2023年07月28日

EVFセミナー報告:「人生のファイナルステージをどう過ごすか」〜終活に於ける尊厳死の考察〜

演題:「人生のファイナルステージをどう過ごすか」 〜終活に於ける尊厳死の考察〜
講師:丹澤 太良 様
 公益財団法人日本尊厳死協会顧問 (前理事)
日時:2023年7月28日(金)14:30−16:00
場所:新宿NPO協働推進センター501会議室
聴講者数:56名

講師略歴:
・1947年生まれ(75歳)東京都出身
・日本航空株式会社を定年退職後、母の尊厳死を看取った経験から、協会理事に就任。
・関東甲信越支部長、中国地方支部長を歴任。現在は支部顧問。主にセミナーの講師を担当。
・趣味:音楽鑑賞 特にモーツァルト
・好きな言葉:「健やかに生きよう!安らかに逝こう!」


講演概要:

(1)通常のEVFセミナーとはフィールドの異なるテーマでしたが、個々人に「死」について見つめる機会を与えて下さった貴重な講演であったと思います。講演は、実践的な話で、頭でっかちでなく、大変理解しやすかったと思います。特に、「日本人の死生観」は深く考えるテーマであったと思いました。

(2)講師は講演概要として、「人は必ず最期を迎えます。とかく『縁起でもない』と避けられる人生終焉の話ですが、どんな最期を迎えたいのか、どんな治療を受けたいのか受けたくないのか。考えておくこと。家族と話し合っておくことが必要です。医学の進歩によって様々な医療が発達しましたが、「病気は治らないが命は止めない」つまり「延命治療」も発達しています。これが果たして我々の幸せにつながるのか?考えてみる時期に来ていると思います。」をあげられています。正しくその内容のご講演でした。


講演内容:

最初に、この数十年間の技術の進歩は、当時では信じられないくらいすごいものがある。
例えば、(1)当時ケイタイが一人一台になるとは。(2)50年前の飛行機のエンジンは4発、今は国際線でも2発。(3)55年前、100歳以上は153人、現在は91千人(そのうち、90%は女性)、(寝たきりの方が多い)、医学の発達、栄養、環境の改善により、不治の病が治るようになった(例:結核)。
*しかし、延命治療(病は治せないが、死なせない)の発達により、これを良しとするか否とするか、正解は「個人で考えよ」。そんな時代になったのでは。

石飛幸三先生の言葉の趣旨は、「医療は病を治すことが本来の仕事だが、これからは治らない患者をどうやって優しく見送っていくかも医者の仕事であるべき」

憲法13条(幸せの追求権):全ての国民は個人として尊重されるーー>人は皆、幸せを追求する権利があるーー>尊厳死運動=基本的人権運動。
*現実は、いわゆる「ポックリ死」は5%くらいで、残りの95%は「終末期」を迎える。せっかくの最期は「不幸なケースが多い」。
*尊厳死協会の立ち位置(目的)は、基本的人権運動。

協会の言う尊厳死とは、不治で末期に至った患者が、自分の意志で、尊厳を保ったまま最後を生き、迎える死です。「安楽死」、あるいは「医師による自殺ほう助」とは、基本的に異なる。

尊厳死は、英語の「Death with Dignity」から来ている。
*「尊厳」が大げさだとして、同義語として「平穏死」「満足死」を使う先生もいらっしゃる。
*他に、「自然死」「自立死」も使われるが・・・。
*しかし、これらの言葉と、「安楽死」とは、全く異なる。
*一方では、日本以外の国、例えば、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、スイス、USA(10州)、カナダ、等では、安楽死や自殺ほう助も適法とされる場合もある。

尊厳死と安楽死は違うの?:
*「安楽死」は、「死」を与える行為であり、日本では違法です。
*「尊厳死」は、緩和医療によってQOL(Quality of Life)を大切にし、自然に任せる。自然死に近い。

安楽死・延命治療・尊厳死:尊厳死は、自然に任せる=自然死。但し、緩和ケアは必要。

緩和ケアとは?:WHOの定義があり、具体的には、
*痛み・苦しみからの解放、
*死を自然の過程と認め、早めない、引き延ばさない。
*死を迎えるまでのQOL(Quality of Life)向上を支える。(QOL維持には、多趣味の方が望ましい)
*患者及び家族を支える(死後のグリーフケアを含む)。(ホスピスでは患者50%、家族50%のケア)
*早い段階からの適用。(緩和ケアに入る前からスタート。例えば、抗がん剤投与開始と同時に)

尊厳死を阻むもの(尊厳死の抵抗勢力):
1.医療の問題:医師の倫理として「延命以上主義」を言う医師もまだいる。
2.家族の問題:患者の近くにいる家続と遠方の家族(善意のエゴ)の意見の不一致。医師が訴えられる可能性もある。米国でも同様の問題があり、「A Daughter in California」に気を付けろ。
3.法率上の問題:医師が訴追されるリスクがある。
4.社会制度の問題:病院経営、本人(患者)の年金が便り。
5.日本人の死生観の欠如:死を語りたがらない、死の話を忌み嫌う。

ではどうすればいいの?:絶対はないが、思い描いておく(デザインしておく)ことが必要。

リビングウィルの勧め:尊厳死協会は、リビングウィルを啓発しています。
*入院時にリビングウィルの記入を求める病院が多くなりました。
*終活ノートにリビングウィルの記入欄があります。

リビングウィルとは、自分の終末期の過ごし方を決めておくこと。
*意思決定能力のあるうちに自分の終末期医療の内容の希望を書いておく。
*単なる延命治療を事前に拒否する意図で行われる場合が多い。一方、少ないが、徹底して治療を希望する人もいる。

尊厳死協会のLW:(1)延命治療は希望しません。(2)但し、緩和ケアは医療用麻薬などの使用を含めて充分に行って下さい。(3)以上の2点を私の関係者は繰り返し話し合い、私の希望を叶えてください。

ACP(Advance Care Planning)とは:日本医師会「終末期医療 ACPから考える」
*将来の医療及びケアについて、医療・ケアチームも含め関係者で、繰り返し話し合い、患者の意思決定を支援するプロセスのことです。

人生会議とは:厚生労働省ホームページより。
*人生会議とは、厚労省が公募して決めたACPの愛称です。
*厚労省は、スタートして直ぐにコロナがあり、本格的な活動はこれからです。
*ともかく、「関係者で会議をしましょう」が本旨。
*Planningですから、書き直せる。

ACP「人生会議」のまとめ:日本医師会ホームページより。
*会議を、患者が意思を明らかにできるときから、繰り返し行い、その意思を共有することが重要。
*患者の意思を確認できなくなったときにも、それまでのACPにより患者の意思の推測が可能に。
*かかりつけ医を中心に多職種が協働し、地域で支えるという視点が重要。
*医者が患者に「ACPやっていますか?」と聞く時代になっている。
本日に配布した当協会の会報の中、後方に、「私の希望表明書」が入っています。

死期が来たのを感じて、「ありがとう・・・」:ああ、いったい私はどこで「ありがとう」を言えばいいのか。科学と神の間でウロウロするほうはたまらない。
*生きるのもたいへんだが、今は死ぬのもタイヘンなのである。

「ああ 面白かった と言って 死にたい」:佐藤愛子さん。

元気に生まれて楽しく生きる/泣いて生まれて 笑って逝きたい。//


質疑応答

Q:日本人の死生観の欠如について?
A:世界を全て知っているわけではないが、欧州でも死を語る機会が少なかったが、最近は「Death Cafe」と称する「死」を気軽に語る会がある。特に日本人が「死を語らない」のは、(1)仏教の関係かもしれないが・・・?(2)第二次世界大戦の反省と経験から、特にマスコミが語りたがらない、(3)子供への「死についての教育の不足」が大きいのではないだろうか。。

Q:Ending NoteとLWについて?
A:遺言書は財産の問題があり、LWと異なり、皆と情報を共有する性質のものではない。LWは、終末期対策であり、遺言書は死後への対策。遺言書は、法律で担保されており、LWは働きかけてはいるが未法制化。

Q:医者の訴訟リスクについて?
A:尊厳死法案(一般に言われている法案名です)は、(1)患者の意思の尊重(2)医師の免責、で法案の中身はできているが、超党派の議員立法でもあり、なかなか法制化されないのが現状。

Q:尊厳死を進めるには合意が必要だが、実際には、会議の設定が難しいのでは?
A:「人生会議」をやっている人は、まだ少ない。会議の形は問わない、家族が共有していることが重要。

Q:妻の友人が乳がんになり、本格的な治療をせず、結局悪化し、早死に。「ちゃんと治療をしていれば・・・」と周りの人は、言うけれど・・・?
A:尊厳死の考え方では、(1)自分のデザインする考え方に従った、(2)治療して、効くかどうかは、誰もわからない、(3)患者本人の意思を優先すべき。

文責:三嶋 明


講演資料:人生のファイナルステージをどうすごすか

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2023年06月23日

EVFセミナー報告:「地熱発電〜その課題と展望〜」

演題:「地熱発電〜その課題と展望〜」
講師:當舎 利行様
 JOGMEC地熱技術部主任研究員(東京海洋大学海洋電子機械工学部門 博士研究員)   
聴講者数:50名
講師紹介:
・1954年東京都生まれ
・1984年東京大学大学院理学系研究科地球物理専攻終了 理学博士
・1985年通商産業省工業技術院地質調査所地殻熱部 入所
(工業技術院サンシャイン計画推進本部併任、ニュージーランド在外研究、NEDO地熱開発センター出向など)
・2002年産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門
・2013年JOGMEC地熱部
・2015年熊本大学大学院先導機構
・2019年現職

講演概要

<はじめに>
・日本列島は環太平洋火山帯に位置する世界有数の火山帯国。地熱発電とは、火山の下にあるマグマから伝わる熱で形成された地熱貯留層(高温の熱水・蒸気溜り)に向けた井戸から噴出する蒸気でタービンを回す発電。
・有限の化石資源を燃焼させタービンを回す火力発電とは異なり自然の熱を利用するため、資源は永続的に利用可能でCO2の排出が少ないことから再生可能エネルギーと位置付けられている。
・また天候に左右される太陽光発電・風力発電の設備利用率は、太陽光(約12%)・風力(約20%)であるが、地熱発電は設備利用率(約70%)と一年を通して安定的な電力供給ができる。
・日本の地熱資源量は2347万kWで、アメリカ(3900万kW)、インドネシア(2700万kW)に続く世界第3位、国産資源の有効活用・安定したエネルギー供給源として益々重要性を増している。

1.地熱資源量の推定

・太陽光、風力、水力といった再生可能エネルギーの資源量は直接計測が可能だが、地熱は地下資源のため直接計測ができず資源量を推定するしかない。
・資源量推定の方法として容積法・シミュレーション法の二つがある。地熱発電所は、地表調査→地熱探査・評価→建設→操業の手順を経て運転開始となるが、全国規模で地熱資源量を探査・評価する場合は容積法を用い、実際に発電所の建設にとりかかる場合には、地熱貯留層の構造をモデル化したシミュレーション法を用いて、熱水の生産量・還元量を推測する。
・容積法は、@全国を等面積(1km mesh)で分割、A温泉ないしは温度が測定されている坑井を抽出、Bその温度データを元にして地下の温度分布をAI法(活動度指数)により推定、C資源を算定する温度(例えば150℃)を決める(これが、貯留層の上面になる)、D貯留層の下限は、重力探査より決める(重力基盤深度)、の手順で資源量を推定。
・容積法は、今有る地下の貯留層の温度と、そこから抽出される熱量を算定しているもので、資源量は2347万kW相当と推定されているが、そこには再生可能性の概念は入っていない。
・エネルギー基本計画(6次)における地熱発電の見通しは、電源構成比率1%、150万kWとなっているが、直近の導入量は54万kW(約4割)に過ぎない。FIT認定済みは5万kWでほぼ導入確実であり、調査・開発中が31万kW。残る60万kWは国立公園などでの開発が必要となる。
・国立公園に指定されている火山地域は、特別保護地区・第1種〜第3種特別地域の指定があり、地熱資源のポテンシャルの高い場所は特別保護地区・第1種特別地域に重なっている。したがって全国の推定資源量の内、半分程度は開発が難しい現状にある。

