2016年03月24日

EVFセミナー報告:苫小牧におけるCCS実証プロジェクトについて

EVFセミナー報告
  (演題)苫小牧におけるCCS実証プロジェクトについて


開催日: 平成28年3月24日(木) 午後3時30分〜5時30分
場所:  新現役ネット事務局会議室
講師:  佐々木 孝 氏
     日本CCS調査株式会社 
      プラント本部 プラント技術部 プラント技術グループ長

新聞にも報道されているように、日本のCCS (Carbon dioxide Capture and Storage)実証プロジェクトのCO2圧入が来る4月初めから開始される。今回は日本のCCS実証プロジェクトの先頭に立って活躍されている講師に、その最新情報を交えたCCSの話を聞くことができた。
CCSは、火力発電所や工場などで排出されるCO2(Carbon dioxide)を大気中に放散する前に捕らえて(Capture)、地中に貯留する(Storage)技術である。CO2を回収することと地中に圧入する技術が重要である。
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日本のCCS実現に向けて、2008年に電力会社、エネルギー各社、エンジニアリング会社など35社の出資により日本CCS調査株式会社が設立され、経済産業省の委託を受けて苫小牧CCS実証試験プロジェクトを進めている。講師は設立当初からこのプロジェクトに参加されている。プロジェクトは順調に、調査、準備の工程を進み此度のCO2注入の段階に至った。2020年には技術の実用化を目指している。
地球温暖化防止に関して昨秋パリで開催されたCOP21では196ヵ国により新しい対策枠組みが合意された。日本のCO2排出量削減目標は2030年度までに2013年度(排出量13.6億トン)の26%(3.5億トン)である。
IEA(国際エネルギー機関)の報告書によると、CCSは、2050年までの世界の累積CO2削減量の14%を担うことが期待されている技術である。
本プロジェクトでは、隣接する石油精製所で水素製造工程から発生するCO2を海洋汚染防止法に適う99.%以上純度に回収し、年間10万トン以上を約100〜230気圧に昇圧して陸側の2本の傾斜井で3〜4km沖合の地下1000〜3000mの地層に注入する。
CCSの2か所の注入地層は、流体を通さない泥岩層で覆われた砂岩や火山岩等隙間の多い地層である。
EOR(Enhanced Oil Recovery)や陸上型(オンショア)・海上型(オフショア)深部塩水層へのCO2貯留は既に行われているが、圧入したCO2の安全・監視(モニタリング)を含め十分な情報があるとはいえず、世界をリードする我が国の技術を確立したいとしている。特に、
・陸上から海底部の地下への斜坑を利用した注入
・CO2分離・回収するエネルギーを最小とすること
・貯留の安定性を確認し、かつ将来的にも安全を見張るモニタリングシステムの確立
に注目している。
講師らが進める新しい分離・回収プロセスに必要なエネルギーは、従来法の3分の1程度になると予想されている。
本プロジェクトは社会受容性が大事なこともあり、講演会、見学会など広報活動を広く行っていることも報告された。
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今回は話題の最新性もあり多くの参加者を集めたが、講師からCCSに関する技術を大変わかりよく話していただいて有意義なセミナーとなった。(正会員 津田俊夫)

苫小牧CCS実証試験の概要については、日本CCS調査(株)のホームページを参照してください。
www.japanccs.com/

 
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2016年02月19日

EVFセミナー報告:総会記念講演会「我が国が進める小型超音速機の開発と世界展開」

EVFセミナー総会記念講演会
「我が国が進める小型超音速機の開発と世界展開」

                   EVFセミナー概要報告 文責:磯野 克之


開催日 : 2016年2月19日(金) 15:30〜17:30会場  : 国際協力機構市ヶ谷ビル(JICA市ヶ谷ビル)201AB会議室
講師  : 坂田 公夫様
      (株)超音速機事業企画  代表取締役社長
      SKYエアロスペース研究所 所長
      航空総合技術政策フォーラム 代表

    (講師略歴)
      1972年 上智大学大学院卒業  理工学修士
       同年  科学技術庁(現文部科学省)航空宇宙技術研究所(NAL)入所
      1980年 米国スタンフォード大学 研究員
      1984年 科学技術庁(現文部科学省)宇宙企画課 課長補佐
      1989年 同庁原動機部 原動機空力研究室長
      1998年 次世代超音速機プロジェクトセンター長
      2005年 JAXA理事、総合技術研究本部長兼航空プログラムグループリーダ
      2012年 SKYエアロスペース研究所 設立 所長就任
      2014年 株式会社超音速機事業企画 社長就任
      
(要約)
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1.2015年は我が国航空産業にとって、MRJの初飛行やHondaJetの販売開始、国内の体制として我が国航空産業発展に不可欠な「航空基本法」に関連する議論も出始め、記念すべき年となった。

2. また、JAXA超音速試験機では、D-SEND(低ソニックブーム設計概念実証)プロジェクトの飛行試験(D-SEND 2)により「低ソニックブーム技術」の実証に成功した。
 (*ソニックブーム:超音速飛行時の瞬間的爆音)

3.我が国の航空機産業の世界シェア―(売上高)は、僅か2.7%であるが、将来的には20%程度まで伸ばしたい。このための国の政策の果たすべき役割は大きい。

4.我が国における航空産業は、残された最大の産業領域である。現在の自動車産業に次ぐ我が国の成長のけん引役ともなる重要産業であり、民間の航空機開発・製造体制確立と強固な中小企業クラスター体制づくりが有効である。いまこそ、その絶好の機会である。

