入貯留する技術
 苫小牧でCCS大規模実証試験を実施中。今後技術開発や潜在的CCS適地の選定を実施
 但し、CO2削減シナリオでのCCSの2035年目標(WEO2013)の達成は極めて困難

5. 今後の石炭

●石炭資源(長期契約)価格の推移
 比較的安定に推移していたが、アジアを始めとした世界的石炭需要の増加等で上昇傾向。
 但し、近年は世界的景気後退での供給過多により、ピークは過ぎて下落傾向にある。
●米国の天然ガス生産シェアの予測
 シェールガスのシェアは近年急激に増加し、2035年に49%に達するとの予測も(EIA)
●米国シェールガスの影響
 一時石炭と天然ガスの発電比率は略同じになったが、その後の天然ガス価格増で石炭比率上昇。政府は石炭火力が40%程度維持と予測。むしろ水銀・有害物質規制やオバマ大統領の気候変動対策(Clean Power Plan)の方がシェールガスより影響大かも知れない。
●アジア圏の石炭需要
 日本、韓国、台湾に加え、中国、インドの輸入量が増加し、限られた貿易対象の石炭の獲得競争が生じている。石炭輸入世界一になった中国の動向により石炭価格が変動する。

6. まとめ

 地球温暖化対策に貢献しつつ、将来的にわが国の石炭利用を持続的に発展させて行きたい。

7.その他

 質疑応答の中で、現状の石炭火力発電のCO2排出量は、最高効率でも700g/KWh程度で、英国、米国、カナダ等の要求する450g/KWhにはCCS採用が不可避とのお話があった。
以上 文責:岩崎力

講演資料:「日本の石炭利用技術とJCOALの役割」
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2016年07月28日

EVFセミナー:「地デジの日本方式を最初に採用したブラジルに於けるリオ五輪」

[演題]地デジの日本方式を最初に採用したブラジルに於けるリオ五輪
   −そして、テレビはどこへゆくのか?−

(文責:和田政信)


開催日:2016年7月28日(木) 15:30〜17:30
会場 :新現役ネットA会議室
講師 :杉本 篤実氏(元NECエグゼクティブ・エキスパート)、
略歴 :室蘭工業大学を卒業、東京オリンピックが開催された1964年にNECに入社。1973~1985年はデジタル映像機器の開発。1990~2001年はハイビジョンの推進とデジタル化の推進。1997~2007年はDiBEG(デジタル放送技術国際共同研究連絡会)の初代議長やコンサルタントなどを務めて日本の地デジ方式の国際普及に取り組み、南米ブラジルをはじめ18ヶ国での日本方式採用に結びつけた。
デジタル映像機器(フレームシンクロナイザーおよびデジタルビデオエフェクト)の開発により、NECは米国テレビ芸術科学アカデミーより二度のエミー賞を受賞。
現在は、室蘭工業大学同窓会関東支部東京EEC会長、日本ビデオコミュニケーション協会理事、映像情報メディア学会フェローなどの立場で活躍している。
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要約 :テレビ放送のデジタル化の歴史と、その過程で日本方式のデジタル放送技術をブラジル筆頭に世界に広めていった取組を解説いただいた。ブラジルが日本方式を採用した背景には、日本方式が技術的にブラジルの環境に適していた面もあるが、ブラジルにおいて定着しているジャポネース・ガランチード(日本人は保証付き)という、移民が築いた日本人への信頼感が大きく貢献したとのことであった。
ブラジルの国情、リオデジャネイロオリンピックの見どころなどブラジルに関する話題を提供いただくとともに、テレビ放送の歴史を振り返りと今後のテレビ放送の方向性などのテーマについても解説いただいた。
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講演概要:
日本のテレビ放送は1953年に白黒で開始され、その後カラーの導入、ハイビジョンの導入に取り組んできた。その間、テレビ信号はアナログ方式を採用してきた。1973年より映像システムがデジタル化され、1990年頃より送信系以外のシステムのオールデジタル化が進んだ。
デジタル化により、(i)ハイビジョン放送や多チャンネル放送が可能となる、(ii)ゴーストのない鮮明な映像を見ることが出来る、(iii)移動時も安定した画像の受信が可能となる、(iv)周波数の有効利用、(v)データ放送など高機能化を図れることなど、ユーザーに大きなメリットがある。

2000年当時、世界の地デジでは日本方式と呼ばれるISDB-T、欧州方式のDVB-T、米国方式のATSCの3方式がありました。そのような状況の中で、日本の業界はデジタル放送技術国際共同研究連絡会(DiBEG)を設立、アジア、太平洋地域、南米への日本方式の展開を強力に推進した。2000年からブラジルと交渉を開始し、2006年にブラジル政府が採用を決定した。その後南米での採用国が拡大、さらにアジア・アフリカでの採用活動を行い現在は世界で18ヶ国が採用するまで大きく展開した。
規格策定の分野で日本は常に欧州の後塵を拝しているが、地デジの分野で日本方式(ISDB-T)を作りそれを18ヶ国採用にこぎつけた素晴らしい成果は杉本篤実氏の強力な指導力と関係業界・政府連携の賜物と考えます。

ブラジルの面積は日本の23倍、人口は206百万人でともに世界第5位の規模です。最初の日本からの集団移民は1908年でした。100年を超える移民の歴史で日系人は190万人を数え、人口の約1%に相当するそうです。日本方式の地デジがブラジルで採用された背景には100年を超えた日系人が培ってきた信頼と日本に対する信用が大きく貢献したことといえます。地デジの日本方式の採用の背景には技術やコストだけでなく、国家間の信頼感のみならず民族間の信頼感が大きく貢献していました。 なお、ブラジルのGDPは世界7位の規模ですが、貧困線未満の人口が31%を占め、全体の生活レベルの向上が大きな課題といえます。

リオデジャネイロオリンピック競技施設や見どころを伺ったが、中でもNHKが取り組んでいるスーパーハイビジョンでの配信計画は今後のテレビ受信機のあり方を考えさせられたものでした。 またNHKと民放で合わせた2500時間以上を共同サイトでネット配信するとのこと、今後の映像配信は、ネットやオンデマンドと地デジ放送が並行して進んでいくことを感じさせるものでした。

今後のテレビの進む方向として、超高精細テレビ放送(4Kと8K)はいまだに、アナログテレビ受信機をデジアナ変換して利用している人間にとっては何故ここまでやらねばいけないのか、理解に苦しむところもありました。今後の動画配信ビジネスそれもVideo on Demandが成長分野であるとの説明は納得できました。

デジタル映技術開発一筋に取り組んでこられた杉本篤実さんが、DiBEGの代表として日本方式を海外に展開してゆく姿には感心させられました。 製品を売り込むのではなく、相手先の国をよく理解し、その国に役立つ技術システムを導入しようとする姿勢は素晴らしいものです。このようなアプローチが地デジの日本方式採用国が18ヶ国にも拡大した要因でしょう。

杉本篤実さま本当にありがとうございました。
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講演後のQ&A:
Q1 地デジの方式は今後どのように変わってくるのか
A1 地デジは開始されてから欧米では18年、日本では13年が経過した。通信と違って放送方式は簡単には変えられない。通信との対比において地デジの存在価値は変わるかもしれないが、日・米・欧の3方式はしばらくこのまま使われる。4k放送はCATVや衛星が使われる。
Q2 動画の配信、ビデオ・オン・デマンドの今後は?
A2 スマホなどの発達などによってオン・デマンドな動画配信ビジネスは、ますます発達するだろう。しかしながら、最大の広告媒体としてのテレビはまだ続くのではないか?
Q3 日本方式をブラジルが採用した技術的な理由は何か?
A3 日本方式はノイズへの強さとワンセグを見られる点をブラジルが評価した点と理解している。
Q4 日本方式でノイズへの強さを、どのような技術的手段で成功させたのか?
A4 タイムインターリービングという、電波の強さが時間的変化による影響を抑止する技術を採用したことが大きい。
Q5 今後の電気技術者の生き方は?
A5 私が卒業した頃には、電気工学を学んだ者には回路設計という仕事があった。現在では、電気通信技術の世界では、多様な標準規格を理解して目的とするシステムの構築を論理的に行える。いわゆる回路設計はもはや必要ない。アンテナ、送電、配電の仕事ではアナログ的な回路設計の仕事は残っている。
ビジネス成功のためには、標準化されている技術の上に新しいサービスを生み出すアイデアが重要。その典型がGoogleやAppleだ。
Q6 4Kテレビ受信機はいつごろ購入すればよいのか?
A6 2018年から本格放送が開始されるので、このタイミングよいのではないか?
以上
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2016年05月26日