2.地熱発電の抱える課題と現状の対策

・1000kW以上の大規模地熱発電設備の発電量は減衰傾向にある。1000kW以下の小規模発電設備はFITの効果で、発電量は2014年度から増加傾向にあったが、2018年度をピークに大規模設備と同様に減衰傾向にある。
・減衰傾向の理由は、大規模設備においては、@熱水貯留層の減衰、Aスケールなどによる熱水生産・還元障害、B新規開発地点への地元理解や公園などの規則により新設が難しい、C開発までの長いリードタイム(10年以上)、D電力網への接続にかかるハードル、の5点、小規模設備においては、@小規模バイナリー発電機メーカーの撤退、Aそれに伴い既存発電機の維持管理が困難となったこと、B温泉業界が事業主体となっているケースが多くサポート体制不備(バックとなる業界団体が不明)、の3点があげられる。
・これらの課題に対し、JOGMECでは、地表調査・坑井掘削調査などのリスクの高い初期調査にかかる助成事業や掘削・探査にかかる技術開発支援など、NEDOでは、発電システム・発電機器にかかる技術開発支援などを行っている。

3.地熱発電の将来

・上記の課題に加え、温泉事業者の理解促進のため熱水を用いない地熱資源の開発が必要であるが未だ研究段階にあること、バイナリー発電設備の普及は代替フロン等の2次媒体規制により限定的とならざるを得ないこと、労働環境規制により掘削事業が逼迫していることなどの問題もあり、現状において、2030年の目標達成(残り60万kW)は大きな目標である。
・地熱発電による水素の製造やメタネーションなどの幅広い活用方法の検討も必要であるが、電力として直接使う方が効率的でベストであり、そのためには電力網の充実(容量・接続地点)の喫緊の課題の解決が急務となっている。
・政府において、1997年に「新エネルギー」の範疇が定められたが、地熱資源はその範疇から外されてしまったことが、2000年代初頭から福島での原子力発電事故までの地熱発電開発停滞の原因の一つとなっている。その中でも、地熱業界ではJICAなどの国際支援を行っており、タービンメーカーのシェアの高さとともに世界からは期待されている。また、世界をリードする技術開発も行われている。国内の開発を促進するためには、トルコやケニアのような政府の関与は不可避と考えている。
・最後に、熱水を使わない新たな地熱資源の開発として、【超臨界地熱資源開発】【ESG技術(二酸化炭素利用)】【クローズサイクル地熱】について紹介(添付の講演資料参照)。


主な質疑応答

Q:大規模な地熱発電の開発には長期間を要し国立公園の問題もあるので、発電量を追求するのではなく、スイスや土湯温泉のように温水も含めた熱エネルギー資源として、地産地消の小規模バイナリー発電の開発を進めていく方が良いのでは?
A:地熱発電はエネルギー基本計画に位置付けられているため、政策的な観点から、政府の助成事業は1000kW以上の大規模発電が対象となっているが、温泉事業者等の理解促進の観点からは、小規模バイナリー発電の開発を進めていくのも重要と考えている。

Q:スイスのような開発が進まない理由は、温泉事業者の理解が得られないためか?
A:地熱発電の熱水貯留層は温泉源よりも深く、温泉源の熱水を直接使用しないので基本的には問題ないが、地下はどこで繋がっているかはっきりと判らないため、「地熱発電が大量の熱水を汲み上げることで温泉源が枯れるのでは」といった温泉事業者の懸念を中々払拭できない。モニタリングを行いながら開発を進めていくことが、重要と考える。

Q:熱水を使わない新たな地熱発電は再生可能エネルギーとして明確に位置付け可能か?これらの発電設備の実用化はいつ頃になるか?
A:現行の地熱発電は、貯留層の熱水の復元が見通せなければ再生可能性に疑問を生ずるが、中心温度は6000℃という地球の中での高深度の地熱を利用した新たな方式は、熱のみを用いる方法であり、熱の枯渇は地球の寿命から考えても再生可能性に問題はない。地上から地下高深度に水を注入し熱水として循環させるアイデアは1960年頃からあり、NEDOにおいて山形の肘折に実験設備も設けられていたが、新エネルギーの範疇から外れたことに起因し政府予算外となったため、2000年代に入り開発が中断してしまった。同様の熱のみを用いる地熱開発【ESG技術(二酸化炭素利用)】が行われているが実用化は2050年頃の見通し。

Q:松川発電所は操業開始から57年経ているが、発電量は落ちてるのか?寿命はどのくらいとみられるか?
A:貯留層の減衰により発電量は落ちている。地上設備は更新すれば寿命を伸ばすことが可能。水を注入することで貯留層を復元させることも試みられているが、必ずしも注入量がストレートに復元量に結びついてはおらず、また水を注入することで地震を誘発する懸念もあるため、更なる技術開発が必要。

Q:酸性流体による腐食、鉱物スケールの問題について、どのような対策を講じられているか?
A:地熱発電所によっては、酸性の熱水を利用せざるを得ないところがある。そのような地点では、酸性に強い鋼材に換えることで対応している。また、鉱物が沈殿して坑井や貯留層をふさぐスケールについては、酸性薬品注入による除去を行っているが、スケールをゼロにするなどの根本解決には至っていない。

文責:伊藤博通


講演資料:地熱発電〜その課題と展望〜
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2023年05月26日

EVFセミナー報告:「量子コンピュータ技術の現状と社会実装に向けた取り組み」〜期待が膨らむ未来の可能性と現存技術との融合〜

演題:「量子コンピュータ技術の現状と社会実装に向けた取り組み」
     〜期待が膨らむ未来の可能性と現存技術との融合〜
講師:小栗 伸重 様

     株式会社フィックスターズ 執行役員マーケティング部長 
     (一社)量子技術による新産業創出協議会 
     広報・アウトリーチセクション リーダー
聴講者数:62名
講師略歴:
・1990年代のインターネット黎明期より、コンテンツ制作・Webエンジニア・SE職に従事。シリコンバレーの拠点と連携し、ソフトウェア商品、クラウド事業の商品企画・新規事業立ち上げをグローバル市場で経験。
・2021年7月〜現職にて、マーケティング・広報・アライアンスを担当。
・2022年12月〜量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)の広報・アウトリーチ部門のリーダーに就任。

講演概要

・従来のコンピュータの仕組み

従来型のコンピュータは、入力された情報が中央処理装置(CPU)によってデジタル回路で0か1の2択、いわば2進法で随時処理・計算されている。計算すべきパターン数が膨大となる場合でも総当たりですべてを計算しなくては正しい解は得られない。これに対して量子コンピュータは0と1両方の状態を同時に「重ね合わせ」状態で表現できるため、特定の条件の計算においては、膨大な情報処理を高速で行える可能性を持つと言われている。
量子コンピュータの活用が期待されている分野のひとつには、膨大な選択肢から制約条件を満たしベストな選択肢を探索する組合せ最適化問題がある。

・量子技術を取り巻く市場環境と期待

量子コンピュータは膨大な量のデータを高速で処理できるため、例えば通信経路の暗号化に使われている暗号化技術の耐性・強度が落ちるなど、現行の社会インフラにも大きな影響を与える可能性を秘めている。量子コンピュータ、量子通信等の変化により今後の50年、新たな量子インターネットの時代が到来するとも言える。最近ではIBM、Microsoft、Amazon、Googleも量子コンピュータ開発のロードマップを発表、日本でも理化学研究所が追従する動きが発表されるなど、研究開発活動が加速しつつある。

・産業界の取り組み

日本では2021年に量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)が結成され、産業創出に必要な量子技術および関連技術を組み合わせたハイブリッドな環境も含めて、幅広いテーマで社会実装や産業創出の視点で議論されている。デジタル回路もしくは量子回路を使って組合わせ最適化問題を専門的に扱うイジング方式や量子ゲート方式があり、量子ゲート方式は技術的なハードルの解消に向けて複数の手法での研究がされている段階で、本格的な実用にはしばらく時間を要する状況。

・事業会社の取り組み

本日の講演者の所属する株式会社フィックスターズでは、本日のテーマである量子コンピュータの登場より前から、大量のデータを処理する際に求められる高速化のニーズに応えるサービスを提供することにより、自動運転・AI(人工知能)・並列コンピューティング技術領域に取り組みながら、お客様目線で量子コンピューティング環境をそのアクセラレータ(高速処理のツール)のひとつと位置づけ、サービス事業を展開している。

量子コンピュータの基本的な原理の解説に加え、実社会への影響や活用の可能性を分かりやすく具体的にご紹介いただきました。


Q&A

Q1:量子コンピュータではゼロイチの混ざった状態で処理をすると言うことだが、答えもゼロイチで混ざっていていろいろな答えが出てきても良しとすると言うことか。
A1:量子コンピュータは、例えるならば1の確率が30%、0の確率が70%という流動的な状態のまま同時に探索・検索して、最終的には、一つの答えをあぶりだすように確定するイメージ。現行のコンピュータの高速化の根幹となる半導体の集積度も限界が見えてきていると言われ、この限界を打破するための新たな手法としても注目されている。

Q2:量子コンピュータは、まだ技術が確立していないのに実用化できているとはどういうことか。
A2:研究用途で、稼働が始まった量子コンピュータを実験的に活用して用途などを探索するという実用段階もある。また従来のデジタル回路を用いた疑似量子コンピュータ言われる技術はビジネスの現場ですでに活用されている。

Q3:量子コンピュータへの投資という点では、政府による適切な予算の配分が出来ているのか。政府主導では間違った予算配分がなされるのでは無いか。
また量子コンピュータの将来的な活用の仕方としては、センター型の量子コンピュータをリモート端末で各人が活用となるのではないか。
A3:産業界の代表としてのQ-STARでは、政府とは定期的に議論、情報交換をしており、活動重点なども含めて産業界の要望を適切に提言するなど今後も貢献していきたい。
将来的な活用の仕方については、量子コンピュータは、まだ大規模なスペースが必要な機材で構成されており、費用面も含めてシステムを個人で持てる段階には無いので、量子コンピュータをクラウド型で用意しておいて、個々のユーザーがネットワーク越しにサービスを利用する形態になると思われます。

Q4:誤り耐性技術の現況がよく分からない。
A4:誤り耐性の手法自体がまだ研究・開発段階で、複数の方式がこれからも研究されていく。実用レベルの計算規模に耐え得るようになるまでには、まだ多くの時間を要すると言われている。

Q5:AIにせよ量子コンピュータにせよ所詮人間が作ったモノ。暴走するはずが無いと思いたい。
A5:最近のAIは個人が処理できる以上の膨大なデータを学習している。コンピュータ自身が自己学習していく時代に踏み出すと危険性は否めない。昨今の生成型のAIの加速度的な進化に警鐘を発している専門家もいるほどで、残念ながら楽観視は出来ない。コンピュータはツールのひとつなのでうまく技術開発と社会実装のバランスをコントロールしながら開発していくことが重要になっている。

Q6:(「2001年宇宙の旅」の)ハルみたいなことができることになっていくのか
A6:同じようなテーマでバイオハザードという映画で印象に残るシーンがあった。危険なウィルスが発生し建物に閉じ込められた人間を死滅させよという指示を出したコンピュータと主人公との戦いが序盤にあったが、全体最適をとるならば、コンピュータの判断が正しかったのかもしれない。技術の活用法において、倫理、良識が今後問われていく。

Q7:量子超越性についてGoogleが達成したように見られますが、内容(計算の内容、ハードの能力)など不明のため、達成したとは言えないのでは?
A7:固有の企業の発表、特定のサービス商品の評価に対する質問ですので、コメントすることが出来ないため、回答自体を控えさせていただきます。

Q8:古典コンピュータで模擬量子コンピュータの計算は可能のことだが、後者はノイズも無く(?)、量子コンピュータに比べると実力(速度)はどの位なのでしょうか?なお講演のビデオは楽しく拝見させていただきました。
A8:疑似量子コンピュータは、現在使われている技術である、デジタル回路や半導体を用いて演算を行っているため、誤り訂正機能も働きます。速度の比較は、条件によって結果が異なり、また量子コンピュータ自体が研究開発段階で、発展途上の技術であるため、単純比較は出来ません。ユースケースごとの適性や、両方の技術を組み合わせる手法の有効性も含めて研究開発が進められています。

Q9:将来的に人間とChatGPTどっちが賢いですか。
A9:固有の企業の発表、特定のサービス商品の評価に対する質問ですので、コメントすることが出来ないため、回答自体を控えさせていただきます。