5. これからの航空に大きなインパクトを与える最大の挑戦である超音速機の開発は、我が国の格好のテーマであり、小型機から着手することで効果的なプログラムとなる。
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(概要報告)
1. 2015年我が国航空にとって記念すべき年
(1)MRJ初飛行
  ・航続距離は、アメリカ、欧州内を飛行するには適している。
  ・技術的レベルは高い。
  ・販売面では、世界需要が拡大しており、可能性は高い。
  ・国の責任で発行する型式証明は、世界販売の必要条件であり、官民での能力向上が必須である。
(2)HondaJet販売開始
  ・Jetエンジンから開発し、民間だけの力で誕生させた。
  ・速度はマッハ0.72と速く、航続距離(2,185km)もあり、着陸距離(914)は短い。
  ・主翼上面にエンジンを配置し、性能UP、客室と荷物室などの内部スペースの拡大を実現し、商品価値が高い。
(3)JAXA D-SEND-2 実証成功
  ・超音速機実現の最大の課題である「低ソニックブーム」の実現にむけ、飛行試験による技術実証に成功した。
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2. 航空産業に課せられた期待と政策
(1)我が国の航空産業は、世界シェアの僅か2.7%と低く、産業構造変革による成長路線の切り札となりうる。(世界シェア20%に)
(2)そのためには、国の産業政策の出番であり、現在の関係4省庁の連携のみならず、国としての研究、技術基盤強化、完成機開発支援、人材育成、中小企業振興など総合的政策が必要となる。
(3)自動車産業にならう基幹産業の一角として航空機産業振興の政策づくりは与党内では進められているが、より幅広い議論と活動が必要となる。
   
3. 「航空基本法」草案の提案
  我が国の航空産業を質・量共に世界的なものに育てるためには、航空産業ビジョンを基に、省庁間の壁を取り去った国としての総合推進が必須である。

4. 諸外国の航空産業政策
2000年初頭から、米国、欧州、中国、イギリスなど、ほとんどの航空産業で先行する各国・地域で、目標とすべきビジョンをもとに強力な政策を出動している。


5. 航空産業クラスターと中小企業の振興
(1)航空機産業のインテグレータの確立とプロジェクトマネッジメントの人材育成。
(2)航空産業関連企業は多種・多様で、部品数は300万点に達し(自動車の約百倍)、多様な技術、素材、製造手法などが必要。インテグレータをトップにサブシステム産業、部品・素材産業、加工、組み立て産業など極めて裾野が広い。
(3)そのため、幅広い業種の中小企業参入による航空クラスターを構築することで、産業および技術の大きな波及効果が期待でき、我が国工業力全体の向上に寄与する。
(4)産業クラスターには、多様な中小企業の集結に加え、研究開発、人材育成、他クラスターとの連携、そして国際活動を含む総合的なマネージメントが必要である。

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6. 超音速機の技術と構想
(1)2003年にコンコルドの飛行は終了した。安全性、経済性、環境性、運用性の点で不十分な点があったため。
(2)超音速機が再び登場するには、ソニックブーム、燃費、排気騒音が課題→小型から開発着手が妥当。
(3)米Aerion社の超音速ビジネスジェット機SSBJ(AS2)は20機受注し、2025年ころの納入を予定している。
(4)JAXAの超音速機技術の研究開発計画では、NEXST計画(1997-2007)、静粛超音速機計画(2007-2016)があり、昨年D-SEND2飛行試験により「低ソニックブーム技術」の実証に成功し、かなりの研究成果が得られている。
(5)我が国の小型超音速機開発の構想
  ・アジア域を1日で往復が可能となる
  ・マッハ1.5〜1.6、席数8〜10席、航続距離4,000〜6,000km
(6)超音速機実現までには、基礎研究、実証プロ、製品化、市場投入、市場生存の過程があり、研究開発から実用化、さらにビジネス競争勝ち抜き(死の谷とダーウインの海)には関係者総力の連携が必要である。
(7)(株)超音速機事業企画は、超音速機・小型機の開発事業企画会社として、超音速機の開発事業はじめ航空機の研究・開発に関する産学官総合事業の推進・企画、関連する政策研究などを行う会社として活動している。

配布資料:
「講演資料」
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2016年01月28日

EVFセミナー「『国土のグランドデザイン2050』を踏まえた『国土形成計画(全国計画)』〜国土計画が描く未来像〜」

EVFセミナー概要報告 文責:佐藤 孝靖


開催日 : 2016年1月28日(木) 15:30?17:30
会場  : 国際協力機構市ヶ谷ビル(JICA市ヶ谷ビル)201AB会議室
講師  : 国土交通省 国土政策局 総合計画課長 白石 秀俊 様

講師略歴:
1988年4月京都大学文学部卒業、国土庁入庁、国土交通省都市・地域整備局地方振興課半島振興室長
同省 総合政策局 政策課政策企画官、人事院人材局交流派遣専門員(みずほ信託銀行不動産コンサルティング部参事役)、
国土交通省 東北地方整備局 建政部長、同省 国土政策局 広域地方政策課長、2014年7月同省 国土政策局 総合計画課長
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演題  : 「国土のグランドデザイン2050」を踏まえた「国土形成計画(全国計画)」
       〜国土計画が描く未来像〜
要約  :最初の国土計画は昭和37年閣議決定の全国総合開発計画であり、その基本目標は地域間の均衡ある発展だった。
バブル崩壊後の平成10年には、それまでの国土計画とやや趣を異にした“21世紀の国土のグランドデザイン”が閣議決定され、平成20年に国土形成計画、昨年8月に「第二次国土形成計画」へと装いを新たにした計画へと発展してきた。この最新の国土形成計画の概要が今回のテーマである。

この計画の課題認識は、人口減少の問題と、今やいつ起きてもおかしくない巨大災害の二つである。
人口減少社会において、安全で豊かな生活を支える国土、持続的な経済成長を支える国土を実現することを目標に定めた。そのための基本構想としては“対流促進型国土の形成”がキーワードに掲げられた。また、国土構造、地域構造としてコンパクトにまとまった地域をネットワークで結ぶことを提示した。地域の多様な個性が「対流」の原動力となるため、地域の個性がますます重要となる。豊かさとな何か、それは新しい文化(暮らし)の創造が不可欠との価値観の大転換を提唱して締めくくられた。
最後に「日本未来デザインコンテスト〜「対流促進型国土」の形成に向けて〜」の公募開始についてが、ペーパー配布の上、積極的な応募の勧誘がなされた。
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日本未来コンテスト: http://www.mlit.go.jp/report/press/kokudoseisaku03_hh_000083.html