EVFセミナー報告:いま、中国で起こっていること

[演題] いま、中国で起こっていること
〜資源および環境問題も、さらなる相互理解のためには〜

(奥野 政博)

開催日時:平成28年5月26日(木)午後3時30分〜6時00分
場  所:新現役ネット事務局A会議室
講  師:布施 玄 氏(北京在住オイルエコノミスト 元出光興産(株))

 今回講師をお願いした布施玄氏は、海賊とよばれた男と同じ神戸大学(中国経済ゼミ)を卒業後、出光興産に入社して主に海外部門(原油輸入・事業計画)と販売業務に従事され、内のべ13年間、中国(北京、香港、大連)で勤務され、7年前に出光興産を退職された後、北京に在住され石油エコノミストとして調査研究、経営コンサルタントやビジネス講座講師などで活躍されております。
05261.jpg 今回は、最近のホットニュースから中国の理解に必要な事柄についてお話しを頂いた後に、中国のエネルギー消費状況と環境問題について概説と現地の人々の意識や危険な現状と改善努力について紹介頂いた後、政治や経済運営の裏に潜む「中華意識」と云う延々と続いてきた中華文明の実際、日中間での相互の反中・反日感情の原因や中華文明と日本がどう打ち解け、理解しあえれば良いのかなど熱の籠ったお話しをたくさんの図表や写真を交えて予定時間を大幅に超えてお話しして頂きました。

講演概要:
 先ず初めについ最近、肌身に感じた中日友好病院での看護師の蕁麻疹治療での注射や超音波検診の見事さや我が国のマスコミが揶揄している中国の経済減速問題について購買力GDP(ドル人民元換算)の視点から、世界全体のGDPの伸び(1.5〜2%)が16%のシェアを占める中国のGDPが6.5%に減速したと騒いでいるマスコミが中国の潜在する実力という真実を伝えていないことを指摘された。
 中国理解のキーワードとして「マスコミは信じるな」「大数原則」「正しいマクロ政策〜わかりやすい評語で表現〜」「法律意識」「孔子の国&国益を理解(リアリズム)〜四書五経と孫子〜」「熱帯からツンドラまでの国土」を挙げられた。
 「大数原則」の例として我が国最新の製油所(出光愛知:1975年竣工)に対して中国では1974年以降100ヶ所以上の製油所が建設され、今では建設・運転ノウハウを十分吸収して建設コストも日本の1/4で世界の最先端を行っている。
 「正しい経済政策」の例として1980年代のケ小平の改革開放による市場経済への移行、朱鎔基の2001年にWTO加盟を果たして世界の工場化により世界の富を集中、胡錦濤の中産階級を救った小康和諧の道、そして習近平の中国の夢を目指してインテリ化した国造りと李克強の都市化政策を挙げ、我が国のマスコミは分析力が弱くマスコミは信じるなとのキーワードに繋げられた。
 貧富の大きな格差について、生活習慣、将来の進路と消費習慣から常識では通用しない大変な世界(自分中心、法律を守らないなど)であることを日本と中国のGDPの正規分布概念図で横軸をIQに準えて説明された。
 2016北京モーターショーの写真を示して、日本のマスコミが紹介している電気自動車、ハイブリッド車や燃料電池車より当面油が安いのでガソリン仕様のスーパーカーが人気を集めているとのこと。
 中国の石油に関する世界ランキング(BP統計2015年版)について、原油確認埋蔵量が第14位、原油生産量が第5位(トップ3のアメリカ、サウジ、ロシアの順位は年に依って入れ替わる)、石油消費量がアメリカに次いで第2位(日本は第3位、中国は日本の2.5倍)で精製能力もアメリカに次いで第2位(日本は第5位、中国は日本の3倍強)で、石油消費量1100万B/Dに対して原油生産量が420万B/Dしかなく、中東依存度が大きいためマラッカ海峡とホルムズ海峡への依存度を如何に軽減するかが中国のエネルギー戦略上の優先課題となっている。現在までパキスタン、ミャンマー、ロシアからの陸上パイプラインや鉄道輸送を進めているが量的に限界があり、公海のマラッカ海峡とホルムズ海峡プラス南沙諸島や尖閣諸島を如何に自分の領土にするのかが中国の軍事上の戦略(過去の歴史から戦争は石油で決まり、中国は戦争しないが何時でもする心積もり)であり底には孫子の兵法が息づいているとのこと。
 中国は陸上で14ヶ国、海上で6ヶ国と国境を接していて、これらの国と緊密な経済・貿易で協力関係にあると共に多くの歴史問題・領土問題を抱えていること、世界と日本の排他的経済水域面積を図表で説明され、地政学的な領土の重要性を再認識させられた。
 この度のCOP21(パリ協定)について、1990年を境に二酸化炭素排出量削減を努力目標とした欧州に対してそれ以前に排出量削減してきた日本がお金を持ち出しただけのCOP3(京都議定書)と比べると世界の二大排出国の中国とアメリカを参加させ排出量削減を縛り付けず将来的に上手く運用されるように仕向けたスキームとの評価は前回のセミナー(COP21・パリ協定を活かし、脱炭素社会を目指すために)の山岸先生のご講演と重なっていた。世界の4分の1の二酸化炭素を排出する中国では老朽化した火力発電所を地方政府の税収入と利権絡みで容易に廃止できないこと、世界の自動車生産台数(約9千万台)の25%弱を占める中国は自動車の大消費国で2003年から2015年の中国市場での乗用車販売量が12倍に増えている事とトヨタの世界全体の広告宣伝費の80%が中国と云う事実が一致している。このため中国の大都市では2017年から欧州と同等もしくはそれ以上の排ガス規制(ユーロ6)を前倒し導入すると共に2020年前後には無公害車の販売義務付け、燃費基準も20年までに先進国並みに引き上げ、深刻な大気汚染抑制に繋げようとしているとのこと。
 中国のシェールガスは水がない、僻地にしか存在しない、地層が深いと云う三重苦で開発は40〜50年先で大慶原油や勝利油田と共に戦略的地下備蓄と考えられているとのこと。
 再生可能エネルギーには熱心で、風力発電、水力発電(三峡ダムは世界No.1)、太陽光発電設備容量および電気自動車台数は何れも世界No.1で、ソーラーパネル機器は世界の18%を占めている。3月にアモイに行ったら乗合自動車は多くが電気自動車で、天然ガスプラスハイブリッド車も目立ったとのこと。
 原発については25基が稼働中、27基が建設中で中国の強みは地震や津波が無く、過疎地が多く立地には有利とのこと。講師がすごいと感じたのは東日本大震災の後、即審査を止め3ヶ月後に審査を再開し、建設を再開したことで、内陸の原発許認可・審査も進んでいて、電気自動車の普及と絡んで電力は原子力で賄い、戦争に使える石油は軍事面でも温存しておく構想と考えられるとのこと。
 環境汚染については水汚染、大気汚染、土壌汚染と食品安全問題、水資源とも最低レベルで、北京に住んでいて昨年の5月までは黄河とその下の水を飲んでいたが、5月からは揚子江の水に代わり、沿海地域では海水淡水化事業も積極的に進められているとのこと。
 北京の大気汚染については、今年は風が強く比較的良好だったものの煙草の煙の中にいるような日もあったが、マスコミはその日だけを取り上げて報道、日本も四日市、尼崎、川崎と経験しいつか来た道と同様の世界ではとコメントされていた。
 エネルギー・環境問題の最後に、石炭が中国の一次エネルギーの70%を占めているがこれを減らすことによりPM2.5や大気汚染問題を解決すべく、家庭用石炭もかなり減らしても老朽石炭火力が広い国土の内陸部にあり送電距離の問題もあり中々閉鎖できない事実を説明された。