Q10:最適化を対象とするという事でしたが最適化しても目標に到達しない場合もあります。身近な例ですと、電気自動車の航続距離は電池容量が定まってしまえば、、機器やソフトウエアの効率化やトレードオフを最適化しても改善はするものの限界があります。このような認識でよろしいでしょうか? その場合は、やはり人間が適用する対象を適切に選択する余地があると考えてよろしいでしょうか? そう思いたいというのもありますが。
A10:ご理解の通り、「最適化」の定義やゴールは、用途や目的に応じて、最終的には人間の判断が必要です。トレードオフとなる要素を条件項目として定義して、利用者のビジネス目標や性能指標に照らして、最適解を判断するプロセスとなります。

Q11:産官学のコンソーシアムを迅速に立ち上げられたと聞きました。そのコツはどこにありますか。今日本は温暖化対応で後れをとっていると思いますが、競争よりも協調に軸足を移す必要がありコンソーシアムはその解決手段の一つではないかと考えていますので。
A11:量子技術の様に、新市場を創造しながら新たなチャレンジが求められる市場環境では「協調」や「共創」の姿勢が大切だと考えています。
協業した方が解決が速い領域や議論の場では、まずは手を取り合い、新産業として育成していく道筋を共に考え抜く姿勢が必要です。異なる知見を持つ組織が集まる、協議会の場はその活動を具体化する手段の一つだと考えます。

文責:桑原 敏行


講演資料:「量子コンピュータ技術の現状と社会実装に向けた取り組み」
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2023年04月28日

EVFセミナー報告:脱炭素社会における太陽光発電の真の役割とポテンシャル

演題:脱炭素社会における太陽光発電の真の役割とポテンシャル
講師:増川武昭様
 太陽光発電協会(JPEA)事務局長
聴講者数:55名

[講師紹介]

1985年 昭和シェル石油株式会社 入社
1985年から1998年 石油開発部門にて石油ガスの探鉱・開発、LNGプロジェクト等に携わる
2002年から分散電源事業課長並びに電力販売課長として電力ビジネスに携わる
2013年ソーラーフロンティア株式会社に出向、2017年6月 太陽光発電協会 事務局長に就任
2021年出光興産株式会社 電力・再エネ事業部、2023年1月より 現職

[講演概要]

太陽光発電に関してポテンシャルと最新状況を詳細に説明し太陽光発電の意義や課題を明確に示した講演で、極めて有用であった。下記が要点である。

1.太陽光発電は、3U(1.Un-economical (高い)、2.Un-stable(不安定)、3.Useless(役に立たない))と言われ悪いイメージを持たれがちだが、そのポテンシャルと実態は違う。

2.太陽光のポテンシャルは、10m2(車庫の屋根相当)の太陽光発電パネル(10年前のものであっても)があれば、年間(天候や稼働時間を考えて)1000kWh(=3600MJ)の発電ができる。それで小型EV(10・15モードで燃費0.4MJ/Km)を動かせば、9000kmの走行が可能。

3.太陽エネルギーは地球に降り注ぐ膨大なもので、数値的には最近の地球全体の年間エネルギー消費量をわずか1〜2時間の太陽照射でまかなえるほどであり、そして枯渇する心配はない。

4.世界の太陽光発電は2008年以降急速に拡大していて、2021年の導入量は173.5GW((百万KW)で、大きな原子力発電所の約173所相当)で2008年の約27倍。世界の累計導入量は2021年時点で945GW。この中では中国が308GWと最大。日本は78GWで世界第3位。全世界の電力需要の6%位を賄うまで成長したが、まだ発展途上。この急速拡大の理由は価格が凄く安くなっている(2010年からの10年間で、パネルは93%低下、建設コストが81%低下)ことである。

5.このような状況から、国際エネルギー機関(IEA)によれば太陽光発電は2027年には累計導入量が2400GWと予想され、石炭火力を抜いて発電分野別の第1位になると予想されている。

6.2050年にカーボンニュートラル(CN)という目標は日本のエネルギー政策にとってゲームチェンジャーで、CNの実現には供給側も需要側も抜本的に変革していく必要があるが、進んでいない。CN達成に向けた2030年の太陽光の導入量として国は約104〜118GWという野心的目標を掲げている。目標達成には2020年末の倍程度に増やす必要があるが、そのためには、FIT(電力固定価格買取制度)に支えられた従来のモデルから、需要家に長期間買い取ってもらうPPAモデル等への転換による自立導入を増やす必要がある。FITの買取価格が導入時の40円から今は10円程度と市場価格に近付き、太陽光による自家消費メリットがコストを上回っていることもあり、東京都や川崎市による設置義務化の動きがある。

7.課題としては「コスト競争力の向上」(太陽電池モジュール変換効率の向上等)、「価値創出」(環境価値とかカーボンオフセットの価値。日本ではまだ価値が低い)、「電力市場への統合」(FITに頼らず電力市場で競争できるように)、「系統制約の克服」(系統の容量が足りず接続できない、或いは接続できても、太陽光の電力が余剰となる時間に出力が抑制されるといった課題の解決;セクターカップリング(電力供給、熱利用、運輸の3つのセクターで高効率化と脱炭素化を一体的に推進)によるシナジー効果を出すこと)、「長期安定稼働」(FIT終了後も継続運転することによる貢献)、「地域との共生&適地確保」(地域に歓迎されるものにする)がある。

8.太陽光電力のメリットは、「輸入燃料に依存せず燃料価格に影響されない(卸電力スポット価格が高騰し10円を超えるような場合はコスト競争力が高まる)」、「太陽光の発電量が多い時間帯には、燃料価格の高い火力電源の稼働を大きく抑えることで電力コストを抑制できる(九州等では太陽光発電が余った時はスポット市場の約定価格が0円/KWhになる)」である。
9.2050年に温暖化ガス排出を80%削減するためには、太陽光発電の導入量を300GWまで引き上げる必要がある。それをCNまで持っていくには300GW以上の導入が必要で、同時に蓄電池・EV等による電力貯蔵の最大化も必要となる。

[質疑応答]

(1)質問:今日の太陽光発電関連の話は資源エネルギー庁が狭い範囲での考えに沿ってまとめられたものだと思う。2050年には核融合が実用化されるとアメリカやイギリスが言っているし、太陽光発電は見た目が悪くて私は嫌いということもあって、太陽光は核融合に負けると思うので、両者の比較を教えて下さい。

回答:核融合もすごく有望な技術と思いますし、それをちゃんとやらなければいけないと思います。ただ、今の技術で、例えば2035年までに何が出来るかと考えた時に、現実的には太陽光と風力を優先すべきと思います。2050年にCO2をゼロにすることも大事ですが、それまでもCO2を出し続けることを考えると、地球温暖化防止の観点ではそれまでの徹底した対策(累積のCO2排出量を減らすこと)が大事で、先ずは今見えている技術に注力して出来るだけ早い段階でCO2排出を減らすことが必要と考えます。

(2)質問:太陽光電力に合った需要を作らなければいけない、余った電気をどう使うかと言う問題に対して、その場で大気中のCO2を回収する(DAC:Direct Air Capture)ことに余った電気を自己消費するような技術開発を進めて欲しい。

回答:それ(DAC)も重要なソリューションの一つで、まだ技術開発途上です。太陽光の余剰電力で直接CO2を吸収しようという話(DAC)は国でも検討されています。

(3)質問:国富の流出2.4兆円止められている、CO2削減の貢献が2.7兆円と聞きました。それは大変な額なので、早く手に入れたいと思います。太陽光で発電した時の利益は我々に還元されているのですか?それが見えたらみんなのモチベーションが全然変わって来ると思います。/ 我々の電気代がどんどん下がって来るようにならないと意味がないのですが?

回答:今でも効果が出ています。仮に太陽光がなかりせば、今の電力需要の8%は太陽光で賄っているのに対してLNGか石炭で賄わなければいけなかった訳で、燃料価格高騰時には電気料金が上がるのを抑えているのは間違いないと思います。将来火力でCO2代を払わなければいけなくなった時はそれを抑えると考えます。
(後注(報告者追記・講師確認修正):今は設備代を分割して(FITで高く買い取られた分は再エネ賦課金として)電気代に入れて支払っているので、若干高くなっている傾向にある。(FIT買取価格が10円以下に下がった新規の)太陽光が主力になり、(買取価格が高い時代の太陽光の買取期間(住宅用10年、事業用20年)が終了し)設備の償却が終わるか、メンテナンス費が下がった時に、庶民の懐に効いてくる。今は(燃料価格高騰時に)電気代が大きく高くなるのを抑えているというのが正しいと思われる。)

(4)質問:私は松本に住んでいて、私のマンションの屋上に太陽光パネルをびっしり貼っています。各戸が6枚ほどを所有していて、年間通すと電気代ほぼ全額賄えています。ということで私はソーラーパネル支持派で、もっと増えればいいなと思っています。心配は、増やした場合にソーラーパネルを作っているのは中国のメーカーが殆どであって、その中国に利することになるのではないか?ということです。それに対抗できるような日本の革新的な技術の開発は見られないのでしょうか?

回答:日本で流通している太陽電池パネルの9割以上は中国を含む外国製です。それなら化石燃料と同じではないかと思われがちですが、違います。何故ならば12円/kWhと言われる太陽光の電力コストの中でパネルの占める割合はせいぜい2割です。それ以外は国内での建設費等です。燃料がゼロということも大きく、日本の国益には反していないと考えます。安いものを輸入できているから安く発電できる、中国が沢山作っているから日本も安く買うことができ、世界に広まっている。太陽光がなかりせば、(中国や世界各国で)LNGや石炭をもっと買わなければいけなくなって、電気代がもっと高騰する、エネルギーの争奪戦になると考えると、それを緩和していると思う。もう一つの点はLNGや石油は備蓄期間が限られているが、太陽光は(輸入し設置すれば20年以上は発電できるので)それを考えなくても良いことがあって、それは意義があると思います。

(5)質問:東京でマンション住まいの者ですが、その理事会で議題になったのですが、電気代がえらく上がっていてコストダウンの方法がないかということでマンションの屋根や駐車場に屋根を作ってその屋根に太陽光パネルを置くことも候補に上がったのですが、太陽光の反射で害が出るということでボツになったのですが、その辺についてアドバイスはありますか?

回答:反射は設置する時に考慮することが重要です。一方、反射してしまうと発電効率が落ちるので(パネルは設計上)反射を抑えるようにしていますし、(設置方法で)許容範囲に収まることも多いのでケースバイケースで検討して下さい。角度を変えることも考えられますし、垂直に設置しているケースもあります。反射して害があるからと言って太陽光発電を止めるというのはナンセンスというご意見はその通りで、配慮は必要だけど止める絶対的な理由にはならない。

(6)質問:国によって国状が違うので最適ミックスが変わると思いますが、例えば欧州の先進国、ドイツ等と比べてみて我が国では太陽光発電の割合がどういう位置であるのが良いのか、太陽光と水力と風力と再生可能エネルギーの割合は変わるんじゃないかと思いますが、如何ですか?

回答:欧州は風況が良いので、ドイツでも風力発電が多い。とは言え太陽光も相当増えています。オランダは日射があまりない所ですが、そこでも増えています。国が支援しているということもあるし、ウクライナ危機でガスでセントラルヒーティングをしてるのではえらく高くなってしまったこともあって、家に太陽電池をできるだけ付けろとなっています。ヒートポンプ給湯器も含めてそれが防衛策になっています。家では風力発電を採用するのが無理なのでということもあります。

(7)質問:私が30年近く前の1995年に家を建てようと思った時に屋上に全部太陽光パネルを付けようと思いました。建設会社も電力会社もそんなことやったことがないと言って諦めたことがありました。その後どうなっているのかを含め、今日の話を興味深く聞かせて頂きました。質問は、ここ10年位、八ヶ岳山麓に行った時にその周辺のテニスコートがどんどんソーラー畑になっていくという経験をしました。ところがここ1〜2年その動きが止まったような気がします。前に質問した方は(そのように景色を台無しにして)面白くないと仰っていましたが、私は単にその理由の知りたいのですが、如何ですか?