講演概要:

1、国土計画について

国土計画とは国土に関する長期的(概ね10年)、総合的(各役所の施策を総合)、空間的(配置計画)計画のことである。これまでの変遷は昭和37年閣議決定の全国総合開発計画(略称 一全総。基本目標:地域間の均衡ある発展)を最初の計画として、昭和44年の新全総、昭和52年の三全総、平成62年の四全総(目標:多極分散型国土の構築)と計画が続いてきた。
バブル崩壊後の平成10年には、それまでの国土計画とやや趣を異にした“21世紀の国土のグランドデザイン”が閣議決定され、平成20年に国土形成計画、昨年8月に「第二次国土形成計画」へと装いを新たにした計画へと発展してきた。この最新の国土形成計画の基本目標としては、“対流促進型国土の形成”が掲げられたのである。

2、課題認識

人口減少と巨大災害の切迫の二つを課題認識としてあげ、特に人口減少について出生率の観点、地域的偏在の面、ライフステージで見た人口移動、都市圏と地方圏における人口移動など多方面からの考察がなされた。これら二つの対応を誤れば国家存亡にもかかわるおそれがあるとの講師の指摘に、一同思わず姿勢を正して聞き入った次第である。

3、計画が描く未来

人口減少社会において、安全で豊かな生活を支える国土を目指し、持続的な経済成長を支える国土を実現することを目標に定めた。そのための基本構想としては「対流」という意外性のある言葉が出現し、“対流促進型国土の形成”がキーワードに掲げられた。また、国土構造、地域構造としてコンパクトにまとまった地域をネットワークで結ぶことを提示した。地域の多様な個性が「対流」の原動力となるため、地域の個性がますます重要となる。豊かさとは何か、それは新しい文化(暮らし)の創造が不可欠との、価値観の大転換を提唱して締めくくられた。途中、地域の個性の具体例として、内閣府の環境モデル都市で、バイオマス産業都市でもある岡山県の西粟倉村の名前が紹介された。

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質疑では、首都機能移転は今日的テーマか、地方活性化として過疎の離れ島に中国人休暇村を建設するアイデア、中小企業、農業を活性化する産業構造論的な観点の質問が活発になされ、その全てに講師から実践的で的確な示唆に富む回答がなされ、古参の会員からは質問の最後に「こんなに気迫あふれるお話が聞けて本日は本当に良かった!」との感謝の言葉があった。講演会のあとの懇親会も大いに盛り上がり、ここでも講師は質問攻めで、殆ど料理に箸をつけられずでした。白石課長さん、本当にありがとうございました。

配布資料:
「国土のグランドデザイン2050」を踏まえた「国土形成計画(全国計画)」〜国土計画が描く未来像〜

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2015年12月15日

EVFセミナー:「有限時代へのパラダイムシフト」

EVFセミナー概要報告文責:(小栗武治)

開催日 : 2015年12月15日(木) 15:30〜17:30
会場  : 新現役ネット A会議室
講師  : 東大名誉教授 鈴木 基之 様 
略歴  :
 カリフォルニア大学にて研究生活を送り、帰国後、東京大学生産技術研究所で環境化学工学の研究室を主宰(のちに所長)。以降、学問領域を超えて総合的な環境問題解決を目指す活動を志す。国際連合大学副学長を経て特別学術顧問、放送大学教授、東京工業大学監事(非常勤)、環境省中央環境審議会会長を歴任。

演題  : 「有限時代へのパラダイムシフト」

要約  :  日本では高度経済成長期にGNPの伸びに比較し消費カロリーが過大な時期が続いた。この時期は4大公害に象徴されるが、上水道の整備などは進み、70年以降は環境汚染対策が順次行われた。これらの進展に従って消化器系感染症は激減し、水環境の状況も改善された。
 しかし、ある地域の生産活動を支えるために消費されている土地・水域面積の合計(エコロジカル・フットプリント)は、地域が供給できる面積を大幅に超過する事態を迎えている。
 今後はこのような有限な環境に調和できる人間活動を構築する必要がある。地球上に蔓延してしまった化学的に活性な窒素の管理も、その一つである。既に拡大しすぎた人間活動はこのままでは破局に向かう。今後有限時代の平衡安定な着地点に向けて人間活動をソフトランディングさせて行かねばならない。