 中国を理解するために「人類の知恵は中華の知恵」について、ホモサピエンスのGreat Journeyから「人類は旅することで賢くなる」「旅した先に良地」があって「3人寄れば文殊の知恵」で6大文明(日本では4大文明)が育ったこと、その中で同じ民族が同じ言葉を使って存在しているのは黄河文明のみ、その知恵の積み重ねが中華5000年の中華文明、
中華文明の欠点は積み重ねだけ(漢方医学)、漢学という伝統の知恵、仁義礼智信(儒教)の国、中国の小人と大人、三十六計(騙す技術=小人)と孫氏の兵法(経済に如何に損失を与えずに戦いに勝つか!戦争するな!)、古い知識・四書五経を中心とした単なる記憶詰込みなどと批判されながらも1300年も継続した科挙試験(官僚登用試験→功名利禄)、漢字文化圏などについて中国での体験を交えて解説して頂いた。
 最後に海野恵一氏のブログから「ジオポリティックス」の10箇条を引用されて予定時間を大幅に超過して今回のご講演をまとめられた。

Q1:中国は減速経済に入ったと言われているが正しいか?
 A:日本のマスコミが減速と強調するが世界第2位のGDPの国が6.5%伸びていて3年前に8%伸びていた時の増えた分と今の6.5%の増えた絶対値を比べると決して少なくないと考え、減速をあまり強調すべきでない。
Q2:台湾が蔡総統になって今後、台湾とどうなるのか?
 A:中国としては非常に気に入らない。前回の陳水扁さんの時は台湾の沖合に軍艦を持って行って反発を買った。一昨年台湾に行ったが、蔡さんは人気があり非常にマイルドな方で、現実路線(現状維持)で行くと思う。蔡さんも中国人も陰徳(大人)と陽徳(小人)をキチンと使い分ける。
Q3:一人っ子政策がダメになってたくさん作って良くなったがどう思われるか?
 A:一人っ子政策でかなり歪な人口ピラミッドになっているがハードランディングも可能と思う。不味かった点は、インテリ層が一人っ子で農村では人手が欲しく闇っ子が多いが、インテリ層=大人(たいじん)層が衰退するわけではなく結果としては失点にはならないと思う。
コメント:日本で26年生活している中国人で上海と仕事で行ったり来たりしているが、バランスの良いお話しを聴けて感謝します。日本と中国は発展の段階が違うと感じている。

 セミナー後の反響としては、日ごろ聞きたいと思っていた中国の実態に肉薄したお話しで知的好奇心を満たして頂いた、マスコミの勉強不足を現地での生活実感を元にシッカリ指摘して頂いた、目から鱗の布施歴史観と中国論を聞かせて頂いて充実した半日を過ごさせて頂いたなどポジティブなコメントを頂きました。布施先生、本当にありがとうございました。
以上
講演資料:
「いま、中国で起こっていること」
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2016年04月28日

EVFセミナー報告:COP21・パリ協定を生かし、脱酸素社会を目指すために

EVFセミナー報告
  (演題)COP21・パリ協定を生かし、脱酸素社会を目指すために

EVFセミナー概要報告 文責:山田 和彦

開催日時:2016年4月28日(木)15:30〜17:30
場所:港区田町 新現役ネット会議室
講師:WWFジャパン(World Wide Fund for Nature Japan 、公益財団法人世界自然保護基金ジャパン)自然保護室 気候変動・エネルギーグループリーダー
   山岸 尚之 様

セミナー概要報告
 今回講師をお願いした山岸様は、WWFジャパンにおいて10年以上にわたり気候変動担当オフィサーとして、政策提言・キャンペーン活動に携わるほか、国連会議での情報収集・ロビー活動に携わってこられました。
 2015年11月から12月にかけてフランス・パリで開催されたCOP21においても実際に参加してこられました。
 今回のセミナーでは、COP21パリ協定が成立したことの意義についてお話しいただくとともに、現場に立ち会った者だからこそ感じることのできる“世界の環境に対する熱気”についても報告いただくことができました。
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1. パリ協定って?

・196か国の多国間交渉で、例えてみると、複雑な連立方程式を解くような交渉であった。
・パリ協定が合意に至った要因としては、
1) 議長国であったフランスの巧みな采配
2) 「先進国」と「途上国」の対立を超えた歩み寄り
3) 「グローバルな合意」を求める機運
が大きかったと思う。
・合意されたパリ協定のポイントとしては、
1) 2度未満:世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2度未満に抑えることが目標として掲げられたこと(1.5度以内に抑えることの必要性にも言及)
2) 長期目標:今世紀後半に、世界全体の温室効果ガス排出量を、吸収量と均衡させる(実質ゼロにする)
3) 5年ごとの見直し:各国が5年ごとに目標を見直すという仕組みを組み入れたことで、現状では達成可能となっていない「2度未満」達成への方策を組み込んだこと
があげられる。
また、国別目標を達成するための資金、技術、キャパシティ・ビルディング(人材育成等)などについても言及された。

2. 日本は?

・日本の現在の温室効果ガス排出量の削減目標は、
1) 2020年までに2005年比で3.8%削減
2) 2030年までに2013年比で26%削減
3) 2050年までに80%削減
・しかし、欧州系の複数の研究機関による合同評価では、日本の削減目標は「不十分」という評価にとどまっている。
・ここ23年間で石炭火力による発電量が3.7倍に増えており、そのため、CO2の排出量も2.8倍に拡大している。これに加えて、新たな石炭火発の増設計画が乱立しており、このままでは、「不十分」とされた目標の達成すら危うい。
・パリ協定成立により日本は、(1)基本法制定/法改正、(2)26%削減目標を超えうる国内対策の整備、(3)早期批准、(4)2030年目標を見直し、2019年に再提出、(5)2050年までの長期計画策定、を求められている。
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質疑
Q. パリ協定では目標の達成は義務ではない、ということになっている。こういう縛りのないやり方でうまくいくと考えるのは、楽天的すぎるのではないか?
A. 確かに、各国の目標値合計では、必要な削減量に足りないのが現状だ。なのに合意した。しかしこれは、5年ごとの見直しの中で、むしろ目標値を高めていくことを目的としたためである。
Q. 今世紀後半にCO2の排出量をマイナスにするということは、具体的にどういうことを想定しているのか?
A. バイオマス発電由来のCO2を地中に埋めることになれば、CO2排出量はマイナスになる。
Q. パリ協定での中国などの評価は?
A. 政治的で難しいところである。ただし、アメリカと中国は、COP21の1年前に目標値を発表していて用意周到だった。たとえ不十分な目標であったとしても、1年前からきちんと発表されると批判はしにくい。中国の「1次エネルギーの20%を非化石に」という目標も確かに不十分だが、2018・19年の見直しが大事だと考える。
Q. 日本の評価が低いのは努力を怠っていたのか、それとも政府の危機感がないためなのか?
A. 産業界の事情を慮ってみれば、日本の景気が悪く、設備投資が弱まっている間に、他国に追いつかれ、一部は追い抜かれたということではないかと思う。

講演資料:
「2016年4月28日Cop21」
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2016年02月19日

EVFセミナー報告:総会記念講演会「我が国が進める小型超音速機の開発と世界展開」

EVFセミナー総会記念講演会
「我が国が進める小型超音速機の開発と世界展開」

                   EVFセミナー概要報告 文責:磯野 克之


開催日 : 2016年2月19日(金) 15:30〜17:30会場  : 国際協力機構市ヶ谷ビル(JICA市ヶ谷ビル)201AB会議室
講師  : 坂田 公夫様
      (株)超音速機事業企画  代表取締役社長
      SKYエアロスペース研究所 所長
      航空総合技術政策フォーラム 代表