回答:止まってはいないのですが、大部スローダウンしています。理由としては(FITの)買い取り価格がずっと下がっていることがあります。昔は凄く儲かるビジネスだったのですが、今はそんなに儲からなくなっています。不動産投資のように行かなくなっていますし、規律も厳しくなっている(FITの申請に一杯チェックされる、事業者として覚悟を持ってないとできない)からだと思います。

(8)質問:九州電力の太陽光発電を捨てているほどのことは他の電力会社はできているのですか。

回答:はい、九州電力管内ほど多くは発生していませんが、北海道、東北、北陸、中国、四国、沖縄、そして最近では中部電力でも出力抑制が発生しています。現在まで発生していないのは東京と関西の大消費地のみです。解消には、1)地域間の連系線を増強し、余っている地域から余っていない地域に送電するか、 2)需要側の行動変容(昼の時間帯により電気を使う(家庭部門、業務部門に加え電気炉等を活用し)と設備投資(ヒートポンプ給湯器やEV、電気炉等の導入)を加速し、余剰電力を吸収する。3)将来的には、蓄電池の大量導入や水素製造、DACの活用が期待されます。

(9)質問:ご見識では脱炭素社会に向けた日本の自動車メーカーの取り組みをどう俯瞰されますか。

回答:海外(欧米、中国)のメーカーに比べると、EVへのシフトに関しては出遅れ感を否めません。今までの日本のメーカーの強みを考えれば当然とは思いますが。太陽光等の再エネのポテンシャルをご理解頂き、最大限活用することをもっと真剣に考えて頂ければ幸いです。

文責:浜田英外


講演資料:脱炭素社会における太陽光発電の真の役割とポテンシャル
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2023年03月23日

EVFセミナー報告:自治体が喜ぶ「自治体負担ゼロの水力発電」

演題:自治体が喜ぶ「自治体負担ゼロの水力発電」
講師:松浦 哲哉 様
 株式会社DK-Power 代表取締役
聴講者数:47名

講師紹介:
・1991年ダイキン工業入社。
・以来、研究畑を歩み、近年はエネルギー関連の研究開発に従事。
・独自技術によるクリーンエネルギーの普及を目指し、株式会社DK-Power を設立。
・地下に眠る再生可能エネルギーを掘り起こし、地球環境と地域経済の活性化 に貢献。

講演概要

・従来ダイキンは空調機の省エネに努めてきたが、2050年のカーボンニュートラルを達成するには省エネだけでは限界があるため、そのコア技術であるモータ・インバータ技術を活用したマイクロ水力発電システムを開発した。創エネ技術であるこの発電システムの普及のためにDK-Power社を設立し、再生可能エネルギー事業を通してCO2排出削減に取り組んでいる。

・この発電システムを上水道施設の浄水場⇒配水池の間に設置することにより、今まで捨てていた圧力差(水の位置のエネルギー)を活用し電気に変換する。上水道施設では当然ゴミは除去されており、また近隣との水利権の問題などは無いため、従来の水力発電には有った大きな問題がクリアーできる。

・マイクロ水力発電システムには最大出力が27kWと75kWの2機種があり、有効落差と流量条件により複数の水車が選定できるようになっている。マイクロ水力発電システムは、浄水場⇒排水池の間に設置されている流量調整弁をバイパスする流路を新たに作り、この流路に上水を流す。発電システムに異常が発生したときには、元々の流量調整弁を復活させる。

・このマイクロ水力発電システムは、国の固定価格買取り制度(FIT)で「〜200kW、34円/kWh」の領域に該当するため比較的買取り価格は高く設定されており、かつ競合他社がいない。このため、従来は難しかった100kW以下での投資回収を可能にした。

・自治体の保有する水道施設に対し、DK-Power社が初期費用およびランニングコストを負担して発電設備を導入するため自治体の費用負担がないビジネスモデルを実現できる。また売電により得られる利益の一部を自治体に収益還元するため自治体は、費用負担なしに環境貢献できるので、自治体には大変喜んでもらえている。一方、DK-Power社はマイクロ水力発電所竣工と同時にリース会社へ売却してリースバックすることにより費用の平準化が図れるとともに、月々の売電によりキャッシュが枯渇することはない。

・DK-Power社設立後、2023年3月現在まで44ヶ所が稼働、契約済みを含めると51ヶ所にまで拡がっており、2025年度までに100ヶ所への導入を目指している。また発電量も順調に増加し、2023年1月実績で840,000kWh/月、住宅で3,230軒分相当の電力を生んでいる。

・今後は脱FITを目指して、従来のFIT売電や場内消費型のオンサイト型電力販売契約事業から、電力小売り事業者を通じて別需要地に販売するオフサイト型の電力販売事業を目指して事業を拡大して行きたい。

・日本では発電のための燃料費が年間数兆円海外に流出している。このお金を再生エネルギーを活用しやすい地方に還流し、地方を活性化して国土の強靭化を図り、日本の活力を生み出すのが最終目的である。

Q&A:

Q1:このシステムの基本的使用エネルギーは水の落差だが、末端の家庭などへの水道ではポンプで加圧して流しているのか?
A1:加圧している場合もあるが、基本的には山から落としている圧力でありこれが理想。ポンプ加圧の場合はこのシステムは適用できないが、余剰圧がある場合はこのシステムをあてはめられる。基本は余剰圧力の活用である。

Q2:モーターを含めたシステムは相当長持ちしそうだが、どのくらい寿命があるか?
A2:電気的な部分は10年程度で部品を交換するが、システムとしては40〜50年は持つ。100年持つ事例もある。

Q3:講演資料によると太陽光発電の稼働率は13%程度とあるが、これは夜間の発電がないからか?
A:その通り。夜間と雨の日のせい。     

Q4:このシステムで発電した電気は地産地消なのか?
A4:その通り。近くの需要で使われる。しかし系統に流す場合はその分はどこで使われるか分からない。

Q5:超高層ビルでの水道の落差を発電に利用することは考えられないか?
A5:その話は沢山来るがこのシステムで必要な250㎥/hourの流量が得られない。もっと小さい100㎥/hourのシステムだと採算性が厳しくビジネスにならない。苦戦中だが、ビジネスに乗せられるやり方がひらめけば進められる。

Q6:このシステムは非常に汎用性があるので、水道システムが整っていれば必ず使えると考えると、発展途上国や無電化国で使えないか?
A6:将来的には夢として当発電システムや空調機と共にそのような国に持って行きたい。自分たちの電源としてそのまま使ってくれれば良いが、系統への繋ぐという話になるとつなぎの部分が日本と違うので新たな開発が必要とな
り、そこのところが難しい。海外からの問い合わせはかなり来ているが、無電化国に行けるかは分からない。東南アジアならいけるかもしれない。

Q7:奈良県の市長に知り合いがいるが今日のような話をPRするにはどうしたらよいか?
A7:奈良県からは結構話はある。大和郡山市の様に、県水から水を買っている市であれば出来ないことはない。
文責:小栗武治
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2023年02月15日

EVF総会記念セミナー報告:見えてきた世界の新常態〜コロナ禍・ウクライナ戦争・米中対立から見えてきた日本の姿勢〜

演題:「見えてきた世界の新常態」〜コロナ禍・ウクライナ戦争・米中対立から見えてきた日本の姿勢〜
講師:林 良造 様

• キャノン・グローバル戦略研究所 理事・特別顧問
• 機械振興協会経済研究所長
• 東京大学公共政策大学院客員教授
• 武蔵野大学客員教授前国際総合研究所長
• 元EVF顧問
聴講者数:60名


講演概要

2022年を振り返ると、コロナ騒ぎの間に世界情勢が激変していたことに驚かされる。第一がロシアによるウクライナ侵攻である。国連常任理事国が国境線を超えて侵攻したことは、国連に代表される戦後の安全保障秩序を根本から揺るがした。またこれはヨーロッパのみならず世界のエネルギーバランスをくずし、相互依存を深めていた世界経済を大混乱に陥れた。

次に中国の急激な成長と太平洋への進出は、米国中心に出来上がっていた既存秩序に対する対抗軸を形成するところまできた。これはアジアにおける中華思想秩序の復活への動きのみならず、世界の現状変更を求める勢力を力づけることとなった。
その一つが過剰な防衛的領土拡大本能を持つロシアであり、ジハードによりイスラム教で世界をうめつくそうとするイスラム原理主義であった。このような、世界の安全保障環境や経済秩序に対する現状変更勢力の挑戦は次の10年間の基調を形作ると思われる。

第2次大戦後の安全保障秩序とその安定化の基本的考え方は、キッシンジャーの歴史観に従うとウェストファリア条約を原型とする米欧型の主権国家間の合意による安定であり、戦後米国が提供する国際公共財の上に築かれた「相互依存」の拡大であった。すなわち世界経済のグローバル化により世界は経済的に繁栄し、その繁栄を守ろうとする国家がまた安定をもたらすというものである。しかし「相互依存」を逆手に取ったロシアの行動はその大前提を崩し、その基本的考え方に修正を迫るものとなった。

その背景としてはかつては秩序の後ろ盾として圧倒的な地位を誇っていた米国およびG7の力が相対的に小さくなり、先進国のリーダーシップが大きく損なわたことがあげられる。他方戦後秩序は市場のグローバル化を最大限に利用した中国をはじめとする新興国の急成長をもたらし、米中の2大経済大国体制、G20体制をつくりだし、世界秩序に対する様々な考え方が表面化する基盤を作った。

その上に、中華秩序の復活・イスラム的秩序・ロシア的秩序という新たな秩序を求める動きが重なり、さらには様々な市場経済、様々な民主主義が並立するかの様相を呈するようになってきている。
もう一つの激変は、巨大な人口を持つ中国の経済的・軍事的・外交的急拡大が、経済力では米中の逆転がいわれるところまで進み、中国の「経済成長優先」モデルや「内政不干渉」の外交旗印は多くの開発成長を志向する途上国の共感を集めるところとなったことである。

米中のシステムには各々強み弱みがあり、最近のゼロコロナ政策の転換や経済に対する国家統制に表れる中国の不安定性と、市場を制御しつつ多数の市場参加者の知恵を終結させる米国の経済運営能力の比較からその逆転は簡単でないと思われるが、まだまだ予断は許されない。
このように、中国の台頭によって、米国が中心となってきた世界の秩序が揺らいできているが、基本的には米中双方の指導者にとって経済的繁栄はその権力維持の必須条件であり、その基盤を壊したくはないという「共通」の利害があることから破局的な混乱に陥ることは考えにくい。

世界経済はこの様な米中対立に加えて、エネルギー需給の急激な不安定化、金融引き締めに伴うスタグフレーションの危機が短期的経済運営を難しくし、長期的には国家にも企業にも単に自由貿易のメリットを追求するだけでなくそのリスクに対する備えが求められ成長を減速させることとなる。このような安全保障秩序・経済秩序の揺らぎの中で、インターネットの急速な普及とチャットGPTのようなAIその他のIT技術の急速な展開は巨大な機会と脅威をもたらし不安定性を拡大する要素となる。

世界が相互依存拡大による安定化から総合的抑止力に頼った秩序へと変化する中で、東アジアを含むアジア・太平洋では中国の軍事的・経済的台頭にもろに直面することとなっている。その中で日本にも地域の安定のために責任ある国家として抑止力の涵養が求められている。そこに総合的抑止力を強調する安保3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)の意味がある。

岸田政権はこのような安全保障環境の変化に対応するとともに、経済的にも待ったなしの課題に取り組むことが求められる。アベノミクスによる経済構造改革はglobalizationの中で立ち遅れた日本経済の立て直しに着手し成果もあげつつあったが、果実の均霑の面では全くの未完成に終わっている。また、コーポレートガバナンス改革、資本市場改革(貯蓄と投資のバランス)、労働市場改革(労働力の流動化)、各種規制緩和などで相当の進展はあったものの岩盤的部分は残されている。DX,GX新技術が世界経済の駆動力となりつつある現在、改革を加速することによってInnovationに転嫁できるかの正念場にきている。その上に少子高齢化の克服、財政規律の回復、格差是正問題に対応する必要がある。

一方政治・政策面では、統治の質、政治家の質、官僚の質、 政策の質等々の劣化が目立つようになった。そもそも日本の議院内閣制では政権交代が少なく政党間の国民を聴衆とした公開での政策論争の機会が限られており、政治家の政策立案能力が磨かれる機会が少ない。また安定的与党と官僚機構との濃密な依存関係が形成され、その緊張関係もあやふやになりがちである。さらに実質的な政策立案の情報と能力が圧倒的に官僚機構の中に集中し実質的な政策論争を行えるシンクタンクが育ってこなかった。
このような日本のガバナンスシステムにおけるチェックアンドバランスの弱さと独特ともいえる精緻なコンセンサス文化が、政策決定過程における政官財の既得権益の癒着構造を守り、結果として政策のダイナミズムを失わせてきた。

世界が高速で変化している現在、総合的抑止力の構築、短期長期の経済運営、新たな国際経済秩序の形成などの諸課題に、岸田・植田ラインが対応してゆけるかどうかが問われることとなる。
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Q$A:

Q1:アメリカの市場では、情報・意志の上下双方向への伝わり方を見ていると、今でも市場機能は健全に働いているとのお話であったが、中国はそうでない?中国では神の見えざる手は働かない?
A1:アメリカのつよさは、未だ市場の機能が生きていることであり、市場経済の力を汲み取り発展させる力がある。一方、中国にはこれがなく、中国の経済は硬直していると言える。中国の問題点は、習近平と現場の乖離が大きすぎ(中間の抵抗が大きく)、双方の考えが相互に伝わり難いこと。

Q2:インドでのプロジェクトにたずさわっているが、ROE追求と環境問題解決とは矛盾するところがあるように思う。中国とかインドではどうやればうまくいくだろうか?
A2:SDGsのような利益以外の価値をどう扱うかにどういった指標でうまく取り入れられるかによる。今、世界ではこれをどのように扱うのかについて多くの議論が重ねられている。アメリカなどで起こっているこのような展開をどう評価して取り入れるかであろう。

Q3:市場の動かし方の秘訣は?競争原理を使って伸びた企業が勝者になる。アメリカはこれを trial and error で育ててきた。日本の場合は終身雇用制によって市場が硬直した。世界からいい人が集まらない。
A3:確かに日本では若い世代の活躍が未だに難しい。これをどう修正し実効ある制度に出来るかが岸田さんの仕事でもある。

Q4:日本の低迷は事実であり、アベノミクスの失敗ではないか。日本は何に向けて努力を傾注すればいいのか?
A4:賃上げのないまま労働生産性もあがらなかった。勇気がなく新しいことに対する投資決心をしなかった。若い人が乗って来られる市場環境を作ることが課題ではないか。

文責:橋本 升


講演資料:見えてきた世界の新常態
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2023年01月26日

EVFセミナー報告:深海にも広がるプラスチック

演題:深海にも広がるプラスチック
講師:藤倉 克則様

JAMSTEC(国立研究開発法人・海洋研究開発機構・海洋生物環境影響研究センター長)

[聴講者数]:46名
[講師略歴]:
・東京水産大学(現 東京海洋大学)大学院修了、学術博士(水産学)。
・1988年 海洋科学技術センター(現 海洋研究開発機構)入所、チームリーダー、研究分野長などを経て2019年から海洋生物環境影響研究センター長。
・日本大学非常勤講師、東京海洋大学連携大学院客員教授、東北大学連携大学院客員教授、東海大学非常勤教員など歴任。
・専門は深海生物学。
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[講演概要]

・組織と活動の紹介

講師が今回のテーマに関心を持ったきっかけは、東北地方太平洋沖地震の津波で大量のプラスチック(以下 字数制約もあり、「プラ」とよぶ)が流され、深海に沈んでいることに驚き、この研究の道に進んだという。JAMSTEC(国立研究開発法人・海洋研究開発機構)の活動は海洋、地球、生命の統合的理解への挑戦として、地球環境変動の理解、地球内部ダイナミックス、生命の進化と海洋地球生命史、資源研究などの調査研究が主たる活動である。年間予算はトータルで400億円。また開発機構の研究ファシリティ(船舶、施設、観測機器・機材)・データベース等を紹介いただいた。

・研究の目的

何故 海洋プラや深海生物を研究するのか→人は他の生物を利用して生きている。現在気候変動や人の影響が深海にも危機を与えている。人は多くの魚を食べており、それは深海魚の領域までに達している。海洋を利用するためには「守ること」、「利用すること」のバランスが肝要。プラが悪者のように言われるが、人間生活に絶対に必要なものであり、特に医療、食品生産、流通などにおいては欠かせない。プラは分解しないので悪影響が出始めている。いったん海に流れ出ると、回収は非常に難しいので、これ以上プラによる汚染は拡大させられないので、何とか対策しようというのが世界の流れ。特に5ミリ以下のマイクロプラの回収はとてもできない。 

・持続可能な開発目標(SDG’s)での位置づけ

SDG’s)の14番目「海の豊かさを守ろう」とあるが、この項の最初の項目は「海洋汚染の防止・削減」が挙げられている。(目標は2025年)

・社会の理解を得るためには、科学的根拠の提示が必要

プラの現状:年間4億3800万トン生産(2017)、1960年から2014年までのプラの生産量は20倍に増えている。1950-2017の合計生産量は70億トン。世界でリサイクルされているプラはわずか10%で大半は埋め立てや、自然界に廃棄。日本は少し事情が違って、大半が焼却され、埋め立てや自然界への廃棄は6%程度である。プラが不適切に流れ出ている量で見るとアジア(中国)が世界全体の50%で圧倒的に多い。使い捨てのプラを量で比べると、日本は総量では少ないが、一人当たりの使用量が多く、アメリカに次いで2番目に多い。(過剰包装が原因か)

・プラの海洋への廃棄による影響

1)誤食→カモメ、魚類など 2)化学物質汚染の拡大  3)漁具への絡まり 4)生息地改変等がある。プラがPCB, DDTなどの化学物質を吸収、また製品にする時の添加剤などの物質が解け出てくる。食物連鎖の中で濃度が高くなっていく。5ミリ以下のマイクロプラが問題。小さくなればなるほど生き物に影響する。水中の生き物はこれらのマイクロプラをろ過するように食べていく。サメは海の食物連鎖の最終なので、サメ8種の肝臓を使って分析。深海にいる二枚貝にもプラ汚染は進んでいる。この食物連鎖が進むとやがて食料資源に影響を与えることが懸念される。

・海洋中のごみ集積場所(ごみパッチ)の形成

過去に海に流れ出たプラのうち表面に浮かんでいるとされる量は2500万トン、海の表面には26万トン(1パーセント)、99パーセントは行方不明。深海やまだ調査してない海域に、たくさん潜んでいる可能性。小さくなったものは網に引っ掛からない。プラの分布を正確に把握する必要がある。正確に測ることが難しいが、その技術が必要。プラの分布としては、日本の周りにたくさん集まる。東アジアから黒潮に乗ってやってくる。海の中にも渦があるが、そこにプラごみが集まる。日本の周りの渦を調べてみるとたくさんあった。これを「西太平洋ごみパッチ」と呼ぶ。(表面だけでなく、海底にもある)潜水艇「しんかい6500」を使って海底調査。40年近く深海調査をやっていて、古い映像を調べるとレジ袋だらけ。JAMSTEC深海デブリデータベースを作った。
台風は水とごみを大量に海に流す。相模湾にて台風の前後で調査した結果、台風の通過3日目と通過後に相当量のプラ数で(250倍、重量では1.300倍)

・海洋プラを測る方法

プラの分析に大変な手間と時間がかかる。採取した泥、水からプラを分離するのが結構面倒。海はものすごく広いので、世界中の研究室でこのような研究をやってもなかなか全体像はつかみにくい。ヨットをやっている人たちには環境意識が高いので、サンプリングなど協力してもらっている。

・まとめ:結論的にこの研究から学んだことを講師は以下のようにまとめられた。

日本のまわりはプラが多い
深海が行き着く先になる
深海生物へも影響
便利さ(プラ製品)の副作用(地球温暖化と同じ)
将来に向けた取り組みが重要
科学技術も重要な役割を持つ 

Q&A

Q1)横浜市はプラを生ごみと一緒に捨ててもよいとなっているが、燃焼以外はどうなっているのか。また相模湾の蒲鉾が心配だけど、汚れていると考えなければならないか?
A1)相模湾のプラごみは30年前に比べ 最近はますます増えてしまっている。一応対策もしているが、JAMSTECもそれを測るが、効果をみるにはモニタリングが必要。また「ピリカ」というアプリがあり、街を歩いている時にスマホで写真を撮り、プラの量を画像でAI解析してくれる。

Q2) 日本の場合、殆どのプラごみは燃焼で処理されているというが、燃焼した場合の問題は何か?
A2) 燃焼すればCO2が出るのとともに、日本以外の国ではダイオキシンなどの有害物質が発散される。ダイオキシンが出ないような燃焼設備は高額なので、途上国ではないと思う。こういう設備を合わせて協力するのが本来のあるべき姿。

Q3) レジ袋の有料化は効果があったのか? 
A3)使う量が減れば効果があるはずだが、レジ袋自体の量はたいしたことはないので、むしろプロパガンダ的な効果。プラ全体量を1/3にしたいが現在の生活を考えると無理に近い。流れ出すよりまだ埋め立てたほうが良い。適切に管理することが重要。

Q4)化学繊維を選択するとマイクロプラの馬鹿にならない量が出ると聞いたが、綿などの天然素材を使うのが良いことなのか。
A4)天然素材のほうが分解もされるので、良いに決まっているのだが、生産力とのバランスもある。特に木綿などは自然分解されるので、ゼロエミッション。 洗濯ではマイクロファイバーが出てくるが、日本の周りにマイクロファイバーが少ない。 日本の洗濯機にはごみ取ネットがついているので、有効なのかもしれない。

Q5)プラが海に集まるのは、陸から川、海と流れていくのか。プラごみ拾いなど自治会でやっているが、そのあとは燃やすのか?
A5)基本的には陸に落ちたものが、川などに流されて、海に出ていく。横須賀のごみ処理施設の見学でプラごみの選別をしていた。リサイクルできないものは燃焼、梅経ってなどで処理。ごみ部袋の中に別のごみ袋を2重に入れると、選別時に大変な手間がかかるので、ごみは1枚の袋に入れてほしいと係員から強く言われた。

Q6)陸上から海洋に流れないようなプラの処理が知恵を出して抑えるだろうと思うが、海洋に出てしまったプラの回収や処理をどのようにしていくのか?大量の集まっているところを処理すればまたそこにゴミが集まるのでは。
A6)取組はないわけではない。大きなゴミパッチを狙って回収するような動きはあるが、まだうまくいっていない。3.11の後、漁師が回収をしたこともある。大量に集まるパッチは海洋遠くて、なかなかうまくいかない。

以上
文責:八谷道紀
 
講演資料:海洋プラスチック問題
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2022年12月22日

EVFセミナー報告:EVの真実〜大丈夫か、日本のEV〜

演題:EVの真実〜大丈夫か、日本のEV〜
講師:舘内 端 様
 一般社団法人EVクラブ 代表理事
視聴者数:59名
講師紹介:
1947年群馬県生まれ。日大理工学部卒業 東大宇宙研勤務の後、レーシングカーの開発、製作に携わる。
1978年日本F1GPに高橋国光選手のチーフエンジニアとして参戦。完走9位に入る。
2009年自作EVで1充電555.6km達成、
2010年同EVでテストコースにて1充電1003kmを達成。いずれもギネス記録。
1994年日本EVクラブ創設。1998:年環境大臣表彰。

講演概要:

「EVの真実」についてのご講演。「世界の変化がEVを生み」、「EVが自動車と産業を大きく変える結果」の観点から、下記4点を通して解説してくださった。
(1)やっぱり EV 主流化か、FCV はどうする→→→ 主流はEV。FCはあるがFCVはない。
(2)早期普及の為の課題は→→→ 人民、行政、企業の気候変動防止への覚悟。
(3)2030 年以降を見据えた性能向上見通し→→→ 性能向上は不要、むしろ性能を低下させ環境・エネルギー負荷を低下させるべき。
(4)EV が主流になることによる Mobilityコンセプトの革新→→→ 20世紀型「自動車と産業」の消滅。
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講演内容:

〇今後、EVは主流化する。
〇早期普及の為の課題については、特に日本は、国の「変革が苦手」な特性により、EV化を阻んでいる。成功体験を持つ日本人、自動車メーカーが阻んでいると言えるし、覚悟するしかない。
〇どのような性能向上が本当に必要なのかを考えなければならない。エンジン車が辿ってきた道を再び辿るのではないか。
EVは1/3の期間で消滅してしまうのでは。
〇自動車産業を含む「20世紀型産業」は、このままでは消滅に。20世紀型として成功している「トヨタ」も同様か?(舘内講師は「トヨタの危機」という本を上梓されている)

◇人はなぜ移動するのか/移動の始まりと進化
*第一次ホモサピエンスの大移動・・・人力による移動、
*第二次ホモサピエンスの大移動・・・文明を拓く、農業革命、自然エネルギーによる技術革新、
*第三次ホモサピエンスの大移動・・・グローバリゼイション、化石エネルギーの利用(石炭、石油、天然ガス)、

