2024年02月21日

EVF総会記念セミナー報告:カーボンニュートラルへの日本の取り組み

演題:「カーボンニュートラルへの日本の取り組み」
se20240221.jpg講師:橘川 武郎(きっかわ たけお)様

EVF顧問、国際大学 学長・国際経営学研究科教授
講師略歴: 1951年生まれ。和歌山県出身。東京大学経済学部卒業。 東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。 青山学院大学経営学部助教授、東京大学社会科学研究所教授、一橋大学大学院商学研究科教授、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授を経て、2020年より現職。 2023年、国際大学学長就任。 東京大学・一橋大学名誉教授。元経営史学会会長

聴講者数:53名

講演概要
1 2023年の注目すべき二つの動き:
〇現在の世界の動きのベースにある二つのキーワードは、「GX(グリーントランスフォーメーション):化石燃料をできるだけ使わず、クリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた活動」と「カーボンニュートラル:カーボン(二酸化炭素)排出量=吸収・回収量とすること」。
〇カーボンニュートラルの実現はコスト削減こそが最大の課題;日本の独自の解決策として、既存石炭火力の活用と既存ガス管の活用があり、それらを実現するには、アンモニアとメタネーションが鍵になる。またこれらは、アジア諸国、新興国、非OECD諸国への展開が可能であり、日本のリーダーシップの根拠となりうる。
〇GXにたいしては、今後10年間に総額150兆円が投資される。経産省の資料によれば、重点項目は1.徹底した省エネ、2.再エネの主力電化、3.原子力の活用、4.その他の重要事項(水素・アンモニアの生産供給網構築、他)とされている。ただし、実際の投資見通しでは、原子力関連は、わずか1兆円にとどまる。
〇新しい温室効果ガス(GHG)削減目標の設定 :2023年に開催された、G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合(2023.4)において、IPCCの「2035年GHG排出削減2019年比60%削減」目標(2023.3.20) が確認された。このIPCC目標は世界基準となり各国とも35年の目標を25年までに国連の会議(COP30)に提出することが求められている。
〇これらの大きな動きから、これらの国際公約からもはや日本は逃げられない。

2 再生可能エネルギー :
ウクライナ戦争がヨーロッパにもたらした大きな問題はロシアからの天然ガス供給停止である。これにより世界的な天然ガスの争奪戦と価格上昇が、これからの日本の天然ガス輸入に大きな影響を与えている。日本の輸入元である中近東等にEUや中国が目を向けだした。このような世界情勢から日本に求められることはエネルギー自給率の向上であり、それには究極の国産エネルギーである再生可能エネルギーの普及が鍵となり。またこれが脱炭素社会形成に直接結びつく。その為の当面の課題は、コスト低減、住民とのトラブル解決、実現を加速するための移行戦略の三点である。最近では太陽光、風力等でコスト低下が進んでおり、また住民とのトラブル解消のために事業主体への住民参加の動きを作るべきである。

3 原子力発電と石炭火力発電に関して:
岸田政権は「原発に関する政策転換」はしていない。既存炉の運転期間延長によってかえって次世代革新炉の建設は遠のき、各地の停止中の原発の再開も進展少なく、原子力には前向きではない。一方、ウクライナ戦争で、原発が軍事標的という新しいリスクが発生している。
石炭火力発電所は、電力危機対策の柱となる超々臨界圧(USC)の建設ラッシュ であるが、一方で、石炭火力はアンモニア混焼で進展がみられるので、2040年までにたたむことを宣言すべきである。たたむ時期を明確にしていないため、石炭を減らすためのアンモニア混焼はG7の中で孤立化している。「アンモニアは石炭延命の言い訳」というあらぬ誤解を受けている。

4 カーボンニュートラルの時代へ:
菅首相の「2050カーボンニュートラル」所信表明(2020.10)、さらに気候サミット(2022.4.22)での「2030GHG13年比46%削減」表明によって、日本は大きく動き出した。第6次エネルギー基本計画で掲げられた2050年の電源構成は、再生可能エネルギー:50〜60% 、水素・アンモニア火力:10%、水素・アンモニア以外のカーボンフリー(CCUS付き)火力+原子力 :30〜40%(実質は原子力10%(副次電源化))と設定された。。
CCUS(二酸化炭素回収利用・貯留)に関しても技術開発や適地開発の向けての方針が打ち出された。
カーボンニュートラル実現への具体策として、
〇発電分野では、ゼロエミッション電源として考えられるのは、再生可能エネルギー、原子力、カーボンフリー火力(水素、アンモニア、CCUS)等々である。
〇非電力分野(熱利用も含む)では、電化(EV[電気自動車])、水素(水素還元製鉄、FCV[燃料電池車]))、メタネーション(e-gas;CO2とH2からのメタン合成))、合成液体燃料(e-fuel;CO2とH2からの液体燃料合成)、バイオマス 等々。
〇発生したCO2は吸収除去し、発生分をオフセットする。方策としては、植林 、DACCS(空気中のCO2を回収し貯留、有効利用)等々。

5 コスト削減が最大の課題 :
〇RITE(Research Institute of Innovation Technology for the Earth )が、に2050年カーボンユートラル達成時の発電コストの試算を行った(2021.5)。それによると、電源構成を再エネ・原子力・水素/アンモニア・CCUS火力の組み合わせで想定し、それぞれの比率を変えた7つのシナリオについて発電コスト算出したが、いずれの場合でも現行の発電コスト(13円/kWh)を大きく上回るとしている。
〇カーボンニュートラルの実現はコスト削減こそが最大の課題である。日本の独自の解決策として、既存石炭火力の活用と既存ガス管の活用があり、それらを実現するには、アンモニアとメタネーションが鍵になる。またこれらは、アジア諸国、新興国、非OECD諸国への展開が可能であり、日本のリーダーシップの根拠となりうる。

6 カーボンニュートラルの切り札と目されるアンモニア・水素・メタネーションの壁:
〇アンモニアには、調達の壁、技術の壁がある。 現状で国内年間消費量(肥料中心)は100万d、これが発電だけで30年300万d、50年3000万dと予想される。技術的課題としては、NOX対策、合成法開発がある。グリーンアンモニアを合成するには、ハーバー・ボッシュ法に代わる技術が望まれる。
〇水素については、 現状では大口需要の水素発電にメドが立っていない。
〇メタネーションでは、技術の壁=需要の壁がある。 都市ガス業界では、都市ガス需要が維持されるという前提に立ってメタネーション(e-gas)志向であるが、メタネーションの技術開発が遅れ、その間に電化の影響で都市ガス需要が減少すると、メタネーションが間に合わなくなるおそれもある。 一方で、カーボンフットプリント(サプライチェーンのカーボンフリー化)の脅威にさらされている鉄鋼・セメント・部品メーカー等では、すぐにでもオンサイトメタネーションへを導入したいという要請が高まっている。

7 第7次エネルギー基本計画
〇今後の流れとして、世界的には2025年のCOP30に「2035年削減目標」を持ち寄る。 日本は、今年後半から第7次エネルギー基本計画を策定する。その中に盛り込まれるべき
3つの課題 ;再生可能エネルギーの抜本的拡充、バックアップ火力のカーボンフリー化の推進、省エネルギーの抜本的強化 。
〇あてにされていない原子力;計画を策定する基本政策分科会のメンバーの問題

8 3つの落とし穴
(1)需要からのアプローチに欠ける(供給側から見るだけではだめ) 、(2)セクターカップリングの視点に欠ける;「電力」と「非電力」の分離 →熱電併給の観点の欠落(電力部門と非電力部門との連携が重要)、(3)「地域」の重要性に目を向けていない:このままだと担い手は大企業に限定される、中小企業も「サプライチェーン全体の脱炭素化」に迫られる。

9 再生可能エネルギーのコストダウン
〇太陽光/風力+蓄電池/バックアップ火力は高コストになるが、これに CHP(熱電併給)+地域熱供給 を加えることで、再生可能エネルギーを発電用にも熱供給用にも使えるようになり、コストダウンを図ることができる(デンマークに成功例あり)。

10 需要サイドからのアプローチ
〇ゼロカーボンシティ;2023.3.31時点で934自治体が意思表明するも、大半は具体的施策を模索中
〇コミュニティベースのカーボンニュートラル挑戦のポイント;熱電併給とコミュニティによるエネルギー選択、創電+蓄電+節電のネットワークとアグリゲーター(多くの需要家が持つエネルギーリソースをたばね、需要家と電力会社の間に立って、電力の需要と供給のバランスコントロールや、各需要家のエネルギーリソースの活用に取り組む事業者「特定卸供給事業者」) によるVPP(仮想発電所)の実現。

11 カーボンニュートラル推進の両輪は、企業のイノベーションと地域の脱炭素化(地産地消) にある。

質疑応答:
Q1) 講演資料の中でご説明の無かったP.16(第7次エネルギー基本計画)の「あてにされていない原子力」のところで「計画を策定する基本政策分科会のメンバーの問題」とは、どのようなことをおっしゃりたかったのか、お伺いしたいと思います。
A1) 基本政策委員会のメンバーが、原子力推進派ばかりに偏っていること。しかも、その原子力推進派委員が勉強不足で、原子力に関する具体的な提案(リプレースによる美浜4号機の建設、敦賀3・4号機用地での高温ガス炉・大型水素専焼火力の建設、原子力発電で得た電力で水を電気分解し水素を作ることによるカーボンフリー水素の国産化など)を行えないでいること。
Q2) 太陽光は、地球にとってエネルギー源である一方、最近は地球温暖化の原因になってきていると考えるので、太陽光を多くエネルギー源に利用する(太陽光発電)ことによって、地球温暖化を下げ、結果、炭酸ガスも削減出来る。そう考えると温暖化防止の観点から、太陽光発電の効果は他のエネルギー源と比べると2倍あるといえるのではないか?
A2) 今日テーマとして取り上げたカーボンニュートラルの考え方から行くと2倍というようなことは言えない。また温暖化は、直接太陽光ではなく、地球上の炭酸ガス増加によると考えるのが自然ではないかと思うので、その点からも違うと思う。
Q3) 本日の講演の中に核融合が取り上げられなかったが、その理由は?
A3) 核融合は、カーボンニュートラル実現後のまだまだ先のことであるからだ。
Q4) 大型水素発電は何故難しいか?
A4) 今のプランでは、コストが安い海外で水素を製造し輸入するため、グリーン水素の運び方、大量輸送が難しいから。原子力からの水素をもっと考えるべき。また、電力業界は、石炭火力のアンモニア転換に力を集中しており、ガス火力の水素転換には目が向いていない。
Q5)地域での脱炭素化案はどのようなことか?
A5) 住民参加型VPP。地域ぐるみの節電、オンザルーフの太陽光発電の地域全体での活用、EVの電力ネットワークとしての利用等を組み合わせる。
Q6) 地方と都会とで同じ電力料金というのはおかしくないか。
A6) 日本の電力は国民に広く供給するという観点や、送電網を大電力会社が専有していることからも同一料金になっているためそのようになる。地産地消が徹底されると、コストも下がり電力料金に差が出てくる。
Q7) 再エネは地産地消がベースである。最近は温泉業者の理解のもとに、地熱利用も増えて地熱バイナリー発電なども増えているように思うが。
A7) その通り。ただし、バイナリーは規模が小さい。別府などでは温泉業者が中心になってバイナリー発電に取り組んでいるが、供給規模には限界がある。一方、大型地熱発電では、最近、秋田県湯沢市で地元自治体や温泉業者の理解を得て、2カ所の発電所が建設されており、その広がりが注目される。