講演概要:
1.地球の容量限界と人間活動の拡大
  日本での一人当たりのGNPと消費カロリーの推移を見ると、高度経済成長の時代に当たる1960年ごろから1970年にかけて一人あたりのGNPと消費カロリーの伸びは大きく、いわゆる高度経済成長時代を経験した。この間の環境を無視した経済一辺倒の人間活動の結果として、4大公害なども経験することとなった。これら局所的な環境問題に対して、70年代に対策が講じられることとなり、次いで80年代には、都市における環境問題への対応、90年代には地球環境問題への取り組みが始まるなど、拡大する環境問題への対策が試みられることとなる。
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 この間、1960年から1975年に掛けて、経済成長の恩恵を受け、上水道が整備され、浄化槽などの普及に伴い、赤痢、パラチフスなどの消化器系感染症が激減し、また1970年からは水質汚濁防止法などの整備により、有害物質による環境汚染に対する対策が実施され、水域の重金属や化学物質などに関する環境基準の達成率が改善されるなど、成功神話が蓄積される面もあった。一面において、水道普及や、遅れて設置されつつある下水道など、大規模なインフラ整備が行われた都市部においては、それらの設備が40〜50年という寿命を迎え、今後はそのメインテナンスに膨大な費用が必要となり、大規模集中型の考え方に反省を求められる状況に至っているとも考えられるようになっている。
 我が国と関連が深いアジアの新興国、途上国においては、全体としての経済成長は著しいが、それぞれの国の状況は多様であり、成長に伴って産業公害、都市環境、地球環境の諸問題が同時に起こっているのが実際の状況であり、いわば複合型環境問題を抱えた状況にあるといってもよく、今後の協力関係を構築していく上で難しい問題を解いていく必要がある。
2.有限時代
 地球上の人口増加、一人あたりのGNPの増加に象徴される、人間活動の拡大により、その影響は地球の提供できる環境容量を超える事態に達してしまっている。たとえば、ある特定の地域(地球全体、国、自治体などの単位)での人間活動が消費している土地・水域面積“の合計(エコロジカル・フットプリント)その地域の提供できる容量(バイオキャパシティー)を超えてしまうと、その人間活動は最早持続可能とは言えない。すなわち、人間活動は地球の有限性を考え、その限界を意識してなされなければならないということが重要である。地球全体では1970年頃にエコロジカル・フットプリントは、地球の容量を超えてしまったと試算されているが、我々はまだそれを意識した行動を始めていない。
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 地球の有限性の下では、限られた容量・有限な資源をめぐって拡大する人間活動を如何に抑制できるか、が重要となり、最早、地球上には新天地などは存在しないため、いかに有限な空間内での多様な価値観を持つ人々の共存を図るか、逃げ場のないことから生じる閉塞感から生じる社会の崩壊などへの対応などが今後重要である。
地球惑星の限界については、色々な項目に関する評価もなされており、地球温暖化などと並んで、人間活動が排出する過剰な窒素化合物が自然界の窒素の循環、収支バランスを崩していることも大きな課題として指摘される。人類が食糧危機を乗り切るために工業的に窒素を固定し、窒素肥料を大量に生産始めたことが、地球の健全な生態系に大きな影響を与えるようになっているのである。
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3.持続可能な人間活動をどう考えるか
 国連では、持続可能な社會に向けた取り組みを行っている。2015年を目標年にした8項目のミレニアム開発目標(MDG)が設定され、2015年には2030年を目標に17項目にわたる持続可能な開発ゴール(SDG)と、その中に総計169にわたるターゲットが国連特別サミット(9月)において採択されている。需要な事柄が網羅されている感があるが、これを、具体的にどう進めるのかが今後の課題である。
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4.パラダイムの転換へ
 今後は高度成長、イケイケどんどんはあり得ない。既に増殖してしまった人口・経済などはこのままでは破局に向かうであろう。今後有限時代の平衡安定な着地点を設定し、そこに向けて人口・経済をソフトランディングさせて行かねばならない。そのためには資源・環境容量の有限性を念頭に置いた許容される「物質資源の使用量」、「エネルギーの使用量」、「環境負荷」などの検討が大切であり、持続可能な人間社会のビジョンの確立が重要である。つまり従来の「成長パラダイム」から「持続可能性パラダイム」への転換が必要で、人間が生かされている自然の範囲内で活動するための着地点を考えなくてはならない。それには長期的・総合的視野に立った思い切った施策が必要である。「太陽エネルギー社会の構築」、「持続可能な地域物質循環システムの構築」、「豊かな自然と共生する地域の活性化」、が鍵となり、日本が「持続可能な社會のモデルを先進的に構築する」ことが重要と思う。

質疑応答:
 講演終了後、聴講者から自己の反省を含めた複数の感想、今後の地球全体人口の予測に関 する質問、今後のエネルギー源の構成の在り方、経済面で従来の利己主義から利他主義への転換の必要性、等々数多くの意見や質問が出され、活発な論議が交わされた。
                                      以上
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2015年11月16日

EVF第100回記念セミナー「生を全うするための「平穏死」のすすめ」

EVF第100回記念セミナー     

演題:生を全うするための「平穏死」のすすめ
講師:世田谷区立特別養護老人ホーム 芦花ホーム
   常勤医師 石飛幸三先生
日時:2015年11月16日(月)
場所:きゅりあん6階 大会議室
参加:93名

要旨
石飛幸三先生は世田谷区の特別養護老人ホーム「芦花ホーム」の常勤医師として多くの死を見つめてこられ、終末期医療を見直し、ヒトの生きる力を信頼して平穏な死に向かう患者の邪魔をせず、自然の摂理に従ってやさしく終末を見守ろうではないかと提案しておられます。

老衰は生身の人間として生きてきて避けることのできない生体の現象であり自然の摂理である。
胃瘻は本来、先天性食道狭窄の新生児が成長して食道形成術を受けるまでの補助手段であった。それが人生終末期に、老人が食べものを誤嚥して肺炎を起こすことの予防手段として使われた。しかし胃瘻では、常に変化する体にとっての食事の必要量への対応が難しく、過度に補給すると胃の内容は逆流して食道から肺に入り肺炎を起こす危険性もあり、時には口にまで戻り窒息死を招くこともある。

ところで胃瘻をつけたまま長い間寝たきりで、言葉も発せられず、常には口を開けて寝るばかりだったご老人の話。ある時介護士がこの患者の指が僅かに動いているのに気がつき、指差す方向を見ると棚に缶ビールが見えた。お父さんの好きだったビールを娘さんがベットの近くに置いていたのだという。
介護師や看護師から相談を受けた先生は決断した。「何かあったらドクターストップをかければいい。ご家族のご了解をとってビールを飲ませよう。」
老人は初め医師の手を借りながらなんと半分ほどビールを飲み、しげしげと缶を見つめなおし、次に残りのビールを飲み干してしまったという。今度は、自分の力だけで・・
寝たきりだった老人の表情は、見た目はあまり変わることはなかったが本人は久しぶりのビールの味を堪能したに違いない。
長い間、機能を使うことがなかった喉が“異物”を通した。人の身体は本来の生きる力を発揮して“異物”を通した。娘さんはビール好きな父親がもう一度ビールを飲めたことを心から喜んだ。

人は皆それぞれの社会の中で役割を持っている。
社会で自分の果たすべき役割を終えた人の最後を、自然の摂理に逆らって本人を苦しめるだけの医療になっていないか自戒して、静かに看取ってあげたほうがその人のためにもなるし、家族の心を支えることになる。
目的のないまま延命を続けると、医療費への更なる負担増となって社会全体がその重さに耐えられなくなるのではないか。