◇グローバリゼイションは、物流を伴う。
*グローバリゼイションでの成功例の一つが、日本の自動車産業

◇ホモサピエンスは、陸海空を化石燃料で征服した。(蒸気機関車/ライト兄弟の内燃機関の飛行機の成功/リンドバーグのNY-パリの無着陸飛行/コンコルド)
◇移動形態の変化・革命
*大量移動から、「個」の移動へ―――>巨大船、汽車から、「自動車」へーーー>駅馬車からガソリン自動車・EVへ(最初に100kmを超えたのは自動車・初期時代のEV)

◇スピードへの欲望
◇高級化の欲望―――>高級車の誕生(欲望という幻想消費の自動車版)
◇大量生産・大量消費という欲望の始まり(アメリカンドリームの自動車版)―――>大衆車の誕生―――>地球温暖化の主役登場=ホモサピエンス絶滅の第一歩

◇モータリゼイションの進展―――>気候変動がじわりじわり・・・・

◇その進展の結果
*自動車保有台数の増大/自動車走行距離の伸長/自動車の大型化 燃費の悪化
―――>石油消費量の増大―――> CO2二酸化炭素排出量の増大―――>温暖化/気候変動地球の始動

◇石油を膨大に使ってしまった人類*世界の石油累計生産量(〜2005年)1兆4600億トン ―――>出したCO2は、4兆2458億トン (うち自動車は、約半分、およそ2兆3000億トン) (石油鉱業連盟 経産省の資料から計算)
◇「自動車とCO2」の関係の具体例:                                   *ガソリン1リットルが燃えると 2.32kgのCO2が排出される/ 自家用車で月に4回給油。合計200ℓのガソリンを入れた/排出したCO2はおよそ460kg―――>1年間自家用車を使うと5.5トンもCO2を出してしまうという計算に。
◇世界の石油の半分を使ってしまう自動車:                                *世界の石油消費量・ 44億4900万トン、自動車の石油消費量 ・ 28億0800万トン ―――> 自動車の石油消費比率 :  およそ63%。―――>従って、中東に何かあれば、日本は自衛隊は出ざるを得ない状況。例えば、ホルムズ海峡の機雷除去作業。   
◇世界の自動車のCO2排出量:                                      *世界のCO2排出量(2015年) 329億トン、/世界の自動車のCO2排出量(2015年) 73.8億トン―――>自動車のCO2排出量の割合 22.4%―――>自動車は地球温暖化の元凶です!
(中国のCO2排出割合は28.1%であり、中国一国の排出割合とほぼ同じ)

◇舘内講師の出したCO2の計算:                                     * 年間 2万 Km、走行 40年で80万km、リッター10km 〜 ―――>使ったガソリン8万リットル―――>出したCO2 ・25万9200トン―――>「地球温暖は私の責任です」「今は車を持っていません」・・・・・・・【これは、『各人は、地球温暖化を、他人事(ひとごと)ではなく自分事(わがこと)として、受け止めるべき』との強いメッセージかと】
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◇資本主義と自動車(と地球温暖化・気候変動)                              *20世紀型資本主義と共に生まれた自動車(T型フォード)                         *資本主義を育てた自動車                                        *自動車産業を拡大させた私たちの欲望                                  *私たちの欲望を刺激しつつ続けた自動車と技術                              *資本主義型欲望に飽きた私たち(我々の子供世代、孫世代の現状)                     *欲望という名のマーケットを失った自動車
◇自動車社会・繁栄の理由(なぜ、今まで繁栄が許されたのか?):                     1.豊かな資源、                                             2.発展の余地のある市場(残る市場はインド、アフリカは?)、                      3.温暖化していなかった地球環境
◇さようなら欲望拡大型自動車と技術:                                  *より速く(する技術)、より遠くへ(行く技術)、より快適に(する技術)を進めてきた。             *しかし、欲望拡大型自動車と技術では地球が持たない。
◇さようなら欲望拡大社会(変わるマーケット):30年後にはこうなる・・・・               *消費文化を象徴した衣服の例(日本):既に、パリでもイタリアでも、変革しつつある            1990年の売れ残り衣服の割合  3.5%                                   2018年の売れ残り衣服の割合 53.8%(15億5000万点)
◇変わり始める自動車の生産と使い方                                   *水平分業型自動車生産:デトロイトで始まる、分業化、統一規格など                    *産直型自動車生産:現在の日本メーカーの自動車生産台数は約2,000万台(国内市場・500万台、海外1,500万台)であり、産直型になると、日本の自動車産業は変わらざるを得ない。               *生協型自動車生産・販売                                        *国民自動車
◇30年後の自動車産業/産直・生協・地域通貨型 国民EV (1):                   
(グローバリゼイションからローカライゼーションへ) 
*自動車の生産者と購入者をダイレクトに結ぶ                               *企画は生協が行う(生協は会員制、商品企画は会員が行う)                        *地域通貨で資本蓄積増大を防ぐ(地域通貨は利息なし、資本の蓄積はなし)
◇30年後の自動車産業/産直・生協・地域通貨型 国民EV (2)                     *販売店/セールススタッフ/広告代理店が不要                               *営業部門・広報部門・クルマのカタログ・自動車雑誌・カージャナリスト〜不要               ―――>コストは1/3が削減可に。例えば、今まで300万円の車が、200万円で販売可に―――>更に、売り残しも、0に
◇地方産直EVは、60年前から存在している                                *スイスのツェルマット村(マッターホルンの登山口)の産直EVの例:村で許されているのは、村仕様のEVバス、EVトラック、と馬車のみ
◇産直式・欲望減少・移動の個別化が進むと、三輪車に未来を感じる(例えば、カールベンズの三輪車)。   
*戦後の三輪車(メッサーシュミット、イソ・イセッタ・フジキャビン、など)
◇三輪の方向性に(二人乗り、三人乗り)、またはsmall Carに                       *1997年のベンツの300Eコンセプトカー、97年のVWのコンセプトカー、同・Audiのコンセプトカー
◇◇◇未来を先取りしたEV活動  By 一般社団法人日本EVクラブ
*中学生EV教室:EVサイド・バイ・サイド2007、部品はエンジン車の半分程度。
*2001年充電の旅:日本一周の旅(全国621か所のコンセントで充電、半年かけて日本一周)。
*ビバンダムチャレンジ/EV1998、:パリ・シャンゼリゼ通りを初めて日本のEVが走る。
*2009年11月17日、東京〜大阪をミラEVで「途中無充電」の旅。
・東京・日本橋〜大阪・日本橋555、6km+α=600km程度を、無充電走行。
・日本国内の「反EVキャンペーン」の強い中、アンチ「反EVキャンペーン」として実施。
*2010年5月22日のミラEVチャレンジ1000。
・一充電走行として。1,003kmを達成(今でも破られていない)。
・オートレース選手養成所オーバルコースにて(筑波)。
*2013年EVスーパーセブン急速充電の旅。
・急速充電・600〜800か所で、8,100kmを走行。
・「反EVキャンペーン」の急速充電気が少なすぎるからとの主張に対して、実施。
・経産省も含め、EV推進の会社、組織、個人が支援、一方では反EV推進の大企業も。
*2020年3月10日Electric Kart on Ice(新横浜にて)
◇◇◇ポストEVを考えるための必読書
(1)「人新世の『資本論』」  斎藤幸平著
(2)「未来への大分岐」  マルクス・ガブリエル著
(3)「ロスト欲望社会」  橋本努著
(4)ホモサピエンス全史(上)(下)」  ユヴァル・ノア・ハラリ著
*ホモサピエンスは100万年間はびこっていたネアンデルタール人をなぜ全滅(混血も)させえたか?
*ホモサピエンスは、「言語を生み出した」、「幻想ができるようになった」事が。
*その結果、貨幣を生み出し、利子を、そして欲望を膨らませた。
*ネアンデルタール人の100万年間に対し、ホモサピエンスは今のところ20−30万年。果たして、ホモサピエンスはネアンデルタール人ほど生存しうるか? 欲望の肥大化により、ホモサピエンスは全滅の方向に。
*即ち、自動車だけの話ではなく、EVだけの話でもない。その結果、残るのは三輪車ではなかろうか?
*そして、全自動運転は、成功しないと。
*小鳥の脳みそは小さくても、それでも巣立ちして、自由飛翔をする。101論議ではないのかもしれない。ホモサピエンスは、脳が大きかったネアンデルタール人が持っていなかった「何か」を持っているのかもしれない。//

Q&A:

Q1:移動の中にも、「移動」と「旅(時間を楽しむ)」の2種類があると思うが、どのように考えたらよいか?
A1:その通り、二つあると思う。移動しながら楽しむ部分もあり、分別はできないのでは。未開の狩猟民族では、一日3時間働けば5人を賄うことができ、残りの22時間は昼寝とお喋りに費やするとの事。ホモサピエンスは初期の段階こそ豊かであったと言えるのでは。近代になり、移動が速いのは儲けに繋がったが、環境等失ったものも多い。

Q2:数年前までは、EVは世界でも疑問であったが、今後の欧・米・新興国でのEVの流れは?
A2:<欧州>は、見切っており、EV化は決定している。日本のようなアンモニア、水素のような議論は、既に見切っている。
<米国>は、EVに前向きであり、動きが早い。1994年の加州でのEVS(EVシンポジウム)において、ゴア副大統領の名代で出席した上院議員は、「米国は、EVで自動車の復権を果たす」「EVはエネルギー問題」と話した。その2つが米国のEVの底流となっている。
<新興国/アジア>は、地産地消がキーワード。(1)例えば、ネパールで深刻な大気汚染の原因になっている「ツクツク」のEV化が図られ、結構増えている。「ツクツク」は、我々がイメージする自動車とはかけ離れているが、それが現地の自動車。(2)現在、パリでは時速30km制限となっている。30kmなら、現在の技術は不要に。これと同じことが、アジアでも起きるのでは。(3)30kmなら、電池は鉛で、エネルギーはソーラーで十分。世界は、アジアに学ぶ時代に・・・。

Q3:知的存在としての人類で、「知識」と「欲望」は異なるのでは?その辺りのお考えを教えて頂ければ。
A3:ここは悩んでいるところ。科学技術とは何か?「ホモサピエンス全史(上)(下)」  ユヴァル・ノア・ハラリ著を読むと、それは「幻想」と説明されている。科学技術の「全自動運転」が、小鳥に先行されている。ホモサピエンスは、幻想によって滅びるのかもしれない。 
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以上

文責:三嶋 明
posted by EVF セミナー at 16:00| セミナー紹介

2022年11月24日

EVFセミナー報告:日本の水力発電の復権と課題

演題:「日本の水力発電の復権と課題」
講師: 竹村 公太郎様
 特定非営利活動法人 日本水フォーラム 代表理事 博士(工学) 
聴講者数:56名 

講師紹介
竹村公太郎(タケムラ コウタロウ)博士(工学)
・1970年:東北大学工学部土木工学科修士。国土交通省の前身の建設省に入省。一貫して「治水、水資源、河川環境」行政に従事。
・1998年:河川局長に就任。
・2006年-現在:NPO特定非営利活動法人 日本水フォーラムの代表理事兼事務局長
・2017年-現在:福島水力発電促進会議座長
・著書:「日本文明の謎を解く」「土地の文明」「幸運な文明」「日本史の謎は『地形』」で解ける」(PHP文庫3部作)「水力発電が日本を救う」(東洋経済)「浮世絵と地 形で解く江戸の謎」(集英社)「水力発電が日本を救う-ふくしまチャレンジ偏」など多数。