以上 (文責:橋本)
講演資料:カーボンニュートラルへの日本の取り組み
posted by EVF セミナー at 17:00| セミナー紹介

2024年01月26日

EVFセミナー報告:「DAC含むCO2分離回収・利用技術(CCU)及びCCSの動向と課題」

演題:「DAC含むCO2分離回収・利用技術(CCU)及びCCSの動向と課題」
se20240126.jpg講師:須山 千秋様

一般社団法人カーボンリサイクルファンド理事
聴講者数:50名


講演概要

1)一般社会法人カーボンリサイクルファンド(CRF)の概要 : 
・組織としては5年前に21社でスタートした。今は法人、自治体、個人、学術など191団体が加盟。
・ビジョンとしてはカーボンリサイクルの社会実装及び民間がビジネスとしてCRに取り組む支援。
・事業内容としては主に研究助成・広報・吸収源活動として任意の寄付金などをいただいて、企業、学校などの研究活動に助成。
・CRの社会実装ワーキングとしては自治体の協力を得て、CO2の分離、回収、貯蔵、吸収源の検討など幅広く支援。
2)CO2の分離・回収技術について
・液体アミンに吸収させて分離回収する技術はすでに確立しているが、CO2を取り出すのにはエネルギーが多く必要である。将来的(2050)には他の技術を含めて回収コストを1000円/t-CO2以下にすることが目標。
・排出源が多岐に亘ること、さらに回収したCO2の利用方法により、回収技術との適応を検討しなければならない。以下が回収方法;
・化学吸収法:(アミン吸収)各社がいろいろな形ですでに行っている。
・物理吸収法: CO2を温度、圧力をかけて物理的に液体に吸収させる。
・固体吸収法:アミンを液体ではなく、多孔質材料に担持させてエネルギーロスを低減。
・膜分離法:CO2だけをうまく膜を透過させて他のガスと分離する方法
・クローズドIGCC:蒸気タービンで発生したCO2をまた上流工程に戻して効率化を図る方法で、同様の他社技術は米国等でかなり実用化されている。
3)DAC 大気中からの直接CO2回収(DAC:Direct Air Capture)
・場所に影響されず、回収可能 、ネガティブエミッションが可能。
・技術ははまだ過渡期で、エネルギーコストは高い。
・アイスランドでは地熱発電のエネルギーを利用して世界最大のDACプラントを稼働させている。
・カナダ、米国などでもそれぞれ、プラントを稼働させており、日本の商社などが提携している。
・国内でも各企業、大学などが実証実験などを開始している。
4)カーボンニュートラルとカーボンリサイクル
・CO2排出ゼロを目指すことはハードルが相当高く、循環炭素社会が必要。
・CRロードマップとしては分離、回収したCO2を化学品、合成燃料、鉱物などに再利用するための技術開発が必要で、水素の値段が高いのでさらなる研究開発、コスト削減などが必要。
・CO2とH2を合成して製造される合成燃料(e-Fuel)は既存設備が使え、航空燃料、舶用燃料として使える。電動化、水素化に比べてエネルギー密度が高く、期待ができる。
5)CCS(Carbon Capture and Storage) ―ネガティブエミッションの方策−
・日本で動きが加速している。2030年までには民間ベースでCCSをやっていく。2050年までに1.2億トンから2.4億トンを目指す。
・先進的CCS事業として民間が主導してやっていくことを、国も期待している。
・CO2バリューチェーンの構築。
・経産省はカーボンマネージメント課が担当することになった。カーボンニュートラル実現に必要な要素として、社会実装には多面的アプローチは不可欠である。政策支援、社会受容性、市場創出・活性化、産業間連携、国際連携などなどが重要。
6)技術由来炭素除去法(ネガティブエミッション)技術
・世界においてはCO2削減方法の国際ルール化が進行。測定、報告、検証(MRV)の方法論
・具体例としては鉱物化、土壌への固定。
・炭素の削減と除去は区分けされる方向。除去のほうが価値を高く評価されるであろう。
7)まとめ(カーボンリサイクルの意義)
・炭素は貴重な資源であり、資源の少ない日本だからこそ技術開発が必要。
・量は少なくてもすぐに実行可能であり、課題先進国日本ならではのエネルギーミックスを目指す。
・CO2からのエネルギー製造は環境問題、資源問題の同時解決が可能であり、世界のリーダーシップを取っていく必要がある。
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Q & A セッション

Q1: 日本でDACをする場合にはどこでどんな技術、どのように処理するのがいいのか? 
A1:日本でやる場合に、可能であればCCSで埋めていくのが良いが、地元の理解が必要で、それが難しい場合には鉱物化。日本は深く掘れば玄武岩多いので、地中固定ができる。コンクリートと固めるのも半永久的で良いかもしれない。

Q2: 日揮にいた時代水素を作るプラントにいたが、出てきたCO2はコカ・コーラに渡していた。CO2を貯留した後、何かに使えるという事が見えてくるともっと利用をしようと考えるようになるのではないかと思うが、どのように考えるか。
A2:貯留(storage)といっているのは固定化のイメージが強く、簡単に取り出せないようにすべきで、使いやすい形は別の取り出し方がある。石油やガスのように永久的に地下に収まるイメージでストレージといっている。CO2利用するときにはそれに合わせた形態の貯蔵法があり、炭酸飲料として使う場合も、数か月は大気放出されずに固定されていると考える。

Q3: DACは何のためにあるのか?アミン吸収は昔からある。DACは熱力的に一番不利な形で、経済的にはペイしないのではないのか? 
A3:DACは最後の手段かもしれない。この技術は潜水艦や宇宙船内の二酸化炭素濃度を下げるために必要な技術として始まった。CO2が1,000ppmとなると思考能力が落ちてくる。少し簡単に効率よくやれば単純な回収方法ではあるが、数が増えれば効果があるかもしれない。だが大量にやるのは難しいかもしれない。

Q4: 人間は石油を掘って使い放題でCO2を放出した結果がバランスを崩した結果だが、そのCO2はカーボンクレジットとして取引されるというが、どのような形となるか。
A4:政府は飴と鞭を使い分けるが、カーボン削減に対して、欧州では排出権取引が始まっているが、いずれ日本もその方向で動く。すでに再エネで補助金などを政府が出しているが、これはCO2を国民がCO2に対して1トン当たり2〜3万円金を払っていると理解すべき。今後、他でもCO2に値段がついて、実質的には取引されている。
CO2に値段(価値)がついていく。

Q5:CO2は資源になるといわれるが、どのようなものがあるのか。
A5:元総理の安倍さんが、ダボス会議でこのような言い方をした。化学業界のトップは、「CO2はカーボン源、いずれ化石資源がなくなり、日本に入ってこなくなる。化石資源がないと化学メーカーは仕事ができない」と口をそろえていっている。そのための将来を考えるとバイオマス、ゴミ、空気からカーボンを取り出すしかないので、化学メーカーは今からそのことを考えている。
以上  (文責:八谷)

講演資料:DACを含むCO2分離回収・利用技術(CCU)
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2023年12月21日

EVFセミナー報告:東電1F処理水の海洋放出とトリチウム

演題 : 東電1F処理水の海洋放出とトリチウム
講師 : 沼田 守様

元日揮株式会社技術研究所所長
元原子力損害賠償・廃炉等支援機構 執行役員
聴講者数:51名

講師紹介
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・1978年:日揮株式会社入社
・1979年から2014年:原子力及びエネルギー領域の技術開発・技術導入、水素領域技術・水素経済の研究、プロシェクトの運営管理、日揮(株)の技術戦略立案、部門の管理・運営に従事 
・2014年: 原子力損害賠償・廃炉等支援機構に出向。執行役員として東電1F廃炉の技術戦略策定に従事
・2016年キュリオン社日本法人のプロジェクトダイレクター
・2017年:同社執行役社長代行を兼務
・2019年:同社退職
・2022年:株式会社テネックス・ジャパンのアドバイザー

講演概要

1.はじめに

東電福島第一原発(以下、1F)ALPS(放射性物質を取り除いて浄化する多核種除去設備)処理水の海洋放出について、様々な報道がある。しかし、国民一人一人が、ALPS処理水の海洋放出について自分で考ようにも科学的技術的な情報が容易に得られないのが現状である。ALPS処理水とALPSでは浄化することのできないトリチウム(以下、3H )について海洋放出する科学的根拠、技術的知見に基づいた情報をわかりやすく提示する。

2.同位体の表記と放射能・放射線の単位

同位体は元素記号の左上、もしくは右側に質量数を記載することで他の同位体と区別する。放射能の単位はBq、放射線の生体組織への被ばくの単位はSvである。

3. 1Fにおける汚染水

事故後の原子炉は廃炉することに決まったが、様々な課題がある。代表的な課題として溶けた燃料デプリと本講演の話題である汚染水の発生と処理処分がある。燃料デプリは水をかけ続けることで冷却された状態を維持しているが、この水が燃料デプリに触れることで、高濃度の放射性物質を含んだ汚染水が発生する。また、この高濃度の放射性物質を含んだ汚染水は原子炉の亀裂の入っている建屋内に流れ込んだ地下水や雨水と混ざることによって汚染水が増加している。理論上、核分裂生成物は247核種、規制対象となる腐食生成物は20核種である。実際に考慮する必要があるのは、核分裂・腐食生成物併せて7核種である。

4.汚染水に含まれる核種の分離

ALPSでの処理は前処理として、鉄共沈と炭酸塩処理を行い、凝集沈殿させ、さらに水に溶解している放射性核種を活性炭と選択的吸着材で吸着処理して多核種を除去する。ALPSにより3H以外の核種を排出基準値以下にすることが出来ている。

5.3Hについて

水素の同位体で中性子を2個持つ。水中の飛程が6μmのβ線を放出する。日本の湧水、地下水、河川水での濃度は0.4〜6.3 Bq/Lである。3Hは2次処理前の分析結果の一例として851,000 Bq/Lのデータがある。

6.ALPS処理水(3H含有水)の処分の方法

国内外の実績を考慮すると海洋放出が現実的である。ALPS処理水の海洋放出設備は地震対策として、海抜33.5mの台地にALPS、新設逆浸透膜設置、ALPS処理水タンク等か設置された。希釈用海水は港湾外から取水。放水は約1kmの放水トンネル損失に見合う下流水槽の水面高さと海面の高さの差を利用して自然流下させる。

7.ALPS処理水の海洋放出

3Hの放出濃度はWHO飲料水基準の1/7、規制基準の1/40の1,500 Bq/Lに設定。年間放出量は1F(事故前)と同じ22兆Bq/年に設定。3Hの海洋放出例として、仏国ラアーグ再処理施設11400兆Bq/年、中国の陽江原発107兆Bq/年、泰山第三原発124Bq/年であり、1Fと比較して高い。