    (講師略歴)
      1972年 上智大学大学院卒業  理工学修士
       同年  科学技術庁(現文部科学省)航空宇宙技術研究所(NAL)入所
      1980年 米国スタンフォード大学 研究員
      1984年 科学技術庁(現文部科学省)宇宙企画課 課長補佐
      1989年 同庁原動機部 原動機空力研究室長
      1998年 次世代超音速機プロジェクトセンター長
      2005年 JAXA理事、総合技術研究本部長兼航空プログラムグループリーダ
      2012年 SKYエアロスペース研究所 設立 所長就任
      2014年 株式会社超音速機事業企画 社長就任
      
(要約)
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1.2015年は我が国航空産業にとって、MRJの初飛行やHondaJetの販売開始、国内の体制として我が国航空産業発展に不可欠な「航空基本法」に関連する議論も出始め、記念すべき年となった。

2. また、JAXA超音速試験機では、D-SEND(低ソニックブーム設計概念実証)プロジェクトの飛行試験(D-SEND 2)により「低ソニックブーム技術」の実証に成功した。
 (*ソニックブーム:超音速飛行時の瞬間的爆音)

3.我が国の航空機産業の世界シェア―(売上高)は、僅か2.7%であるが、将来的には20%程度まで伸ばしたい。このための国の政策の果たすべき役割は大きい。

4.我が国における航空産業は、残された最大の産業領域である。現在の自動車産業に次ぐ我が国の成長のけん引役ともなる重要産業であり、民間の航空機開発・製造体制確立と強固な中小企業クラスター体制づくりが有効である。いまこそ、その絶好の機会である。

5. これからの航空に大きなインパクトを与える最大の挑戦である超音速機の開発は、我が国の格好のテーマであり、小型機から着手することで効果的なプログラムとなる。
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(概要報告)
1. 2015年我が国航空にとって記念すべき年
(1)MRJ初飛行
  ・航続距離は、アメリカ、欧州内を飛行するには適している。
  ・技術的レベルは高い。
  ・販売面では、世界需要が拡大しており、可能性は高い。
  ・国の責任で発行する型式証明は、世界販売の必要条件であり、官民での能力向上が必須である。
(2)HondaJet販売開始
  ・Jetエンジンから開発し、民間だけの力で誕生させた。
  ・速度はマッハ0.72と速く、航続距離(2,185km)もあり、着陸距離(914)は短い。
  ・主翼上面にエンジンを配置し、性能UP、客室と荷物室などの内部スペースの拡大を実現し、商品価値が高い。
(3)JAXA D-SEND-2 実証成功
  ・超音速機実現の最大の課題である「低ソニックブーム」の実現にむけ、飛行試験による技術実証に成功した。
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2. 航空産業に課せられた期待と政策
(1)我が国の航空産業は、世界シェアの僅か2.7%と低く、産業構造変革による成長路線の切り札となりうる。(世界シェア20%に)
(2)そのためには、国の産業政策の出番であり、現在の関係4省庁の連携のみならず、国としての研究、技術基盤強化、完成機開発支援、人材育成、中小企業振興など総合的政策が必要となる。
(3)自動車産業にならう基幹産業の一角として航空機産業振興の政策づくりは与党内では進められているが、より幅広い議論と活動が必要となる。
   
3. 「航空基本法」草案の提案
  我が国の航空産業を質・量共に世界的なものに育てるためには、航空産業ビジョンを基に、省庁間の壁を取り去った国としての総合推進が必須である。

4. 諸外国の航空産業政策
2000年初頭から、米国、欧州、中国、イギリスなど、ほとんどの航空産業で先行する各国・地域で、目標とすべきビジョンをもとに強力な政策を出動している。


5. 航空産業クラスターと中小企業の振興
(1)航空機産業のインテグレータの確立とプロジェクトマネッジメントの人材育成。
(2)航空産業関連企業は多種・多様で、部品数は300万点に達し(自動車の約百倍)、多様な技術、素材、製造手法などが必要。インテグレータをトップにサブシステム産業、部品・素材産業、加工、組み立て産業など極めて裾野が広い。
(3)そのため、幅広い業種の中小企業参入による航空クラスターを構築することで、産業および技術の大きな波及効果が期待でき、我が国工業力全体の向上に寄与する。
(4)産業クラスターには、多様な中小企業の集結に加え、研究開発、人材育成、他クラスターとの連携、そして国際活動を含む総合的なマネージメントが必要である。

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6. 超音速機の技術と構想
(1)2003年にコンコルドの飛行は終了した。安全性、経済性、環境性、運用性の点で不十分な点があったため。
(2)超音速機が再び登場するには、ソニックブーム、燃費、排気騒音が課題→小型から開発着手が妥当。
(3)米Aerion社の超音速ビジネスジェット機SSBJ(AS2)は20機受注し、2025年ころの納入を予定している。
(4)JAXAの超音速機技術の研究開発計画では、NEXST計画(1997-2007)、静粛超音速機計画(2007-2016)があり、昨年D-SEND2飛行試験により「低ソニックブーム技術」の実証に成功し、かなりの研究成果が得られている。
(5)我が国の小型超音速機開発の構想
  ・アジア域を1日で往復が可能となる
  ・マッハ1.5〜1.6、席数8〜10席、航続距離4,000〜6,000km
(6)超音速機実現までには、基礎研究、実証プロ、製品化、市場投入、市場生存の過程があり、研究開発から実用化、さらにビジネス競争勝ち抜き(死の谷とダーウインの海)には関係者総力の連携が必要である。
(7)(株)超音速機事業企画は、超音速機・小型機の開発事業企画会社として、超音速機の開発事業はじめ航空機の研究・開発に関する産学官総合事業の推進・企画、関連する政策研究などを行う会社として活動している。

配布資料:
「講演資料」
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2016年01月28日

EVFセミナー「『国土のグランドデザイン2050』を踏まえた『国土形成計画(全国計画)』〜国土計画が描く未来像〜」

EVFセミナー概要報告 文責:佐藤 孝靖


開催日 : 2016年1月28日(木) 15:30?17:30
会場  : 国際協力機構市ヶ谷ビル(JICA市ヶ谷ビル)201AB会議室
講師  : 国土交通省 国土政策局 総合計画課長 白石 秀俊 様

講師略歴:
1988年4月京都大学文学部卒業、国土庁入庁、国土交通省都市・地域整備局地方振興課半島振興室長
同省 総合政策局 政策課政策企画官、人事院人材局交流派遣専門員(みずほ信託銀行不動産コンサルティング部参事役)、
国土交通省 東北地方整備局 建政部長、同省 国土政策局 広域地方政策課長、2014年7月同省 国土政策局 総合計画課長
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演題  : 「国土のグランドデザイン2050」を踏まえた「国土形成計画(全国計画)」
       〜国土計画が描く未来像〜
要約  :最初の国土計画は昭和37年閣議決定の全国総合開発計画であり、その基本目標は地域間の均衡ある発展だった。
バブル崩壊後の平成10年には、それまでの国土計画とやや趣を異にした“21世紀の国土のグランドデザイン”が閣議決定され、平成20年に国土形成計画、昨年8月に「第二次国土形成計画」へと装いを新たにした計画へと発展してきた。この最新の国土形成計画の概要が今回のテーマである。

この計画の課題認識は、人口減少の問題と、今やいつ起きてもおかしくない巨大災害の二つである。
人口減少社会において、安全で豊かな生活を支える国土、持続的な経済成長を支える国土を実現することを目標に定めた。そのための基本構想としては“対流促進型国土の形成”がキーワードに掲げられた。また、国土構造、地域構造としてコンパクトにまとまった地域をネットワークで結ぶことを提示した。地域の多様な個性が「対流」の原動力となるため、地域の個性がますます重要となる。豊かさとな何か、それは新しい文化(暮らし)の創造が不可欠との価値観の大転換を提唱して締めくくられた。
最後に「日本未来デザインコンテスト〜「対流促進型国土」の形成に向けて〜」の公募開始についてが、ペーパー配布の上、積極的な応募の勧誘がなされた。
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日本未来コンテスト: http://www.mlit.go.jp/report/press/kokudoseisaku03_hh_000083.html

講演概要:

1、国土計画について

国土計画とは国土に関する長期的(概ね10年)、総合的(各役所の施策を総合)、空間的(配置計画)計画のことである。これまでの変遷は昭和37年閣議決定の全国総合開発計画(略称 一全総。基本目標:地域間の均衡ある発展)を最初の計画として、昭和44年の新全総、昭和52年の三全総、平成62年の四全総(目標:多極分散型国土の構築)と計画が続いてきた。
バブル崩壊後の平成10年には、それまでの国土計画とやや趣を異にした“21世紀の国土のグランドデザイン”が閣議決定され、平成20年に国土形成計画、昨年8月に「第二次国土形成計画」へと装いを新たにした計画へと発展してきた。この最新の国土形成計画の基本目標としては、“対流促進型国土の形成”が掲げられたのである。

2、課題認識

人口減少と巨大災害の切迫の二つを課題認識としてあげ、特に人口減少について出生率の観点、地域的偏在の面、ライフステージで見た人口移動、都市圏と地方圏における人口移動など多方面からの考察がなされた。これら二つの対応を誤れば国家存亡にもかかわるおそれがあるとの講師の指摘に、一同思わず姿勢を正して聞き入った次第である。

3、計画が描く未来

人口減少社会において、安全で豊かな生活を支える国土を目指し、持続的な経済成長を支える国土を実現することを目標に定めた。そのための基本構想としては「対流」という意外性のある言葉が出現し、“対流促進型国土の形成”がキーワードに掲げられた。また、国土構造、地域構造としてコンパクトにまとまった地域をネットワークで結ぶことを提示した。地域の多様な個性が「対流」の原動力となるため、地域の個性がますます重要となる。豊かさとは何か、それは新しい文化(暮らし)の創造が不可欠との、価値観の大転換を提唱して締めくくられた。途中、地域の個性の具体例として、内閣府の環境モデル都市で、バイオマス産業都市でもある岡山県の西粟倉村の名前が紹介された。

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質疑では、首都機能移転は今日的テーマか、地方活性化として過疎の離れ島に中国人休暇村を建設するアイデア、中小企業、農業を活性化する産業構造論的な観点の質問が活発になされ、その全てに講師から実践的で的確な示唆に富む回答がなされ、古参の会員からは質問の最後に「こんなに気迫あふれるお話が聞けて本日は本当に良かった!」との感謝の言葉があった。講演会のあとの懇親会も大いに盛り上がり、ここでも講師は質問攻めで、殆ど料理に箸をつけられずでした。白石課長さん、本当にありがとうございました。

配布資料:
「国土のグランドデザイン2050」を踏まえた「国土形成計画(全国計画)」〜国土計画が描く未来像〜

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2015年12月15日

EVFセミナー:「有限時代へのパラダイムシフト」

EVFセミナー概要報告文責:(小栗武治)

開催日 : 2015年12月15日(木) 15:30〜17:30
会場  : 新現役ネット A会議室
講師  : 東大名誉教授 鈴木 基之 様 
略歴  :
 カリフォルニア大学にて研究生活を送り、帰国後、東京大学生産技術研究所で環境化学工学の研究室を主宰(のちに所長)。以降、学問領域を超えて総合的な環境問題解決を目指す活動を志す。国際連合大学副学長を経て特別学術顧問、放送大学教授、東京工業大学監事(非常勤)、環境省中央環境審議会会長を歴任。

演題  : 「有限時代へのパラダイムシフト」

要約  :  日本では高度経済成長期にGNPの伸びに比較し消費カロリーが過大な時期が続いた。この時期は4大公害に象徴されるが、上水道の整備などは進み、70年以降は環境汚染対策が順次行われた。これらの進展に従って消化器系感染症は激減し、水環境の状況も改善された。
 しかし、ある地域の生産活動を支えるために消費されている土地・水域面積の合計(エコロジカル・フットプリント)は、地域が供給できる面積を大幅に超過する事態を迎えている。
 今後はこのような有限な環境に調和できる人間活動を構築する必要がある。地球上に蔓延してしまった化学的に活性な窒素の管理も、その一つである。既に拡大しすぎた人間活動はこのままでは破局に向かう。今後有限時代の平衡安定な着地点に向けて人間活動をソフトランディングさせて行かねばならない。

講演概要:
1.地球の容量限界と人間活動の拡大
  日本での一人当たりのGNPと消費カロリーの推移を見ると、高度経済成長の時代に当たる1960年ごろから1970年にかけて一人あたりのGNPと消費カロリーの伸びは大きく、いわゆる高度経済成長時代を経験した。この間の環境を無視した経済一辺倒の人間活動の結果として、4大公害なども経験することとなった。これら局所的な環境問題に対して、70年代に対策が講じられることとなり、次いで80年代には、都市における環境問題への対応、90年代には地球環境問題への取り組みが始まるなど、拡大する環境問題への対策が試みられることとなる。
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 この間、1960年から1975年に掛けて、経済成長の恩恵を受け、上水道が整備され、浄化槽などの普及に伴い、赤痢、パラチフスなどの消化器系感染症が激減し、また1970年からは水質汚濁防止法などの整備により、有害物質による環境汚染に対する対策が実施され、水域の重金属や化学物質などに関する環境基準の達成率が改善されるなど、成功神話が蓄積される面もあった。一面において、水道普及や、遅れて設置されつつある下水道など、大規模なインフラ整備が行われた都市部においては、それらの設備が40〜50年という寿命を迎え、今後はそのメインテナンスに膨大な費用が必要となり、大規模集中型の考え方に反省を求められる状況に至っているとも考えられるようになっている。
 我が国と関連が深いアジアの新興国、途上国においては、全体としての経済成長は著しいが、それぞれの国の状況は多様であり、成長に伴って産業公害、都市環境、地球環境の諸問題が同時に起こっているのが実際の状況であり、いわば複合型環境問題を抱えた状況にあるといってもよく、今後の協力関係を構築していく上で難しい問題を解いていく必要がある。
2.有限時代
 地球上の人口増加、一人あたりのGNPの増加に象徴される、人間活動の拡大により、その影響は地球の提供できる環境容量を超える事態に達してしまっている。たとえば、ある特定の地域(地球全体、国、自治体などの単位)での人間活動が消費している土地・水域面積“の合計(エコロジカル・フットプリント)その地域の提供できる容量(バイオキャパシティー)を超えてしまうと、その人間活動は最早持続可能とは言えない。すなわち、人間活動は地球の有限性を考え、その限界を意識してなされなければならないということが重要である。地球全体では1970年頃にエコロジカル・フットプリントは、地球の容量を超えてしまったと試算されているが、我々はまだそれを意識した行動を始めていない。
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 地球の有限性の下では、限られた容量・有限な資源をめぐって拡大する人間活動を如何に抑制できるか、が重要となり、最早、地球上には新天地などは存在しないため、いかに有限な空間内での多様な価値観を持つ人々の共存を図るか、逃げ場のないことから生じる閉塞感から生じる社会の崩壊などへの対応などが今後重要である。
地球惑星の限界については、色々な項目に関する評価もなされており、地球温暖化などと並んで、人間活動が排出する過剰な窒素化合物が自然界の窒素の循環、収支バランスを崩していることも大きな課題として指摘される。人類が食糧危機を乗り切るために工業的に窒素を固定し、窒素肥料を大量に生産始めたことが、地球の健全な生態系に大きな影響を与えるようになっているのである。
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3.持続可能な人間活動をどう考えるか
 国連では、持続可能な社會に向けた取り組みを行っている。2015年を目標年にした8項目のミレニアム開発目標(MDG)が設定され、2015年には2030年を目標に17項目にわたる持続可能な開発ゴール(SDG)と、その中に総計169にわたるターゲットが国連特別サミット(9月)において採択されている。需要な事柄が網羅されている感があるが、これを、具体的にどう進めるのかが今後の課題である。
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4.パラダイムの転換へ
 今後は高度成長、イケイケどんどんはあり得ない。既に増殖してしまった人口・経済などはこのままでは破局に向かうであろう。今後有限時代の平衡安定な着地点を設定し、そこに向けて人口・経済をソフトランディングさせて行かねばならない。そのためには資源・環境容量の有限性を念頭に置いた許容される「物質資源の使用量」、「エネルギーの使用量」、「環境負荷」などの検討が大切であり、持続可能な人間社会のビジョンの確立が重要である。つまり従来の「成長パラダイム」から「持続可能性パラダイム」への転換が必要で、人間が生かされている自然の範囲内で活動するための着地点を考えなくてはならない。それには長期的・総合的視野に立った思い切った施策が必要である。「太陽エネルギー社会の構築」、「持続可能な地域物質循環システムの構築」、「豊かな自然と共生する地域の活性化」、が鍵となり、日本が「持続可能な社會のモデルを先進的に構築する」ことが重要と思う。