明治時代に作られ、今の時代にそぐわない刑法に囚われる意味はない。
これは単に医師だけの問題ではなく、家族や施設で働く人々も、最後を迎える人の平穏死を考えようではないかと、非常に説得力のある内容でした。

会員の一人からのメールを紹介します。
奥様は9月20日に芦花ホームを取り上げて放映したNHKスペシャルを一緒に見ようと声をかけたが、“辛気臭い番組”とテレビの前にはお座りにならなかった由。ところがセミナーに足を運び、石飛先生の講演を聴いて「いいお話でした」と神妙な面持ちでいらしたとのことです。
                           文責 工藤宣雄 
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配布資料:
「講演資料」

以上
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2015年10月22日

EVFセミナー「日本の水資源と国際的な水問題」

演題:日本の水資源と国際的な水問題
講師:国土交通省水管理・国土保全局 水資源部 水資源計画課 総合水資源管理戦略室課長補佐 佐渡周子様
日時:2015年10月22日(木)
場所:新現役ネット事務局会議室
参加:36名
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要約:
日本の年間水使用量は809億㎥(2011年)で水資源賦存量4,100億㎥の約20%。1990年代をピークに緩やかに減少している。日本の年平均降水量(約1,700mm)は世界の年平均降水量の約2倍だが、日本の一人あたり年降水総量(約5,000 ㎥/人・年)は世界の一人あたり年降水総量の3分の1程度である。高度経済成長期以降、地下水の過剰取水による地盤沈下、水質汚染等、が深刻化したが、様々な法整備や取組みの実施により沈静化している。都市への人口集中、気候変動等の要因により水循環が変化しており、健全な水循環を維持又は回復するための施策を、総合的かつ一体的に推進するため、水循環基本法を制定(平成26年4月2日公布)し、水循環基本計画を閣議決定(平成27年7月10日)した。
世界に目を向けると、利用可能な水の量が1,700 ㎥/人・年を下回る場合、「水ストレス下にある状態」とされており、2050年には全世界人口の40%以上(約40億人)が、水ストレス下にある状態になることが想定されている。水紛争、渇水被害、洪水被害も多く発生している。国連水と衛生に関する諮問委員会、世界水フォーラム、アジア太平洋水サミットなどの国際会議等の場で水に関する議論が進んでおり、2015年9月の国連総会で「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」が決議され、ゴールの一つとして「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」が設定された。日本は、水と衛生分野におけるODA実績で、世界第1位の援助国であり、世界の水問題解決のために貢献している。

講演概要:
1. 日本の水資源
1)日本の水資源の現状
水資源賦存量は4,100億㎥ (降水量6,400億㎥の約64%)でその内約20%を使用している。日本の年平均降水量(約1,700mm)は世界の年平均降水量(約800mm)の約2倍だが、日本の一人あたり年降水総量(約5,000 ㎥/人・年)は世界の一人あたり年降水総量(約16,000㎥/人・年)の3分の1程度である。
生活用水使用量は、生活水準の向上により、1990年頃まで急激に増加したが、日本全国での生活用水使用量及び、一人あたり平均使用量は2000年頃をピークに減少傾向。生活用水の一人一日平均使用量は289リットル/人・日(2011年、有効水量ベース)である。
工業用水使用量は高度経済成長に伴い、1980年頃まで増加したが、その後は減少。回収水の利用が進んでいる。
農業用水使用量は約544億㎥ (2011年、推計)農地用水の約94%を占める水田灌漑用水は近年減少傾向にある。
2)日本の水資源政策
日本の水資源政策・開発の歴史は人口の増加にともなう農業・産業の発展と平行して進行。
戦後は、復興のため国土の整備開発が進められ、緊急の課題に対応するため土地改良法(1949)、電源開発促進法(1952)、水道法(1957)、工業用水道事業法(1958)、国土総合開発法(1950)、特定多目的ダム法(1957)、水資源開発促進法(1961)等、様々な法整備、計画策定、実施を推進した。
戦後、地下水の過剰な取水により、全国各地で地盤沈下が進行したり、生活排水、工業廃水の河川への流入により深刻な水質汚染が発生したが、様々な法整備や取り組みにより改善してきた。(下図は代表的地域の地盤沈下の経年変化)
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3)新しい水資源政策
都市への人口集中、気候変動等の要因により水循環が変化し、渇水、洪水、水質汚濁、生態系への様々な課題への対応、は引き続き存在している。健全な水循環を維持又は回復するための施策を、総合的かつ一体的に推進することが必要となるため、「水循環基本法」を制定した。(平成26年4月2日公布、7月1日施行)。主なポイントは次のとおりである。
@水循環に関する施策を推進するため、水循環政策本部を設置
A水循環施策の実施にあたり基本理念を明確化
B国、地方公共団体、事業者、国民といった水循環関係者の責務を明確化
C水循環基本計画の策定
D水循環施策推進のための基本的施策を明確化

水循環基本法に基づく水循環基本計画を平成27年7月10日閣議決定した。
施策として、流域単位で水循環計画を新たに策定すること等を明記している。(下図は水循環施策のイメージ)
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2.世界の水資源・国際的な水問題
1)世界の水資源
地球全体の水(およそ14億k㎥ )のうち、比較的使いやすい河川・湖沼などの淡水は、わずか0.01%(約0.001億k㎥ )
農業、工業、エネルギー及び環境に要する水資源量は、一般的に1,700 ㎥ /人・年とされ、一人あたりの利用可能な水の量が1,700 ㎥ を下回る場合、「水ストレス下にある状態」とされている。2050年には製造業、生活用水等の需要増により、2000年の需要量より55%増加することが見込まれ、全世界人口の40%以上(約40億人)が、水ストレス下にある状態になることが想定されている。(下図は2011年の1人あたり水資源量)
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2)国際的な水問題
世界では様々な要因により水紛争が起きている。水紛争の主な要因は、水資源配分の問題(湖や河川の上流地域での過剰取水)、水質汚濁の問題(上流地域での汚染物質排出など) 、水の所有権の問題等が挙げられる。
水に関する国際的な取り組みとして、国連水と衛生に関する諮問委員会(2004〜)、世界水フォーラム(1997〜)、アジア太平洋水サミット(2006〜)など多くの国際会議等の場で水についての議論がなされている。
2015年以降の国連開発目標として、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」に水と衛生の目標がゴール6として設定されている。
ゴール6 : すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する