Q&Ą

Q1:年間海洋放出のトリチウム放出量は国内外の多くの原子力発電所等からの放出量と比べて低いのに、放出量の多い韓国、中国から海洋放出はけしからんとのクレームが報道されているが、それに対する反論が聞こえてこない。反論すべきは誰か。
Ą1:外交問題で別の何かを期待してクレームをつけている。反論するとしたら当事者の東電であるが、ここは、学会か専門家が反論すべきである。話してはいると思うが、マスコミは取り上げていない。マスコミを通して聞こえてこない。

Q2:事故により溶けて固まった燃料デプリが残っている。燃料デプリは水をかけ続けることで冷却された状態を維持しているが、この水が燃料デプリに触れることで、高濃度の放射性物質を含んだ汚染水が発生するとのことだが、燃料デプリもだいぶ冷えてきていると思うので、空冷であれば3Hの生成も少なくなり、少量の海洋放出で済むのではないか。
Ą2:試験はしているが、実用化まではなかなか至らない。

Q3:セシウム吸着塔や ALPS処理で使用された使用済み吸着材など除去された二次廃棄物としての放射性物質はどう処分しているか。
Ą3:放射性物質は高性能容器に保管され、一時保管施設へ輸送後に貯蔵されている。ジオポリマー(セメントに似た新材料)でゼオライトを水ごと固める安全に保管する技術などが検討されている。

Q4:稼働中の原子力発電所の低レベル放射性廃棄物の処理・処分はどうなっているか
Ą4:気体廃棄物は、フィルタを通したり、減衰タンクやホールドアップ塔で放射能を十分減衰させたのち、安全を確認したうえで大気中に放出している。液体廃棄物は、種類に応じて蒸発装置、洗浄廃水処理装置などで処理する。濃縮廃液はアスファルトやセメントで固化し、または焼却し、ドラム缶に詰めて発電所内の貯蔵庫で厳重な管理のもと保管する。浄化水はできるだけ再利用する。放出するものは、安全を確認したうえで冷却用海水と共に海中へ放出する。固体廃棄物は、可燃性のものは、焼却してドラム缶に詰める。不燃性のもののうち、圧縮できるものは圧縮してドラム缶に詰め、圧縮できないものはそのままドラム缶に詰め、ドラム缶に入らないものは梱包体にする。ドラム缶や梱包体は、厳重な管理のもと、発電所構内の貯蔵庫に保管する。ドラム缶に詰めた廃棄物は、原子力発電所に保管した後、六ケ所村にある日本原燃の低レベル放射性廃棄物センターに運び埋設処分している。

Q5:トリチウムは濃縮して保管しておいて、核融合に使用することはできないか。
Ą5:核融合発電にとってトリチウムは重要だ。重水素とトリチウムの核融合発電を目指している。1F処理水からのトリチウムを濃縮しても量が少なく、半減期も短いので経済的に成り立たない。現実的でない。

Q6:用語の解説をお願いする。告示別表に定める線量限度等を定める告示。減衰補正後濃度が告示限度の1/100を上回る核種とは何か。
Ą6:燃料に由来する放射性物質、腐食生成物に由来する放射性物質共に、ALPS処理設備の稼働時期が原子炉停止後より1年後になると想定されたことから、半減期を考慮し原子炉停止365日後の滞留水中濃度を減衰補正により推定した。減衰補正により得られた原子炉停止後365日後の推定濃度が告示濃度限度に対し、1/100を超える核種を滞留水中に有意な濃度で存在するものとしてALPS処理設備の除去対象核種として選定した。なお、1/100以下となることから、除外した核種の推定濃度と告示濃度限度との比の総和は、最大で0.05程度であることから、除外した核種の濃度は十分低いものと考える。

Q7:トリチウム処理水海洋放出に関して多くの関係者の努力が国内に伝わらない一因として政府・東電に対する不信も相当含まれると感じている。その点でIAEAにその監視機能を置きまた発信することは国内・海外に対して有効なアイデアだと思うが、
Ą7:政府・東電に対する不信があるのは、自然かつ当然と考える。なぜならば、東電は事故を起こした当事者であり、避難指示を出し、避難者に苦痛を与えたのは国だからである。そして、過去に国及び東電が原子力は安全であると言って地元に説明して導入したわけだから。IAEAは与えられたタスクを報告する義務があるので公開する。ただ、それを広報的に使っているのは日本政府であり、東電である。東電や日本政府が自分たちの取り組みを直説説明するよりも、IAEAの評価は第三者による評価であるので、東電や国より信用されるものと思う。IAEAレビューのスコープは、日本政府からの要請やIAEAのタスクフォースの権限に基づき、東電1FにおけるALPS処理水の取り扱いに関する日本の基本方針の実施について、IAEAの国際安全基準に照らして安全面の評価を行うことに特化されている。監視機能があるわけでない。

Q8: IAEA がALPS処理水のモニタリング以外に対象を広げることは意味があるか
Ą8:廃炉の手順とか内容をIAEAにレビューしてもらったらよいのではないか、ということであれは、現段階では不要と考える。実施予定の内容は事前に戦略プラン(英文、和文)で公開され、規制庁にも説明され、規制庁で確実に反映されて作業が行われている。戦略プラン策定には複数の海外の専門家も加わっている。また、地元での定例会議においても説明がなされ、もらったコメントが廃炉作業に反映されている。

                               文責 立花賢一
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2023年11月22日

EVFセミナー報告:台風を脅威から恵みに変える〜台風科学技術研究センターの紹介〜

演題:「台風を脅威から恵みに変える 」 〜台風科学技術研究センターの紹介〜
講師:満行 泰河( みつゆき たいが) 様

横浜国立大学 大学院工学研究院 システムの創生部門 准教授
日時:2023年11月22日(木)14:30〜16:00
場所:新宿NPO協働推進センター501会議室
聴講者数:48名

se20231122.jpg講師略歴:
2014年3月 東京大学 大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻 博士課程修了 博士(環境学)
2014年4月 東京大学 大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻 助教
2015年4月 東京大学 大学院工学研究院システム創成学専攻 助教
2018年3月 横浜国立大学 大学院工学研究院 システムの創生部門 准教授
2021年10月 横浜国立大学 台風科学技術研究センター 副センター長

概要報告:

・2050年には台風を脅威から恵みに変えるという、タイフーンショット計画の実現に向けて、横浜国立大学総合学術高等研究院では台風科学技術研究センターを立ち上げ、様々な角度から台風に関する研究を行っている。 本講演では、タイフーンショット計画の一つの柱である台風発電に関する研究を中心に、現状の成果と今後の展望について紹介いただいた。

・満行先生は、自称現代っ子というだけにまだ37歳の若さであるが、日本のみならず東南アジアの国々が今もそして今後も直面する超大型サイクロンの脅威を台風のエネルギーを削ぐ、さらにはそのエネルギーで発電し電力を得るという意義あるプロジェクトをポジティブかつスマートなキャラクターにより地球温暖化研究等の大家を短期に巻き込みながら、しかも楽しく進めていることがよく伝わる勢いのある講演であった。

・地球温暖化問題やエネルギー起因ともいえる国家間のエゴが渦巻く現状ではありながら2030年、2050年を生きていく次世代が軽やかに対処していく姿を目の当たりにして会場からのQAも 愉快だった、エールを送りたい、など気持ちがこもっていたのが印象的であった。

・元々の専門である船舶工学の知識を土台に洋上風力発電をテーマに研究をされていたが、最近になって大型化する風車のプロペラは風力が強すぎると破損の恐れがあり折角のエネルギーを利用できないというジレンマがあり、そこを突き詰めて台風の勢力を弱める、さらにはエネルギーを得て恵みにするという思いを抱いた。また、それを大学が支援する形で台風科学技術研究センターが設立された。センター設立式のテレビ報道を見るまではドッキリ番組のように感じていたので実感が湧かなかったそうである。先生からこれだけは覚えていてほしいというメッセージは以下2点

・一点目はタイフーンショット計画である。 タイフーンショット計画が提案する2050年の社会は、気候変動の激甚化、災害大国日本ではなく、台風エネルギーの恵みによって自然エネルギー大国、脱炭素社会日本となっている。そのターゲットは、@無人航空機による人工制御法の開発、A無人船舶による台風発電技術の開発。社会的意義は、@安心な生活への貢献、A脱炭素社会への貢献、B技術大国日本の復活、C人材育成である。その結果、天気予報と同様に台風予報がなされ発電量が報道されしかも被害はゼロ。そしてそのノウハウは東南アジア諸国にも伝わっている。

・二点目は、その母体としての台風科学技術研究センターの設立TRC(Typhoon Science and Technology Research Center、2021年10月立ち上げ)である。日本の台風に関する知見の下で、台風のメカニズムを解明するとともに防災減災を目指す。

・TRCの組織は次の6つのラボからなり最先端の知見が産・官・学、理学・工学・人文科学等多様なステークホルダーと協働する。その研究領域は@台風観測ラボA台風予測ラボB台風発電開発ラボC社会実装推進ラボD地域防災研究ラボE台風データサイエンスラボであり、センターの目指す台風発電のコンセプトは、そのメカニズムと高精度予測を活用した未来の海上移動式・発電・蓄電・送電システムの技術開発である。ラフな試算ではあるが、台風発電船100隻で日本の再エネ電源の約3.6%を賄える。

質疑応答

Q1希望に満ちた楽しい講演であった。太陽光発電は比較すれば構造が単純だが、洋上風力発電はメカニズムを開発し機械工学的に進めるということなので台風発電もその延長として日本の強みが生きるのでは?
A1洋上風力発電は着底式から浮体式かつ大型化(15MW級)に進化している。浮体については、日本は大変強いが残念なことにキーとなるブレードを作る会社が撤退したので悔しい思いがある。今後その技術を育てること、そして稼げる事業にしていく必要がある。つまり産業育成が必要だがそれは技術よりも難しくご支援をお願いしたい。

Q2ジェーン台風(昭和26年)を大阪で経験した。陶器食器が入った洗い桶が風で舞い上がったのを母親と見た。当時は風速46m/sと発表されたが個人的には90m/s位あったのでは思っている。
A2 確かに過去のデータは、計測手段や統計手法が今と違っているので(平均評価など)現在は、気象学の先生方によって必要な見直しがされている。宮崎県出身なので台風銀座ではあったが外で遊んだ記憶があり当時は(今と比べれば)弱い台風だったと思う。

Q3 2050年を生きる次世代からの明るい話題で楽しかった。温暖化により極端気象(風速 50m/s超)が増える一方で穏やかな気象も増えるという理解は正しいか。(正規分布の中央値はやや増えるがそれよりもすそ野が広がる影響が出ている)
A3 まだ不明な部分はあるが、個人的な推測としてはYes である。2019年に超大型台風が頻発したが今年はない。笑い話だが保存した非常食菓子パンを食べることが家庭でもあるようだが補充も忘れないように。防災関係の先生方ともこの話題はよく出る。なかなかむつかしいが台風に限らず本当に油断禁物である。

Q4 長年ヨットを趣味としている。横風を食らうとひとたまりもない。台風発電船はどう対処しているのか。また、台風は進路を変え乍ら移動するため追跡が難しいとあったが、行きつく先のオホーツク海で捉えるのもよいのではないか?
A4 横波について最近の研究で分かってきたこととして帆が1枚ではなく翼列として10枚あると風の迎え角が真横からずれてくる。また、発電船のプロペラは入港できる港がないほど大きいため重心も低く安定性に有利。一方で横転させた後で復原させる案もあるが、そこまで条件を広げると波力発電も視野に入る。現在実験中なのでいずれについても近いうちに定量的な議論が始められると思う。オホーツク海のアイデアはその通りで、国際状況も考慮すべき難しい課題であるがその準備は怠ってはいない。

Q5台風が多い高知で育ったが50年近く住む東京では直撃が少ない。温暖化の影響で台風の進路が西寄りに変わったように思う。メカニズムにもよるが、台風の進路の先で海面上での蒸気化を防ぐことで進路変更ができるのではないか?
A5 台風の発達メカニズムついてはほぼわかっていて、蒸発を止めるために海面をカーテンで覆うという技術的な解決案も考えられるが、台風が来なくなると水枯れを起こすダムや地域もあるため強すぎる勢力を削り取るのが妥当という方向で落ち着いた。倫理的な面/ELSIも含めた課題である。(Ethical, legal and social issues)

Q6 ウインドハンター船では発電電力により船内で海水の電気分解を行うとあった。海水の電気分解は電極の耐久性も課題であると聞く。もしそうなら 現在静岡でエイエイディ社(AAD社)、清水銀行、東海大学の研究開発中の内容に関するEVFセミナーを来年5月に行う予定でありまた情報提供もできる。
A6大変ありがたい。現在検討中の課題である。ぜひ事務局を通してその新聞記事を送ってもらいたい。本日の最大の収穫かもしない!