質疑応答:
 講演終了後、聴講者から自己の反省を含めた複数の感想、今後の地球全体人口の予測に関 する質問、今後のエネルギー源の構成の在り方、経済面で従来の利己主義から利他主義への転換の必要性、等々数多くの意見や質問が出され、活発な論議が交わされた。
                                      以上
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2015年11月16日

EVF第100回記念セミナー「生を全うするための「平穏死」のすすめ」

EVF第100回記念セミナー     

演題:生を全うするための「平穏死」のすすめ
講師:世田谷区立特別養護老人ホーム 芦花ホーム
   常勤医師 石飛幸三先生
日時:2015年11月16日(月)
場所:きゅりあん6階 大会議室
参加:93名

要旨
石飛幸三先生は世田谷区の特別養護老人ホーム「芦花ホーム」の常勤医師として多くの死を見つめてこられ、終末期医療を見直し、ヒトの生きる力を信頼して平穏な死に向かう患者の邪魔をせず、自然の摂理に従ってやさしく終末を見守ろうではないかと提案しておられます。

老衰は生身の人間として生きてきて避けることのできない生体の現象であり自然の摂理である。
胃瘻は本来、先天性食道狭窄の新生児が成長して食道形成術を受けるまでの補助手段であった。それが人生終末期に、老人が食べものを誤嚥して肺炎を起こすことの予防手段として使われた。しかし胃瘻では、常に変化する体にとっての食事の必要量への対応が難しく、過度に補給すると胃の内容は逆流して食道から肺に入り肺炎を起こす危険性もあり、時には口にまで戻り窒息死を招くこともある。

ところで胃瘻をつけたまま長い間寝たきりで、言葉も発せられず、常には口を開けて寝るばかりだったご老人の話。ある時介護士がこの患者の指が僅かに動いているのに気がつき、指差す方向を見ると棚に缶ビールが見えた。お父さんの好きだったビールを娘さんがベットの近くに置いていたのだという。
介護師や看護師から相談を受けた先生は決断した。「何かあったらドクターストップをかければいい。ご家族のご了解をとってビールを飲ませよう。」
老人は初め医師の手を借りながらなんと半分ほどビールを飲み、しげしげと缶を見つめなおし、次に残りのビールを飲み干してしまったという。今度は、自分の力だけで・・
寝たきりだった老人の表情は、見た目はあまり変わることはなかったが本人は久しぶりのビールの味を堪能したに違いない。
長い間、機能を使うことがなかった喉が“異物”を通した。人の身体は本来の生きる力を発揮して“異物”を通した。娘さんはビール好きな父親がもう一度ビールを飲めたことを心から喜んだ。

人は皆それぞれの社会の中で役割を持っている。
社会で自分の果たすべき役割を終えた人の最後を、自然の摂理に逆らって本人を苦しめるだけの医療になっていないか自戒して、静かに看取ってあげたほうがその人のためにもなるし、家族の心を支えることになる。
目的のないまま延命を続けると、医療費への更なる負担増となって社会全体がその重さに耐えられなくなるのではないか。

明治時代に作られ、今の時代にそぐわない刑法に囚われる意味はない。
これは単に医師だけの問題ではなく、家族や施設で働く人々も、最後を迎える人の平穏死を考えようではないかと、非常に説得力のある内容でした。

会員の一人からのメールを紹介します。
奥様は9月20日に芦花ホームを取り上げて放映したNHKスペシャルを一緒に見ようと声をかけたが、“辛気臭い番組”とテレビの前にはお座りにならなかった由。ところがセミナーに足を運び、石飛先生の講演を聴いて「いいお話でした」と神妙な面持ちでいらしたとのことです。
                           文責 工藤宣雄 
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配布資料:
「講演資料」

以上
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2015年10月22日

EVFセミナー「日本の水資源と国際的な水問題」

演題:日本の水資源と国際的な水問題
講師:国土交通省水管理・国土保全局 水資源部 水資源計画課 総合水資源管理戦略室課長補佐 佐渡周子様
日時:2015年10月22日(木)
場所:新現役ネット事務局会議室
参加:36名
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要約:
日本の年間水使用量は809億㎥(2011年)で水資源賦存量4,100億㎥の約20%。1990年代をピークに緩やかに減少している。日本の年平均降水量(約1,700mm)は世界の年平均降水量の約2倍だが、日本の一人あたり年降水総量(約5,000 ㎥/人・年)は世界の一人あたり年降水総量の3分の1程度である。高度経済成長期以降、地下水の過剰取水による地盤沈下、水質汚染等、が深刻化したが、様々な法整備や取組みの実施により沈静化している。都市への人口集中、気候変動等の要因により水循環が変化しており、健全な水循環を維持又は回復するための施策を、総合的かつ一体的に推進するため、水循環基本法を制定(平成26年4月2日公布)し、水循環基本計画を閣議決定(平成27年7月10日)した。
世界に目を向けると、利用可能な水の量が1,700 ㎥/人・年を下回る場合、「水ストレス下にある状態」とされており、2050年には全世界人口の40%以上(約40億人)が、水ストレス下にある状態になることが想定されている。水紛争、渇水被害、洪水被害も多く発生している。国連水と衛生に関する諮問委員会、世界水フォーラム、アジア太平洋水サミットなどの国際会議等の場で水に関する議論が進んでおり、2015年9月の国連総会で「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」が決議され、ゴールの一つとして「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」が設定された。日本は、水と衛生分野におけるODA実績で、世界第1位の援助国であり、世界の水問題解決のために貢献している。

講演概要:
1. 日本の水資源
1)日本の水資源の現状
水資源賦存量は4,100億㎥ (降水量6,400億㎥の約64%)でその内約20%を使用している。日本の年平均降水量(約1,700mm)は世界の年平均降水量(約800mm)の約2倍だが、日本の一人あたり年降水総量(約5,000 ㎥/人・年)は世界の一人あたり年降水総量(約16,000㎥/人・年)の3分の1程度である。
生活用水使用量は、生活水準の向上により、1990年頃まで急激に増加したが、日本全国での生活用水使用量及び、一人あたり平均使用量は2000年頃をピークに減少傾向。生活用水の一人一日平均使用量は289リットル/人・日(2011年、有効水量ベース)である。
工業用水使用量は高度経済成長に伴い、1980年頃まで増加したが、その後は減少。回収水の利用が進んでいる。
農業用水使用量は約544億㎥ (2011年、推計)農地用水の約94%を占める水田灌漑用水は近年減少傾向にある。
2)日本の水資源政策
日本の水資源政策・開発の歴史は人口の増加にともなう農業・産業の発展と平行して進行。
戦後は、復興のため国土の整備開発が進められ、緊急の課題に対応するため土地改良法(1949)、電源開発促進法(1952)、水道法(1957)、工業用水道事業法(1958)、国土総合開発法(1950)、特定多目的ダム法(1957)、水資源開発促進法(1961)等、様々な法整備、計画策定、実施を推進した。
戦後、地下水の過剰な取水により、全国各地で地盤沈下が進行したり、生活排水、工業廃水の河川への流入により深刻な水質汚染が発生したが、様々な法整備や取り組みにより改善してきた。(下図は代表的地域の地盤沈下の経年変化)
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3)新しい水資源政策
都市への人口集中、気候変動等の要因により水循環が変化し、渇水、洪水、水質汚濁、生態系への様々な課題への対応、は引き続き存在している。健全な水循環を維持又は回復するための施策を、総合的かつ一体的に推進することが必要となるため、「水循環基本法」を制定した。(平成26年4月2日公布、7月1日施行)。主なポイントは次のとおりである。
@水循環に関する施策を推進するため、水循環政策本部を設置
A水循環施策の実施にあたり基本理念を明確化
B国、地方公共団体、事業者、国民といった水循環関係者の責務を明確化
C水循環基本計画の策定
D水循環施策推進のための基本的施策を明確化