3)水と衛生分野における日本の支援
日本は、水と衛生分野におけるODA実績で、世界第1位の援助国。 援助の内訳は、上水−下水の大規模システム及び基本的な水供給・衛生設備に関する援助が全体の約8割と大半を占めており、日本の水インフラ技術が世界に大きく貢献している。
NARBOを通じた、総合水資源管理促進のための支援(ワークショップ、技術協力等)やUNESCOにおけるIWRMガイドライン作成支援などを通じ、統合水資源管理の普及を推進している。
*<NARBO>Network of Asian River Basin Organization

4)水インフラの国際展開
海外における水インフラ市場は、2025年には約87兆円規模の市場に成長する見通しであり、我が国の技術・知見を活用した水インフラ技術の戦略的展開を図っている。


以上 文責:深井吉男
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2015年09月17日

EVFセミナー「生態系/生物多様性はどうなって行くのか?」

演題:生態系/生物多様性はどうなって行くのか?
講師:東洋大学国際地域学部国際観光学科元教授 薄木 三生 様
日時:2015年9月17日(木)
場所:新現役ネット事務局会議室
参加:33名

要約:
地球生態系の健全さに関する「国連ミレニアム生態系評価」の要点が、最近50年間の生態系変化、生態系変化による得失、次の50年の生態系見通し、生態系劣化を反転させ得る有望な対応、の評価結果と共に紹介された。加えて、具体的環境教育が必要な分野の事例および技術と経済効率偏重の裏支えを強要され過ぎた現代科学への反省例が紹介された。
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講演概要:
1. 国連ミレニアム生態系評価(以下MA)の内容の紹介
1)MAは地球生態系の健全さに関する最大規模の評価で、2000年の国連事務総長要請に応じ、2千人を超える専門家と国連機関、条約事務局、産業界、諸NGOが参画して実施。気温上昇を19世紀工業化前比で2℃未満とする必要性はMAが指摘し、IPCC最新報告書にも反映されている。焦点を生態系機能に当て、人々が生態系から得る便益(サービス)を論じている。
基盤となるサービスは、栄養分の循環、土壌形成、1次生産などで、これらに支えられて以下の3機能が生ずる。この内、GDPに反映される@偏重の傾向がある。
  @ 供給サービス:食料、淡水、木材及び繊維、燃料など
  A 調節サービス:機構調節、洪水制御、疾病制御、水の浄化など
  B 文化的サービス:審美的、精神的、教育的、リクリエーション的など
2)生物多様性の保護は現代科学(技術偏重)での理解を超えるテーマの一つで、科学的に明らかな200万種弱(推計の10%)が、人間行動起因でかつてない速度で絶滅が進行、WRI予測では近年の主に熱帯林減少で全生物種の5〜15%が絶滅する。開発途上地域熱帯林での自然資源勘定の試算研究が試みられているが、政治・財界リーダ達への浸透は至難で、米(欧)、国連の目論見は民族国家主義の開発主権と真っ向から対立している。
3)MAの結果その1;最近50年間における生態系の変化
人間は、過去のどの期間よりも急速かつ広範に生態系を変え、地球上生命の多様性に大規模な不可逆的損失を招いて来た。1960年以降陸域生物が利用可能な窒素は2倍に増加しており、2050年迄に更に65%増えるとの予測もある。同じく燐のフローは3倍になった。CO2は1750年以降の濃度増加の60%が1959年以降に起こった。
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4)MAの結果その2;生態系変化による得失
 以下の3主要問題は人々が生態系から得る長期的便益(サービス)を減少させている。
  @ 生態系機能の劣化:これによる富の損失は伝統的自然勘定では含まれないので経済勘定に反映されない。従って見かけ上富が増加しても実際には損失を被っている。
  A 非線形変化の可能性の増大:不完全だが確かな証拠がある。例えば北大西洋のタラ漁獲量の1990年代以降の急激な落込みによる漁業の崩壊があげられる。
  B 特定地域(サブ・サハラ・アフリカなど)の人々の貧困の悪化:例えば砂漠化が乾燥地の貧しい人々の生活に悪影響を与えている。
5)MAの結果その3;次の50年における生態系の見通し
 生態系機能の劣化は今世紀前半に相当程度進行しミレニアム開発目標の障害になっている。これに対処するためにMAでは以下の4シナリオをあげている。
  @ 技術庭園:生態系機能の効率的利用を進める技術開発への相当な投資、及び「生態系機能に対する支払い」の広範な利用及び市場メカニズムの確立
  A グローバルな調和:教育・社会基盤への投資と貧困の減少、及び貿易障害と歪曲した補助金の除去
  B 適応モザイク:能動的適応管理の広範な利用、及び教育分野への投資(GDP比13%)
  C 権力による命令:3サービス機能の改善は見込めないと予測
6)MAの結果その4;生態系の劣化を反転させ得る有望な対応
  制度:・生態系管理目標の他部門内及び広範な開発計画枠組み内への統合
     ・政府及び民間部門の透明性及び説明責任の拡大
  経済:・生態系機能の過度の利用を促進する補助金の廃止
     ・生態系機能管理における経済的手法及び市場に基づくアプローチの拡大利用
  技術:・有害な影響なしに穀物生産の増加を可能にする技術の促進
     ・生態系機能を回復させる技術の促進
     ・エネルギー効率性を高め温室効果ガスの排出を減少させる技術の促進
  社会的及び行動的対応分野:
     ・非持続的に管理されている生態系機能の集合的消費を減らす方策
     ・通信と教育
     ・生態系機能に依存するグループの強化
  知識:・資源管理決定における生態系が持つ非市場的価値の取込み
     ・人材的及び制度的能力の向上
増大する需要に合わせながら生態系劣化を反転させる挑戦は、政策と制度の相当な変化を含むいくつかのシナリオの下では可能であるが、そうした変化は大きなものであり、現在は起こっていない。