Q7 台風や地震など災害防止に関して国立大学に対する政府の援助は乏しいのではないか?
A7 正直そういう面もあるが、そのような状況でも研究進歩はある。気象関係では台風の進路予測は今年から予測半径が1/3になった。世界にない大きな進歩である。予算獲得は、結局は国民の後押しで決まると思う。
文責:寺本正彦

講演資料:台風を脅威から恵に変える
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2023年10月27日

EVFセミナー報告:再生可能エネルギーの活用における蓄電技術の現状と課題

演題:「再生可能エネルギーの活用における蓄電技術の現状と課題」
講師:三田 裕一様
一般財団法人 電力中央研究所エネルギートランスフォーメーション研究本部 研究統括室 上席研究員
日時:2023年10月27日(金)14:30〜16:00
場所:新宿区NPO協働推進センター501会議室
聴講者数:51名

講師紹介:
20231027.jpg
・1990年:早稲田大学大学院 理工学研究科修士修了
・同 年:財団法人電力中央研究所に入所、主にリチウムイオン電池の寿命評価試験、二次電池システムの性能評価試験等に従事.
・2021年7月より現職.


[講演概要]

1.カーボンニュートラル(以下CN)に向けて:
<世界的に再生可能エネルギーの導入が拡大し,需要と時間的・空間的なズレが増大。蓄電技術の効果的な導入がCN実現のキー>

・「第6次エネルギー基本計画(2021年10月)」で見直しされ、再エネ比率は2030年で36〜38%程度、火力発電所の構成比は石炭(19%程度)と天然ガス(20%程度)で低下(△26%)。系統安定化技術の高度化、太陽光発電・風力発電の供給力確保、既存エネルギーシステムの最大限の活用が必要。

・「CNの方向性」は、省エネ・電化・電源の脱酸素化・水素化等で進めるが、2050年段階で全部を非化石化することは難しく、CO₂を回収・貯留するネガティブエミッション技術も含めてトータルとして実現する方向性。

・「CNを実現する将来の電力系統」には、新たに送電線が必要。また需要地近郊の配電系統と基幹のメイン系統をマッチングさせて動かすこと、需要地での地産地消が必要。

・「太陽光発電の課題」は、発電効率や利用効率が高くないこと、エネルギー電源として発電予測が必要なこと、特性として、日没で急激な変動があり「ダックカーブの懸念」がある。

2.電力の安定供給:
<蓄電池(二次電池)は,電力の供給と需要の両サイドで活用>

・「電力広域系統のマスタープラン(ベースシナリオ)」(電力広域的運営機関OCCTO)で、試算が示されている。

・「安定した高品質な電力供給」は、電力会社が安定したポリシーで需給調整をすることで,電力の品質としての電圧・周波数を維持している。

・「需給調整市場の整備」について、2024年にフルオープン予定。ビジネスチャンスとして、蓄電池の大量設置計画が立てられている。

・「慣性力の維持:再エネに蓄電池とM-Gセット」は、電中研も提唱。回転発電機を介することで、系統から見ると同期発電機に見える。

3.電力貯蔵システム:
<多様な蓄電池を適材適所の利用>

・「電力貯蔵技術の役割」には、系統安定化、需要と供給の時間的シフト、調整火力の補助、負荷平準化、またバックアップ電源等が期待されている。

・「電力システムでの蓄電利用(例)」は、他のエネルギーシステムとの組合わせで便益が出る。

・「各種エネルギー貯蔵技術」で真っ先に挙げられるのは、蓄電池(二次電池)。他の貯蔵技術として、揚水発電、重力エネルギー貯蔵、海洋インバースダム、圧縮空気エネルギー貯蔵等がある。

4.定置用蓄電池:
<電気自動車は充電の集中が懸念されるが,V2Xの活用も期待>

・「2030年までの世界の蓄電システムの累積導入量予測」は、世界全体だと350GWが導入される予想。アメリカと中国が大量に導入する計画。

・「利用されている電力貯蔵技術」は、リチウムイオン電池の導入割合が大幅増加。

・「再生可能エネルギーの今後の推移(2023年度供給計画)」は、圧倒的に太陽光が多く巷で言われてるほど蓄電池は導入されていない状況。

・「定置用蓄電システムの設置場所とユースケース」では、組み合わせて多用途対応(マルチユース)の実現が重要になる。

5.リチウムイオン電池:
<現状、リチウムイオン電池の劣化診断、残存価値の評価技術を活用して最大限の活用が不可欠。全固体電池は課題が多いが、期待は大きい。>

・「リチウムイオン電池の特徴」は、様々な電池があり形も多様。弱点は使用する電解液が可燃性(消防法の危険物)で、大量の使用には離隔距離を取る必要がある。(日本での事故例はないが、韓国でMW級蓄電池の火災事故が頻発。安全基準の整備などの対策が取られている)

・「運用条件(電池の使い方)と電池劣化」については、安定して長期で運用するために、「寿命の見える化」が必要。

・「EV循環による低コスト化・資源確保」について、中古自動車の大半が国外流出していること、リサイクル技術がまだ確立できていなくて事業化が難しい問題がある。国内に市場がない一つの原因として、現状では,中古EVの残価が判断できなくて公正な評価ができない(技術,制度がない)課題がある。

・「全固体電池の特徴と課題」について、次世代蓄電池として全固体リチウムイオン蓄電池が期待されている。一番は可燃性のものではないということ。一方、本当に大電流で充電できるのか、寿命についても短いという課題がある。

【質疑応答】

Q1:蓄電池の単位がMWとMWhが出てくるが、MWhが正しいか?
A1:電池はアワー(MWh)で示される蓄電可能なエネルギー量で評価するのが基本。ただ電力設備がほとんどワットなので、使われ方の最適運用の評価となるとワットを明記しておく必要がある。

Q2:蓄電池は電気を貯めるだけなので、再エネに入れるのはどういう考え方か? 
A2:再エネの中に入っている場合は、個人的な捉え方だが、何かと組み合わせて使うので蓄電池も入れてもらっていると理解している。

Q3:電圧調整とかサイクル調整とか需給調整をどうやって調整しているのか?
A3:電力会社にそれぞれ中央給電指令所(中給)があり、各電力会社が自身のエリアをコントロールしているのが原則。中給から遠隔で操作し微調整をしている。電力広域的運営機関OCCTOが、決まり事とか常に協議をして連携を取りつつ対応している。

Q4:電中研さんが提唱されているM -Gセットで、その中のモーターは電気自動車もハイブリッドも100kWだが、そのうち1000万台になると思う。そのモーターは使用後全部使えないのか?
A4:システム的な規模感でいうと、系統屋さんは100メガとか1ギガの単位でオーダーを考えている。電気自動車のモーターを多数接続して運用することになり,統合的な制御技術が必要になるため容易ではない。一方,電池については,使用済みの電池は結構バラバラな特性なので、ばらつきがある電池を全部同期しながら一体として動かす制御技術が重要になってくると思う。
文責:井上 善雄


講演資料:再生可能エネルギーの活用における蓄電技術の現状と課題
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2023年09月29日

EVFセミナー報告:波力発電の現状と平塚市の取組み

演 題 :「波力発電の現状と平塚市の取組み」
講 師 :堂谷 拓 様
 平塚市産業振興部産業振興産業活性化担当 主査
日時:2023年9月29日(金)14:30〜16:00
場所:新宿
NPO協働推進センター501会議室
聴講者数:48名

講師略歴:
• Stony Brook University卒 BS Biology
• 首都大学東京(現東京都立大学)社会科学研究科博士前期課程修了(経営学修士・MBA)
• 政策研究大学院大学科学技術イノベーション政策・経営人材養成短期プログラム(修了)
• 平塚市産業振興部産業振興課産業活性化担当主査
• 平塚海洋エネルギー研究会を東京大学生産技術研究所林研究室と立ち上げ。波力発電の産業化、キャッシュレス決済サービスの実証実験などに従事
• 東海大学総合社会科学研究所研究員

概要報告:

・波力発電のポテンシャル:波力発電開発可能量は、砂浜海岸の距離の10%を開発した場合で見積もって3.6GWと見込んでいる。エネルギー基本計画の2030年度におけるエネルギー増加可能見込みの地熱0.9GW、水力0.7GWに比べても発電量は多い。
平均の波パワーは、日本海側は夏冬の変動が大きく、太平洋側は変動が少ない。波のエネルギーは沖合に行くほど高くなるが、沖合の波は振れ幅大きいこと、色々な方向から来るのに対し、沿岸では波のエネルギーが想定できること、一方向であることから、ウェーブ・ラダー型に適している。

・ウェーブ・ラダー型波力発電の開発経緯:船の操舵装置を逆利用したウェーブ・ラダー型波力発電の発電機構は、波によるラダーの揺動を油圧シリンダーの往復運動に変換し、オイルモーターを回し直結する発電機を回すシステムになっている。
ウェーブ・ラダー型波力発電は、文科省プロジェクトで岩手県久慈発電所が2016年に日本で初公開された。この初期型の発電所は発電効率が良くなかった。
第2世代として、2018年〜2021年環境省プロジェクトで平塚発電所では、発電効率を上げるために反射板を設け反射波を活用、ラダーを大きくし吸収できるエネルギーを大きくした等の改良、コスト削減を行った。国プロはプロジェクトが終わると撤去しなければならないので、現在は撤去されている。
第3世代では、国プロではなく資金調達して、発電所設置までの全体の低コスト化を図る。パワーテイクオフ装置(エネルギー変換装置)を小型化し量産可能なものにする。高回転可能なEVのモーターの活用。施工時は、起重機船をチャーターすると高額になるため、セルフエレベータープラットフォームを海底につけて船を浮かした状態で工事をする(洋上風力で利用しているものの小型版)等を検討しており、2023年度中に陸上試験が終了、2024年度以降資金が集まり次第、平塚海域で実証試験予定である。