水循環基本法に基づく水循環基本計画を平成27年7月10日閣議決定した。
施策として、流域単位で水循環計画を新たに策定すること等を明記している。(下図は水循環施策のイメージ)
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2.世界の水資源・国際的な水問題
1)世界の水資源
地球全体の水(およそ14億k㎥ )のうち、比較的使いやすい河川・湖沼などの淡水は、わずか0.01%(約0.001億k㎥ )
農業、工業、エネルギー及び環境に要する水資源量は、一般的に1,700 ㎥ /人・年とされ、一人あたりの利用可能な水の量が1,700 ㎥ を下回る場合、「水ストレス下にある状態」とされている。2050年には製造業、生活用水等の需要増により、2000年の需要量より55%増加することが見込まれ、全世界人口の40%以上(約40億人)が、水ストレス下にある状態になることが想定されている。(下図は2011年の1人あたり水資源量)
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2)国際的な水問題
世界では様々な要因により水紛争が起きている。水紛争の主な要因は、水資源配分の問題(湖や河川の上流地域での過剰取水)、水質汚濁の問題(上流地域での汚染物質排出など) 、水の所有権の問題等が挙げられる。
水に関する国際的な取り組みとして、国連水と衛生に関する諮問委員会(2004〜)、世界水フォーラム(1997〜)、アジア太平洋水サミット(2006〜)など多くの国際会議等の場で水についての議論がなされている。
2015年以降の国連開発目標として、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」に水と衛生の目標がゴール6として設定されている。
ゴール6 : すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する

3)水と衛生分野における日本の支援
日本は、水と衛生分野におけるODA実績で、世界第1位の援助国。 援助の内訳は、上水−下水の大規模システム及び基本的な水供給・衛生設備に関する援助が全体の約8割と大半を占めており、日本の水インフラ技術が世界に大きく貢献している。
NARBOを通じた、総合水資源管理促進のための支援(ワークショップ、技術協力等)やUNESCOにおけるIWRMガイドライン作成支援などを通じ、統合水資源管理の普及を推進している。
*<NARBO>Network of Asian River Basin Organization

4)水インフラの国際展開
海外における水インフラ市場は、2025年には約87兆円規模の市場に成長する見通しであり、我が国の技術・知見を活用した水インフラ技術の戦略的展開を図っている。


以上 文責:深井吉男
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2015年09月17日

EVFセミナー「生態系/生物多様性はどうなって行くのか?」

演題:生態系/生物多様性はどうなって行くのか?
講師:東洋大学国際地域学部国際観光学科元教授 薄木 三生 様
日時:2015年9月17日(木)
場所:新現役ネット事務局会議室
参加:33名

要約:
地球生態系の健全さに関する「国連ミレニアム生態系評価」の要点が、最近50年間の生態系変化、生態系変化による得失、次の50年の生態系見通し、生態系劣化を反転させ得る有望な対応、の評価結果と共に紹介された。加えて、具体的環境教育が必要な分野の事例および技術と経済効率偏重の裏支えを強要され過ぎた現代科学への反省例が紹介された。
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講演概要:
1. 国連ミレニアム生態系評価(以下MA)の内容の紹介
1)MAは地球生態系の健全さに関する最大規模の評価で、2000年の国連事務総長要請に応じ、2千人を超える専門家と国連機関、条約事務局、産業界、諸NGOが参画して実施。気温上昇を19世紀工業化前比で2℃未満とする必要性はMAが指摘し、IPCC最新報告書にも反映されている。焦点を生態系機能に当て、人々が生態系から得る便益(サービス)を論じている。
基盤となるサービスは、栄養分の循環、土壌形成、1次生産などで、これらに支えられて以下の3機能が生ずる。この内、GDPに反映される@偏重の傾向がある。
  @ 供給サービス:食料、淡水、木材及び繊維、燃料など
  A 調節サービス:機構調節、洪水制御、疾病制御、水の浄化など
  B 文化的サービス:審美的、精神的、教育的、リクリエーション的など
2)生物多様性の保護は現代科学(技術偏重)での理解を超えるテーマの一つで、科学的に明らかな200万種弱(推計の10%)が、人間行動起因でかつてない速度で絶滅が進行、WRI予測では近年の主に熱帯林減少で全生物種の5〜15%が絶滅する。開発途上地域熱帯林での自然資源勘定の試算研究が試みられているが、政治・財界リーダ達への浸透は至難で、米(欧)、国連の目論見は民族国家主義の開発主権と真っ向から対立している。
3)MAの結果その1;最近50年間における生態系の変化
人間は、過去のどの期間よりも急速かつ広範に生態系を変え、地球上生命の多様性に大規模な不可逆的損失を招いて来た。1960年以降陸域生物が利用可能な窒素は2倍に増加しており、2050年迄に更に65%増えるとの予測もある。同じく燐のフローは3倍になった。CO2は1750年以降の濃度増加の60%が1959年以降に起こった。
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4)MAの結果その2;生態系変化による得失
 以下の3主要問題は人々が生態系から得る長期的便益(サービス)を減少させている。
  @ 生態系機能の劣化:これによる富の損失は伝統的自然勘定では含まれないので経済勘定に反映されない。従って見かけ上富が増加しても実際には損失を被っている。
  A 非線形変化の可能性の増大:不完全だが確かな証拠がある。例えば北大西洋のタラ漁獲量の1990年代以降の急激な落込みによる漁業の崩壊があげられる。
  B 特定地域(サブ・サハラ・アフリカなど)の人々の貧困の悪化:例えば砂漠化が乾燥地の貧しい人々の生活に悪影響を与えている。
5)MAの結果その3;次の50年における生態系の見通し
 生態系機能の劣化は今世紀前半に相当程度進行しミレニアム開発目標の障害になっている。これに対処するためにMAでは以下の4シナリオをあげている。
  @ 技術庭園:生態系機能の効率的利用を進める技術開発への相当な投資、及び「生態系機能に対する支払い」の広範な利用及び市場メカニズムの確立
  A グローバルな調和:教育・社会基盤への投資と貧困の減少、及び貿易障害と歪曲した補助金の除去
  B 適応モザイク:能動的適応管理の広範な利用、及び教育分野への投資(GDP比13%)
  C 権力による命令:3サービス機能の改善は見込めないと予測
6)MAの結果その4;生態系の劣化を反転させ得る有望な対応
  制度:・生態系管理目標の他部門内及び広範な開発計画枠組み内への統合
     ・政府及び民間部門の透明性及び説明責任の拡大
  経済:・生態系機能の過度の利用を促進する補助金の廃止
     ・生態系機能管理における経済的手法及び市場に基づくアプローチの拡大利用
  技術:・有害な影響なしに穀物生産の増加を可能にする技術の促進
     ・生態系機能を回復させる技術の促進
     ・エネルギー効率性を高め温室効果ガスの排出を減少させる技術の促進
  社会的及び行動的対応分野:
     ・非持続的に管理されている生態系機能の集合的消費を減らす方策
     ・通信と教育
     ・生態系機能に依存するグループの強化
  知識:・資源管理決定における生態系が持つ非市場的価値の取込み
     ・人材的及び制度的能力の向上
増大する需要に合わせながら生態系劣化を反転させる挑戦は、政策と制度の相当な変化を含むいくつかのシナリオの下では可能であるが、そうした変化は大きなものであり、現在は起こっていない。

2. 具体的な環境教育が必要とされる分野の事例の紹介
1)屋久島世界自然遺産
町は山中6カ所の汲取り式トイレ廃棄物の年間人力荷降し費4千万円を一口500円の寄付で賄う積り(登山者8割の寄付で成立)だったが、実際の寄付は1200万円のみだった。 仕方なく2008年屋久島登山有料携帯トイレ(1個500円)の試行・実施を導入した。
2)富士山世界文化遺産
五合目公衆トイレに利用者の善意によるチップ制を導入したが、1人当り30円しか集まらなかった。静岡県政モニターのアンケート調査では、受益者負担が必要:97%、強制有料制度導入賛成:63%、適切な負担額:100〜200円、であった。