講演内容
I.概要
文明の誕生と発展にとってエネルギーは絶対に欠かせない。メソポタミヤ文明、黄河文明はエネルギーで誕生し、エネルギーで衰退していった。日本文明の奈良、平安そして江戸への変遷もエネルギーで説明できる。今日本のエネルギー自給率は10%で他国に比べ極めて低い。22世紀、化石エネルギーは厳しい制約を受ける。日本の未来のエネルギーは何か? 実は、日本には豊富で平等なエネルギー資源がある。水力発電である。ダムは太陽エネルギーの貯蔵庫であり、降った雨は日本の脊梁山脈によって全国津々浦々に川となり平等に流れ込む。その川に新規にダムを建設する必要はない。進化した台風予測を活用し短期に放水せずに夏場の発電月数を稼ぐ、既存ダム全てに発電機をつける。既存ダム全てを発電所にする。今ある発電機は大型化する。ダム嵩上げをして貯水量を何倍にも嵩上げする。すぐ下流に小型ダムを作り需要ピーク時に発電する。荒れた林道も整備し間伐材によるバイオ発電を行う。そして資金を域内循環させる。このような既存ダムの有効利用と再開発の工夫によって一部の人に犠牲を強いることなく、我が国の超大なエネルギーポテンシャルを活かすことができる。全国に河川のない市町村はなく、無限に続く国産エネルギーの水力が未来の日本を必ず救う。
20221126fig01.jpgII.日本の水力発電とポテンシャルと課題
1. 歴史から見る日本のエネルギー
(1). 江戸のオイルピーク
大和の時代から、木材は、記念構造物用として伐採されただけでなく、燃料としても使われていた。そのため、都に近い場所から伐採圏が拡大していった。
(図1)
時代は下り家康が、秀吉の命を受け、奥州伊達勢の軍事侵攻を防ぐ為に関東を治めることになった時、江戸は森林帯の東縁に位置しており、質量ともに良い木材が入手できた。一方で、関東は6000年前の縄文海進を経て一面の干潟・湿地帯であり、関宿の隘路を除けば、東北伊達勢からの軍事侵攻を止める為の自然の要害であった。図2は、家康が江戸入りした1590年当時の関東である。徳川家康は、この地勢を明確に意識し隘路を遮断する為、巨大な堀となるように利根川と渡良瀬川を流れ込ませ銚子に導き防衛線とした。
(図2)
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その後幕府は利根川の拡幅と掘り下げを継続し関東平野を利根川の洪水から守り江戸は発展した。同時に木材伐採圏も拡大し、天竜川流域の木材伐採量は枯渇していく。(図3)
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また、その様子が歌川広重の 浮世絵 「日坂小夜の中山」に禿山が描かれている(図4)。 「二川猿ケ馬場」も松が散在しているだけ、「金谷大井川遠岸」も山稜に木が描かれていない。
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江戸は循環型文明ではない 誤解されている。森林・燃料を消費し尽くしていく。

(2). 明治から昭和のエネルギー;石炭と石油
明治になると 石炭を使う 蒸気機関車を使うため 木材から石炭にエネルギーが変わった 紡績から重化学工業に発展して行く。第一次大戦では 石炭から石油へ。 ソ連の「バクー油田」とジェームスディーンの映画ジャイアンツの舞台となった「テキサスオイル」。第二次大戦は、 米、中、ソ連、中近東、オランダ(インドインドネシア)の産油国の中で、 日本は 燃料・石油を求めてこのインドネシアを 狙った。 民間では燃料不足から木炭バスが走り (昭和16年)、薪を求めて、十和田、奥多摩、伊勢原、足柄 、信濃川、大津、山科、比叡山 など全国の森林は禿山になった。(図5)
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その石油も限界が見えてきた。


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2. 日本は生き残れるのか
(1). 際立つ日本のエネルギー自給率の低さ
日本のエネルギー 自給率は6%しかない。図6は、 3.11以前のデータをもとに経産省が示した図に日本の自給率を他国と同じ尺度で改めて表現した図である(原図は、数値は正しいが円を大きく描いてある)。 今現在でも10%の自給率である。自給率10%の文明は必ず滅びる この図が示す状況は、今日生まれた赤ちゃんが50歳になった時は そうなることを暗示している。 そういった話を自民党水力推進協議会議員連盟に呼ばれ話をしてきた。 エネルギーはみんなで協力してやろうと。 目糞鼻糞を笑ってる場合ではない!と柔らかくだが伝えた。 もし潤沢な今の暮らしのエネルギーを30%節約して自給率を60%にすれば、なんとか生き残れる。できれば水力だけで30%をやりたい。もちろん太陽光、風力、地熱、水力 すべてやるしかない。
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経済性からみた可採年数は、化石は109年 (3.11以前は300年といわれていた)、 石油は53年、ガスは56年であり経済的には早晩使えなくなるため、技術開発もやる、海底メタンハイドレートも探査するなど、全てのエネルギー源を開発しておく必要がある。

(2). 確実な未来
それは、気候変動による自然の狂暴化、 地球環境の悪化、エネルギー逼迫である。
ここまで いろいろ脅かすようなことを言ったが、実は講師御自身は 日本列島は優れており結果として生き残れると考えている。厚生労働省の推計によれば、100年後は 人口のピークを越え6000~7000万人ぐらいになる。これは1600年頃江戸時代の初めと同じであり見方によってはハッピーとも言える。なぜなら世界には強制的に人口を減らすというグループもいるが、日本は自然に減っていく。日本列島で考えれば、人口は増え続けよりも 安全である。
また、化石燃料やウランはいずれ尽きる。尽きることのない自然エネルギーの 元となるのは 四つしかない。 1.太陽エネルギー(太陽光、風力、波力) 2.地球の重力 3.地球の電磁波4.地球のマグマ、 これら地球の持つエネルギーである。但し 太陽エネルギーの弱点は単位面積あたりの エネルギー濃度が薄いこと。そのため濃度を高める技術開発が伴う。

(3). 日本のエネルギーの優位性・公平性
上記4つのエネルギー源の中で、水力は太陽と重力の二つを用いた点が他と違う。この点について、電話の発明者アレクサンダー・グラハム・ベル(実は地理学者で米国地理学会会長、電話の儲けをナショナルジオグラフィック発刊に注いだ)が明治に来日して次の認識を明示した。「日本列島は、アジアモンスーン帯の北限に位置し、雨(梅雨と降雪)が多い事、全周を海に囲まれ70%が山地である事。この二つの要素によって日本列島自体が薄いエネルギー源である雨を集約・凝縮し重力によって河川というエネルギーの流れに変換する装置である事」、つまり日本列島の地形は70%の山が集める水エネルギー装置であり、これが日本列島の優位性である。加えて日本の脊梁山脈は、降った雨を日本海側、太平洋側と全国津々浦々に公平に行き渡らせる、このような国は世界にない。(図7) 全ての市町村が川を持っている(唯一の例外は山がなく川がない沖縄の宮古市)。
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(4). 日本列島の弱点は、滝のような川
山地に降った雨は、多摩川で一泊二日、利根川でも二泊三日で海に流れ込むので他は日帰り。
従って、使える水はすぐになくなってしまう。その使い勝手を良くするのがダムである。
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紀元100年(狭山池、満濃池)から江戸(農業用、水道用堰堤)、明治・大正(水道)、昭和(発電、治水、農業、水道、工業)と日本はダムを作り続けきたダム大国である。自然のバッテリーと言っても良い。ダムの無い一級河川はない。

(5). ここまでのまとめ
地政学※からみる日本の生き残る道
気象:アジアモンスーンの北限
地理:海に囲まれている
地形:70%の山地が雨を集める装置
社会:平等な脊梁山脈
装置:ダムは 太陽エネルギーの貯蔵庫
※地形的条件がその国の政治や外交政策に及ぼす影響を研究する学問(岩波国語辞典)

III. ダムを活かす
1. 既存ダムの弾力的な運用
(1). 全てのダムに発電機を設置する(今は全てのダムが発電機付きではない)
ダムの運用変更(複雑だが大事)ができる。ダムサイトはすでに限られているので改善するなら治水と利水を兼用する。特定多目的ダムは昭和32年の立法を根拠とするが 知性と理性の矛盾を引き起こしている。治水は洪水を貯め込みたいのでダムを空けておきたい国交省だが、 農水省は水を貯めて使いたい、 厚生省も水を貯めておきたい。夏場6月を過ぎると ダムの水位を30m下げる。その背景には昭和29年の台風による青函連絡船・洞爺丸の事故(1155人が死亡した日本海難史上最悪の事故)があった。 この時代に 台風や雨量に関しての気象予報技術はまだなく予測できない という前提で 夏場は一律に水位を下げることになった。そこで、これを改めて 台風予測とともに緩やかに水位を下げて 発電に使うことが今なら可能である。
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つい先週の今年(2022年)11月18日 東北整備局が四十四田(しとしだ)ダムにおいて この仕組みを 実際に運用し その結果 160万立米の水を発電に用いることができ 80メガワット以上の電力を得た。(図9) これは丁度この辺りの 概ね300世帯の1ヶ月月分の電力になる。 竹村先生が 後輩たちに この方法を教えて 実際に達成できた ということで先生にとって人生で最も嬉しい一瞬の一つであると いう発言があった。
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八ッ場ダムも5000億円かかると言われているが そのうちの3000億円は 付け替え道路や鉄道敷設のための費用であり ダム本体は2000億円である。 このことが示すのは 新たなダムを作るのではなく既存ダム改良であれば 費用を大きく節約できることを示す。 例えば既存ダムの手前にもっと高いダムを作れば、つまりかさ上げすればワイングラスのように満水量がグンと増えるが、水没する集落や鉄道は既に移転しており道路も湖面から大分上にあるので大きな補償や環境激変はないと思われる。どんなダムも嵩上げはできる。夕張のシューパロダムは 70mの水位を110mまで40m嵩上げし 8700万㎥の水量を4億2700万立米まで5倍増やした。 今すぐしなくても将来に向け巨大なストックになっている。

(2). 流量調整池ダム
竹村先生が所長を担った宮ヶ瀬ダム本体は 24200kW であるが 下流800mに1200kWの石小屋ダムを作った。 これによりボタンひとつで 水を抜いたり貯めたりして流量を調整し需要に合わせたピーク発電ができる。 つまり 経済産業省と送電を担う電力会社が協力すればできる仕組みである。宮ヶ瀬ダムは計画時点からそのように進めることができた。

2. 日本の生き残りは多様性である
(1). 未来は分散型エネルギーネットワークシステム
生物の進化の歴史は多様化/bio-diversityである。人類の進化も求める方向は多様性であり、それが豊かな文化にもつながる。エネルギーも集中から分散化に向かっていて、集中は退化ではないか。日本列島は、九電力体制で無理をして全国隅々に送電しているが、これをやめ 大都市は集中 それ以外は分散型発電を行うのが良い 。ただし、仕事が無くなる部分があるので、その変化を計画的に行う必要がある そもそも東京や横浜において水力発電はできない。
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(2). 水力発電の弱み
電力会社は、水力発電はコストが高いのでやめた。初期コストが高いので償却期間が長すぎて通常ファンドは投資をしない。しかも河川の水は公共財であり国民の財を使うので制約が多い。
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さり乍ら 明治・大正・昭和の経済人の先輩方は 100年を超える長い視点でダムを作ってきた。同様に国内再エネは コストが高いと思われがちだが 今後燃料を輸入するエネルギーはどれだけ高いものになって行くか、下がることはありえない。今20〜25年の視点で将来を考える必要があること受け入れるCEOを探している。 先日、自民党の水力推進進議員連盟に呼ばれてそういう話をしてきた

3. 水源地域の支援
(1). インセンティブは 20年で終わり 地方には過疎だけが残る
電源三法などで作った林道は崩壊する。 なぜなら作るときは 林野庁が予算をつけるが維持管理は市町村になり 道路が壊れたら予算がないので通行止めで山に入れない。 これを改めるにはプロフィットの還元を山に、例えば利益の1/3 を公共の意識を持って還元する必要がある。 良いニュースもある。 林業にロボットを導入すると 若い人に人気が出て地域が活性化する。 ロボット伐採だけでなく間伐材を利用したバイオ発電も行う。 このプロフィットを森林組合へ 注ぎ込めばよく、インドネシアやマレーシアから買う必要がなくなる。実際のお金を動かすこと、リアルにやることが大事。

(2). 列島に分水嶺を書き込むと降った水は全国隅々まで均等に行き渡る
水力発電はすべての基礎自治体に共通する公平な資源である。水源地の水力発電が動けば、取り付け道路である林道が整備され森林組合の間伐材バイオ発電も可能となり 全国山村地域の永続的な活性化が続きエネルギーの大循環が生まれる。
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IV.質疑応答
Q1, 竹村先生の水力発電が日本を救うーふくしまチャレンジ偏※1―を読んだ。地方銀行が資金を出さないことが問題のようだが、地方自治体・地元を活動の主体にすることはどうか?
A1, 地方自治体がやるのが正解。 現状は、銀行は初め話に乗ってくれるものの償却期間が長いので成約しない。しかし地方自治体や首長が推進すれば社会的信用も高まりSPC※2などにより自治体も少額拠出すれば事業資金を地方銀行も出さざるを得ないと考える。 自己資金を得ることが大事で 方向はそうなっている。

※1. 真の自立のため人々は立ち上がった!福島からエネルギー革命が始まる!新規大型ダムを建設しなくても、既存ダムの潜在能力を発揮させれば 水力発電量が2〜3倍に。安定的な再生可能エネルギーを確保し、地元経済を活性化し、百年後の日本に大きな富を残す-夢のプロジェクトが動き出した!「ふくしまモデル」を実現するため国民一人ひとりができることは?