・波力発電を取り巻く状況と平塚市の立ち位置(実績と政策論):波力発電は総合知の積み上げと人材育成の両立が課題。海洋土木、強電、機械等総合的に見れる人材が必要であるが、一方で、原子力強化にかじ取りされた時代に、大学の海洋エネルギーの専門家の多くが引退した。国プロは3年間で採択から撤去までを行わなければならず、実験期間が不足で知識の積み上げが難しい。平塚市は、環境省プロジェクトの前に3年間の内閣府の地方創生加速化交付金・地方創生推進交付金を活用し、波力発電の場所の確保、設計を終了させたため、実験実証の時間を確保した。実施体制は、東京大学を代表とし、14社が参加する平塚海洋エネルギー研究会を設立した。自治体も知識を作るところに入って、色々な分野の人たちとの議論から知的対流を起こすことにより、公共の課題解決にもつなげていく。
波力発電の商用化を目指すため、大学を中心とした開発実証から事業化を加速するために、
ベンチャーのコンサルティング企業e-ウェーブR&Dを設立。プロジェクト管理を東京大学からe-ウェーブR&Dに移行。3〜4年で技術移転する。
資金面では、内閣府が主催する「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」企業版ふるさと納税で、ヤフー株式会社が「地域カーボンニュートラル促進プロジェク」寄付先として選定したことで、注目が集まっている。今後は、寄附型のクラウドファンディング等の検討もしている。
また、国際エネルギー機関のオーシャンエナジーシステムズ年次報告(2020)に、平塚の取り組みがmajor successとして取り上げられ、波力発電は、プレコマーシャルの壁を超える段階に来ている。国産技術での再生可能エネルギー開発は、エネルギー安全保障上重要であり、第3世代の波力発電の実証に取り組んでいる。

Q1 波力発電のポテンシャルを理解したい。波が板に当たる圧力をエネルギーに変えるのか、位置エネルギーを変えるのか。発電効率はどのくらいか。効率を上げるポテンシャルはどのくらいあるか。
A1 波の運動エネルギーを油圧に変えて発電している。エネルギー変換効率は、油圧への変換効率 80%、電気に変換+電線で効率は50%くらいになる。
効率を向上させるためには、蓄圧器を外すことが油圧の効率を上げるのに重要。沿岸域は電線が短くて済むためコストが下がる。平塚では海中は通さず、発電所からアクセス桟橋を通って防潮堤沿いに電線をとおしたので、沖合よりも効率良くできた。

Q2 離岸流はエネルギーにならないのか。
A2 考え方は潮流発電に近い。波は上下運動はするが流れはない。
ウェーブラダータイプは離岸流を受けると傾いたままで発電が止まってしまう。プロペラタイプがよく、そのタイプを研究しているグループもある。平塚の発電所は防波堤の沖合20mくらいにあった。

Q3 ウェーブラダーではパルス状の電流しかでないと使いにくい電力ではないか。
A3 平塚のものは低圧接続でパワーコンディショナーを介したので電気のクオリティを担保できているが、大型化していくときに波の発電は正弦波になるので、正弦波同士を重ね合わせるように発電所を設置できないか考えている。1/4周期ずらして並べるアイデアを持っている。

Q4 気候変動が波力発電に将来影響でてくるのか。
A4 気候変動の影響は、波が強くなることについては、発電自体にはプラス方向。海面上昇が懸念される。潮位から何m上に発電所をおくことを最初に決めるので、水位が変わると効率も変わってしまうし、場合によっては、高波で機械が壊れる可能性もある。

Q5 発電された電力を送電線で送るのではなく、蓄電しておいて定期的に船が回収する方法は可能性あるか。
A5 現実的にはあり得ると思われる。台湾のコンサルから、沖合の洋上風力で潜水艦が電線を切ってしまうケースがあるとのこと。線を出しっぱなしも危険性があるので、蓄電して船で運ぶとか、人の目が定期的に入ることは今後重要になってくると思われる。

Q6 知的対流、発信の重要性について、欧州では論文発表をして課題を前に進めることがあると思うが、日本では発表の場がない。エネルギー学会では個々の部品は知らない、海洋学会は建物はしらない、日本の学会がこうなっているが、どうやって突破するのか、悩まれていることがあれば教えて欲しい。
A6 興味を持って考えてるところ。こうあったらいいなと具体的なものは描けていないが、東大の先生と話していると、学問の領域では細分化して精鋭化させていかないと生き残れない。大学に求めても難しいのではないかと言われた。総合知と書いたが、東大の先生は、電力中央研究所にいたが、専門は海洋土木で、役柄いろいろな発電に関わり、発電所を作ることはどういうことかの知識を網羅することができた方。仕事のキャリアで偶然出来上がったのが日本の実態。
偶然ではなく、意図してこのような人財が生まれるようなシステムを考えていかなければならないと思う。学際的なつながりをそれぞれ学会ごとで分科会を作って、発電所の学会を作って各学会を集めて提案していくしかないか。知識を作るときの方法で2種類提唱されている。
学会のように従来の知識に基づいて新しい知識を上積みしていくものと、創発みたいな形で、バックグランドが違う人が集まってその場で思いついた知識で、その場限りでその人にしか残されない知識。後者の知識を見える化し、誰でも使えるようにしていくことが今後重要と考える。
東海大で肩書をいただいているのは、行政の立場で研究会の中で公開できるものを公開していく。なかなか難しいですが。

Q7 日本の漁港は2800か所ある。港の近くの防波堤に波力発電を作ることはよいアイデアだと思う。6つの柱で計画している波力発電は何kWか。  
A7 70kW発電機2機で140kWを想定している。

Q8 波力発電の設置費用は他の発電に比べるとどの程度か。風力・太陽光発電のコストに比べるとどうか。
A8 風力発電の高かったことに比べて倍くらいのコストがかかる。インフラにそのままのせることが可能になれば、ジャケットの製作コストがいらなくなる。インドネシアの場合は、石油を掘っていた井戸があるので、そこに設置させればコストは抑えられる。

Q9 漁業の方から反対はないのか。
A9 平塚は漁業者がさばけていて、新し物好き。フレンドリー。最初心配していたが、もともと漁業をしていない場所であった。遊漁の方は、観光船的に、釣りに来たお客さんに発電所を話題にしてくれる。理解がある。
文責:白橋 良宏

講演資料:波力発電の現状と平塚市の取組み
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2023年08月25日

EVFセミナー報告:ウクライナ戦争と歴史の転換点

演題:「ウクライナ戦争と歴史の転換点」
講師:天江 喜七郎 様  元駐ウクライナ大使
    大塚 清一郎 様  元駐スゥエーデン大使
日時:2023年8月25日(金)14:30〜16:00
場所:新宿NPO協働推進センター501会議室
聴講者数:62名
講師略歴:
天江講師略歴:
・1943年 仙台市県生まれ 一橋大学卒
・1967年 外務省入省  在ソ連日本大使館勤務、冷戦時代のモスクワを経験
・在外ではイラン、英国、韓国、ソ連/ロシア、米国(ホノルル総領事)、シリア(大使)、ウクライナ/モルドバ(大使)
・国内では、北米局(沖縄返還)、調査部、欧亜局(ソ連関係)、国連局(課長)、情報文化局(審議官)、中近東アフリカ局(局長)、関西担当大使(大阪)
・2007年退官後は、同志社大学客員教授、国立京都国際会館館長、KDDI社外監査役等を歴任
・現在、茶道裏千家淡交会顧問、日本国連協会評議員、合気会理事、京都日韓親善協会会長、ウクライナハウスジャパン共同代表ほか

大塚講師略歴:
・1966年に一橋大学商学部を卒業し外務省に入省
・1991年初代エディンバラ総領事に就任
・1997年からニューヨーク総領事(大使)
・2004年から駐スウェーデン兼ラトビア特命全権大使
・2007年退官

概要報告:
ロシアによるウクライナへの侵攻が始まってから1年半以上が経過し、本講演の5日前には、民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏の飛行機事故による死亡が伝えられるなど、ますます混迷化するウクライナ戦争。この戦争の背景と行方、国際社会に与える影響などについて、元ウクライナ駐在大使であり冷戦時代および崩壊時のソ連での駐在経験もある天江喜七郎氏にご講演いただき、また、元スウェーデン駐在大使の大塚清一郎氏にコメントをいただいた。

天江氏は、ウクライナ戦争の本質は、ロシアにとっては「大ロシア復興戦争」であり、ウクライナを歴史的にロシアの一部と看做すプーチン大統領にとって、ロシア帝国とはロシア、白ロシア、小ロシア(=ウクライナ)であり、ロシア帝国(ソ連)時代に戻る必要があると考えているとみる。ソ連崩壊を20世紀最大の地政学的カタストロフとみるプーチン大統領にとって、NATOの東進(旧東欧諸国の加盟により2022年現在30か国)、ロシアと中欧を結ぶ要衝という地政学的にも重要なウクライナのNATO加盟は受け入れることができないものであるとみる。一方、ソ連崩壊により形式的には史上初めてロシアからの独立を果たしたものの未だロシア依存から脱却できないウクライナにとって、ロシアから名実ともに決別し、歴史的、宗教的にも近いポーランド同様ヨーロッパの一員となることがウクライナが向かうべき道であり、ウクライナ、ゼレンスキー大統領にとって、これは「独立戦争」であるとみる。
ウクライナ戦争は決して「局所的な内戦」ではなく、歴史的な転換点である。「ヒト、モノ、カネ、サービス」の自由な流れが阻害され、国際機関の機能不全(国連における拒否権の存在)が改めて露呈し、超大国の武力による秩序破壊が行われたという点で、グローバリズムの終焉であり、国益第一主義による対立が鮮明化し、不安定化時代が到来したのである。
東アジア情勢においても、既に北朝鮮の核・ミサイルの実践配備が進み脅威が増し、米中の対立が激化するなかで、中ロ朝「同盟」と日米韓「同盟」の新冷戦の様相を呈しており、日本が中ロ朝のターゲットとなりつつある。
このような国際情勢、ウクライナ情勢のなかで、日本はどうするか。外交による局面打開しかない。相手国の善意のみで平和を保つことはできず、専制国家は武力行使を躊躇しないという現実的な認識のもとに、日本の安全保障(防衛力、国民意識、外交力)を強化することが重要である。