2. 具体的な環境教育が必要とされる分野の事例の紹介
1)屋久島世界自然遺産
町は山中6カ所の汲取り式トイレ廃棄物の年間人力荷降し費4千万円を一口500円の寄付で賄う積り(登山者8割の寄付で成立)だったが、実際の寄付は1200万円のみだった。 仕方なく2008年屋久島登山有料携帯トイレ(1個500円)の試行・実施を導入した。
2)富士山世界文化遺産
五合目公衆トイレに利用者の善意によるチップ制を導入したが、1人当り30円しか集まらなかった。静岡県政モニターのアンケート調査では、受益者負担が必要:97%、強制有料制度導入賛成:63%、適切な負担額:100〜200円、であった。

3. 技術と経済効率偏重の裏支えを強要され過ぎた現代科学への反省例の紹介
 野家啓一氏著「科学哲学への招待」から以下の内容などが紹介された。
 ・これからはもう少し哲学に立ち返るべし。
 ・科学技術三神話(価値中立神話、安全神話、信頼神話)は砂上の楼閣で崩壊している。
・科学技術倫理のあり方は、信頼性回復、世代間倫理、社会的説明責任、知識の製造物責任の重視にある。
以上 文責:岩崎力
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2015年08月27日

EVFセミナー「気候変動リスクと人類の選択-IPCCの最新報告から-」

EVFセミナー(8/27)の概要報告    (立花 賢一)
 
1)開催日時      平成27年8月27日(木)15:30〜17:30
2)場所        新現役ネット事務局会議室
3)講師        国立環境研究所 地球環境研究センター 気候変動リスク
  評価研究室長 江守正多様
4)講演テーマ    「気候変動リスクと人類の選択〜IPCCの最新報告から〜」 
5)参加者数     35 名
6)セミナー概要報告 
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国連気候変動枠組条約における国際交渉では、産業化前を基準に世界の平均気温上昇を2℃以内に抑えるという目標が掲げられています。しかし、新しく発表されたIPCCの第 5次評価報告書によれば、この目標を達成するためには、世界の二酸化炭素排出量をできるだけ速やかに減少に転じさせ、今世紀末を目途にゼロに近づけていかねばなりません。この状況に私たちはどう向き合ったらよいのか、リスク管理の観点から、シミュレーション映像などで解析していただき、わかりやすく紹介していただきました。
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地球温暖化のしくみ
地球の温暖化を引き起こす直接の原因となっているのは温室効果ガスで
・温室効果がなかったら −19℃
・温室効果があるので   14℃
・温室効果が高まると   14℃以上になる。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)
第5次評価報告書を一昨年〜昨年に発表。温室効果ガス濃度と世界平均気温・海面水位は20世紀に急激に上昇している
・20世紀半ば以降の世界平均気温上昇の半分以上は、人為起源の要因による可能性が極めて高い(95%以上)
・予測される100年後の気温上昇量は、社会の発展の仕方と対策の大きさに依存し科学的な予測にも幅(不確かさ)がある。
・予測される100年後の海面水位上昇は0.2m〜1.0m
極端現象の21世紀後半のリスク
・寒い日と寒い夜の頻度減少
・暑い日と暑い夜の頻度増加
・高潮の発生が増加
・脅威にさらされているサンゴなどの独特の生態系や地球システムの質的な変化などが考えられる。
気候変動対策の長期目標
メキシコでのCOP16カンクン合意で、産業化以前からの世界平均気温の上昇を2℃以内に収める観点から温室効果ガス排出量の大幅削減の必要性を認識された。
2℃以内目標を達成するには
・排出削減経路として今世紀前半は世界全体の排出量を現状に比べて2050年までに半減程度にする。
・今世紀後半は世界全体の排出量はゼロに近いか、マイナスにする必要がある。・
切り札と考えられるバイオマスは有効か
二酸化炭素を吸収して大気中の二酸化酸素濃度を下げ、放射エネルギーを増やす二酸化炭素除去する方法が考えられるが、次の課題がある。
・バイオマスでのco2回収貯留自体の社会的受容性が未知数である。
・エネルギー作物の大規模栽培は土地を巡って食料生産と競合する。
・新たな土地の開発は炭素放出に伴うとともに、生態系破壊にもつながる。
地球温暖化が最悪のシナリオになった時の最終手段は気候工学か
太陽光を反射させて入るエネルギーを減らし、地球の温度を低下させる太陽放射管理で最も研究が盛んなのが、硫酸の薄いミストのエアロゾルを成層圏に撒く方法がコストパフォーマンス良いとされるが、次の課題がある。
・気温分布、降水分布などに副作用の可能性
・海洋酸性は止められない。
・放射線管理を止めた時の急激な温暖化

おわりに
最新の日本および世界の地球環境問題に取り組みについては、気候変動関連リスクを全体像で捉える必要がある。悪影響、好影響の出方は、国、地域、世代、社会的責任によって異なる。地球温暖化問題の鍵は、豊かさとは何か・正義とは何かそしてどんな社会に生きたいかが必然的にかかわるので、科学だけでなく、社会的判断のための、コスト・リスク・便益・実現可能性を明らかにして行く必要がある。
なお、2020年以降の地球温暖化対策の時期枠組みをめぐる交渉で、50年以降の長期的な温暖化ガス排出削減目標の設定について合意を目指す動きが広がってきた。3か月後に迫ったパリでのCOP21は正念場を迎えている。
<後記>
講演後、30分に渡って、最大排出国中国や第3位のインドなどの協力、化石燃料を大幅に使用できなくなると考えられる300年先の温暖化などについて、熱心な質疑応答が続いた。なお、「切り札バイオマスについて」「気候工学について」の話などは、目から鱗の、大変興味深い講演であった。
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2015年07月23日