※2. 特別目的会社「SPC(Special Purpose Company)」;当該不動産のキャッシュフローを原資に資金調達を行う仕組み。この仕組みでは、投資家が不動産に対する投資を行う場合、投資対象としての不動産は、株式や債券などの有価証券と比較して様々な魅力がある反面、投資単位が高額であること、株式や債券などの有価証券と比較すると売買が容易ではなく、換金性が劣っているといった側面もある。不動産証券化の意義は、投資対象としての不動産の魅力は保ちつつ、投資単位を小口化し換金性を高めることで、より投資家が投資しやすくすることにある。(https://www.mlit.go.jp/common/001204998.pdfより抜粋編集)

Q2,地方再生の視点で見るなら1例としてふるさと納税の対象に地産エネルギープロジェクトを加えることも考えられる。今日の例で言えば 小水力発電プロジェクトに相当するが、その場合 何か 課題や問題があるか?
A2, 全く問題ない。 そういう発想に債券で市民に売り出すということがある。まだやっていないが債券で売れば 銀行の資金回収は5年で済むかもしれない。 銀行員にとっても自分の人生軸の中で解決できる可能性がある。水力発電の償却期間が長い問題をこのような仕組みでどこかが最初に実行すれば他の自治体も採用が大変簡単になり連鎖すると思う。

Q3, 主要国のエネルギー自給率はノルウェーが792%と日本の6%に対し、大変高い。 これは水力発電がありそのため電気自動車も売れていると思っていたが 水力だけでもない。 こう見ると 日本の水力も もっとその比率を高め30%までいけると 考えてよいか?
A3, 既存ダムの最大活用・嵩上げなどを 行えば 30%はいけると考えている。 そもそも今までは 需要がなかったので環境問題、地方活性化、エネルギー自給率向上ができることが理解されれば動機付けとなり日本でも進むと思う。例えば、富山宇奈月ダムではダムを長持ちさせるために砂を排出する排砂ゲートを改造して作り、堆砂や石が通り抜けて上手く機能することが実証されている。また、新規建設も可能と考えるが、そこまでしなくても 今あるダムを全てエネルギーに使うということでも可能である。なぜなら治水については、喫緊の課題だが、遊水地や流域治水の考えなど代替手段がでてきたので、少し長い目で見れば エネルギー利用の優先度が 逆転して行くのではないか。

Q4. 小水力発電に注目している。分散化で地方に広がれば電気自動車にも使える。その点で、全国ではどこにどれぐらいの小水力発電のポテンシャルがあるのか?
A4. 各県で 20プロジェクト程度は活動しており、全国で1000プロジェクトぐらいはあるのではないか。一か所平均200kWとして20万kW程度かもしれない。自動車会社でも関心を持っている企業がある。ただ 小水力をやろうという集まりは多くあるが 実現性まではわからない。
関連でだが、あらたな応用先として計算センターがある。大電力を使うので話が電力会社に持ち込まれたが、都市圏での対応を求められたので断った事例がある。 5G などは大電力を使うだけでなく 寒いところであれば冷却問題も対処できるので、世界を見渡してもカントリーリスクの少ない我が国の北海道、東北、北陸、中国地方など日本海側にポテンシャルがあると思うがまだ具体化されていない。

Q5.分散型発電は集中型に比べ送電距離が短いのでロスが少ないのではないか? 特に集中型では行き届いていない地方の地域(図10右側)に行き渡ることが期待できる。
A5. 分散型は、距離が短いのでロスについては助かると思う。加えて全国各地での自給率向上にもつながる。また、離島や半島において送電網(Grid)を用いるのは、電力会社の負担が大きくなる。そのため事業となる仕組みが必要であり引き続き議論が必要である

会場参加の電力会社OBコメント;系統を専門とした立場からは(古いデータだが)送電ロスは2~3%であった。確かに地産地消が良いが問題は電源安定性で50Hz基準が48〜52Hz程度変動してしまうので千kWから1万kW程度の大きなコンデンサーや電池がバックアップ電源として必要となる。そのため、火力、原子力、ピーク時の揚水をバックアップとして、系統から一括して流し込むのが良いという意見である。但し、現状は東西の系統連携が2か所60万kWしか融通できないという問題がある。

Q6. 水力発電に期待している。揚水発電 はバッテリー代替としてポテンシャルが高いと思う。 また、今の発電所をすべて揚水発電用に変えることはできるか?
A6. 再エネは太陽光発電など不安定で余剰を捨てている場合もある。そのため各地で揚水発電の論議がされている。しかし、山上に水を溜めるのは論理として経済性がない。ただ、ダムは多いので調べればあるかも知れないが、そこまでは検討していない。とは言え、都会の昼間の余分な電気をポンプアップに使うのは簡単なので小規模なら効果があるかもしれ

会場参加の電力会社OBコメント;系統の専門としては、本来、変動運転できない原子力や火力との組み合わせが揚水発電の本来の形である。つまり夜に焚いた(タービンなどを動かす場合に焚くと表現する)電力でダム下の水をポンプアップして上に貯水し昼間の必要な時間帯に流す。(火力も変動に即応できそうだが、立ち上がり時等の熱応力問題があり定常運転が基本)。そのため現状は、揚水発電が力を発揮している。

Q7. エネルギー安全保障の観点から国家事業として水力発電のポテンシャルを
最大限に見積もった場合のエネルギーミックスをどう見通すか。
A7.
そのような水力のポテンシャルを前提としたエネルギー政策を誰も作っていない。かつて通産省には水力課があったが潰されてしまった。日本列島固有の水力発電を最大限計画したうえで、足らずじまいを化石エネルギー、原子力エネルギーなどで補てんしていく。その位の覚悟が必要である。

最後に
揚水発電は、60〜70年前に計画され20〜30年前に完成した。計画した人たちは凄い、株主もうるさくなかったからかもしれない。今は長期的に考える人がいないとぼやきたいが言い続ければ、節税対策として遺産相続時に投資をする人も出てくるかもしれない。この先も言い続けることが大事ですね。と発言があり、全員の笑いと共に拍手で終了した。

文責:寺本正彦

以上

posted by EVF セミナー at 18:00| セミナー紹介

2022年10月27日

EVFセミナー報告:CCUS/カーボンリサイクルの展望と課題

演題:「CCUS/カーボンリサイクルの展望と課題」
講師:須山千秋 氏
 一般社団法人カーボンリサイクルファンド理事
聴講者数 49名

講師紹介
1981年 京都大学工学部資源工学科(物理探査専攻)卒業
1981年 三井鉱山株式会社 入社
1992年 日揮株式会社 入社
2017年 一般社団法人石炭フロンティア機構(JCOAL)出向 カーボンニュートラル推進部担当参事(現在)
2019年 一般社団法人カーボンリサイクルファンド設立、理事(現在)
技術士(資源工学)

[講演概要]

1.CCUS/カーボンリサイクルの動き

・日本のCO2排出量(10.4億トン)における電力由来(エネルギー転換)CO2排出量は全体の約40%、うち石炭火力由来は27%(2020年度確報値:環境省)。化石燃料火力発電を全廃しても、CO2削減量は半分にも満たない。
・電力以外でも化石資源の役割は大きく、将来、化石資源が枯渇した後、炭素を何から得るのかを考えると、CO2は資源である。(太陽光や風力等の再生エネルギーから物質を作ることはできず、また熱需要対策も課題となる。)
・CO2削減は、さまざまな技術を活用した総力戦。うち、2050年にCO2排出ネットゼロというIEA(国際エネルギー機関)のロードマップにおいて、CO2排出をゼロにすることは難しくCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:二酸化炭素回収・利用・貯留)で76億トンが期待されている。
・CO2削減に向けた選択肢として、排出削減+CCUS/カーボンリサイクル(CO2利用・貯留)が望ましい。
・カーボンニュートラルの達成には、カーボンリサイクルが不可欠。すなわち、CO2(世の中から炭素がなくなることはない)を資源として活用し、排出量と吸収・除去(利用、固定)量をバランスさせる海、森林、土壌への吸収を含めた地球規模の炭素循環がカギとなる。カーボンニュートラル実現に向けて目指すべき社会とは、すなわち循環炭素社会である。
・カーボンリサイクル技術のロードマップは3つのフェイズ。フェイズ1:カーボンリサイクルに資する研究、技術開発、実証に着手。水素が不要な技術や高付加価値製品を製造する技術に重点を置く。フェイズ2:2030年に普及する技術を低コスト化。需要の多い汎用品の製造技術に重点を置く。フェイズ3:更なる低コスト化を実現させ、2030年ごろからの消費の拡大(化学品、燃料、鉱物・コンクリート製品)、2040年ごろからの普及開始をめざす。
・カーボンリサイクルのCO2削減ポテンシャルは、2030年で約100億トン、約100兆件の市場規模と試算している例がある。(ただし、今後LCAを含めた評価が必要)
・日本のCCSロードマップ(2020年5月公表):2030年までの民間主導のCCS事業開始に向けた事業環境整備を政府目標として掲げる。CCS事業に対する政府支援措置。
・2050年時点での想定年間貯留量の目安は、2030年中にCCS事業を開始するとして、1.2億トンから2.4億トン。
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2. カーボンリサイクルファンドの概要

・カーボンリサイクルファンドは、2019年8月設立。ミッションは、国と連携してカーボンリサイクル(CR)の社会実装および民間のCRビジネス化の支援。法人会員112社(2022年10月20日現在)。業種を超えた連携によるカーボンリサイクルの推進を目指す。広報活動(CRに係わる啓発活動)、研究助成活動などを事業内容とする。また、カーボンリサイクルにかかる研究シーズ(アイデア、人)の発掘、育成を志向する。
・CO2をエネルギーの最終形(不要物)として捉えるのではなく、水や空気を通して循環する炭素循環のなかでイノベーションを起こしていくことを企図する。
・カーボンリサイクルファンドの政策提言:@イノベーション開発促進と人材育成、ACO2バリューチェーンの構築、B地方創生およびグローバル市場への展開。

3. CCUS/カーボンリサイクルの課題と社会実装に向けた今後の展望

・CO2バリューチェーンの構築:CO2の発生源から回収・輸送・利用・貯留までの
CO2バリューチェーンを見据え、具体的な場所を想定してカーボンリサイクル技術の社会実装モデルを検討する必要がある。カーボンリサイクルの社会実装には、産学官地域を含む多面的なアプローチが不可欠。政策支援のみならず、市場創出、社会的受容なども。
・CCS推進のポイントとしてのCCS長期ロードマップ。@CCS事業実施のための国内法整備、ACCSコストの低減、BCCS事業への政府支援、CCCS事業への国民理解、D海外CCS事業の推進。
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4.Q&A

Q:CO2からエネルギーへの転換が実現するのはいつごろか。
A:未だ回収コストが高いという問題がある。どのくらいのコストでペイするかは製品による。80ドルくらいでペイする製品もある。
Q:「CCS」、「US」と「リサイクル」は同義のはず。名称を統一したらどうか。
A:海外では、「US」あるいは「S」が主流で、「カーボンリサイクル」は日本の言葉。統一は難しいかもしれない。
Q: 苫小牧のプロジェクトはどうなるのか。
A: 現在、モニタリング継続中。次の展開は、商業規模。2030年に向けて民間で展開し、国がサポート。
Q:CCUSのSは、日本発祥か。
A: 違うと思う。メジャーやアメリカか。CCSは欧米で石油メジャーのEOR(石油増産)を中心に進んでいる。その土壌として、アメリカではチャレンジャーが多く、そこから技術が生まれる。また、海外には寄付の文化があり、資金が投入されている。日本には、新しいものを生む力、環境、文化が乏しいのは残念なこと。
Q:メタネーション(燃料転換)(注:水素とCO2を反応させ、天然ガスの主成分であるメタンを合成すること)、水素とリサイクルの状況はどうか。
A: メタネーションのための水素を何で作るかが課題。豪州では褐炭ガス化による水素製造実証が進んでいる。日本でも、再生エネルギーが普及すれば、地方で水素を作ることもできる。日本で取り組むべき課題である。
Q: CCSは場所を先に決めればよいのか。日本では、玄武岩での固定が早いか。
A: 健全な帯水層があれば安全に固定化できるが地震を誘発するという誤解もあり、地元の理解が必要だと思われる。玄武岩固定はアイスランドで実施されたが、まだロジックが理解されておらずデータの蓄積が必要。
文責:高橋直樹

講演資料:CCUS/カーボンリサイクルの展望と課題
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