続いて、大塚元大使から、コメンテーターとして、全体的に天江元大使の視座に与しつつ、ジョークを交えた率直な語り口でウクライナ戦争について、お話いただいた。大塚氏のコメントは、以下の3点。
@ウクライナ戦争は、「邪悪な独裁者プーチンの戦争」であり、プーチン氏の「終わりの始まり」、プーチンが築いてきた「ロシア帝国」の没落の始まりでもあると見ている。
A一方、アメリカ、ロシア、ウクライナそれぞれで大統領選挙が行われる2024年までは、戦局が大きく動く可能性が低く、最近は一進一退の消耗戦の様相を呈している。西側・ウクライナの戦略においても、ロシアを「ジリ貧」(大塚氏の語)に追い込みつつも、決して「ドカ貧の壁」(同)に追い詰めない「匙加減」が重要ではないか。ロシアは、ウクライナが「クリミアを奪還するような事態」をロシアの国益を危うくする「ドカ貧の壁」とみなす可能性があり、そのような場合には、プーチンは戦術核のボタンに手を伸ばす誘惑に駆られる可能性があるので、そういう事態にさせない様な戦略上の舵取りが重要である。
Bウクライナ戦争は「対岸の火事」ではなく、日本の安全保障にも影響がある。北朝鮮、中国から、ロシアという専制主義国に対峙する日本としては、当面最も重要なことは、「抑止力の強化」である。これには、「日米同盟の強化」、「日米韓3国による安全保障協力の強化」が肝要だと思う。更には、ドイツが既に始めている「米国との核シェアリング」を日本も検討すべきではなかろうか。


Q&A
Q: ウクライナ戦争は中国にとって、どのような意味があるか。
A(天江): 中国にとっては、反面教師であろう。台湾進攻にも影響があるだろう。一方、専制主義と民主主義の対立が先鋭化するなかで、ロシアが弱体化することを「ほくそ笑んでいる」かもしれない。

Q:  極悪非道でならず者のプーチン大統領は残虐な行為を次々とやっているが、ロシアの一般国民はどうとらえているのか?次回の大統領選挙でプーチンが再選されたらこの残虐行為を国民が支持したということになるのか。
A(天江):  極悪非道というのは西側の評価であって、ロシアでの評価は全く違う。モンゴル帝国、ナポレオン、そしてヒトラーのドイツ等、ロシアは幾度か外敵に侵略されている。第二次大戦の時は、ドイツの犠牲者500万人に対してソ連は2,300万人もの国民が犠牲になっている。従って、ロシアでは民主的で物わかりの良い指導者よりも、権威的であっても外国の侵略から守ってくれる強い指導者を求める傾向が顕著。次に、ロシア国内では情報統制のため、我々が得ているウクライナ戦争の実態を知らされていない。従って、来春の大統領選挙では、プーチン大統領が圧倒的多数で再選を果たすと見られている。もし、ウクライナ戦争でロシアが占領地域を大きく喪失するとかロシア兵の犠牲者が多く出るような場合には、プーチン大統領の支持率は下がると見られます。他方、大統領選挙で対抗馬がいない以上、選挙民がプーチン大統領に不信任を突きつける可能性はほとんどない。
ロシア国民、特に中年以上は、ゴルバチョフからエリツィン大統領にかけての未曾有の経済破綻と、プーチン大統領就任後の経済回復を体験している。プーチン大統領の支持率が、ウクライナ戦争後でも70パーセント台で高止まりしているのは、上記の理由による。

Q: プーチン大統領の支持率が下がり、選挙で正当に選ばれた後継者が和平の道を進むというのは、「平和ボケ」したシナリオのようで、しかし、西側の支援を受けた軍部あるいは反政府組織が政権の転覆を図るというのも非現実的な感。本当に終結の見通しが見えない。選挙で「正当に」選ばれたトランプ大統領がウクライナを見捨てるほうが現実に近いのではないか。
A(大塚): プーチン氏は、間違いなく再選されるだろう(選挙プロセス、結果の操作は当然のことだが)。問題は、再選後のプーチン氏が国内の引き締め、総動員令などにより、戦力増強した上でやるに違いない、次の「大攻勢」が戦局全体にどう影響するか。この点が要注目。
ロシア脱出者の動向
ロシアによるウクライナ侵攻開始以来、1年半で既に970万人(西側の数字は過大評価だが)のロシア人(若者、実業家など)が国外に脱出して(東京都の人口に匹敵。ロシアの労働人口の約13%)、深刻な兵士不足などに陥りつつあること。これは中長期的に、ロシアの国力低下に繋がることなので、プーチンも苦慮しているに違いないだろう。
アメリカでの「トランプの再選」
実に嫌なシナリオだが、あり得るシナリオなので、要注意。ただし、仮にトランプが再選された場合、対ウクライナ軍事支援の削減はあり得ても、NATOとの亀裂覚悟で「ウクライナを見捨てる」ような拙劣な動き(それこそ拙劣の極み)は出来ないだろう。アメリカの良識は、そう易々と「振り子」の「馬鹿げたぶれ」を許さないと期待したいところである。

Q: プーチンがバカではないとしたら、プーチンも、ウクライナ、あるいは西側諸国に関して、相手の意見に同意はしないけれども、相手の意見も尊重すべきではないのでしょうか。現状ではプーチンは「ウクライナという国は存在しない」としているわけですから、相手の意見は無視していることになるでしょう。言い換えると、外交による局面打開を」のなかの「非合意の合意(agree to disagree)」という外交・対話の土俵に、まずはどうやって強硬なロシア、プーチン大統領に上がらせ、そのうえで「非合意の合意(agree to disagree)」を達成するのでしょうか。

A(天江): Agree to disagree に関する私個人の考察は以下のようなものです。
人間は誰でも、顔かたちも違えば、考え方も異なる。その中で、家族を作り、徒党をくみ、団体に所属し、国民を形作っている。それが国民国家を形成すると、そこに他の国民国家との違いが出てくる。国益と国益が対立し戦争になることは歴史の示すところである。
他方で、人間は他の動物と異なり理性を備えている存在である。感情的な諍いも理性でコントロールして、秩序を乱すことなく平穏に生活する知恵を備えている。
Agree to disagree は感情や利害に基づく対立を止揚する理性的な対応であり、話し合い(交渉)の第一歩。
例えば、北朝鮮。なぜ北朝鮮は日本政府の話し合いに応じようとしないのか?原因は拉致問題など様々だが、北朝鮮には北朝鮮の言い分がある。更に、民意とは関係のない独裁政権だから、金正恩が首をタテに振らない限り日朝両政府が正常化交渉に入ることは考えられない。
他方で、両国は国連加盟国である。NYの国連本部のみならず、ジュネーブやウィーン、ローマなど国際機関があるところでは、両国の外交官が会議の席で顔を合わせることは普通。もとより、平壌からは「日本政府とは一切接触するな」との指令が出ている可能性があり、会議の席で顔を合わせても一切握手もしない状況かも知れない。

私(天江)が講演で言及した一つの方法は、第三国の仲介を得て日朝両政府が正常化交渉に入れないかとの点である。残念ながら、今は、北朝鮮に一定の影響力を持っている中国やロシアに仲介の労を取ってもらう時期ではない。他方、金正恩が子供の時に滞在したスイスとか、北朝鮮と早い時期に外交関係を持った北欧諸国は、日本の長期に亘る友好国である。これら諸国と協力して突破口を模索する努力を探るべきだ。北朝鮮は核・ミサイル大国を目指し、あらゆる国際的な圧力にも動じない姿勢だが、これがいつかは行き詰まる時が来る。
日本は、その日のために日米韓同盟による抑止力を高めて、じっと時が来るのを待つほかない。

(大塚)「外交」は、国益と国益の狭間で展開されるもの。100%の勝利はあり得ない。「相手」とどこかで折り合いをつけて(出来れば真ん中あたりで)、お互い「我慢」するほか手がない。これが「外交の現実」。北朝鮮のような「独裁国」が相手となると、尚更厳しいものがある。

文責:高橋 直樹
講演資料:ウクライナ戦争と歴史の転換点
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2023年07月28日

EVFセミナー報告:「人生のファイナルステージをどう過ごすか」〜終活に於ける尊厳死の考察〜

演題:「人生のファイナルステージをどう過ごすか」 〜終活に於ける尊厳死の考察〜
講師:丹澤 太良 様
 公益財団法人日本尊厳死協会顧問 (前理事)
日時:2023年7月28日(金)14:30−16:00
場所:新宿NPO協働推進センター501会議室
聴講者数:56名

講師略歴:
・1947年生まれ(75歳)東京都出身
・日本航空株式会社を定年退職後、母の尊厳死を看取った経験から、協会理事に就任。
・関東甲信越支部長、中国地方支部長を歴任。現在は支部顧問。主にセミナーの講師を担当。
・趣味:音楽鑑賞 特にモーツァルト
・好きな言葉:「健やかに生きよう!安らかに逝こう!」


講演概要:

(1)通常のEVFセミナーとはフィールドの異なるテーマでしたが、個々人に「死」について見つめる機会を与えて下さった貴重な講演であったと思います。講演は、実践的な話で、頭でっかちでなく、大変理解しやすかったと思います。特に、「日本人の死生観」は深く考えるテーマであったと思いました。

(2)講師は講演概要として、「人は必ず最期を迎えます。とかく『縁起でもない』と避けられる人生終焉の話ですが、どんな最期を迎えたいのか、どんな治療を受けたいのか受けたくないのか。考えておくこと。家族と話し合っておくことが必要です。医学の進歩によって様々な医療が発達しましたが、「病気は治らないが命は止めない」つまり「延命治療」も発達しています。これが果たして我々の幸せにつながるのか?考えてみる時期に来ていると思います。」をあげられています。正しくその内容のご講演でした。


講演内容:

最初に、この数十年間の技術の進歩は、当時では信じられないくらいすごいものがある。
例えば、(1)当時ケイタイが一人一台になるとは。(2)50年前の飛行機のエンジンは4発、今は国際線でも2発。(3)55年前、100歳以上は153人、現在は91千人(そのうち、90%は女性)、(寝たきりの方が多い)、医学の発達、栄養、環境の改善により、不治の病が治るようになった(例:結核)。
*しかし、延命治療(病は治せないが、死なせない)の発達により、これを良しとするか否とするか、正解は「個人で考えよ」。そんな時代になったのでは。

石飛幸三先生の言葉の趣旨は、「医療は病を治すことが本来の仕事だが、これからは治らない患者をどうやって優しく見送っていくかも医者の仕事であるべき」

憲法13条(幸せの追求権):全ての国民は個人として尊重されるーー>人は皆、幸せを追求する権利があるーー>尊厳死運動=基本的人権運動。
*現実は、いわゆる「ポックリ死」は5%くらいで、残りの95%は「終末期」を迎える。せっかくの最期は「不幸なケースが多い」。
*尊厳死協会の立ち位置(目的)は、基本的人権運動。

協会の言う尊厳死とは、不治で末期に至った患者が、自分の意志で、尊厳を保ったまま最後を生き、迎える死です。「安楽死」、あるいは「医師による自殺ほう助」とは、基本的に異なる。

尊厳死は、英語の「Death with Dignity」から来ている。
*「尊厳」が大げさだとして、同義語として「平穏死」「満足死」を使う先生もいらっしゃる。
*他に、「自然死」「自立死」も使われるが・・・。
*しかし、これらの言葉と、「安楽死」とは、全く異なる。
*一方では、日本以外の国、例えば、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、スイス、USA(10州)、カナダ、等では、安楽死や自殺ほう助も適法とされる場合もある。

尊厳死と安楽死は違うの?:
*「安楽死」は、「死」を与える行為であり、日本では違法です。
*「尊厳死」は、緩和医療によってQOL(Quality of Life)を大切にし、自然に任せる。自然死に近い。