EVFセミナー「宇宙測位技術で地球を測る」

セミナー「宇宙測位技術で地球を測る」  報告(文責:三嶋 明)
1)開催日時   平成27年7月23日(木)15:30〜17:40
2)場所     新現役ネット事務局会議室
3)講師     国土交通省国土地理院測地観測センター 専門調査官 後藤 清
4)講演テーマ   「宇宙測位技術で地球を測る」
5)参加者数      29名
6)セミナー概要報告
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(1)国土地理院のご紹介
動画を使っての紹介。700人体制で、その7割がつくば市のセンター、3割が全国10か所に。
(2)VLBI(超長基線電波干渉法)
1)VLBIとは、数十億光年の彼方にある数百の準星からの電波を追尾し、その到達時刻の差を計測する技術。
2)VLBIの目的(役割)は、*地球上の位置を高精度に決定、*プレート運動の検出、*地球の姿勢を測る。
3)VLBIの新システム(VGOS):国際VLBI事業は2009年に次世代VLBI観測システムの仕様を公表。国土地理院も参画。茨城県石岡市に次世代型アンテナを設置し、2014年に観測を開始。
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(3)GEONET(GNSS連続観測システム)
1)GNSSは各国の衛星測位システムの総称で、移動体の航法支援、測量などに活用されている。
アメリカ:GPS/30――>31機へ、日本:準天頂衛星システム/1――>2018/4――>7機へ、
ロシア:GLONASS/24機、EU:Galileo/3――>2017/26機へ、この他に中国:BeiDou。
2)GEONETは、世界最大級のGNSS連続観測システムで、日本全国に約1,300点に設置されている施設「電子基準点」とデータを集約・解析する「中央局」で構成されている。
3)GEONETの目的(役割)は、*各種測量の基準点、*地殻変動の把握(任意の期間における「地震、火山活動、地滑り」等の地殻変動を把握)、*位置情報サービス(リアルタイムデータを提供することにより、情報化施工等の事業に利用)
4)マルチGNSS:新たにGalileoからの信号を受信し、測量困難地域・時間の縮小を図り、長距離基線を短時間で求めることが可能になる。
(4)SAR(合成開口レーダー)
1)SARは、人工衛星のアンテナから対象物に電波を発射し、反射された電波を観測し、対象物の大きさや表面の性質を知る技術、又電波の戻ってくる時間により対象物までの距離を測定できる。
2)地殻変動、地盤沈下、火山活動、地滑りなどの面的変動の把握に特徴がある。
3)日本のSAR衛星は、ふよう1号(1992-98)、だいち(2006-11)、現在はだいち2号(2014-)と変遷。
(5)おわりに
国土地理院は、国内外の関係機関と協力して、VLBI、GEONET、SARの解析技術の向上を図るとともに、それぞれの特徴を生かして、その情報を防災・減災の関係機関、必要とする方、一般の方にも提供している。
<後記>
講演後、40分に渡って、精度の向上の歴史、安全運転、民間の地図情報会社との契約、三角点の将来、国土地理院の組織・守備範囲、プレートの動き、マルチGNSSなど、熱心な質疑応答が続いた。「技術そのものの進歩」「国際協力」に隔世の感があり、大変興味深い講演であった。//
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2015年06月25日

EVFセミナー「美しいものを美しく見せるために」

セミナー 「美しいものを美しく見せるために」 報告(文責:岡田康裕)
1)開催日時  平成27年6月25日(木)
2)場所    新現役ネット事務局会議室
3)講師    根津美術館顧問 (元副館長)  西田宏子殿
4)講演テーマ 「美しいものを美しく見せるために」
・美術館はエコでなければ運営できない
・根津美術館の場合
5)参加者数  43名
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6)セミナー概要報告
(1)根津美術館開館からの経緯
1)昭和16年に根津嘉一郎氏のコレクションを基に、氏の私邸を利用して開館した。  昭和29年に新たに館を建設し昭和31年に開館したが、空調は無く、展示ケース、蔵などの問題を抱えていた。
2)平成2年の改築に当たり、展示の場・空間として来館者にとって魅力があり、多目的の展示が可能であり、エコであり、収蔵庫の環境も改善できる美術館の実現を目指した。
(2)こだわりの美術館構築
1)収納品の量に対して狭く、高温・高湿でカビ対策が必要であった収蔵庫を大幅に改善した。 断熱方法、熱負荷シミュレーションなどを繰り返し検討してじっくりと蔵と館の空調構築を行って来た。
2)展示ケースを改善した。ケースはハット型として照明を上部につけ、配線もケースガラス面の角部を見えないように這わせるなどの工夫にこだわった。これにより、レイアウトにかかわらず、展示品を常時最適に鑑賞することが可能となった。
3)照明は当時、美術館照明としては非常に新しかったLEDに挑戦した。特に赤色が美しく見えるLEDを模索して、採用した。これにより展示品を美しくかつエコな運用が可能となった。さらに館の瓦屋根部には工夫して太陽光発電を設置し、併せてエコな運営が促進されている。
4)同時に館内の床、壁面の材質、色にもこだわり、展示品がより美しく鑑賞できる工夫をした。これらについてスライドで詳しく解説があった。
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(3)庭園・茶室・導線分析など
1)美術館は建物だけでなく、庭園の整備にも力を入れてきた。由緒ある茶室、発掘品などの移築も行って、四季折々、根津美術館八景も多くの方に楽しんでいただいている。
2)展示に当たっては、展示品の展示順序レイアウトに導線シミュレーションをおこない、気持ちよく鑑賞いただく工夫をしている。
<後記>
講演後約30分間にわたり、照明方法、展示ケース、美術館の由緒、独立採算の美術館の運営の苦労などについて熱心な質疑応答が続いた。「日ごろ何気なく入館して、展示品を鑑賞して退館していた美術館であるが、今後は美術館の運営の苦労に思いをいたして、また今までと違った、美術鑑賞が出来そうです。」との意見が出て、大変に有益な講演であった。
7月20日(木)から9月6日(日)には新しい企画「絵の音を聴く −雨と風、鳥のさえずり、人の声― 」が始まる。ぜひ訪問して、講演を思い起こしてみたいものである。
                          以上
配布資料:
「講演資料」
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