3. 技術と経済効率偏重の裏支えを強要され過ぎた現代科学への反省例の紹介
 野家啓一氏著「科学哲学への招待」から以下の内容などが紹介された。
 ・これからはもう少し哲学に立ち返るべし。
 ・科学技術三神話(価値中立神話、安全神話、信頼神話)は砂上の楼閣で崩壊している。
・科学技術倫理のあり方は、信頼性回復、世代間倫理、社会的説明責任、知識の製造物責任の重視にある。
以上 文責:岩崎力
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2015年08月27日

EVFセミナー「気候変動リスクと人類の選択-IPCCの最新報告から-」

EVFセミナー(8/27)の概要報告    (立花 賢一)
 
1)開催日時      平成27年8月27日(木)15:30〜17:30
2)場所        新現役ネット事務局会議室
3)講師        国立環境研究所 地球環境研究センター 気候変動リスク
  評価研究室長 江守正多様
4)講演テーマ    「気候変動リスクと人類の選択〜IPCCの最新報告から〜」 
5)参加者数     35 名
6)セミナー概要報告 
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国連気候変動枠組条約における国際交渉では、産業化前を基準に世界の平均気温上昇を2℃以内に抑えるという目標が掲げられています。しかし、新しく発表されたIPCCの第 5次評価報告書によれば、この目標を達成するためには、世界の二酸化炭素排出量をできるだけ速やかに減少に転じさせ、今世紀末を目途にゼロに近づけていかねばなりません。この状況に私たちはどう向き合ったらよいのか、リスク管理の観点から、シミュレーション映像などで解析していただき、わかりやすく紹介していただきました。
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地球温暖化のしくみ
地球の温暖化を引き起こす直接の原因となっているのは温室効果ガスで
・温室効果がなかったら −19℃
・温室効果があるので   14℃
・温室効果が高まると   14℃以上になる。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)
第5次評価報告書を一昨年〜昨年に発表。温室効果ガス濃度と世界平均気温・海面水位は20世紀に急激に上昇している
・20世紀半ば以降の世界平均気温上昇の半分以上は、人為起源の要因による可能性が極めて高い(95%以上)
・予測される100年後の気温上昇量は、社会の発展の仕方と対策の大きさに依存し科学的な予測にも幅(不確かさ)がある。
・予測される100年後の海面水位上昇は0.2m〜1.0m
極端現象の21世紀後半のリスク
・寒い日と寒い夜の頻度減少
・暑い日と暑い夜の頻度増加
・高潮の発生が増加
・脅威にさらされているサンゴなどの独特の生態系や地球システムの質的な変化などが考えられる。
気候変動対策の長期目標
メキシコでのCOP16カンクン合意で、産業化以前からの世界平均気温の上昇を2℃以内に収める観点から温室効果ガス排出量の大幅削減の必要性を認識された。
2℃以内目標を達成するには
・排出削減経路として今世紀前半は世界全体の排出量を現状に比べて2050年までに半減程度にする。
・今世紀後半は世界全体の排出量はゼロに近いか、マイナスにする必要がある。・
切り札と考えられるバイオマスは有効か
二酸化炭素を吸収して大気中の二酸化酸素濃度を下げ、放射エネルギーを増やす二酸化炭素除去する方法が考えられるが、次の課題がある。
・バイオマスでのco2回収貯留自体の社会的受容性が未知数である。
・エネルギー作物の大規模栽培は土地を巡って食料生産と競合する。
・新たな土地の開発は炭素放出に伴うとともに、生態系破壊にもつながる。
地球温暖化が最悪のシナリオになった時の最終手段は気候工学か
太陽光を反射させて入るエネルギーを減らし、地球の温度を低下させる太陽放射管理で最も研究が盛んなのが、硫酸の薄いミストのエアロゾルを成層圏に撒く方法がコストパフォーマンス良いとされるが、次の課題がある。
・気温分布、降水分布などに副作用の可能性
・海洋酸性は止められない。
・放射線管理を止めた時の急激な温暖化

おわりに
最新の日本および世界の地球環境問題に取り組みについては、気候変動関連リスクを全体像で捉える必要がある。悪影響、好影響の出方は、国、地域、世代、社会的責任によって異なる。地球温暖化問題の鍵は、豊かさとは何か・正義とは何かそしてどんな社会に生きたいかが必然的にかかわるので、科学だけでなく、社会的判断のための、コスト・リスク・便益・実現可能性を明らかにして行く必要がある。
なお、2020年以降の地球温暖化対策の時期枠組みをめぐる交渉で、50年以降の長期的な温暖化ガス排出削減目標の設定について合意を目指す動きが広がってきた。3か月後に迫ったパリでのCOP21は正念場を迎えている。
<後記>
講演後、30分に渡って、最大排出国中国や第3位のインドなどの協力、化石燃料を大幅に使用できなくなると考えられる300年先の温暖化などについて、熱心な質疑応答が続いた。なお、「切り札バイオマスについて」「気候工学について」の話などは、目から鱗の、大変興味深い講演であった。
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2015年06月25日

EVFセミナー「美しいものを美しく見せるために」

セミナー 「美しいものを美しく見せるために」 報告(文責:岡田康裕)
1)開催日時  平成27年6月25日(木)
2)場所    新現役ネット事務局会議室
3)講師    根津美術館顧問 (元副館長)  西田宏子殿
4)講演テーマ 「美しいものを美しく見せるために」
・美術館はエコでなければ運営できない
・根津美術館の場合
5)参加者数  43名
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6)セミナー概要報告
(1)根津美術館開館からの経緯
1)昭和16年に根津嘉一郎氏のコレクションを基に、氏の私邸を利用して開館した。  昭和29年に新たに館を建設し昭和31年に開館したが、空調は無く、展示ケース、蔵などの問題を抱えていた。
2)平成2年の改築に当たり、展示の場・空間として来館者にとって魅力があり、多目的の展示が可能であり、エコであり、収蔵庫の環境も改善できる美術館の実現を目指した。
(2)こだわりの美術館構築
1)収納品の量に対して狭く、高温・高湿でカビ対策が必要であった収蔵庫を大幅に改善した。 断熱方法、熱負荷シミュレーションなどを繰り返し検討してじっくりと蔵と館の空調構築を行って来た。
2)展示ケースを改善した。ケースはハット型として照明を上部につけ、配線もケースガラス面の角部を見えないように這わせるなどの工夫にこだわった。これにより、レイアウトにかかわらず、展示品を常時最適に鑑賞することが可能となった。
3)照明は当時、美術館照明としては非常に新しかったLEDに挑戦した。特に赤色が美しく見えるLEDを模索して、採用した。これにより展示品を美しくかつエコな運用が可能となった。さらに館の瓦屋根部には工夫して太陽光発電を設置し、併せてエコな運営が促進されている。
4)同時に館内の床、壁面の材質、色にもこだわり、展示品がより美しく鑑賞できる工夫をした。これらについてスライドで詳しく解説があった。
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(3)庭園・茶室・導線分析など
1)美術館は建物だけでなく、庭園の整備にも力を入れてきた。由緒ある茶室、発掘品などの移築も行って、四季折々、根津美術館八景も多くの方に楽しんでいただいている。
2)展示に当たっては、展示品の展示順序レイアウトに導線シミュレーションをおこない、気持ちよく鑑賞いただく工夫をしている。
<後記>
講演後約30分間にわたり、照明方法、展示ケース、美術館の由緒、独立採算の美術館の運営の苦労などについて熱心な質疑応答が続いた。「日ごろ何気なく入館して、展示品を鑑賞して退館していた美術館であるが、今後は美術館の運営の苦労に思いをいたして、また今までと違った、美術鑑賞が出来そうです。」との意見が出て、大変に有益な講演であった。
7月20日(木)から9月6日(日)には新しい企画「絵の音を聴く −雨と風、鳥のさえずり、人の声― 」が始まる。ぜひ訪問して、講演を思い起こしてみたいものである。
                          以上
配布資料:
「講演資料」
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