安楽死・延命治療・尊厳死:尊厳死は、自然に任せる=自然死。但し、緩和ケアは必要。

緩和ケアとは?:WHOの定義があり、具体的には、
*痛み・苦しみからの解放、
*死を自然の過程と認め、早めない、引き延ばさない。
*死を迎えるまでのQOL(Quality of Life)向上を支える。(QOL維持には、多趣味の方が望ましい)
*患者及び家族を支える(死後のグリーフケアを含む)。(ホスピスでは患者50%、家族50%のケア)
*早い段階からの適用。(緩和ケアに入る前からスタート。例えば、抗がん剤投与開始と同時に)

尊厳死を阻むもの(尊厳死の抵抗勢力):
1.医療の問題:医師の倫理として「延命以上主義」を言う医師もまだいる。
2.家族の問題:患者の近くにいる家続と遠方の家族(善意のエゴ)の意見の不一致。医師が訴えられる可能性もある。米国でも同様の問題があり、「A Daughter in California」に気を付けろ。
3.法率上の問題:医師が訴追されるリスクがある。
4.社会制度の問題:病院経営、本人(患者)の年金が便り。
5.日本人の死生観の欠如:死を語りたがらない、死の話を忌み嫌う。

ではどうすればいいの?:絶対はないが、思い描いておく(デザインしておく)ことが必要。

リビングウィルの勧め:尊厳死協会は、リビングウィルを啓発しています。
*入院時にリビングウィルの記入を求める病院が多くなりました。
*終活ノートにリビングウィルの記入欄があります。

リビングウィルとは、自分の終末期の過ごし方を決めておくこと。
*意思決定能力のあるうちに自分の終末期医療の内容の希望を書いておく。
*単なる延命治療を事前に拒否する意図で行われる場合が多い。一方、少ないが、徹底して治療を希望する人もいる。

尊厳死協会のLW:(1)延命治療は希望しません。(2)但し、緩和ケアは医療用麻薬などの使用を含めて充分に行って下さい。(3)以上の2点を私の関係者は繰り返し話し合い、私の希望を叶えてください。

ACP(Advance Care Planning)とは:日本医師会「終末期医療 ACPから考える」
*将来の医療及びケアについて、医療・ケアチームも含め関係者で、繰り返し話し合い、患者の意思決定を支援するプロセスのことです。

人生会議とは:厚生労働省ホームページより。
*人生会議とは、厚労省が公募して決めたACPの愛称です。
*厚労省は、スタートして直ぐにコロナがあり、本格的な活動はこれからです。
*ともかく、「関係者で会議をしましょう」が本旨。
*Planningですから、書き直せる。

ACP「人生会議」のまとめ:日本医師会ホームページより。
*会議を、患者が意思を明らかにできるときから、繰り返し行い、その意思を共有することが重要。
*患者の意思を確認できなくなったときにも、それまでのACPにより患者の意思の推測が可能に。
*かかりつけ医を中心に多職種が協働し、地域で支えるという視点が重要。
*医者が患者に「ACPやっていますか?」と聞く時代になっている。
本日に配布した当協会の会報の中、後方に、「私の希望表明書」が入っています。

死期が来たのを感じて、「ありがとう・・・」:ああ、いったい私はどこで「ありがとう」を言えばいいのか。科学と神の間でウロウロするほうはたまらない。
*生きるのもたいへんだが、今は死ぬのもタイヘンなのである。

「ああ 面白かった と言って 死にたい」:佐藤愛子さん。

元気に生まれて楽しく生きる/泣いて生まれて 笑って逝きたい。//


質疑応答

Q:日本人の死生観の欠如について?
A:世界を全て知っているわけではないが、欧州でも死を語る機会が少なかったが、最近は「Death Cafe」と称する「死」を気軽に語る会がある。特に日本人が「死を語らない」のは、(1)仏教の関係かもしれないが・・・?(2)第二次世界大戦の反省と経験から、特にマスコミが語りたがらない、(3)子供への「死についての教育の不足」が大きいのではないだろうか。。

Q:Ending NoteとLWについて?
A:遺言書は財産の問題があり、LWと異なり、皆と情報を共有する性質のものではない。LWは、終末期対策であり、遺言書は死後への対策。遺言書は、法律で担保されており、LWは働きかけてはいるが未法制化。

Q:医者の訴訟リスクについて?
A:尊厳死法案(一般に言われている法案名です)は、(1)患者の意思の尊重(2)医師の免責、で法案の中身はできているが、超党派の議員立法でもあり、なかなか法制化されないのが現状。

Q:尊厳死を進めるには合意が必要だが、実際には、会議の設定が難しいのでは?
A:「人生会議」をやっている人は、まだ少ない。会議の形は問わない、家族が共有していることが重要。

Q:妻の友人が乳がんになり、本格的な治療をせず、結局悪化し、早死に。「ちゃんと治療をしていれば・・・」と周りの人は、言うけれど・・・?
A:尊厳死の考え方では、(1)自分のデザインする考え方に従った、(2)治療して、効くかどうかは、誰もわからない、(3)患者本人の意思を優先すべき。

文責:三嶋 明


講演資料:人生のファイナルステージをどうすごすか

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2023年06月23日

EVFセミナー報告:「地熱発電〜その課題と展望〜」

演題:「地熱発電〜その課題と展望〜」
講師:當舎 利行様
 JOGMEC地熱技術部主任研究員(東京海洋大学海洋電子機械工学部門 博士研究員)   
聴講者数:50名
講師紹介:
・1954年東京都生まれ
・1984年東京大学大学院理学系研究科地球物理専攻終了 理学博士
・1985年通商産業省工業技術院地質調査所地殻熱部 入所
(工業技術院サンシャイン計画推進本部併任、ニュージーランド在外研究、NEDO地熱開発センター出向など)
・2002年産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門
・2013年JOGMEC地熱部
・2015年熊本大学大学院先導機構
・2019年現職

講演概要

<はじめに>
・日本列島は環太平洋火山帯に位置する世界有数の火山帯国。地熱発電とは、火山の下にあるマグマから伝わる熱で形成された地熱貯留層(高温の熱水・蒸気溜り)に向けた井戸から噴出する蒸気でタービンを回す発電。
・有限の化石資源を燃焼させタービンを回す火力発電とは異なり自然の熱を利用するため、資源は永続的に利用可能でCO2の排出が少ないことから再生可能エネルギーと位置付けられている。
・また天候に左右される太陽光発電・風力発電の設備利用率は、太陽光(約12%)・風力(約20%)であるが、地熱発電は設備利用率(約70%)と一年を通して安定的な電力供給ができる。
・日本の地熱資源量は2347万kWで、アメリカ(3900万kW)、インドネシア(2700万kW)に続く世界第3位、国産資源の有効活用・安定したエネルギー供給源として益々重要性を増している。

1.地熱資源量の推定

・太陽光、風力、水力といった再生可能エネルギーの資源量は直接計測が可能だが、地熱は地下資源のため直接計測ができず資源量を推定するしかない。
・資源量推定の方法として容積法・シミュレーション法の二つがある。地熱発電所は、地表調査→地熱探査・評価→建設→操業の手順を経て運転開始となるが、全国規模で地熱資源量を探査・評価する場合は容積法を用い、実際に発電所の建設にとりかかる場合には、地熱貯留層の構造をモデル化したシミュレーション法を用いて、熱水の生産量・還元量を推測する。
・容積法は、@全国を等面積(1km mesh)で分割、A温泉ないしは温度が測定されている坑井を抽出、Bその温度データを元にして地下の温度分布をAI法(活動度指数)により推定、C資源を算定する温度(例えば150℃)を決める(これが、貯留層の上面になる)、D貯留層の下限は、重力探査より決める(重力基盤深度)、の手順で資源量を推定。
・容積法は、今有る地下の貯留層の温度と、そこから抽出される熱量を算定しているもので、資源量は2347万kW相当と推定されているが、そこには再生可能性の概念は入っていない。
・エネルギー基本計画(6次)における地熱発電の見通しは、電源構成比率1%、150万kWとなっているが、直近の導入量は54万kW(約4割)に過ぎない。FIT認定済みは5万kWでほぼ導入確実であり、調査・開発中が31万kW。残る60万kWは国立公園などでの開発が必要となる。
・国立公園に指定されている火山地域は、特別保護地区・第1種〜第3種特別地域の指定があり、地熱資源のポテンシャルの高い場所は特別保護地区・第1種特別地域に重なっている。したがって全国の推定資源量の内、半分程度は開発が難しい現状にある。

2.地熱発電の抱える課題と現状の対策

・1000kW以上の大規模地熱発電設備の発電量は減衰傾向にある。1000kW以下の小規模発電設備はFITの効果で、発電量は2014年度から増加傾向にあったが、2018年度をピークに大規模設備と同様に減衰傾向にある。
・減衰傾向の理由は、大規模設備においては、@熱水貯留層の減衰、Aスケールなどによる熱水生産・還元障害、B新規開発地点への地元理解や公園などの規則により新設が難しい、C開発までの長いリードタイム(10年以上)、D電力網への接続にかかるハードル、の5点、小規模設備においては、@小規模バイナリー発電機メーカーの撤退、Aそれに伴い既存発電機の維持管理が困難となったこと、B温泉業界が事業主体となっているケースが多くサポート体制不備(バックとなる業界団体が不明)、の3点があげられる。
・これらの課題に対し、JOGMECでは、地表調査・坑井掘削調査などのリスクの高い初期調査にかかる助成事業や掘削・探査にかかる技術開発支援など、NEDOでは、発電システム・発電機器にかかる技術開発支援などを行っている。

3.地熱発電の将来

・上記の課題に加え、温泉事業者の理解促進のため熱水を用いない地熱資源の開発が必要であるが未だ研究段階にあること、バイナリー発電設備の普及は代替フロン等の2次媒体規制により限定的とならざるを得ないこと、労働環境規制により掘削事業が逼迫していることなどの問題もあり、現状において、2030年の目標達成(残り60万kW)は大きな目標である。
・地熱発電による水素の製造やメタネーションなどの幅広い活用方法の検討も必要であるが、電力として直接使う方が効率的でベストであり、そのためには電力網の充実(容量・接続地点)の喫緊の課題の解決が急務となっている。
・政府において、1997年に「新エネルギー」の範疇が定められたが、地熱資源はその範疇から外されてしまったことが、2000年代初頭から福島での原子力発電事故までの地熱発電開発停滞の原因の一つとなっている。その中でも、地熱業界ではJICAなどの国際支援を行っており、タービンメーカーのシェアの高さとともに世界からは期待されている。また、世界をリードする技術開発も行われている。国内の開発を促進するためには、トルコやケニアのような政府の関与は不可避と考えている。
・最後に、熱水を使わない新たな地熱資源の開発として、【超臨界地熱資源開発】【ESG技術(二酸化炭素利用)】【クローズサイクル地熱】について紹介(添付の講演資料参照)。


主な質疑応答

Q:大規模な地熱発電の開発には長期間を要し国立公園の問題もあるので、発電量を追求するのではなく、スイスや土湯温泉のように温水も含めた熱エネルギー資源として、地産地消の小規模バイナリー発電の開発を進めていく方が良いのでは?
A:地熱発電はエネルギー基本計画に位置付けられているため、政策的な観点から、政府の助成事業は1000kW以上の大規模発電が対象となっているが、温泉事業者等の理解促進の観点からは、小規模バイナリー発電の開発を進めていくのも重要と考えている。

Q:スイスのような開発が進まない理由は、温泉事業者の理解が得られないためか?
A:地熱発電の熱水貯留層は温泉源よりも深く、温泉源の熱水を直接使用しないので基本的には問題ないが、地下はどこで繋がっているかはっきりと判らないため、「地熱発電が大量の熱水を汲み上げることで温泉源が枯れるのでは」といった温泉事業者の懸念を中々払拭できない。モニタリングを行いながら開発を進めていくことが、重要と考える。

Q:熱水を使わない新たな地熱発電は再生可能エネルギーとして明確に位置付け可能か?これらの発電設備の実用化はいつ頃になるか?
A:現行の地熱発電は、貯留層の熱水の復元が見通せなければ再生可能性に疑問を生ずるが、中心温度は6000℃という地球の中での高深度の地熱を利用した新たな方式は、熱のみを用いる方法であり、熱の枯渇は地球の寿命から考えても再生可能性に問題はない。地上から地下高深度に水を注入し熱水として循環させるアイデアは1960年頃からあり、NEDOにおいて山形の肘折に実験設備も設けられていたが、新エネルギーの範疇から外れたことに起因し政府予算外となったため、2000年代に入り開発が中断してしまった。同様の熱のみを用いる地熱開発【ESG技術(二酸化炭素利用)】が行われているが実用化は2050年頃の見通し。

Q:松川発電所は操業開始から57年経ているが、発電量は落ちてるのか?寿命はどのくらいとみられるか?
A:貯留層の減衰により発電量は落ちている。地上設備は更新すれば寿命を伸ばすことが可能。水を注入することで貯留層を復元させることも試みられているが、必ずしも注入量がストレートに復元量に結びついてはおらず、また水を注入することで地震を誘発する懸念もあるため、更なる技術開発が必要。

Q:酸性流体による腐食、鉱物スケールの問題について、どのような対策を講じられているか?
A:地熱発電所によっては、酸性の熱水を利用せざるを得ないところがある。そのような地点では、酸性に強い鋼材に換えることで対応している。また、鉱物が沈殿して坑井や貯留層をふさぐスケールについては、酸性薬品注入による除去を行っているが、スケールをゼロにするなどの根本解決には至っていない。

文責:伊藤博通


講演資料:地熱発電〜その課題と展望〜
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2023年05月26日

EVFセミナー報告:「量子コンピュータ技術の現状と社会実装に向けた取り組み」〜期待が膨らむ未来の可能性と現存技術との融合〜

演題:「量子コンピュータ技術の現状と社会実装に向けた取り組み」
     〜期待が膨らむ未来の可能性と現存技術との融合〜
講師:小栗 伸重 様

     株式会社フィックスターズ 執行役員マーケティング部長 
     (一社)量子技術による新産業創出協議会 
     広報・アウトリーチセクション リーダー
聴講者数:62名
講師略歴:
・1990年代のインターネット黎明期より、コンテンツ制作・Webエンジニア・SE職に従事。シリコンバレーの拠点と連携し、ソフトウェア商品、クラウド事業の商品企画・新規事業立ち上げをグローバル市場で経験。
・2021年7月〜現職にて、マーケティング・広報・アライアンスを担当。
・2022年12月〜量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)の広報・アウトリーチ部門のリーダーに就任。

講演概要

・従来のコンピュータの仕組み

従来型のコンピュータは、入力された情報が中央処理装置(CPU)によってデジタル回路で0か1の2択、いわば2進法で随時処理・計算されている。計算すべきパターン数が膨大となる場合でも総当たりですべてを計算しなくては正しい解は得られない。これに対して量子コンピュータは0と1両方の状態を同時に「重ね合わせ」状態で表現できるため、特定の条件の計算においては、膨大な情報処理を高速で行える可能性を持つと言われている。
量子コンピュータの活用が期待されている分野のひとつには、膨大な選択肢から制約条件を満たしベストな選択肢を探索する組合せ最適化問題がある。

・量子技術を取り巻く市場環境と期待

量子コンピュータは膨大な量のデータを高速で処理できるため、例えば通信経路の暗号化に使われている暗号化技術の耐性・強度が落ちるなど、現行の社会インフラにも大きな影響を与える可能性を秘めている。量子コンピュータ、量子通信等の変化により今後の50年、新たな量子インターネットの時代が到来するとも言える。最近ではIBM、Microsoft、Amazon、Googleも量子コンピュータ開発のロードマップを発表、日本でも理化学研究所が追従する動きが発表されるなど、研究開発活動が加速しつつある。

・産業界の取り組み

日本では2021年に量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)が結成され、産業創出に必要な量子技術および関連技術を組み合わせたハイブリッドな環境も含めて、幅広いテーマで社会実装や産業創出の視点で議論されている。デジタル回路もしくは量子回路を使って組合わせ最適化問題を専門的に扱うイジング方式や量子ゲート方式があり、量子ゲート方式は技術的なハードルの解消に向けて複数の手法での研究がされている段階で、本格的な実用にはしばらく時間を要する状況。

・事業会社の取り組み

本日の講演者の所属する株式会社フィックスターズでは、本日のテーマである量子コンピュータの登場より前から、大量のデータを処理する際に求められる高速化のニーズに応えるサービスを提供することにより、自動運転・AI(人工知能)・並列コンピューティング技術領域に取り組みながら、お客様目線で量子コンピューティング環境をそのアクセラレータ(高速処理のツール)のひとつと位置づけ、サービス事業を展開している。

量子コンピュータの基本的な原理の解説に加え、実社会への影響や活用の可能性を分かりやすく具体的にご紹介いただきました。


Q&A

Q1:量子コンピュータではゼロイチの混ざった状態で処理をすると言うことだが、答えもゼロイチで混ざっていていろいろな答えが出てきても良しとすると言うことか。
A1:量子コンピュータは、例えるならば1の確率が30%、0の確率が70%という流動的な状態のまま同時に探索・検索して、最終的には、一つの答えをあぶりだすように確定するイメージ。現行のコンピュータの高速化の根幹となる半導体の集積度も限界が見えてきていると言われ、この限界を打破するための新たな手法としても注目されている。

Q2:量子コンピュータは、まだ技術が確立していないのに実用化できているとはどういうことか。
A2:研究用途で、稼働が始まった量子コンピュータを実験的に活用して用途などを探索するという実用段階もある。また従来のデジタル回路を用いた疑似量子コンピュータ言われる技術はビジネスの現場ですでに活用されている。

Q3:量子コンピュータへの投資という点では、政府による適切な予算の配分が出来ているのか。政府主導では間違った予算配分がなされるのでは無いか。
また量子コンピュータの将来的な活用の仕方としては、センター型の量子コンピュータをリモート端末で各人が活用となるのではないか。
A3:産業界の代表としてのQ-STARでは、政府とは定期的に議論、情報交換をしており、活動重点なども含めて産業界の要望を適切に提言するなど今後も貢献していきたい。
将来的な活用の仕方については、量子コンピュータは、まだ大規模なスペースが必要な機材で構成されており、費用面も含めてシステムを個人で持てる段階には無いので、量子コンピュータをクラウド型で用意しておいて、個々のユーザーがネットワーク越しにサービスを利用する形態になると思われます。

Q4:誤り耐性技術の現況がよく分からない。
A4:誤り耐性の手法自体がまだ研究・開発段階で、複数の方式がこれからも研究されていく。実用レベルの計算規模に耐え得るようになるまでには、まだ多くの時間を要すると言われている。

Q5:AIにせよ量子コンピュータにせよ所詮人間が作ったモノ。暴走するはずが無いと思いたい。
A5:最近のAIは個人が処理できる以上の膨大なデータを学習している。コンピュータ自身が自己学習していく時代に踏み出すと危険性は否めない。昨今の生成型のAIの加速度的な進化に警鐘を発している専門家もいるほどで、残念ながら楽観視は出来ない。コンピュータはツールのひとつなのでうまく技術開発と社会実装のバランスをコントロールしながら開発していくことが重要になっている。

Q6:(「2001年宇宙の旅」の)ハルみたいなことができることになっていくのか
A6:同じようなテーマでバイオハザードという映画で印象に残るシーンがあった。危険なウィルスが発生し建物に閉じ込められた人間を死滅させよという指示を出したコンピュータと主人公との戦いが序盤にあったが、全体最適をとるならば、コンピュータの判断が正しかったのかもしれない。技術の活用法において、倫理、良識が今後問われていく。

Q7:量子超越性についてGoogleが達成したように見られますが、内容(計算の内容、ハードの能力)など不明のため、達成したとは言えないのでは?
A7:固有の企業の発表、特定のサービス商品の評価に対する質問ですので、コメントすることが出来ないため、回答自体を控えさせていただきます。

Q8:古典コンピュータで模擬量子コンピュータの計算は可能のことだが、後者はノイズも無く(?)、量子コンピュータに比べると実力(速度)はどの位なのでしょうか?なお講演のビデオは楽しく拝見させていただきました。
A8:疑似量子コンピュータは、現在使われている技術である、デジタル回路や半導体を用いて演算を行っているため、誤り訂正機能も働きます。速度の比較は、条件によって結果が異なり、また量子コンピュータ自体が研究開発段階で、発展途上の技術であるため、単純比較は出来ません。ユースケースごとの適性や、両方の技術を組み合わせる手法の有効性も含めて研究開発が進められています。

Q9:将来的に人間とChatGPTどっちが賢いですか。
A9:固有の企業の発表、特定のサービス商品の評価に対する質問ですので、コメントすることが出来ないため、回答自体を控えさせていただきます。

Q10:最適化を対象とするという事でしたが最適化しても目標に到達しない場合もあります。身近な例ですと、電気自動車の航続距離は電池容量が定まってしまえば、、機器やソフトウエアの効率化やトレードオフを最適化しても改善はするものの限界があります。このような認識でよろしいでしょうか? その場合は、やはり人間が適用する対象を適切に選択する余地があると考えてよろしいでしょうか? そう思いたいというのもありますが。
A10:ご理解の通り、「最適化」の定義やゴールは、用途や目的に応じて、最終的には人間の判断が必要です。トレードオフとなる要素を条件項目として定義して、利用者のビジネス目標や性能指標に照らして、最適解を判断するプロセスとなります。

Q11:産官学のコンソーシアムを迅速に立ち上げられたと聞きました。そのコツはどこにありますか。今日本は温暖化対応で後れをとっていると思いますが、競争よりも協調に軸足を移す必要がありコンソーシアムはその解決手段の一つではないかと考えていますので。
A11:量子技術の様に、新市場を創造しながら新たなチャレンジが求められる市場環境では「協調」や「共創」の姿勢が大切だと考えています。
協業した方が解決が速い領域や議論の場では、まずは手を取り合い、新産業として育成していく道筋を共に考え抜く姿勢が必要です。異なる知見を持つ組織が集まる、協議会の場はその活動を具体化する手段の一つだと考えます。

文責:桑原 敏行


講演資料:「量子コンピュータ技術の現状と社会実装に向けた取り組み」
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